メインコンテンツへスキップ
見出し画像

《短編小説》たい焼き、お節介を焼く

    隼(ハヤブサ)

    「寂しい人生、送ってるでしょ」


    ムカついた。

    寂れた裏路地で買ったたい焼きに、そんなことを言われる筋合いはない。

    カッとなって頭を噛みちぎってやろうとしたけれど、目玉をギョロギョロさせるたい焼きを見たら、言い返さずにはいられなくなった。


    「アンタに何がわかるわけ」

    「たい焼きは人間のことなら何でも知ってるよ。長年、共存してるわけだからね」


    そう言うと、腹の立つ顔でウインクする。


    「共存なんて偉そうに。毎日毎日鉄板の上で焼かれてるだけのくせに」

    「顔を見れば、どんな人生を送ってきたか、大体わかっちゃうんだよねえ」


    たい焼きはじっとアタシの顔を見る。アタシはありったけの憎しみを込めて睨み返す。


    「さしづめ、第二ボタンをもらうような青春もしてなければ、『内緒だからな』なんて秘密を分け合う友達もいない。一番落ち着くのは、校庭の片隅にある池の鯉にパンをやる時。そんな孤独な学生生活だったんじゃない?」


    見てきたかのように、当たっている。
    記憶が刺激されたのか、アタシの脳裏に、高校時代の一場面が蘇る。



    下校時の駐輪場。

    アタシの自転車には、たくさんの貼り紙。

    「ネクラ」
    「ブス」
    「不用品」

    アタシは歯を食いしばり、辺りを見回す。

    誰もアタシを見ない。

    目を逸らすと、クスクスという笑い声があちこちから聞こえた。



    「アンタに何がわかるわけ!」

    気づいたら、そう叫んでいた。

    「昔っから地味な見た目で口下手で、本ばっかり読んでて、その割に成績も別に良くなくて。そんな子の居場所なんて、高校にはないんだよ。可愛い子か、面白い子か、頭の良い子にしか人権はないんだよ!」

    「今は違うよね?」

    たい焼きは尾鰭をヒラヒラさせる。

    「今キミが職場で浮いてるのは、キミが世間話どころか、仕事で必要な会話すらも避けてるからだよね?自分から挨拶しないどころか、挨拶されてもろくに返事をしないからだよね?それを全部過去のいじめのせいにして、現実と向き合うことから逃げてるからだよね?」

    「うるさい!うるさい!うるさい!」


    もう限界だ。
    アタシはたい焼きをひっつかんで、半分に割ろうとした。


    「…あんな幼稚な人たちのせいで人生を台無しにするの、もったいないよ」


    たい焼きと目が合い、アタシは思わず手を止める。
    割りかけた隙間から、粒あんがこぼれた。


    「『あんな幼稚な人たち』って?」



    「あの時は、パンをありがとう」



    たい焼きは手を振るように胸鰭をはためかせると、それきり、動かなくなった。


    よく見ると、やけに胴の長いたい焼きだった。


    「…もう、これじゃ鯉じゃん。失敗作なんじゃないの。バッカみたい」


    アタシはたい焼きを口の中に押し込んだ。塩辛い。味まで失敗作だ。





    次の日ーー。


    「おはようございます」


    アタシがそう言いながら出社すると、オフィスのみんなが驚いた顔でこちらを見た。


    脇にある水槽の中に、昨日まではいなかった鯉がいる。



    アタシを見て、ウインクしたーー気がした。






    今回のお題
    「内緒だからな」
    ・第二ボタン
    ・たい焼き
    ・駐輪場


    あなたへのおすすめ