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「過飽和社会2 燃やされた御殿」(6)これは現代におけるピカレスクロマンであり、ハードボイルド小説である。

    飯島和男

    第6話 透明な街

    封筒を投函してから、三日が過ぎた。
    ニュースには、何の変化もなかった。
    ローカルも全国も、どこも報じない。
    「映像」の話など一切なかった。

    俺は、それでもネットを監視していた。
    “ブルーシート”“火事”“河川敷”――
    あらゆるワードで検索した。だが、ひとつもヒットしない。

    封筒は、たぶん届いた。
    だが、届いた先で“処理”された。

    「不審火として処理」
    「詳細不明の映像は参考にならず」
    あるいは、「未成年が関わっていたとしても、公表できない」と判断されたか。

    どれでも構わない。
    この街が、「静かに忘れようとしている」のは、よくわかった。

    ◆

    夕方、あの場所へ行った。
    御殿の跡地。
    草がなぎ倒され、灰色の地面がむき出しになっている。

    焼けた草の匂いは、もう消えていた。
    代わりに、コンクリートに似た無臭だけが残っていた。

    俺はそこで立ち止まり、ポケットからメモ帳を出した。
    小さな罫線に、今までの観察記録を箇条書きしていた。
    時間、行動、言葉、服装、顔色――

    それはまるで、捨てられた日常の“拾得リスト”だった。

    だが、これらの記録は俺一人が抱えていても、意味がない。
    記録は「閉じられている限り」、何の力にもならない。
    火も、怒りも、伝わらない。

    ◆

    その夜、俺はスマホの動画ファイルを再構成しはじめた。

    再生順を入れ替え、明るい昼間の笑顔の写真のあとに、炎の映像を配置した。
    制服。笑い声。
    その次に、御殿が焼かれる夜。

    ありがとう。
    言葉は生き残っていた。

    ◆

    この映像を投稿する。
    ただし、「俺が投稿したようには見せない」ようにする。

    投稿主は、あくまで“スマホ”。
    つまり、炎の中で失われたと思われたスマホが、
    ある日突然ネット上に“自爆的に”動画をアップロードした、という形にする。

    方法はある。
    アカウントの過去投稿を削除し、プロフを空にしておく。
    映像の冒頭に、こう書く。

    「この映像は自動投稿されました。
    スマホを拾った人が、見たことを残したかっただけです。」

    “俺”の存在を消す。
    証人でもなく、正義の味方でもなく、ただの媒体。

    記録そのものが語るように仕向ける。

    ◆

    この街に、正義はなかった。
    だが、俺はそれを責めない。
    無関心もまた、生き方のひとつだ。

    だけど。

    この動画を見て、たった一人でも
    「何かがおかしい」と思う奴が現れたら、
    それだけで――

    この炎は、燃えたことになる。

    ➡第7話 炎上装置


     
     
     
    作家・元編集者、76歳。1970年創刊の季刊「NW-SF」創刊メンバー。noteでは6か月で300作品以上。SF・思念SF・不条理・奇妙な味系など、長短取り混ぜて執筆中。主な著作:「売れるコンテンツとは何か」