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Photo bynon_file

それは夜だった。

    私はたしか23:00に布団に入って寝ようとしていたはずだ。
    しかし私は泣いていた。詳細なことは忘れてしまった。

    ただ明日嫌なことがあることは覚えている。
    真顔のまま涙だけが溢れてくる。
    明日の朝まで泣いたままでいるのだろうか?だとしたら嫌だと思った。早く夢の中に行きたいと思った。

    布団で仰向けになりそこにあるはずの天井を見ていた。真っ暗で何も見えない。天井に吸い込まれそうになり寝返りをした。
    室内乾燥機のかすかな動作音と青緑のLEDが光っている。
    光が目を刺す感じがして、またそこにあるはずの天井を見た。

    頭が不安でいっぱいだ。
    気分を紛らわそうとスマホに手をかけたが、寝れなくなって朝嫌な気持ちで迎えるのは嫌だと思い、手を引いた。
    そして布団の中で手を合わせて祈った。誰に祈っているのかは自分でもわからない。
    ただ嫌なことは起こらず、なんでもない明日が来ることを祈っていた。

    涙が止まっていることに気がついた。
    何時間たったのかもわからない。
    自分がずっと天井を見ていたのか、寝ていたのかもわからない。
    新聞配達のバイクの音がやってきて、新聞がポストに入る音が聞こえた。

    室内乾燥機がタイマーで切れたのか、部屋は静かだった。
    何時間後に切れるように設定したのか忘れてしまったが、まだ空は真っ暗だがもうじき朝になるみたいだ。
    何時間も経っているはずなのにとても短く感じた。

    時間の長さは変わるらしい。
    アインシュタインだったろうか?
    「ストーブの上に手を置くと時間が長く感じるが、可愛い女の子と一緒だと短く感じる」という諺を思い出した。
    私は可愛い女の子と寝ていたのだろうか?
    影も姿も見えない可愛い女の子が泣いている私をあやしながら静かに一緒にいてくれていたのだろうか?
    もし「ストーブの上に手を置くと時間が短く感じ、可愛い女の子と一緒だと長く感る」のなら良かったのにと思いながら、そこにあるはずの天井を見ていた。

    もうすぐ嫌な今日がやってくる。
    ずっとむかしから今日はやってくる。
    「もしこの部屋が太陽が登る前に西へ移動し続けていたら今日はやってこないのだろうか?」と一瞬考え、「いやそれでも今日は来る。なに馬鹿なことを考えているのだ」と自我にもどる。
    今日が来ない場所なんて来ない。たとえヨーロッパにいても、アメリカにいても、日付変更線に近くにいても,地球にいなくても今日はやってくるのだ。

    自分が生まれたときから今日が来なかった日はない。
    いや自分が生まれる100年前、1000年前でも、今日はやってきて多くの人々が憂鬱な朝を迎えたのだろう。
    良かった!憂鬱なのは自分だけではなかった。と謎の共感を感じて少し安心するも、自分の馬鹿馬鹿しさと、そんなんだから馬鹿なのだと誰かに言われそうな気がして得た安心感もすぐになくなってしまった。

    そんなことを考えていると鳥たちが鳴きはじめ、天井の存在が明らかになりつつあった。そのとき私は感じた。
    10分くらいで夜から朝への変身するはずが、天井が暗いままなのだ。天井に吊らさがっている照明の影ができるまでまだ何時間もかかる気がした。
    原因はわからないが急に時間がゆっくり流れ始めた。

    スマホを見ようと手をのばしたが、時間が急に過ぎてしまう気がしたのでやめた。
    せっかく時間がゆっくり流れるのだ。この時間を楽しみたいと思った。

    ボーとしていた。
    時間がゆっくり進み、ゆっくり変化する。
    部屋にはしごとペンキの缶をもった人が現れ真っ黒な天井を白のペンキで丁寧に塗っていく。
    カーテンから少し冷たい空気が流れ込む。
    天井の照明が形を表す。
    闇が晴れて部屋の乱雑に置かれた本が静かに現れる。
    頬が少し濡れた枕を感じる。
    自分の体に光があたり、闇が影の中に、と心が肉体の中に別れていく。

    泣いている私をあやしながら静かに一緒にいてくれていた女の子がゆっくり部屋から出ていった。
    彼女は誰だったのだろうか?なぜ一緒にいてくれたのだろうか?それが彼女の義務だったのだろうか?わからないが、彼女の後を追うように
    布団からゆっくり起きた。洗面所の鏡を見ると目が充血して赤くなっていた。昨日の夜、私が実際に泣いていたことを思い出した。
    シャワーを浴びると体がお湯で包まれた。
    謎の安心感。今日嫌なことが起きるのになにか安心感があった。

    #創作大賞2026 #エッセイ部門

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