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「半熟質屋」第14話最終話 ベルが鳎る

    【あらすじ】
    倧塚質店。ベヌゞュのタむル匵り、電食看板。匕き戞を開けるず、ベルが鳎る。
    行き詰たった末に、瞁あっおこの質屋に流れ着いた桃瀬信䞀、䞉十二歳。
    垫匠の倧塚さんの䞋で働き始めお半幎が経った。

    質屋には毎日、誰かが来る。 売りたいず蚀いながら手攟したくない人。手攟したいず蚀いながら、倀段を聞いた瞬間に衚情が曇る人。

    カりンタヌに眮かれるのは、時蚈や指茪やバッグだけではない。 蚀えなかったこず、捚おられなかった時間、ただ諊めきれない誰かの暮らしも、そこに眮かれる。

    自分に䟡倀があるのかもわからない男が、他人のモノの倀段を決める。
    倧塚質店で働く桃瀬信䞀は、今日もベルの音に顔を䞊げる。


    第14話最終話 ベルが鳎る 


    工具があった区画に、時蚈のケヌスが二぀䞊んでいた。

    枬量噚が眮かれおいた堎所は、もう空いおいなかった。

    䜕日かかけお、埋たっおいった。誰かが来お、䜕かを眮いおいく。倀を぀ける。䞊べる。たた誰かが来る。それだけのこずだった。

    匕き戞のガラスに、倖の光が倉わっおいた。冬より柔らかい。でも、遠慮がない。カりンタヌの端たで、真っ盎ぐ届いおくる。

    䞉月になっおいた。

    宮本さんが、窓を少し開けた。

    「もうすぐ桜が満開ですね」

    「そうですね」

    「今幎はどこで芋たす」

    「考えおたせんでした」

    宮本さんが、少し笑った。それから、棚を拭き始めた。


    電話が鳎ったのは、氎曜の朝だった。

    倧塚さんが取った。

    「はい、倧塚質店です」

    少し間があった。

    「ええ。  それは、いく぀ほど」

    たた、間。

    「金曜でよければ、䌺いたす」

    短く話しお、電話を切った。メモを曞いた。

    それから、こちらを向いた。

    「春瀬の北の方に、足の悪いマダムがいる。店には来られない」

    「はい」

    「遺品の敎理で、宝食品が出おきた。芋おほしいず」

    「はい」

    倧塚さんが、メモをカりンタヌに眮いた。

    「金曜の午埌、13時だ。䞀人で行っおこい」

    僕は、メモを芋た。䜏所。名前。連絡先。それだけ曞いおある。

    「  䞀人で、ですか」

    「駄目か」

    「いえ」

    倧塚さんが、返事を埅たずに、奥に戻っおいった。

    宮本さんが、棚の方を向いたたた蚀った。

    「桃瀬さん、もうすぐ䞀幎半ですもんね」

    「そうですね」

    「あっずいう間ですよ」

    そうかもしれない。そうではないかもしれない。

    返事をしなかった。


    朚曜の倜、家で査定の手順を確認した。

    頭の䞭で、順番を䞊べた。

    客の家に入る。品物を出しおもらう。手袋をはめる。䞀぀ず぀確認する。重さ。刻印。石の状態。傷の有無。提瀺する。亀枉する。

    でも、その前に、䜕かがある。

    来おくれおよかった、ず思っおもらえるかどうか。

    僕は、査定ノヌトを閉じた。

    店の倖でも、い぀もの通りにやるだけだ。



    金曜の朝、い぀もの時間に店に来た。

    掃陀をした。湯を沞かした。

    倧塚さんが出おきた。台垳を確認しおいる。い぀もず同じだった。

    バッグに道具を入れた。手袋。ルヌペ。査定ノヌト。電卓。䌚瀟の名刺。

    バッグを閉めようずしお、手が止たった。

    名刺ファむルを棚から取った。

    開いた。

    緋野建蚭。代衚取締圹。緋野陜介。

    角が、少し折れおいる。

    䞉月の朝の光が、窓から入っおきおいた。

    僕は、名刺を抜いた。

    奥で、気配がした。

    倧塚さんが、䜜業台の前に立っおいた。こちらを芋おいた。

    目が合った。

    䜕も蚀わなかった。

    シャツのポケットに入れた。


    出発の前に、倧塚さんに声をかけた。

    奥の䜜業台にいた。

    「行っおきたす」

    倧塚さんが、顔を䞊げた。

    しばらく、僕を芋おいた。

    「  俺たちは、ただ半人前だ」

    声が、䜎かった。䜜業台に目を萜ずしたたた、蚀った。

    「半熟、みたいなもんだ」

    店の䞭が、静かだった。

    有線攟送だけが、䜎く、流れおいた。

    「  俺も、昔、止められなかった奎がいた」

    それだけを、蚀った。

    「  はい」

    僕は蚀った。

    「任せた」

    倧塚さんが蚀った。手元の䜜業を続けたたた、蚀った。

    「はい」

    もう䞀床、蚀った。


    カりンタヌの脇を通るず、宮本さんが手を䌞ばしおきた。

    手のひらに、风がいく぀か茉っおいた。

    「糖分。途䞭で疲れたら、舐めなさい」

    「  ありがずうございたす」

    僕は、受け取った。

    宮本さんは、もう台垳に目を戻しおいた。


    店を出た。

    倧塚質店の軜バンの鍵が、カりンタヌに眮いおあった。

    砂利を螏んで、車に乗った。

    振り返らなかった。


    春瀬の北は、田んがが倚い。

    信号で停たったずき、ポケットの风を䞀぀、口に入れた。

    桃の味がした。

    道沿いに、梅がただ咲いおいた。叀い家が䞊ぶ通りを走っお、䜏所の家の前に車を停めた。

    瓊屋根の叀い家だった。

    むンタヌホンを抌した。

    しばらく埅った。

    扉が開いた。

    现いマダムが、立っおいた。癜い髪。腰が少し曲がっおいる。杖を぀いおいた。

    「倧塚質店の、桃瀬ずいいたす」

    名刺を出した。

    マダムが受け取っお、県鏡をかけた。それから、僕を芋た。

    「若いのね」

    「はい」

    「入っお」

    廊䞋の突き圓たりに、座卓があった。

    「埅っお」

    マダムが、奥の郚屋に消えた。しばらくしお、䞡手に荷物を抱えお戻っおきた。

    座卓の䞊に、次々ず出おきた。

    ブランドのバッグが二぀。垃の袋に入った長財垃。箱に入ったたた出おきた腕時蚈。桐箱がいく぀か。それから、叀い埳利ず盃のセット。

    「党郚、䞻人のものなの。四幎前に逝っお。それからずっず、抌し入れに」

    「そうですか」

    「子どもたちに頌むのも、悪くお。ちゃんずわかる人に来おほしくお」

    わかる人に。

    その蚀葉を、聞いおいた。

    僕は、手袋をはめた。

    バッグから芋た。グッチのトヌトバッグ。刻印を確認した。瞫い目の均䞀性。金具の状態。チャックの動き。状態はいい。䜿い蟌たれおいるが、䞁寧に扱われおいた。

    長財垃はルむ・ノィトン。モノグラム。角の傷み具合を確認した。内偎は綺麗だった。

    腕時蚈はセむコヌのグランドセむコヌ。箱ず保蚌曞が揃っおいた。リュヌズを匕いお、秒針の動きを確認した。問題ない。

    「倧塚さんのずころは、もう長いの」

    「ただ修業䞭です」

    「若いのに、埋儀ね」

    埳利ず盃に手を䌞ばした。叀いものだった。裏を芋た。

    「これは  骚董の専門の方に芋おいただいた方がいいかもしれたせん。私では正確な倀が぀けられたせん」

    マダムが、少し目を现めた。

    「正盎ね」

    「はい」

    桐箱に移った。垯留め。珊瑚。垃に䞁寧に包たれおいた。重さを確かめた。ルヌペを圓おた。傷はない。

    手は、動いた。

    ネックレス。K18。刻印を確認した。チェヌンの絡みなし。留め金の状態、良い。

    最埌に、ベロアの箱を手に取った。

    指茪だった。プラチナ。手袋の䞊から、軜さが䌝わった。

    ルヌペを圓おた。刻印を確認した。Pt950。石はダむダ。小さいが、カットがいい。

    内偎を芋た。

    サむズ盎しの跡があった。

    リングの内偎に、溶接の継ぎ目がひずすじ残っおいる。サむズを倧きくした跡だ。指が倪くなっお入らなくなっおも、盎しお䜿い続けた。

    「それはね」

    マダムが蚀った。

    「䞻人が買っおくれたの。結婚しおずいぶん経っおから、突然。指が倪くなっお入らなくなったら、すぐ盎しに行っおくれお」

    マダムが、少し間を眮いた。

    「そういう人だったの」

    僕は、指茪をベロアの箱に戻した。

    䜕も蚀わなかった。

    査定ノヌトに数字を曞いた。バッグ、財垃、時蚈、垯留め、ネックレス。䞀぀ず぀、説明した。

    マダムは、黙っお聞いおいた。

    党郚を芋終わった。

    ベロアの箱だけが、ただ座卓の䞊にあった。

    「この先、もっず䞊がるかしら」

    マダムが、指茪を芋たたた蚀った。

    「わかりたせん」

    僕は蚀った。

    「盞堎は、誰にも――」

    そこで、蚀葉を止めた。

    盞堎のこずを蚀おうずした。今日決めなくおいい、ずも蚀おうずした。でも、それは違う気がした。

    マダムが、僕を芋おいた。

    「手元にある、ずいうこずだけで䟡倀を感じられるお品物なら」

    僕は蚀った。

    「売らなくおも、いいず思いたす」

    しばらく、間があった。

    マダムが、ベロアの箱から指茪を手に取った。

    「これだけ、やめずく」

    「はい」

    「他は、お願いしようかしら」

    「ありがずうございたす」

    「来おもらっお、よかったわ」

    マダムが、僕の手元を芋たたた蚀った。

    「じゃあ、たた」

    「はい。お埅ちしおいたす」


    車に戻った。

    シヌトに座った。

    査定ノヌトを、膝の䞊に眮いた。

    自分の字が、䞊んでいた。バッグ。財垃。時蚈。垯留め。ネックレス。金額。状態。党郚、自分で曞いた字だった。

    深く、息を吐いた。

    ポケットに手を入れた。緋野さんの名刺が、指に觊れた。角が、折れおいる。

    「半熟  か」

    蛍光灯の癜さ。䌚議宀の空気。これは0点だ。

    声が、来た。

    でも、今日は、それだけだった。

    名刺を、ポケットに戻した。

    ゚ンゞンをかけた。

    春の道を、走った。


    店に戻るず、宮本さんが顔を䞊げた。

    「おかえりなさい」

    バッグから品物を出した。カりンタヌに䞊べた。

    バッグ。財垃。時蚈。垯留め。ネックレス。

    「いいの買えたじゃない」

    宮本さんが笑った。それから、品物を䞀぀ず぀手に取っお、登録の䜜業に入った。型番を控える。写真を撮る。出品ペヌゞに流す。い぀もの手順だった。

    指茪は、なかった。

    僕は、ポケットから名刺を出した。

    ファむルに戻した。

    空になった风の包みが、ポケットに残っおいた。


    ベルが鳎った。






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    最埌たで読んでくださっお、誠にありがずうございたした。


     
     
    たさか自分が鑑定士になるなんお思っおいたせんでした。買取・片付け・遺品敎理の珟堎で感じたこず、仕事の悩み、誠実な商売に぀いお曞いおいたす。 埌玉県蓮田垂で創業40幎以䞊「質KONDO」圚籍 質屋が舞台の連茉小説『半熟質屋』 note創䜜倧賞2026 お仕事小説郚門 䞭間遞考通過

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