
ウォーキングドッグ保護事件/クリスマスケーキダブり事件
先日、8年ぶりに連絡を取った友達とテレビ通話をした。
8年も連絡を取っていなかったので、お互いに話すことは山ほどあった。
私の方はこの8年の間に転職をしたり、出産をしたり、1匹で道路を散歩していた犬を保護したり、クリスマスケーキがダブったりと、波瀾万丈な日々を過ごしていた。
1.ウォーキングドッグ保護事件
いつものように、夫の運転する車に乗ってスーパーに向かっている途中の事だ。
普段ならそうそう混むことのない道路が渋滞していて、中々前に進まない。
なんだろうね、と夫と話していると、前方の車両のさらに前の方に、チラチラと犬が歩いているのが見えた。
「そっか、犬の散歩してる人がいたから進まなかったんだね」
その道路は、歩道のない片側一車線の道路だった。犬を散歩させている人が前にいて、かつ対向車が来ていたら、あまりスピードは出せないだろう。
そうこうしているうちに、前を走っていた車が次々と
対向車線にはみ出す形で次々と走り去っていった。
渋滞が解消され、我々の目に飛び込んできたのは
小型犬が、たった1匹で道路の端を散歩している様だった。
ふあふあの白い毛の、かわいい犬だ。
所在なさげにキョロキョロと辺りを見回しながらも、足取りは軽く、軽快に道路脇を進んでいた。
少し古びたリードを引きずっているところを見ると、散歩中に逃げ出したか、店先で主人を待っている間にリードが外れてしまったのではなかろうかと思えたが、詳しいことはわからない。
「ちょっと、捕まえられそうだったら捕まえてくるわ!」
私は、犬の歩行スピードに合わせてとろとろ走っている車のドアを開け、颯爽と外に出た。
そして犬を怖がらせないように身体を屈めながら、ゆっくりその犬に近づいた。
犬は私に気づくと、歩調を緩め、私の方を見上げてきた。
私には犬の飼育経験がない。
しかし、いきなり撫でたり抱き上げたりするのは良くないという知識は持ち合わせていたので
手の甲を差し出して、犬に私の匂いを確認してもらうことにした。
これは、いけるかもしれない。
大人しく私の手の甲の匂いを嗅いでる犬の様子を見て、暴れたり噛みついたりしてくるような犬ではないということがわかったので、
犬を抱え、車に連れて行くことにした。
しかし何せ、犬を抱っこしたことなどないので、どこをどう持ったらいいのかわからない。
首の横と、お尻の方から手を入れて持ち上げ、
「ごめんごめん!持ち方悪いよね!ちょっと我慢してね!」と1人で騒ぎながらなんとか車に乗り込んだ。
座席に座る私の膝に、犬は立ち尽くしている。
本当は座ってほしいが、おすわりと行っても座ってくれないし、(そりゃそうだ、今初めて出会った知らんおばはんの言うことなんか聞きたくないだろう)下手に車の中に離しておいて、いざ交番に着いたときに逃げられてしまっても困る。
何より1番心配だったのは、車内で粗相してしまわないかだった。
「頼む!今しないでね!今はしないでね!!!!」
祈りながら交番に向かった。
「ではこちらにお名前ご住所などご記入いただいて……」
犬は速やかにお巡りさんに引き渡され、裏に連れて行かれた。道路で保護してから今まで一度も鳴いていなかったのに、心細そうにヒンヒン鳴いている。可哀想だが、私にできることにはこれ以上、何もない。
拾得物物件預かり書には、夫が氏名住所などを記入した。
「もし飼い主の方が現れた場合、飼い主の方に連絡先を教えてもいいですか?」
「いや、それは、いいです。教えないでください。」
嘘だろ!?
お巡りさんからの問いかけにそう答えた夫に、私は驚愕した。
だって、もしこの犬の飼い主が金持ちだったら、謝礼がもらえるかもしれないのに!!??!!?!
しかし、夫は冷静だった。
交番から帰る道すがら、夫に尋ねたところ
「飼い主が変な因縁をつけてくるタイプだったら困るから」とのことだった。
確かに、飼い主が「こっちは探してる最中だったのに余計なことしやがって」などと言ってくるようなタイプの可能性もある。
夫の言うことは完全に正しい。
なんて理性的で冷静な男だろう。
私は感動した。
惜しむらくは、激情型で金にがめつい女を娶ってしまったことに尽きる。
犬はその後、飼い主が現れたとの連絡が警察から来た。
2.クリスマスケーキダブり事件
私の勤め先は、クリスマスケーキをタダで支給してくれるという少し変わった福利厚生がある。
ケーキ屋に勤めているわけでも、スーパーやコンビニに勤めているわけでもないのだが、
とにかく、クリスマスにケーキがタダで手に入る。
クリスマスケーキを買いに行くとなると、事前に予約をしたり当日死ぬほど混んでいるケーキ屋に引き取りに行ったりと大変な苦行を強いられることになるが、
それを回避できるというのはありがたいことだ。
しかし、ある年、事件が起きた。
夫の会社でも、クリスマスケーキが支給されることになったのである。
なにも、ケーキ屋に勤めているわけでも、スーパーやコンビニに勤めているわけでもない。
兎にも角にも、クリスマスケーキがタダで手に入ることになったのだ。
我が家に、クリスマスケーキが2ホール来る。
これは、大事件だった。
何せ、我が家は私と夫と幼児の3人家族。
どんなに甘いものが好きでも、ケーキは1ホールが限界だ。
家にホールケーキが2つあるという事態に遭遇したこともないので、ホールケーキ2つのことを2ホール(つーほーる)と言えばいいのか2ホール(にほーる)と言えばいいのかもわからない。
こうなってしまっては、
クリスマスにご近所にケーキを配り歩く妖怪と化すか、
家に客人を大量に招いて大クリスマスパーティーを開くしかなかったが、
残念ながら
ご近所にケーキを配り歩く気概は我々夫婦にはなかったし、
我々夫婦はクリスマスに客人を招いてクリスマスパーティーを開くほどの陽のパワーを持ち合わせていなかった。
しかし、ここで、ある1人の天才が革命的な案を思いつく。
「アイスケーキにすればいいんじゃね?」
その天才とは、この私である。
夫が会社から貰ってきたクリスマスケーキのパンプレットの中に、アイスケーキがあるのを発見したのだ。
1つはクリスマスに食べて、
もう1つは、冷凍庫で保管しておいて、年末の子どもの誕生日にお誕生日ケーキとして食べよう、ということになったのだ。
かくして、クリスマスケーキダブり事件は無事解決されることとなった。
3.レアな経験
8年ぶりに話すことか?これ?
と言いながら、
私は友達に上記の2つの事件を熱弁した。
友達は大変温厚で心の広い、優しい人である。(そのはずだ。でなければ、私の友達でい続けることは難しいだろう。)
そんなレアな経験、聞けて嬉しいよ、と友達は言ってくれた。
しかし、1番レアなのは、
8年ぶりにも関わらず、
こんな話を聞いてくれるような友達がいてくれることである。
ありがとう、友達。
これからもずっと友達でいてね。
今度話すときは、今回話し忘れた
図書館で財布を拾った話とか、遊び場の前で泣いて暴れる幼児をシールで調伏した話とかするね。