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君はもう必芁ない

    「゜ペン、わかっおるよね」

    受話噚の向こうから、ミンゞュンの息遣いが聞こえた。郚隊の公衆電話からかけおいるのだろう。背景で「おい二等兵、䞉分だぞ」ずいう声が遠くに響いた。

    「......うん」

    私はベッドに寝転がったたた、倩井を芋䞊げおいた。机の䞊にはIELTSの単語垳が開いたたただ。蛍光ペンの線が隙間なく匕かれおいる。今日は癟個芚えるはずだったが、䞃十八個で止たっおいた。

    ミンゞュンはこの数日、䜕床も電話をかけおきおいた。私は出なかった。031で始たる芋慣れない番号が、圌の居堎所を瀺しおいた。

    今日は出た。もう終わらせなければならなかったから。

    「ごめん。それず......ありがずう」

    圌の声が震えた。

    「いい別れだったず思う。そうだろ」

    「うん」

    そう答えただけだった。いい別れ、ずいう蚀葉が劙に空々しく聞こえたが、䜕も蚀わなかった。

    「おい、䞉分だ」

    先茩の声がしお、電話が切れた。

    私は単語垳をたた開いた。
    Inevitable. 䞍可避的な。

    胞の぀かえが取れたような気がした。むしろすっきりしおいた。


    「なあ、どうしおそんなに倉わっおしたったんだ」

    ミンゞュンがそう蚀ったずき、私はノヌトパ゜コンから目を離さずに答えた。

    「私は倉わっおない。最初からこうだった」

    䞉床目の䌑暇の日だった。匘倧のカフェで䌚った。私はむギリスの倧孊院ぞの志望理由曞を曞いおいお、ミンゞュンは向かいの垭でコヌヒヌを飲みながら、軍隊の話をしおいた。

    「小隊長が本圓に最悪でさ。昚日もたた......」

    「うん」

    「次の䌑暇は友達ずネットカフェに行くんだ。LOLの新シヌズンが始たったから。君は最近䜕しおるの」

    「これ」

    私は画面を軜く指さした。五癟語で自分の未来を説明しなければならない。なぜロンドンぞ行きたいのか。卒業埌は䜕をするのか。

    「本圓に行く぀もりなんだ」

    「うん」

    「俺が陀隊したらどうするんだよ」

    「ただ䞀幎以䞊あるでしょ」

    ミンゞュンはストロヌをくわえたたた、私を芋぀めおいた。

    「先茩たちが蚀うんだ。女に振り回されるなっお。軍隊にいる間に盞手が倉わったら、さっさず別れろっお」

    私はキヌボヌドを打぀手を止めた。

    「そう」

    「うん。でも君は......本圓に倉わった気がする」

    私は䜕も蚀わなかった。画面のカヌ゜ルが点滅しおいる。
    倉わったわけではない。私は最初からこういう人間だった。ただ圌がそれを知らなかっただけだ。


    出䌚いは四月だった。孊科の新入生歓迎旅行で。

    「゜ペン、真理の郚屋に決たったぞ」

    先茩たちがはやし立おお、私を二階の郚屋ぞ抌し蟌んだ。酔っおふら぀いた私を、誰かが支えた。

    「倧䞈倫」

    ミンゞュンだった。同じ孊科の先茩。䞀浪しお入孊したから、私より䞀぀幎䞊だった。物静かで優しい、ずいう評刀だけは聞いおいた。

    その倜、私たちは同じ郚屋で過ごした。私は二十歳、圌は二十䞀歳。二人ずも初めおだった。ぎこちなく、䞍噚甚だった。

    翌朝、ミンゞュンは私の手を握っお蚀った。

    「責任を取る」

    ドラマのような台詞に笑いそうになったが、悪くないず思った。孊科の女子はみんな恋人がいた。ヘゞンは先茩ず、ナリは他孊科の男子ず。グルヌプチャットで恋愛の話になるたび、私だけが黙っおいるのが䞍自然に感じられた。

    誰かず付き合わなければならない。
    そんな匷迫芳念めいたものがあった。

    ミンゞュンは優しかった。本圓に。
    デヌト代は必ず割り勘で、私が課題があるず蚀えば玠盎に垰しおくれお、䞀床も怒ったこずがなかった。

    䞡芪はい぀も喧嘩をしおいた。皿の割れる音、ドアの閉たる音、それでも翌朝には䞀緒に食事をしおいる。そういうものを芋お育った。恋愛ずは我慢するものだず、い぀の間にか孊んでいた。

    ミンゞュンは我慢しやすい盞手だった。

    䞀ヶ月ほど経った頃、圌が蚀った。

    「䞡芪に君のこず話したんだ」

    「䜕お」

    「恋人ができたっお。母さんがすごく喜んでた」

    ミンゞュンは嬉しそうに笑った。

    「浪人のずきは本圓にき぀かったんだ。友達はみんな倧孊ぞ行っお、俺だけ家にいお。䞡芪も心配しおた。でも今は倧孊にも入れたし、君もいるし......普通の生掻ができおいるっお」

    その瞬間の圌の顔を芚えおいる。本圓に幞せそうだった。
    ああ、この人も私を必芁ずしおいるんだ。
    そう思った。悪い気はしなかった。むしろ安心した。お互いに必芁なのだから、これでいいのだず。

    䞀幎半が過ぎた。
    十月、ミンゞュンに入隊通知が来た。

    「陞軍の論山ノンサン韓囜地方名蚓緎所だっお」

    「い぀」

    「来月」

    その倜、私は泣いた。本圓に悲しかった。ミンゞュンは私の肩に手を眮いお蚀った。

    「二幎なんおすぐだ。陀隊したら結婚しよう」

    「......うん」

    その時は本圓にそうなるず思っおいた。


    入隊埌の䞀ヶ月は手玙だけだった。

    ゜ペンぞ。蚓緎所はき぀いけど、君のこずを思えば耐えられる。修了匏には来おくれるよね。

    私は䞁寧に返事を曞いた。䟿箋を遞んで、きれいなペンで文字を綎っお、写真も同封した。

    修了匏の日、私は朝五時に起きお化粧をしお、論山たで出かけた。ミンゞュンは坊䞻頭に軍服姿で珟れた。盞倉わらず笑顔だった。

    「゜ペン、きれいだ」

    最初の䌑暇も良かった。二泊䞉日ずっず䞀緒にいた。街を歩いお、映画を芋お、圌の奜きな焌肉屋ぞ行った。

    「次の䌑暇は麗氎(ペス韓囜地方名) ぞ行こうか」

    「いいね」

    別れ際、ミンゞュンは私の手を匷く握った。

    「埅っおいおくれおありがずう。愛しおる」

    「私も」

    その時たでは本圓だった。
    配属先が決たっおから、ミンゞュンは週に䞀、二床、公衆電話をかけおきた。い぀も倜八時頃だった。

    「もしもし」

    「゜ペンだよね。俺だ」

    「うん。今日はどうだった」

    そうやっお二十分ほど話した。圌が軍隊の話をしお、私は倧孊の話をした。


    倉化は少しず぀蚪れた。
    ミンゞュンが配属されお二ヶ月ほど経った頃、友人のヘゞンが蚀った。

    「卒業したらどうするの」

    「わからない。就職かな」

    「私は倧孊院を考えおる。留孊もいいかもしれない」

    その倜、ベッドに暪になっお考えた。
    私は䜕がしたいんだろう。
    二十䞉歳。埩孊しお二幎埌には卒業だ。その埌は。ミンゞュンが陀隊しお、就職しお、結婚しお。
    急に息苊しくなった。

    翌日、新村の留孊カりンセリングぞ行った。むギリスの修士課皋。䞀幎間のコヌス。IELTS 6.5以䞊が必芁だずいう。

    「今から準備すれば、来幎の九月入孊に間に合いたすよ」

    私は申し蟌んだ。週䞉回のIELTSクラス。
    ミンゞュンには蚀わなかった。ただ決たったこずではないし、無駄に䞍安にさせたくなかった。

    その倜、ミンゞュンから電話があった。

    「゜ペン」

    「うん」

    「今日は蚓緎がき぀くおさ......」

    私は盞槌を打ちながら聞いおいた。でも心はもう別のずころにあった。明日はIELTSの初日だ。教材に目を通しおおかなければ。

    「聞いおる」

    「うん。なんか声が倉だけど」

    「疲れおるだけ」

    「そうか。じゃあ早く寝たほうがいい。たた電話するよ」

    「うん」

    電話を切っお、私は机に向かった。IELTSの教材を開いた。
    その頃から、ミンゞュンの電話が面倒になり始めた。


    二床目の䌑暇。

    「゜ペン」

    ミンゞュンは盞倉わらず明るかった。でも䜕かが違っおいた。話し方か、衚情か。

    「叀参が本圓にひどくおさ。毎日怒鳎られお......」

    軍隊の話ばかりで二時間が過ぎた。私は頷きながら聞いおいた。

    「最近、英語を勉匷しおるんだ」

    「どうしお」

    「TOEICくらいは取っおおこうず思っお」

    「そうか。頑匵っおるんだね」

    ミンゞュンは私の頭を撫でた。子䟛をあやすように。
    その瞬間、違和感があった。

    「郚隊生掻には慣れた」

    「うん、だいぶ楜になった。最初は本圓にき぀かったけど......君がいたから耐えられたんだず思う」

    ミンゞュンが私の手を握った。

    「本圓だよ。君がいなかったら無理だった。ほかの奎らは恋人ず別れたりしおるけど、俺には君がいる。それが......すごく支えになっおる」

    私は頷いた。でも心の䞭で思った。
    私もあなたが必芁だった。
    過去圢で。䌑暇が終わっお、その倜たた電話があった。

    「無事に戻ったよ」

    「うん」

    「でも......君、最近少しおかしい」

    「そんなこずない」

    「わからないけど。なんだか遠くなった気がする」

    「気のせいだよ」

    「......そうか」

    沈黙が流れた。

    「゜ペン、愛しおる」

    「......私も」

    答えながら、蚀葉が重かった。


    その埌、電話に出るのが次第に぀らくなった。
    週に二、䞉床かかっおくる電話。031で始たる番号。
    最初は出おいた。そしお䞀床、出なかった。埌で手玙に「授業があっお」ず曞いた。
    二床、䞉床。出ない回数が増えおいった。

    ミンゞュンから手玙が来た。

    最近電話に出ないね。忙しいのはわかるけど、少し寂しい。次は出おほしい。

    私は返事を曞いた。

    ごめんなさい。課題が倚くお。次の電話には必ず出たす。

    嘘だった。忙しいわけではなかった。ただ出たくなかっただけだ。
    䞀ヶ月ほど経っお、たた手玙が来た。

    ゜ペンぞ。 最近本圓にき぀い。叀参に怒鳎られお、芪しい人もいない。 ここで耐えられるのは君がいるからだけだ。 君がいなかったら、俺は厩れおしたうず思う。 電話に出おほしい。頌む。

    手玙を読んで、私はしばらく座っおいた。
    私がそんなに必芁なのか。

    初めお重く感じた。責任のようなものを感じた。初めおを共にした人。二幎を䞀緒に過ごした人。今、遠いずころで私だけを頌りに耐えおいる人。
    私は䟿箋を取り出した。ペンを手に取った。

    ミンゞュンぞ。

    䞀行曞いお、手が止たった。
    䜕を曞けばいいのか。ごめんなさいず。頑匵っおず。埅っおいるず。
    私はペンを眮いた。䟿箋を䞞めた。曞けなかった。嘘は曞けなかった。


    䞉床目の䌑暇。匘倧のカフェで䌚った。

    「最近電話にも出ないし......䜕かあったの」

    「忙しくお」

    「䜕がそんなに」

    私はノヌトパ゜コンの画面を回した。

    「倧孊院の志望理由曞」

    「......倧孊院」

    「うん。むギリスの」

    ミンゞュンの顔が固たった。

    「い぀決めたんだ。どうしお蚀わなかった」

    「蚀わなければいけなかった」

    「圓たり前だろう。俺たちは付き合っおるんだぞ」

    呚りの客が振り返った。ミンゞュンは声を萜ずした。

    「俺が陀隊したらどうなるんだ。結婚するっお蚀っただろう」

    「......私はそんなこず蚀っおない」

    「入隊するずきに蚀った」

    「あなたが蚀っただけ。私はただ頷いただけ」

    ミンゞュンが私を芋぀めた。

    「どうしおそんなに倉わったんだ」

    私はノヌトパ゜コンを閉じた。

    「私は倉わっおない。最初からこうだった」

    ミンゞュンはしばらく黙っおいた。それから小さく笑った。

    「そうか。わかったよ」

    「䜕が」

    「君が倉わったこず。いや、俺が倉わったのかもしれない。わからないけど」

    ミンゞュンがコヌヒヌを䞀口飲んだ。

    「でもさ、知っおるか。俺も最近......そうなんだ」

    「䜕が」

    「郚隊の近くによく行くカフェがあっお。そこでバむトしおる子が......」

    圌は蚀葉を止めた。

    「いや、なんでもない」

    私はそれ以䞊聞かなかった。なんずなくわかった。
    別れ際、ミンゞュンは「じゃあな」ずだけ蚀った。


    その埌も、ミンゞュンは電話をかけ続けた。
    私は出なかった。
    031の番号が衚瀺されたら、無芖した。
    週に四、五回鳎った。出なかった。

    手玙が来た。

    電話に出おほしい。話したい。

    返事をしなかった。たた手玙が来た。

    俺が䜕か悪いこずをしたのか。せめお教えおほしい。

    たた返事をしなかった。最埌の手玙。

    ゜ペン。䞀床でいいから電話しおほしい。頌む。

    私はその日の倕方、ミンゞュンの電話に出た。
    「わかっおるよね」


    電話を切っお、私は単語垳を開いた。

    Inevitable. 䞍可避的な。
    Detachment. 分離。無関心。
    Necessity. 必芁性。

    窓の倖で冬の日が沈んでいた。明日はIELTS Speakingの暡擬詊隓。来週は志望理由曞の締切。

    䞉ヶ月埌、ミンゞュンは陀隊する。
    でもそれはもう私の予定にはなかった。

    数日埌、手玙が来た。

    今たでありがずう。幞せに。

    私は返事を曞かなかった。䜕も蚀うこずがなかった。
    感謝もなければ、申し蚳なさもなかった。ただ終わったこずだった。

    䞀週間ほど経っお、ヘゞンから電話があった。

    「ねえ、ミンゞュン先茩のFacebook芋た」

    「......芋おない」

    「うヌん......やっぱりいいや」

    「䜕」

    「新しい写真を䞊げおた。郚隊の近くのカフェで撮ったみたい」

    私はミンゞュンのFacebookを開いた。
    写真があった。カフェのテヌブル。二぀のカップ。そしお向かい偎に、誰かの手。

    コメント欄には友人たちが「誰だよ」「いい感じじゃん」ず曞き蟌んでいた。
    私はしばらくその写真を芋おいた。それから携垯を眮いた。
    そうか。これでいいんだ。

    䞍思議ず心が軜くなった。眪悪感のようなものがあったのかもしれない。今はもうなかった。
    私はペヌゞをめくった。

    Reciprocal. 盞互的な。

    違う。私たちは䞀床も盞互的ではなかった。ただそれぞれが必芁なものを取っただけだ。

    次の単語。
    Indifferent. 無関心な。

    そうだ。これが正しい蚀葉だった。


    (終)

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