
フォルクスワーゲン ~自宅三国志の裏庭~
ここは、国王(父)・国母(母)・女王(私)が暮らす自宅大陸。
ここでは、大陸の日々の欠片を置いていきます。
どこまでも女王目線で綴った記録です。
※あくまで個人の見解です。
ある日突然、我が家の駐車場にフォルクスワーゲンが停まっていた。
いや、正確には「現れた」。
国王は、満面の笑みをたたえて言った。
「もらったんじゃ」
マジか?
フォルクスワーゲンだぞ?
しかもビートル。
私はかなりテンションが上がった。
なんだかよくわからないが、フォルクスワーゲンには人を浮かれさせる響きがある。
ところが車内を見て、そのテンションは急降下した。
至る所、傷だらけ。
ビニールテープまで貼ってある。
前の持ち主が犬を飼っていたらしく、車内には犬が残したであろう歴史の痕跡が至る所に刻まれていた。
私は一瞬で現実に引き戻された。
しかし国王は違った。
まったく気にしていない。
むしろ終始ご機嫌である。
そして言った。
「運転できなくなっても、これは置いとく」
――寝言か。
乗らなければ、ただの鉄の塊じゃないか。
「あり得ないよね」
私は、後日、自分の車のディーラーにこの話をした。
すると彼はしみじみと言った。
「僕もそうします。国王の気持ち、すごくわかります」
さらに整備士も言った。
「僕も置いとくなぁ~」
――話す相手を間違えた。
私は、国母にこの話をした。
すると国母は思い出したように言った。
「そういえば保険屋さんもね、乗らなくなったらどうするんですかって聞くから、さあって答えたら、『譲ってもらえませんか』って言ってたわ」
――どいつもこいつも。
人の車に、夢やロマンを乗せやがって。
あり得ない民族め。
だが、そんな男たちの夢とロマンは、ある日あっけなく終わる。
他県に住む兄・ラカン王が軽自動車への買い替えを強行したのである。
「高齢者に高級車など分不相応である。身の程をわきまえよ」
まあ、お兄様。
分不相応? 身の程?
そこまでおっしゃった日には、少なくともあり得ない民族の反感を大人買いですわね。
みんなの夢を乗せたフォルクスワーゲンは下取りに出された。
男たちの夢は、あっけなく砕け散った。
国破れて山河あり。
大陸には、ピカピカの新車の軽自動車が鎮座していた。