
【薬膳】さくらんぼの甘さと温かさの奥に
こどもの頃、父が買ってきてくれたさくらんぼが好きで、 宝物のように一粒ずつ大切に食べていました。
「飲膳正要」には、味は甘、中焦を調え、脾気を益し、顔色を美しくすると記されています。
食物性味表によると、食性は温、脾を健やかにし、腎を養い、風邪(ふうじゃ)や湿邪を取り除き、 痛みやしびれ、重だるさを和らげる働きもあるとされています。
こどもの私は食が細く、寒がりで、ちょうどこの時期になると、 母に「半袖着たの〜⁉ 風邪をひくわ〜」と言われると、 暗示にかかったように寝込んでしまうのでした。
さくらんぼはそんな私の体質に合っているのだと思います。
父と母は絶対的な存在でした。
大学進学を機にひとり暮らしを始めることになり、内見した住まいから母とバス停へ向かったとき、駅行きのバスが来るまで少し時間がありました。
母がふらっと個人経営の電器屋さんに入り、私もついて行きました。
特に買う予定もなかったのに、店員さんはひとり暮らしに必要な家電のパンフレットを手渡してくれました。
あの頃の私は、なんとなく居心地の悪さしか感じられなかったのですが、今では同じ店員という立場から振り返ると、申し訳ないことをしたなと思います。
その時の母の行動は、当時の私にとっては絶対で、私はただ従うしかありませんでした。
嫁ぐ前に母から「舅姑が烏は白いと言っても、違うとは言わないように」と教わった私は、自分の気持ちを押し殺し、義家族には逆らわず、嫁として尽くしてきたつもりです。
人生の指標は、いつも父と母でした。
そんなことをふと思い出しながら、今年もまた、さくらんぼを一粒ずつ大切に味わっていました。
甘さの奥に、悩みもなく、ただ父と母に守られていた幼い自分が、静かに佇んでいるように感じました。
