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「神なりの雷」 0日目 #1

    あらすじ

    『神なりの雷』

    上京して8年目、社会人として4年目の金田。

    インドアな生活かつ性格な金田がかつて夢中になれたものは今も好きなものであるはずなのに、疲れや惰性を押しつ、押し流される毎日を送る。

    そんなある休日の夜、いつもと違う帰り道、金田はある言葉と出会う。

    ――神は七日間で世界を創った。

    なぜかその言葉が頭から離れなくなった金田は、自分にも世界を作れるのではないかと考える。

    七日間かけて少しずつ「自分の世界」を作り直していく中で、金田は忘れかけていた感情や価値観と向き合い始める。

    大きな成功もなければ特別な成果もない、ただの青年が自分の生活を取り戻していく小さな小さな創世記の物語。


    第1章 「0日目」

    日々の仕事に疲弊した金田は折角の大型連休にも動じることなく、体内時計ではおよそ12時前に一度目が覚めた。鳥の囀りもなければ心地よいと感じられるほどの朝日もない。

    この時点でポジティブな要素はどこにもないが、強いていうならばアラームで起きてないということだ。

    アラームとは便利であると共にトラウマにもなりうる。学生時代、遠征の際に先輩がアラーム音にしていた某「前」を繰り返す映画の主題歌が今でもトラウマである。折角の素晴らしい映画が生み出す感動の内3割を薄れさせる記憶として脳に焼き付いている。

    乾き切った眼球と視力0.1弱の目を駆使してなんとか見つけ出したスマホには10時30分と書かれたホーム画面。金田の表情には満面の笑み。いつもならば12時までノンストップで寝続ける金田にとってはかなりの早起きである。

    早起きは三文の徳、折角の早起きを生かし、今日という日を素晴らしいものにしようと誓った金田の虚な目と動揺を隠せない脳みそ。それらの優秀なコマンダーがとった休日最初の予定は残念ながら二度寝であった。思いがけない早起きにより好スタートを切ったはずの休日はここで大幅なペースダウンを強いられた。


     
    体感で13時ごろ、ようやく目を覚ました金田の顔に後悔の文字はなかった。それどころか満足げな顔にも見える。平日に貯めた睡眠リボ払いをボーナス返済できたからか、日常にはない少しスケベな夢を見られたからか、はたまたただ寝ることが好きなだけなのか、それは分からないが彼が良いのならばそれで問題ないだろう。

    しかしやっとのことで目覚めたにも関わらず、まだベッドから出る様子はない。金田の起床後は何かに取り憑かれたかのようにまずはSNSを漁る。ニュース系のアカウントはフォローしていないため有益な情報は何もなく、朝から見る必要のない投稿ばかりであるが眠気覚ましにはちょうどいいのかもしれない。

    「朝から見る必要のない」とは言ったものの、実際は昼だろうが夜だろうが見る必要のない投稿に一通り目を通した金田。起床からここまでで実に30分を要した彼の体に眠気はほとんどなかった。

    やっとのことで体を起こしベッドから出るかと思いきや次は枕を壁に立てかけ、上半身をそこに任せる。窓を少し開け、ベッドフレームの余白から手探りで電子タバコを探す。加熱時間を待ちながら次はショート動画を見始める体たらく。そこからの説明は不要だろう。タバコを2本吸い、気づいた頃には更に30分が経過し、ようやく彼の休日がスタートするのであった。


     
    177cmと比較的大きな身長に対して55kgという両手に収まる程の脂肪しか持ち合わせない金田でも最後の食事から14時間経てば腹は減る。朝ごはんを食べなかった(食べられなかった)彼にとって1日の始まりである休日のブランチは大抵カップラーメンかコンビニの割引弁当である。

    起床から活動までは遅い金田でも昼ごはんの調達に対するフットワークは見違えるほど軽い。これに関しては本に曰く、三大欲求に従順であり自分に対して正直なところがチャームポイントらしい。

    5階からサンダルで階段を駆け降りていく。エントランスを突破し、青い看板のコンビニまで徒歩2分。先ほどまで実に1時間もベッドでダラダラしていた人間とは思えないほどの早歩きでコンビニに向かう。

    カップラーメンとホットコーナーにある5個入りの唐揚げを片手に意気揚々と出てきた彼は再び早歩きで自宅を目指す。

    本当であればおにぎりと手頃なデザートも欲しいところではあるが今年で26歳を迎える金田の胃袋は年々縮小しており、それに勘づく金田自身も食べきれないことを悟り今年に入ってからは購入を控えているようだ。

    歳を重ね大人になり、できることが増えていくはずなのに実際はできること、できたことはどんどん減っていく。「老い」を胃袋で感じる26歳独身会社員はまだまだ元気そうである。

    家につき、手軽な物を食べながら、手軽な動画を見る。そして手軽に上がった血糖値が金田をベッドへ誘う。

    食欲が年々減っていく一方で睡眠全盛期の2歳児に追いつきつつある金田の体はベッドでショート動画をみるのがギリギリだった。これ以上の睡眠は休日が勿体無いという自覚はあるものの、画面をスクロールする指は蝶が止まりそうなほどゆっくりと動き、彼の意識もショートしてしまうのであった。


    目が覚めたのは午後7時。あたりは薄暗く、部屋に充満するカップ麺のスープと吸い殻の匂い。先ほど食べた唐揚げが揚がるほどカラッといい天気だった今日という日も終わりを迎え、金田の顔も次第に曇り空へと移りつつあった。1時間のタイマーをかけてはいたが、睡眠担当大臣の彼には意味をなさなかったようだ。

    折角の休日がすでに3分の2強が無くなってしまった。こんな1日を過ごしたのは何回目だろうか。

    大学進学を機に上京して今年で8年目。自然があって、ご飯も美味しくて、と言われる何もない田舎が嫌いだった。人生に一度しかない青春を勉強に費やし、成績で親を黙らせてたどりついた東京という何もなくて何でもある街。でも結局は寝るだけ。虚無感が金田を襲う。正確には襲われるだけで彼は何もしなかった。

    午後9時。スーパーに買い物に行く気力も湧いて来ず、デリバリーで頼んだハンバーガー片手に休日がエンドロールの準備に取り掛かっていた。

    ここまでの金田を見て気づいたことといえば、こいつは何もないモノクロで味気のない虚無野郎だということぐらいか。しかしこの男、実のところは熱し易く冷め易い(本人曰く冷めてない、ぬるま湯なだけだから一緒にしないでほしい)性格なため趣味は多く、サッカーに読書、DIYにギターと脳内クラブパーリナイな超アクティブ系インドア男なのである。要約すると友達は少なく、外交的な性格ではないがインドア系の趣味は多く、1人で過ごしていても退屈しないプロのインドアーなのである。

    ただ最近の金田にその面影はなく、彼の性格的なところで言うと限りなく冷水に近いぬるま湯なのだろう。そのためか趣味欲が睡眠欲に敗北し、今日もいつも通り寝てばかりを過ごすのであった。

    本日2回目の外出を試みた金田が向かった先は本日2度目のコンビニである。5階建ての5階部分に住み、周りからはいいとこ住んでるね、と言われるが実際のところは5階建ての5階 ※エレベーターなし、である。

    日頃から運動不足な金田に5階という昇降は厳しく、家から2分で着くコンビニまでの道のりに対しておおよそ半分の時間を階段で費やすのであった。そんなこんなで下界におりた金田は6時間ぶり2度目のコンビニに辿り着き、タバコを補充して家路に着く。

    ここまでは最近の休日ルーティンである。しかしここからがいつもの金田とは違った。休日を寝て食ってウンコしてしかしてない全自動排泄マシーンと化した金田。こんな産業廃棄物にも少し罪悪感や後悔があったからなのか、公園で一服してから帰ろうといういつもとは違うエラーを起こした。

    公園のベンチに腰掛けた全自動徘徊型排泄マシーン金田。そんな感情のないマシーンのレンズにはこの先数日の生活、大袈裟に言えばこの先の人生を一変させる言葉との出会いが待っていた。


    #創作大賞2026 #ファンタジー小説部門

     
     
    強肩と書いてライトと呼びます。 脳みその中を頑張って言葉にしてます。皆さんの脳みその反応を直球(ストレート)に伝えてほしいです。

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