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静かな夜(番外編研究ノート)


〇月×日


家に帰ってきた。


いつもの、

「おかえり〜」

がない。


妻も、娘たちもいない。


妻の実家に帰省したからだ。




……。





やらかしてませんよ。


「娘を連れて
    実家に帰らせてもらいます」

っていう、
ドラマとかで見るようなやつじゃ
ないですからね。


自分は仕事やら、
締め切りやら、

いろいろなタスクがあって、
今回は行けなかっただけである。


念のため。


誰にも聞かれていないけど…。



それにしても、
習慣というものは強い。


玄関を開けると、

「ただいま」

と言ってしまう。


もちろん、
返事はない。



「……誰もいないけどね」


と言う独り言が
虚しい。



でも、
発想を変えてみよう。


これは自由だ。

何をしてもいい。

誰にも怒られない。


最強である。


……。


何が最強なんだ?


ちゃんと帰っても、
やることはあるぞ。



大学院のタスクがある。


結局、
やることは変わらない。


せっかくだったが、
家で過ごすことにした。


まぁ、
言うて他には
友達と飲みに行く
くらいしかないが。



つまらない男だ。



普段から
料理は作ることは多い。


妻や娘たちのために。


でも、


自分一人なら、
どうでもよくなる。


ということで、
面倒くさいので、
夜はカップ焼きそば。


これでいい。


むしろ、
これがいい。


なぜかテンションが上がる。


小学生くらいの頃に、
親に隠れて
夜更かししているような、
ちょっといけないことをしている


そんな気分である。



ただ、
これが毎日続いたら
ダメ人間になるな〜


とも思った。



ふと、
トイレに行く。


気づくと、
鍵をかけていた。


……。


誰も入ってこないのに。


本当に
習慣とは恐ろしい。



夕食を食べ、
パソコンを開く。


キーボードを叩く。


「カタカタカタ……」


……。



なんか、
音が大きい。


普段なら、
こんな音は気にならない。



テレビの音。

娘たちの声。

妻の話し声。

誰かが歩く音。


そういうものに、
自分の音も紛れている。


でも、
今日は違う。



「カタカタカタ……」



自分の音だけが、
やけに大きく聞こえる。


静かだ。


ものすごく静かだ。


そこで、
ふと思った。


自分に

「父親」

という立場がなくなると、
こんなにも家は静かなんだな。



そして、
そんなことを考えている自分も、
少し寂しい。


父親という立場を
当たり前のように生きている。


でも、
その立場をくれたのは、
妻と娘たちだった。


そんなことを、
静かな夜に思った。


そんな日が、
三日ほど続いた。



そして、
女チームが帰ってきた。

「ただいまー!」

「ねぇ、聞いて!」

「バタバタバタバター!」

「なんでそんなことするの!」

「またこぼしたー!」



……。




うるさい。



ものすごく、
うるさい。



でも、
ちょっと安心した。


日常が帰ってきた。


妻に

「ありがとう」

と言った。


妻は、

「何が!?」

と言った。


そして思った。


もう少し、
静かな夜を
大切に過ごせばよかった。



どうやら、
人間は
ないものねだりらしい。


家族がいると、
一人になりたくなる。


一人になると、
家族が恋しくなる。


なんとも、
面倒くさい生き物である。





次回の帰省には、
一緒に行こうと思う。


たぶん。


以上、研究ノートより。

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