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空へのメッセージ

    雨上がりの夏の午後、小さな駄菓子屋の軒先で、白髪の老人・武田さんが子どもたちにシャボン玉を教えていました。

    「よし、そうそう。そっと息を吹き込むんだ」

    武田さんの指導で、小学校3年生の雪乃のシャボン玉が大きく膨らみ、ふわりと空へ舞い上がりました。屋根を越え、青空へと続く虹色の小さな球。

    「わぁ、屋根より高く飛んだ!」

    雪乃は目を輝かせて追いかけますが、シャボン玉はすぐに割れて消えてしまいました。

    「消えちゃった…」少し寂しそうな顔で戻ってきた雪乃に、武田さんはやさしく微笑みかけました。

    「シャボン玉はね、生まれてすぐに消えるからこそ、美しいんだよ」

    子どもたちは首をかしげます。

    「昔、僕にはミチコという姉がいたんだよ。病気で長く外に出られなかったんだけど、窓から見えるシャボン玉が大好きでね。僕が下でシャボン玉を飛ばすと、姉は二階の窓から手を振って喜んでいたんだ」

    武田さんは少し遠い目をして続けました。

    「ある日、姉は僕に言ったんだ。『シャボン玉が空に昇っていくのを見ると、私の願いも一緒に届くような気がするの』って」

    雪乃は真剣な顔で聞いています。

    「それからというもの、僕はよくシャボン玉に姉への手紙を入れるふりをして飛ばしたよ。『今日も元気でいてね』『早く良くなりますように』って」

    「シャボン玉に手紙が入るの?」

    「そうさ、目には見えないけどね」武田さんはくすりと笑いました。「みんなの『ありがとう』や『大好き』といった言葉も、シャボン玉に乗せて大切な人に届けられるんだよ」

    その日から、駄菓子屋の前では毎日のようにシャボン玉が飛ばされるようになりました。子どもたちは思い思いのメッセージをシャボン玉に込めて飛ばします。

    雪乃もおばあちゃんへのメッセージを込めて、大きなシャボン玉を吹きました。それは風に乗って、ふうわり、ふうわりと高く舞い上がっていきました。

    季節は巡り、雪乃が高校生になったある夏の日、懐かしい駄菓子屋を訪れると、そこには武田さんの姿はなく、小さな花束が置かれていました。

    「武田さん、先月亡くなったんだよ」と店主が教えてくれました。「最期まで『シャボン玉のおじいさん』だったよ」

    雪乃は新しい店主さんからシャボン玉のおもちゃを買いました。駄菓子屋の前に立ち、そっと息を吹き込むと、七色に輝くシャボン玉が空へと昇っていきます。

    「ありがとう、武田さん」

    風が優しく通り抜けていく中、シャボン玉はしばらくふわふわとただよい、そして、パチンと割れました。

    武田さんに届いたかな、今の店主さんもやさしく微笑みました。


     
     
     
    多様なジャンルを横断し、AI・アート・ビジネス・歴史を多面的な視点で描く、だたいま作家修行中。 Kindleで2冊の本を上梓。

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