
片付ける時間がない|お片付けの神様?#3
土曜日の朝、 体が痛くて目が覚めた。
どうやら寝落ちして、床の上で寝てしまったらしい。
「いま、何時だろう?」
スマホに手を伸ばし、画面を見ると、時刻は9時38分だった。
また今週末も、こんな時間に起きてしまった。まあ、11時まで寝ている日もあるくらいだから、私にしてはまだマシな方である。
私はゆっくりと起き上がり、気づいた。
おばあちゃんとシロがいない。
私が「片付ける!」って宣言したから、安心して未来に帰ったのだろうか。 それとも、やっぱり夢でもみていたのかな。
”ゴミ屋敷で孤独死”なんて、きっとテレビの見過ぎかもしれない。
「お腹すいたなー」
冷蔵庫を開けると卵しかなかった。 焼くのも面倒くさい。私はイスの背もたれに掛けてあったジーンズとシャツに着替え、家を出た。
近所のコンビニでサンドイッチとコーヒー、そしていつも楽しみにしているコンビニスイーツを買う。 このスイーツを選ぶ時間が楽しいのだ。私はしばらく悩んで新商品のプリンを手に取った。
家に戻り、いつものようにテレビをつけると、たまたま映っていたのは『片付けグッズ特集』だった。
「お!ナイスタイミング!」
左手でサンドイッチを頬張りながら、右手ではスマホをチェック。 番組が終わり、時刻はいつの間にか13時を過ぎていた。
「そうだ、洗濯しなくちゃ。」
平日は帰宅が遅いので、洗濯は週末の日課である。
洗濯機を回し始めた時、洗面台の電動歯ブラシが視界に入った。
充電ができなくなって、もう3ヶ月も経つ。
私は、これも片付けのひとつだと思い、捨てることにした。
でも、電動歯ブラシって何ゴミなんだろう?
スマホで検索を始めたが、正解が見つからない。
ネットの質問箱には、「燃やせないごみ」「自治体による」「販売店に相談」など様々。
住んでいる自治体のごみ分別一覧を見たが、電動歯ブラシは記載されていなかった。小型家電回収ボックスというものがあるらしいが、バッテリー内蔵型は不可らしい。
洗濯物を干し終えた私は、駅前の家電量販店へ向かった。
1軒目では回収に500円かかると言われ、「もっと安い店があるはず」と意地になって2軒目へ。そこでは200円で済むと分かったが、肝心の電動歯ブラシを家に忘れてきたことに気づく。
「……また、今度にしよう」
結局、何も捨てられないまま、私はトボトボと歩き、家の近くのドラッグストアで、カップ麺だけ買って帰宅した。
遅めのお昼にしようとお湯を沸かしていると、スマホが鳴った。実家の母からである。
テレビの映りが悪いとか、近所の掃除の話とか、延々と世間話に付き合わされた。
電話を切ると、窓の外には夕日が沈んでいく光景が見えた。
そして、カップ麺を食べるために沸かしたお湯は、白湯になっていた。
私はいつ、片付けが始められるんだろう。
いつ片付けが終わるんだろう。
こういう毎日の積み重ねが、私の部屋をゴミ屋敷にしていくんだな、きっと。
片付けられない自分が情けなくて、涙がこぼれてきた。
と、その時、玄関の扉を開ける音と共に、「ただいまー」と元気な声が聞こえた。
シロだ。 おばあちゃんもいる。
何ひとつ片付いていない部屋を見て、二人は顔を見合わせて言った。
「やっぱり」
ふたりは、こうなることがわかっていたようだ。
「だって……洗濯したり、電動歯ブラシの捨て方調べたり、親から電話がかかってきたり——」
「『時間がない』じゃろ?」
私の言い訳を遮って、おばあちゃんが悲しそうな顔で言った。
「時間がない、忙しい、そうやって言い訳して、片付けをずーーーっと後回しにしてきたんじゃ」
「わかってるよ! わかってるけど、ないものはないんだもん!」
たまらず言い返した私に、今度はシロが静かに問いかけた。
「本当にないのかニャ?テレビを見ながらスマホをいじっている時間、本当に必要だったのかニャ」
「えっ!? なんで知ってるの!?ずっと家にいなかったのに」
私が驚いて聞き返すと、シロは平然と答えた。
「モニターしてたんだニャ」
そう言うとシロは、首につけた黒い蝶ネクタイ型プロジェクターから空中にスクリーンを投影した。 そこには、私の今日の行動が円グラフで表されていた。
「なにこれ!」
「テレビやスマホに3時間、電動歯ブラシには移動と調べ物で合計4時間も使っておるのう。しかもその歯ブラシも結局処分に至っとらん」
横からおばあちゃんが呆れたように言った。さらにシロが続ける。
「片付けって、調べたり、捨てに行ったり、たくさん時間が必要なんだニャ」
シロは、プロジェクターで別の資料を見せてくれた。
<片付けに必要な時間>
・片付け本を読む時間
・捨てるか捨てないか悩む時間
・捨てに行く時間
・捨て方を調べる時間
・フリマアプリで人に譲るなら、アプリを使う時間
etc……
「だからこそ、何かをやめて時間を作るしかないんだニャ」
「でも……どうすればいいの?」
「例えば、テレビを観るのをやめたり、スマホを見るのをやめたりとか。どうかニャ?」
「でも、推しが出てる番組は観たいし、推しのつぶやきには”いいね”したいの!」
「じゃあ、推しの出ていない番組は?」
「それは……観なくてもいいかも」
「じゃあ、テレビを観る時間を1時間減らして、その分を片付けに回すのはどうかニャ?」
「それなら……できるかも。」
シロからのアドバイスで、私はリモコンから電池を抜き、引き出しにしまった。 さらに、テレビのコンセントを抜き、推しの出ている番組の時だけコンセントを挿すという約束をした。
そして私は、ふせんに3つのことを書いて壁に貼った。

いつもなら、やっぱり私は片付けられないダメ女だと諦めて、コンビニ弁当と安い発泡酒を片手に夜中の1時までテレビとスマホに逃げていた。 でも今夜は違う気がした。
「腹が減ったろ」
おばあちゃんの手には、食材の入った買い物袋があった。
「今夜はすき焼きにするぞ。好物じゃろ」
3人ですき焼きを囲んだ。
(と言っても、シロは割り下の味がついていない肉だけど)
誰かと一緒に家でご飯を食べるなんて、何年ぶりだろう。
肉を頬張り幸せな気分でいっぱいだった私だけど、 このすき焼きの具材を買うためのお金が、私のへそくりだったことを知るのは、もう少し後の話である。