【脚本】男子Over30☆アイドル
【あらすじ】
初稿:2017/7フジテレビヤングシナリオ大賞
縦書きでお読みください。
瀬名権之助は、月瀬琉希という芸名で、
アイドルグループ『シューティングスター』の最年少20歳のメンバーとして活躍している。
しかし、本当の瀬名は、35歳のおっさん。
15歳もサバ読んでアイドル活動をしているが、若い他のメンバーがまぶしかったり、10歳も離れた女性アイドルに付きまとわれたりとなんだかんだで面倒くさい。
どんなに若作りして年齢をサバ読んでも、中身はオヤジ。趣味は酒。
その酒癖の悪さから、ライブ前日にメンバーの永谷と筑波に実年齢がバレ、幼なじみで同じバンドを組んでいた美琴との密会が明らかにされてしまう。
みんなに迷惑をかけた瀬名は、記者会見を開き、真実を話しアイドルを辞める。
だが、ファンの熱烈な声援を受け、「35歳のアイドル」として復活することになる?
【登場人物】
瀬名権之助(35)(33)
愛称・ゴン。芸名:月瀬琉希(20)。
15歳サバ読んでアイドル活動している。
アイドル2年目。
早川陽太(35)
ゴンの親友。サラリーマン。
田端瑠奈(38)(36)
ゴンの所属するアイドルグループのマネージャー。姉御肌。
永谷恭弥(20)
ゴン所属のアイドルグループ・
『シューティングスター』のメンバー。
ケンカっぱやいが常識人。
筑波悠馬(20)
『シューティングスター』のメンバー。
空気を読むのが上手い。
原田砂羽(23)
天然系アイドル。実際はヤンデレ。
宮坂美琴(33)(31)
ゴンの後輩で、同じバンドを組んでいた寡黙な女性。ギター担当。
現在もバンド活動をしている。
ヘブンリー川上(50)
男性。ゴンの所属事務所社長。
ヤモリさん(60) 有名司会者。
居酒屋『月下』おやっさん(50)
瀬名と早川の行きつけの居酒屋の主人。無口。
私立探偵・木村(40)
砂羽に雇われている探偵。
ドラムス(当時30)
ゴンの元バンド仲間。
ベーシスト(当時29)
ゴンの元バンド仲間。
制作(40)男性。少し太っている。
お笑い芸人(48)
メイク 女性。
スタイリスト 女性。
ライブスタッフ
芸能レポーター
○マジテレビ・第三スタジオ(昼)
スタジオ内は歌番組『ミュージック・トーク』のセットが組まれている。
司会のヤモリさん(60)の隣に、アイドルグループ『シューティングスター』の瀬名権之助(35)こと月瀬琉希、永谷恭弥(20)、筑波悠馬(20)の順で座っている。
ヤモリさん「次はシューティングスターで
ーす」
瀬名・永谷・筑波「よろしくお願いしまー
す!」
ヤモリさん「えーと、最年少の月瀬琉希くん
は、この間20歳になったんだって?」
瀬名「はい、おかげさまでハタチになりまし
た!」
永谷「でも全然変わんないっすけどね」
筑波「成人したっていう自覚もないですよ、
こいつ」
瀬名「それはおいおいだって!」
ヤモリさん「どう? 成人して、何か変わっ
た?」
瀬名「やっぱりお酒が飲めるっていうのはす
ごいですよね。誕生日にバラエティの収録があったんですけど、そのまま飲み会に連れていかれました」
瀬名、笑顔で語るのを、永谷が突っ込む。
永谷「こいつそこで初めて酒飲んで……もう大変だったんですよ!」
筑波「そうそう、酒癖悪くって! 結局最後
はマネージャーさんにおぶってもらってやっとタクシー乗ったんですよ」
ヤモリさん「まぁ、それも経験だよね」
瀬名「あはは、今後は気をつけます~!」
○居酒屋『月下』(夜)
奥のテレビには収録した『ミュージック・トーク』が流れている。
テレビから、カウンターで飲んでいる男性(瀬名)の手元。
思い切り焼酎ストレートが入ったグラスをドン! と置く。
瀬名「なぁにが『初めて酒飲んで』だよ!
こちとらてめぇらよりも十五年は早く酒飲み始めてるっつーの! 面倒くさくてたばっちゃんに連れ出してもらったんだっ!」
小料理屋的な店のカウンター。
黒縁メガネをかけた瀬名と、早川陽太
(35)が二人で酒を飲んでいる。
早川「おいゴン、飲み過ぎじゃないか?」
瀬名「(べろべろに酔って)ばぁか、陽太。
俺が昔から酒好きなのは知ってるだろ? 今夜は焼酎一本空にする!」
早川「ったく……」
テレビではヤモリさんが『シューティ
ングスター』に言葉をかけている。
(テレビ)ヤモリさん「それではスタンバイ、お願いしまーす」
早川「ん? なんか妙なところでトーク切れ
てるな。気のせいか?」
瀬名「ああ、そこ? 俺が収録のときに余計
なこと言ったから、カットされたんでしょ」
瀬名、焼酎一気飲み。
早川「お前、何言ったよ」
瀬名「ん~? 『今までR―18のDVDを
借りると必ず止められたけど、さすがにハタチ超えたら文句なんて言わせませんよ!』ってね」
早川「それってAV?」
瀬名「まー、アイドルのそんな発言、ファン
は聞きたかないわなぁ」
早川「事務所からNGかかったんじゃねーの
か?」
瀬名「はっ! 知るか、バーカ。そもそもガ
キどもは、おっさん相手にに夢見過ぎなんだよ! おやっさん! 焼酎おかわりー! 同じやつ、ロックでね」
おやっさん「はいよ」
テレビからは『シューティングスター』の歌が聴こえる。
瀬名「くそ……」
早川「お前、今の仕事、不満なのか?」
瀬名「不満だけど、そうは言ってられねぇだ
ろ。仕事なかったら、俺はニートだ」
早川「ま、幼なじみから見たら、滑稽でしか
ねぇけどな。まさか35歳のお前が……」
瀬名のアップ。
早川「15歳サバ読んで、アイドル活動して
るなんてさ」
瀬名、黙ってグラスの中身を飲み干す。
瀬名「おやっさん! 同じのおかわり」
かなり飲んでいて、ぐてっとしている瀬名。
ふらふらしながら
瀬名M「俺は瀬名権之助、35歳。テレビや
雑誌の中では『月瀬琉希』という名前で、アイドルやってる、自称・20歳だ」
おやっさん「はい、『天下無双』のロック」
瀬名「さんきゅー」
早川、日本酒を自分で自分のお猪口に注ぎ、空になると徳利を振る。
早川「お前さ、ファンの女の子たちをだまし
てるって罪悪感はねぇの?」
瀬名「あったらこの仕事、してねぇし」
早川「だな」
瀬名、グラスに口をつけ、テレビを見
つめる。
瀬名M「俺だってこんな世界に入るだなんて、
思ってもみなかったんだ。だけど、あの日――俺はある人物と出会ってしまった。それが最高の日だったのか、最悪の日だったのか……」
瀬名M「今もわからないままでいる――」
○都内路上(昼)・二年前・回想
スウェット姿で原宿の混雑している中をふらふらしている瀬名。その肩を叩く田端瑠奈(当時36)。
瑠奈「ちょっと君!」
瀬名「あ?」
瑠奈「うん! うん! 最高ね! 気に入ったわ!」
瀬名「は?」
瑠奈「君、何歳? 中学生? 学校は?」
瀬名「中学って……俺はただのプー太郎だけ
ど。年齢は33。何、あんた」
瑠奈「え? ……33?(頭の先からつま先
までじろじろ見ながら)見えないわね」
瀬名「そりゃどーも。昔から童顔とは言われ
てたけど」
瑠奈「15、6でも行けそうね!」
瀬名「は?」
瑠奈「(名刺を渡しながら)私は田端瑠奈。
ヘブンリー事務所の社員よ」
瀬名「はぁ……」
瑠奈「で! いきなりなんだけど、君、アイ
ドルにならない?」
瀬名「……はぁっ?」
○回想終了
○居酒屋『月下』(夜)
瀬名「あのときのたばっちゃんの言う事を聞
いて、テキトーにこの業界に入ったけど……」
早川「何だよ。失敗だった、ってことか?」
瀬名、酒を煽りながら
瀬名「失敗だったらどんなによかったことか
……」
瀬名、ガタンとグラスを置く。がっくりと肩を落とす。
つまみのなめろうに箸をつけ、口に運ぶ。
瀬名「全部うまく行っちゃったから、困った
ことになったんだろっ!」
早川の襟をつかむ、瀬名。
早川「ああ、そういうこと……まぁ、お前、
アイドルとしては大成功してるもんなぁ」
瀬名、じっと早川を見た後、頭突きする。
早川「がっ! 何しやがる!」
瀬名「成功しちゃったら……自称・20歳の
スーパーアイドルの俺は、どこでストレス発散すりゃいいんだよ!」
早川、頭突きを食らったあごをさすり
ながら
早川「今してるだろ……酒飲んで、頭突きし
やがって……」
瀬名「だからって、無理あるだろーが! 3
5歳が20歳の……しかもグループ最年少
のフリしてんだぞ! あのクソガキどもにいいように扱われるのは……」
瀬名「最悪だっ!」
ダンッ! とグラスを叩きつける瀬名。
○マジテレビ・廊下(昼)
瀬名、頭をかきながら廊下を歩く。
原田砂羽(23)が笑顔ですれ違う。
砂羽「月瀬さん! 今日はよろしくお願いし
ます!」
瀬名「あ、ああ……よろしく(だんだん小声
になる)お願いします」
砂羽、嬉しそうに楽屋に入る。瀬名、
面倒くさそうにため息。
瀬名の横を歩いていた瑠奈が、腕を引
く。
瑠奈「ちょっと、琉希。もっと愛想よくでき
ないの?」
瀬名「できませんねぇ。そもそも『月瀬琉希』
はお宅の事務所で作り上げた偶像でしょ?」
○マジテレビ・楽屋(昼)
瑠奈、瀬名を楽屋に入れると、真剣な目つきで言い放つ。
瑠奈「……だったら『瀬名権之助』との契約
を今すぐ打ち切ってもいいのよ?」
瀬名「言うと思った。俺が契約破棄できない
と思ってますよね。ずりぃなぁ、大人は」
瑠奈「大人って……実際できないでしょう?
あんた、私がスカウトしてなかったら、いまだにライブハウスで孤独にシャウトしてたのよ?」
○ライブハウス・回想(夜)
半裸でシドチェーンネックレス・黒いニードルリストバンドをし、マイクを持った瀬名のアップ。ニヤリと笑う。
ドラムス・ベースもモヒカンやスキンヘッドとパンクバンドの典型的な格好。
ギター担当の宮坂美琴(当時31)だけは黒Tシャツにミニ丈のハードクラッシュジーンズ。
瀬名「行くぜ! お前ら!」
ギターが唸る音。手元のアップ。ベー
スの重低音が響き、ドラムが鳴る。
瀬名「うわああああっ!(勢いのあるシャウト)」
フロア(客席側)。観客はゴスロリ服
で太った女子、ガリガリでツーブロッ
クの女子、顔面を白塗りした女子の三人が絶叫している。
ドラム・ベース・ギター、音が止まる。
ベース「……なんか、むなしいな」
ドラムス「……だな」
ファンたちもフロアから立ち去る。
瀬名「お、おい! ちょ、ちょっと待てよ!」
美琴「……先輩、ごめん」
美琴、瀬名の肩を叩くと、自分も去る。
瀬名「美琴っ!」
フロアの一番後ろで腕を組み、壁にもたれて立つ瑠奈。頭を押さえる。
○回想終了
○マジテレビ・楽屋(昼)
瑠奈「あれはひどかった……。アイドルにス
カウトしたら、バンドやってるって言うか
ら見に行ったのにね」
瀬名「まぁ、バンドは確かに失敗だった。そ
れは認める」
瑠奈、手帳をめくりながら
瑠奈「あんた、デスボイス出ないものね。他
のメンバーはそこそこだったのに」
瑠奈、手帳をパタンと閉じる。
瑠奈「ともかく! これから半年はしばらく
原田砂羽と同じワイドショーに出るんだから、それなりに仲良くはしておいて。彼女のつぶやきの力はすごいわよ」
瀬名「SNSですか~。俺の若い頃は、そん
なもの普及してなかったからなぁ。ファンの力は怖いねえ」
瑠奈「あのね! あんたは確かに周りのアイ
ドルたちより年上かもしれない。でも、私
からしてみれば、ただのアイドルの一人なのよ」
瀬名「『だからアタシに従いなさい!』って
ことっすか~? あーやだなぁ、おばさんは」
瑠奈「おばさん……この元ニートが!
そうは言ってないでしょ! ただ、周りを見ろってだけよ」
瀬名「それって俺にとっては同じことなんで
すけど~?」
瑠奈「……ま、いいわ。あんたはあんたが思
う通り、振る舞えばいい。私達はそのフォローを全力でする。それが社長との契約だから」
瀬名「ってことは、好き勝手していいってこ
とっすよね?」
瑠奈「違うっ!」
瀬名「はぁ? じゃあどうすりゃいいんすか」
ノック音。ドアが開くとメイクとスタイリストが楽屋入り。
メイク「月瀬さん、今日はよろしくお願いし
ます」
瀬名「(満面のアイドルスマイルで)はー
い! 僕の方こそ、本日はよろしくです!」
スタイリスト「じゃ、衣装と道具持ってきち
ゃいますね~」
メイクとスタイリスト、一旦楽屋を出る。
瀬名「こういうので満足? たばっちゃん」
瑠奈「このクソガキ……」
瀬名「あれあれ? 言葉が汚いですよ~?」
瑠奈、眉間にしわ、頭を押さえる。
瀬名「まぁ、もらってる給料分は真面目にや
るから、心配すんなって」
瑠奈「それでも胃が痛いわよ」
衣装と道具を運んできたメイクとスタ
イリスト、瀬名に近づく。
メイク「メイク入りま~す」
瀬名「(笑顔)はーい!」
瑠奈、大きなため息。
○マジテレビ・第一スタジオ(昼)
ワイドショーのセットが組まれている。
真ん中には司会のお笑い芸人(48)。
その両サイドに砂羽と瀬名。
カメラ越しに笑顔で映る二人。
制作「はい、カット! お疲れ様でした!」
砂羽・瀬名「お疲れ様でした!」
笑顔でお辞儀しながらスタジオを出る瀬名。
○マジテレビ・廊下(昼)
砂羽に後ろから声をかけられる。
砂羽「あっ、月瀬さん。お疲れ様です。ちょ
っといいですか?」
瀬名、後ろを向いて
瀬名「(小さくつぶやく)ちっ、疲れてんの
に……」
瀬名、くるっと振り返って笑顔。
瀬名「なんですかぁ?」
砂羽「あのぉ、よかったら連絡先教えてくれ
ませんか? ほら、これから同じ番組結構長くやる予定ですし」
瀬名、後ろを向いて、不愉快そうな顔、アップ。
瀬名「(小声)これだから乳臭ぇガキは……。
なんでもかんでも繋がろうとしやがって」
振り向くと、にっこり笑って首を傾げる砂羽。愛想笑いを返す瀬名。
もう一度後ろを向いて
瀬名「(小声)あーあ、クソめんどくせぇ…
…せめてこいつが、2時間サスペンス主役のボインバイン熟女だったら、俺のテンションマックスになってたっつーのに……」
砂羽「あの?」
瀬名「そ、そうですね! わかりました!」
作り笑顔でポケットからスマホを取り
出す瀬名。
砂羽「これでいつでもご飯……誘えますね!」
瀬名「あ、あー……」
砂羽「そうだ! 私の方がちょっとお姉さん
なんだよね。『月瀬くん』って呼んでもい
いかな?」
瀬名「は、はい! よろしくお願いします!」
砂羽「うん、じゃーね! 月瀬くん!」
砂羽、手を振って廊下を走っていく。
瀬名「(呆れながら)何が楽しくて10歳は
離れてるアイドルに年上面されなきゃいけねぇんだよ……」
○住宅街(昼)
犬の散歩をしている人や、赤ちゃん連
れの親子が歩いている。
その道沿いにある、古びたラーメン屋
のアップ。
○ラーメン屋(昼)
テレビの中では、先日収録した砂羽と
瀬名のワイドショー番組が流れている。
瀬名は黒縁メガネに灰色のスウェット、サンダル。早川は一応ジャケットを着ていてこぎれいな格好をしている。
早川「で、今日もイラついて、俺を昼から誘
ってるわけね。ここ数日ずっとじゃねーか」
瀬名「陽太~! もう俺にはお前しかいない
っ! 助けて!」
カウンターに頭をぶつけて土下座。
早川「(ビールをあおり)何が不満なんだ
よ。原田砂羽、かわいいじゃん」
瀬名、頭を下げたままスマホのメッセージ画面を早川に見せる。
早川「ん? 『今度友達同士で飲み会しませ
んか?』なんだよ、合コンのお誘いか。若
い子はお盛んだねぇ(ラーメンをすする)」
瀬名「本当にお盛んだよ……収録から一週間
経ってないのに、合コン、食事の誘い、6回目だぞ!」
早川「(ビールを吹く)ろ、6回?」
瀬名「(頬杖ついてため息)全部うまく断っ
たのに、ここまで空気読まねぇのもある意味才能だよな」
早川「それだけお前がお気に入りなんじゃね
ーの?」
瀬名「(ビールを飲んでから)はっ! やめ
てくれ。俺が好きなのは熟れ熟れの熟女!
ガキはお呼びじゃないの」
瀬名がラーメンをすすると、メガネがくもる。
カウンターに置いてあった瀬名のスマホのメッセージをさかのぼって見る早川。
履歴がたくさん残っている。
早川「でも、ちょっと怖いな。一週間でこれ
だけの誘いは。それ以外にも随分頻繁にメ
ッセージも来るみたいだし」
瀬名「仕事中だって無視するのも、さすがに
何回もやりすぎた。あとは長期間何か予定
があって出られない状況を考えるしか……」
早川「何かないのか? 予定」
瀬名「うーん……予定ねぇ……(頭を押さえ
る)」
瀬名のスマホが震える。画面表示、瑠
奈。
瀬名「はーい、瀬名OR月瀬でーす。ご用件
の方は留守電にー……って……え、マジ?」
瀬名、急いで丸イスから立ち上がろうとして、後ろに倒れる。
瀬名「(スマホに向かって)すぐ行くっ!」
早川「お、おい、ゴン?」
瀬名「やっべ、明日からライブだったわ!
リハ行かねーと!」
急いで店を出ていく瀬名。
早川「(ラーメンの器を持ったまま)ライブ
を忘れる売れっ子アイドルって……あっ! あいつ、金!」
○砂羽の部屋(夜)
インテリアはすべてゴシックっぽい感じ。ドクロや赤いロウソクなども飾られている中、パソコンだけが光っている。
ベッドの上で寝転ぶ砂羽。スマホにメッセージ。
メッセージは瀬名から。
『明日からライブなので、連絡できないかもしれません!』。
砂羽、スマホを見ると、天井を見つめる。
砂羽「……月瀬くん……なんで構ってくれないの? 砂羽がつぶやいたら、みんながハッピーになれるのに……そのための飲み会なんだよ? 月瀬くんは、砂羽につぶやいてほしくないの? ねぇ……」
部屋の壁には瀬名の隠し撮り写真。
砂羽「月瀬くん……」
砂羽、スマホをタッチすると、電話をかける。
砂羽「私。調べて欲しいことがあるの」
部屋にある瀬名の隠し撮り写真のアップ。
砂羽、電話を切ると、スマホで隠し撮りしたワイドショー出演時の瀬名の画像を見つめる。
砂羽「月瀬くん、私、あなたのこともっとよ
く知るから……そしたらきっと、一緒に飲
みに行ってくれるよね?」
○アリーナ・ステージ(夜)
瀬名、永谷、筑波、の3人が、ステージでダンスの立ち位置調整。何度か踊って、スタッフがテープで足元をばみっていく。
それが終わると、瑠奈が手を上げ、瀬
名たち3人が集まる。
瑠奈「どう? 明日からの本番は」
永谷「楽しみに決まってんじゃん! デビュ
ーして、2年、やっとここまできたんだからな!」
筑波「やっと実力が認められたって思うと、
嬉しいよな。これもたばっちゃんのおかげだよ!」
瑠奈「で? 琉希はどうなの。2人がこんな
にやる気で満ち溢れてるのにアリーナライブを忘れてた……とかいう不届き者は、一体何を考えていたのかしらね?」
瀬名、ダンスが激しかったため息切れしながら
瀬名「と、とりあえず水……」
永谷「おいっ! 1回通しただけで、もうク
タクタかよ……」
筑波「おじいちゃんみたいだな一番年下なの
に」
瀬名「(後ろを振り向き小声で、ぐっと拳を
握りしめ)そりゃあ、お前らよりはおじいちゃんだよ……」
瑠奈、呆れながら水とタオルを瀬名に渡す。
瑠奈「明日の本番は気合い入れてよ? あ
と! 今日は近くのホテルに部屋を取ったけど、明日の最終リハには(力を込めて)くれっぐれも! 遅刻しないように!」
永谷・筑波「はーい!」
瀬名「へーい」
瑠奈「琉希! あんたに言ってるのよ!」
永谷・筑波も呆れながら瀬名を見る。
瀬名「(笑顔で)僕はやるときはビシッと決
める、トップアイドルだよ! (テンション下がり、笑顔なくなり)……ってことで、明日から頑張りまーす」
永谷と筑波、互いの顔を見合わせる。
○ホテル・瀬名室内(夜)
アリーナから近いホテル。ダブルルー
ム。
瀬名はひとり、トランクスと白シャツ一枚でベッドに寝そべり、ワンカップの焼酎を飲みながら、スルメを食べ、 テレビのバラエティ番組を見ている。
スマホが震える。着信は瑠奈。
瀬名「(面倒くさそうに)はーい、瀬名OR
月瀬、ただいま留守でーす……あ? メ
シ? (腹をかきながら)はぁ……」
○ホテル・レストラン(夜)
レストランでは、永谷・筑波や他のス
タッフ達が酒を交わしている。
瑠奈(小声ながらも怒り口調で)「あんた何
してるのよ! ライブ前日なんだから、み
んな揃ってるに決まってるでしょ! 今からでもいいから、あんたも来なさい!」
○ホテル・瀬名室内(夜)
瀬名「腹こわしたんで、寝てまーす。じゃ」
○ホテル・レストラン(夜)
瑠奈「あっ! ちょっとバカ!」
通話口からツーツーという音。
瑠奈「もうっ! あいつ絶対酒飲んで寝てる
わ……」
永谷「たばっちゃん、琉希は?」
ドリンクの入ったグラスを持った永谷
と筑波が瑠奈に近づいてくる。
瑠奈「あ、ああ(愛想笑いして)、あいつ、
前日でちょーっと緊張してるみたい。胃が
痛いって、寝込んでるわ」
筑波「え? 大丈夫なの? それ」
瑠奈「寝てりゃ治るでしょ!」
筑波「俺、様子見てこようか……」
瑠奈(筑波を遮って)「あーっと! 大丈夫。
ぜんっぜん大丈夫だから」
永谷「そうは言っても……」
瑠奈、永谷の前に立ち
瑠奈「ほんっと気にしないで! あんた達は
琉希の分も盛り上げて、ね?」
永谷・筑波、無言。
瑠奈「ちょっと私も挨拶行って来るから!
あと、よろしくね」
瑠奈、いそいそとスタッフ達の輪に戻っていく。
永谷「なぁ、悠馬」
筑波「ん?」
永谷「ずっと思ってたんだけどさ、あいつ…
…琉希ばっか、特別扱いされ過ぎてねぇ?」
筑波「まあ、あいつが一番人気あるからね。
ファンレターもグッズの売上も。しょうが
ないっしょ」
永谷「ワイドショーのレギュラーも、選ばれ
たのはあいつ一人だ。そのくせいつも、適
当だし、ギリギリまでやる気出さねーし、
挙句の果てにライブを忘れてたんだぞ! それなのになんで……」
筑波「言いたいことはわかるけど、ライブ前
日に揉めなくてもよくない?」
永谷「……ライブ前日だから、言うべきだ!」
永谷、険しい顔でグラスを筑波に押し
付け、走る。
筑波「あ、ちょっと! もう!」
スタッフ「悠馬さん、お酒おかわり……」
筑波「俺も行くしかないじゃん!」
筑波もスタッフに二人分のグラスを押
しつけ、永谷を追う。
○ホテル・瀬名室内(夜)
瀬名、酒を飲みながら今にも寝そう。
うとうとしている。
インターフォンが連続して鳴る。
瀬名「(眠そうに)うーん……」
○ホテル・廊下(夜)
永谷「くそ……出ねぇ」
筑波「ホントに寝てるんじゃないの?」
永谷、ドアを叩きはじめる。
永谷「おい! 琉希! 出ろよっ!」
筑波「ちょ、ちょい、恭弥! あんまり騒ぐ
と……」
扉が勢いよく開く。
瀬名「うっせーよ! 宅配便か? 間に合っ
てるっつーのっ!」
勢いよく扉が閉まる。
永谷「……え?」
筑波「宅配便は間に合わないんじゃない?」
永谷、もう一度扉を叩く。
永谷「おい、琉希! 開けろっ!」
また勢いよく扉が開く。
瀬名「新聞は読みませーん!」
勢いよく扉が閉まる前に、永谷が足を入れる。
永谷「いてえっ!」
○ホテル・瀬名室内(夜)
筑波、隙間から顔を出して
筑波「琉希! 胃が痛いって聞いたんだけ
ど!」
瀬名「(酔っ払って)あー?」
瀬名、何度もドアを締めようとする。
永谷の足のアップ。
永谷「痛っ! 痛いっ! やーめーっ!」
永谷、ドアをこじ開ける。
瀬名「……ん?」
真っ赤な瀬名。
永谷「うわ、酒くせ! お前、一人で飲んで
たのかよ!」
筑波「それにその格好……オヤジ?」
瀬名「はっ! そりゃあ、てめぇらみてーな
キラキラチャラチャラしてる前途洋洋な若
者とは違って、俺はオヤジですよー!」
筑波「はぁ、相当酔ってるね、これ」
永谷「お前、いい加減にしろよ! ライブ前
日にこんなグタグタになって!」
瀬名「うるせぇ、アイドル野郎!」
永谷「お前もだろっ!」
瀬名「……あ?」
永谷「認めたくねぇけどな! お前が俺達の
中で一番キラキラ輝いてるんだっての!
それなのにこんな酔っ払ってたら、キレる
に決まってんだろ!」
筑波「恭弥……」
瀬名「(酔って)てめぇ、何言ってんだ?」永谷「この野郎っ!」
永谷のパンチを余裕で避け、手で受け
止める。
永谷「なっ……?」
瀬名「ふん、俺にケンカだぁ? なめてんじ
ゃねぇよ!」
永谷「ま、待て、琉希!」
筑波「落ち着いてって! (パニックで頭を
抱え)あー、たばっちゃん、どーいうことだよー!」
瑠奈、慌てて永谷と筑波を追ってくる。
瑠奈「あ、あんた達っ! いないと思った
ら!」
瀬名と永谷、格闘して、ベッドでもみ
合っている。
筑波、泣きそうになりながら瑠奈に飛
びつき、
筑波「たばっちゃーん! なにーこれ! ど
ういうことー!」
瑠奈「最悪……とりあえず!」
瑠奈、瀬名と永谷を引き離して、二人
にビンタ。
永谷「ってー! 顔! 商売道具!」
瀬名「っ……ん? たばっちゃん?」
瑠奈、手を腰に当て大きくため息。
瑠奈「この、バカ、バカ、バカ! 琉希は当
然だけど、恭弥も悠馬もバカよ! ここま
でずっと隠してきたのに……」
筑波「あの、たばっちゃん。一体何なの?」
永谷「琉希がテキトーなのは知ってたけど、
こんな凶暴だなんて……」
瀬名「るっせぇよ、ガキが!」
永谷「ガキはお前だ……」
瑠奈「やめなさいっ! もういいわ。さすが
に恭弥と悠馬にも黙ってるわけにはいかな
いわね」
瑠奈、瀬名の頭を引っ張る。
瑠奈「いい? 琉希は……本当はハタチな
んかじゃない」
永谷「まさか……歳、誤魔化してたのか?」
筑波「でも、それくらいなら別にねぇ。事務
所の先輩たちだって、2、3歳くらいなら
サバ読んでるし」
瑠奈、首を振る。
筑波「え? じゃあ、5歳くらい?」
瑠奈「……プラス10」
永谷「15……ってことは、35? 嘘だ
ろ!」
瀬名、ベッドの上であぐらをかき
瀬名「敬え! てめぇら!」
瑠奈「敬えるか! バカ! しかも酒癖最悪
なんて……アイドルとしては地雷だらけ
よ!」
筑波「で、でもさ、35のアイドルって、普
通にいるじゃん? もっと年上だってさ」
永谷「それは、下積みして、ようやくって先
輩達だろ? 琉希の場合は2年だ。デビュ
ー時が33……」
瑠奈「あんた達二人に合わせるなら、年齢サ
バ読むしかなかったのよ。今はなんとか様
になったけど、最初はこいつ一人でデビュ
ーなんて、博打だったからね」
瑠奈、頭を押さえる。
瑠奈「こっちの方は私が何とかしとくから、
あんた達三人で話し合いしときなさい。特
に琉希! あんたちゃんと説明するのよ!」
瑠奈、ドアを乱暴に閉めて出ていく。
三人、視線を交わし合う。
瀬名、買ってあったワンカップをコン
ビニ袋から取り出し、
瀬名「とりあえず、飲むか?」
○アリーナ・ステージ(昼)
ステージで最終リハーサル。
立ち位置確認。音響チェック中で、大
音量で曲が流れている。
音が止まると水を飲む永谷と筑波。
筑波「うーん……頭痛い」
永谷「コンディション最悪……なのになんで
お前は元気なんだよ! ゴン!」
瀬名「慣れだよ、慣れ」
永谷「くっそー……オヤジの余裕かよ」
瀬名「(軽く頭を叩いて)オヤジ言うな、若
造!」
瑠奈「(呆れながら)ふうん、朝、揃って寝
坊したと思ったら、あんたら3人飲み明かしてたのね」
筑波「琉希……ゴンの話、結構面白くてさ。
ついついね」
永谷「ま、なんだかんだでよかったのかもな。
ライブ前にお互いをきちんと知れたのは」
筑波「でもさぁ~……」
筑波、ステージ上から客席を見回す。
筑波「ここに集まる俺達のファン、全員だま
しちゃうんだよね」
瑠奈「あら? 罪悪感?」
筑波、首を振って
筑波「ううん、逆。本当のゴンを知ってるの
が俺達だけって、ちょっと面白いなって」
瀬名「ようやく俺の気持ち、わかったか?」
永谷「それ、悪いことだから。ゴンに悪い影
響を与えられちゃったってことだよ」
3人、顔を見合わせて笑う。
○アリーナ前(夕)
時計のモニュメントの前で腕時計を確
認する早川。
そこへ女性(美琴)が走って来る。
美琴「すみません。遅くなりました」
早川「いいよ。突然誘ったの、俺だし。それ
より本当に時間あった? 今、バンドで忙しいんだろ?」
美琴「まぁそうなんですけど、ちょうど空き
時間ができたので、メンバーが息抜きして
来いって」
早川「でも皮肉だよなぁ。ゴンが抜けたこと
で、あのバンドのメジャーデビューが決ま
るなんて」
美琴、複雑そうに
美琴「まだ怒ってましたか? ゴン先輩」
早川「いや、もう気にしてないんじゃねぇ
か? あいつとはよく飲んでるけど、美琴
のことは特に言ってないし」
美琴「ならいいんですけど」
早川「じゃ、これ。チケットね」
美琴「……陽太先輩。なんで今日、誘ってく
れたんですか? アイドルのライブなん
て。そもそもこれ、チケット取るのも難し
いグループなんですよね」
早川「あー、うん。知り合いが関係者でさ。
チケットくれたんだよ。だけど、一緒に行
く予定だった子にすっぽかされちゃって。
男一人で行くのも、勇気いるだろ?」
美琴「それはわかります。なんとなくですけ
ど。でも……私、シューティングスターってほとんど知らないですよ? テレビ見ないから、メンバーもよくわからないし」
早川「(驚いた様子で)そうだったの? て
っきり知ってるかと思ってたけど……まぁ、あいつが自分から言うわけないか」
美琴「……先輩?」
早川(腕時計を見て)「あ、そろそろ開場時
だ。行こうか」
美琴「はい」
○アリーナ・客席(夜)
ステージで踊って歌う3人を見つめる
早川と美琴。
客席はノリノリだが、早川はニヤニヤ
しながら腕を組んで瀬名を見ている。
美琴、じっと瀬名を見つめ、何か考え
ている。
2人と周りでうちわを振っている女子
との温度差が激しい。
○アリーナ・ステージ(夜)
アンコール終了後。
ステージは熱気であふれている。
客席からは大きな黄色い歓声が聞こえ
る。
3人は、お揃いのツアーTシャツを着
て、手を繋ぎ、頭を下げる。
筑波「みんな、今日は本当にありがとう!」
永谷「めっちゃくちゃ楽しかったよ!」
瀬名「また、会おうね! バイバイ!」
○アリーナ外(夜)
早川、缶コーヒーを買うと、美琴に渡
す。自分の分のコーヒーに口をつける。
早川「なんつーか、すごかったな。アイドル
って俺、今までよくわかってなかったけど、
少し甘く見てた。頑張ってるんだなぁ」
美琴「陽太先輩、あの……私の勘違いだった
らいいんですけど」
早川「んー? どうした」
美琴「(少し考えて)……いや、やっぱりい
いです」
早川「そうか? ま、いいや。飯おごってや
るから、付き合え」
美琴(無表情で)「ありがとうございます」
○ホテル・レストラン(夜)
瑠奈「それでは、ツアー初日の成功を祝いま
して……乾杯!」
スタッフや瀬名・永谷・筑波、グラス
をかかげる。
瑠奈、瀬名に近づき
瑠奈「さすがに初日の打ち上げには来たわね」
瀬名「まあね。面倒だけど」
筑波、瀬名に飛びつく
筑波「とか言って、俺達が呼びに行かなかっ
たら来なかったでしょ?」
永谷「まったく、ほっといたら今日も一人酒
してたくせに」
瀬名「うるせぇよ」
瀬名のスマホが震える。
瀬名、画面を見ると『新着メッセー
ジ』。
瀬名、開くと目を見開く。
○街(夜)
車が通っている。
道近くに居酒屋『月下』の暖簾。
○居酒屋『月下』(夜)
スウェットにサンダル、黒メガネの瀬
名、ふらりと暖簾をくぐる。
瀬名「ちーっす」
おやっさん「……らっしゃい」
女性(美琴)、イスから立ち上がる。
瀬名「何の用だよ、美琴。連絡寄越すなんて
随分久しぶりじゃねーか」
美琴「いきなり呼び出して、すみません。2
年振りですね」
瀬名、美琴、イスに座ると、カウンタ
ーからお通しが出される。
瀬名「焼酎、いつものね」
おやっさん、無言でグラスに焼酎ストレートを出す。
美琴はすでにビールを飲んでいる。
美琴「……ゴン先輩、なんでアイドルなんて
やってるんですか?」
瀬名、唐突に言われ、焼酎を噴き出す。
瀬名「な、なんでお前がそんなこと……」
美琴「私、テレビも見ないし、世間の情報に
疎くて今まで知りませんでしたが、この
間、陽太先輩にライブに誘われて……」
瀬名「か、勘違いじゃねーの?」
美琴「そんなわけないじゃないですか。幼な
じみなんですから」
瀬名「……ったく、陽太のやつ、なんで美琴
なんて誘ったんだよ」
美琴「陽太先輩は、義理堅いだけですよ。せ
っかくもらったチケット、無駄にするわけにはいかないって」
瀬名「おやっさん、焼き鳥。適当に」
おやっさん、無言。
美琴「……あの硬派でケンカっぱやい先輩が、
歌って踊って笑顔を振りまくアイドル……」
無言で焼酎をあおる瀬名。
美琴「なんでそうなったんですか?」
瀬名「俺が一番聞きたいわ! 何が楽しくて
15もサバ読んでアイドルなんて……」
美琴「毎日楽しいですか? 人、だまして」
瀬名「だましてるんじゃねぇ。夢を与えてる
んだ。それに文句だったら、歳誤魔化して
売り出した社長に言ってくれ」
美琴「文句はありませんけど、その、私も責
任を感じてるんで」
瀬名「は? 責任? 何の」
カウンターから出された焼き鳥を食べ
る瀬名。
美琴「バンド……先輩に辞めてもらった後、
順調にいくようになって、今度メジャーデ
ビューするんです」
瀬名「ふうん、おめでとさん」
瀬名、美琴のグラスに自分のグラスをぶつける。
美琴「怒らないんですか?」
瀬名「俺には向いてなかっただけだろ。今は
一応、他のことで食えてるし、別にお前が
責任感じることなんてねぇよ」
美琴「でも、世間をだましてますよね」
瀬名「しょうがないことだろ。35のおじさ
んより、20の若者の方が需要あるってだ
けだ。若い方が何ごともいいんだって、諦
めた」
美琴「そうでしょうか? 私は35の先輩も
かっこよかったと思いますよ」
瀬名「嘘つけよ。本当にそうだったら、バン
ドから抜けさせたりしなかっただろ」
美琴「……当時はそうでした。でも、アイド
ルの先輩、光ってたっていうか。私のギタ
ーじゃ先輩を輝かせることはできなかった
けど、今の先輩は……」
瀬名「仕事の話は終わり! 今日は久々に飲
みまくろうぜ! (グラスをカウンターに
置いて)おやっさん、おかわり!」
美琴、無言でビールを飲む。
○居酒屋『月下』・入口前(夜)
おやっさん「お姉ちゃん、大丈夫かい?」
美琴、瀬名に肩を貸している。
正面にタクシーが止まっている。
美琴「まぁ……この人、昔から飲むとこうな
ので、慣れてます」
おやっさん「そうか。気をつけて帰れよ」
おやっさん、暖簾を下ろして店内に戻
る。
美琴、タクシーに瀬名を乗せると、自
分も乗る。
美琴「先輩、家、引っ越してませんよね?」
瀬名「あー? ああ」
美琴「環八通りに」
タクシー、扉閉まる。
それを探偵・木村(40)が写真に撮
る。
木村、スマホを取り出すと、メッセー
ジを送信する。
○砂羽の楽屋(夜)
砂羽のスマホに着信。
スマホを見る砂羽。
瀬名と美琴が寄りそう写真が表示され
る。
スタッフ「砂羽ちゃーん、出番でーす」
砂羽「はーい! 今行きまーす」
砂羽、スマホをいじると、楽屋を出る。
○ヘブンリー事務所ビル前(昼)
車や人が行きかっている。
○ヘブンリー事務所・社長室(昼)
スウェットに黒メガネ、サンダルにコ
ンビニのビニール袋(中身は財布とス
マホ)を持った瀬名が立っている。
目の前には社長・ヘブンリー川上(5
0)。ドア横には瑠奈。
川上「……アンタ、何が起こってるかわかっ
てないって顔してるわね」
瀬名「はぁ」
瑠奈、頭を抱える。
瑠奈「ほら、これ! 見なさい!」
瑠奈、スマホ画面を瀬名に見せる。
大量のつぶやき。
つぶやき「琉希が女と! ショック……」
つぶやき「誰? この女!」
つぶやき「密会なんて、嘘でしょ?」
スマホを持った瀬名、ぽかんとして
瀬名「はぁ? 密会?」
川上「どういうこと? 琉希。説明してくれ
なぁい?」
川上もスマホの画面を見せる。
画面には砂羽のつぶやき。
砂羽つぶやきT(画像付き)「月瀬くんにご
飯誘ったら断られちゃった。先約があったみたい。う~ん、残念! #月瀬琉希 #シューティングスター」
川上「ご丁寧にタグ付けまでされて……」
瀬名「こいつ、アホなんですか? 俺、SN
Sはやりませんけど、こんなつぶやきした
ら、普通は自分が炎上すると思いますけど」
川上「これは証拠として残しただけ。実際の
原田砂羽のつぶやきはやっぱり炎上して、
消去されてる。けど、もうマスコミには知れ渡ってるの。しかも相手はモーニング社からメジャーデビューするバンドの女の子なんでしょ?」
瀬名「ああ、そういやそんなこと言ってたな」
川上「どういう関係なのよ! アンタ!」
瀬名「ええと、幼なじみで、昔同じバンドで
活動してました」
川上「バンド? あのへたっくそなデスメタ
ル?」
瀬名「下手くそは余計でしょ!」
瑠奈「それより社長、どうしましょうか。マ
スコミを黙らせたとしても、問題は……」
川上「そうね。原田砂羽……あの子をどうに
かしないと」
瀬名「あのガキ……」
川上「琉希、アンタはしばらく、余計な行動
を起こさないこと。それ以外は普通に仕事
をしてちょうだい。わかった?」
瀬名「……うす」
川上「田端、サポート任せたわよ」
瑠奈、頭を下げる。
瑠奈「承知しました」
瀬名、瑠奈、社長室から出ていく。
川上、窓から外を見る。
川上「原田砂羽ねぇ……」
○マジテレビ・廊下(昼)
ワイドショーの収録が終わり、出てく
る瀬名。
小走りで追いかけくる砂羽。
砂羽「月瀬くん! ごめんね?」
瀬名「(機嫌悪く)は? 何がですか?」
砂羽「私のつぶやきのせいで、なんだかスキ
ャンダルみたいになっちゃって……」
瀬名「ああ、平気ですよ。今日の収録も皆さ
ん気を遣ってくれて、そのネタ振ってこな
かったですし」
砂羽「でも……私のせいでしょ? お詫びし
たいんだ。だからご飯でも……どう?」
瀬名「はは、今度は原田さんとのツーショッ
トを撮られちゃいますよ。困っちゃうな」
砂羽「だ、だけど、私の場合、色んな人とご
飯行ったり飲み会してるから、大丈夫だ
よ! 一緒に飲んでるって私がつぶやくだ
けで、みんな注目してくれるんだよ?」
瀬名「……ああ、そういうことか」
瀬名の目つきが鋭く変わる。
豹変した瀬名に驚きつつも、笑顔を崩
さないで
砂羽「え?」
瀬名「常人以上の自己顕示欲と自己愛。アイ
ドルだったらそれを持っていて当然かもし
れねぇけど、お前は度が過ぎてる」
砂羽「な、何のこと?」
瀬名「テレビでも雑誌でもSNSでも、常に
自分が話題になってないと嫌なんだろ?
だから他人を使って話題作りする。炎上し
ようが自分が目立てば関係ない……それっ
てアイドルでもなんでもねぇよ。ただの目
立ちたがり屋だ」
砂羽、瀬名をにらみ、
砂羽「月瀬くん、砂羽がつぶやくだけで、あ
なたの好感度だって下げられるんだからね! 謝るなら今のうち……」
瀬名「あいにく俺は好感度なんて最初っから
気にしてねぇからな。俺はただ、みんなに
夢を見せて、その対価として金をもらって
るだけだ」
砂羽、スマホを握りしめ、唇を噛む。
瀬名「じゃーな」
手を振って去る、瀬名。
廊下に座り込む砂羽。
廊下の曲がり角で様子をうかがってい
た瑠奈、通り過ぎようとする瀬名の腕
を引く。
瑠奈「あんた、何やってんのよ!」
瀬名「別に? 本当のこと言ってやっただけ
っすよ?」
瑠奈「よく言った! って喜びたいところだ
けどね……原田砂羽は何をするかわからな
いのよ? もし他にスキャンダルが見つか
ったら……」
瀬名「俺のスキャンダルと言ったら、致命的
なのがひとつ、ありますよね」
瑠奈「そうよ! それがバレたらあんた……」
瀬名「だったら、バラされる前にバラしちゃ
いませんか?」
瑠奈「……あんた、正気?」
瀬名「(笑顔で)いいんです。俺はただのプ
ー太郎に戻りますよ。35歳のね。(ため
息)それなりにみんなに迷惑かけてきた自
覚もあるし。ここが引き時でしょう」
瑠奈、無言。
○ホテル・記者会見場(昼)
何も知らされていないカメラマンたち。レポーターもよくわかっていないが、ともかくカメラの前に立つ。
レポーター「先日、女性との密会を撮影され
た月瀬琉希さんが、本日記者会見を開くと
いうことで……あ、月瀬さん、来ました!
ネクタイにワイシャツという服装です!
彼は一体、何を語るのでしょうか!」
○ヘブンリー事務所・社長室(昼)
テレビを見守る川上と、永谷、筑波。
川上「あの子! もう、無茶苦茶よ! せっ
かくシューティングスターはうまく行っ
てたのに!」
筑波「ゴンともう、ステージ出られなくなっ
ちゃうんだな……」
永谷「でも、ゴンが決めたことだから。俺達
がどうこう言える立場じゃないだろ」
筑波と永谷、テレビに視線。
○ホテル・記者会見場(昼)
カメラに囲まれる瀬名。
瀬名「本日は、私のためにわざわざお越しく
ださいまして、誠にありがとうございます」
レポーター「月瀬さん! 先日女性との密会
がスクープされましたが!」
瀬名「……彼女は、私の後輩で、幼なじみで
す」
レポーター「……後輩……ですか?」
周りがざわめく。
レポーター「その女性は、こちらの取材でモ
ーニング社所属のバンドのギタリスト……33歳だと聞いておりますが! 先輩ではないんですか?」
瀬名「はい。間違いなく私の後輩で、大事な
妹分です」
フラッシュがたかれ、シャッターが切
られる。
瀬名「私……いや、俺は月瀬琉希としてデビ
ューする前、デスメタルバンドを組んでい
ました。彼女はそのときのメンバーです。でも俺は、メンバーに見離された。そこで拾ってくれたのが、ヘブンリー事務所です」
再びフラッシュ。
瀬名「俺は、大した人間じゃない。夢だっ
て諦めた。やる気も何も、残ってなかったただの独身35歳の無職……それが若いメンバーとともに、アイドルなんて笑っちゃいますよね」
レポーター「さんじゅう……ご?」
ざわめき。
レポーター「つ、月瀬さん! 今のは……」
瀬名、大きくため息をついて、頭をかく。
瀬名「だから! 俺は35歳! 15サバ読
んでアイドルやってたの!」
ざわざわしながらも何度もフラッシュ
がたかれ、写真を撮られる。
瀬名「(自嘲気味に鼻で笑う)俺はファンを
だましてたんですよ。ファンのみなさん、
ごめんね! 実はおっさんでしたー! こ
れからは普通のオヤジに戻って、普通に転
職活動しまーす!」
レポーター「ふ、ファンのみなさんはそんな
理由じゃ納得いかないと思いますが! 月瀬さんっ! 月瀬さんっ!」
瀬名「(優しく)じゃーね、みんな。俺はた
だの瀬名権之助に戻るよ。バイバイ」
レポーター「月瀬さんっ!」
会場から去る瀬名。瑠奈、ため息をつ
き、瀬名を追う。
○ホテル・外(昼)
瀬名、ネクタイを解きながら、
瀬名「あーあ、疲れた。おじさんにはキラキ
ラした世界なんて、眩しいだけだったんだ
よ」
瑠奈「それでもあんたは、なかなか光ってた
わよ。私や社長が目を付けたんだから、間
違いない」
瀬名「そう言ってもらえると嬉しいよ。でも
さ、きっと星って、一瞬しか輝かないから
きれいに見えるんだよ。流れ星みたいにさ」
瀬名、ジャケットを脱ぎ、肩にかける
と、真面目な顔になる。
瀬名「たばっちゃん。いや、田端さん。最後
までありがとうございました。拾ってくれ
たこと、感謝します」
瑠奈「(笑顔で)うん」
瀬名「それでは。瀬名権之助、これからは一社会人として、しっかり生きていきます! ……さよなら」
瑠奈「さよなら」
瀬名、後ろを向き、去っていく。
無言で見送る瑠奈。
瀬名M「こうして俺の2年間のアイドル生活
は終わった。少しだけ味わったキラキラし
た世界は、思ったよりもあたたかくて、居
心地も悪くなかった気がする――」
○街(夜)
車が通っている。
道近くに居酒屋『月下』の暖簾。
○居酒屋『月下』(夜)
スーツ姿でメガネをかけた瀬名、暖簾
をくぐる。
瀬名「ちーっす」
おやっさん「らっしゃい」
早川、すでに日本酒を飲んでいる。
早川「よ。どうだ? ゴン。転職活動は」
瀬名、大きくため息をつき、カウンタ
ー席の隣に座る。
瀬名「うまくはいかないねぇ。やっぱ35、
元アイドルには厳しい世の中だよ」
早川「あ、そう言えば買ったか?」
瀬名「もちろん!」
瀬名・早川「じゃん!」
一斉美琴のバンドのCDを取り出す。
瀬名「美琴も無事にデビューできたし、これ
で一安心だよ」
早川「お前とのスキャンダル、どうなること
かと思ったけどな」
瀬名「言っとくけどな、お前が俺のライブに
美琴を連れてきたからああなったんだぞ? 反省しろ」
早川「(日本酒を飲んで)反省してますよ!
にしてもいい気味だったのは原田砂羽だな」
瀬名「自業自得だろ? 結局例のつぶやきか
ら、ボロが出るわ出るわ。浮気、不倫、二
股……やりたい放題みたいだったからな」
二人が飲んでいると、ガラッと戸が開
く音。
おやっさん「らっしゃい」
サングラスに帽子を目深にかぶった青年二人(永谷・筑波)が入ってくる。
筑波「あ! いたいた!」
永谷「たばっちゃんの言った通りだな。にし
てもメガネとスーツってだけで、全然変わってないな……」
瀬名「お前ら……まさか恭弥と悠馬か?」
二人、変装を解く。
筑波「あったりー!」
永谷「元気だったか? ゴン」
瀬名「元気に決まってんだろ! 今日も元気
に酒飲んでるわ!」
早川「お、おお、本物のシューティングスタ
ーだ……」
瀬名「陽太、なんでそんなに驚くんだよ。俺
だって、元メンバーだぞ?」
筑波「いやいや、『元メンバー』じゃないん
だな、これが」
永谷「むしろこれから頑張ってもらいたいっ
つーか」
瀬名「は?」
筑波「実はさ、『月瀬琉希』復活の声が、す
ごいんだよね。ファンの署名なんかも送ら
れてきてて」
永谷「ホントすごいぞ。(しなを作り)『月
瀬くんみたいなダメダメ30代を養いたー
い』だって」
瀬名「それ、褒められてねーだろ」
早川「でも、35歳のお前の需要はあるって
ことだ。若くサバ読まなくてもな」
筑波「やっぱ、俺達は3人でシューティング
スターなんだよ」
永谷「お前は何歳でも光ってる。だから……
戻って来いよ」
瀬名、頭をかいて酒を飲み干すと、
瀬名「……くそ、わかったよ! やりゃあい
いんだろ、やりゃあ!」
瀬名、メガネを外す。
瞳の中に星。
【完】