メインコンテンツへスキップ
見出し画像

ヒューマンドラマ小説|サンクチュアリが見えたら(3)|小さな案内人

    此上緋色@小説を書く人

    【この小説は1頁につき、おおよそ3分で読めます】

    マガジンTOP
    前ページ

     田舎の古民家シェアハウス『サンクチュアリ』。
     住人は老若男女6人と猫が一匹。

     住人の一人、雨宮あめみや茉莉花まりかは40代シングルマザー。小学生の男の子が一人いる。茉莉花は、ある日サンクチュアリへの帰宅途中で男性と揉めていた50代の元モデルの女性、夏見なつみ紫ゆかりをサンクチュアリに誘う。

     茉莉花もまた、そうしてサンクチュアリに迎えられた一人だった——

     茉莉花をサンクチュアリに誘った野路菊のじぎくさくらは、過去に不倫経験のある70代女性。その他、神野じんの宗四郎そうしろうは30代の同性愛者の男性、木南きなみ悠はるかはお金のない現役大学生。

     仕事、恋愛、家族——

     これは、それぞれがそれぞれに、生き方に悩みながらも、少しずつその答えを見つけていく物語。


    【この小説は途中から有料になります】
    (1)はこちら

    小さな案内人


    「ううん。まだ、入居者という訳じゃないの。これから、とりあえず見学してもらうの」
    「えー⁉︎ そうなの? なあんだ、残念。今日、宗四郎そうしろうも悠はるかもいなくて、さくらさんだけしかいないの。つまんないよ、僕。ここに暮らす人が増えたら、僕の遊び相手も増えると思ったのに」
    「それで、どうしてたの? 何か面白いものは見つけた?」

     訊たずねる茉莉花に、葉は笑って、手に持っていたものを見せる。

    「見る? じゃじゃーん」

     小さな両の手のひらに、蝉の抜け殻と、生きたダンゴムシ、それに、二枚貝の貝殻。

    「宝物がいっぱいだね」
    「うん! でも、僕もう、蝉の抜け殻もダンゴムシも飽きちゃった……」
    「それなら」

     ふいに声を発したのは紫だ。

    「後でお姉さんとお絵描きでもする?」と葉の前に屈む。

     茉莉花を見上げ、「子どもさん?」と訊きく。

    「そうなんです。一人息子で。葉、ご挨拶は?」
    「初めまして。僕、雨宮あめみや葉よう。葉っぱの葉で葉ようだよ。お姉さん宜しく」
    「葉くん、宜しくね。私は夏見なつみ紫ゆかり。もうお姉さんなんて年ではないけど」と紫は笑った。

    「さあ、葉。紫さんにサンクチュアリを案内してあげて」
    「うん!」

     茉莉花の言葉に、葉はごく自然に紫の手を引いた。弾けるような笑顔を浮かべ、サンクチュアリの庭先を歩く。庭の端には井戸があり、紫はごく小さい頃に行った、母方の祖母の家を思い出した。


    画像


    「ここが玄関だよ。ご飯はみんなで一緒に、1階で食べるの。さくらさんの部屋は1階で、宗四郎と悠の部屋は2階。僕とお母さんの部屋は離れだよ。空いてる部屋はその隣だから、もし紫がここに引っ越してきたら、僕とお母さんとお隣さんだね」

     葉はそう言って、砂糖菓子みたいな甘さでにこにこ笑う。

    「あ、それと、大事なのが——」

     葉が言いかけたとき、紫のふくらはぎの辺りを雲みたいに柔らかなものが撫でた。紫がウヒャッと似合わない声を上げる。

    「ちょうどいいところに。この子が志麻しまさんだよ。だけど宗四郎はしまごんって言ったり、シマシマって言ったりするの。仕方ないね。宗四郎はヘソマガリだから」

     そう言う葉が抱き上げたのは、俗に言う茶トラ猫。太陽の寵愛をひとえに受けていそうな蜜柑色の長い毛玉が、葉の腕からぶらんとぶら下がっている。

    「撫でる?」

     葉が無邪気に言う。それに、紫は強めに首を振った。こんな可愛い猫が苦手だなんて、さらに可愛い子どもの前ではちょっと言えそうにない。

    「そう? じゃあ、志麻さん、急に抱き上げてごめんね」と葉は志麻さんを床に下ろした。志麻さんは何でもない様子で少し歩き、陽だまりに腰を下ろす。

    「そういえば、その宗四郎とか悠とかいう人は、今はいないんだっけ?」
    「うん。宗四郎は出かけるとだけ。悠は大学だよ」
    「両方とも男の人なんだよね?」
    「そうだよ。だけど、宗四郎は『俺はゲイダカラシンパイスルナ』っていつも言ってる。意味はよく分からないけど、お母さんは彼なりの優しさなんだって言ってた。悠はちょっと気が弱いけど優しいよ。この間、悠の二十歳はたちのお誕生日パーティーしたんだ! これ、そのときの写真!」

    次ページ

    画像

    【1321文字(あらすじ、その他除く本文のみ)】

    この記事が参加している募集

     
     
     
    小説を書いています。 センチメンタルだったり、アンニュイだったり、ミステリー風だったり、ベタ甘だったり。 フォローしていただけると執筆活動に 力が入ります。 宜しくお願い致します。 スレッズ↓ https://www.threads.com/@hiiro_konoue?

    あなたへのおすすめ