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泣くなって、大人なんだから // めずらしくエッセイ

     ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
     お先に失礼いたします。

    これは、そう言って、
    出勤そうそう退勤した日 のこと。

    -・-

    あー これ だめだ 。

    火曜日の朝。
    はやくに眠るのはできなくなってるくせして、
    はやくに目が覚めてしまうのは変わらず得意。

    今日も今日とて
    キッチリと、午前4時45分に起床。

    なんなら、ちょっと早くなってやがるゼ 。
    もう少し、あと30分は、寝てていいんだよ?

    はやくに目が覚めたとて、
    なにかをできるほどのパワーもない。

    それはそうだよね、
    積み重なった4〜5時間睡眠じゃあ、
    その回復力なんてタカが知れているってもんで。

    でも、今日は、ほんとうに、だめ かも。

    起きた瞬間 そう思ったけど、
    起きて2番目に思ったことは、
     
    「でも、休めないや」

    だった。
    昨日のわたしが今日のわたしに託した、
    「続きは明日やろう」のバトン。

    明日のわたしにはつなげない。
    今日、ゴールテープを切らないとだめなのだ。

    誰か他のひとにお願いする…
    それは首をもたげてすぐ、横に振った。
    ぐわんぐわん、と、目が、世界が、まわる。

    別に頼めないわけではない。
    きっと、お願いすれば、どうにかなるはず。

    他の誰かが合間を縫ってやってくださるか、
    もしくは次の日のわたしでもいいよ〜 と
    締め切りそのものを延ばしてくれるか。

    でも、わたしは、そうはできなかった。
    し、意志をもって、しなかった。

    どれだけ自分よりに眺めたとて、
    誰よりも時間があるのはわたし で。
    他の皆さんに負担になることはしたくなかった。
    …引き継ぐほうがたいへん、なのも、半分ある。
     
    締め切りを延ばすことは、
    「社外の人」のご迷惑になる業務だった。
    それはできるだけ、どうにか、避けたかった。

    あと、前日に、「明日やりますね!」と、
    その方とお約束していたのだ。
    それを自分の都合では破りたくなかった。

    「…いくかあ」

    自分で、明確に、決めた。
    がんばるって、決めた。

    いつかのわたしが立てた誓いを守るために、
    物理的…だけじゃなく重たいからだを起こした。

    -・-

    出勤するとき、
    なるべく意識して歩くようにしている。

    たいていは、
    NHK のラジオ英語を聴いているけれど、
    今日はどうしても耳にはいらなくてやめた。

    歩く、アルク、ある…

    と。
    ぼろぼろぼろと
    あふれる間もなく涙がこぼれた。

    泣くのが仕事じゃないくせに、
    わんわんと 泣いた。

    大きな橋を、大の大人が、泣きながら歩く。

    気づいた人はいたのかな。
    誰とも、目は合わなかった。

    いつもは、ひたすら、歩く。
    ただ、前だけを見て。

    でも、その日のわたしは、橋から川を見下ろした。
    ただただ、ずっと、見ていた。

    -・-

    職場に着いたら、

    ・体調が芳しくないこと
    ・急ぎの仕事だけやって早退したいこと

    をなるべく平静を保ってお伝えしようと、
    頭のなかでシュミレーションを繰り返す。

    ドアを開けたら、誰がいるかな。
    なんて言おう、どう言えばいい?

    そんな予想も何パターンも浮かべながら、
    何度も、何度も、練習をする。
     
    いちおう言っておくけれど、
    わたしの職場の人たちはみんなやさしい。
    驚くほど、みんな大人で、穏やかだ 。

    ほとんどの方よりもわたしのほうが、
    「生きてきた年数」を重ねているはずなのに、
    びっくりするくらい、わたしが、幼く思える。

    だってほら。

    「おはようございます」

    って 口にしただけで、
    涙が、とまらなくなったよ。

    -・-

    定時には7時間足りていない、帰り道。

    わたしは
    「 仕事 泣く 甘え 」
    の検索結果を眺めながら、
    自らの傷口に塩を塗りたくっていた。

    だって、
    予測変換で調べたら真っ先に出てきたんだもん。
    甘えなの? ねえねえ、甘えなの?

    顔をあげ、
    行き交う人並みにぼんやりと目をやる。

    当たりまえだけど、
    泣いてる人は、誰もいなかった。
     
    でも、
    ここを歩いているすべての人、
    誰もがハッピーなわけじゃないよね。

    きっと、わたしなんかよりも、
    大変だったり、背負うものが重かったり、
    それこそ泣きたい人だっているかもしれない。

    それでも、泣かないで、生きているんだ。

    「泣くなって、大人なんだから」

    言われたことのないはずのセリフが、
    なぜかやわらかくぽんと思い浮かんだ。

    ねえねえ、
    キミも「大人」になったのかな 、

    -・-

    「年相応の大人になりたい」

    そんなビッグな目標を抱いてるわりには、
    わたしは何もかも追いついていない。

    ありとあらゆる「ステータス」も、
    考えかたも、生きざまも、ふるまいも。

    大人なのに、大人のくせに、
    声をあげて、ぼろぼろ、わんわん泣く。

    なんなら、子どものころのほうが、
    うまくやれていた気すらする。

    だめだ〜 だめだめな大人だ〜
    ほんとうに辟易してしまう日々だよ。

    でも、だからこそ。
    泣いてしまった人がそばにいたらば、
    泣け泣け〜!今は泣くのが仕事だ〜!
    って言ってあげたい。

    迷惑じゃなきゃ、笑い飛ばしてあげたい。

    だって、
    そうしてもらえたらうれしいもん。わたし。

    泣いてもいいんだよ、大人なんだから。
    泣きたいって思ったら、わんわん泣こうゼ〜
     
    思いっきり泣いて、思いっきり笑って。
    いつまでそうやって生きていこう、ね、わたしたち!

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