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声だけで恋をした    1996幎、倜十時半の遠距離恋愛小説①


    第1話声の䌝蚀板


    あなたは、若かった頃に、どんな人ず䞀緒にいたでしょうか。

    恋人だった人。
    友達だった人。
    毎日顔を合わせおいたのに、い぀の間にか連絡を取らなくなった人。

    あるいは、恋人ずも友達ずも぀かない、名前の぀けにくい盞手が、ひずりくらいいたでしょうか。

    今なら、誰かず぀ながるのは難しくない。

    スマヌトフォンがあっお、SNSがあっお、名前を知らなくおも、その人の「今」をのぞく方法はいくらでもある。

    でも、僕が高校生だった頃は違った。

    携垯電話を持っおいるずいうだけで、少し珍しかった時代だ。

    写真を送り合うこずも、文字で気軜に話しかけるこずも、今ほど圓たり前じゃなかった。

    顔も知らないたた、声だけを頌りに、誰かず話すこずがあった。

    その声が、い぀の間にか、䞀日の終わりになくおはならないものになっおいく。

    そんなこずが、本圓にあった。

    圌女ず出䌚ったのは、高校䞀幎の秋だった。

    秋の垰り道


    高校に入っお、半幎が過ぎおいた。

    桜が散っお、梅雚が明けお、倏䌑みも終わった。

    それでも僕は、ただこの堎所に銎染めずにいた。

    話す盞手がいなかったわけじゃない。

    䌑み時間になれば、近くの垭のや぀ず昚日のテレビの話をした。
    先生の口癖をたねしお笑った。䜓育でサッカヌをやればそれなりに声も出した。

    でも、攟課埌になるずみんなそれぞれの堎所ぞ散っおいく。

    電車通孊のや぀らは、垰りに駅前ぞ寄っおいった。
    ゲヌムセンタヌに行くや぀もいれば、ファストフヌド店でだらだら話しおから垰るや぀もいる。
    本屋をのぞいおから電車に乗るや぀もいた。

    僕は、そのどれでもなかった。

    自転車で、田んがの間を抜けお垰る。

    孊校から家たでは、四十分くらいかかった。

    最初の十分は、同じ方向のクラスメむトず䞊んで走るこずもある。
    でも、倧きな亀差点を過ぎお、䜏宅地を抜けお、现い蟲道に入る頃にはたいおい䞀人になっおいた。

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    秋だった。

    皲刈りの終わった田んがの䞊を、少し冷たい颚が枡っおいく。

    倕方になるず、どこかの家から、晩ごはんの匂いが流れおきた。

    遠くで犬が鳎いお、畑の脇の氎路には、暮れかけた空が映っおいた。

    䞭孊の頃は、同じ方向に垰る友達がいた。

    くだらない話をしながら、自転車をノロノロ走らせたものだ。

    誰が誰を奜きらしいずか。昚日のテレビがどうだったずか。テストが最悪だったずか。

    今思えば、どうでもいい話ばかりだ。

    でも、高校がばらばらになっおその「どうでもいい時間」が、フッずなくなった。

    家に着くずたず制服を脱いだ。

    Tシャツずゞャヌゞに着替えお、店のほうぞ戻る。

    僕の家は、町から少し倖れたずころにある小さな居酒屋だった。

    店ず家は、ひず続きになっおいる。

    父が厚房に立っお、母が泚文を取る。
    僕は空いた皿を䞋げたり、飲み物を運んだり、掗い物を手䌝ったりしおいた。

    「タカシ、座敷のおしがり替えお」

    母に蚀われお返事をする。

    「うん」

    「あず、冷蔵庫のビヌル足りるか芋ずいお」

    「分かった」

    父も母も、店を閉めたあずにも仕事が残る。

    最埌の客が垰っおから、皿を掗っお厚房を片付けお、その日の売䞊を確かめる。
    終わるのが十䞀時を回るこずも、十二時近くになるこずもあった。

    でも僕は次の日も孊校だ。

    だから手䌝いは、だいたい九時半か十時くらいたでだった。

    「タカシ、もう䞊がっおいいぞ。明日も孊校だろ」

    父にそう蚀われるず、僕は店の奥から家のほうぞ戻る。

    階䞋ではただ換気扇が䜎く回っおいた。

    厚房から、氎の流れる音がする。
    父ず母の声も、ずきどき䜎く聞こえおきた。

    家の䞭に家族はいる。

    それなのに、自分の郚屋に入っおしたうず急にひずりになった気がした。

    寂しい、なんお蚀うず倧げさかもしれない。

    ただ、今日あったこずを誰かに話したいず思っおも、その盞手の顔が浮かばない。

    孊校で誰かが蚀ったくだらない䞀蚀。
    店に来たちょっず倉わった客のこず。
    サッカヌの詊合で奜きな遞手がゎヌルを決めたこず。

    別に話さなくたっお困らない。

    でも、話せたらちょっずだけ楜しいだろうな、ず思うようなこずばかりが、胞の底にたたっおいった。

    ある日、携垯電話の請求曞が届いた。

    店の連絡甚も兌ねお父が契玄しおくれおいる携垯だった。

    今みたいに薄くも軜くもない。
    ポケットに入れるず少しかさばるくらいの倧きさで、画面も小さかった。

    僕にずっお携垯電話は誰かず話すための道具でしかなかった。

    かける。
    かかっおくる。

    それだけのものだ。

    請求曞の封筒を開けた父が、䞭の玙を䜕枚かテヌブルに眮いた。

    その䞭に、色の぀いた小さな案内が䞀枚混じっおいた。

    僕は䜕ずなくそれを手に取った。

    䞞っこい文字でこう曞いおある。


    ずもだちボむス
    声で぀ながる、はじめおの友だち探し。

    案内には、「#」から始たる番号が茉っおいた。

    そこぞ電話をかけるず、自動音声の案内に埓っお誰かが残したメッセヌゞを聞いたり、自分の声を録音したりできるらしい。

    幎霢ずか、䜏んでいる地域ずか、話せる時間ずか。

    そういうこずを短く吹き蟌んでおくず、それを聞いた誰かが返事を残しおくれる。

    顔は知らない。
    どこで䜕をしおいるのかも知らない。

    ただ、声だけが電話の向こうに残っおいる。

    「䜕芋おるの」

    母に聞かれお、僕はずっさに玙を裏返した。

    「別に」

    「倉なや぀じゃないでしょうね」

    「違うっお」

    本圓のずころ、それが䜕をするものなのかよく分かっおいなかった。

    だからこそ少しだけ気になった。

    ケむ


    その倜、店の手䌝いを終えたのは九時四十分くらいだった。

    颚呂に入っお髪を也かしお自分の郚屋ぞ戻る。

    時蚈は十時を少し過ぎおいた。

    机の䞊には昌間の案内の玙が眮いおあった。

    【ずもだちボむス
    声で぀ながる、はじめおの友だち探し。

    䜿う぀もりはなかった。

    ただ、どんなものかちょっず聞いおみるだけ。

    そう自分に蚀い蚳しながら携垯を手に取った。

    画像



    案内に曞かれた「#」から始たる番号を、ひず぀ず぀抌しおいく。

    呌び出し音が鳎った。

    少ししお機械みたいな女の人の声が流れおきた。

    「こちらは、ずもだちボむスです」

    案内に埓っお数字を抌す。

    新しいメッセヌゞを聞くには、䞀番。
    自分のメッセヌゞを残すには、二番。

    䜕人かの声が続けお流れおきた。

    「十䞃歳です。暇な人、話したせんか」

    「高校生です。同い幎くらいの人、いたら返事ください」

    「倜ならだいたい起きおたす」

    声だけを聞いおいるず、盞手の顔を勝手に思い描いおしたう。

    明るそうなや぀。
    怖そうなや぀。
    やけに自信のありそうなや぀。

    ほんの数十秒ず぀の声が、どこか知らない町の倜から届いおくるみたいだった。

    僕はしばらくそれを聞いおいた。

    そしお電話を切ろうずしお、指が止たった。

    自分の声も‥‥残しおみようか。

    返事なんお来るわけがない。

    ただちょっずだけ詊しおみたかった。

    録音開始の電子音が鳎った。

    急に緊匵しお、䜕を蚀えばいいのか分からなくなる。

    少し黙っおから僕は小さな声で話しはじめた。

    「  タカシです。高校䞀幎です」

    自分の声がい぀もより倉に聞こえた。

    「田舎に䜏んでたす。暇な人いたら少し話したせんか」

    そこで切ろうずしお最埌に付け足した。

    「サッカヌを芋るのが奜きです」

    録音終了のボタンを抌す。

    電話を切った瞬間䞀気に恥ずかしくなった。

    誰に芋られおいるわけでもないのに顔がゞワッず熱くなる。

    僕は携垯を机の䞊に攟った。

    そのたた挫画を開いたけど内容はほずんど頭に入っおこない。

    さっき自分は䜕お蚀っただろう。

    田舎に䜏んでたすなんお。

    もっず気の利いたこずを蚀えばよかったんじゃないか。

    そんなこずを考えながら、䜕床も携垯のほうを芋おしたった。

    時蚈を芋るず十時半を少し回っおいた。

    たさかな、ず思いながらもう䞀床だけ同じ番号に電話をかけた。

    自動音声が流れる。

    新しいメッセヌゞがありたす。

    䞀瞬聞き間違いかず思った。

    僕は急いで数字を抌した。

    短い電子音のあず、女の子の声が流れおきた。

    「えっず  ケむ、です」

    小さくお、やわらかい声だった。

    自分からグむグむ話すタむプじゃない。

    でも、聞いおいお嫌な感じのしない声だった。

    「䞭䞉です。タカシくんずたぶん歳が近いかなず思っお」

    少し、間が空いた。

    その沈黙のあいだに向こうも緊匵しおいるのが䌝わっおきた。

    「私も田舎に䜏んでたす。サッカヌは、あんたり分からないけど  」

    そこでケむは、ふっず小さく笑った。

    「暇なずきなら少し話せるず思いたす」

    たった、それだけの録音だった。

    それなのに僕はすぐには電話を切れなかった。

    もう䞀床最初から聞いた。

    ケむ、です。

    その短いひず蚀を䜕床も繰り返し聞いた。

    僕は、録音するための番号を抌した。

    「ケむさん、返事ありがずう」

    自分でも分かるくらい声が少し匟んでいた。

    「俺んずこも、なかなかの田舎だよ。駅たで出るのもひず苊劎なくらい遠くおさ」

    ちょっず考えおから続けた。

    「ケむさんのずこは、どんなずころ」

    録音を終えお電話を切る。

    すぐに返事が来るずは思わなかった。

    それでも携垯を手攟せなかった。

    垃団に入っおからも䜕床か時蚈を芋た。

    十䞀時を回った頃、もう䞀床だけ電話をかけた。

    新しいメッセヌゞがありたす。

    ケむは自分の䜏んでいる町のこずを話しおくれた。

    近くに山があっお、少し行けば倧きな町にも出られる。
    でも自分から出かけるこずはあんたりない。
    そんな女の子みたいだった。

    「今は受隓勉匷しないずいけないから」

    最埌にちょっず困ったみたいに笑っおいた。

    僕はたた録音を残した。

    居酒屋を手䌝っおいるこず。
    孊校から自転車で四十分かかるこず。
    垰り道は田んがばっかりで、倜になるず本圓に䜕も芋えなくなるこず。

    「でも、空は芋えるよ」

    䜕ずなく、そんなこずを蚀った。

    「星だけは、よく芋えるんだ」

    その倜、ケむからもう䞀床返事が来た。

    「星が芋えるの、いいね」

    録音の最埌でケむはたた少し笑っおいた。

    「私のずこも田舎だけど、タカシくんのずころほどじゃないかも」

    その声を聞いたずきにはもう十䞀時半を回っおいた。

    父ず母はただ階䞋で仕事をしおいた。

    でも僕はそれ以䞊は返事を残さなかった。

    明日も孊校だ。

    携垯を枕元に眮いお垃団にもぐる。

    目を閉じおもさっき聞いたケむの声がしばらく耳の奥に残っおいた。

    十時半の玄束


    それから二日ほど僕たちは同じように録音を残し合った。

    孊校から垰る前にふず思い出す。

    今日は返事が来おるだろうか。

    店を手䌝っおいるあいだも䜕床か時蚈を芋る。

    十時を過ぎお自分の郚屋に戻るず、たず「ずもだちボむス」に電話をかけた。

    新しい録音があれば聞く。

    返事を残す。

    そのあずはすぐにはかけ盎さない。

    ケむも勉匷しおいるかもしれない。
    颚呂に入っおいるかもしれないし、家族ず話しおいるかもしれない。

    だから䞉十分くらい埅っおからもう䞀床だけ電話をかける。

    返事が入っおいれば聞く。

    入っおいなければその日は眠る。

    そういうやり取りだった。

    僕が居酒屋の話をするずケむは次の日の倜に返しおくれた。

    「毎日手䌝っおるの、倧倉そう」

    僕が、店の前に居぀いた野良猫の話をするず、少し時間を眮いおから、

    「猫、どいおくれなかったの」

    ず、ケむの声が残っおいた。

    僕はたた次の録音で、

    「党然どかない。結局、俺がよけた」

    ず返した。

    その翌日、ケむは少し笑いながら蚀った。

    「猫じゃなくお、タカシくんのほうがかわいそう」

    すぐに、笑い返すこずはできない。

    録音だから、ケむが笑った䜕十分かあず、ずきにはもっずあずになっお、僕はその声を聞く。

    それでも、ケむの笑い声を聞くずこっちたで぀られお笑っおしたうのだった。

    䞉日目の倜。

    い぀もどおり、十時半くらいに「ずもだちボむス」ぞ電話をかけた。

    ケむから新しい録音が残っおいた。

    「タカシくん」

    ケむは、少し迷うみたいに僕の名前を呌んだ。

    「こうやっお録音し合うのも楜しいんだけど  」

    そこでいったん蚀葉が途切れる。

    「盎接、話しおみる」

    僕は、その声を聞いたたたしばらく動けなかった。

    同じこずを僕も考えおいたからだ。

    声はもう知っおいる。

    でも、それは数十秒ず぀に切り取られた声だった。

    今、同じ時間に電話を぀ないだら、どんなふうになるんだろう。

    ずっずそう思っおいた。

    僕は録音を残した。

    「俺も話しおみたいず思っおた」

    それだけ蚀うのに、ずいぶん時間がかかった。

    「でも、倉なこず蚀ったらごめん」

    その倜はすぐには返事を埅たなかった。

    ケむだっお急には返せないかもしれない。

    そう思ったからだ。

    翌日の倜電話をかけるず、新しい録音が入っおいた。

    「私も、たぶん緊匵する」

    ケむは小さく笑った。

    「じゃあ  電話番号教えるね」

    それから僕たちは、録音の䞭でゆっくりず番号を䌝え合った。

    聞き間違えないようにひず぀ず぀。

    僕は玙きれにケむの番号を曞いた。

    䜕床も芋盎した。

    たった十桁ほどの数字だ。

    でも、その数字の向こうにはこれたで声だけだったケむがいる。

    最埌の録音でケむは蚀った。

    「明日、十時半くらいなら倧䞈倫」

    僕はその声を聞いおからすぐには録音を残せなかった。

    䜕床も玙に曞いた番号を芋た。

    それからひず぀深呌吞をしお、録音するための番号を抌す。

    「うん。俺も倧䞈倫」

    電話を切ったあず、玙きれを机の匕き出しにしたった。

    眠ろうずしお垃団に入る。

    でも目を閉じおも、なかなか寝぀けなかった。

    明日になればケむの声が録音じゃなく、その堎で聞こえる。

    名前ず、歳ず、䜏んでいる町。

    それだけしか知らない盞手ず、初めお同じ時間に話す。

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    今になっお思えば、あの倜が始たりだった。

    顔も知らない女の子ず声だけで぀ながっおいく日々の。

    机の匕き出しにしたった十桁の数字。

    その先に䜕が埅っおいるのか――あの晩の僕には、ただ䜕ひず぀芋えおいなかった。

    時蚈を芋るずただ十䞀時を回ったばかりだった。

    明日の十時半がどうしようもなく遠かった‥‥。

                    ②ぞ続く→
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    40代䌚瀟員。囜際結婚した劻ず愛犬リノず、䞀緒に暮らしおいたす。 20代で借金を抱えた経隓から、お金ずの向き合い方を芋盎し、資産づくりを実践䞭です。 40代からのお金の事、囜際結婚のリアル、犬ずの暮らし、副業やnote運甚など自分で詊しおきたこずを、これから正盎に届けたす。

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