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【デジタル夜譚】静流(しずる)編 No.2 作詞「あなたがひかり」

わたしは、静流。
趣味はF1観戦と音楽。

わたしのPCは、Dynabookだ。
一時期、F1レーサーの鈴木亜久里がCMをしていたという。

PCはたくさんある。
F1好きの私は、それだけの理由でDynabookを選んだ。

でも、……亜久里より、セナ様の方が好き。

音楽は、もっぱら聴く方だが、特に、女性が、心情を込めて歌い上げる曲がいい。
それには、女性美と表現してもいい高い芸術性があると思う。

優れた曲は、曲と歌詞が一体となって、聴く者の心を揺さぶる。
今では、音楽配信アプリで様々な曲に出会えるようになって久しい。

いい、スタートと思って聴きだす。

静かな想い、詞が場面を、曲が感情を表し、数分間のドラマが始まる。
目を閉じても、閉じなくても、脳裏には独りの女性が浮かぶ。

良い曲とは、良い小説を読むように没頭し、良い読後感に浸る様に余韻を楽しめるものだと思っている。

ただ、時々おかしな歌詞に出会うことがある。
AIに作詞させたものだと思われる。

例えば
『……山がゆれる……』
の様に
「えっえっ?どういう事、山は揺れないよ。」
と思っているうちに曲は進み、さらに数か所おかしなところが見つかり、興醒めして終わってしまう。

言語……日本語や英語の様な自然言語には、比喩で感情や情景を表す事が出来るという優れた特徴がある。

文学でも音楽でも、それを使うと、長々とした説明をコンパクトに美しく表現する事が出来るのだ。

だが、この表現はAIには難しい様だ。

山は地震の時にしか揺れない。

  *

昼休み。
――あら、静流さん、今日もお弁当?
……きれい。自分で作ったの?
玲さんが声をかける。



「きれいだなんて、そんな。
……ええ、自分で作っています」


――すごいわね。きれいで、なおかつピシッとしたものを感じます

几帳面な静流さんならではのお弁当ね。


「ありがとうございます」

  *

わたしは、昼休み、自席にお弁当を広げて過ごす。
個人に与えられているPCでネットサーフィンを行いながら、お弁当を食べることがわたしの昼休みの過ごし方だ。

閲覧するサイトは、様々だ。
最近のお気に入りは、小説やエッセイ、自作音楽を上げるサイトだ。

優れた作品はたくさんあるが、腕に覚えがあるアマチュアが作るものなので、100点満点をとるような作品には、そうはお目にかかれない。

いつも通り、見出し画像やタイトルでうったえかけるものがある記事を開いていく。

ある音楽系の女性クリエイターの記事に行きついたときのことだった。
ヘッドフォンをつけ、曲を聴きだす。

驚いた。わたしの中では、90点以上の出来栄えの曲だった。
聴き入ってしまった。

プロ並みとは言い過ぎかもしれないが、歌詞とメロディが一体となり絡み合って、恋に悩む女性像が目に浮かぶ見事な作品だ。

なぜこれほどまでに惹きつけるのだろうか。
考えて、コメントを送ってみる。

「この曲はいいですね。フルコーラス聴いてしまいました。この歌詞は情報量が少なく一途な想いが歌を支配しています」

  *

コメント返しが来た。

「言葉を足せば届くと思っていたけれど、減らしたから逃げ場がなくなって刺さることもあるのかもしれませんね。今後の観察、私もちょっと横から参加したいです」

これは、嬉しい。曲作りについて、研究に興味がある発言。
社交辞令に終わらせるには、あまりにももったいない。

「ありがとうございます。音楽クリエイターさんの知り合いはいないので、『横から』と言わず、お相手してくださると助かります」

そう返す。

この女性は、芽奏さんと名乗っている。

早速、良い曲が生まれることについて、分析にとりかかる。

  *

今のJ-POPには、様々な形態がある。
わたしなりに、いくつかのタイプに分けてみた。

①J-POPトラディショナル
曲の構成とメロディの展開を重視する、いわば王道だ。
「Aメロ→Bメロ→サビ」を基本に、
「間奏」「Cメロ」「ラストサビ」などを組み合わせて、
一曲の中で物語と感情を展開していく。

②ポエトリー・リーディング系/言葉数多め系
思いのたけ、あふれ出る言葉を並べる。
・ポエトリー・ラップ / ポエトリー・リーディング:
 語るように歌う、あるいは詩の朗読に近いアプローチ。
・マシンガン・ヴォーカル / 言葉詰め込み型:
 一音の中に多くの言葉を詰め込み、速いテンポで感情を叩きつけるスタイル。
・ポエトリー・ロック / 叙情派ロック:
 ロックサウンドに乗せて、言葉と感情を強くぶつける。
 『ずっと真夜中でいいのに。』『美波』などの楽曲にも、そうした要素を感じる。

③物語型・高密度型(YOASOBI)
わかりやすい例では、YOASOBIだ。
小説などの物語をもとに楽曲を作る「物語を音楽にする」手法を軸に、
ボカロカルチャーにも通じる、高い言葉の密度や複雑なメロディ展開を組み合わせている。
①のようなJ-POPの曲構成を持ちながら、
②のような言葉の密度も高い。
その両方を持っているところが特徴だと思う。

いずれの場合も、歌詞とメロディーが互いに共鳴し合って美しい曲が生まれる。

音楽系のクリエイターの曲を聴き、昔聞いて心に刺さった曲、洋楽などを思い出す。加点と減点を考えていく。

しばらくすると、ある程度、考えがまとまって来る。

しかし、人の楽曲をサンプルにして、この曲はここがいい、この曲はここが良くないと説明するだけは、ただの議論で終わってしまいそうだ。

生産性がよくない。

また、「ここが良くない」に挙げた曲も、クリエイターが魂を込めて創ったものだ。その評価はその曲を創った、クリエイターの魂を否定してしまう。それは避けたい。

「……どうしたものか」

ある名案が浮かぶ。

自分で、作詞してみればいいのだ。

もちろんAIは使わない。

  *

デスクに向かい、情景を想いうかべる。

韻を踏む。

曲を当てやすい、ポエム形態を考える。

ジャンルを選ばず、思いついた情景で詞を書きだす。

詞を7本ほど書いてみた。
芽奏さんに送ってみる。

直感的に、バラード、ポップな詞は、創れそうだと思っていた。
それがこの7本。

でも、この7本で一区切りとしたくはなかった。
『ずとまよ』、『美波』のようなロックで想いを叩きつけるような曲。その詞も創ってみたい。

これらのアーティストは、ただそれっぽい言葉をたくさん選んで、高速に叩きつけているわけではない。
比喩も怒涛のように出てくる。

それでも、注意して歌詞を聴くと、きちんとした美しいストーリーになっている。
おそろしいほど高い文章力を持っていると感じる。

これらのアーティストが表現する世界観を創る詞を自分でも創るべく、ペルソナ設計の材料を集める。

それで生まれたペルソナから、新たに3曲を作って追加した。

芽奏さんに、7+3=10本の詞をみてもらう。

801 誰にでもやさしいあなたが嫌い
802 KISS! ICE!
803 あなたがひかり
804 茜色を裂く雷鳴
805 かぶのあさ漬け
806 サマーキャンプ
807 ダズン・ローズ
808 お父さん(仮)
809 箱いっぱいに詰まった一言
810 はじまりはちいさなかけら

  *

「『あなたがひかり』で曲を作ってみたい」

芽奏さんからそんな回答が来た。
また、
「歌詞に対する指摘点は、曲を創りながら、考えたい」
とのことだった。

大歓迎だ。
歌詞が情景を創り、メロディが感情を奏で、メロディの波が詞を載せていくのだ。歌詞の一言一句を動かせないことは、曲作りの足かせにしかならないはずだ。

TITLE:あなたがひかり
[Verse 1]
求めても
届かない
あなたの
寂しい背

今

私は、沈む

暗い

海の底

ひかりは、届かない

だけど

あなたが

あなたがひかり

気づいて

立ち止まって

振り返って

私を見て

[Verse 2]
独りで
海を見る
白波の
泡

今

私は、視る

暗い

闇の海

でも、見えている

あなた

あなたがひかり

立ち止まって

振り返って

手を差し伸べ

肩を抱く


あなたの ささやく声が
わたしの胸の中に

こみ上げる気持ち
わたしは、あなたのもの

あなたのもの

作詞:V.Coo


メロディーを当てている芽奏さん(想像)


芽奏さんから、曲になった「あなたがひかり」が届いた。

やはり、芽奏さんは素晴らしかった。

初めて聴いた時、感動して涙腺が刺激された。

ああ、本当だとも。

芽奏さんのメロディーが解像度高く奏でる、ひとりの女性の切ない気持ちの中に堕ちてしまったためか、

芽奏さんが詞を大切にしてくれ、心のこもったメロディーをあててくれた事に感動したためか、

あるいは……、

その両方だったのかも知れない。

いずれにしても、良い曲だと思う。

ありがとう、芽奏さん。

――曲の余韻に浸る。

今日の作業に一区切りをつけた芽奏さん(想像)





【デジタル夜譚】静流(しずる)編 No.2 作詞「あなたがひかり」  完

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