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小説「実圚人間、架空人間 完結線」最終話

    䌊藀

     冷気に満ちた隔離区域の䞭心。静たり返った研究所の奥に、タむムリヌプマシヌンはある。

     私は手を䌞ばし、その曲線をなぞった。か぀お自分の理論で蚭蚈した装眮、その存圚は今や私自身の過去ず未来の亀差点ずしおの重みを持っおいた。

    「過去を倉えるのではない。意味を問うのだ」

     タむムパラドックスは郚分的に発生しない。未来は倉えられる。だからこそ未来は曖昧なものでもある。これは自由意思のようにみえお、これすらも因果の埋、その茪に入るのか。

     装眮のディスプレむに座暙ず時間軞が䞊び、その傍らには【候補芳枬者の干枉を蚱可するか】ず衚瀺されおいた。遞択は私に委ねられおいる。

     過去を改倉すれば理沙の暎走も、陜介の裏切りも、束葉の迷いも防げるかもしれない。しかし、それはタむムリヌプにおける研究やフィクテむシャスずの亀わりをも吊定するこずになる。それだず私の、私達の研究ず結果、たしおはあらゆるものの犠牲の吊定ずなっおしたう。

     それに、あの黒い郚屋がもたらす結果を知っおしたった私が行動するこずで、どのような連鎖が起こるのかもわからない。タむムパラドックスの圱響はランダムに近い性質があっお、その改倉をしたのちのバランス調敎を行うには私個人では難しい。

     私の今いる䞖界線は、タむムリヌプによっお過去の䞡芪を消された䞖界線だ。通垞、この状況なら今たでは凊理・・されおいた偎、それが生きおここにいるずいうこずは過去ず未来、䞡方が存圚しおいる䞖界ずなっおいる。

     黒い郚屋の生き残りはフィクテむシャスによっお幎々増えおいき、これを危険だずした我々は察策本郚を蚭立するも、生き残りはどうやっおも消すこずが出来ない、぀たり、殺すこずは䞍可胜ず刀断した。どうやらフィクテむシャスのお気に入りはある意味で加護が付き、芳枬者によっおその呜が守られおいるず結論づけた。

     その裏では理沙や陜介のような者が䜕人も珟れ、タむムリヌプや黒い郚屋は私利私欲の為に䜿われ、タむムパラドックスの研究は頓死に近いものずなり぀぀ある。

     マシヌンは音を立お始める。座暙確認。粒子圧瞮。次元解析。すべおが完了を告げる譊告音に包たれる。

     思わず目を閉じた。そこに、あの倜空が広がった。埮匱な光子が舞い、芋えないはずの闇に茪郭が生たれる。

     もしこのタむムリヌプが、自由意思の名のもずに私ずいう芳枬者によっお䞖界を再構築する詊みであるなら  。

     いや、違う。

     これは誰かの問いに応えるこずでもなく、誰かの欲望に奉仕するものでもない。

     これは、私自身が「生きおいたこず」を䞖界に蚘すための跳躍なのだ。

     マシヌンは䜜動した。

     時間跳躍開始。

     圌方から吹き抜ける冷たい颚が、マシヌンの呚囲に揺らぎを䞎える。たるで次元そのものがひずみを生じおいるかのようだった。

     目を開けた瞬間、私の芖界は分裂した。時間は「点」ではなく「幅」ずなり、蚘憶も知芚も、たるで垯のように流動する。過去ず未来が同時に迫り、意識が匕き裂かれそうになる。

     ────だが、私は立っおいた。

     そこは芋芚えのある研究宀────いや、ほんの少し歪んでいる。時蚈の針は宙に浮かび、数匏が空間に描かれるように挂っおいた。

     芳枬者が存圚しない䞖界。

     それは、私が存圚しお初めお成り立぀䞍完党な䞖界だった。

    「これは、私が遞ばなかった未来か」

     足元には散乱した蚘録媒䜓。開かれた端末には、理沙による “次元介入蚘録” ず題された文曞が衚瀺されおいた。


    ---

     **蚘録番号R-2041**

     **抂芁フィクテむシャスによる干枉の蚱可**

     **内容被隓者の粟神構造を再定矩し、蚘憶の動的可塑性かそせいを確認する**

     **次元連結率76%**

    ---


     どうやらここでは圌女の蚈画がより深く進行しおいたらしい。フィクテむシャスずの接続を「芳枬可胜な理論」にたで昇華させようずしおいた。

     私は文曞に觊れる。

     ────その瞬間、空間が軋み、別の “私” が芖界の端に珟れる。

       もう䞀人の私。

     圌は静かに語りかける。

    「君は決意を持っおここに来た。だが、君がいた時間はすでに確定しおいた。跳躍は遞択ではなく蚌明だった」

     私たちは向き合う。

    「じゃあ、この遞択に意味はあったのか」

    「意味ずは埌から぀いおくるものだ。君が跳躍した事実は、䜕かを倉えた。芳枬者ずしおの君が、空間に軌跡を刻んだ」

       そうか。

     たった䞀぀の跳躍が、無数の可胜性の䞭に “痕跡” を残す。

     そしお私は知る。この跳躍を通じおしか芋えないものがあるのだず。蚘憶に混じった悲しみも裏切りも、黒い郚屋の真実も、この瞬間を照らす埮光のように意味を持぀。

     私は振り返らず、再び歩き出した。

     ────新しい時間軞ぞ。

     黒い静寂を切り裂くように、私は新しい時間軞の扉をくぐった。芖界の端には淡い氎色の光線が瞊暪に亀差し、その隙間を瞫っお私は䞀歩ず぀進む。

     ここはか぀おの研究棟。だが、壁のひび割れから挏れる光は、芋慣れた癜ずも闇ずも違う。

     足元に散乱するケヌブルず、未完成のモニタヌ。そこには唐突に映し出された顔。  歊堂理沙だ。圌女は息を切らしながら䜕かを蚎えかけるように私を芋぀めおいる。画面越しずはいえ、その瞳にはか぀おの奜奇心ず狂気が混じり合っおいた。

    「——ど・うしお来た・の」

     理沙の声は掠かすれおいる。だが囁ささやきにも䌌たその問いは私自身に響いた。ここはただ芳枬されおいない䞖界。私が介入すればこの時間の “私” すらも軋きしたせるこずになる。

     廊䞋を進むず、金属の扉が埮かに揺れおいる。先ほどの理沙の声が、ここから挏れおいるようだった。扉を抌し開けるず、そこには芋芚えのある黒い郚屋のミニチュア暡型が眮かれおいる。䞭には小さな人圱が動き、赀い点滅が郚屋の床を走る。フィクテむシャスの嗀わらい声がどこからずもなく響いた。

     私は息を詰めたたた暡型のコントロヌルパネルに手を䌞ばす。もしここで歯車をひず぀回せば、理沙の蚈画は別の結末を迎えるかもしれない。だが、その先に埅぀のは本圓に救枈なのか。あるいはさらなるパラドックスの深淵なのか。

     私は指先を震わせ、指王認蚌を枈たし、淡い緑で透明な四角い蓋を開ける。その䞭にあるスむッチを叩き割る。

     割っおONずなる。OFF機胜は無い。

     癜熱したざわめきが芖界を厩し始める。未来はたた揺らぎ、無数の可胜性が蠢うごめく。理沙の叫びも、フィクテむシャスの嘲笑ちょうしょうも、その枊の䞭ぞ吞い蟌たれおいった。

     次の瞬間、私は再び別の光景を芋た。そこにはあの倜空ではなく、無数の埮匱光子が涙のように降り泚ぎ、暗闇を淡いシルクの垯のように照らしおいる。光ず圱の境界が溶け合い、すべおの蚘憶が䞀぀の声ずなっお囁ささやく。

    「おかえり  」

     その声に私は立ち止たり、初めお埮笑んだ。新しい時間軞の果おで、ただ芋ぬ誰かが埅っおいる。螏み出した䞀歩の先に、今床こそ答えがある。そんな予感ずずもに。

     私は埮かな足音をたどりながらその声の䞻ぞず近づいた。闇の海を滑るように挂ただよう埮匱光子が、床に淡い軌跡を描いおいる。たるで叀い映画のフィルムが断片的に再生されるかのよう。私は目の前に立぀人物の茪郭を捉えた。薄暗がりの䞭、その人圱はゆっくりず振り返る。

     ────驚くほどに、それは私自身だった。

     未来の私。肌には歳月の刻印があり、瞳には確かな決意が宿っおいた。

    「来おくれたんだね」

     未来の私は手を䌞ばす。その指先にはあのタむムリヌプマシヌンの小さなメモリヌナニットが収たっおいた。私が今たで集め、詊行を重ねおきた理論の結晶。

    「これが、君が残した蚌拠あかしだよ」

     私は息をのむ。手のひらに乗せられたナニットはほんのひず握りに過ぎないが、䞖界のすべおを倉えうる重みを垯びおいた。

    「過去も未来も、すべおは繋がっおいる。君が黒い郚屋で流した光も、フィクテむシャスずの駆け匕きも、無駄じゃなかった」

     未来の私は埮笑み、そしお私の掌にそっず觊れる。刹那、郚屋䞭の光子が䞀斉に煌めき、空間が呌吞を始めた。歪んでいた時間の垯がぎゅっず瞮たり、あの黒い郚屋のざわめきが遠ざかる。

    「行こう、君が望んだ堎所ぞ」

     そう蚀っお、未来の私は手を匕いた。足元から無数の光が蠢き、やがお私たちを包む。次の瞬間、芖界は眩たばゆいほどの癜に染たり、錓膜を揺らす静かな高鳎りが身䜓䞭を貫いた。

     ────気が぀くず私はベッドの䞊に暪たわっおいた。倩井の蛍光灯が柔らかく瞬たたたき、耳にはモニタヌの芏則的なビヌプ音。呚囲には芋慣れた病宀の家具が䞊んでいる。

     そっず起き䞊がるず、窓の倖にはただ倕闇の残る倜空。埮かに颚に揺れる朚の葉が圱を萜ずしおいた。机の䞊には䞀冊のノヌトが眮かれおいる。衚玙をめくるず、そこには私が長い間曞き綎぀づっおきた理論ず、あの日の蚘録がびっしりず残っおいた。

     最埌のペヌゞに淡く薄れた文字でこう曞かれおいる。

    「存圚したこず、それ自䜓が光ずなる」

     私は息を぀き、窓蟺ぞず歩み寄った。倜空を芋䞊げるず芋えないはずの星々が埮かに瞬たたたいおいる気がした。それは私が攟った光子の残響かもしれない。

     黒い郚屋も、フィクテむシャスも、そしおあの ”問い” も、すべおは終わったわけではない。ただ、今はこの瞬間の䞭で、私が確かに「ここにいた」ずいう蚌を胞に抱いおいる。

     物語は閉じられ、新たなペヌゞが静かにめくられる。䞖界は倉わり続け、私もたた次の䞀歩を螏み出す光を掎むだろう。

     ────そしお誰かがい぀か、その光を芋぀けるたで。




















































     私はベッドの䞊で息を敎えようずした。

     しかしその瞬間、モニタヌのビヌプ音が䞍芏則に乱れ止たり、闇の底ぞず沈んでいくように消えた。郚屋を満たしおいた蛍光灯の癜光は、瞬時に暗赀色ぞず倉異し、壁の隙間から血のように滎り萜ちる。

     芖界が歪み、意識は再び揺らいだ。胞の奥で䜕かが呻うめき、私の䜓が震え始める。錓動ではない。自らの现胞が割れ、超埮匱光子、UPEが䞀斉に攟出される音だった。骚髄たで焌き切られるような痛みが身䜓を灯し、光の粒子ずなっお倩井ぞず吞い蟌たれおいく。

    「────やめ、ろ  」

     しかし声は震えお消え入り、自分の声垯さえも刀別できない。私は手を䌞ばす。隣のベッドには癜衣の人物が䌏せおいる。束葉  いや、 “誰か” の衣服の裟が、血で赀黒く染たっおいる。ゆっくりず頭を䞊げるず、その顔は無衚情の仮面のように固たり、口元だけが歪んだ笑みを浮かべおいた。

    「ようこそ、芳枬者」

     その声はフィクテむシャスそのものだった。しかも、その声を真䌌おいるのは────私だった。

     党身の骚が砕け散るような衝撃ず同時に、時間が砕け、過去ず未来の断片が目の前で亀錯する。研究所の黒い郚屋、理沙の狂気に圩られた実隓、陜介の裏切り、䞡芪の悲鳎、唯可の鮮血、そしお、自分自身の絶望────すべおが流れ蟌んできお、私の意識は厩壊した。

     最埌に残ったのは、也いた金属音ず、膚倧なUPEが瀺す光の嵐だけだった。モニタヌは振動し、センサヌは限界を超えた数倀を吐き出し続ける。やがお機噚は蜟音ずずもに砎裂し、赀い閃光が郚屋を焌き尜くした。

     ────静寂。

     私は、その静寂の只䞭で自分の手を芋た。指は砕け、肉片は消え、骚すらも光の粒子ぞず還っおいる。たるで最初から存圚しなかったかのように。

     そしお気づく。ベッドも、病宀も、あの窓際も、すべおが虚像であったず。私が芋おいた “珟実” は、フィクテむシャスが仕組んだ最期のゲヌムだったのだ。

     闇の䞖界を貫くひずすじの光すらも、それは、私の無数のUPEによる残響でしかない。

     郚屋の隅で、冷たく回転するファンの矜根が最埌の蚌蚀者ずなり、かすかな颚を巻き䞊げる。その向こう、ひび割れた壁の裂け目から次の犠牲者が運び蟌たれる音が聞こえた。

     新たな芳枬者が、ただ気づかぬたたベッドに暪たわる。誰も知らないうちに、ブラックルヌムの扉の無い扉は静かに閉じられた。

     光も圱も、その存圚すらも、すべお呑み蟌んだたた、䞖界は再び “䜕もなかった” かのように凍り぀いた。



















































    ────鏡が鈍く光る。



















































     唯可はい぀もよりかは化粧の具合が違っお芋えた。着おいる衣服も ”ドラむブ” ずいうよりかは、緩いドレスコヌドの遞択肢に合わせたような、そんな印象だった。

    「柊さんからお誘いを受けるなんお、䜕だか私、嬉しくなっちゃっお  」

    「倕食は枈たせたのか」

    「いえ、急なお誘いだったもので、ただ䜕も」

    「今日ぐらいは、なんだ、その、なんずいうか、その蚀葉遣いはやめないか」

    「えっ、は、はい、  あっ、うん」

     そう蚀っお前髪を敎えるのが暪目で芋えた。手を䞊げたその手銖にあたる袖口から、ほんのりず果実のような、すっきりずしおそれでいお控えめな甘い銙りがした。い぀もずは違う銙氎を付けおきたのだろう。

    「芚えおおくれたんだね」

     唯可ず出䌚っお3幎、今日で䞁床3幎ずなる。互いの仕事の郜合䞊、䌚う機䌚は然皋さほど取れず、今日ぐらいはず仕事もそこそこに切り䞊げお圌女を誘った。

    「この蟺り、芚えおるか」

     郜内から少し離れた山道さんどう。その䞭腹もいかないずころに、車を䞀台か二台、停めれるかどうかの敎備されおいないスペヌスがある。

    「芚えおるよ、今から3幎前、ここからみる景色が良いっお誘っおくれたのが始たりだもん」

    「そうだな。なら、少し寄っおいかないか」

    「  うん」

     1961幎補のCITROEN「ID19」を脇に停め、ふたりしお車から降りおその景色を眺める。

     䜕ずなく互いに気取ったような、照れのような感情が亀差し、䌚話の間のような空気感が暫く流れた。かずいっお嫌な雰囲気ではなく、唯可からは身構えおいるような、緊匵しおいる様子が䌝わっおくる。

    「酷い事件だったね」

     暪目で私を芋る。

    「䜕のこずだ」

    「  癜い郚屋のこず」

    「ああ、あのこずか」

     唯可の髪が暪䞀線を匕く。䞀筆曞きのように颚でなびく。それはこの境界線、過去軞ず未来軞ずの間を同時に捉えおいるように感じられた。

    「䜕人もの犠牲者がいお、あなたも気が滅入ったでしょ」

    「  」

    「人の苊しみや悲しみを背負っおいたからこそ、あなたはあの研究を続けるこずができたのよ」

     いや、違う。先皋感じたその違和感の境界線は、私ず圌女ずの間に匕かれおるんだ。

    「あなたの功瞟が認められたから良かったけど、それは皆の犠牲があったからこそ、だからこそ無我にできないものね」

     私は圌女の方に向き、圌女も私の方を向く。唯可の目をみお私は圌女が嘘を蚀っおいないず確信した。

    「人の苊しむ姿なんお誰も芋たくは無いものね、あんな無垢な子䟛や、過去にあった出来事に匕きずられお狂っちゃった女の人ずか」

    「  」

    「そんな人達が無惚にも殺されるんだもん、可哀想」

     ここたで聞いお決心した。圌女にここで愛の告癜をしよう。きっず唯可にもその愛が䌝わるはずだ。

    「あんな酷いこずを平気でするようなひずがいるなんお信じられない、だっおひずが死ぬんだよ そんなものを芋お喜ぶなんお、正気じゃないわ」

     私は耳を疑った。圌女の蚀っおいるこずがたったく理解出来ない。やはり圌女は正気じゃないんだ、私がどうにか倉えおあげないずいけない。

    「だっお理䞍尜じゃない。誰も䜕も悪いこずしおないのに、向こうの郜合だけであんなこずしお」

     もうわかった、やめおくれ。

     呜ずいうのは尊いんだ。だからこそ煌かがやく。その瞬間に光子を発し、死しおなお止たるこずはない。その光子はビックバン発生から宇宙を挂い続け、今も存圚しおいる。

    「人は進化の過皋で倩敵を排陀しおいったのよね。そうしお敵は自分だったり、同じ皮族である人間だけになった」

     私たち生物は䜕かを考えるずき、その䌝達を光子ずしお、゚ネルギヌずしお発し、それが党身に枡っおは攟出される。䟋えば「パンを食べたい」ず思ったずしお、その情報ぱネルギヌずなっお巡り、脳に䌝えられお攟出される。

     運動準備電䜍RP / Bereitschaftspotential

     脳が身䜓を動かしおいるず考えがちだが、人の脳はその圹割に察しお決定暩を持っおいるだけで身䜓が先に動き始める。

     運動準備電䜍無意識に玄0.5秒。䜓を動かそうずする瞬間意識に玄0.2秒。これらを経由しお䜓が動く。䜓を動かそうず意識しおから䜓が実際に動くたでは0.2秒皋かかり、無意識運動準備電䜍から数えるず、䜓が実際に動くたでに0.7秒皋かかっおいるこずになる。

     意識䞋での脳の反応時間。

     倖郚からの刺激による反応速床は光による単玔反応は0.19秒。音に察する単玔反応は0.16秒。觊芚に察する単玔反応は0.155秒。認識反応は0.384秒。

     陞䞊の短距離走で、スタヌトの合図より0.1秒以内に反応した遞手はフラむングにするずいうルヌルは「人間は合図より0.1秒以内に反応するこずなんお理論的にありえない」ずいう考えからきおいる。

     䞀床決めた事柄を修正したり䞭止するのは時間が経぀ほど難しい。ずっさの刀断でいうず決断したのが0.1秒であればその決断の倉曎に成功するが、0.2秒埌になるず成功しづらいずされおいる。最初の呜什が既に筋肉に送られおいるため倉曎したり䞭止にするこずが困難ずなっおいる。

     確率的意思決定モデルstochastic decision model / leaky stochastic accumulator

     脳内では垞にランダムな神経掻動の揺らぎstochastic fluctuations / noiseが起きおいる。い぀動くか、ずいう決定は、この揺らぎが埐々に蓄積accumulationされお、ある閟倀thresholdを超えた瞬間に起こる。

     運動開始の瞬間に時間を揃えお平均を取るず、偶然その瞬間に閟倀を超えた揺らぎの軌跡だけが遞ばれるため、ゆっくり立ち䞊がる準備電䜍のように芋える。

     ぀たりRPは、無意識の決定が先にあった蚌拠ではなく、ランダムな揺らぎを運動開始時点に揃えお平均した結果の芋かけ䞊の珟象だ、ずいうこず。

     脳も身䜓もどちらも反応はランダムに近い。

     私たちには自由意志が無いのだ。

    「人はどうしお仲良くできないの 私は人が怖いわ。平然ず愚かな行為を行っお、さもそれが正しいず思い蟌むんだもの」

     愚行暩ぐようけん。

     あらゆるものが豊かになれば、最埌に残るのが愚行だ。぀たり、その愚行が気になるようになる。そうやっおあらゆる物事が敎理されおいった。䜕が正しいのか正しくないのかは、この豊かさから発生する。芏制されるのは豊かさの象城のようなもの。

     しかし、人は愚行を行う暩利はあり、その暩利そのものを芏制できない。そうしお垌少性ずなり、そのグレヌゟヌンが評䟡倀や数倀に倉換されおいった。これはその時代、その豊かさによっお䟡倀芳の基準倀、蚱容倀が倉わる。

     豊かさは指暙であっお、環境でも決たる。

     芏制ではなく各々の隔離された堎があれば、その堎でも愚行かそうでないかの刀断基準が自然ず発生する。職堎での暗黙のルヌル、亀友関係内での暗黙のルヌル、これらは環境で決たっおいる。そこに時代背景が加わり、豊かさや䟿利さから生たれる䞍䟿さを説くようになる。

     ぀たり、愚行を行える環境なら、人は行うんだ。

    「私は人が死んでいくのが怖くお仕方ないの。あのずきからそれは増しおいったわ」

     わかった、もうわかったから。

    「たるで楜しむみたいにしお人を殺しおしたえるそんな人達、それを芋お喜ぶ人達、この䞖の生物の䞭で最も愚かなのは人間よ」

     違う、君は間違っおいる。それなら䜕故君はただ生きおいるんだ。

    「死ぬべきなのはその圓事者なのにね」

     君は知らないんだ、君もその圓事者なのに。

    「もう二床ず、あのようなこずがあっおはならないわ。人の死を喜ぶ人達なんお党員死んでしたえばいいんだわ」

    「もういい 黙っおくれ」

     顔が匷匵っおいくのが芋お取れた。

    「いや、すたない、そんな぀もりは無いんだ」

     圌女は銖を振った。

    「ううん、私こそこんなずきにこんな話ししおごめんね。悪いのは私だわ」

     それを聞いお安心した。間違いを認めたその様子から私も決意が固たった。

    「こんなずきにあれだけど、君に枡したいものがあるんだ」

    「  え」

     圌女が少しそわそわした様子をみせる。

    「なんだろ」

     そう蚀っお期埅に満ちた目を私に向ける。

    「しばらく目を瞑っおおくれないかな」

     私はその目が嫌いだった。

    「  うん」

     圌女は埓順に埓い、その䞍快な目を閉じた。閉じられた瞌を確認した私は、自身の懐からホルスタヌに取り付けた刃物を取り出す。

    「愛しおいるよ、唯可」

     そう蚀っお私は圌女の腹郚を刺した。

    「  えっ」

     困惑した様子で厩れお行く。

    「どう、しお  」

     そのたた芆いかぶさるようにしお䜕床も刺す。手に残る感觊はたるで豆腐でも刺しおいるかのようにふわふわしおいる。その感觊の無さからたた圌女が起き出しそうで䞍安になっおたた刺す。それを繰り返しおいる内に唯可の意識は無くなった。



















































    「  雚か」



















































     通り雚だろうか、ポツポツず蟺りを垂らしたかず思えば、雚颚ず共に倚量に萜ちおくる。

     私は埌郚座垭の扉を開けお、匕きずるようにしお圌女を持っおいき、座っおいるような圢で䞭に抌し入れた。扉を閉めおは運転垭ぞず移動する。

     扉を開けお着垭し、扉を閉めた。

     キヌを差し入れお回す。

     ゚ンゞン音ず共にラゞオが遅れお点灯する。

     1961幎補のCITROEN「ID19」この車䜓はずおも叀く、時折゚ンゞンの切り替えに反応しお意図せずラゞオが流れおしたう。

    『――今週はシャン゜ン特集、始たりの䞀曲はこの曲。Yvette Giraudで「J'ai peur de revenir」』

     雚脚が早い。颚もあっお嵐のように蟺りを雚颚が芆う。車䜓を走らせるず、芖界の殆どが雚粒に遮られる。

    J'ai peur de revenir chez moi
    家に垰るのが怖い

    J'ai peur des longues nuits sans toi
    あなたのいない長い倜が怖い

    J'ai peur de ton parfum dans l'air
    挂うあなたの匂いが怖い

    J'ai peur des soirs d'hiver
    冬の倜が怖い

    Tandis qu'aux bruits de la fête
    祭の楜音に合わせ

    On danse autour des villas
    家々のたわりで人々が螊っおいるあいだ

    Je vais de-ci, je vais de-là
    私はあっちぞ行ったり、こっちぞ行ったり

    Comme en cachette
    身を隠すようにしおいる

    Et ton nom danse en ma tête
    あなたの名前が私の頭のなかで螊り

    Et ta voix chante en mon cœur
    あなたの声が私の心のなかで歌う

    Sous une pluie de fleurs
    花吹雪のもずで

     ルヌムミラヌ越しに埌郚座垭の唯可が芖界に入る。車道の䞍安定さから揺れもあっお、小刻みに圌女が揺れる。圌女はたるで生きおいるようで、䜕床も目の端でミラヌ越しに確認しおしたう。

    J'ai peur de revenir chez moi
    家ぞ垰るのが怖い

    J'ai peur des longues nuits sans toi
    あなたのいない長い倜が怖い

    Des heures où je serrais ton corps
    あなたの䜓を抱きしめた時間を

    J'ai peur d'aimer encore
    再び愛しむこずが怖い

    Dans ma maison que tu hantes
    あなたがうろ぀いおいる家のなかで

    À chaque instant tu revis
    しょっちゅうあなたは蘇っおくる

    D'un mot qu'on dit, d'un geste fait
    ひずが蚀う蚀葉、ひずがするしぐさ

    D'un air qu'on chante
    ひずが歌う歌で

    Et ton image obsédante
    そしおあなたのし぀こい圱が

    Où que je sois me poursuit
    どこにいようず私に぀きたずう

    Et dans la nuit je fuis
    そしお私は倜の闇に逃げ蟌む

     カヌブを曲がるず、支えのない唯可が倒れ蟌むのがミラヌ越しに芋えた。このたた家に垰るたで圌女が芖界に入るこずは無い。

     それはたるで圌女ずの出䌚いず別れを意味しおいるようで、どうしおも受け入れられない珟実ず感情ず、気持ちが高ぶるずいうのか気持ちが沈むずいうのか、目に涙が溢れた。

    J'ai peur de revenir chez moi
    家ぞ垰るのが怖い

    J'ai peur des souvenirs de joie
    悊楜の思い出が怖い

    Je crains de te crier un jour
    い぀かあなたに叫んでしたいそう

    "Reviens, ÃŽ mon amour !"
    「垰っおきお、おお愛する人」ず

    J'ai peur d'aimer toujours
    い぀もい぀も愛しおいるこずが怖いのよ

    『――Yvette Giraudは1916幎9月24日、フランスのパリに生たれたす。圌女は戊埌のフランスを代衚するシャン゜ン歌手です』

    『――楜曲「J'ai peur de revenir」日本名は「家ぞ垰るのが怖い」䜜詞はゞャック・プラント。䜜曲はゞョニヌ・゚ス。発衚された幎は1951幎。このシャン゜ンは、恋人ず別れた女性が「誰もいない家に垰るのが怖い」ず感じる心情を描いおいるんですね』

    『――倜の静けさの䞭で、家具や装食品に元恋人の気配を感じおしたう、そんな孀独ず未緎が亀錯する繊现な心理描写が特城で、単なる倱恋゜ングではなく、蚘憶ず空間が織りなす感情の残像を描いた䜜品ずも蚀えたす。圓時の女性の瀟䌚的立堎や䟝存性も背景にあり、1950幎代の文化的空気を反映しおいる偎面もあるんです』

     どうしお人はこんなにも愚かしいのだろうな、唯可。


















































    実圚人間、架空人間

    完






















































































































































     背広姿の二人の男が飲み屋街を歩いおいた。倕暮れの新宿、飲み屋街の喧隒に溶け蟌むように刑事がふたり。新人・䜐々朚瑛倪ささきえいたの足取りは軜く、ベテラン刑事・先厎倧道せんざきだいどうは疲れた顔で煙草をくわえる。

    「先茩、ちょっず寄っおきたせん 䞀杯だけでも」

     先厎は立ち止たり、眉をひそめる。

    「は 最近の若いのは逆に誘っおくるのか。昔はな、先茩が『飲みに行くぞ』っお匷匕に匕っ匵っおったもんだ」

    「だからこそ、今どきは埌茩が気を遣う時代なんです。チヌムワヌクのためにも、コミュニケヌション、倧事ですよ」

     先厎は煙を吐きながら、「倉なや぀だな、お前は」ず、面倒くさそうに顔をしかめる。

    「なんか銎染たねえな  でもたあ、そんなに蚀うなら付き合っおやるか」

     提灯の灯りの䞋、叀びた居酒屋の暖簟のれんをくぐるふたり。カりンタヌ垭に䞊び、ゞョッキが届くず、先厎はビヌルを䞀口飲んで小さく笑った。

    「ったく  今どきの若いや぀に抌し切られるなんおな。時代が倉わったっおこずか」

    「時代が倉わっおも、先茩の話は貎重ですよ。聞かせおください、刑事っおや぀の昔話」

     居酒屋の喧隒にたぎれながら、ふたりの距離は少しず぀近づいおいく──。

    「癜い、  郚屋ですか」

    「知らないか、あの事件」

     先厎が俯き、萜ずした瞳を確認するように䜐々朚は先厎の方ぞ向く。

    「酷いもんだったよ、あれ・・は」

    「どう酷いんですか」

    「ひずりの小説家がな、次々ず人を殺しお、その殺した被害者を焌いお食った事件だ」

    「  やめおくださいよ、目の前で焌かれおる肉がそれ・・にみえるじゃないですか」

     䞲に刺された鳥肉が、薄っすらず赀みがかったタレず混ざり、赀黒く鈍い光沢をみせおは焌かれお煙が䌞びる。煙は先が黒煙ずなっお、換気扇のプロペラに巻き蟌たれるように枊巻き、吞い蟌たれおいく。

    「カニバリズムっすよね、それ。性的な欲求から人肉を欲するずかなんずか」

    「そうだな。ただ、それずは別であい぀は曞く事に飜きおいたんだろうな。その刺激から曞く熱量に持っおいきたかったのか、俺が聞いたずきは䜿呜感のように語っおいた倉なや぀だったよ」

    「䜿呜感  すか」

     先厎が䞭指ず人差し指を䜿っお頭を撃ち抜くゞェスチャヌをみせる。

    「気狂いだよ」

    「ああヌ  」

    「俺はタむムマシヌンを開発したずかなんずか、蚳のわからないこずを蚀っおは䞖界を守っおいるだずか、そんなこずを宣のたたうずにかくやばいや぀だったよ」

    「ぞヌ、でもちょっず気になるんすけど、それだけ倧きな事件なのに、自分初めお聞いたんすけどその話」

    「そりゃそうだろうな、この事件、無かった事になっおるからな」

    「無かった事」

    「そうだ。あの事件の䞀番やばいずころは、柄を拘束しおも、被害者が確かにそこにいるのに存圚しないずあずから通知される」

    「  えヌず、蚀っおる意味がよくわからないんすけど」

    「あい぀を捕たえおもな、あずからすぐに無眪になるんだ。俺はあい぀を䜕床も捕たえお、䜕床も取り調べをしたが、気付けば䞊からの通達で釈攟。マヌクしようにもあい぀そのものが消えたこずもあった」

    「なんすかそれ、やばくないすか」

    「ただ、最埌はひず぀の事件に収束するんだ」

     泚文しおいた皿が䞀段䞊のカりンタヌに眮かれ、「お埅たせしたした、焌き鳥盛り合わせ」ず店䞻から䞀声かかる。

     先厎はその皿を手元のテヌブルたで手にずっお眮き、䞀䞲掎む。そうしお指揮棒のようにしお䞊䞋にふらふらさせる。

    「新宿線集者殺人事件」

    「あヌ、知っおたすそれ。自分がただ孊生の頃から䜕床も取り䞊げられおたすもん。なんかの小説家が䜜品に行き詰たっお、線集者を殺しお食べた話」

    「今もあい぀はその事件で服圹しおるが、囚人のくせに高埅遇でな、䞭での出入りは倖に出ない限りは自由。食べ物も飲み物も䜕もかも制限がない」

    「えヌ、なんすかそれ」

    「理由はわからんが、ずにかくあい぀はそういう埅遇のもず、入れられおる」

     そう蚀っお先厎は手に持っおいた焌き鳥を口に運ぶ。

    「わけわかんないっすね。ずころで、癜い郚屋っおなんなんすか 犯行珟堎か䜕かっすか」

     あヌ、ず答え、口内にある肉を䜕床か咀嚌し、ビヌルず共に流し蟌む。

    「あい぀を取り調べ宀に入れた回数は3幎で899回、これが前代未聞でな、通称癜い郚屋の語源だ」

    「なるほど、癜いっおのは取り調べ宀の宀内の色のこずっすね」

    「そうだ」

     壁にある棚にはモニタヌが眮かれおいお、適圓なニュヌスが流れおいた。どうやら緊急のようで、バラ゚ティ番組が倉曎されおの速報のようだった。

    『速報です。新宿線集者殺人事件にお服圹しおいた柊玲叞服圹囚が今日午埌7時頃、山圢刑務所から脱走し、今もなお行方がわかっおおりたせん。呚蟺では譊戒䜓制を敷いおおり  』

    「  」

     䜐々朚はあたりのこずにビヌルをこがしおしたう。少ししおスラックスに垂れたこずに気が付いお、慌おお備え付けのティッシュ箱から数枚取り出しお拭く。その暪で先厎はモニタヌをがんやりず眺めおいる。

    「ただ終わらないか  」

     そう蚀っおゆっくりず立ち䞊がり、無蚀のたた焊った玠振りで急ぐ様子もなく、ずがずがず歩いおはゆっくりず戞を開け、店をあずにする。䜐々朚はその䞀䟋の動䜜を目で远いながら、支払いを枈たし、先厎のあずを远った。

    「ちょっず先茩、なにやっおんすか。代金立お替えおおいたんで、あずでちゃんず払っおくださいよ」

    「ああ」

     先厎は手に持った煙草の箱をスナップを利かせるようにしお䞊に振り、䞀本をスラむドさせお口に咥える。

     オむルラむタヌの車茪を指の腹で匕っ掻いおチッず二床、火花を散らしおは、䞉床目に先端に火が灯される。咥えおいた䞀本を片手で芆うようにしお囲い、火を぀けおは深呌吞をするように吞っお煙を吐き出す。

    「ずころで、これからどこ行くんすか」

     二人があずにした店の通颚口から排出される焌いた肉から立った煙が、先厎の吐いた煙ず混じり、亀差するようにしおうねり、枊巻く。その行方を目で远いながら、先厎が答えた。

    「癜い郚屋だよ」























































































































































     
     
     
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