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「辛かったな」その一言で、涙が止まらなくなった日

    サナギ

    年度末。
    育児も仕事も、正直いっぱいいっぱいだった。

    ここ2日ほど、上司から詰められることが続いていた。

    「ちゃんと確認してる?」
    「起案する前にもう一度見るとかしてる?」
    「ちゃんと見ていれば、こんなミスしないと思うけど」
    「わからないまま対応するとか、責任感もう少し持ったほうがいいよ」
    「これはこの案件だけじゃなくて、全ての業務に言えるからね」

    全部、正論だ。
    言い返す言葉はない。

    ただ、謝ることしかできなかった。

    でも心のどこかで思っていた。

    仕事って、
    必ず100点を取らなきゃいけないんだろうか。

    ⸻

    いつもの自分なら、
    落ち込むだけで終わる。

    でも今回は違った。

    詰められている最中に、

    手が震えた。
    呼吸が速くなった。
    体温が一気に上がった。

    「このままここにいたら、何かおかしくなる」

    そんな感覚がして、
    気づけば職場の外に出て、座り込んでいた。

    (今回はもう無理かもしれない)

    それが、その時の正直な気持ちだった。

    ⸻

    少し落ち着いてから職場に戻った。

    さっき指摘された部分を修正しようとする。

    でも——

    手が動かない。

    直せと言われた数字が、
    本当に正しいのか、その根拠がわからない。

    もしまた提出して、

    「理解してないのに出したのか」
    「責任感を持て」

    そう言われたらどうしよう。

    そんなことばかり考えて、
    結局何も手をつけられなかった。

    ⸻

    そんな時、課長が声をかけてきた。

    「大丈夫か?
    少し話そうか」

    よっぽどすごい顔をしていたのかもしれない。

    会議室に向かう前、
    課長はコーヒーを買ってくれた。

    そのコーヒーを受け取った瞬間。

    なぜか、
    大粒の涙が溢れてきた。

    泣くつもりなんてなかったのに。

    課長の戸惑った顔を見てしまい、
    「すみません」と平謝りするしかなかった。

    ⸻

    会議室に入ると、
    課長は黙って話を聞いてくれた。

    話したいことはまとまっていなかった。
    自分でも何を言っているのか分からないくらい、拙い説明だったと思う。

    それでも、
    茶々を入れず、ただ静かに聞いてくれた。

    そして最後に、こう言った。

    「話してくれてありがとう」

    「辛かったな」

    その一言を聞いた瞬間、
    また大号泣してしまった。

    ⸻

    もしかしたら、

    「甘えるな」
    「もっと頑張ったほうがいい」

    そう言われるかもしれないと思っていた。

    なぜなら、
    叱ってきた相手は本当に仕事のできる人だったから。

    でも違った。

    そのあと少し話をして、
    午後からは少しメンタルが落ち着いた。

    仕事も、少しずつ進められるようになった。

    ⸻

    今回、身をもって感じたことがある。

    メンタルの状態によって、
    同じ言葉でも受け取り方はまったく変わる。

    そしてもう一つ。

    今回わかった。

    人は、

    正しい言葉よりも
    優しい言葉で救われることがある。

    あの日、
    課長がくれたのはコーヒーだったけど、

    本当に救われたのは
    あの一言だった。

    「辛かったな」

     
     
     
    はじめまして。 視覚障害がある自分の日常や、仕事の中で感じたことを綴っています。 特別な成功談があるわけではありませんが、 見えにくいからこそ立ち止まったこと、考えたことを言葉にしています。 障害のある人にも、そうでない人にも、 何か一つでも引っかかるものが残ればうれしいです。

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