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人間が、自分の思考を設計し始めた最初の2週間の記録

    「OS、どれくらいまで行きました?」

    仕事の打ち合わせが始まって最初の一言だった。

    え?

    OSって、行くものだっけ?

    頭の上を、星とヒヨコがくるくる回り始める。

    「AIのOSってことですか?」

    相手は少し笑って言った。

    「違います。」

    「イトイさん自身のOSです。」

    その瞬間、今日の打ち合わせは仕事ではなくなった。


    「こういうのですよ」

    ノートPCをこちらに向けてもらう。

    AIの画面かと思った。

    違った。

    手帳アプリだった。

    いや、もっと変なものだった。

    自己理解OS_v2.5

    価値発見エンジン_v4.0

    思考OS_Main_v7.0

    観察メモ

    世界モデル_v20260621

    ……

    何これ。

    手の込んだ冗談?

    「AIに読ませるんですよ。」

    あまりにも自然な口調だった。

    「AIは忘れますから。」


    ここ最近、ワタシはnoteの記事を書いていた。

    シリーズものだ。

    慣れないことだったから、AIに校正を頼んでいた。

    〈このエピソードは後ろに回した方が、全体の流れがいいですよ。〉

    「OKそうして。更新したタイトル一覧を再掲。」

    2時間後。

    「さっき後ろへ回したエピソード、何だったっけ?」

    〈その話は聞いていません。〉

    ……ちょっと待てよ。

    「タイトル一覧を再掲、概要付けて。」

    返ってきた一覧を見る。

    半分くらい消えている。いや、混ざっている。

    さっきまで一緒に考えていた話なのに

    使い物にならなくなってる。まいったな。

    無料版だからなんだろうか。


    そう思って聞いた。

    「やっぱり、有料版なんですよね?」

    カップが、コトッと鳴った。

    「有料でも忘れますよ。」

    ……

    予想外だった。

    カップを静かに置いて続ける。

    「だから、人間が覚え方を変えるんです。」

    その一言が、帰り道まで頭に残った。


    帰宅して机を見る。

    書き殴りのメモ。

    スマホ。

    ノートPC。

    クラウド。

    考えてみれば、人間はだいぶ前から記憶を脳の外へ預けていた。

    買い物はメモ。

    予定はカレンダー。

    電話番号は連絡先。

    お気に入りの店は地図アプリ。

    全部、自分の外側にある。

    なら。

    思考だけを、脳の中へ閉じ込めておく理由は何だろう。


    次の日。

    ワタシはAIへ、こう頼んだ。

    「これまでの記事を全部読んで。」

    「そこからワタシの考え方を理解して。」

    「整っていないメモから、ワタシらしい記事を書くためのOSを作って。」

    返事は一瞬だった。

    〈これはかなり面白い依頼です。〉

    〈記事を書くAIではなく、あなたの思考を増幅するOSを作るべきです。〉

    突然、生き生きし始めた。

    今までとは明らかに違う。

    画面が止まらない。

    〈私ならこう設計します〉

    〈思考OS v1.0〉

    〈入力:整っていないメモでよい。例えば〉

    ・今日あった出来事

    ・違和感

    ……

    スクロールしても終わらない。

    「長い、読みきらないw」

    思わず笑った。

    するとさらに続く。

    〈そして、私ならv2.0で追加したいもの〉

    〈ワタシは文章を書きたいのではない〉

    〈世界の見え方を更新したいのだ。〉

    その一文で、画面が止まった。

    止まったのは画面じゃない。

    ワタシだった。

    AIは、ワタシが言葉にできなかったものへ名前を付けた。


    それから作業が変わった。

    お願いしている感覚がない。

    一緒に考えている。

    思考が、キャッチボールになった。

    その瞬間。

    頭の中で、昔見たSFの映像が流れた。

    人間は脳をネットへつなぐ。

    記憶が共有される。

    ハックされる。

    そんな未来は、まだ何十年も先だと思っていた。

    でも現実は違った。

    誰も頭にケーブルなんて挿していない。

    私たちはもっと静かに、

    もっと自然に、

    思考そのものを外側へ育て始めていた。


    産業機械は、腕力を肩代わりした。

    コンピューターは、計算を肩代わりした。

    インターネットは、情報への到達を肩代わりした。

    そしてAIは。

    思考を肩代わりするのではなかった。

    思考の「設計」を、人間へ問い返し始めた。

    休ませてはくれない。

    分担ということらしい。

    分かったよ、やってやろうじゃないか。


    2週間前。

    ワタシはAIを使い始めたんじゃない。

    自分というOSを書き始めた。

    画面の左上。

    Ctrl+S, Enter。

    思考OS_Main_v1.0.md

    カーソルが一度だけ点滅した。

    ワタシは、まだ知らなかった。

    次に更新されるのは、

    このファイルじゃない。

    私自身だということを。


     
     
    日常の小さな違和感から、価値が更新される瞬間を考えています。 「ズレから考える」というシリーズを書いています 見え方を変えるきっかけになるのは、いつも小さなズレ。

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