
狼は旅に出た
自分のことを守るには、心を閉ざすしかなかった。
気を許して隙を見せたら、心をグサグサに刺してくる悪いやつがいるから。
立ち直れなくなったら、社会からドロップアウトしてしまう。
だから、分厚い殻の中に閉じこもって、徹底抗戦。その場に“いる”ことで、社会との繋がりを保っていた。
どれだけ分厚い殻に籠っていても、力強い一手を射られれば、ダメージを受ける。殻を破って、グサッと刺さる矢で心身は傷つく。
怖かった。痛かった。長かった。そしてひとりぼっちだった。
心は凍ったように冷たくなり、狼は誰も信用できなくなった。
何年も何年も冷たい目で世界を眺め、凍った心で世界を生きた。
ある日、狼の心はバリっと割れて、完全に砕けた。おいしいも、幸せも、何も感じられなくなった。
殻に籠る元気も無くなって、ここぞとばかりあびる集中砲火。
血まみれの身体でぐったりと横たわり、切れ切れの息をする。
苦しい以外の何も感じない。もう、何もかもを終わらせて、楽な世界へ行きたかった。
首を絞める手にグッと力を込めたとき、後ろから優しくハグされた。
狼が人間の温かさを知った瞬間だった。
長年凍っていた心に火が灯る。
氷河期が終わり春がきた。
あと10年生きてみよう。自分らしく、楽しく。
狼は、泣きながら決意した。
思い出なんてない自分の人生に、思い出の花を咲かそうと、自分の人生を取り返そうと、必死に生きた。
楽しく、わくわくする道を選んで。
生きると決めた最後の年、世界一周の旅に出た。
どこか投げやりな気持ちで、
それでいて強くなりたくて、
そして、自分の人生を謳歌したくて。
もしかしたら、それは壮大な自殺未遂だったのかもしれない。
でも、それでもいいの。
まだ知らない世界のどこかに、希望があるかもしれない。命をかけて、旅しよう。
自分の人生に花を咲かせるために。