
父がアパート経営を本格化した時の話③
第三章
ある日、保育園から帰ると、珍しくこれからお出かけすると母が言う。
弟と私が連れて行かれたのは、完成間近の建物だった。
3階建 RC造 総戸数6戸 ファミリータイプ3DK
この後の物件からは単身者用の木造アパートにシフトするので、父の建てた賃貸物件第一号にして最初で最後のRCファミリータイプ物件。
車を降りて、父を探す。
父は、最後の内装の仕上げをしていた。
お父さん!着いたよ!と声をかけると
「風呂に入っていいよ!」だって!!
自分のうち以外の、しかもピカピカのお風呂に入るなんて!!
弟と2人で入ったピカピカのお風呂。
アルミのように光る、銀色の浴槽だった。
あれはステンレスの浴槽だったんだろうな。
嬉しかったなー。
お父さんすごいね。おうちだけじゃなくてビルも建てるの、かっこいいね!ってお母さんに言った。
私は小さい頃から、現場によく連れていってもらっていた。
地鎮祭も、棟上げも、引き渡しも、そのずっと前の設計段階の話の時も父の横にいた。
この物件もお客さんのものだと思っていた。
今思えば、私に見せてくれてたんですよね。
どんな仕事なのか。
保育園児に教えてたんですよね。
土地の仕入れも、設計も、施工も、管理も、全部ひとりでやっていた父。
父は自称大工だが、設計者であり、施工会社であり、不動産開発業者であり、大家でもあった。
大工って普通はそうじゃないんだと知ったのは、2001年公開の三谷幸喜監督の映画、「みんなのいえ」を観た時。
今から25年前に公開された映画ですが、私が観たのは
映画館ではなく、テレビ放映されたかビデオを借りてみたので、30代になってから。
ええぇ!!家作るのって
こんなにたくさんの人が関わってるの?!
お父さん1人でやってんだけど!!
(流石に左官さんも電気工事屋さんも来てたけど。)
この時、初めて父が普通じゃないって気づいて。
そこから、ちょっと尊敬の気持ちが芽生えてきた。
映画を見終わって、その衝撃を、あなたは普通の大工ではないと伝えようと父に電話した時、また違う角度で父のことを知ることになる。
父はぼそっと言った。
好きなようにしてるように見えるかもしれないけど、作りたいように作ったことは一度もない。作りたいように作れるなんてことはない。
どんな芸術家もやりたいようにやってるなんてことはないと思う。
確かに、レオナルドダヴィンチも、ミケランジェロもこんなの描いてってパトロンに言われるんだよね。
喧嘩してたらしいよね。
お父さんは、自分が王様で好き勝手やりたいようにやってる。
私みたいなサラリーマンの感情は理解できない人だと思っていたが、そんなことはないんだと知った。
そういうことも、三谷幸喜監督のおかげで知ることができた。
もっと面白い映画はたくさんあるけど、みんなのいえは私の父親をよく知るきっかけになった映画です。