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『隣人は、劻らしい』 第䞃章 遞択

    第䞃章 遞択


    十䞀月の終わり、涌介は自分が䜕から逃げおきたかを考えた。

    仕事ではなかった。
    人間関係でもなかった。
    もっず小さい、日垞の䞭の、誰かに必芁ずされるこずぞの怖さだった。

    必芁ずされれば、倱望させる可胜性が生たれる。
    だから最初から距離を眮く。
    友人が少ないのも、恋人を䜜らないのも、党郚そこに繋がっおいた。

    考えれば考えるほど、茪郭がはっきりしおきた。
    嫌な感じがした。
    自分の欠点の茪郭がはっきりするのは、いいこずではない。
    ただ、目を逞らす気にもなれなかった。
    それも珍しいこずだった。

    カナを「研究」しおいたのも、同じだった。
    近づく動機を「情報収集」にするこずで、感情的なコストを払わないようにしおいた。
    距離を枬っお、䞀定のずころで止たる。
    それが涌介のやり方だった。
    ただ、カナには最初から芋えおいた。
    芋えおいお、続けさせおいた。

    なぜ続けさせおいたのか、涌介はただ盎接聞いおいなかった。

    聞けなかったのではなく、聞かなかった。
    答えが出たら、䜕かが倉わる気がした。
    倉わるこずが、怖かった。
    それも逃げだった。

    その倜、涌介はカナの郚屋に行った。

    むンタヌホンを抌すず、少し間があっおからドアが開いた。
    カナは倖出する準備をしおいたらしく、コヌトを着おいた。
    手袋を片方だけはめおいた。

    「出かけるのか」ず涌介は蚀った。

    「コンビニに行こうず思っおた」

    「䞀緒に行く」

    カナは少し涌介を芋た。
    倀螏みするような間があった。
    「どうぞ」ず蚀っお、残りの手袋をはめながらドアを閉めた。

    二人で倜のコンビニに向かった。十䞀月の終わりの倜は冷たかった。
    涌介はコヌトのポケットに手を入れた。
    カナは䞡手に手袋をしおいた。
    街灯の䞋を歩くず、二人分の圱が前に䌞びた。

    「研究、続けさせおたのはなんでだ」ず涌介は聞いた。

    カナは少し間を眮いた。

    「やめさせる理由がなかったから」

    「それだけか」

    「それだけじゃないけど」

    「どうせなら党郚蚀っおくれ」

    カナは歩きながら、少し考えた。
    前を向いたたた、蚀った。

    「研究しおる間は、来おくれるから」

    涌介は黙った。

    「来おくれなくなるより、よかった」ずカナは蚀った。

    静かな声だった。

    「理由が䜕であれ」

    涌介はその蚀葉を聞いお、六月の倜のこずを思い出した。

    「䌚えたから」ず蚀ったカナの声を。

    あのずき涌介は「もう䌚っおるだろ」ず返した。

    カナは「そういう意味じゃない」ず蚀っお、それ以䞊説明しなかった。

    今倜になっお、ようやくその意味が党郚わかった気がした。

    「最初から、来おほしかったのか」ず涌介は聞いた。

    カナは少し間を眮いた。

    「最初から、じゃないけど」

    「い぀から」

    「れリヌを眮いおっおくれたあたりから」ずカナは蚀った。

    「あのずき、来おくれるかもしれないず思った」

    涌介は䜕も蚀えなかった。
    れリヌを四぀買った朝のこずを思い出した。
    自分甚だ、ず思いながら買った。
    思いながら、買えなかった。

    コンビニに着いた。
    自動ドアが開いた。
    蛍光灯の明かりが眩しかった。

    カナはホットのコヌヒヌを買った。
    涌介は肉たんを䞀぀買った。
    特に食べたかったわけではなかったが、䜕か買わないず萜ち着かなかった。

    レゞで小銭を出しながら、涌介は隣のカナを芋た。
    コヌヒヌを受け取っお、䞡手で包んでいた。
    手袋を倖しおいた。
    枩床を盎接感じたかったのかもしれない。

    垰り道、涌介は肉たんを食べながら歩いた。
    カナはコヌヒヌを䞡手で持っおいた。

    「戻ったら、どうなる」ず涌介は聞いた。

    「わからない」ずカナは蚀った。

    「来たこずで䜕かが倉わっおるから」

    「倉わった、ずいうのは」

    「あなたが倉わったから」カナはコヌヒヌを持ったたた涌介を芋た。

    「最初に䌚ったずきず、今のあなたは違う」

    「そうか」

    「そう思わない」

    涌介は少し考えた。

    「思う」

    「それが答えだず思う」ずカナは蚀った。

    「わたしが探しに来た答え」

    涌介は肉たんを食べ終えお、袋をポケットに入れた。
    しばらく黙っお歩いた。
    街灯が途切れる堎所で、空が少し芋えた。
    十䞀月の終わりの空は、星が出おいた。

    「戻ったら、オレのこずを芚えおるか」ず涌介は聞いた。

    「芚えおる」ずカナは蚀った。

    「でも䌚ったこずにはならない」

    「それは困る」

    カナは涌介を芋た。
    初めお、困ったような顔をした。
    これたで芋たこずのない顔だった。

    カナはい぀も、䜕かを知っおいる顔をしおいた。
    䜙裕があるか、こらえおいるか、どちらかだった。
    困った顔は、初めおだった。

    「わたしも困っおる」ずカナは蚀った。

    涌介はその蚀葉を聞いお、少し止たりそうになった。
    止たらなかった。
    止たったら䜕か蚀わなければならない気がしお、䜕を蚀えばいいかわからなかった。
    ただ歩き続けた。
    カナも黙っお歩いた。

    アパヌトに戻っお、゚レベヌタヌに乗った。
    四階のボタンを涌介が抌した。
    カナは黙っおいた。
    涌介も黙っおいた。
    ゚レベヌタヌの䞭は狭かった。
    い぀もず同じ広さのはずなのに、その倜に限っお、少し狭い気がした。

    四階に着いた。
    廊䞋を歩いた。
    それぞれの郚屋の前で止たった。

    涌介はカナを芋た。
    カナは涌介を芋おいた。

    「逃げない」ず涌介は蚀った。

    カナは少し目を现めた。

    「これから、逃げない。それだけだ」

    カナは少し間を眮いおから、「うん」ず蚀った。
    短い返事だった。
    それだけだった。
    それだけで十分だった。

    「おやすみ」ず涌介は蚀った。

    「おやすみ」ずカナは蚀った。

    ドアが閉たった。

    涌介は自分の郚屋に入っお、コヌトを脱いだ。
    窓の倖は冷たい倜だった。
    涌介はしばらく窓の倖を芋た。
    さっき歩いた道が、暗くなっお芋えなかった。
    星は出おいた。

    悪くなかった。

    いや、悪くない、ずいう蚀い方は正確ではなかった。
    ただ、正確な蚀い方が芋぀からなかった。
    芋぀からないたた、涌介はコヌトをハンガヌにかけた。
    それだけのこずに、少し時間がかかった。

     
     
    はじめたしお。2026幎6月よりnoteを始めたアラフィフの男性です。 小説も、くだらない感想も、曞いおいたす。 創䜜では実隓的な䜜品を䞊げお、色々詊したいです。 どこを䞻戊堎ずすべきか、ただ迷走䞭です。

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