
【超短編小説】nakusimono
気づかないうちに、どうやら消えてしまったらしい。
確か、布団に潜るまではそこにあったはずのものが、
起きた時にはもうすでに無くなっていた。
妻は「どこかに置いてきたんじゃない?」と言った。
何日かかけてベットの辺りを探したが、見つからなかった。
誰かが言っていた。
「それは失わない方が良い」
その言葉を私は忘れていたようだった。
仕事中、私はそのことばかり考えていた。
煙草に火を付けたとしても、味がしなかった。
帰り道、一人の老人が声をかけた。
「あなた、今、無くし物を探していますね」
「どうして、それを」
「見たら分かります、長年の勘でね」
「それでどこに。それはどこにあるんですか」
「あなた、もう見つけています。それを見ていないだけで」
「見ていないだけ?」
「いや、見えていないだけという方が適切なのかもしれません」
私は、もう一度、布団に潜った。
そして、私は夢の中でそれを見つけた。
それから何年かして子供が生まれ、
子供が私に拾ったものを見せてくれた。
それは紛れもなく私が無くしたものだった。
(おしまい)