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幸福は「Happiness」か「Well-being」か?

    言語間で異なる「幸福」の意味

    幸福度への関心は、近年世界的に高まっており、幸福度に関する研究も隆盛となっています。
    ところが幸福に限らず、すべての言語間で用いる単語の意味が完全に同一でないように「幸福」あるいは「幸せ」と訳される各言語の単語も、意味合いに微妙な違いが見られます。
    たとえば、デンマーク幸福研究所のマイク・ヴァイキンクによると、
    デンマーク語の「Jeg er lykkelig」と、英語の「I am happy」は、どちらも「私は幸福です」という意味を持つそうですが、デンマーク語の「lykkelig」は「半ばタブーと呼べるほど大げさな表現 」だそうです。
    (出典:マイク・ヴァイキング『デンマーク幸福研究所が教える「幸せ」の定義』、枇谷玲子訳、晶文社、2018年、p.19)

    幸福は「Happiness」か「Well-being」か?

    明治初め「Happiness」の訳語が「幸福」に

    下記の記事で明治の初めに「Happiness」の訳語に、当時の新語である「幸福」が当てられたということを述べました。

    記事→「『幸福』『幸せ』という言葉はいつ頃生まれた?その起源」

    昨今米国では「Chief Happiness Officer(CHO)」がGoogle、Microsoft、Appleをはじめ多くの企業で設置されるようになっています。
    これは、従業員の幸福度やワークライフバランスを向上させるための責任を持つ役職を指しますから「幸福」を「Happiness」とすることには妥当性があるとは思います。

    今日、「幸福」に対応する英単語として注意が必要なのは、
    「Happiness」と「Well-being」でしょう。
    どちらも「幸福」あるいは「幸せ」という日本語訳が当てられます。
    「Well-being」の訳語としては「幸福」とともに「福利」という訳語も用いられます。

    「Well-being」は新しい言葉

    「Well-being」という言葉は、英語でも比較的新しい言葉です。造語と言ってよいでしょう。
    「Well-being」という言葉が広まるきっかけになったのは
    『世界保健機関(WHO)憲章(1946年)前文』に用いられたことによります。それまで「Well-being」という言葉自体、一般に用いられていなかったようです。

    世界保健機関憲章前文 (日本WHO協会仮訳)
    THE STATES Parties to this Constitution declare, in conformity with the Charter of the United Nations, that the following principles are basic to the happiness, harmonious relations and security of all peoples:
    この憲章の当事国は、国際連合憲章に従い、次の諸原則がすべての人々の幸福と平和な関係と安全保障の基礎であることを宣言します。
    Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
    健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。~以下省略~

    世界保健機関憲章前文 (日本WHO協会仮訳)(同協会ホームページより)

    「Well-being」は「満たされた状態」

    「Well-being」は、前文の「日本WHO協会仮訳」によれば「満たされた状態」 となっています。ちなみに同憲章仮訳では「Happiness」を幸福と訳していることから、幸福はあくまで「Happiness」を指し「Well-being」を幸福とする意図はなかったことは明らかです。
    全く同義とはいえませんが、もともと「Happiness」の訳語に「幸福」が当てられたことからも、日常使用する言葉の感覚では、英語で「幸せ」「幸福」という言葉に最も近いのは「Happiness」であり「Well-being」はどちらかというと英語ネイティブの感覚としては「心身ともに健康」というような意味合いとなるようです。「Well-being」に「福利」という訳を当てる場合もありますが、一般的にあまり普及していません。
    むしろ訳語を当てず「ウェルビーイング」として「幸福」とは区別することも多くなってきました。
    今日「Well-being」は「精神的、身体的、社会的に健康でいずれも充実した状態」と広く解されています。

    「Happiness」は気まぐれで気軽な感情

    「幸福」に相当する概念を「Happiness」とすることに否定的な意見もあります。むしろ、最近の幸福論、幸福学の分野では、そのような見方が主流と言ってもいいくらいです。
    幸福をテーマとした海外の文献においては、近年は「Happiness」よりも「Subjective well-being」を用いる場合が多くなっています。その論拠としては「Happiness」は、現在の短期的感情、一時的な気分を表す意味が強い、だから幸福に相当する概念には「Subjective well-being」を用いるべきだという考え方です。

    「幸福」はHappiness,Well-beingを包含

    言語というものは必ずしも異なる言語間で単語の意味を正確に1対1で対応できるものではありません。「幸福」という言葉も特定の英単語と一対一で対応させることは難しいのです。
    言語は「象徴(symbol)」として多義性を持つものであり、「幸福」あるいは「幸せ」という言葉も、日常会話の軽い意味から、崇高な価値を持つ意味までを包含し得るものです。
    日本語の「幸福」あるいは「幸せ」という言葉は、「Happiness」に相当する一時的で気軽な感情から、比較的長い時間軸を持つ、崇高で精神性の高い意味までを含んでいると考えます。
    「Happiness」に軽薄な意味合いがあるからといって「幸福」に相当する英単語として排除する論拠とはならないと考えますが、幸福に関する研究や経営課題の中核に据える概念、指標としては「Well-being」の方が適切という考え方にも説得力があります。
    ここで、私が考える「幸福」に関連する英単語の意味合いを図に表すと下記のとおりです。


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    幸福とHappiness、Well-beingの関係

    「Happiness」か「Well-being」かは人生の価値基準として何を用いるべきかの問題


    「Happiness」と「Well-being」は別の概念

    日本人の我々から見て混乱しそうになるのは、英語圏における「Happiness」と「Well-being」の議論は、あくまで両者を別の概念と認識し「人間にとって善なるもの」「善き人生」を代表する概念としてどちらがふさわしいかという議論であるのに対して、日本では両者の訳語として、いずれも幸福をあてる場合が多いことによると思います。

    日本人はHappiness, well-beingともに幸福

    我々日本人は「Happiness」「(Subjective) well-being」という言葉を聞いた時に、ともに幸福という言葉の範疇で考えているのに対し、英語圏の人々は「Happiness」と「Well-being」を全く異なる概念と捉えているのです。
    幸福が「Happiness」か「Well-being」かという議論は、訳語としての対応関係の適切さを問うものではなく、良き人生の価値基準として何を用いるべきかという問題と考えます。
    日本語の「幸福」に相当する研究対象を「Happiness」とすべきか「Well-being」とすべきかという議論は、人生の意義を何に定めるかという重要な問題と深く関わっています。
    今日「Well-being」派が優勢となっている背景として、幸福学の隆盛に伴い「幸福」の定義を、移ろいやすい個人の一時的な心理でなく、より客観的、安定的で信頼度の高いものにしようという意図があるようです。
    それが訳語を当てず「ウェルビーイング」として「幸福」とは区別することも多くなってきた理由でしょう。
    「Happiness」が、日常的な言葉ではあるけれども軽薄でくだけた意味を伴うのに対して「Well-being」は、術語として「幸福」の学問的研究や公共政策を立案する上で、親和性のある概念と受け止められていると思われます。それに対して「Happiness」は「幸福感」という言葉を充てるべきだという意見もあります。
    カナダの哲学者、L.W.サムナーは「Happiness」を心理的な意味での「幸福」、「Welfare」を「人生のよさ」としての「福利」として区別し、心理的幸福の理論としての「人生満足説」、福利の理論としての「真正幸福説」を提唱しました。
    「Welfare」という言葉は、今日「(Subjective」Well-being」ほど、幸福学の分野で用いられませんが「福祉」「福利」「幸福」が訳語としてあてられるのが普通です。
    ここで、一般的に「幸福」という訳語が当てられる英単語の、それぞれの意味合いを整理しておきましょう。

    • Happiness =「幸福」または「幸福感」 古くは「福祉」

    • Well-being =「福利」または「幸福」あるいは「ウェルビーイング」

    • Subjective well-being =「幸福」または「主観的幸福」 

    • Walfare =「福祉」「福利」または「幸福」

    なお「幸福」と「幸せ」という語は同義語として用いています。

    働いている幸福感は日常の心理として重要

    私がなぜ「従業員幸福度」を「Employee Happiness」としているかと言うと、いろいろ議論はあるにしても、もともと「Happiness」の訳語としては「幸福」であるのと、
    働いている幸福感(Happiness)は、うつろいやすいという側面もありますが、それだけに日常の働く心理として重要だと考えているということもあります。

    HappinessとWell-beingは、密接に関係

    なお「Happiness」と「Well-being」、この二つの概念は、密接に関係していると考えます。人々が「Happiness」を得るためには、心身、仕事、社会、経済等種々の要素が「Well-being」であることは重要な要件となるからです。
    従って、私のライフワークとする「従業員幸福度」は「Employee」と「Happiness」の頭文字を採り「EH」を略称として用いていること、「Well-being」はそれに影響を与える重要な諸要素の指標として
    「従業員幸福度・EH調査®」の構成要素として包含していることを、ご理解いただきたいと思います。
    (「従業員幸福度・EH調査®」はイーハピネス株式会社 松島紀三男の登録商標です)

    まとめ

    • 「Happiness」は「幸福」の意味だが軽い気分の意味あり気ままに変動

    • 「Well-being」は「精神的、身体的、社会的に健康でいずれも充実した状態」

    • 「幸福」は「Happiness」と「Well-being」を包含する広い概念

    • 「Happiness」か「Well-being」かは人生の価値基準として何を用いるべきかの問題

    • 「Happiness」であるためには心身、社会、経済等の要素が「Well-being」でなければならない

    今回の記事をお読みいただきありがとうございました。
    次回記事ではあまりリクツばかりでは日常役に立たないと思われてはいけない(笑)ので

    「『幸福』であるための第一歩、絶対避けるべき三大リスク」

    ということについて述べたいと思います。

    最後まで読んでいただきありがとうございます。
    今後もみなさまの幸福に関連する記事を投稿してまいりますので、
    好き・コメント・フォローなどいただけますとありがたいです。

    イーハピネス株式会社 代表取締役 松島紀三男

     
     
     
    幸福、従業員幸福度をライフワークとするコンサルタント。2013年世に先駆け「従業員幸福度(EH)調査® 」開発。熊本大学文学部哲学科芸術学コース卒。(株)ビジネスコンサルタントでコンサルタント、執行役員。㈱イマージョン専務取締役を経て2019年イーハピネス(株)設立。

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