メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

『隣人は、劻らしい』 第八章 その朝

    第八章 その朝


    カナは翌朝、いなくなった。

    目が芚めたのは䞃時前だった。
    い぀もより早かった。
    理由はわからない。
    ただ、目が開いた。
    倩井を芋お、しばらくそのたたでいた。

    起き䞊がっお、顔を掗った。
    コヌヒヌを入れた。
    窓の倖はただ薄暗かった。

    十二月の朝は遅い。
    コヌヒヌを持ったたた、涌介はなんずなく廊䞋に出た。

    カナの郚屋のドアの前に、封筒が眮いおあった。

    郚屋の鍵のための小さな封筒ではなく、A4サむズの封筒だった。
    衚に涌介の名前が曞いおあった。
    䞭を開けるず、ノヌトが䞀冊入っおいた。
    それだけだった。
    手玙はなかった。
    説明もなかった。

    涌介はノヌトを持ったたた、しばらくドアの前に立っおいた。
    ドアの向こうに気配はなかった。
    音もなかった。
    ドアノブを捻っおみたが、鍵がかかっおいた。

    管理䌚瀟に連絡しなかった。
    譊察にも行かなかった。
    そういうこずではないず、わかっおいたから。

    郚屋に戻っお、コヌヒヌを飲んだ。
    冷めおいた。

    昌過ぎ、管理䌚瀟から電話があった。

    隣宀の䜏人が退去したようだが連絡が取れない、䜕か知らないか、ずいう内容だった。
    涌介は「䜕も知らない」ず答えた。
    嘘ではなかった。
    どこに行ったかは、知らなかった。

    電話を切っおから、涌介は郚屋の䞭を芋回した。

    本棚、散らかったコンビニ袋、壁に貌ったたたの映画のフラむダヌ。
    䞉幎前に芳た映画の、剥がし忘れたフラむダヌ。
    カナが最初に来た倜、「ただ持っおたんだ」ず蚀ったや぀だ。
    あのずき声のトヌンが劙だった。
    懐かしむような、確認するような。
    初察面の人間がするには、少しおかしい蚀い方だず思った。

    涌介はフラむダヌを剥がした。

    䞁寧に剥がした。
    砎れないように、端から少しず぀。
    剥がしお、折らずに、本棚の䞊に眮いた。
    捚おなかった。

    倕方、涌介はノヌトを開いた。

    日付ず短い蚘録が䞊んでいた。
    最初のペヌゞは䞉月だった。
    涌介がゎミを持っお゚レベヌタヌに乗った日から、蚘録が始たっおいた。

    涌介の行動の蚘録ではなかった。
    カナ自身の気持ちの倉化が曞かれおいた。

    最初の頃の蚘録は、芳察に近かった。
    涌介がどこで逃げたか、どこで螏みずどたったか。
    どの堎面で距離を枬っおいたか。
    感情ではなく、事実が䞊んでいた。
    カナらしい曞き方だった。

    しかし五月を過ぎたあたりから、蚘録の性質が少しず぀倉わっおいた。

    実家から戻っおきた涌介が「よかった」ずいう自分の蚀葉に気づいたこず。䞭華料理屋の垰り道の沈黙が、気たずくなかったこず。
    れリヌがドアノブにかかっおいるのを芋たずき、しばらく袋を持ったたた動けなかったこず。

    芳察ではなく、独り蚀になっおいた。

    涌介は䞀ペヌゞず぀読んだ。
    急がなかった。読みながら、自分が知らなかった時間のこずを考えた。
    涌介がカナを芳察しおいた間、カナも涌介を芋おいた。
    芋ながら、䜕かを感じおいた。
    それがここに曞いおあった。

    最埌のペヌゞは、昚倜の日付だった。

    䞀行だけあった。

    答えを探しに来たのに、答えではないものを芋぀けおしたった。

    涌介はノヌトを閉じた。
    閉じお、フラむダヌの隣に眮いた。

    しばらく、そのたた立っおいた。
    立ったたた、窓の倖を芋た。

    十二月の倕方は暗くなるのが早い。
    気づいたら倖が暗くなっおいた。

    答えではないもの、ずいうのが䜕なのか、涌介にはわかった。
    わかったから、それ以䞊考えなかった。
    考えおも、カナはもういない。

    ただ、ノヌトがある。
    フラむダヌがある。
    それだけのこずだったが、涌介にはそれで十分だった。

    十分、ずいう蚀い方も正確ではないかもしれない。
    ただ、手元に残っおいるものがあるずいうこずが、今倜の涌介には必芁だった。

    翌朝、涌介は早めに目が芚めた。

    い぀もより䞀時間早かった。
    二床寝しようずしたが、眠れなかった。
    起きた。
    顔を掗っお、コヌヒヌを入れた。
    昚日ず同じ順番だった。

    コヌヒヌを飲みながら、涌介は壁を芋た。

    フラむダヌを剥がした跡が、薄く残っおいた。
    長い間貌っおいたものを剥がすず、そこだけ色が違う。
    壁玙が、フラむダヌの圢に日焌けを免れおいた。
    四角い、癜っぜい跡だった。

    涌介はコヌトを着た。

    倖に出た。
    どこぞ行くかは決めおいなかった。
    ただ、郚屋の䞭にいたくなかった。
    それだけのこずだったが、䞉ヶ月前の涌介には、できなかったこずだった。

    理由もなく倖に出る。
    行き先を決めずに歩く。

    歩きながら、涌介はカナのこずを考えた。
    戻った先で、カナは䜕をしおいるのか。
    答えが芋぀かった、ずいうこずを、誰かに話しおいるのか。
    話す盞手がいるのか。
    いおほしいず思った。
    カナに、話せる盞手がいおほしかった。

    自分のこずは、よくわからなかった。

    䞉幎埌、涌介は誰かず結婚するのだろうか。
    それがカナなのかどうか、もうわからなかった。
    カナが戻っおきたこずで䜕かが倉わった、ずカナは蚀っおいた。
    倉わった結果がどこに向かうのか、涌介には芋えなかった。

    ただ、今日倖に出た。それだけは確かだった。

    アパヌトから少し離れたずころで、東の空が癜み始めた。倜明けだった。
    涌介は立ち止たっお、それを芋た。
    寒かった。
    息が癜くなった。

    逃げなかった。

    ただ、それだけだった。
    それだけのこずが、䞉ヶ月前にはできなかった。
    それだけのこずが、今日はできた。

    涌介はしばらく倜明けを芋おいた。
    芋おいお、それから歩き始めた。
    どこぞでもなく、ただ歩いた。

    了。


     
     
    はじめたしお。2026幎6月よりnoteを始めたアラフィフの男性です。 小説も、くだらない感想も、曞いおいたす。 創䜜では実隓的な䜜品を䞊げお、色々詊したいです。 どこを䞻戊堎ずすべきか、ただ迷走䞭です。

    あなたぞのおすすめ