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『あの湯♚』第䞀湯「垰り道」

    ♚あらすじ♚

    誰もが人生の途䞭で、ふず道を圷埚うこずがある。
    老い、孀独、埌悔、挫折、倢、恋愛、家族――。
    抱えおいるものは違っおも、人は誰しも心のどこかに、蚀葉にならない想いを沈めながら生きおいる。

    『あの湯♚』は、そんな人々が迷い蟌む䞍思議な銭湯。

    湯けむりの向こうで出䌚う客たちずの、䜕気ない䌚話。懐かしい匂い。忘れおいた蚘憶。湯に浞かるたび、心の奥底に沈んでいた感情がゆっくりずほぐれお浮かび䞊がる、愛おしい人生のよしなしごず  

    そこは「あの䞖」なのか、「この䞖」なのか  



    第䞀湯「垰り道」は、人生の終わりず続きのあいだを歩く䞀人の老人の物語。

    人ず人ずの瞁を湯けむり越しに描く、連䜜短線集。


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    第䞀湯「垰り道」


    カラカラず露が滎るガラス戞を匕く。
    霞む先に珟れる壁䞀面の富士山の絵。
    䜓䞭をくすぐる石鹞の銙りず、カコヌン、カコヌンず響く桶の音は、ふんわりず遠い蚘憶を呌び芚たす。

    湯けむりのスクリヌンに映るのは、ただ颚呂が家にはない頃の景色。近所の知った顔が䞊び合い、子どもも倧人も、ああでもないこうでもないず、蚀葉を亀わす。

    凝り固たった目ず口がほぐれおいく。


    ――したった、桶を眮いおきた。


    济堎に入るず、䞉角圢に高く積み䞊げられた朚桶たち。時代が倉わっおも堂々ずした䜇たいにホッずする。
    客がたばらなのは少し寂しいが、こういう颚呂屋がただ残っおいるこずが嬉しい。しかし、近所にこんなずころは無かったはずだが  い぀の間にできたんだろう。

    朚の怅子からの銙りも良い。
    今ではすっかりシャワヌが銎染み、カランだけだったあの頃が、胞の奥にじんわり沁みおいく。お湯を出すず我慢しおいたようなこの氎圧。思わず「そうそうこれだよなぁ」ず独り蚀を蚀う。

    湯を頭からかぶる。もう䞀床。もう䞀床。
    少し曇った鏡。そこには、䜕床芋おも間違いのない、時の流れた自分がいた。


    手ぬぐいも忘れおいた  石鹞もだ。
      最近、忘れ物が増えたような気がする。

    備え付けの石鹞があり、たたホッずする。手で泡立お頭からわずかに残る髪も掗う。぀いでに顔も。
    手のひらを、少し䌞びた髭がなぞる。
    髭剃りは、今日はたぁいいか  いや、明日は金曜日だったような  金曜日ならば䌚議があったはず。したったなぁ  

    石鹞泡を流し、手で顔の湯を払い、鏡を芋るず党お曇っおいた。

    もう䞀床泡立おお、銖から䞋たで掗っおいく。あのころは腕だっお立掟に匵っおいた。この倪腿だっお。

    劻ず二人でよく過ごしたあの公園に、䞉人で行くようになり、靖春盞手に走り回るには、ただ十分な若さがあった。


    前屈みになり足を掗う。


    ――背䞭に䌝わる靖春ず智矎さんの話声  



    確かあの時もこんな栌奜で  そう、靎を履いおいたずきだった。どこぞ出かけようずしおいた時だったか。幎金支絊の日だったかな。そういえば、今月は偶数月じゃなかったか

      たぁ垰っおからカレンダヌを芋ればいいか。

    あのずき二人が䜕を話しおいたのかは、思い出せない。思い出せないずいうこずは、きっず倧したこずではないのだ。

    仕事も子育おも、やるべきこずは抂ね終わった。ようやくやっおきた自由の日々。そんな生掻も䜕幎目なのか。


    ――ペタペタペタず音がする。


    「お背䞭を掗っおさしあげるでやんす」


    振り返るず、男の子がいた。
    、6歳 いや、、歳くらいか。
    倧きな目ず、匵りのある頬。にっこり笑っお、あの頃の靖春ず重なる。

    ただ幌い靖春がパンツ䞀䞁で、銭湯のコヌヒヌ牛乳の瓶を䞡手でしっかり持っお飲む姿が、浮かんできた。
    今じゃあ、あの頃のおれの歳を越えおしたい、孫もできた。たかはる  たかやす  いや、やすたか そうそう靖隆だ。靖隆はどちらかいえば智矎さん䌌だ。


    「お客さん、手だけではお背䞭掗えないでやんすよ」男の子はニンマリ顔だった。

    「あぁ  そうだなぁ。じゃあ、お願いしようかな」

    「もちろんお任せくださいでやんす」
    ガッツポヌズをしお、タオルを濡らしお石鹞を擊り蟌む。

    昔、銭湯で靖春ず背䞭を掗いあったこずを思い出した。


    バシャン、バシャンずお湯の匟ける音の䞭、壁の向こうの女湯から声が聎こえる。

    「最近の子らは、タむパだのコスパだのポむ掻だのいっそがしいねぇ」

    「しっかり先々のこず考えおいるっおこずじゃないですか」

    「だから忙しそうっお蚀っおるんじゃん。みヌんなおんなじ顔しおらぁ」




      ため息䞀぀吐き出した。




    「ため息でやんすね、なにかあったんでやんすか」
    背䞭を掗いながら聞いおくる。

    「ん  今日仕事でいろいろあっおね  」

    「お疲れさたでやんす」
    この子に軜々ずそう蚀われるず、䞍思議ず倧したこずでもない事に思える。



    どこかで桶を萜ずす音が聞こえた――



    男の子は、ただぷにっずした小さな手を、背䞭にあおおきた。


    「お客さん、背䞭がちょっず冷えおるでやんすね」

    「  そうかい」

    「ここぞ来る方は、みんなどこか湯冷めしおおいででやんす」

    「  」

    「あずであそこの颚呂で、肩たでどっぷり浞かるでやんす。枩たるでやんすよ」

    男の子が指さす方には、湯けむりでがんやり芋える倧济堎。そこに䜕人か人圱が芋え、たた消える。


    「ここで溜たったものをしっかり掗い流すでやんす」

    「フフッ  そんなに汚れおはいないよ」

    「芋えない汚れ詰たりがあるんでやんすよ。きれいにしおおかないず、思い出も出おこれないでやんす」



      思い出が出おこれない


    屈蚗ない笑顔で、迷いがなく、はっきりずしおいた。


    「坊やはここの子なのかい」

    「ここの子どもではないでやんすが、たぁそんなようなずころでやんす」

    「そんなような『そんなような』ずは」

    「う〜ん、『そんなような』ずは『そんなような』っおこずでやんす」



    ニコニコしながら背䞭を掗う。
    䞀䜓、どういう颚呂屋なんだ



    「い぀も客の背䞭をこうしお掗っおいるのかい」

    「そうでやんすよどんなに偉い方でも、さすがに背䞭にだけは、手は届かないでやんすからね」

    「  この銭湯の名前は」

    「ここでやんすかこれでやんす」
    ずいっお、薄い䞹前に曞かれた文字を芋せおきた。


    「あの湯」

    「そうでやんす」

    「  あの䞖みたいな名前だな」

    「そうでやんすね」

    ペむショ、ペむショず手を動かす。

    「ここぞ来るお客さんは、だいたいが 垰り道で迷っおる人ばっかりでやんす」

    「垰り道家たでの」

    「ん〜、家なのかはわからないでやんすが  そう聞いおいるでやんす」


    倩井を芋ながらタオルを持った手は䞀床止たったが、再びペむショ、ペむショず䞊䞋に動き出す。



      さっきから䜕を蚀っおいるのだこの子は



    「背䞭がちょっず硬いでやんすね」

    「そうか  ずくに凝っおもいないけど」

    「枩みを欲しがっおるでやんす」

    「ぬくみ」

    「ハむ、枩みでやんす。この冷えず硬さはたぶん  」



    ザパヌン、ザパヌンず少し離れたずころに座る、靖春くらいの歳の者が、い぀の間にか居お、頭から湯を被っおいる。



    「おや、新しいお客さんでやんすね」

    「坊やはいったい 」

    「お客さん、お背䞭綺麗になったでやんすよ。お湯でしっかり流すでやんすよ。流し終えたら、湯に浞かっお枩たるでやんす。ではでは」

    「あぁ ありがずう」


    そう蚀っおお蟞儀をし、新しい客のずころぞ音をペタペタずたおながら行っおしたった。



      なんだったのだろう。



    朚桶に湯を出し溜めお、背䞭にかけ流す。そもそも、おれはなぜ銭湯に来おいるんだやっぱり家の近くにこんな銭湯など、なかったはずだ。そしおおれは今日朝から  



    ――䜕をしおいた



    䜕回湯をかけ流したのか。
    そのぶんの湯けむりが立ち、たわりが癜く芋えなくなるほどだった。
    背䞭の方から䜕かが聞こえる。




    『やっぱりお父さん、斜蚭に入れるのは  』




    湯けむりがゆっくり消えおいく。
    そしお、い぀のたにか湯に浞かっおいた。


    呚りには二人の客。
    片方は、 手ぬぐいを頭に乗せた、 嚁勢のいい痩せた老人。
    もう片方は、40前埌くらいか 生真面目そうな顔をしお、 静かに目を閉じおいる。



    「気持ちむむだろなぁ」
    頭の薄さも䌌た者が、そんな蚀葉を気持ちよくニコニコしながら投げかけおきた。

    「  えぇたぁ」

    「えぇたぁっお、なんなんだよ〜あんたり気持ち良さそうじゃねぇなぁ」

    「いや、そんなこずは 」

    「たたそうやっお、すぐ誰にでも絡むんだから 気にしなくおいいですよ」
    生真面目そうな若い男が静かに割っお入る。

    「オマ゚は盞倉わらず堅いねぇ。颚呂堎っ぀ヌのはな、ど〜んな奎でも、み〜んな裞になっおだな 」

    「たた始たった  分け隔おなく察等に話し合う堎所なんですよね」
    若い男が口をぞの字にしお苊笑いする。

    「そヌよあったりめぇだヘッヘッヘ〜。ずころでアンタはどっから来たんだ」

    「  たぁ  家からですな」

    「家おもしれヌこずいうな〜っお、バカ野郎ここは浅草か挫才やろうっおんじゃないんだよ。そヌじゃなくお、どっから来たんだい」



    ―――どこだ



     なんおいう所に䜏んでいたんだそしお、ここっおひょっずしお  



    若い男が手ぬぐいで顔を拭く。
    「いいじゃないですか。そんなどこから来ようず 」

    「た〜いいけどな。しかしたぁ歳を取るず、昔のこずばっか思い出すもんだなぁ」



    ―――昔のこず。



    工堎で仕事をしおいた。
    映画通を出たら土砂降りの雚で、しばらく雚宿りをしお、そこで劻ず出䌚った。
    それから半幎埌に結婚しお。
    その䞀幎埌に靖春が産たれお。
    その䞉幎埌に家を買い。
    靖春が石油ストヌブで腕に火傷をしお。
    倧きなランドセルを背負う靖春がいお。
    黒の孊生服を着た靖春がいお。
    倧孊を卒業し、区圹所に勀めだす靖春がいお。
    智矎さんず結婚をしお。
    孫の靖隆が産たれお。
    おれは仕事を定幎退職しお。
    そしお  



    あの男の子が蚀うように、湯船の枩みは、固たり忘れかけおいたものをほぐし、じんわりず浮かび䞊がっおくる。




    「おいおい、どうした」

    「枅さんがいろいろずし぀こく聞くからですよ」



    涙が止たらなかった。
    声もなく気が付かないたた、ただただ流れおいた。湯口から出る湯の音が、ボコボコ聞こえる。それは倧量で、熱い蚘憶に溺れる。



    先客の二人は黙っおいた。



      そうか 



    「たぶん  甘えたかったんです」

    幎配の男は手ぬぐいを湯面に広げる。
    「 そうかい」

    「  自分が幌い頃に母が死に、母方の叔母のずころで䞖話になっおたんです。でも叔母のずころには、子どもがいたした  」


    幎配の男も若い男も䜕も蚀わず、湯だけを肩にかけおいた。


    「いい家庭を䜜る。そんな芋本も曖昧で、呚りを芋おはこんな感じかこういう颚かず芋様芋真䌌ずいうか、ただ  がむしゃらでした」



    掗い堎の方から客の声が聞こえる。

    「ダメだな今幎も。ピッチャヌはいいのになぁ」

    「打おなきゃ勝おねぇからな〜」




    「良かれ良かれず思っおやっおきたこずが、もう埌戻りできないずいうか  はじめの頃の倧切なこずを、埐々に忘れおいった気がしお 」

    「金を貰うっおのはよ、垞に新しいもの詰め蟌たねぇずいけねぇからなぁ」
    手ぬぐいをたたむ仕草は、蚀葉に䞊手くできないものを、芋ないように折りたたんでいた。

    「みんな郜合よく、歳のせいにしちたえばいいんじゃねぇのかい」
    畳んだ手ぬぐいを頭に乗せ、遠くを芋おいた。

    「それでも、忘れちゃいけないこずもありたすよ」
    若い男は䞡手で、産たれたおの雛を扱うように湯をすくっおいた。

    「ある日の飯時に、テレビを芳お笑っおいるのは自分䞀人だけなんだ  ず気が぀いたんですよ」

    「ネット動画の方がいた人気ですからね」

    「銬鹿だねオマ゚は。そういうこずじゃねぇっ぀のそりゃよぉ  ただの盞垭だっちゅヌこずよ」

    「  時代に眮き捚おられたのか、時代がみんなを連れおったのか  そんな感じです」

    「じゃあ、䞀緒に動画芳たらどうですか䟿利なもんですよ。奜きなずきに奜きなものだけ自由に芳れたすから」

    「なヌにが䟿利だか自由だか  どヌせすぐ忘れちたうようなこずだろくっだらねぇ」

    「フフッ  自分もそう思っおいたんです。けどそんな自分がたさかね  いやぁ本圓に恥ずかしい話です」

    「おいおい、ここは裞になるずこだぜ。恥ずかしいこずなんおねぇよ」




    女湯の方から笑い声が響いおいる。




    幎配の男が䞀床息を吐いお、聞く。
    「嫁さんはどうしおんだい」

    「私が定幎退職しおすぐに、病気になり  䞀幎埌に亡くなりたした」

    「そうかい  そりゃ぀れぇな すたねぇ」

    「いえ、こうやっお劻のこずを話すず、なんだか嬉しいもんです  」

    「 別嬪さんだったかい」

    「すぐそれだ」

    「フフッ、そりゃあもちろん  膝枕しおもらいたかった  」

    「そうかい  」
    肩を組むような蚀い方だった。



    女湯から聞こえる笑い声は、どこか若い頃の劻に䌌おいた。



    「でもよ、アンタ甘え方しらねぇだろ」
    埮笑みながらも、からかうように。

    「ハハッ、そうなんです  いたさらですよね」

    「枅さんはみんなに甘えっぱなしじゃないですか」

    「うるせぇバカ野郎おれがよ、䞀から教えおやらぁたずはな 」

    「  長湯はいけたせんよ」
    ボ゜ッず若い男は挟んできた。

    「おお、そうだな  アンタはそろそろ䞊がった䞊がった」

    「いや、ただそんなに浞かっおは 」

    若い男が湯面に手ぬぐいを広げる。
    「もう十分枩たっおたすよ」

    「おうよ、もう行きな。垰れなくなっちたう」

    「どこぞ  垰ればいいのやら」

    若い男は手ぬぐいをたたむ。
    「どこか垰りたいずころはないんですか」



    倩井に昇る湯気を目で远いかける。



    「  あるにはあるんですけどねぇ」

    「どんだけ忘れおもよ、心の垰り道だけは  䜓は芚えおいるもんだぜ。そうだろなぁマリモ頭」

    手ぬぐいを頭に乗せお若い男は蚀う。
    「鬌頭です。僕のどこがマリモなんですか」

    「その頭だよ䜕が鬌だよぉったくよ、たいそうな名前しやがっお。オマ゚はな〜マリモで十分なんだよ」



    ――ペタペタペタず音が聞こえおくる。
    さっきの坊やが、济堎近くを小走りしおいる。



    「こら坊䞻危ねぇから走んなっお、い぀も蚀っおんだろが」

    「あ枅さんいっけね テヘぞ〜ありゃたさっきのお客さん」

    「 さっきは、ありがずう」

    「ずんでもないでやんすそうそう、垰る前に、締めの牛乳を飲むでやんすよではでは〜」

    「だから走んなっおおい、おヌい  ったくよ〜聞きゃしねぇ」

    若い男は手ぬぐいで顔を拭きながら
    「肩たでしっかり  甘えちゃえばいいんじゃないですか」

    「  」





    湯けむりがたた立ち蟌め、蟺りが癜くなっおいく。






    ―――ここは




    鏡に映る自分以倖、誰もいない。
      脱衣堎か。
    癜い靄を払うように倧きな扇颚機が、心地良い颚を送りながら右ぞ巊ぞ銖を振っおいた。


    服はどこだ


    「お着替えは二十八番にありたすよヌ」

    県鏡をかけたふくよかな、60〜70代くらいの女の番頭が埮笑みながらこっちを芋おた。


    「あぁ どうも」


    番台にあるラゞオから、「今週の歌謡ベスト第二䜍は〜」ず、明るい女の声がかすかに聎こえる。
    二十八番のロッカヌを開け、服に着替えるず、朚補のロッカヌの奥に癟円玉が萜ちおいた。

    番頭の女に癟円玉を芋せる。
    「あの、これロッカヌの䞭に眮いおありたしたよ」

    「あらた  でも、それお客さんの癟円玉じゃないんじゃないですか」
    片手で県鏡を敎え、笑顔を芋せる。

    「私の」

    「はい」

    「いや  前のお客さんの忘れものかも」

    「今日あのロッカヌは、お客さんしか䜿っおないんだもの〜だからお客さんのものだず思いたすよ」

    「そう  ですか」

    「あ、そうだよかったらその癟円で、りチの自慢の牛乳飲んでくださいよなかなか評刀むむんですよ〜」

    番台近くにある小さな冷蔵庫を指さす。

    「さっきもそんな話をしおいた子どもがいたした 」

    「そでしょ、飲んでくださいな。ね」

    「  じゃあ䞀本いただこうかな」

    「はい、癟円頂戎したした。お奜きな物遞んでくださいな」


    普通の牛乳ずコヌヒヌ牛乳。
    コヌヒヌ牛乳を䞀本取り、玐に吊るされた備え付けのキャップピンを䜿い、ゆっくりず口を぀ける。うん  矎味い。甘ったるいコヌヒヌ牛乳ではなく、ほんのり苊味ず銙ばしさがあり、党身に染み蟌んでいく。


    「あ、そうそうお客さんコレ。これも萜ずしおたしたよ〜」

    「ん私の」

    「えぇ、ロッカヌの前に。服脱いだずきに、ポケットから萜ずしたんじゃないんですかぁ」





    ――それは2枚の写真だった。

    1枚は家族写真。おれず劻ず、靖春ず智矎さんに赀ん坊の靖隆。幞せな家族写真。
    そしおもう䞀枚は 結婚したおのおれず祐子。
    肩を抱き合い、頭をくっ぀け合った幞せな、幞せな  写真。




    そっか  この頃はこうしお甘えられおいたんだな  靖春が産たれおからも、きっず違うカタチでたくさん甘えさせおくれおいたんだよな  ありがずう祐子。
    でも、ごめん  ただただ甘え足りないや。



    「仲良しですね〜。あず、奥さたがお綺麗八千草薫に䌌おたすねぇ」

    涙は止たらないたた、半分残ったコヌヒヌ牛乳を飲み干す。

    「お客さん、敎いたしたか」

    「はい  ごちそうさたでした」

    「そうですかぁ  それは良かった」


    番頭さんは背筋を䌞ばし、しっかりず、でも優しく芋぀めおくれた。


    「では、行っおらっしゃい」


    「はい  行っおきたす」



    ―――癜い湯けむりが挏れ挂う、暖簟をくぐった。













    「父さん  ここにいたのか  」


    オレンゞの倕映えが倜に溶けるたで、隣に座っおいた。


    ―――垰ろうか、父さん。





    『あの湯』
    第䞀湯「垰り道」完




    ​♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚♚あずがき

    ​最埌たでお読みいただき、ありがずうございたした。
    ​私たちは日々、たくさんの責任を背負っお生きおいたす。特に䞊の䞖代の方々は、誰かに「甘える」こずを知らない、もしくはそれが蚱されない空気感だったのではないか、がむしゃらに家族や家庭を守っおきたのではないか、ず勝手ながら思っおおりたす。

    ​今回の䞻人公であるおじいさんは、たさにそんな䞀人でした。良かれず思っお走り抜けおきた人生の終着駅で、ふず蚪れる孀独や蚘憶の霞み。普段は蚀葉にすらできない「本圓は誰かに甘えたかった」ずいう切実な願いを、じんわりず枩かいお湯で溶かし、優しくすくい䞊げおくれる堎所ずしお『あの湯』ずいう舞台を蚭定したした。

    ​たずえ蚘憶が薄れおしたっおも、か぀お誰かず肌を寄せ合ったぬくもりや、深く愛し愛された確信だけは、心ず身䜓がちゃんず芚えおいる。そんな人間の根底にある枩かさを、この物語を通しおそっず届けたいず考え、執筆にいたりたした。

    ​本䜜は、この『あの湯』を舞台に、さたざたな事情を抱えた迷い人たちの心の再生を描く「連䜜短線集」です。この枩かな䞖界芳を、今埌の゚ピ゜ヌドでもさらに深く掘り䞋げおいけたらず思っおおりたす。

    ​どうぞ、湯冷めをしないようにお気を぀けお。

    たたい぀でも、お越しくださいな〜

    ​絵本かかし
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    『あの湯♚』

    第二湯「寄り道」↓です。よろしければどうぞ




     
     
    ​゚ッセむず随筆  どう違うんだぁ そのほか物語や詩を、案山子のように端っこで、ぶ぀くさ小声で歌い呟く。突劂あらわれる人に驚き 「あっぶねぇ〜芋぀かるずこだった」 ず、ひやひや楜しんでいたす。 140文字ただか  あ、この前垰りにすんごいモノ芋たんですけど、それがなんず、あ 

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