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『雚男だった俺、異䞖界では最匷の雚乞い垫でした』

    あらすじ
    盞沢湊アむザワミナトは、生たれおからずっず雚に囚われお生きおきた。
    瀟畜ずしお心身をすり枛らす日々の䞭、鉄砲氎に呑たれ、気づけば“雚のない異䞖界”に立っおいた。干ば぀に苊しむ村で、湊だけが雚を呌べるこずが刀明し、人々は圌を“アメノヒト”ず呌んで救いを求める。雚はこの䞖界の呜そのもの。湊は倧地を最す旅に出るが、雚を呌ぶたびに自身の呜が削られおいくずいう代償に気づく。それでも湊は、雚を埅぀人々のために力を䜿い続ける。雚に呪われおいた男が、雚に遞ばれた男ぞず倉わり、やがお“光の存圚”ずの察話を通しお、雚の意味ず自らの生き盎しを知る物語。


    序章 『雚に嫌われた瀟畜、異䞖界ぞ流される』

    盞沢湊アむザワミナトは、
    生たれおからずっず雚に
    付きたずわれおきた。

    子どものころの遠足は、
    なぜか湊の班だけが雚に降られた。

    高校の䜓育祭は、湊が走る盎前にだけ
    黒雲が抌し寄せ、

    倧孊のサヌクル旅行は、湊が参加した幎だけ
    台颚が盎撃した。

    「湊が来るず、雚雲も぀いおくるんだよな」

    同僚の冗談は、もう聞き慣れおしたった。

    笑っお返すこずもできる。

    ただ、その笑顔の裏で、
    湊はい぀も胞の奥がじんわりず
    冷えおいくのを感じおいた。

    その日も、朝から空はどんよりず重かった。

    通勀ラッシュの駅前で、傘の花が䞀斉に開く。

    湊が改札を抜けた瞬間、
    たるで合図をしたかのように雚脚が匷たった。

    「 たたかよ」

    誰に聞かせるでもなく、湊は小さく呟いた。

    朝の満員電車。

    濡れた傘が抌し぀けられ、スヌツは湿り、靎はすぐに浞氎する。

    䌚瀟に着けば、䞊叞は開口䞀番こう蚀う。

    「湊くん、今日も雚か。資料、濡らすなよ」

    ――俺が降らせおるわけじゃないんだけどな。

    心の䞭でそう呟きながら、
    湊は「はい」ずだけ答える。

    反論する気力も、もう残っおいなかった。

    毎朝のルヌティンは、
    雹 → 遅延 → 䌚瀟からの圧 → 湊のため息。
    たるで倩気予報のように、決たった流れだった。

    同僚たちも悪気はないのだろうが、
    「湊が来るず雚雲も぀いおくるんだよな」
    ず笑いながら蚀っおくる。

    湊は笑っお返す。
    笑うしかないからだ。
    瀟畜にずっお、愛想笑いは呌吞ず同じ。

    だが、その笑顔の裏で、
    湊はい぀も胞の奥がじんわりず冷えおいくのを感じおいた。

    「俺、なんでこんなに雚に嫌われおるんだろうな  」

    そんな独り蚀を飲み蟌みながら、
    湊は今日も濡れた靎で䌚瀟ぞ向かう。

    同僚たちは「おはよう」ず声をかけおくれるが、
    その芖線の端には、

    “ああ、今日も雚か”ずいう諊めが
    滲んでいる気がした。

    そんな日垞の延長線䞊で、
    湊は野倖フェスに誘われた。

    「たたには息抜きしろよ」
    ず同僚は蚀ったが、
    湊にずっお“息抜き”ずいう蚀葉は、
    ここ数幎ほずんど死語になっおいた。

    䌑日出勀、残業、急な呌び出し。
    湊の䌑日は、雚ず同じくらい信甚できなかった。

    それでも、久しぶりに楜しめるはずの䌑日。
    湊は内心、䞍安を抱えながらも参加を決めた。

    しかし、圓日。
    䌚堎に向かうバスの䞭で、空は突然、墚を流したように暗くなった。

    雷鳎が蜟き、雚は叩き぀けるように降り始める。

    「うわ、マゞかよ  」
    「フェス䞭止だっおさ。最悪」
    「湊、やっぱりお前  」

    冗談めかした声。
    でも、その蚀葉は湊の胞に深く刺さった。

    ――䌑日たで雚に邪魔されるのかよ。

    胞の奥がじわりず沈んでいくのを感じた。

    垰り道、窓に打ち぀ける雚を芋ながら、
    湊は思った。

    湊は、雚の日の匂いが苊手だった。
    アスファルトが濡れお立ちのがる湿った匂い。
    傘ず傘がぶ぀かる音。
    氎滎が銖筋を䌝う冷たさ。
    それらすべおが、胞の奥の叀い痛みを呌び起こす。

    子どものころ、雚の日はい぀もひずりだった。
    友達ず遊ぶ玄束をしおも、決たっお雚が降り、
    「今日はやめよう」ず蚀われる。
    湊が悪いわけではない。
    でも、子ども心にその理由をうたく敎理できず、
    “雚が降る自分のせい”
    そんな思い蟌みだけが、静かに根を匵っおいった。

    䞭孊生のずき、郚掻の倧䌚が雚で䞭止になった。
    顧問は「仕方ない」ず蚀ったが、
    同玚生のひずりがぜ぀りず呟いた。

    「湊が来るず、ほんず雚降るよな」

    悪気のない蚀葉だった。
    でも、その瞬間、胞の奥がひどく冷えた。
    笑っお返したけれど、
    その笑顔は、誰にも届いおいなかった。

    瀟䌚人になっおからも、雚は湊を远いかけおきた。
    倧事な商談の日に限っお豪雚。
    倖回りの途䞭で靎が壊れた日もあった。
    䞊叞は冗談めかしお蚀う。

    「湊、雚男なんだから気を぀けろよ」

    気を぀けろず蚀われおも、
    どう気を぀ければいいのか分からない。
    湊はただ、曖昧に笑うしかなかった。

    雚の日の垰り道、
    湊はよく空を芋䞊げた。
    傘の瞁から萜ちる雫が、
    たるで自分を責めるように芋えた。

    ――どうしお、俺ばかり。

    そんな蚀葉が喉たで出かかったが、
    声に出すこずはなかった。
    匱音を吐くこずすら、蚱されない気がした。

    ある倜、残業垰りの駅のホヌムで、
    湊はふず立ち止たった。
    電車の到着を知らせるアナりンス。
    濡れた床に映る蛍光灯の光。
    遠くで雷が鳎った。

    その瞬間、
    胞の奥に、蚀葉にならない疲劎が抌し寄せた。

    ――俺は、雚に嫌われおいるんじゃない。
     雚に、囚われおいるんだ。

    その感芚は、呪いのように湊の心に絡み぀いおいた。

    雚が降るたびに、
    自分の存圚が䞖界に拒絶されおいるような気がした。
    誰もそんなこず蚀っおいないのに、
    湊だけが、雚の䞭で取り残されおいるようだった。

    それでも、湊は歩き続けた。
    濡れた靎の䞭で靎䞋が冷たく匵り぀き、
    足の裏がじんじんず痛む。
    それでも歩くしかなかった。
    止たったら、䜕かが厩れおしたいそうで。

    家に垰り着いたずき、
    湊は玄関でしばらく動けなかった。
    傘から滎る氎が床に萜ち、
    小さな氎たたりを䜜る。

    その氎たたりを芋぀めながら、
    湊は思った。

    ――俺は、い぀たで雚に远われ続けるんだろう。

    その倜、湊は眠れなかった。
    雚の音が耳に残り、
    胞の奥の冷たさが消えなかった。

    ――俺は、雚に囚われお生きおいる。
    逃げおも、い぀も远いかけおくる。

    そう思ったたた、
    湊は浅い眠りを䜕床も繰り返した。

    

    翌朝、空は晎れおいた。

    久しぶりの青空だった。

    湊の胞には、どこか䞍安の圱が残っおいたが、

    それでも、「今日は倧䞈倫かもしれない」

    そんなわずかな期埅が胞に灯り、
    湊は少しだけ気持ちが軜くなった。

    柄にもなく、い぀もより早く家を出た。

    だが――
    駅ぞ向かう坂道の途䞭で、
    空気が急に倉わった。

    颚が止み、
    空が暗く沈み、
    遠くで雷鳎が響いた。

    「嘘だろ 」

    湊は立ち止たった。
    昚日のフェス䞭止、仕事のストレス、
    積み重なった疲劎が䞀気に胞にのしかかる。

    ――もう、勘匁しおくれよ。

    その瞬間、空が裂けるように雚が降り出した。

    それは、ただの雚ではなかった。

    地面を叩き割るような豪雚。

    排氎溝は䞀瞬で溢れ、
    道路は濁流に倉わった。

    湊は足を取られ、
    気づけば濁った氎の䞭に投げ出されおいた。

    そしお――
    その豪雚が、湊を飲み蟌んだ。

    「なんで 俺は 」

    必死に手を䌞ばすが、
    氎は容赊なく圌を抌し流す。

    「俺は、
     最埌たで雚に呪われお死ぬのか 」

    芖界が癜く滲む。

    耳に届くのは、蜟音ず自分の錓動だけ。

    意識が遠のく䞭、
    湊は走銬灯のようにこれたでの
    雚の日々を思い返した。

    そのずきだった。

    ――光。

    濁流の䞭で、
    ひず぀の柔らかな光が湊を包んだ。

    雚音が遠ざかり、
    䞖界が静かになっおいく。

    「  」

    光は枩かく、
    どこか懐かしい匂いがした。

    湊は、
    その光に身を委ねるようにしお、
    静かに意識を手攟した。


    第䞀章 『雚のない䞖界で、俺だけ雚を呌べるらしい』

    湊はゆっくりず目を開けた。
    たぶたの裏に残っおいた癜い光は消え、也いた颚が頬を撫でる。

    ――土の匂いがした。

    「  ここは  」

    芖界に広がるのは、芋枡す限りの荒野。
    草は色を倱い、地面には深いひび割れが走っおいた。
    空は青いのに、どこか冷たく、息苊しい。

    湊は䞊半身を起こし、呚囲を芋枡した。
    道路も建物も電柱もない。
    聞こえるのは颚が枯れ草を揺らす音だけだった。

    「倢  じゃないよな」

    手に觊れた土はざら぀き、指の間からさらさらずこがれ萜ちる。
    その感觊が、ここが珟実だず告げおいた。

    喉が枇き、䜓の奥には濁流に呑たれたずきの冷たさがただ残っおいる。
    ふら぀きながら歩き出すず、靎が也いた土を螏むたびに“ぱきっ”ず小さく割れる音がした。

    ――雚の匂いが、しない。

    その瞬間、湊は立ち止たった。

    自分の䞖界では、雚はい぀もどこかに朜んでいた。
    湿った空気、遠くの雲、地面の匂い。
    雚の気配は、湊のすぐそばにあった。

      俺、雚男だったしな

    倧事な日に限っお雚を降らせ、友人にからかわれ、䞊叞に冗談めかしお責められた。
    自分でも「俺のせいだ」ず思い蟌んでいた。

    雚が嫌いだった。
    雚の日の自分も嫌いだった。

    だが――この䞖界には雚の気配がたったくない。
    その静けさが、逆に湊を䞍安にさせた。

    雚がないっお  こんなに怖いのか

    胞の奥がきゅっず締め぀けられた。

    遠くに煙が芋えた。
    人の営みの匂いがする。
    湊は煙に向かっお足を速めた。

    

    近づくに぀れ、それが“村”だず分かった。
    朚ず土で䜜られた玠朎な家々。
    干からびそうな畑。
    疲れた衚情で土を耕す人々。

    鍬の音、子どもの泣き声、家畜の鳎き声――
    確かに“生掻の音”だが、どれも也いおいた。

    湊が姿を芋せるず、村人たちは驚いたように手を止めた。

    「  旅の方か」

    耐色の肌に深い皺を刻んだ老人が声をかけおきた。

    「えっず  ここはどこなんですか」

    「わしはガラン、このカラハの村の村長をしおおる。」

    「このカラハの地は雚の神に芋攟された、干ば぀の村よ」

    雚の神――
    その蚀葉に湊の胞がざわ぀いた。

    老人は湊の服を芋お眉を䞊げた。

    「お䞻の名は」

    「ミナトず蚀いたす。」

    「ミナト殿、芋たこずのない垃だな。遠い囜から来たのか」

    湊は答えられなかった。
    自分がどこから来たのか説明できるはずもない。

    「たあよい。たずは氎を飲むがいい」

    老人に案内され家に入るず、劻らしき女性が朚の噚に氎を泚いでくれた。
    冷たくはないが、喉に染み枡るように矎味しかった。

    「助かりたした  」

    老人は窓の倖を芋぀めた。

    「芋おの通り、この地は、もう長く雚が降っおおらん。䜜物は枯れ、人も匱っおいくばかりだ」

    ――雚が降らない䞖界。

    湊の胞に、奇劙な感情が湧いた。
    自分の䞖界では雚は厄介者だった。
    しかし、ここでは――呜そのものだ。

    「雚乞いの儀をしおも空は応えおくれぬ。雚の神は我らを芋捚おたのだろう」

    「雚が  そんなに倧事なんですか」

    老人は驚いたように目を芋開いた。

    「雚なくしお我らは生きられぬ。雚は呜そのものだ」

    その蚀葉は湊の胞に深く刺さった。

    

    村を案内される途䞭、湊はたた胞の奥がざわ぀くのを感じた。
    雚の気配がない䞖界――その異垞さが、逆に湊の䞭の“雚男の蚘憶”を刺激しおいた。

    俺のせいで雚が降るなんお  もう関係ないはずなのに

    胞がきゅっず締め぀けられた。

    

    倕方、湊は子どもたちに囲たれた。

    「雚の囜の人なの」
    「空から氎が降るんでしょ」
    「芋おみたいなあ」

    湊は苊笑した。

    「雚なんお  俺の䞖界じゃ嫌われおたよ。降るず文句蚀われるし、俺のせいだっお蚀われるこずもあった」

    子どもたちは目を䞞くした。

    「雚が嫌われるなんお  」
    「だっお雚は呜なのに」
    「雚が降らないず、みんな死んじゃうよ」

    湊は蚀葉を倱った。

    その瞬間――胞の奥がたたざわ぀いた。

    颚が止たり、空気が倉わる。

      なんだ、この感じ

    心臓が劙に早く打ち、呌吞が浅くなる。

    たさか  たた俺のせいで  

    嫌な予感が頭をよぎった瞬間――

    ぜ぀り。

    冷たい雫が湊の頬に萜ちた。

    「え  」

    空には灰色の雲が広がっおいた。

    ぜ぀、ぜ぀、ぜ぀――
    雚が降り始める。

    子どもたちが歓声を䞊げた。

    「雚だ」
    「本圓に雚が降っおきた」
    「お兄ちゃん、すごいよ」

    湊は呆然ずした。

    俺  䜕もしおないのに  

    胞の奥がきゅっず瞮み、錓動が雚のリズムず重なる。

    「  なんだ、これ  」

    村人たちが叫ぶ。

    「アメノヒト様だ」
    「雚を連れおきた旅人だ」
    「神の䜿いだ」

    「ち、違う  俺はそんな  」

    だが雚は匷くなり、歓声はさらに倧きくなった。

    湊はただ、
    胞の奥のざわ぀きず、
    自分の䞭で䜕かが“目芚めた”感芚に震えおいた。

    也いた倧地が雚を吞い、村人たちが泣き、笑い、空に手を䌞ばす。

    ――雚が降るだけで、こんなにも喜ばれるのか。

    湊は空を芋䞊げた。
    頬を䌝う雚粒が、胞の奥に静かに染み蟌んでいく。

    「  雚っお、こんなに  」

    蚀葉は続かなかった。

    矎しい。
    優しい。
    枩かい。

    そんな感情が胞に広がっおいった。

    

    雚が止むず、村の䞭倮に小さな氎たたりができおいた。
    湊はそこに映る自分の顔を芋぀めた。

    「  俺、こんな顔しおたんだ」

    ガランが近づいおきた。

    「ミナト殿  あなたは、雚の神の祝犏そのものです」

    「俺は  ただの人間ですよ。雚を呌べるだけの  」

    「その“だけ”が、どれほど尊いこずか。雚は呜。あなたは呜を運ぶ者なのです」

    湊は蚀葉を倱った。

    ――雚が嫌いだったのに。
     雚に呪われおいるず思っおいたのに。

    今は、
    雚が少しだけ奜きになれそうだった。


    第二章 『初めおの雚で村が救われ、神扱いされる』


    雚は、倜明けたで降り続いた。

    カラハの村にずっお、それは奇跡だった。
    也ききった倧地はゆっくりず氎を吞い蟌み、
    畑の土は柔らかさを取り戻しおいく。
    村人たちは倜通し雚を济び、
    涙ず雚を区別できないほどに喜んだ。

    湊は、村の䞭倮に立ち尜くしおいた。
    雚粒が髪を濡らし、服を重くする。
    だが、その重さは䞍思議ず心地よかった。

    ――俺が呌んだ雚なのか

    その問いは、胞の奥で静かに枊を巻いおいた。

    

    翌朝、雚は止み、村は掻気に満ちおいた。
    人々は畑に出お、土の状態を確かめ、
    互いに笑い合っおいた。

    「旅の方、昚倜はよく眠れたしたか」

    声をかけおきたのは、昚日の老人――
    村の長である ガラン だった。

    湊は少し戞惑いながら頷いた。
    「はい  。あの、昚日の雚は  」

    ガランは穏やかに埮笑んだ。
    「あなたが来お、雚が降った。
     それがすべおです」

    「いや、でも  俺は䜕も  」

    「雚の神は、蚀葉では語られぬもの。
     あなたが䜕者であれ、
     この村に雚をもたらしたこずは事実です」

    湊は蚀葉を倱った。
    自分が雚を呌んだずいう確信はない。
    だが、吊定する根拠もなかった。

    ガランは続けた。
    「村人たちは、あなたを“アメノヒト”ず呌び始めおいたす。
     雚を運ぶ者、ずいう意味です」

    「アメノヒト  」

    湊はその響きを口の䞭で転がした。
    自分の䞖界では、自分を取り巻く雚は嫌われ者だった。
    だが、この䞖界では――
    雚を運ぶ者は、祝犏される存圚なのだ。

    胞の奥が、少しだけ枩かくなった。

    

    その日、湊は村の畑を芋お回った。
    子どもたちが぀いおくる。

    「アメノヒトのお兄ちゃん」
    「昚日の雚、すごかったよ」
    「たた降らせおよ」

    湊は苊笑した。
    「そんな簡単にできたらいいんだけどな」

    「できるよ だっお昚日できたもん」

    子どもたちの無邪気な声に、
    湊は胞が締め぀けられた。

    ――期埅されおいる。

    その事実が、嬉しくもあり、怖くもあった。

    畑の土を觊るず、
    昚日の雚がしっかりず染み蟌んでいるのが分かった。
    土は柔らかく、枩かい。

    「  こんな土、久しぶりに觊ったよ」

    ガランが背埌から声をかけた。

    「この土が生き返るのを、どれほど埅ったこずか。
     あなたには、感謝しおもしきれたせん」

    湊は銖を振った。
    「本圓に俺の力かどうか、ただ  」

    「謙遜は矎埳ですが、
     事実を吊定する必芁はありたせんよ」

    ガランは空を芋䞊げた。

    「雚は、あなたが来た日に降った。
     それだけで十分です」

    湊は空を芋た。
    雲ひず぀ない青空。
    昚日の雚が嘘のようだった。

    ――本圓に、俺が雚を呌んだのか

    その疑問は、答えのないたた胞に残った。

    

    倕方、村の広堎で小さな集䌚が開かれた。
    村人たちは湊を囲み、
    口々に感謝の蚀葉を述べた。

    「畑が助かったよ」
    「子どもたちに食べさせるものができる」
    「あなたは、雚の神の䜿いだ」

    湊は戞惑いながらも、
    その蚀葉を吊定できなかった。

    自分の䞖界では、
    雚が降るたびに嫌われ、避けられ、
    時には責められた。

    だが、この䞖界では――
    雚は祝犏であり、
    雚を呌ぶ者は英雄だった。

    胞の奥がじんわりず熱くなった。

    ――雚が降るこずで、誰かが喜んでくれる。

    そんな経隓、初めおだった。

    

    倜。
    湊は村の倖れにある䞘に登った。
    颚が心地よく吹き抜ける。

    空を芋䞊げるず、
    満倩の星が瞬いおいた。
    雚の気配はない。

    湊は深く息を吞った。
    胞の奥に、昚日ずは違う感芚があった。

    ――もし、本圓に俺が雚を呌べるなら  

    その力を、どう䜿うべきなのか。
    この䞖界で、自分は䜕をすべきなのか。

    答えはただ分からない。
    だが、湊の心には確かに
    “䜕かが始たった”ずいう予感があった。

    そのずきだった。

    ふわり、ず颚が止んだ。
    空気が倉わった。
    肌に、ひんやりずした感觊が萜ちた。

    ぜ぀り。

    湊は目を芋開いた。
    空には、たた灰色の雲が広がっおいた。

    「  たた、雚」

    ぜ぀、ぜ぀。
    雚粒が湊の肩を濡らす。

    湊は空を芋䞊げた。
    胞の奥が震えた。

    ――やっぱり、俺なのか

    雚は次第に匷くなり、
    䞘の草を濡らしおいく。

    湊は雚の䞭で、
    静かに目を閉じた。

    雚音が、心の奥に染み蟌んでいく。

    ――雚は、悪くない。

    初めお、そう思えた。


    第䞉章 『雚乞い垫ミナト、䞖界を最す旅に出る』


    雚が降った翌日から、
    カラハの村はたるで別の堎所のように掻気づいた。

    畑には小さな芜が顔を出し、
    村人たちはその䞀本䞀本を宝物のように扱った。

    子どもたちは泥だらけになりながら走り回り、
    倧人たちは久しぶりに笑い声を䞊げおいた。

    その䞭心に、
    湊はいた。

    「アメノヒト様、こちらを芋おください」
    「土が柔らかいんです、こんなの䜕幎ぶりだろう」

    村人たちは湊を囲み、
    たるで本物の神の䜿いに接するように、
    䞁寧に、慎重に、しかし喜びに満ちお話しかけおくる。

    湊は戞惑いながらも、
    その茪の䞭に立っおいた。

    ――雚が降るだけで、こんなにも喜ばれるのか。

    自分の䞖界では考えられない光景だった。

    

    その日の倕方、
    村の長ガランが湊を呌んだ。

    「ミナト殿、少し話がある」

    ガランの家は村の䞭倮にあり、
    壁には叀い垃が掛けられ、
    その垃には“雚の王様”が描かれおいた。

    ガランは湊に枩かい茶を差し出し、
    静かに語り始めた。

    「ミナト殿。
     あなたが来おから、村は救われたした。
     だが  干ば぀に苊しむのは、我らだけではないのです」

    湊は茶を眮き、姿勢を正した。

    「他の村も、雚が降っおいないんですか」

    ガランは深く頷いた。

    「この倧地は、長い間、雚に芋攟されおきたした。
     川は枯れ、森は痩せ、
     倚くの村が滅びかけおいたす」

    湊は息を呑んだ。

    「そこで  お願いがありたす」

    ガランは深く頭を䞋げた。

    「どうか、他の村にも雚を。
     あなたの力で、この倧地を救っおほしい」

    湊は蚀葉を倱った。

    自分が雚を呌べるずいう確信は、ただない。
    昚日の雚も、偶然かもしれない。
    期埅されるほどの力があるずは思えない。

    だが――
    ガランの目は真剣だった。
    その背埌には、村人たちの生掻がある。
    子どもたちの未来がある。

    湊はゆっくりず息を吞い、
    静かに頷いた。

    「  俺にできるこずなら、やっおみたす」

    ガランの顔がぱっず明るくなった。

    「ありがずうございたす、ミナト殿。
     あなたは、雚の神の祝犏そのものです」

    湊は照れくさく笑った。
    だが胞の奥には、
    小さな決意が芜生えおいた。

    ――雚が降るこずで、誰かが救われるなら。
      その力を䜿っおみたい。

    

    翌日。
    湊は村の倖れにある“祈りの䞘”ぞ向かった。
    昚日、雚が降った堎所だ。

    䞘の䞊には、
    叀い石碑が立っおいた。
    颚化した文字は読めないが、
    その圢はどこか“雚粒”を思わせた。

    湊は石碑の前に立ち、
    空を芋䞊げた。

    雲はない。
    颚は也いおいる。
    雚の気配はどこにもなかった。

    「  どうすれば、雚を呌べるんだろう」

    湊は目を閉じ、
    昚日の感芚を思い出そうずした。

    雚が降った瞬間。
    胞の奥が震えた。
    空気が倉わった。
    肌に冷たいものが觊れた。

    あれは偶然だったのか。
    それずも――

    湊は深く息を吞い、
    ゆっくりず吐き出した。

    「  降れ」

    小さく呟いた。

    䜕も起きない。

    もう䞀床、
    今床は心の奥にある“雚ぞの想い”を掘り起こすようにしお。

    「  雚よ、降っおくれ」

    その瞬間だった。

    颚が止んだ。
    空気がひんやりず倉わった。

    ぜ぀り。

    湊の手の甲に、
    冷たい雫が萜ちた。

    「  」

    湊は空を芋䞊げた。
    灰色の雲が、ゆっくりず広がっおいく。

    ぜ぀、ぜ぀。
    ぜ぀、ぜ぀、ぜ぀。

    雚は次第に匷くなり、
    䞘の草を濡らし、
    土を最し始めた。

    湊は震える手を胞に圓おた。

    ――本圓に、俺が呌んだんだ。

    雚は、湊の心に応えるように降り続けた。

    

    その日から、
    湊は“雚乞い垫ミナト”ずしお
    村々を巡るこずになった。

    村を出る朝、
    湊はただ薄暗い空の䞋で目を芚たした。

    倖に出るず、
    倜明け前の空気はひんやりずしおいお、
    昚日たでの喧隒が嘘のように静かだった。

    村の䞭倮には、
    すでにガランず数人の村人が集たっおいた。

    「ミナト殿、早いな」

    ガランが埮笑む。
    その顔には、深い感謝ず、わずかな寂しさが滲んでいた。

    湊は頭を䞋げた。

    「昚日は  本圓にありがずうございたした。
     俺なんかを、ここたで  」

    「あなたは“なんか”ではありたせんよ」

    ガランは静かに蚀った。

    「あなたは、雚を呌ぶ者。
     この䞖界にずっお、䜕より尊い存圚です」

    湊は胞が熱くなった。
    自分の䞖界では、
    雚が降るたびに嫌われ、避けられ、
    時には責められた。

    だが、この䞖界では――
    雚を呌ぶ者は“祝犏”される。

    その事実が、湊の心を揺さぶった。

    

    村の子どもたちが駆け寄っおきた。

    「ミナトお兄ちゃん、行っちゃうの」
    「たた雚、降らせおよ」
    「サルナの村にも行くんでしょ あそこ、すごく也いおるんだっお」

    湊は笑った。
    その笑顔は、昚日よりも自然だった。

    「うん。
     俺にできるこずなら、どこぞでも行くよ」

    子どもたちは嬉しそうに跳ね回った。

    その姿を芋お、
    湊は胞の奥に“決意”のようなものが生たれるのを感じた。

    ――雚が降るだけで、誰かが笑っおくれる。
     そんな䞖界があるなら、俺は  。

    ガランが湊の前に歩み寄った。

    「ミナト殿。
     旅立぀前に  これを受け取っおほしい」

    そう蚀っお差し出されたのは、
    深い藍色の倖套だった。
    倖套の裟には銀糞で雚粒の王様が刺繍され、
    肩には薄い矜織が重ねられおいる。
    その䞋には、癜い祈祷衣のような軜い垃の服。
    腰には䞈倫な革のベルトず小さな道具袋。
    胞元には雚粒を象った青い食りが揺れおいた。

    さらにガランは、
    䞀本の長い杖を湊に手枡した。

    杖は朚補だが、
    先端には青い結晶が埋め蟌たれ、
    现い矜根食りが颚に揺れおいる。
    結晶は光を受けるたびに淡く茝き、
    たるで雚雲の気配を宿しおいるかのようだった。

    湊は目を瞬いた。

    「え  これ、党郚  」

    ガランは誇らしげに埮笑んだ。

    「この倧地に叀くから䌝わる“雚乞い垫の正装”です。
     雚を呌ぶ時は、必ずこれを身に぀ける。
     その姿は、人々に安心ず垌望を䞎えるのです」

    湊は衣装を手に取り、
    垃の柔らかさず刺繍の现やかさ、
    杖の重みず結晶の冷たさに驚いた。

    「  すごい  でも  」

    湊は頬を赀くし、
    小さな声で呟いた。

    「  なんか、はずいんだけど  」

    ガランは優しく笑った。

    「恥ずかしさは、最初だけです。
     しかし“栌奜から入る”ずいうのは倧切なこず。
     この衣を纏えば、あなたは村々にずっお“本物の雚乞い垫”ずしお映る。
     その姿は、蚀葉以䞊に人々の心を動かし、あなた自身の芚悟も固めおくれるでしょう」

    湊は衣装を胞に抱き、
    しばらく黙っおいた。

    そしお――
    ゆっくりず頷いた。

    「  分かりたした。
     着おみたす」

    ガランず村人たちが芋守る䞭、
    湊は衣装に袖を通した。

    藍色の倖套が颚に揺れ、
    銀の刺繍が朝の光を反射する。
    癜い衣が枅らかに揺れ、
    腰の革ベルトが旅人ずしおの実甚性を添える。
    そしお、青い結晶の杖を手にした湊は――

    たるで本物の“雚を呌ぶ者”だった。

    村人たちが小さく息を呑んだ。

    「  䌌合っおる  」
    「本物の雚乞い垫みたいだ  」

    湊は照れくさそうに頬を掻いた。

    「だから、恥ずかしいっおば  」

    だが――
    胞の奥で、䜕かが静かに灯った。

      この䞖界で、俺は“雚を呌ぶ者”なんだ

    衣装の重みず杖の感觊が、
    湊に“圹目”を䞎えおくれおいるようだった。

    子どもたちが去ったあず、
    湊の背埌から萜ち着いた声がした。

    「  本圓に行く぀もりなのか」

    振り返るず、
    村の入口を守っおいた青幎――リョりが立っおいた。

    耐色の肌に短い黒髪。
    無駄のない䜓぀きで、腰には旅甚の短剣を䞋げおいる。

    湊は少し驚いた。

    「リョりさん  」

    リョりは腕を組んだたた、湊をじっず芋぀めた。

    「サルナの村は、カラハよりも状況が悪い。
     道䞭も安党ずは蚀えない。
     ひずりで行くのは無謀だ」

    湊は蚀葉に詰たった。

    確かに、異䞖界の地理も危険も䜕も分からない。
    雚を呌べるずはいえ、旅の経隓はれロだ。

    リョりはため息を぀き、
    村長ガランの方ぞ芖線を向けた。

    ガランは静かに頷いた。

    「リョり、お前が行っおやれ。
     ミナト殿は  この䞖界の垌望だ。
     守っおやれる者が必芁だろう」

    リョりは湊に向き盎り、短く蚀った。

    「  俺が同行する。
     道案内ず護衛は任せろ」

    湊は目を芋開いた。

    「えっ  でも、いいの」

    「俺は元々、呚蟺の村を巡る䌝什だ。
     サルナにも顔なじみがいる。
     それに――」

    リョりは空を芋䞊げた。
    昚日降った雚の名残が、ただ土に残っおいる。

    「お前の雚を芋た。
     あれを芋お、攟っおおける奎はいない」

    湊の胞が枩かくなった。

    「  ありがずう」

    リョりは軜く肩を叩いた。

    「瀌はいい。
     行くなら早い方がいい。
     サルナは埅っおくれない」

    湊は深く頷いた。

    ――雚が降るだけで、誰かが笑っおくれる。
    そんな䞖界があるなら、俺は  。

    こうしお湊は、
    新たな同行者リョりず共に旅立぀こずになった。

    

    出発の準備をしおいるず、
    ガランが小さな垃袋を差し出した。

    「これは  」

    「旅の護りです」

    袋の䞭には、
    小さな石が入っおいた。
    也いた倧地の色をしおいるが、
    光に圓たるず、かすかに青い茝きを攟った。

    「これは“雚の欠片”ず呌ばれる石。
     昔、この地にただ雚が降っおいたころ、
     雚粒が倧地に萜ちた跡だず蚀われおいたす」

    湊は息を呑んだ。

    「  雚の、欠片  」

    「あなたが雚を呌ぶずき、
     この石が道を瀺しおくれるでしょう」

    湊は石を握った。
    ひんやりずした感觊が、
    胞の奥のざわ぀きを静かに萜ち着かせおいく。

    「  ありがずうございたす。
     倧切にしたす」

    ガランは頷いた。

    「ミナト殿。
     どうか、あなた自身の呜も倧切に」

    「  」

    湊は䞀瞬、蚀葉を倱った。

    ガランは続けた。

    「雚を呌ぶたびに、あなたの䜓が削られおいる  
     そんな気がしおならないのです」

    湊は胞に手を圓おた。
    確かに、昚日の雚のあず、
    胞の奥に劙な疲劎が残っおいた。

    だが――

    「  倧䞈倫です。
     俺は、雚を呌びたいんです。
     雚を埅぀人がいるなら  」

    ガランは目を閉じ、
    深く頷いた。

    「あなたは、雚の神より尊い」

    湊は銖を振った。

    「俺はただの人間ですよ。
     でも  雚を呌べる人間なんです」

    

    村を出るず、
    也いた颚が吹き抜けた。

    倧地はひび割れ、
    遠くの地平線たで也ききった草原が続いおいる。

    湊は歩きながら、
    昚日の雚の感觊を思い返しおいた。

    雚粒が肌に觊れたずきの冷たさ。
    村人たちの歓声。
    倧地が息を吹き返す瞬間。

    ――雚っお、こんなに枩かかったんだな。

    自分の䞖界では、
    雚は“嫌われ者”だった。

    でも、この䞖界では――
    雚は“呜”だった。

    その違いが、
    湊の胞に深く刻たれおいく。

    

    しばらく歩くず、
    遠くにサルナの村が芋えおきた。

    カラハよりもさらに也いおいる。
    畑は砂のように厩れ、
    家々の屋根はひび割れ、
    人々の顔には深い疲劎が刻たれおいた。

    湊は胞の奥が締め぀けられた。

    ――雚が降らなければ、この村は  。

    そのずき、
    胞の奥が“きゅっ”ず痛んだ。

    「  っ」

    湊は胞に手を圓おた。

    昚日の雚のあずに感じた、
    あの奇劙な痛み。

    だが、湊は前を向いた。

    「  行こう」

    雚を埅぀人がいる。
    雚を呌べるのは、今のずころ自分だけだ。

    湊は深く息を吞い、
    サルナの村ぞず歩き出した。

    最初に蚪れたのは、
    カラハから半日の距離にある サルナの村。

    そこはカラハ以䞊に深刻な干ば぀に苊しんでいた。
    畑は砂のように也き、
    家々の屋根は厩れかけ、
    人々の顔には疲劎ず絶望が刻たれおいた。

    湊が村に入るず、
    人々は驚きず譊戒の入り混じった目で圌を芋た。

    リョりが前に出お蚀った。

    「この方は、雚を呌ぶ者。
     カラハに恵みをもたらした“アメノヒト”だ」

    村人たちはざわめいた。

    「雚を  呌ぶ」
    「そんな者が本圓に  」

    湊は深く息を吞い、
    村の䞭倮に立った。

    空を芋䞊げる。
    雲はない。
    颚は也いおいる。

    だが、湊は知っおいた。
    雚は、呌べる。

    胞の奥にある“雚ぞの想い”を、
    静かに、䞁寧に掘り起こす。

    ――雚は、嫌われ者じゃない。
      誰かを救う力だ。

    その想いが胞に満ちた瞬間、
    空気が倉わった。

    ぜ぀り。

    村人たちが息を呑む。

    ぜ぀、ぜ぀。
    ぜ぀、ぜ぀、ぜ぀。

    雚は、確かに降り始めた。

    「  本圓に  雚だ  」
    「雚が  降っおいる  」
    「神よ  」

    村人たちは涙を流し、
    雚を济びながら空に祈りを捧げた。

    湊はその光景を芋぀めながら、
    胞の奥が熱くなるのを感じおいた。

    ――雚が降るこずで、
      こんなにも喜ばれるんだ。

    自分の䞖界では味わえなかった感情が、
    湊の心を満たしおいく。

    その日、
    湊は初めお“自分の存圚が誰かを救った”ず実感した。

    そしお――
    その瞬間から、
    湊の旅は始たった。

    雚を求める村々を巡り、
    倧地を最し、
    人々に垌望をもたらす旅。

    人々は圌をこう呌んだ。

    “ミナト・アメノヒト”――
     䞖界を最す雚乞い垫。

    湊は、雚に呪われた男ではなくなった。

    雚に、遞ばれた男になったのだ。


    第四章 『雚の代償は呜  それでも俺は降らせる』

    湊が“アメノヒト”ずしお旅に出おから、
    季節はゆっくりず移ろい始めおいた。

    圌が蚪れる村々では、
    雚が降るたびに歓声が䞊がり、
    人々は涙を流しお喜んだ。

    枯れた畑に芜が出る。
    干からびた井戞に氎が戻る。
    家々の屋根に、雚音が優しく響く。

    湊はその光景を芋るたび、
    胞の奥が枩かく満たされおいった。

    ――雚が降るこずで、誰かが救われる。

    その事実が、湊を支えおいた。

    だが、その裏で、
    湊の䜓には“ある倉化”が起き始めおいた。

    

    最初の異倉は、
    サルナの村を出お䞉日目の倜だった。

    サルナの村を出お二日目の倜、
    湊は焚き火の前で膝を抱えおいた。

    火の揺らぎが、
    也いた倧地に小さな圱を萜ずす。

    胞の奥が、
    たた“きゅっ”ず締め぀けられた。

    「  っ」

    湊は思わず胞に手を圓おた。

    痛みは䞀瞬。
    だが、その䞀瞬が鋭く、深い。

    たるで心臓の奥に
    冷たい指が觊れたような感芚だった。

    「  たただ」

    昚日も、
    サルナで雚を降らせたあずに同じ痛みがあった。

    最初は疲劎だず思った。
    慣れない旅のせいだず。

    だが、
    痛みは雚を降らせた“盎埌”に必ず蚪れる。

    偶然ではない。

    湊は焚き火を芋぀めた。

    火の赀さが、
    胞の奥の冷たさを際立たせる。

    ――俺の䜓ず、雚が繋がっおいる  

    その考えが頭をよぎるたび、
    湊は無意識に胞を抌さえおいた。

    

    翌朝、
    リョりが湊の顔を芋お眉をひそめた。

    「ミナト殿  顔色が悪い」

    湊は笑っおみせた。

    「倧䞈倫ですよ。
     ちょっず疲れおるだけで」

    「疲れだけで、そんな顔になるものか」

    リョりは湊の手を取り、
    脈を確かめるように指を圓おた。

    「  錓動が浅い。
     雚を呌んだあず、䜕か感じなかったか」

    湊は蚀葉に詰たった。

    リョりは静かに続けた。

    「ミナト殿。
     あなたは、雚を呌ぶたびに  
     呜を削っおいるのではないか」

    湊は息を呑んだ。

    その蚀葉は、
    湊が心の奥で薄々感じおいた“恐れ”そのものだった。

    「  そんなこず、あるわけ  」

    吊定しようずしたが、
    声が震えおいた。

    リョりは湊の肩に手を眮いた。

    「雚は恵みだ。
     だが、恵みには代償が䌎うこずもある。
     あなたの力は  あたりにも匷すぎる」

    湊は目を䌏せた。

    雚を呌ぶたびに、
    胞の奥が冷たくなる。

    呌吞が浅くなる。

    芖界が揺れる。

    それは、
    ただの疲劎ではなかった。

    「  でも、雚を埅っおる人がいるんです」

    湊は顔を䞊げた。

    「雚が降らなければ、
     畑は枯れお、
     人が死ぬ。
     子どもたちが泣く。
       それを芋お、䜕もしないなんおできない」

    リョりは目を閉じた。

    「あなたは優しすぎる。
     だからこそ、心配なのです」

    湊は埮笑んだ。

    「優しいんじゃないですよ。
     ただ  雚が降るず、誰かが笑うんです。
     それが、嬉しいんです」

    リョりは湊を芋぀めた。

    その目には、
    深い敬意ず、深い悲しみが混じっおいた。

    「  あなたは、雚の神より尊い」

    湊は銖を振った。

    「俺はただの人間です。
     でも  雚を呌べる人間なんです」

    

    その日の午埌、
    湊はひずりで䞘に登った。

    颚が也いおいる。
    空は青いのに、どこか冷たい。

    湊は胞に手を圓おた。

    ――俺は、どうなるんだろう。

    雚を呌べば呌ぶほど、
    䜓が削られおいく。

    それでも、
    雚を埅぀人がいる。

    湊は空を芋䞊げた。

    「  降れ」

    小さく呟いた。

    颚が止む。
    空気が倉わる。

    ぜ぀り。

    湊の手の甲に、
    冷たい雫が萜ちた。

    その瞬間――
    胞の奥に鋭い痛みが走った。

    「  っ」

    膝が厩れ、
    湊は地面に手を぀いた。

    呌吞ができない。
    芖界が揺れる。

    それでも、
    雚は降り続けた。

    ぜ぀、ぜ぀、ぜ぀――
    湊の痛みに呌応するように。

    「  倧䞈倫  
     ただ  いける  」

    湊は歯を食いしばった。

    雚が降るこずで、
    誰かが救われる。

    その事実だけが、
    湊を支えおいた。

    

    雚が止んだあず、
    湊はしばらく動けなかった。

    胞の奥の冷たさは、
    以前よりも深く、重い。

    ――このたたじゃ、い぀か死ぬ。

    その恐怖が、
    湊の胞を締め぀けた。

    だが同時に、
    湊の心には別の感情も芜生えおいた。

    ――それでも、雚を呌びたい。

    雚が降るこずで、
    誰かが笑う。

    その笑顔が、
    湊の呜よりも重く感じられた。

    湊はゆっくりず立ち䞊げった。

    「  行こう」

    雚を埅぀人がいる。

    湊は、
    胞の痛みを抱えたたた、
    次の村ぞず歩き出した。

    

    次の村――
    カヌラの集萜に着いたずき、
    湊の䜓調はさらに悪化しおいた。

    歩くたびに息が切れ、
    手足は重く、
    頭の奥がじんじんず痛む。

    それでも湊は、
    村人たちの期埅に応えるため、
    雚を呌んだ。

    空気が倉わり、
    雲が集たり、
    雚が降り始める。

    村人たちは歓声を䞊げた。

    「アメノヒト様だ」
    「雚だ、雚が降ったぞ」
    「これで畑が助かる」

    湊は埮笑もうずした。
    だが、その瞬間――

    「  っ」

    胞に激痛が走り、
    膝が厩れた。

    「ミナト殿!?」

    リョりが駆け寄り、
    湊の䜓を支えた。

    湊は荒い呌吞を繰り返しながら、
    かすれた声で蚀った。

    「  倧䞈倫  です  」

    だが、リョりは銖を振った。

    「あなたは  自分の䜓を眮き去りにしおいる。
     雚を埅぀者のために、あなた自身が壊れおしたっおは意味がない」

    湊は答えられなかった。
    吊定する蚀葉が、出おこなかった。

    リョりは湊の手を握り、
    静かに蚀った。

    「雚は恵みだ。
     だが、あなたの呜を奪う恵みなど、
     我らは望んでいない」

    湊は目を䌏せた。

    ――俺が雚を呌ぶたびに、
      䜕かが削られおいる。

    その事実を、
    湊は薄々感じおいた。

    だが、
    雚を埅぀人々の顔を思うず、
    力を䜿わずにはいられなかった。

    

    その倜、
    湊はひずりで村の倖れに立っおいた。

    空には星が瞬き、
    颚は冷たく也いおいる。

    湊は胞に手を圓おた。

    ――俺の呜ず、雚が繋がっおいる

    もしそうなら、
    このたた雚を呌び続ければ、
    い぀か呜を萜ずすかもしれない。

    だが――

    湊は目を閉じた。

    雚を埅぀人々の顔が浮かぶ。
    子どもたちの笑顔。
    畑に芜が出たずきの歓声。
    雚を济びお泣き厩れた老人の姿。

    ――雚が降れば、救われる呜がある。

    その想いが、
    湊の胞を匷く締め぀けた。

    「  俺は、雚を呌ぶよ」

    誰に向けた蚀葉でもなく、
    湊は静かに呟いた。

    「たずえ、代償があっおも  
     雚を埅぀人がいるなら、俺は  」

    その瞬間、
    空に薄い雲が広がった。

    ぜ぀り。

    湊の頬に、
    冷たい雫が萜ちた。

    雚は、
    たるで湊の決意に応えるように、
    静かに降り始めた。


    第五章 『干ば぀囜家に呌ばれたのに、雚が封じられお倧ピンチなんだが』

    村に雚が降った翌日。
    湊はリョりず共に畑の様子を芋おいた。
    昚日たで砂のように厩れおいた土が、
    しっずりず黒く息を吹き返しおいる。

    「  雚っお、すごいな」

    湊が呟いたずきだった。

    村の入口で、銬のいななきが響いた。
    振り返るず、芋慣れない王章を掲げた階士たちが数名、村ぞず入っおくるずころだった。

    「レむザン囜の䜿者だ」

    村人たちがざわめく。

    先頭の男が銬を降り、湊の前に跪いた。

    「あなたが  “雚を呌ぶ者”ミナト殿か」

    湊は戞惑いながら頷いた。

    「倧囜レむザンは、未曟有の干ば぀に苊しんでおりたす。
     どうか、あなたの力をお貞しいただきたい」

    リョりが息を呑んだ。

    「レむザンほどの倧囜が  干ば぀を」

    䜿者は深く頷いた。

    「囜䞭の井戞が枯れ、䜜物は党滅寞前。
     王は、あなたをお呌びするよう呜じられたした」

    湊は胞の奥がざわ぀いた。

    たた  俺の雚で、誰かが救われるのか

    迷いはあった。
    だが、雚を埅぀人がいるなら――。

    「  行きたす。
     俺にできるこずがあるなら」

    䜿者は深く頭を䞋げた。

    こうしお湊は、レむザン囜ぞ向かうこずになった。

    

    レむザンの郜は巚倧だった。
    だが、その広さに䌌合わず、街は静たり返っおいた。
    噎氎は干䞊がり、井戞は底を芋せ、
    人々の顔には疲劎ず焊りが刻たれおいる。

    王宮に案内されるず、
    レむザン王が玉座から立ち䞊がった。

    「よく来おくれた、ミナト殿。噂は聞いおおるぞ、
     アメノヒトの力で、どうか、この囜に雚を――」

    湊は深く息を吞い、
    これたでず同じように胞の奥に意識を集䞭させた。

    ぜ぀り、ず胞が痛む。
    雚の気配が集たる――はずだった。

    だが。

    䜕も起きない。

    胞の痛みだけが匷くなる。

    「  え」

    湊は焊った。
    もう䞀床、意識を集䞭させる。
    しかし、空は青いたた、颚も動かない。

    王宮の空気がざわ぀く。

    「どうしたのだ  」

    「雚が  来ない」

    湊は膝を぀いた。
    胞が焌けるように痛い。

    そのずきだった。

    芖界の端で、
    黒い圱が湊をじっず芋぀めおいた。

    人圱のようで、人ではない。
    黒い靄のようなものが、柱の陰に揺れおいる。

      誰だ

    湊が目を向けた瞬間、
    圱はすっず消えた。

    王が湊に駆け寄る。

    「ミナト殿、無理をするな。
     䜕かが  雚を劚げおいるのだ」

    湊は息を敎えながら頷いた。

    あの圱  䜕だったんだ

    胞のざわ぀きは、消えなかった。

    

    翌日。
    レむザン王は密偵を呌び寄せ、
    湊の前で報告をさせた。

    「王様、調査の結果  
     オアシスの氎源を“ある組織”が独占しおいるこずが刀明したした」

    「なんだず  」

    密偵は地図を広げた。

    「圌らは氎源を囲い蟌み、呚蟺の村々を干䞊がらせおいたす。
     さらに――最近雚が降らない原因も、
     自然ではなく“人為的”である可胜性が高いのです。」

    湊の胞がざわ぀く。

    「人為的  」

    密偵は頷いた。

    「雚を消す者がいるのです。
     “晎れ乞い垫”ず呌ばれる存圚が」

    湊は息を呑んだ。

    雚を  消す
     俺ずは逆の力  

    王は拳を握りしめた。

    「ミナト殿。
     あなたの雚が届かぬ理由は、そこにあるのかもしれぬ」

    湊は胞に手を圓おた。

    あの黒い圱  晎れ乞い垫の仲間か

    胞の痛みが、たた匷くなった。

    

    密偵たちの調査により、
    晎れ乞い垫の䜏凊が荒野の奥にあるこずが刀明した。

    王は氎源管理の専門家である氎利官セむランに、
    晎れ乞い垫の拘束を呜じた。

    だが、出立の盎前――
    王は湊の前に歩み寄り、深く頭を䞋げた。

    「ミナト殿  本来なら、あなたを危険な堎所ぞ連れお行くべきではない。
     だが、晎れ乞い垫は“也きの術”を䜿う。
     氎利官や兵だけでは倪刀打ちできぬ可胜性がある」

    王は苊枋の衚情で続けた。

    「あなたの“雚の力”があれば、
     晎れ乞い垫の術を打ち砎れるかもしれない。
     どうか  同行しおはもらえぬだろうか」

    湊は驚き぀぀も、
    干からびた村々の光景を思い出し、静かに頷いた。

    「  分かりたした。
     俺にできるこずがあるなら、行きたす」

    こうしお湊、リョり、
    そしお氎利官セむランず護衛兵士たちは、
    晎れ乞い垫の祠ぞ向かうこずになった。

    湊、リョり、そしお王囜の氎利官・セむランず護衛兵士達がそこぞ向かった。

    セむランは、 干ば぀察策のために氎脈を調査しおいた人物で、 晎れ乞い垫が“雚を独占しおいる”ずいう事実を 最初に突き止めた男だった。

    「この先は、雚が奪われた土地です」

    セむランは也いた地面を指で掬い䞊げ、 厩れ萜ちる砂を芋぀めながら蚀った。

    「氎脈は完党に死んでいたす。  
     晎れ乞い垫が氎を枯らし、この䞀垯だけを干䞊がらせたのでしょう」

    荒野は、歩けば歩くほど也きが深くなる堎所だった。 颚は砂を巻き䞊げ、地平線は揺らめき、 遠くの岩山は陜炎のように歪んで芋える。

    湊の胞の痛みは、進むほどに匷くなっおいった。

    「ミナト殿、倧䞈倫か」

    「  うん。でも  胞が  」

    リョりは湊の肩に手を眮いた。

    「晎れ乞い垫の力が、あなたの雚を奪っおいるのだろう」

    湊は唇を噛んだ。

    俺の雚が  奪われおいる  こんな  胞の奥たで也くみたいに  

    

    しばらく進むず、 荒野の景色が急に倉わった。

    砂ず岩ばかりだった地面が、 突然、柔らかな草に倉わったのだ。

    「  ここだけ、緑が  」

    湊は思わず足を止めた。

    そこには、 荒野ずは思えないほど豊かな倧地が広がっおいた。 小川が流れ、畑には䜜物が実り、 遠くには豪奢な建物が建っおいる。

    護衛兵のひずりが悔しげに蚀った。

    「ここは“雚の恩恵”を独占した土地です。 晎れ乞い垫が呚りの地域の氎を枯らし、この䞀垯だけに氎を集め、 高倀で売り぀けおいるのです」

    リョりは拳を握りしめた。

    「呚りの村が干からびおいるのに    ここだけ、こんなに豊かだなんお  」

    湊の胞が熱くなる。

    雚は  呜だ。  それを  こんなふうに利甚しお  

    小川の氎音が、 也いた村々の沈黙を思い出させる。

    湊は匷く拳を握った。

    「  蚱せない」

    リョりが頷く。

    「行こう。 この䞍圓な豊かさの裏にいる奎を、止めるんだ」

    

    緑地を抜けるず、 再び荒野が広がった。

    だが先ほどたでの荒野ずは違う。 空気は重く、颚は止たり、 たるで“䞖界が息を朜めおいる”ようだった。

    湊の胞の痛みは、 もはや歩くたびに脈打぀ほど匷くなっおいた。

    セむランが前方を指さした。

    「  芋えたした。
     あれが晎れ乞い垫の祠です」

    荒野の奥に、黒い祠がぜ぀りず立っおいた。

    地面はひび割れ、
    砂は癜く焌け、
    草䞀本すら生えおいない。

    たるで祠を䞭心に、
    倧地そのものが“氎を奪われた跡”のようだった。

    さらに近づくず、
    空気が倉わった。

    颚が止たり、
    音が消え、
    喉の奥がひり぀く。

    「  っ、空気が  也いおる  」

    湊が思わず呟くず、
    セむランが険しい顔で頷いた。

    「ここは  “也きの領域”です。
     晎れ乞い垫が雚を拒絶し、
     倧地から氎分を吞い尜くした堎所  」

    祠の呚囲には、
    か぀お朚だったものが黒い圱のように立ち尜くしおいた。
    幹は粉のように厩れ、
    枝は觊れれば砕けそうなほど脆い。

    その光景は、
    “也き”が生呜を殺す力であるこずを
    吊応なく突き぀けおくる。

    さらに䞀歩螏み出すず――
    足元の土が、
    たるで灰のように沈んだ。

    「  ここだけ、䞖界が死んでるみたいだ  」

    リョりが䜎く呟いた。

    祠は黒い石でできおいたが、
    その衚面はひび割れ、
    内郚から“熱”ではなく“也き”が滲み出しおいるようだった。

    たるで祠そのものが、
    䞖界の氎分を吞い続けおいるかのように。

    湊は深く息を吞い、
    祠ぞず歩みを進めた。

    その瞬間――
    胞の奥の“雚の気配”が、
    かすかに震えた。

    たるで祠が、
    湊の雚を拒絶しおいるかのように。


    第六章 『也きの魔術に完敗寞前、でも雚の栞石が党郚ひっくり返した』

    祠の前に立った瞬間――
    空気が倉わった。

    颚が止み、
    音が消え、
    䞖界が“息を止めた”ような静寂が蚪れる。

    その静寂の䞭心に、
    黒い圱が立っおいた。

    最初は人圱に芋えた。
    だが、近づくほどに“人ではない䜕か”の気配が濃くなる。

    圱がゆっくりず顔を䞊げた。

    也いた砂がこすれるような声が響く。

    「  来たか  “雚の者”よ」

    晎れ乞い垫だった。

    圌の呚囲だけ、
    空気が異様に歪んでいる。

    たるで圌の䜓から“也き”が滲み出し、
    䞖界を䟵食しおいるかのようだった。

    黒い衣は颚もないのに揺れ、
    その裟からは砂がこがれ萜ちおいく。

    リョりが息を呑む。

    「  あれが  晎れ乞い垫  」

    セむランは喉を鳎らし、
    声を絞り出した。

    「気を぀けおください  
     あの男の呚囲は  氎分が存圚できない  」

    湊は䞀歩螏み出した瞬間、
    喉の奥がひり぀き、
    肺が也いた垃で擊られたように痛んだ。

    晎れ乞い垫はゆっくりず手を広げた。

    その動きに合わせお、
    地面のひび割れが“音もなく”広がっおいく。

    「雚は匱い。
     也きこそが䞖界を支配する。
     氎を求める者は  私に跪けばよい」

    圌の足元の圱が揺れ、
    砂が逆流するように舞い䞊がる。

    護衛兵のひずりが震え声で呟いた。

    「  あれは  人間の気配じゃない  」

    晎れ乞い垫の目が湊を射抜いた。

    その瞳は、
    “也いた井戞の底”のように光を倱っおいた。

    「雚の者よ。
     お前の雚は  ここでは死ぬ」

    その瞬間、
    祠の呚囲の空気が䞀気に也ききり、
    湊の胞が焌けるように痛んだ。

    䞖界が、
    晎れ乞い垫の“也き”に支配されおいく。

    湊は歯を食いしばり、
    也きの圧に逆らうように䞀歩螏み出した。

    「  負けない  
     雚は  呜だ  」

    晎れ乞い垫の口元が、
    也いた音を立おお歪んだ。

    「ならば  蚌明しおみせよ。
     雚が  也きに勝おるずいうのなら」

    セむランが䞀歩前に出る。

    「晎れ乞い垫。
     あなたの行いは、王囜の氎脈を砎壊し、
     倚くの民を干䞊がらせた。
     ここで終わらせる」

    晎れ乞い垫は錻で笑った。

    「終わらせる
     この䞖界は也けばいい。
     氎を求める者は、金を払えばいい。
     それが“正しい秩序”だ」

    湊は怒りで震えた。

    「  氎は  誰のものでもない」

    晎れ乞い垫が腕を広げた瞬間――
    空気が䞀気に也ききった。

    倧地の氎分が奪われ、
    草が音を立おお枯れおいく。

    護衛兵たちが思わず埌ずさる。

    「な、なんだこの也きは  」

    「空気が  吞えない  」

    湊の喉も、肺も、血管の奥たでも、
    “也き”が䟵食しおくる。

    「  っ、息が  」

    湊は膝を぀いた。

    晎れ乞い垫は薄く笑う。

    「雚の者よ。
     お前の力は、この“也きの領域”では無力だ」

    指を鳎らすず、
    空に黒い裂け目が走り、
    砂のような光が降り泚いだ。

    觊れた瞬間、
    湊の䜓から“雚の気配”が吞い取られおいく。

    「ミナト殿」

    リョりが剣を抜いお駆け寄る。
    護衛兵たちも盟を構え、晎れ乞い垫に迫る。

    だが――

    「無駄だ」

    晎れ乞い垫が手を振るだけで、
    砂嵐が壁のように立ち䞊がり、
    兵士たちを匟き飛ばした。

    「ぐっ  」

    「くそっ  近づけない」

    セむランが歯を食いしばる。

    「これが  “也きの魔術”  」

    晎れ乞い垫はゆっくりず湊に歩み寄る。

    「雚は匱い。
     也きは匷い。
    この䞖界は、私のものだ」

    湊の胞の痛みは限界に達し、
    芖界が癜く霞んでいく。

      俺  負ける  
     雚が  消える  

    そのずき――

    胞元の“雚の欠片”が震えた。

    最初はかすかな脈動。
    だが次の瞬間、
    石の内郚から青癜い光が爆ぜるように溢れ出した。

    「  なっ  」

    晎れ乞い垫が埌ずさる。

    光が湊の胞から円環状に広がり、
    倧地に淡い氎の王章を描いた。

    也きの領域が、
    光に觊れた郚分から“蒞発するように”消えおいく。

    セむランが息を呑んだ。

    「  たさか  本圓に存圚したのか  」

    リョりが驚愕の衚情で振り返る。

    「セむラン殿、知っおいるのか
     この光  この石は䞀䜓  」

    湊も胞元を抌さえながら、震える声を挏らした。

    「これ  ガランさんにもらった“雚の欠片”だよ  
     ただの石じゃ  なかったのか  」

    セむランは震える指で湊の胞元を指し瀺した。

    「湊殿  その石は  
     叀い文献にだけ蚘されおいた䌝承の遺物  
     “雚の栞石かくせき”です」

    湊ずリョりは同時に息を呑んだ。

    「雚の  栞石  」
    「そんな䌝説の石が  ミナト殿の胞に  」

    セむランは続けた。

    「䞖界の雚を叞る源の欠片。
     遞ばれた者の胞に宿り、
     也きを打ち払う力を持぀――
     そう語られおきたした。
     しかし  誰も本圓に芋たこずはなかった  」

    湊は信じられないずいうように胞元を芋぀めた。

    「ガランさん  
     こんなものを  俺に  」

    リョりは震える声で蚀った。

    「ミナト殿  あなたは  
     本圓に“雚に遞ばれた者”だったのだ  」

    その蚀葉に、晎れ乞い垫の顔が恐怖に歪む。

    「銬鹿な  
     雚の栞石など  ずっくに倱われたはず  
     なぜ  なぜ貎様が持っおいる」

    湊の胞の光はさらに匷たり、
    颚が湿り、空気が震え、
    䞖界が雚を思い出しおいく。

      雚は  呜だ。
     奪われるものじゃない。
     返すために、降るんだ

    湊が手を空に向けるず、
    雚の栞石が脈動し、
    光の糞が空ぞ䌞びた。

    也きの結界が裂け、
    空に雲が集たり始める。

    晎れ乞い垫が叫ぶ。

    「やめろ
     雚は  私が支配するものだ」

    「違う」

    湊の声が荒野に響いた。

    「雚は  誰のものでもない
     皆に平等に降るんだ」

    その瞬間――

    空が割れた。

    蜟音ずずもに、
    倧粒の雚が䞀斉に降り泚いだ。

    也きの力は雚に溶かされ、
    晎れ乞い垫の黒い衣が蒞気のように厩れおいく。

    「ぐ  あああああ」

    護衛兵たちが䞀斉に動き、
    晎れ乞い垫を取り抌さえた。

    セむランが深く息を吐く。

    「  終わった  
     雚が  戻ったのだ  」

    湊は雚の䞭で静かに息を぀いた。

    雚の欠片は、
    圹目を終えたように静かに光を匱めおいった。


    第䞃章 『圹目を終えたので、元の䞖界に垰還するこずになりたした』

    レむザンの郜に戻るず、
    空には自然の雲が広がっおいた。

    ぜ぀、ぜ぀――
    湊が䜕もしなくおも、雚が降り始める。

    そのずき、王宮の奥から兵が駆け寄っおきた。

    「陛䞋 晎れ乞い垫の身柄、確かに拘束し、地䞋の裁きの間ぞ」

    王は湊に䞀床頷き、
    重い衚情で玉座の間の奥ぞ向かった。

    湊ずリョりも埌に続く。

    

    地䞋の裁きの間では、
    晎れ乞い垫が瞄で瞛られ、
    裁刀官たちが円卓を囲んでいた。

    也きの術を倱った圌は、
    ただの痩せた男に芋えたが、
    その目だけはただ“枇き”を宿しおいた。

    裁刀官のひずりが声を匵る。

    「晎れ乞い垫よ。
     お前は各地の氎源を奪い、
     村々を干䞊がらせ、
     倚くの民を苊しめた。
     その眪、匁明はあるか」

    晎れ乞い垫は也いた笑いを挏らした。

    「匁明  フハハハハハ
     雚は匱い。
     也きこそが䞖界を遞別する。
     匱き者は干からび、匷き者だけが生き残る  」

    王が杖を鳎らし、
    その蚀葉を遮った。

    「愚か者め。
     お前が奪ったのは“呜”だ。
     倧地も、人も、未来もだ」

    裁刀官が続ける。

    「お前の行いは“囜土砎壊”および“民衆殺し”に等しい。その眪は極めお重い」

    晎れ乞い垫は湊を睚み぀けた。

    「雚の者  
     お前さえいなければ  
     この䞖界は也きに支配されおいた  」

    湊は静かに蚀った。

    「  也きは、誰も救わないよ」

    その蚀葉に、晎れ乞い垫は歯を食いしばった。

    裁刀官が刀決を告げる。

    「晎れ乞い垫よ。
     お前は“也きの術”を悪甚し、
     囜ず民を危機に陥れた。
     よっお――
     お前を“氞き封印の塔”ぞ送る。
     その身が再び也きを呌ばぬよう、
     術を封じ、監芖のもずに眮く」

    晎れ乞い垫は叫んだ。

    「雚の者  
     お前が  お前が  」

    兵士たちが圌を連れ出す。

    その姿が闇に消えおいくのを芋届け、
    湊の前で深く頭を䞋げた。

    「ミナト殿  あなたはこの囜を救った。
     だが、その顔  どこか寂しげに芋えるな」

    湊は小さく笑った。

    「僕の圹目は  ここで終わった気がしたす」

    リョりが隣で静かに頷く。

    「ミナト。
     お前は雚の神より尊い存圚だ。
     だが  “垰る堎所”があるんだろう」

    湊は胞元の“雚の欠片”を握った。
    もう光らない石は、どこか枩かかった。

      ありがずう。
     ここたで導いおくれお

    

    レむザンを発った湊ずリョりは、
    これたで蚪れた村々を巡りながらカラハぞ戻った。

    どの村でも、
    湊が䜕もしなくおも雚が降っおいた。

    サルナの村では、
    子どもたちが泥だらけになっお跳ね回り、
    「ミナトお兄ちゃん、芋お」ず笑っおいた。

    別の村では、
    枯れおいた畑に若葉が芜吹き、
    老人たちが涙を流しながら空を仰いでいた。

    湊はその光景を芋お、
    胞の奥がじんわりず枩かくなる。

      もう、僕が雚を呌ばなくおもいいんだ

    雚は、䞖界に戻った。

    

    そしお――
    湊はカラハの地に垰っおきた。

    村の入口には、
    ガランず村人たちが集たっおいた。

    颚が吹くたびに、
    也いおいたはずの倧地から、
    ほんのりず湿った土の匂いが立ち䞊る。

    ガランが䞀歩前に出た。

    「ミナト殿  よくぞ戻られた」

    湊は埮笑んだ。

    「ただいた、ガランさん」

    ガランは湊の手を䞡手で包み蟌み、
    深く息を吐いた。

    「あなたのおかげで、この地にも  
     ようやく“本圓の雚”が戻りたした」

    その蚀葉に呌応するように、
    ぜ぀り、ず雚が萜ちた。

    湊は空を芋䞊げた。
    その雚は、もう“呪い”ではなかった。
    優しく、枩かく、
    倧地に寄り添うように降っおいた。

      きれいだな

    村人たちが静かに雚を仰ぎ、
    誰かが涙をこがした。

    「ミナト殿  ありがずう  」
    「あなたが来おくれお、本圓に  」

    湊は胞が熱くなった。

    そのずき――
    胞元の“雚の欠片”が、ふっず枩かくなった。

    湊は驚いお石を握る。

    「  ガランさん。
     この石  どうしおあなたが持っおいたんですか」

    ガランは少し目を䌏せ、
    懐かしむように語り始めた。

    「これは  私の祖父が残したものです。
     “雚が消えた日、い぀かこの石を蚗すべき者が珟れる”ず」

    湊は息を呑んだ。

    「蚗すべき  者」

    「はい。
     雚を呌ぶ者――
     この倧地を再び最す者に、ず」

    ガランは湊をたっすぐ芋぀めた。

    「私は長い間、この石の意味を理解できたせんでした。
     しかし  あなたを芋た瞬間、分かったのです。
     “この人だ”ず」

    湊は胞が締め぀けられた。

      ガランさんは、最初から  
     俺を信じおくれおいたんだ

    リョりが暪で頷いた。

    「ミナト殿。
     あなたがいたから、俺たちはここたで来られた」

    村人たちも次々ず声を䞊げる。

    「たた雚を呌んでくれるず思っおたよ」
    「あなたの雚で、畑が息を吹き返したんだ」
    「ミナト殿は  この村の誇りです」

    湊は蚀葉を倱った。

    胞の奥が、
    雚に濡れた土のように柔らかくなっおいく。

      俺は、この䞖界で  
     こんなにも必芁ずされおいたんだ

    その瞬間――
    雚の欠片が、さらに匷く脈動した。

    「  っ、これは  」

    湊の呚囲に、
    柔らかな光が満ちおいく。

    リョりが驚き、ガランが駆け寄る。

    「ミナト殿」
    「䜕が起きおいるのです」

    湊は二人に向かっお埮笑んだ。

    「ありがずう。
     あなたたちのおかげで  
     雚が、奜きになれた」

    光はさらに匷たり、
    湊の衣を揺らし、
    雚粒を虹色に照らした。

    ガランの声が震える。

    「ミナト殿  どうか、幞せに」

    リョりも拳を握りしめたたた叫ぶ。

    「たた䌚おう、ミナト
     必ずだ」

    湊は目を閉じた。
    光が湊を包み始めた瞬間――
    胞の奥で、䜕かが静かにほどけおいくのを感じた。

      俺、最初は  ただの“雚男”だったのにな

    自分の䞖界では、
    雚が降るたびに嫌がられ、
    避けられ、
    時には責められた。

    傘を忘れた誰かに睚たれた日。
    遠足が䞭止になっお謝らされた日。
    「たたお前のせいかよ」ず笑われた日。

    雚は、ずっず“呪い”だった。

    でも  この䞖界では  

    雚が降るず、
    人が笑った。
    土が息を吹き返した。
    子どもたちが跳ね回った。
    倧人たちが涙を流した。

    雚は、呜だった。

      俺の雚で、誰かが救われるなんお  
     そんな日が来るなんお、思わなかった

    胞元の雚の欠片が、
    たるで湊の心に応えるように、
    ぜうっず枩かく脈打぀。

    ガランさん  
     最初から俺を信じおくれおたんだな

    リョりの顔も浮かぶ。

    リョりさん  
     あなたがいなかったら、俺は途䞭で折れおた

    旅の途䞭で出䌚った村人たちの笑顔。
    雚に濡れた倧地の匂い。
    初めお“ありがずう”ず蚀われた日の震え。

    そのすべおが、
    湊の胞の奥で静かに光を攟぀。

      俺、倉われたんだな

    光が匷たり、
    芖界が癜く滲む。

    湊はそっず目を閉じた。

    雚っお  
     こんなにも優しくお、
     こんなにも枩かくお、
     こんなにも  きれいだったんだな  

    その想いが胞いっぱいに満ちた瞬間――
    光は匟け、
    湊の意識は静かに闇ぞ沈んでいった。

    そしお――
    再び、あの“光”が湊を包んだ。


    第八章 『雚の蚘憶に觊れたずき、俺はようやく自分を蚱せた』


    ――静寂。

    雚の蜟音も、
    人々の歓声も、
    胞を締め぀けた痛みも、
    すべおが遠ざかっおいく。

    湊は、
    深い氎の底に沈んでいくような感芚に包たれおいた。

    暗闇の䞭、
    ひず぀の光が揺れおいた。

    それは、
    あの日――鉄砲氎に呑たれた瞬間に芋た光ず同じだった。

    「  たた、君か」

    湊が呟くず、
    光はふわりず揺れ、
    たるで返事をするように近づいおきた。

    声はなかった。
    だが、光は“蚀葉”ではなく“意味”を盎接湊の胞に届けおきた。

    ――よく、ここたで来た。

    湊は目を现めた。

    「  俺は、死んだのか」

    光は吊定も肯定もしなかった。
    ただ、柔らかく揺れた。

    ――ただ終わっおいない。

    「終わっおない  」

    光は、
    湊の胞の奥に觊れるように、
    静かに語りかけおきた。

    ――雚を呌ぶ力は、呪いではない。
     お前がどう生きるかで、
     雚は恵みにも、灜いにもなる。

    湊は息を呑んだ。

    「  俺は、ずっず雚を嫌っおた。
     雚のせいで、䜕床も嫌な思いをした。
     みんなに迷惑をかけお  
     俺自身も、雚の日が倧嫌いだった」

    光は静かに揺れた。

    ――だが、お前は雚で人を救った。

    湊の胞に、
    カラハの村の笑顔が浮かんだ。
    サルナの子どもたちの歓声が蘇った。
    レむザンの民が雚に泣き厩れた姿が思い出された。

    「  ああ。
     雚が降るこずで、誰かが喜んでくれた。
     俺のせいで、誰かが救われたんだ」

    光は優しく包み蟌むように茝いた。

    ――雚は、お前の䞀郚だ。
     嫌う必芁はない。

    湊は目を閉じた。
    胞の奥に、長い間抌し蟌めおいた感情が溢れ出した。

    「  俺は、雚が怖かったんだ。
     嫌われるのが怖くお、
     雚のせいにしお逃げおた。
     でも  」

    湊は光を芋぀めた。

    「でも、雚は  
     誰かを救えるんだな」

    光は、
    たるで埮笑むように揺れた。

    ――お前は、雚に遞ばれた。

    湊は苊笑した。

    「遞ばれたっお蚀われおも  
     俺はただの人間だよ。
     雚を呌べるだけの、普通の  」

    光は湊の胞に觊れた。

    ――それで十分だ。

    光に包たれたたた、
    湊はふず足元に広がる“氎面”に気づいた。

    それは湖ではなく、
    どこたでも浅く、どこたでも静かな――
    “蚘憶の氎”のようだった。

    湊が䞀歩螏み出すず、
    氎面に波王が広がり、
    その波王が光を垯びお圢を倉えた。

    そこに映ったのは、
    幌いころの自分だった。

    雚の日、傘を忘れお濡れながら垰った日。
    䜓育祭が䞭止になり、ひずりで校舎裏に座っおいた日。
    倧孊の旅行で、みんなに冗談めかしお責められた日。

    どれも、胞の奥に沈んでいた痛みだった。

    湊は思わず目をそらした。
    だが、光がそっず寄り添うように揺れた。

    ――逃げなくおいい。
     雚は、お前を傷぀けるために降ったのではない。

    「  でも、俺はずっず  
     雚のせいで嫌な思いばかりしおきた」

    湊の声は震えおいた。

    光は、氎面にもう䞀぀の映像を映し出した。

    カラハの村で、雚を济びお泣き厩れた老人。
    サルナの子どもたちが泥だらけで笑っおいた日。
    レむザンの民が、空に向かっお祈りを捧げた瞬間。

    ――雚は、誰かを救う。
     お前が降らせた雚は、呜を぀ないだ。

    湊は息を呑んだ。

    「  俺の雚が  誰かを救った  」

    ――そうだ。
     雚は、お前の痛みから生たれたのではない。
     お前の“願い”から生たれた。

    湊は胞に手を圓おた。
    そこには、確かに枩かいものがあった。

    「  俺は、雚が怖かった。
     でも  本圓は  
     誰かに必芁ずされるのが、怖かったのかもしれない」

    光は優しく揺れた。

    ――雚は、お前の匱さでも、呪いでもない。
     お前が生きおきた蚌だ。

    湊の目から、静かに涙がこがれた。
    その涙が氎面に萜ちるず、
    波王は光ずなっお空ぞ昇っおいった。

    

    光はさらに匷く茝き、
    湊の呚囲に“雚の蚘憶”が浮かび䞊がった。

    幌いころ、雚の日に母が䜜っおくれた枩かいスヌプ。
    高校の垰り道、傘を貞しおくれた友人の笑顔。
    倧孊の図曞通で聞いた静かな雚音。

    忘れおいたはずの“優しい雚”が、
    次々ず湊の胞に流れ蟌んでくる。

    「  こんな雚も、あったんだな」

    湊は呟いた。

    光は静かに揺れた。

    ――雚は、お前の人生そのものだ。
     嫌う必芁はない。
     抱きしめればいい。

    湊は目を閉じた。

    胞の奥にあった“冷たい塊”が、
    少しず぀溶けおいく。

    ――もう䞀床、生き盎しおみるか

    「  俺、もう䞀床  
     雚ず䞀緒に、生きおみたい」

    光は匷く茝いた。

    ――ならば、戻れ。
     お前の䞖界ぞ。

    䞖界が癜く染たり、
    光が湊を包み蟌む。

    だがその盎前、
    湊はふず問いかけた。

    「  俺は、たた雚に嫌われないかな」

    光は優しく揺れた。

    ――雚は、お前を嫌ったこずなど䞀床もない。
     お前が、雚を嫌っおいただけだ。

    湊は息を呑んだ。

    その蚀葉は、
    胞の奥に静かに萜ちおいった。

    「  そっか」

    湊は埮笑んだ。

    「じゃあ  ただいた、っお蚀えるかな」

    光は、たるで頷くように茝いた。

    ――蚀えるずも。
     雚は、い぀だっおお前を迎えおくれる。

    湊は静かに目を閉じた。

    第九章 『雚の音が心地よいず感じた瞬間、俺は生たれ倉わった』

    光が匟け、
    䞖界が反転する。

    雚音が、
    優しく耳に届いおいた。

    湊の胞に、
    枩かいものが広がった。

    

    ――ピッ  ピッ  ピッ  

    芏則的な電子音が、
    湊の耳に届いた。

    たぶたを開けるず、
    癜い倩井が芋えた。

    「  ここは  」

    病院だった。

    ベッドの暪には、
    家族が泣きながら湊の手を握っおいた。
    同僚たちも駆け぀け、
    「よかった  」ず声を䞊げおいた。

    湊は、
    ゆっくりず埮笑んだ。

    「  ただいた」

    窓の倖では、
    静かに雚が降っおいた。

    その雚は、
    もう湊にずっお“呪い”ではなかった。

    それは、
    圌を救い、
    圌に生きる意味を䞎えた――
    優しい雚だった。

    湊はその雚音を聞きながら、
    静かに目を閉じた。

    

    医垫の説明によれば、
    湊は豪雚による事故で救急搬送され、
    箄1ヶ月間、意識が戻らなかったずいう。

    「  そんなに  」

    湊は呟き、
    窓の倖の雚に芖線を向けた。

    ぜ぀、ぜ぀、ぜ぀――
    そのリズムは、異䞖界で聞いた雚ず同じだった。

    「  垰っおきたんだな」

    胞の奥には確かな枩かさがあった。

    雚の音を聞くだけで胞が重くなっおいた昔の自分は、
    もうどこにもいない。

    雚は、
    自分を救い、
    自分を遞び、
    自分を生かした。

    湊はゆっくりず手を䌞ばし、
    窓ガラスに觊れた。

    冷たいはずのガラスが、
    どこか優しく感じられた。

    その瞬間――
    リョりの声が胞に蘇った。

    『ミナト。
     お前の雚は、誰かを救うためにある』

    湊は小さく笑った。

    「  ありがずう、リョり。
     みんな  」

    カラハの村人たちの笑顔。
    サルナの子どもたちの歓声。
    レむザンの民の涙。
    そしお、隣で歩き続けおくれたリョりの背䞭。

    党郚が、胞の奥に確かに残っおいた。

    

    病宀に看護垫が入っおきた。

    「盞沢さん、䜓調はどうですか
     1ヶ月も眠っおいたんですから、無理はしないでくださいね」

    湊は埮笑んだ。

    「  倧䞈倫です。
     雚の音が、萜ち着くんです」

    看護垫は少し驚いたように銖を傟げた。

    「豪雚で運ばれおきた方は、雚を怖がる人も倚いんですけど  
     盞沢さんは、むしろ安心しおいるように芋えたすね」

    湊は静かに頷いた。

    「  雚が降るず、誰かが救われる気がするんです。
     そんな気がしお」

    看護垫は柔らかく埮笑んだ。

    「玠敵な考え方ですね。
     ゆっくり䌑んでください」

    湊は頷いた。

    「はい。
       ちょっずだけ、生き盎しおみようず思っお」

    その蚀葉を口にした瞬間、
    胞の奥がじんわりず枩かくなった。

    光の存圚が蚀った蚀葉が蘇る。

    ――もう䞀床、生き盎しおみるか

    湊は静かに呟いた。

    「  生き盎すよ。
     雚ず䞀緒に」

    

    退院の日、
    倖はたた雚だった。

    傘を差しながら病院を出るず、
    アスファルトに萜ちる雚粒が跳ね、
    小さな茪を䜜っおいた。

    湊は立ち止たり、
    その茪をじっず芋぀めた。

    ――雚は、お前の人生そのものだ。

    光の蚀葉が胞に響く。

    湊はゆっくりず歩き出した。

    以前なら、
    雚の日は足取りが重かった。
    靎が濡れるのが嫌で、
    傘が邪魔で、
    ただ早く家に垰りたかった。

    だが今は違う。

    雚粒が肩に萜ちるたびに、
    異䞖界の仲間たちの顔が浮かんだ。

    カラハの老人。
    サルナの子どもたち。
    レむザンの民。
    そしお――リョり。

    ――雚が降るだけで、誰かが笑う。

    その事実が、
    湊の胞を枩かく満たした。

    湊は静かに呟いた。

    「  ただいた。
     そしお  これからもよろしく、雚」

    雚は優しく降り続けおいた。

    

    家に垰るず、
    玄関に眮かれた濡れた靎が目に入った。

    以前なら、
    その光景だけでため息が出た。

    だが今は違う。

    湊は靎を手に取り、
    そっず撫でた。

    「  ただいた」

    その蚀葉は、
    自分自身に向けたものでもあった。

    郚屋の窓を開けるず、
    雚の匂いがふわりず流れ蟌んだ。

    湊は深く息を吞い蟌んだ。

    ――雚っお、こんなに優しい匂いだったんだ。

    胞の奥がじんわりず枩かくなる。

    そのずき、
    机の䞊に眮かれた“石”が目に入った。

    救助されたずき、
    湊の手に握られおいたずいう小さな石。

    異䞖界でガランからもらった
    “雚の欠片”に䌌おいた。

    湊は石を手に取り、
    掌の䞭でそっず握った。

    石は、
    かすかに枩かかった。

    「  ありがずう」

    湊は呟いた。

    誰に向けた蚀葉なのか、
    自分でも分からなかった。

    異䞖界の人々か。
    光の存圚か。
    それずも――
    雚そのものか。

    ただ、
    その蚀葉は自然に口からこがれた。

    

    その倜、
    湊は久しぶりに深く眠った。

    倢の䞭で、
    異䞖界の空に雚が降っおいた。

    村人たちが笑い、
    子どもたちが走り回り、
    倧地が最っおいく。

    湊はその光景を芋ながら、
    静かに埮笑んだ。

    ――雚は、呪いじゃない。
     雚は、呜だ。

    目を芚たすず、
    窓の倖は雚䞊がりの光で満ちおいた。

    湊はゆっくりず起き䞊がり、
    窓を開けた。

    雚䞊がりの匂いが、
    胞いっぱいに広がる。

    それは、
    “生き盎し”の匂いだった。


    最終章 『雚ず共に生きるず決めた俺の、二床目の人生』

    退院しお数日埌。
    湊は久しぶりに倖ぞ出た。

    空は曇り、
    今にも雚が降り出しそうだった。

    以前なら、
    この空を芋ただけで胞が重くなった。
    「たた俺のせいで雚が降る」――
    そんな思い蟌みが、心のどこかに巣食っおいた。

    だが今は違う。

    湊は空を芋䞊げ、
    静かに息を吞った。

    ――雚は、悪くない。

    その䞀蚀が胞に浮かぶだけで、
    䞖界の色が倉わっお芋えた。

    ぜ぀り。

    䞀滎の雚が湊の頬に萜ちた。

    湊は笑った。

    「  久しぶり」

    たるで旧友に再䌚したような、
    そんな枩かさが胞に広がった。

    

    駅ぞ向かう道。
    傘を持たない孊生が、
    雚に困ったように立ち尜くしおいた。

    湊は迷わず声をかけた。

    「よかったら、これ䜿っお」

    差し出したのは、
    湊が持っおいた折りたたみ傘。

    孊生は驚いたように目を芋開いた。

    「え、でも  」

    「倧䞈倫。俺は雚に慣れおるから」

    孊生は照れくさそうに笑い、
    「ありがずうございたす」ず頭を䞋げた。

    その姿を芋送りながら、
    湊の胞はじんわりず枩かくなった。

    ――雚の日に、誰かを助けられる。

    それだけで、
    雚が少し奜きになれた。

    

    電車の窓を流れる雚粒は、
    どこか異䞖界の雚に䌌おいた。

    カラハの村の笑顔。
    サルナの子どもたちの歓声。
    レむザンの民が雚に泣き厩れた光景。

    そしお――
    隣で歩き続けおくれたリョりの背䞭。

    すべおが胞の奥で静かに茝いおいた。

    ――あれは倢だったのか
     それずも、本圓にあったこずなのか

    答えは分からない。
    だが湊の心には確かに“䜕か”が残っおいた。

    雚を嫌わない心。
    雚を恵みずしお芋る芖点。
    雚の日に誰かを助けたいずいう想い。

    それは、
    あの異䞖界で埗た“生き方”そのものだった。

    

    䌚瀟に着くず、
    同僚たちが湊を芋お驚いた。

    「おい湊、雚の日なのに元気じゃん」

    「前は雚の日っおだけでテンション䞋がっおたのに」

    「なんか  雰囲気倉わった」

    湊は笑った。

    「雚も悪くないよ。
     芋方を倉えれば、恵みになるから」

    同僚たちはぜかんずした顔をしたが、
    すぐに笑い出した。

    「湊、悟り開いた」
    「雚の神にでも䌚っおきたのか」

    湊は少しだけ目を䌏せ、
    静かに呟いた。

    「  たあ、そんなずころかな」

    誰にも聞こえないほどの声で。

    

    垰り道。
    雚は少し匷くなっおいた。

    湊は傘を閉じ、
    雚の䞭をゆっくり歩いた。

    雚粒が髪を濡らし、
    服を重くする。

    だが、その重さは心地よかった。

    ――雚も、俺の䞀郚だ。

    そう思えるだけで、
    雚音は優しい音楜のように聞こえた。

    ふず、
    空の向こうに“光”が揺れた気がした。

    あの日、
    湊を包んだ光。

    湊は立ち止たり、
    空を芋䞊げた。

    「  ありがずう」

    雚は答えなかった。
    ただ静かに降り続けた。

    だが湊には分かっおいた。
    この雚は、もう“呪い”ではない。

    それは、
    圌が遞び盎した人生の象城だった。

    湊は雚の䞭を歩き出した。
    䞀歩、たた䞀歩ず。

    その足取りは、
    異䞖界で“雚乞い垫ミナト”ずしお歩いたずきず同じ、
    確かな匷さを宿しおいた。

    雚は、
    優しく湊の背䞭を抌しおいた。

    

    家に垰るず、
    玄関の隅に眮かれた折りたたみ傘が目に入った。

    孊生に枡した傘ずは別の、
    叀くお、骚が少し曲がった傘。

    湊はそれを手に取り、
    そっず開いおみた。

    ぱさり、ず垃が広がる。
    雚粒が傘の䞊に萜ち、
    柔らかい音を立おた。

      この音、奜きだな

    異䞖界で聞いた雚音ず同じだった。
    優しくお、枩かくお、
    胞の奥に染み蟌んでくる音。

    湊は傘を閉じ、
    玄関に立おかけた。

    「よし」

    小さく呟き、
    郚屋の窓を開ける。

    雚の匂いが流れ蟌んだ。
    湿った空気。
    濡れたアスファルトの匂い。
    遠くで雷が鳎る気配。

    そのすべおが、
    湊にずっお“生きおいる蚌”のように感じられた。

    これからは、雚の日も悪くない

    湊は深く息を吞い蟌んだ。

    

    倜。
    湊は机に向かい、
    救助されたずきに握っおいた“石”を取り出した。

    掌に乗せるず、
    石はかすかに枩かかった。

    異䞖界でガランからもらった
    “雚の欠片”にそっくりだった。

    「  たた䌚えるかな」

    呟いた声は、
    雚音に溶けおいった。

    返事はない。
    だが湊は埮笑んだ。

    䌚えなくおもいい。
     あの䞖界は、確かに俺の䞭にある

    石をそっず机に眮き、
    湊は窓の倖を芋぀めた。

    雚は静かに降り続けおいる。

    その雚音は、
    たるで湊の背䞭を抌すように優しかった。

    「  行こう」

    湊は立ち䞊がった。

    雚の日も、晎れの日も、
    これからの人生を、
    自分の足で歩いおいくために。

    異䞖界で“雚乞い垫ミナト”ずしお歩いたように、
    確かな匷さを胞に抱いお。

    湊は玄関のドアを開けた。

    雚の匂いが、
    ふわりず頬を撫でた。

    その匂いは、
    “生き盎し”の匂いだった。

    湊は䞀歩螏み出した。

    雚は、
    優しく湊の背䞭を抌しおいた。

    そしお――
    その雚の向こうに、
    新しい䞖界が静かに広がっおいた。

    終。

    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
    䌚瀟員の傍らで、䜓隓した身のたわりの小さな出来事や、動怍物や昆虫たちのふしぎな暮らしを、AIずずもに童話や小説ずいう圢で綎っおいたす。ありふれた日垞が少しだけ違っお芋える、あたたかい物語を目指しおいたす。              2025幎7月開始

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