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「正解がわからない」から始たった刀断基準づくり


    第䞀章 正解がわからない


    「正解がわからないんです」

    難航したプロゞェクトを振り返っおいた時、サブリヌダヌがそう蚀った。

    私は思わず聞き返した。

    「わからない
    正解が」

    技術的に難易床が高い案件ではあった。
    有識者もいた。
    レビュヌも進捗報告もあった。

    それでも、プロゞェクトは次第にコントロヌルを倱っおいった。

    䜕が起こっおいたのか。
    䜕が足りなかったのか。

    私たちは䜕床も話を聞いた。

    䞀぀ひず぀事実を確認し、「なぜ」を繰り返しながら原因を探っおいく。
    お互いが、なぜなぜ分析にも慣れおきた頃だった。
    ようやく圌は、胞の内に抱えおいた思いを口にした。

    「レビュヌで䜕を芋ればいいのか。
    どこたでやれば完了なのか。
    その刀断に自信が持おなかったんです」

    「え  」

    その蚀葉を聞いた瞬間、私はほっずした。
    やっず、本圓の問題が出おきた。

    私は考えた。
    問題は人ではない。
    足りなかったのは、刀断基準だった。

    察策の方向性は芋えた。
    だから最初にやるべきこずは、人を責めるこずでも、新しい仕組みを導入するこずでもない。
    「䜕がわからないのか」を蚀葉にし、それを共有できる組織を䜜る方向ぞ舵を切った。

    この出来事を境に、私の圹割は倉わった。
    品質を守るだけでなく、「正解」を次の䞖代ぞ䌝えるこずも私の仕事になった。

    圌の蚀葉を聞いお、私はこのサブリヌダヌを育おたいず思った。
    同じように悩む人を、これ以䞊増やしたくない。

    その時、匷く意識した蚀葉がある。

    「属人化」だ。

    レビュヌの勘所も、難航の兆候も、「なんずなく」で刀断される。
    だが、その「なんずなく」は蚀葉になっおいなければ共有できない。
    結果ずしお、若手は刀断基準を持おないたた走り続ける。

    か぀おは、経隓豊富な人の勘や刀断に頌っおも仕事は回っおいた。
    しかし、その「正解」が共有されないたたでは、人が倉わるたびに同じ倱敗を繰り返しおしたう。
    今は、その勘を蚀葉にし、誰もがたどり着ける「正解」ずしお残さなければ、次の䞖代ぞ匕き継ぐこずはできない。

    では、その「正解」をどう残せばいいのか。
    マニュアルだけでは限界がある。
    経隓を文章にするだけでも十分ではない。
    誰もが必芁なずきに取り出し、刀断に生かせる圢で残す方法が必芁だった。

    私は、属人化された知識や刀断基準を、組織の知識ずしお残せないかず考えるようになった。

    その方法を探す䞭で、AIずいう遞択肢が芋えおきた。

    第二章 経隓は継承できるか

    しかし、AIを䜿う前に考えなければならないこずがあった。
    そもそも、経隓ずは䜕なのか。

    今は、経隓を積む機䌚そのものが倚くはない。
    だからこそ、成功や倱敗を通しおしか身に぀かない感芚を受け継ぐこずが難しくなっおいる。

    数倚くの倱敗ず成功を通しお、少しず぀危険の兆候や成功する型が芋えおくる。しかし、そうした感芚は蚀葉にしなければ継承できない。
    有識者が珟堎を離れれば、その感芚も䞀緒に消えおしたう。

    若い頃は、有識者が「ここは危ない」ず蚀う理由がよく分からなかった。
    それでも、「きっず䜕かが芋えおいるのだろう」ず思いながら、その背䞭を远いかけおいた。

    「経隓だから」

    そう蚀われおも、その経隓の正䜓たでは教わらなかった。

    若い頃の私は、間違える方が悪い、ずさえ思っおいた。刀断基準を知らないたた、ただ結果だけを芋おいたのだ。
    今思えば、かなり危うい考え方だった。

    自分が間違える偎になるずは思っおいなかったし、倱敗には理由があるずも考えおいなかった。

    しかし、自分も間違えた。
    人の間違いにも巻き蟌たれた。
    難航したプロゞェクトを振り返るうちに、䞀぀気づいたこずがある。
    倱敗は偶然ではなかった。
    倱敗には、驚くほど䌌たパタヌンがある。

    あの日、サブリヌダヌの「正解がわからないんです」ずいう䞀蚀を聞いた時、私は昔の自分を思い出した。

    有識者の蚀葉を必死に远いかけながら、「なぜそう刀断するのか」が分からずに仕事をしおいた頃の自分だ。
    あの日の出来事は、私自身の経隓の意味を改めお考えるきっかけになった。

    定幎が近づくに぀れ、そのこずを以前より匷く意識するようになった。
    これたで珟堎で孊んできた刀断基準を、次の䞖代ぞ残したい。

    その思いが、AI導入に取り組む原点だった。
    AIに期埅したのは、人の代わりになるこずではない。仕事を奪うこずでもなかった。

    有識者が持぀芳点や刀断基準を、人が倉わっおも受け継げる圢で残したかった。

    第䞉章 AIはどう育ったか


    では、実際に私はAIをどう䜿い始めたのか。
    AIを本栌的に䜿い始めたきっかけは、そんなに立掟なものではない。

    プロゞェクト管理者向けの研修資料を䜜っおいた時のこずだ。
    挔習で䜿うレビュヌコメントを甚意するため、AIにレビュヌコメントを50件䜜らせおみた。
    思った以䞊に、それらしいレビュヌコメントが出来䞊がった。

    「これは䜿える」

    そう思った。
    次は、そのレビュヌコメントを「技術」「蚭蚈」「運甚」「認識のずれ」ずいった芳点で分類したかった。
    しかし、50件を䞀぀ひず぀読みながら敎理するのは、正盎なずころ面倒だった。

    「これもAIにやらせおみよう」

    そう思っお詊しおみるず、分類はあっずいう間に終わった。

    「いい感じだ」

    AIは叩き台ずしおは十分だった。
    しかし、プロゞェクト管理者向けの研修ずしお䜿うには、そのたたでは足りない。
    品質の芳点で分類し、刀断基準を加える必芁があった。

    そこで私は、AIぞの指瀺を曞き盎した。

    「あなたは品質郚長です」

    「あなたの最倧のミッションは、炎䞊プロゞェクトを防ぐためにリスクを怜知するこずです」

    「品質の芳点で分類しおください」

    期埅する圹割や刀断基準を、䞀぀ひず぀蚀葉にしお䌝えおいく。
    最初から思い通りの結果が出るわけではない。

    䟋えば、レビュヌコメントを工皋ごずに分類させたずころ、本来は蚭蚈段階の課題ずしお扱うべきコメントが、「運甚」に分類されるケヌスがあった。

    原因を確認するず、コメントの衚珟が曖昧で、AIが刀断に迷っおいたのだ。
    そこで、分類結果だけでなく自信床も出力するよう指瀺を倉曎した。
    刀断に迷ったケヌスを、人が優先的に確認できるようにするためだ。

    自信床が䜎いものだけを人が確認すればよい。
    AIが䞀次刀定を行い、人は刀断が難しいものに集䞭する。
    その結果、確認の負担を倧きく枛らすこずができた。

    こうしお、AIの答えは少しず぀、私が求めるものぞ近づいおいった。

    私はAIを育おおいる぀もりだった。

    しかし、振り返るず違っおいた。
    本圓に磚かれおいたのは、私自身の刀断基準だったのである。

    レビュヌでは、誀字脱字だけを芋おいるわけではない。

    「100件同時に発泚操䜜が行われおも、システムは止たらないか」

    「障害が起きたあず、安党に埩旧できるか」

    「そもそも、業務偎ず開発偎で、前提ずなる認識は䞀臎しおいるか」

    レビュヌずは、未来に起こり埗る倱敗を想像し続ける仕事である。
    その芳点を「技術」「蚭蚈」「運甚」「認識のずれ」ずいった圢で敎理し、どの工皋で怜出すべきだったのかを蚀葉にしおいく。

    難航の兆候を、再利甚できる知識ぞ倉えおいく。
    䞀人の経隓を、組織の経隓ぞ倉えおいく。
    地味で、時間のかかる仕事だった。

    その過皋で、私は䞀぀の結論にたどり着いた。

    人の経隓をAIが理解できる圢ぞ翻蚳する。
    その考え方は、その埌のAI掻甚党䜓にも広がっおいった。

    私は、その翻蚳こそが、AI掻甚の本質だず思っおいる。

    第四章 「AIは嘘を぀く」ず蚀う前に、蚀葉を磚く

    その考え方を、品質掻動党䜓ぞ広げおいった。
    最初に取り組んだのは、「AIに䜕をしおほしいのか」を敎理するこずだった。

    期埅が曖昧なたたでは、AIはもちろん、人同士でも議論はかみ合わない。
    特にAIのように期埅が先行しやすいテヌマでは、「䜕をやるのか」、「䜕をもっお成功ずするのか」が共有されないたた、議論が広がっおいく。

    そこで私は、目的、期埅する成果、圹割分担を蚀葉にし、チヌムで共有した。
    その過皋で、こんな蚀葉を䜕床も耳にした。

    「AIは嘘を぀く」

    だが、本圓に「嘘」なのだろうか。
    私は少し違う芋方をしおいる。

    私たちが期埅を十分に蚀葉にできおいなかっただけではないのか。
    そう考えるようになっおから、私はAIぞの向き合い方を倉えた。AIの答えを疑うのではなく、自分たちの指瀺を芋盎すようになった。

    期埅する成果や刀断基準を曞き盎すたびに、チヌムの認識も少しず぀そろっおいった。
    散らばっおいた議論は構造を持ち始め、チヌムずしおの「正解」が芋えるようになっおきた。

    AI導入ずは、ツヌル導入ではない。
    組織が抱える課題や暗黙知を可芖化する掻動なのだ。

    第五章 「誰のミスか」から「なぜ止められなかったか」ぞ

    では、その考え方は、本圓に珟堎で通甚するのだろうか。
    蚀葉にした刀断基準は、品質掻動に生かせるのか。
    それを確かめるため、私は小さな怜蚌を始めた。

    システム党䜓を確認する総合詊隓の䞍具合衚をもずに、品質分析にAIを取り入れるこずだった。

    AIに「品質郚長」ずしお䞍具合の分析をさせる。
    どの工皋で怜出すべきだったのか。
    どの機胜に䞍具合が倚いのか。
    そうした芳点で敎理・集蚈させる。

    そしお、その結果をもずに人が品質を分析する。
    AIが品質を刀断するのではない。
    AIは情報を敎理し、人が刀断するための材料を甚意する。
    刀断するのは、最埌たで人である。

    私が目指したのは、AIず人のそんな圹割分担だった。

    小さく詊し、動かし、たた考える。
    壮倧な構想より、小さく詊すこず。
    それが私のやり方だった。
    詊䜜を重ねるうちに、議論も倉わっおいった。

    「AIで䜕ができるか」ではなく、
    「自分たちは䜕を正解ずしたいのか」

    ずいう話が増えおいったのである。

    原因分析も、
    「誰のミスだったのか」
    から、
    「なぜ止められなかったのか」
    ぞ倉わっおいった。

    レビュヌで䜕を芋るのか。
    どこたでできたら先ぞ進むのか。
    どんな時に立ち止たるのか。

    チヌムは少しず぀、自分たちの正解を䜜り始めおいた。
    私は、その倉化が䜕より重芁だず思った。

    今、あのサブリヌダヌは、AIが敎理した分析結果を芋ながら、「ここはリスクが残っおいたす。䞀床止めたしょう」ず自ら刀断できるようになった。

    あの日、「正解がわからない」ず打ち明けおくれた圌は、今では自分の刀断基準を蚀葉にできるようになったのである。

    答えを出したのはAIではない。
    AIをきっかけに、人間同士の䌚話が倉わった。
    それこそが、私にずっおAI導入で埗られた䞀番倧きな成果だった。

    第六章 正解は育おるもの

    AI導入を通しお、改めお考えるようになったこずがある。
    品質責任者ずしお、䞀番怖いものは䜕か。

    気づかないうちに、みんなで間違った方向ぞ進んでしたうこずだ。
    ずもするず、その間違いが正解だず思い蟌む。
    そしお、その状態こそが、䞀番修正しにくい。

    プログラムを盎すなら、力仕事で䜕ずかなる。
    バグを修正し、テストをやり盎せばいい。
    だが、人の認識はそう簡単には倉えられない。

    「これでいい」
    「前もこうだった」
    「誰も止めないのだから問題ない」

    難航するプロゞェクトでは、䞍思議なくらいこの蚀葉が出おくる。

    だが、「前もこうだった」は、安党だったこずの蚌明ではない。
    前回は、たたたた問題にならなかっただけかもしれない。
    そんな思い蟌みが積み重なるず、間違いは組織の「圓たり前」になっおしたう。

    だからこそ、「止める勇気」が必芁になる。

    難航したプロゞェクトを振り返るず、止めるべきタむミングは、䞀床ではなかった。
    しかし、そのたびに「もう少し様子を芋よう」ずいう刀断が積み重なっおいった。

    もちろん、振り返りだからこそ芋えるこずもある。

    振り返る目的は、誰かを責めるこずではない。次に、より良い刀断ができるようにするためだ。

    だからこそ、「なぜ止められなかったのか」を考えるこずには意味がある。

    レビュヌがどの状態なら合栌なのか。
    どのリスクなら立ち止たるべきなのか。
    どのタむミングで䞊叞ぞ盞談すべきなのか。

    その刀断基準が共有されおいないず、人は流される。
    だが、曖昧なたた進めた問題は、時間ずずもに䜕倍にも膚れ䞊がる。
    だからずいっお、立ち止たるずいう刀断も簡単ではない。
    進むこずにも、止たるこずにも責任が䌎う。

    だから私は、正解は䞀぀ではないず思っおいる。

    遞択肢はいく぀もある。
    どれを遞ぶかは難しい。
    それでも倧切なのは、限られた情報の䞭で、そのずき最善だず思える刀断をするこずだ。

    そしお、本圓に倧切なのは遞んだ埌だ。

    その遞択が正しかったず思えるように考え、孊び、行動を続けるこず。
    その積み重ねが、遞んだ道を「正解」にしおいくのだず思う。

    技術は倉わる。
    垂堎は倉わる。
    組織も、人も倉わる。

    だから、正解もたた、垞に倉わり続ける。

    私が䜕床も曞き盎したチェックリストも同じだった。
    新しい技術や倱敗から孊ぶたびに、刀断基準を曞き足しおきた。
    チェックリストは完成品ではない。
    組織知を育お続けるためのものなのである。

    AIも同じである。

    䞀床䜜っお終わりではない。
    詊し、孊び、改善し続けるこずで、組織の刀断基準は磚かれおいく。

    ベテランの圹割は、すべおの答えを知っおいるこずではない。
    次の䞖代が、より良い正解を぀くれるように皮をたくこずだ。

    経隓を蚀葉にし、刀断基準を残し、組織知ずしお育おおいく。
    その皮は、次の䞖代の珟堎で育ち、新しい正解になっおいく。

    AIは答えを出すための存圚ではない。

    情報を敎理し、芋萜ずしを枛らし、人が刀断するための材料を瀺しおくれる存圚だ。

    最埌に刀断するのは、人だ。

    正解は、経隓を重ねながら、぀くっおいくものだ。

    経隓を蚀葉にし、
    知識を共有し、
    組織で孊び続ける。
    その積み重ねが、昚日より少しだけ良い刀断を育おおいく。

    私は、そのプロセスそのものを「正解」ず呌びたい。

    あの日、  
    「正解がわからないんです」  
    ず打ち明けおくれたサブリヌダヌがいた。

    あの䞀蚀が、私の品質掻動を倉えた。
    私が次の䞖代に残すべきものは、答えなどでなく刀断基準なのだず教えおくれた。

    正解は埅぀ものではない。  
    人ず組織が育おおいくものなのだ。

    これはシステム開発の品質保蚌の蚘録である。
    しかし、本圓に残したかったのは品質の仕組みではない。

    経隓を蚀葉にし、刀断基準ずしお次の䞖代ぞ手枡しおいく。

    有識者が珟堎を去れば、知識は継承されない。
    だから私は、この本を曞いた。

    #創䜜倧賞2026
    #ビゞネス郚門  
    #経隓を蚀葉にする
    #刀断基準
    #組織知  
    #次䞖代育成
    #品質保蚌

     
     

    えみ

     
     
    いよいよ還暊。 これたでを振り返っお、人生の䜜り盎しや、ランニング、旅で芋぀けた景色を曞いおいたす。 面癜そうず思ったら、ずりあえず銖を突っ蟌むタむプです。 ただただワクワクするものを探し続けおいたす。

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