
第5話:駐車場で揺れるダブルピースの写真入りキーホルダー
マッチングアプリには、時々、人生では二度と会えない人がいる。
そして、マッチングアプリにおける「サプライズ」は、大抵の場合、ろくなものではない。
時間通りに来なかったとか、 写真より少しふくよかだった、実物はちょっと老けていたとか、そんなものは可愛いものだ。そもそも来ないとか、それらしき人が来ていたが、目も合わされず立ち去っていき、アプリの画面上には「このユーザーは退会しました」なんて表示されることもある。
その日、私を待っていた彼女の傍らには、明らかに「おまけ」とは呼べないサイズの、10歳ほどの女の子が立っていた。
事前にそんな話は一言もなかった。プロフィール欄の「子供の有無」は「無」だったはずだ。そして、メッセージの段階でも「子ども?いないよー」なんて話していた彼女。
「あ、すみません。預けるところがなくて連れてきちゃいました!」
彼女はマクドナルドのハッピーセットでも渡すかのような軽さで言った。いや、預けるところがない云々の前に、人生の重大なステータスを隠蔽されていたことに、この人は毎回、こんな感じなんかな?なんて疑問が沸いた。
10歳の少女自身は何一つ悪くない。大人の都合に巻き込まれただけだ。誰が好き好んで、知らないおじさんと一緒に土曜日の午後にランチを食べないといけないのか。憮然とした表情のそんな少女を前にして、申し訳ない気持ちにまでなってしまいながら、待ち合わせのカフェには出来るだけ自然体の笑顔で入店した。
席につくなり、彼女はメニューも見ずに私を真っ直ぐ見据えた。
「この子には、父親が必要なんです!」
「数量限定!本日のおすすめ」や、「今週の日替わりランチ!」のメニューに悩むよりも先に、人生のセカンドステージの配役を決定された。
まだ出会って5分、おしぼりさえ袋から取り出していない。
あまりの急発進に私が言葉を失っていると、それまで私の顔を不思議な生き物を見るような目でじっと見つめていた少女が、沈黙を破って叫んだ。
「お母さん、もうやめてよ! 帰ろうよ!私、こんなオッサン嫌!!!」
ドリンクバーの炭酸が抜けるような静寂が、私たちのテーブルはおろか、店内を包み込んだ。
正しい。
10歳の少女の言い分は、100%正しいのだ。
いきなり連れてこられた見知らぬ30代後半の男を、今日から「お父さん」と呼ばされて喜ぶ子供などいるはずがない。
ランチだって、ケーキセットだって同じテーブルで食べるのも抵抗があるだろうし、「誰かにこの光景を見られたら…」なんて不安と恐怖が鎌首をもたげていることだろう。
私は心の中で、その真っ直ぐな反抗心に拍手を送っていた。
しかし、母親の顔は一瞬で般若へと変わった。