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硝子の向こうに

    窓硝子の向こう

    見覚えのある車椅子が通る。

    この街で見るには見慣れない彼が、
    どこかおかしい。

    痛む脚をさすりながら、
    コーヒーフロートを飲んだ。

    太宰府の通りを進む彼を眺める。

    地元では何度も見た姿なのに、
    妙に新鮮だった。


    5月末、福岡へ行った。

    養護学校時代のクラスメイトと、
    同窓会をするためだ。

    みんなの出身も、
    学校があった場所も、
    福岡とはまったく関係ない。

    それでも何故か、
    会場は福岡になった。

    クラスメイトは4人。

    全員、車椅子ユーザーだ。

    僕は今でも交流のある友達と、
    1泊2日で行動を共にした。

    同窓会を楽しみ、

    ホテルで鶏皮を食べ、

    一緒に酒を飲み、

    翌日

    せっかくだから、
    太宰府天満宮へ行こうという話になった。


    ホテルを出た瞬間、
    熱気が身体にまとわりつく。

    仮にも5月だぞ、マジかよ

    「保護者とか先生とか無しで、
    2人で旅行するのは初めてだね」

    「あぁ。
    俺、基本は地元の市内から出ないしな
    ま、今回はお前がいるけど」

    知ってるよ、君だもん。

    地元とは違う
    異国の匂いのする人混みを抜けて、
    博多駅へ向かった。

    地下鉄の切符を買い、
    駅員さんにスロープをお願いする。

    すると、

    「ここは地下鉄だから、
    乗り降りにスロープは要らないですよ」

    と言われた。

    あ~、都会の地下鉄ってそうだったかも

    隣を見る。

    友達が少し驚いた顔をしていた。

    「福岡やっぱ違うな~」

    なんて言いながら、
    ホームへ向かうエレベーターに乗った。

    ホームに着くと、
    すぐに電車が来た。

    車椅子優先のマークがある場所へ移動する。

    友達は窓際にいた。

    僕はもう片側の席に座った。

    自分で乗り降りできるのが嬉しいからかな。

    何も言わないけれど、
    車内を見回す表情が、少し明るい。

    乗り換えて
    今度は地上を走る電車に

    発車する。

    窓の向こう

    知らない街。

    知らないマンション

    知らない道路。

    知らない川。

    知らない畑。

    流れる景色を見つめる彼を、
    見つめていた


    何だかんだ、よく遊ぶ仲

    もう10年以上の付き合い

    見慣れた車椅子。

    見慣れた横顔。

    でも、

    なんでだろう

    その横顔を、ずっと眺めていたかった。


    太宰府に着いた。

    天神様通りには、飲食店が並ぶ。

    動きやすい道に、入りやすい店。

    ふふん、思ったとおりだ

    ちゃんとは調べてなかったけど

    車椅子で行きやすい場所なんじゃないか

    って、目を付けてたんだよね


    1時間半くらい経ち

    参拝も済んだ僕らは、

    天神様通りに戻ってきた。

    ここからは少し別行動という事で

    涼を求めて買った苺の葛アイスバー片手に

    通りをぶらぶら

    でも、脚が痛んできた

    当然だ、歩行者の姿で過ごして2日目

    いつもは自分のペースで好きに休みながら動くけど、今回は違う。

    同窓会の時に
    みんなの車椅子を運んだ負荷とか、
    そういうダメージも多分、ある。

    10分程度の休憩じゃダメだな、
    もっと休めなきゃ

    僕は、横に見えた喫茶店に逃げ込んだ。


    窓側の席に案内された

    「コーヒーフロートをお願いします。」

    メニュー表にある「当店オススメNo.1」の文字に釣られてしまった。

    わざとアイスをコーヒーに溶かしながら

    一口、飲む

    普段飲まない味が、良い

    そこまで甘くないのに、甘かった

    脚が緩む

    少し前屈みになり
    ストローを咥えながら

    窓の外に目を向けた。

    人混み

    募金の協力を願う、少年の一団。

    それを見ている、外国の旅行者。

    苺のアイスバー屋には、
    若い女性が集まっている。

    そんな通りを、見慣れた影が横切る

    アイツだ

    何してんだ?

    スマホを片手に、土産屋の前にいる。

    あぁ、土産を探してるのか。

    どうせまたチャットGPTにでも
    オススメの土産を聞いているんだろう。

    僕もよくやるし

    決めきらない様子で、彼は次の店へ向かう。

    顔は見えない

    後ろ姿しか見えてない

    でも、楽しそう

    電動車椅子の動きか

    肩の揺れか

    姿勢か

    何か、纏うものが
    楽しいものだった

    フロートの残りを啜りながら

    彼を眺めていた

     
     
    車椅子で働く20代男です。 「車椅子」と「歩行者」の間で考えたことを書いています。 日常の中で、ふと心が立ち止まった瞬間のことも。

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