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地球でお䌚いしたしょう-蚘録Ⅲ

蚘録Ⅲ  èŠç‚¹â€Šâ€Šã‚µãƒ³ã®é£›è¡Œæ©Ÿã¯äž€ä¹ã€‡ã€‡å¹Žã‚’èµ·ç‚¹ãšã—ãŠã€ãã“ã‹ã‚‰éŽåŽ»ã«é¡ã‚‹ã“ãšãŒå¯èƒœã€‚
 飛行機は速床を萜ずさない。たわりの景色を容赊なく切り裂いお、その跡が線になっお流れおいく。もはや音も光も超越しおいた。
 暗がりの景色をやっず突き抜けるず、そこは雲の海だった。波打぀ようなかたちの雲の矀れの䞊を、飛行機は埐々にスピヌドを萜ずしながら掚進しおいく。西方ぞ沈んでいく陜の光が、飛行機の翌を反射しお眩しく映った。
 やがお広倧な雲海の底を抜けお、その躰が露わになった。䞊空に突劂ずしお珟れた飛行機の䞭でサンは埗意になっおいた。飛行機には今や透明化ステルス機胜が備わっおいる。これが起動しおいる間は、機䜓がすっかり芋えなくなっおしたうのだ。任務を䞀぀終え、その報酬ずしおアストラむオスから貰った機胜だ。それから、新しい機胜がもう䞀぀。管制パネルの隅に取り付けられた時蚈のような機噚は、䞀九〇〇から始たっお䞀八九〇、䞀八八〇、䞀八䞃〇  ずその数字を埐々に萜ずしおいき、今は䞀八〇䞀で止たっおいる。これは操瞊士であるサンが降り立ずうずしおいる地球の圓時の西暊を衚しおいる。この機噚はアストラむオスずサンが星の土産から着想しお造ったもので、眮かれおいる堎所の西暊を枬定できる時蚈だ。その数字がどんどん遡っお、今いる時代はちょうど䞀八〇䞀幎ず教えおくれおいる。
 ぀たるずころ、サンは飛行機に乗っお過去に行くこずができた。
 これは新しくわかったこずずしお報告できる事項だ。飛行機に乗れば、地球の過去の時代をめぐるこずができる。このように、新しくわかったこずがあるだけでアストラむオスは耒めおくれおごほうびをくれる。それは嬉しいこずだが、こう任務が早く終わりすぎおしたうず䜕だか぀たらない。それより、サンは星に䌚いたかった。前回の任務を終えお垰っおきた時は、西暊枬定噚のヒントずなる「デゞタル時蚈」を含めたさたざたな土産物を眮いたきりで、たた地球ぞ行っおいるようだった。い぀もどこか寂しげな星が、地球のどこかでおもしろいものを芋぀けおいる。それは喜ばしいこずだが、サンにずっおは寂しい気持ちもあった。しかし、星が飛ばされたのは地球のい぀の時代なのか、アストラむオスは教えおくれなかった。
 だから、サンは星を探すこずにした。自分が行くこずができるのはどうやら䞀九〇〇幎より過去の地球だが、もしもそれより過去の時代ぞ星が飛ばされおいたら、もしかしたら䌚えるかもしれない。淡い期埅を抱いお、サンは機䜓をどんどん降䞋させおいく。

 壁には絵や絵画が䞊べ立おられ、倩井からはクリスタルのシャンデリアが茝く。染みや皺の䞀぀もないテヌブルクロスの䞊には、艶のあるカップず゜ヌサヌが人数分。誰かが机を勢いよく叩くず、コヌヒヌがカップの䞭で揺れおせっかくのクロスに小さな染みを぀くっおしたう。それには誰も気づかないくらい、議論が癜熱しおいる。優雅で、昔ながらの排萜たコヌヒヌハりスはい぀もの賑わいを芋せおいた。
 そこぞ、ず぀ぜん。巚倧な機䜓が突っ蟌んでくる――
 しかし、誰も動じなかった。それもそのはずだ。景色も、そこにあるもの党おをすり抜けおいく透明の飛行機は、誰にも芋えなくお気付かれない。サンは䜎空飛行で、絵に描いたように鮮やかな街䞊みを呚遊する。石造りの壁、煉瓊の屋根、石畳の䞊を䞊んで歩く人々の衚情、芋えない颚に吹かれる䞊朚の合間を瞫っお、飛行機は速床を萜ずさずに操瞊士の意のたたに進んだ。サンだっお、本圓はコヌヒヌハりスで玅茶でも飲みながら、癜熱する議論に耳を傟けおみたかった。しかし、任務倖の行動をしおいるこずがアストラむオスにばれおはたずい。ずにかく今は、急いで星を探さなければ。
 そうしお街を䞀通り呚るず、サンは䜕かに導かれるようにしお䞀盎線に進んでいく。その延長線䞊には城があった。䞀昔前の圫刻を思わせる、華やかな癜壁の城だ。背は䜎いがいく぀もの棟があり、たたいく぀もの窓がきちんず敎列しおいる。屋根は深い青で、空の色ずはくっきりず境界線を匕いお映えおいた。
 あたりに䜎空で飛びすぎお、城前の湖䞊を車茪が滑った。小さい氎鳥が驚いおどこかぞ飛んでいく。湖を超えお城壁に觊れられるくらい近づくず、サンは矎術通で絵を眺めながら歩くくらいの速さたで萜ずしお、窓の䞭の䞀぀䞀぀を芳察した。こうしお芋おいくず、本圓に窓の䞭のものは矎術品みたいだ。華やかなレヌスの倩蓋぀きのベッド、ガラス窓の扉が぀いた本棚、光が反射するくらいに重石を磚いお、そのたた倧きくしたような曞斎机、䞍芏則な文様の曞かれた延々ず長い食卓に芏則正しく収たる、装食が凝らされた怅子。絵本や写真の本でしか芋たこずがないものばかりで、サンは心奪われおいた。䜕かに呌ばれたような気がしおこの城たで来たのだが――その目的でさえもしばし忘れおしたったようだ。
 幟床目かの感嘆を挏らしたその先で、北向きの棟にさしかかったずき、サンは慌おお飛行機が窓の向こうから芋えないように機銖を匕っ蟌めた。窓の向こうに倧きな板のようなものがあり、その目の前で圱がうごめいおいる。――宀内に人がいる。ステルスがあるのに、぀いい぀もの癖で身を隠しながらも、サンは興味接々に芗いた。窓は少しだけ開かれおおり、その隙間、颚に揺らぐカヌテンの隙間を瞫っお芋えたものに、サンは息をのんだ。
 氎色の隙間がただらな曇倩の背景に、倧陜が朱く燃えおいる。――いや、よく目を凝らしお芋るず、それは倧陜ではなかった。それはマントだった。颚を受けたマントを翻しお、金の装食の垜子をかぶった男ず目が合っお、サンは䞀瞬ひやりずしたが、それでも匕き付けられたように目が離せない。男は右の手で倩を高らかに指差し、もう片方で玔癜の銬の手綱を握る。銬は鞍䞊の䞻人に応えるように、鬣ず同じ小麊色の立掟な蹄を䞊げる。今にも動き出しお、険しい道でも軜々ず越えおゆきそうだ。
 サンは半分だけ我に返っお、今床は階手の前に立ち尜くしおいる人圱に芖線を移した。こちらから芋える背䞭は、サンず同じくらい階手に心奪われおいるこずを物語っおいるようで、ぎくりずも動かない。サンが念を送るようにじいっずみおいるず、やがおゆるくカヌルした茶髪が吹き蟌んできた颚に揺られ、䜕か现いものを握りしめる拳がわずかに震えおいるのがわかった。サンはふず、瞮こたる背䞭に盞棒の圱を芋たような気がした。この構図はたるで――たるで、そう、アストラむオスを前にした星くんみたいだった。
 「  あ、」
 そうしおやっず、サンは自分の目的を思い出した。もし星が先に垰っおいたら、アストラむオスず二人きりだ。サンは二人の間に流れる異様な空気感を思い出しお、いおもたっおもいられなくなっおきた。そうだ、もしかしたら星はもう任務を終わらせおいるかもしれない。そうではなくおも、自分が先に垰っお埅っおいるのが䞀番いい。サンが時蚈の操䜜盀に手をかけた、そのずきだった。
「おい、誰だ。先刻から䜕を芋おいる」
 芯の通った声に揺さぶられお、危うく飛行機から萜っこちるずころだった。慌おお時蚈のメモリを未来に合わせ――られない。時蚈の数字は䞀八〇〇、䞀䞃九九ず遡るばかりだ。サンの党身から冷や汗が噎き出した。
「奇劙な鳥に乗っおいるな。其れは貎様の䜿い魔か」
 しかも、盞手は飛行機の姿たでも捉えおいる。ステルスを確認しおも、ただ起動䞭のたただ。どれだけ焊っおも、狭い機内の䞭では身動きが取れないサンに察しお、盞手は傍らの小テヌブルに手をかけおゆっくり振り向いた。
 サンず盞手ず、ばっちり目が合った。髪ず同じ栗色の瞳は、声ず同じくらいの意志の匷さで芋開かれおいる。真䞞の瞳孔の間に刻たれた鋭い皺も含めお、厳しい印象を䞎えられた。機嫌を損ねた時はアストラむオスよりも恐ろしそうだ、ずサンは思った。目を逞らすのはば぀が悪くなっお、しばらく睚み合いが続く。もっずも、偎から芋おも猫ず錠の睚み合いだったが。
「あの  えっず、絵、玠敵ですね」
 やはり、サンの方が先に負けおしたった。目を泳がせながらなんずか絞り出した声で絵の話題を振る。しかし、蚀った埌でサンは埌悔した。盞手の眉間の皺が䞀段ず深くなり、぀いずそっぜを向かれおしたった。サンは心の内で、もっず蚀葉を絞り出すべきだず自分を責めた。絵を玠敵だず思ったこずは本圓なのだ。蚀葉では蚀い衚すこずができないくらいに。だから、圌も――おそらく絵を描いた本人であろう圌のこずもよく知っおから、最高の賛蟞を莈るべきだったのに。ああ、画家の男は絵の䞀面を癜い垃で芆っおしたった。倧陜のマントも、癜金の銬も、䞻圹の男も党郚、芋えなくなっおしたった。いっそこのたた退散しおしたおうか。䜓勢を敎えお再び゚ンゞンに手をかけた時、たたしおも埅お、ずいう䜎い声に止められる。声音に蟌められた怖気が少しだけ和らいだような気がしお、サンは玠盎に埓った。窓の隙間から入り蟌む颚ず䞀緒に、窓枠に手をかけお身を任せるように宀内を芗いた。
「ただ芋るな。未完なのでな」
「あっ、ただ芋おほしくなかったから怒っおたのですか」
「私は怒っおなどいないが」
「僕、呌ばれたような気がしお。その絵のひずだったのかな」
「この方が貎様のような者などお呌びになるはずがない」
「そうかな」
「ああ。貎様、たさかこの方を存ぜぬのではあるたいな。この癟虹菖囜むリスリリヌの時の王にしお、氞遠の王であるぞ」
「癟虹菖囜むリスリリヌの王さた――あっ、わかった本で読んだこずがある。ナポレオンだね」
「様を぀けんか、愚か者」
 せっかく䌚話が匟み出したのに、パレットナむフが飛んできた。さっず身をかがめお金属がぶ぀かり合うような鋭い音を聞いた。䞡腕で守った頭を恐る恐る䞊げるず、目の前にあるがっしりした手が差し出されおいた。手の䞻を䞊目遣いで芋るずそこにあったのは絵描きの顔、しかし䞞い䞡目の間の皺は幟分か和らいでいる。サンは手を受け取るず、螏ん切りを぀けお宀内に飛び蟌んだ。床に足を぀けた瞬間、操瞊士のいなくなった飛行機は、景色を通り抜ける翌を翻しお遠くに消えおいった。
「甚だ珍劙な鳥だ」
「君の絵。玠晎らしいず思ったんだ。本圓に」
 こうしお同じ堎に盞芋えた二人の第䞀声はほが同時だった。絵描きはサンの空色の瞳にたっすぐ芋぀められお、少しだけきたり悪そうに偎の絵筆を取った。それから、宀内に靎音を響かせ぀぀ゆっくり歩く。サンはたっすぐの芖線をそのたたに远いかける。
 絵描きが停止したのは、やはり癜い垃の前だ。背を向けお、改めおサンず察峙するその立ち姿は、絵を守っおいるように芋えた。それでも――サンは぀いに、静かに目を䌏せる。癜い垃に隠されお芋えなくずも、頭の䞭で描くように思いを銳せる。それで十分だ。
「マントはね、倧陜みたいだった。銬は癜ず金のドレスで、たるでナポレオン  様ずお姫様が螊っおるみたいに芋えた。螊りながら、険しい山でも軜やかに登っおいっおしたうんだ。右の人差し指も玠敵。䞀振りで、曇り空も晎れにしおしたうような――」
「――魔術垫゜シ゚のお耒めに預かるずは。光栄だな」
 ここでサンの目がようやく芋開かれた地球䞊で出䌚った最初の同胞を前に、二぀の䞞い空色は煌めきだした。
「やっぱり、君も魔術垫なんだねだから僕も飛行機も芋えたんでしょう」
「いや、私は魔術垫゜シ゚ではない」
「えっ。じゃあ、怪異」
「いいや。怪異ミステでもない。䌚意アカヌドだ」
 䌚意。サンの地球語録に、新しい単語が刻たれた。
 怪異ず魔術垫の存圚は知っおいたが、䌚意ずいうものはアストラむオスからも聞いおいなかった。銖を傟げるサンの様子を錻で笑った絵描きは、絵筆を眮いお怅子にどっしりず腰掛けた。
「魔術垫ず怪異の間。私のようなのを、䌚意アカヌドずいう。魔術垫のように、本も呜題も持たない。かずいっお、怪異のように意思の無い化物じみたものでもない。そういう者もいるのだ」
 もっず教えお、ず身を乗り出したサンに、絵描きは向かい偎の垭を促す。
「魔術垫のように呜題を持たない――生の指針がない。よっお、生の意味を自ら芋぀け、䌚わなければならない。䌚意には、どうやらそういった共通の習性があるらしい。生の意味を芋぀けお、名を残しおいく」
 呜題。こちらの䞖界で任務をこなすために、サンは魔術垫ずしお生たれた。だから圓然、本も呜題も生たれ぀き䞎えられおいる。しかし、いざこちらの䞖界に来おみるず、呜題を持たない怪異――䌚意がいるずいうわけなのか。
 䌚意なんお教えられおいないから、知らなかった。自分の人生の目暙――呜題が予め決められおいない、だから自分で䜜り出せる存圚。なんお自由で――うらやたしい。サンは心の䞭で唇を噛み締めた。
 そんなサンの矚望を知っおか知らずか、絵描きは立ち䞊がるず絵の偎に寄った。そうしおもったいぶるように、癜い垃を指を絡めるように撫で぀けた。
「私は䌚意だが、生たれ぀いおの絵描きでもある。だが革呜家でもあった。革呜を扇動する絵も描いおきた。そうしお革呜が成った暁に――ナポレオン様のお姿を芋た」
 今床は絵描きが真っ盎ぐ、癜い垃の方を芋据えた。その目はしっかりず芋匵られおいる。垃を焌き焊がし、その向こうに描かれた察象を顕にせんずするような芖線だ。瞬きの少なさが、厇拝、敬意、憧憬――それらさえも超えた県差しを物語っおいる。
「貎様が私の絵を芋お称賛したようなこず――いや、それ以䞊のこずを、私も心内に抱いたのだ。ああ、私はこの方にお䌚いするために生たれおきた。この方の嚁光を絵描き、遺しおいくために生たれおきたのだず」
 サンは息をのむほかなかった。この絵描きは自らの意志で、䞀生を捧げる意味に――王さたに出䌚うこずができたのだ。それに比べお、僕は、僕らは。自分の本の名前も、呜題のこずでさえもよくわかっおいない。それらは任務をこなす䞊での支障になるからず、アストラむオスに没・収・さ・れ・お・い・る・。い぀だっお、父の蚀いなりのたたにしか動いおこなかった。でも、僕は飛行機を呌び出すこずができた。星くんに䌚いたかったから。匷く望み、自分の力で手にするこずができるのなら。僕らだっお、自由に生きるこずができるのではないか――
「僕、本が読みたくなっちゃった。自分の本。家に忘れおきおしたった」
「それなら、早く戻るがいい。本は魔術垫の呜に倉わるものだず聞く。党く、仕䞊げも進たなかったではないか」
 氎入れを替えおいた絵描きの口調は、段々ず厳しく戻っおいった。サンはゆっくり立ち䞊がるず、この宀に入っおきた窓に身を寄せた。カヌテンが党お開かれるず、遥か向こうの氎平線が茝き、その橙色の光に蟺りの景色が包たれおいた。凪いだ颚景を芋぀めたサンの空色の瞳が同じ色を映しお萜ち着いおいる。沈黙に耐えられなくなったのか、絵描きがたた口を開いた。
「䌚意のこずはおろか、ナポレオン様のお姿も。自分の呜題も存じぬずは。貎様、どこぞの囜の屋敷育ちか」
「僕は  未来から来た」
 絵描きは錻で笑いこそしたが、銬鹿にしたわけでも、同胞の蚀葉を信じられなかったわけでもなかった。それは感心の意を蟌めた笑いだった。
「ナポレオン様の埡名は知っおいるずいうこずは、やはり氞遠の王であらせられるのだな」
 䞀瞬間、匷い颚が吹き蟌んだ。音を立おお巻き䞊がったカヌテンを越えお、癜い垃がずり萜ちそうになる。絵描きは慌おお垃の端を぀たんで抌しずどめる。テヌブルの䞊から筆や絵の具が転がっおいく。癜い垃の隙間に橙色が差し蟌んで、倧陜の朱も、癜金の銬の鬣も、ナポレオン王の県光も党お反射しお圱垜子を぀くった。窓の偎、空色の瞳はい぀になく消え去り、鳥の矜ばたきのような蜟音がただ青みの残る南倩ぞず吞い蟌たれおいった。

いいなず思ったら応揎しよう