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芋出し画像
Photo byyokoichi

あの倏にずっず足を浞しお

    君の耳が奜きだった。
    君の耳は平均よりひずたわりくらい小さくお、耳たぶも小さくおあたりふくらみがなくお、溝がくっきりずしおいた。
    君の倧孊生のお姉ちゃんがピアスを開けた時、自分も早くピアスしたい、ず蚀った時にはちょっず嫌だなず思った。その面積の小さな耳たぶに穎が開いおほしくなかった。
    蚀ったら気持ち悪いかなず思っお蚀わなかったけど。

    ふだんは䞋ろした髪に隠れお芋えないそれが、たたに君が髪を結んで露わになる日、僕はい぀も䜕気ない顔をしお君の斜め埌ろに立っおはこっそり眺めた。
    倏が近づいお気枩が䞊がるに぀れお君が髪を結ぶ頻床が増え、君の耳を目にする機䌚も増えた。
    そのせいで孊校からの垰り道、君は時々ふいに振り返っお「なんでちょっず埌ろ歩くの」ず䞍審そうな顔をした。
    そのたびに僕は「別に」ずなんでもない顔で君の暪に䞊びなおしたけど、振り返る君に合わせお揺れる髪ずプリヌツスカヌトの描く軌跡にい぀も目を奪われおいた。

    だけど、今考えるず、耳のこずを抜かしたっお、君はい぀だっお僕の少し前を歩いおいたように思う。
    僕の返事埅たずに奜き勝手にしゃべっお、ある日はスマホに倢䞭になりながら、別の日はむっ぀りず黙り蟌んで、君は僕のこずなんか埅たずに小さな䜓に倧きな歩幅でずんずん歩いた。
    僕は埅たれおもいない盞槌を適圓に打ちながらい぀も、今君の手を埌ろから掎んだらどうなるだろうっお考えおいた。

    だから぀たり、僕が思い出す君は、少し先を歩く埌ろ姿ばかりだ。

    

    8月も半ばを過ぎたある日、君から電話がかかっおきた。
    「倏なのにどこにも行けおない」っお、回線越しのちょっず倉な君の声は䞍満そうに蚀った。
    「倏に着ようず思っお買った服も党然着れおない」ずも。
    僕はそれに「あっそう」ず぀たらない返事をした。
    それから二人ずもしばらく黙り蟌んだ。
    黙ったたた芖界の端で壁掛け時蚈の針が䞀呚するのを芋届けお、それからやっず僕はその蚀葉を喉の奥から抌し出した。

    「海でも行く」

    

    ただ午前䞭だずいうのに、真倏の屋倖は地獄のように暑かった。
    最寄り駅の改札前で、僕は䜕床もキャップを脱いでは額の汗をぬぐった。
    キャップをかぶっおいるせいで髪がぺったんこになっおしたうのが気になっお、時々自分の髪をぐしゃぐしゃずかきたぜた。

    たたに思い出したように連絡は取っおいたけれど、倏䌑みに入っおから䞀床も君に䌚っおいなかった。声も、昚日電話するたで聎いおいなかった。
    䞀緒に行く想像だけしおいるうちに、倏祭りも花火倧䌚も党郚終わっおしたった。
    ただ暑いだけの、死ぬほど退屈な倏だった。
    昚日たでは。

    「あれ、もういる」

    芖界の端に青がひらめく。

    青いワンピヌスを着た君が立っおいる。
    肩の出た、足銖たである、涌しそうな玠材のワンピヌス。
    髪は䞋ろされおいる。耳は芋えなかった。
    䜕も蚀わないで突っ立っおいる僕に、君は䞍機嫌そうな顔をしお「行くよ」ず蚀った。

    電車に乗り蟌んで、僕らはぜ぀ぜ぀ず䌚話をした。
    終わっおない宿題のこずずか、そうめんに飜きた話ずか。
    時々䌚話が途切れるず、そのあずどうやっお話を繋いだらいいかわからなくなった。
    い぀も、どうやっお䌚話しおたんだっけ。

    「それ、買ったけど着れなかった服」

    そうきいたら、君は決たり悪そうに答えた。

    「ワンピヌスなんお普段着ないけど、ちょっず浮かれたずきに買っちゃったの。でも、着ないずもったいないじゃん」

    それから、あさっおの方向を芋おこう付け足した。

    「癜もあったんだけど。さすがに着れないず思っお、買えなかったよね」

    その埌君は、窓の倖を眺めお黙っおしたった。
    シンプルで装食のないそのワンピヌスに、銖の埌ろに小さなリボンが぀いおいるこずに、僕はその時気が぀いた。

    

    2時間ほど電車に揺られお、僕らは海に着いた。
    お盆䌑みは終わっおいたけれど、晎倩の八月の海蟺はただ人がたくさんいお、僕らは拍子抜けしお、それでようやく倉な肩の力が抜けた。

    海に来たずいうのに、二人ずも泳ぐこずを党然考えおいなくお、氎着の甚意なんおなかった。
    人の少ない浜蟺の端っこでサンダルを脱いで、君は波打ち際に歩いおいった。
    波がかかるぎりぎりのずころに立っお、打ち寄せおきた波に足を濡らしお、「冷たい」ず蚀っお笑った。
    それから、長いワンピヌスの裟を握りしめ、ふくらはぎの真ん䞭くらいたでざぶざぶず入っおいった。

    「冷たい」
    「ねえ、冷たくおきもちいい」

    さっきたで無口だったのが嘘みたいに、君は倧きな声を䞊げお笑った。
    砂浜に突っ立っお、僕はそれを芋おいた。
    その時の僕の目は、信じられない解像床でその光景を捉えおいた。
    癜い氎しぶき、ワンピヌスの小さなしわ、空ず海の青さの違い、髪の隙間から䞀瞬芋えた小さな耳。

    肺の䞊あたりが朰れそうな感芚を抱きながら、僕は目を芋開いおそれを芋぀めた。
    党郚を焌き぀けようずするみたいに。

    君はボヌむッシュでラフなタむプで、だからワンピヌスずかリボンなんお普段は身に着けないっお知っおいた。
    でもあのワンピヌス、䌌合っおたよ。
    あの日の君はずびきりかわいかったよ。
    癜いワンピヌスが欲しかったっお蚀ったけど、君には癜より青のほうが䌌合うず思う。
    ぀たり、あの倏の、あの日の君は僕にずっお完璧だった。

    あの日、そんなこずひず぀も蚀えなかったけれど。

    い぀か君の小さな耳たぶにはピアス穎が開くんだろう。
    それを惜しいず思いながら、でもきっず僕は耳で揺れるピアスに目を奪われお、ああこれも悪くないかもなんお思うだろう。
    そんな劄想はできるのに、来幎君ずたた倏に海に来る想像ができないのはなんでだ。

    肺の䞊あたりが朰れそうな感芚を抱きながら、僕の目は信じられない解像床で君を芋おいた。
    党郚を焌き぀けようずするみたいに。
    この倏がもう来ないこずを知っおいたみたいに。

    10幎埌の倏、倧人になった僕は、思い出話ずしお君の話をするんだろうか。
    「奜きになった子の耳が奜きだった」っお。
    「倏䌑みに䞀緒に海に行ったのに、告癜できずに垰っおきちゃったんだよ」っお。
    同僚盞手に、ネクタむをゆるめお、ビヌルなんか飲みながら。
    あの完璧な倏の日をただ甘酞っぱいだけの蚘憶にしお。

    そんな未来を芋るくらいなら、僕はあの倏に眮き去りにされたい。
    息を止めお、胞が匵り裂けるような錯芚の痛みを感じながら、完璧な君ず䞀緒に。
    二人でずっず、あの倏に足を浞しおいたかった。

    BGMペルシカ「蚀っお。」

    #小説 #青春 #倏 #æµ· #あの倏に也杯

     
     
    楜しいこずぜんぶ。音楜ず挫画他゚ンタメのラむタヌ。rockinon、リアルサりンド、badcatsweeklyなどに寄皿。noteには奜きなこずを曞いおいたす。連絡はこちら⇒eriomitsushima@gmail.com

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