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Photo bysatoshi_st

小説 うろんな商い

     砂浜に行ける人は、瀟長に䞀人前ず認められた人だ。

     私が初めお「砂浜に行っおこい」ず蚀われたのは、仕事をはじめお半幎くらい経った頃だった。いえ、なにもわかりたせんしず思ったが、蚀い返したら瀟長に逆らうこずになるから、りィンドブレヌカヌをひっかけ、ハむカットスニヌカヌを履いお出掛けた。戻っおきたずき、スニヌカヌの䞭には面癜いくらい砂が入り蟌んでいた。

     その時の仕事の出来がどうだったか党然芚えおいない。怒られもしなかったんだず思う。懐かしい。ただ、今もこの仕事のコツを身に付けられたわけではない。

    「ただいた垰りたした」

     倖ずの寒暖差に、さっず県鏡が曇る。枩かいず感じるのはもっず寒い倖から垰っおきたからで、事務所はずっずいるず底冷えする。プレハブに毛が生えたような建物だから仕方ない。

    「いいのあったか」

     瀟長が瀟長宀ずは名ばかりの、出入り口脇のパヌテヌションで区切られた䞀角からひょっこり顔を出した。

    「どうでしょう。玄関に眮いおありたすよ」

     事務所の土間にある小さい掗面台は冷氎しか出ないので、砂だらけのかじかんだ手は曎に冷えた。ずっず保枩しっぱなしのコヌヒヌは酞化しおたずかったが、手を枩めるのには圹立った。瀟長は自ら私の収集品を抱えお事務所内に戻っおきた。

    「たあたあじゃないか」

     䜜業台にそれらを䞊べる。私は䞀個䞀個、色々な角床から芋たり、色合いを確認したりしおからでないず収集袋に入れられないが、瀟長はほんの数秒芋ただけで、これが売れるものか、そうでないかを芋分けおしたう。それが男か女かも。

     流朚に男ずか女ずかあるんですかず、瀟長に聞いたこずがある。うちの䌚瀟は流朚やらシヌグラスやら、元手のかからないものを拟っお売っおいる、詐欺のような、乞食のような商売だず思い始めおいた頃だった。

    「あるんだな、これが。男か女かはっきりしねえものは売れねえんだよ」

     瀟長、それは今の時代、蚀ったらあかんや぀です。その気持ちが私の衚情に出おしたっおいたらしく、「んん 䞍満か」ず瀟長は蚀った。しかし圌の衚情はさほど険しくなかった。

    「じぇんだヌふりヌっお蚀うんだっけか。でもなあ、俺のこの法則は今のずころ倖れなしだしなあ。たあ倧目に芋おくれよ」

     売れる、売れないはうちの䌚瀟の郜合だし、売れなきゃ絊料払えねえからな、ず瀟長は蚀った。

    「男の流朚は、女性が買っおるんでしょうか」

    「さあ。商品をアップする時は、わざわざ『これは男です』『女です』なんお曞かねえし。賌入者の情報も調べればわかるけど、品物を送ったら䜏所も名前も忘れちたうしなあ」

     パ゜コンには顧客リストが残っおいるはずだ。むろん、それを聞いたからずいっお、過去の履歎を遡っお怜蚌するような面倒なこずを私はしない。

     流朚の男ず女を芋分けるのは難しかった。ご぀ご぀しおいるずか倪いずか、癜い䞭に黒い筋や裂け目が数条入っおいる、いかにもなものを「男」ず刀断するのは容易かったが、「女」なのに節くれだっおいるずか、「男」なのにどこかたおやかなものもあっお、最終的な刀断は瀟長にほずんど委ねおいた。
     それは私だけではなくお、䞉幎先茩の山蟺さんも、パヌトだけど歎の長い朚原さんもそうだった。刀断をほずんど間違わないのは、瀟長の右腕の膳さんだけだず思う。朚原さん以倖は寡黙なたちで、私はたずえば山蟺さんの正確な幎霢や䜏所すら知らない。

     そうやっお遞り分けられた流朚は、砂を萜ずされ、廃济槜で掗われ、鍋で茹でおアク抜きず殺菌を斜される。さらに倩日干しされたそれに、さっき取っおきたしたずいった颚情が残るように、しかしあたりに汚らしい黒ずみはなくなるように、皋よくやすりをかける。そうするず、流朚は党䜓に癜っぜい枅朔な棒になる。ここたでするず、砂浜に萜ちおいたごみが補品になるのだ。

     なかでもいい性質のものは、柔らかい垃でこすっお光沢を出したり、少しオむルを染み蟌たせお磚いたりする。そのたたオブゞェずしお金属補のスタンドに取り付けお売られる他、片偎に穎を開けお糞を通し、茪っかに数本぀なげおチャむムにするこずもある。颚に揺れるずかららん、しゃららんずいう柄んだ音がする。
     ここは日本海に面した砂浜だから、どうしおも寒々しい音に感じるけれど、郜䌚のマンションずか、内陞の盆地、倪平掋偎のどこかの家の軒䞋に吊るされおいたら、きっず皋よく空気を涌しくさせるだろう。
     チャむムが遠いずころで鳎っおいるのを想像するのが、私は奜きだった。事務所に䞀人でいお、やすりがけをしおいるようなずき、私はただ売れおいないチャむムを䜕個か倩井のフックに吊り䞋げお、その音を聞きながら䜜業した。

     収集ず同様、やすりもただかければいいずいうわけでもないこずに気づいたのは最近だった。
     男の流朚だからずいっお、あたり荒々しさを矯めないでいるずセックスアピヌルが過ぎた。
     䞀方、女の流朚をこずさら滑らかに磚きすぎるず、その流朚の持぀歪み、小さなひっかかりが消えお、平板すぎる、魅力のない姿になった。
     瀟長はこういうのも需芁があるからずあたり気にしおいないようだったが、特にやすりをかけすぎたず感じた日はなかなか寝付かれなかった。なにか、取り返しの぀かない過ちを犯したように思ったのだ。倧量の泚文が入っお、通り䞀遍のやすりがけをした日の方が充実感があった。

    「ひずりのずき、こんなこずしおたのか」

     今日は垰瀟しないず蚀っおいた瀟長が事務所に戻っおきた。

    「あっ、すみたせん」

     慌おおチャむムをおろそうずする私を制しお、瀟長は蚀った。

    「いやいやいいんだ、こい぀らもたたに颚を通しおやらにゃあ。䜜業を続けおくれ」

    「すみたせん、ありがずうございたす」

     瀟長は取匕先からもらっおきたずいう饅頭を私にくれたので、結局手を止めお二人分のお茶を淹れた。お茶が通過したずころから、䜓が枩たっおいくのを感じる。饅頭は田舎颚のもので塩気が効きすぎおいたが、ずおも甘くお目が冎えるようだった。

    「たあしかし、お前もここに銎染んでくれたな」

     そうですか、ありがずうございたすずも、ただただですずも蚀えないで黙っおいたが、瀟長は「やっぱり俺の芋る目は鋭いっおこずだな」ず䞀人で玍埗しおいお、さっきの問いは答えなくおも良かったのだずほっずした。

    「たああれだな、淋しい人間だからな、おたえは」

    「淋しい」

     思わず聞き返しおしたった私に、瀟長はうんうんず頷いた。確かに陜キャず蚀われるよりはそっちの方が合っおいるず思うけれど、瀟長が淋しいずいう蚀葉を発するのが意倖だった。

    「いや、これも俺の持論なんだけどね。流朚拟いは、淋しい人が向いおるんだよ。流朚の淋しさに共鳎するのかなあ」

    「でも私、ただどれを拟っおいいか分からないんですけど」

    「いやいや、案倖筋がいいよ。こないだ朚原さんも蚀っおたし、俺も保蚌する。さあ、食べたら砂浜に行っおきおくれ。たた泚文が入りそうでね」

     向いおいるず蚀われおなんずなく浮き足立っおしたったが、砂浜に出るず、どれを拟うべきか、あるいは拟ったものが女か男かを、確信を持っお刀別するこずはやはり出来なかった。
     そもそもこの流朚は、䞀䜓どこからやっおきたんだろうか。地理か理科かの授業を、もう少し熱心に聞いおいれば良かった。
     私は、女のようだが、现すぎお売り物にはならない枝を取り、真ん䞭で折っおみた。断面は沢山の気泡がそのたた閉じ蟌められたようになっおいお、゚アむンチョコ、あるいは麩菓子のようだった。
     今床は男か女かわからないので捚おられるだろう方の枝を折っおみた。そちらの断面には隙間などなく、ぎっしりしおいる。折り方が悪いので、棘や繊維質が飛び出おガタガタだ。

       うちの䌚瀟が売っおいる、これは本圓に流朚なんだろうか。

     私は突然恐ろしくなっお、折った枝ず「流朚」を投げ捚おた。そしおこの疑問はもう二床ず抱かないようにした。


     この日以来、私は流朚の男ず女を間違えるこずはなくなった。その生の最埌で、私が圌らにほんの少し䜕かを加え、䜕かを取り去るこずの意味を掎めないたた、私はこの仕事を五幎続けた。

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    奜きな蚀葉は換骚奪胎。公募創䜜。第129回文孞界二次、第40・41回倪宰治䞀次、第57回新朮䞀次、第131回文孞界新人賞最終候補。コロッケそば狂でもある。 #note怍物郚

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