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場所限定の能力者



昨年末、長きに渡って使っていたトイレが壊れた。

タンクの中の部品が、5年前に製造中止になっていたらしく、やむなくさよならすることになった。

そして我が家に、新しいトイレがやってきた。

新しいトイレには、別になくてもいいやろ……というような機能がついていた。

それが、

「自動で便器のフタが開閉する機能」

最初は、

「いや、いらんやろ、こんな機能」

と思っていた。

ところが、使いだすと、これがなかなか便利。

慣れてくると、

「あってよかったな、この機能」

と思うようになった。

でも、たぶん私が「あってよかったな」と思うところと、他の人が思うところは違う。

もちろん便利なのだが、私が思う一番よいところ。

それは、

「能力者になった気がするところ」

だ。

最初は普通に、フタが勝手に開いて便利だな、くらいに思っていた。

ところが、ある日突然、

「これ、手を伸ばしてみたら、ちょっと能力者っぽくないか?」

と思ってしまった。

そして、ある日のトイレ掃除。

やってしまった。

はっ、と手を伸ばす。

すると、その手の先で、

「ウィーン」

とフタが上がる。

……ちょっと嬉しい。

小さい頃、みんな一度くらいは思ったことがあるんじゃないだろうか。

魔法使いになりたい。

特殊な能力を使ってみたい。

私は今、それをトイレで体験している。

もう50も過ぎている。

それでも、ちょっと面白くなって、掃除がはかどった。

たまに、そばについてくる猫にもやってみせる。

「ほら、見て!動かさずに開けられるで」

猫はもちろん、なんの興味も示さない。

ただ、おばちゃんの奇行にも、どことなく優しい眼差しを向けているような気がする。

しかし、このことは家族には言えない。

50も越えて、トイレで手をかざしてフタを開けて喜んでいるなんて知られたら、

「痛い、、なんならやばい人」

と思われるのは目に見えている。

でも、いくつになっても、こういうことをやりたくなる気持ちは止められない。

横断歩道の白線を踏まずに歩く。

落ち葉がいっぱい落ちていたら、サクサク音が鳴るように踏んで歩く。

水辺で石を見つけたら、水切りをしてみる。

別に、やらなくてもいい。

誰に頼まれたわけでもない。

それでも、ついやってしまう。

たぶん、今回の「トイレで能力者ごっこ」も、その延長なのだ。

そして、これでちょっと楽しく過ごせるなら、何の問題もない。

誰にも強要していない。

誰にも迷惑をかけていない。

私だけの、密やかな楽しみなのだから。

今日も私は、能力者として生きていく。

場所限定だけどね。

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