
慟哭★貫井徳郎著(おぞましいミステリー小説)
ごきげんよう、いかがお過ごしですか。
関西は暑い日々は相変わらず、夏本番を前にクーラーをつけてしまっています。
さて、今日は熱さましに、少しひんやりする物語を紹介しようと思います。
貫井徳郎著『慟哭』です。

装丁はね、ご覧の通り、なんだか寂寥感漂う風景写真です。
『慟哭』は貫井先生のデビュー作です。
そして、私にとっても貫井先生の作品を手にしたデビュー作です。
「彼」と「事件を捜査する警察」
二つのストーリーが交互に展開していきます。
感想、「おぞましすぎる」です。
これがデビュー作とは信じられない出来です。
正直、読了後ぶるぶるぶるぶるしちゃって
「もう貫井先生の本は読まないもん!」
って思いました。
事件は女児誘拐。
実は私もかつては女児でしてね。
あれは夏の終わりが近づく土曜日の朝、母と近所のスーパーに買い物へ出かけた時のことでした。
買ってもらえるかは交渉次第ですが、スーパーといえばお菓子売り場、用がなくても立ち寄るのは子どもの性です。
スーパーに入ってすぐ、母に後程合流する意を伝えお菓子売り場に向かいます。
女児の私は、添加物や合成着色料などに鈍感でしたから、色とりどりの売り場で、不思議な粉を混ぜると変色するお菓子や絵の具のような色をしたチョコレート、引っ張ると伸びるグミなどを順に取り出して、パッケージのイラストが訴えてくる言葉を聞き取ろうとしました。
今日どれだったら母は許してくれるだろうか、時間をかけてゆっくり精査します。
「お嬢ちゃん」
私は振り返り見上げました。
白いヒゲの間から抜けた歯が目立つ口元は、瑞々しくてらてらと小さな光を放っていました。
服の袖からしおれた枝のような腕が覗いています。
「それ買ってあげるから、一緒に幼稚園行こう」
口元をてらてら濡らしながら、しおれた枝を私に差し伸べます。
「今日は土曜日で幼稚園はお休みです」
私は女児ながら、オンとオフはきっちり切り替えるタイプだったので休日登園なんて聞いて呆れました。
私は踵を返し、母のもとへ向かいました。
私は母に、先ほどの休日登園のお誘いについて報告し、途中で精査を切り上げたものの、その時手にしていたお菓子を差し出し本日分の交渉を行いました。
母は交渉を聞く様子もなく、品物をかごに入れ、しおれた枝探しを始めました。
私も母の横にくっつき、しおれた枝を探します。
野菜売り場の横で、しおれた枝は豆腐を持ってじっとしていました。
母は私を連れて何事もなかったように、レジへ向かい会計をしました。
「知らない人に声をかけられてもついて行っちゃだめよ」
そう言いながら商品を買い物袋に詰め、袋と私の手をとり、店をあとにしました。
私は店を出る前、後ろを振り返りました。
まだ野菜売り場の横で、しおれた枝は豆腐を持っていました。
そして、もう一本のしおれた枝が私に向かってばいばいと挨拶を告げました。
白いヒゲの間から抜けた歯が目立つ口元をてらてら光らせ、頭皮に白い毛を薄いベールのようにのせ、その間にある二つの眼球は、「またね」と私の瞳を捕らえました。
私は急いで母の掌を両手で掴み、母を見上げながら歩きました。
しばらくして、そのスーパーは閉店し、本屋さんになりました。
大人になると幼い頃の記憶は薄れていきますが、この時に見たしおれた枝は何故か今でも鮮明に憶えています。
貫井先生の本はもう読まない!と決め込みましたが
本屋で本棚を物色していると、貫井先生の本が私の瞳を捕らえました。
私は急いで先生の作品を3冊両手で掴み、レジに向かって歩きました。
本棚から「お嬢ちゃん」と聞こえる気がしますが、もう私は女児じゃないので、気のせいでしょう。
貫井先生の作品を読むのが、楽しみです。