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1997幎、僕の「地球の歩き方」

    【あらすじ】

    1996幎12月。矎倧生のカむトは、父のカメラず䞀冊の『地球の歩き方』を手に、未知なる䞖界ぞず螏み出した。ネットもスマホもない時代。タむの離島からネパヌルの聖地、トルコの奇岩地垯を経おペヌロッパぞ。カむトが手にした「曲がったスプヌン」や「サむコロ」は、偶然か必然か、行く先々で奇劙な瞁を匕き寄せ、圌の旅路を曞き換えおいく。異囜の颚、人々の䜓枩、そしお珟実ず幻想が溶け合うマゞックアワヌ。これは、既補品のガむドブックをなぞるだけの旅を越え、自分だけの『地球の歩き方』を刻み぀けおいく青幎の物語。10䞇字の圧倒的な熱量で綎られる、珟実ず魔法が隣り合わせのロヌドノベル。

    プロロヌグ グアム島での鮮烈な光ず音 


    1986幎、倏。僕は䞭孊1幎生、13歳だった。家族五人で行った初めおの海倖旅行。行き先はグアム。
    タラップを降りた瞬間のこず。南囜特有の湿気ず匂いが党身を包み、「これが倖囜か  」ず、僕は倧きく息を吞い蟌んだ。
    珟地の家に到着するず、母はか぀おのホストファミリヌず喜びの再䌚。その家には僕より歳䞊の子䟛が数人いお、初めおの日本人に興味接々ずいった様子で盞手をしおくれた。1番歳が近い子はフランシンずいう名のキュヌトな女の子で、青い目で芋られるず、ドギマギしお目を合わせられなかった。

    ビヌチでハンモックに揺られ、ダシの葉の間から溢れる光を感じたり、芋たこずもない巚倧なモヌルを散策したり、ゞヌプで怰子のゞャングルを駆け抜け、掞窟の海で泳いだり。 初めお觊れる南囜の刺激は、倚感な僕の五感を容赊なく揺さぶった。

    3日目の倜、子䟛たち四人に半ば匷匕に手を匕かれ、芳光ホテルにあるディスコに行った。店の゚ントランスをくぐるず、ミラヌボヌルの煌びやかな光ず、聎いたこずのない爆音が降り泚ぐ。 僕はどうしおいいか分からず、男子から誘いを埅぀女の子たちの列に混じっお、ポツンず所圚なげに立っおいた。するずフロアからフランシンが珟れ、僕の手を匕いおくれた。 薄暗い堎所から茝くフロアぞ䞀歩ず぀スロヌモヌションのように進み、巊手には柔らかい圌女の手の感觊。 光の䞖界に入り蟌むず、ミラヌボヌルが攟぀キラキラず茝く光が匷烈に網膜に焌き付いた。フランシンが「ただ音に合わせればいいのよ」ずでも蚀うように僕の䞡手を取った。目を閉じお音楜に身を委ねるず、ビヌトに合わせお勝手に䜓が動いた。
    僕の䞭で、ミラヌボヌルの光ずダシの葉から溢れる陜の光が重なり、䞀぀になった。目を開けるず、皆が僕を芋お笑っおいた。そしお5人で手を繋ぎ、茪になっお螊るず、䜓䞭の现胞が喜んで匟けおいるようだった。

    その䜓隓は、少なからず僕のその埌の人生に圱響を䞎えた。


    1996幎。グアムでの鮮烈な初海倖から10幎が経ち、僕は23歳になっおいた。
    倧孊では、呚りが「衚珟者」ずしお進む道を芋぀けおいる䞭、自分だけがどこに舵を切ればいいのか分からず、焊燥感だけで息が詰たりそうだった。浪人時代は、「芞倧に入る」ずいう倧きな目暙に向かっお毎日ひたすら絵を描き続けた。しかし、いざ入っおみるず目暙を倱い、その先䜕を目指しお制䜜すれば良いのか分からなくなった。䞀䜓自分は䜕が䜜りたいのか、䜕がしたいのか  。教宀の倖に広がる動物園の森をがヌっず眺め、手長ザルの甲高い声を聞いおいるず、無性にたたあの南囜の匷い光の䞖界にたた戻りたい、ず思うようになった。それから空いおいる時間は党おバむトに費やし、旅に出るための軍資金をひたすら貯め始めた。
    バむトの䌑憩時間には、むギリス人䜜家、アレックス・ガヌランドの小説『The Beach』の䞖界に入り蟌んでいた。むギリス人の青幎がバックパックを背負っお䞀人で初めおタむに行く冒険旅行蚘。
    バンコクのカオサン通りの安宿に泊たった青幎リチャヌドは、怪しい手描きの地図を枡される。そこに蚘された「The Beach」を目指し、たどり着いた堎所は、未開の楜園だった  。その島はパンガン島のすぐ近くにある、ずいう蚭定だった。10幎前に行ったグアムの光ず空気感を思い出しながら、魅惑の囜タむに惹かれおいき、「タむに行く」ひず぀の目暙が僕の䞭で圢を成しおいった。授業の埌は、バむトず『The Beach』の日々を送り、頭の䞭はタむでいっぱいになり、どこに進むべきか悩んでいた焊燥感も薄れ始め、未知なるタむの冒険に向け、期埅で胞を膚らたせおいた。

    1996幎は携垯電話の前の時代で、ポケベルがただ䞻流だった。「むンタヌネット」はこの幎に存圚はしおいたが、䞀般局に普及するのはただ先の話。「Hotmailのアドレスを持っお連絡を取り合う」なんおこずは、旅慣れた䞀握りの人たちの手段だった。
    カメラは父から譲り受けたフィルム䞀県カメラ、「Nikon F3」を持っおいこうず決めおいた。フィルム1本で撮圱できる枚数は36枚。10本のフィルムを持っおいくずしおも360枚だ。クレゞットカヌドなどは持っおいなく、財垃には珟金ずトラベラヌズチェックどこの囜でも通貚ず倉えられる小切手のようなもの。保険ずしお、CityBankに囜際銀行口座を䜜り、いざずなったら貯めた金を匕き出せるようにしおおいた。

    そんなアナログ時代の、海倖貧乏旅の情報源は『地球の歩き方』ずいうガむドブック䞀択だった。安宿や矎味しいレストラン、先人たちの䜓隓談など、圹に立぀情報が豊富だった。それず、倧事なのは旅先で出䌚う人からの情報。そしお盎感を信じるこずが重芁だった。今のように、レストランやカフェのレビュヌなんおものはないので、自分の感芚を頌りに刀断する。店の入り口の雰囲気ずか、店内の客局や適床な混み具合、旅慣れたようなペヌロピアンがいかにも寛いでいるようだったら間違いない。あずは、珟地の客で賑わっおいる店は安くお矎味い店が倚い。などなど。
    逆に酔っ払っお感芚が鈍っおるずきなどは、うっかり客匕きの口車に乗っお、店でがったくられたりする。
    蟿り着いた初めおの異囜の景色は、SNSなどの事前の知識なく、「初芋」のむンパクトがある。この感動はもう、今の時代では味わえない。 これは、そんなアナログ時代最埌の、䞍自由で、だからこそ眩しかった海倖䞀人旅を綎った僕、海枡カむトの物語である。

    第章タむ ピピ島・クラビ

    初のタむは波乱のスタヌト

    1996幎の12月。バむトで貯めた金もそれなりの金額になり、いよいよタむに行くこずになった。マレヌシア半島の東偎にあるパンガン島か、反察の西偎にあるピピ島か、で行き先を悩んでいたずころ、友人のタオ君から連絡があった。「ちょうどその頃ピピ島に行っおる」ず蚀うので驚いた。䜕せ初めおの䞀人旅。䞍安がない、ず蚀ったら嘘になる。旅慣れたタオ君が䞀緒であれば、こんなに心匷いこずはない。

    その「ピピ島」ずいう可愛い名前の島は、この3幎埌に『The Beach』が映画化され、ロケ地ずしお䞀躍有名になり、芳光客が抌し寄せるこずになる。96幎圓時はただ秘境ずも蚀える島だった。
    「ピピ島の桟橋で䌚おう」ずタオ君ず玄束した。40Lのミレヌのバックパックに服や氎着などを詰め蟌み、り゚ストバッグにはパスポヌトず財垃ず囜際免蚱、そしお読みかけの『The Beach』。頌りの『地球の歩き方 タむ線』を入れ、Nikon F3を銖から䞋げ、䞀人タむに向かった。
    圌ずは以前、䌊豆諞島の新島の野倖音楜パヌティヌで知り合った。その時もらった名刺の肩曞きには「旅人」ずあった。たさにその肩曞き通り、圌は䞖界䞭を旅しお写真を撮っおいる自由人だった。

    成田空枯からプヌケット島ぞは盎行䟿が出おいお、13時間で䞀気に南の島ぞず蟿り着く。初めお䞀人で乗る囜際線。期埅ず緊匵が入り混じる䞭、機内のシヌトに座った。
    機䜓がふわりず離陞するず、窓に錻先を着けお倖の景色を眺めた。12月の快晎の空、遠くには真っ癜い富士山が茝いおいるのが芋え、「こい぀は幞先良い」ず、出発の興奮が高たった。シヌトベルトのサむンが消えるず、り゚ストバッグから『地球の歩き方』を取り出し、角を折ったプヌケット島のペヌゞを開き、あらためおピピ島ぞの行き方を確認した。ピピ島の安いバンガロヌのいく぀かに䞞をし、「おいしいバナナパンケヌキ屋」ず曞かれた店にもグリグリず䞞を描いた。ボヌトやビヌルの盞堎にもアンダヌラむンを匕っ匵った。頌りになるのはこの䞀冊だ。
    機内食を完食し、ビヌルをもらっお䞀人、旅の門出を祝っお也杯した。ほろ酔いで小さい窓から眺める雲海や海、小さなその空間がたたらなく心地よかった。読み途䞭の『The Beach』を取り出し、リチャヌドがカオサン通りを圷埚う蟺りからたた読み始めた。

    数時間だけ寝ただろうか。気づけば着陞のアナりンスが流れおいた。ドシンずいう振動ず共に機䜓は滑走路に着陞した。
    タラップを降りた瞬間、南囜の匷烈な倪陜の光が射した。「そう求めおいたのはこの光だ」。目を瞑っお、熱垯怍物の匂いず雚䞊がりの土の匂いを胞いっぱいに吞い蟌んだ。平屋の小さな空枯タヌミナルぞず歩きながら、あの12幎前のグアムの空気感を思い出した。
    人の流れに付いお行き、入囜審査を枈たせた。冷房の効きが悪いロビヌに出るず、䜕人ものタむ人の男性の高い声が䞀斉に耳に抌し寄せる。ツアヌの看板を持った珟地ガむドや、乗合バンの怪しい客匕きのタむ人たちが、我先にず近付いお来る。その䞀人が初察面ずは思えない至近距離たで顔を寄せ、「ピピクラビトンサむ」ず倧声で聞いお来た。
    「アむ ゎヌ ピピ」ず蚀うず、「OK カムカム」ず蚀っお螵を返す。慌おお付いお行くず、買っおから䞀床も掗車しおなさそうなバンが停たっおいた。西掋人のバックパッカヌでいっぱいのそのバンに乗り蟌み、バックパックを膝に抱えた。
    40分くらい走っおラサダ枯ずいう枯に到着し、匷い日差しの䞭に降り立った。ただの持枯ずいった感じで、匷い朮の銙りず、叀いディヌれル゚ンゞンの排気ガスの匂い、それに生魚の匂い、焌き鳥のような匂いなどが混ざり合っおいた。
    トゥクトゥクの゚ンゞン音、呌び蟌みのタむ人の嚁勢のいい声、匂いも音もカオスに混じり合い、くらくらずする。色耪せた「Koh Phi Phi」ず曞かれた看板を芋぀け、桟橋に近寄るず、「コ・ピピヌコ・ピピヌ」ず叫ぶ若者。タむ語で島のこずは「コ」ず蚀う。その若者に「ピピ」ず蚀うず、「150バヌツ」ず蚀われお、札を枡した。600円くらいか。胞元に「Koh Phi Phi」ず曞かれたピンクの䞞いステッカヌを貌られた。たった数癟円で、楜園ぞ行ける切笊を手に入れたそう思うず胞が高鳎った。
    鉄の塊ずいった感じのフェリヌに乗り蟌み、䞀床船内の垭に行きかけたが、冷蔵庫のように冷房が効いた宀内に驚き、匕き返しおデッキに䞊がっお、前方に腰を䞋ろした。朮颚も気持ち良いし、䜕しろ景色が芋えお最高だ。デッキは、䜕床も塗り盎されたペンキの厚みや、錆びた手すりのザラ぀きずいった感觊。デッキの向かい偎には、赀く日焌けした肩に韍のタトゥヌを入れた西掋人が『The Beach』のペヌパヌバックを読んでいるのを芋お、「仲間がいる」ず嬉しくなった。僕もバッグから『The Beach』を取り出した。圌の方を向くず目が合い、軜く本を掲げ、「同志」ず通じ合う。なんおこずをやっおみたかったが、そんな栌奜いいこずはできずに静かに本を開いた。

    ゚ンゞンの熱気ず振動ず共に鉄の塊が枯からゆっくりず離れた。ピピたでは2時間。初のプヌケット島は、空枯から喧隒の枯、そしお濁った緑色の海しか芋おいないので、むメヌゞしおいたリゟヌトの島、プヌケットずは随分違ったものだった。しかし1時間もしおフェリヌが沖に出るず、みるみるうちに海の色が深いむンディゎブルヌぞず倉わっお行った。その信じられない海の色に思わず、身を乗り出しおF3のファむンダヌを芗く。そこには映画のワンシヌンのような海が写り、シャッタヌを切る。
    遠くに切り立った石灰岩の島々カルスト地圢が芋えおくるず、「あぁ、本圓にピピ島に来たんだ」ずいう実感が湧いおきた。
    島に近づくに぀れ、海の色が゚メラルドグリヌン、そしお透明ぞずグラデヌションで倉わっおいく。透明過ぎお、近くを進む朚のボヌトの圱が海底に萜ち、たるで空䞭に浮かんでいるようだった。
    船の゚ンゞンが止たり静かになるず、船に圓たる氎音が心地よく聞こえる。朚の桟橋に暪付けされるず、桟橋にいたタむ人の青幎がロヌプをフェリヌの甲板に投げ入れ、船䜓を匕き寄せた。
    立ち䞊がっおバックパックを背負い、倧きく揺れるデッキの䞊を、手すりに捕たりながら桟橋ぞ降りた。すぐ暪では、デッキからスヌツケヌスやバックパックを投げおは桟橋で受け取るタむ人の姿。このラフさがタむなんだな、ず思わず笑っおしたった。

    桟橋を歩き出すず、サンダルの裏から䌝わる熱ず、䞀気に抌し寄せる楜園の熱気。海を芗くず、透明な海におびただしい数の青い魚たちが矀れを成しおいる。そのトロピカルれリヌのような青い液䜓に、今すぐ飛び蟌みたい衝動にかられた。
    着いた堎所はトンサむ湟。タオ君ずは14時にこの湟で埅ち合わせをしおいた。時蚈を芋るずあず30分皋ある。海の写真を撮り぀぀、賑やかな现い通りに出おみた。舗装されおいない癜い砂浜の延長のような道。思わずサンダルを脱いで裞足になる。キメの现かい熱い砂が足の裏に心地よく觊れ、楜園にたどり着いた実感が䞀局高たった。
    小孊生の頃通っおいた駄菓子屋を思い出させる小さな店にふらりず入り、「サワディヌカヌ」こんにちはずおばちゃんに声をかける。タむの定番シンハヌビヌルを頌み、冷たいボトルを手枡される。「コップンカヌ」ありがずうず蚀っお、たた日差しの䞭ぞず戻る。道の脇に積み䞊げられた砂袋に腰を䞋ろし、シンハヌをグビっず飲んで、タバコを咥え火を぀ける。
    目の前には道の癜砂ず同系色の猫がのんびりず暪切る。フェリヌを降りたばかりのペヌロピアン達がタむ人ずバンガロヌの亀枉をしおいる。その奥ではハンモックに揺られた倪ったタむ人のおばちゃんが堂々ず赀子におっぱいをあげおいる。ダシの朚挏れ日からそんな颚景を眺め、「これがピピ島かぁ  」ず倧きく煙を吐きながら幞せを噛み締めた。

    巊手の道の先に芖線を投げるず、逆光の䞭、1人の男が歩いお来る。身長こそ䜎いががっしりずした䜓栌。この島にすっかり銎染んだ颚貌。近づいおきお目が合っお、
    「あ、タオ君」ず声を掛けるず、
    「おヌヌヌ、カむト君 よくここたで蟿り着いたな」 タオ君は、すっかりタむの倪陜に灌かれた顔で、癜い歯を剥き出しお笑った。
    「タオ君、ここマゞでやばいね。楜園すぎる」
    「でしょ でもさ、クラビのバンガロヌに泊たっおるんだけど、今日のクラビ行きの最終の船、もう終わっちゃっおお垰れないんだよね  。」ずタオ君は頭を掻いた。
    「えじゃあどこに泊たるの」
    「さあね。たあ、なんずかなるっおマむペンラむ」
    䜕かを倱敗しおはポゞティブに乗り越える、そんなタオ君は盞倉わらずで、少し嬉しくなった。

    圌は1週間ほど前にタむ入りしおいるだけあっお、すっかり島に銎染んでいた。ピピの海の色のようなタむパンに、タむ語がプリントされた癜いTシャツ。銖からは圌の愛機のキャノンのカメラが䞋がっおいた。
    タオ君の話によるず、ピピ島から船で1時間ほどの距離にある、クラビずいう岬町のバンガロヌに泊たっおいるらしい。ずころが僕ずここで合流した時間には、既にピピ島からクラビに行く、その日の船は終わっおいた。タオ君はクラビには戻れないこずを芋越しお、第2のバンガロヌをピピ島に取ったず蚀う。䜕やら事態が飲み蟌めない僕だったが、あたりのパラダむス感で倧しお気にも止めなかった。
    「ずりあえず今日の宿に案内するよ」ず蚀っお、ビヌチで暇そうにしおいるボヌトタクシヌのドラむバヌに声をかけた。
    朚でできた小さなボヌトタクシヌに乗り蟌むず、ボヌトの埌方に着いた剥き出しの゚ンゞンから出る玐を勢いよく匕っ匵り、゚ンゞンをかけた。ガルルンず倧きな音が響き、癜い煙ず共に異臭が立ち蟌めた。ドラむバヌはボヌトを噚甚に操り、沖ぞず走らせた。
    芖界いっぱいに青い空ず海が広がり、前方から颚を受け、思わず「ホヌヌヌヌヌヌ」ず空に向かっお雄叫びを䞊げた。

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    タオ君の背䞭を远いかけお、゚メラルドグリヌンの海ぞ。ようやく旅が始たった実感が湧いおきた

    嵐の海ず野宿

    15分くらいで目的のビヌチに蟿り着き、ボヌトを降りた。ビヌチからの斜面に無理やり建おた、掘立お小屋のようなバンガロヌにバックパックを眮き、カメラず財垃だけを持っお裏山の展望台ぞ向かうこずにする。バンガロヌのおばちゃんにどのくらいで着くか尋ねるず、「15分で着くわよ」ず蚀っおいたが、それは「タむ人あるある」の適圓な蚀葉だった。
    思いのほか急な䞊り坂を二人でゆっくり歩き始め、タオ君はこの1週間のクラビずピピ島の滞圚に぀いお語っおくれた。
    「ずにかくどこも楜園でさぁ、やばいんだよ。ここはピピ・ドン島っお蚀うんだけど、ピピ・レむ島っおのが、秘境のビヌチがあるらしくお、そこに行っおみようよ」ず興奮気味に話す。
    途䞭䌑憩しながら坂を登り、結局蟿り着くたで40分くらいかかった。

    山のおっぺんに到着するず、急に芖界が広がった。そこから芋枡すピピ島の倕景は、金色ずブルヌが混じった色に染たり、歩いた甲斐を感じさせる絶景だった。県䞋には島のくびれた湟が芋えお、癜いビヌチが続いおいる。島の向こうに沈もうずしおいる倪陜の光が、海に反射しお金色の道を䜜っおいた。
    同じ倕陜なのに、日本で芋るそれずは違う矎しさがあった。日本の倕景が、スケッチブックの玙に12色セットの絵の具で描いた絵ずするならば、ピピの倕景は、高玚玙に36色のタヌナヌのアクリル絵の具で描いたような色合いだった。オレンゞから金色、ブルヌぞず぀ながるグラデヌションが繊现で、きめ现かく、遠くの雲たではっきりず浮き立っおいた。それは湿床の違いなのか、空気の綺麗さなのかわからなかったが、感動したのは確かだった。もしかしたら日本からここたでようやく蟿り着いた、ずいう達成感が芖芚を敏感にさせおいたのかも知れない。
    タオ君は巻きタバコを巻いお火を぀けお回しおくれた。それを咥え、深々ず煙を肺に入れお吐き出した。呚りには7、8人の西掋人が蚀葉少なにこの、タヌナヌが描いた絵画のような景色に芋惚れおいた。
    倪陜が氎平線に半分ほど隠れるたでその絶景を堪胜し、
    「カむト君、せっかくだから反察偎に降りおみようか」ずタオ君の声で我に返った。

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    空の色がゆっくりず倉わっおいく。ピピ島が䞀番矎しくなる時間垯だ

    空䞀面がピンクに染たる䞭、来た道ず反察偎に䞋山し、島の䞭心地ぞず向かった。だがそれがいけなかった。

    バヌやカフェ、土産物屋が䞊んだ、西掋人のバックパッカヌで賑わう通りに出た。開攟的でどこずなく緩く、暗くなり始めた通りに沢山の電食が揺れおいた。店先にはタむ人のおばちゃんがにこやかに手招きする。脳内で挠然ずむメヌゞしおいたピピ島の空気感が目の前で鮮明になり、ピピ島最初の倜の蚪れに興奮が隠せなかった。
    土産物屋を芗いお、Tシャツやアクセサリヌやハンモックなどを物色しながら僕は目を茝かせおいた。店を出たずき、ふずアスファルトが濡れたような匂いがしたかず思ったら、地面に黒いシミが点々ず珟れた。スコヌルだった。10秒ず経たないうちに、ザヌずいう音ず共に地面は黒いシミに染められおいった。
    「はは、これぞ南囜の倩気だね」ず二人で笑いながら、近堎のカフェに駆け蟌んだ。

    テヌブルにあった玙ナプキンで濡れた頭を拭きながら、テラス垭に腰を䞋ろした。シンハヌビヌルであらためお再䌚を也杯し、タオ君の話に耳を傟けた。ニュヌゞヌランドで撮ったオヌロラのこず、むヌスタヌ島での星空撮圱など、肩曞きに「旅人」ず曞くだけはあり、䞖界䞭飛び回っおいた圌の話はどれもドラマチックだった。
    「あたり人がいない倧自然ばかり撮っおたらさ、なんずなく人恋しくなっちゃっお、たたには南の島でも行きたいなぁ、ず思っおたずころに、『今、島に行くならピピだぞ』っおある友達に勧められおさ。それで来おみたんだよ」
    䜕かに瞛られるこずなく、地球ずいう被写䜓を远いかけ、自由に生きおいる圌は、僕の目指したいひず぀の姿だったのかも知れない。同じ歳ではあるが写真の䞖界では、随分䞊の先茩のように感じた。
    僕も䞖界の玠晎らしい景色を撮りたい、ず思いながらも、日本で䜕ずなくカメラを構え、䜕ずなくシャッタヌを切っおいる。タオ君の話を聞いおいるず、もっずタガを倖しお旅をしお、震える気持ちでシャッタヌを切りたい。ずいった気持ちが高たっおいった。

    軜い倕食を食べ終わる頃には雚が止んで、倖はすっかり暗くなっおいた。島の䞭心のトンサむ湟今日到着した湟たで行き、ボヌトタクシヌが捕たえられるかビヌチ沿いを歩いた。するずボヌトの近くで若者が二人、タバコを吞いながら笑い合っおいた。「コップンカヌ」ず声をかけた。暗闇から突然話しかけられお驚いた二人は、慌おおタバコを背埌に隠した。「あ、そういうこずか」ず察したが、
    「ただボヌトは出せる」ず聞いおみた。二人は顔を芋合わせ、タむ語で話し始めた。
    「おい、どうするよ、おたえ行けるか」
    「いや、もう真っ暗だしな  。キマっちたったし」
    「それは俺も䞀緒だ」
    「倍の倀段なら行っおも良いか  」
    などず話しおいるず勝手に掚枬した。
    そしお1人が、倀段亀枉をしおきた。
    「150バヌツでどうだ」ず蚀っおきた。それっおプヌケットからここたでのフェリヌ代ず䞀緒じゃないか
    「75バヌツ」ず僕が蚀うず、
    「こんな倜だぜ、じゃあ100だ」ず返しおきた。
    「たあ200円ならいいか」ずタオ君ず目を合わせた。
    「OK」ず蚀っお札を枡しお亀枉成立。
    そうしおある意味、酔っ払い運転のボヌトに乗り蟌むこずになった。

    ピピ島の地圢は䞭心の䞀郚だけが平らで、メむンストリヌトはあるが、他は山ばかりで道らしい道はない。なので、島民の足も内陞よりも海のボヌトが䞀般的で、そちらの方が効率がいい。
    暗闇の䞭、僕らは幎季の入った朚のボヌトに無理やり゚ンゞンを積んだ、そのボヌトタクシヌの䞭皋に腰をおろした。

    「どこたで行くんだ」「぀先くらいのビヌチ。20分くらいで行くはず」ずなんずも適圓な説明をするず、タむ語でブツブツ蚀いながらも、剥き出しの゚ンゞンから出る玐を勢いよく匕っ匵り、䞀発でボヌトを唞らせた。
    島のビヌチはどこも遠浅なので、たずは沖に䞀気に出お、そこから暪移動するようにボヌドは進む。蟺りはすっかり暗くなっおいるので、あの透明で青い海も、今では挆黒で、ボヌトごず飲み蟌たれそうな恐怖感さえ感じる。
    沖に出お15分。南颚が匷くなっおきお雚の湿った匂いがしたず思いきや、鋭い皲光が沖の方に芋えた。4秒皋遅れお雷鳎が蜟き始め、ポツポツず倧粒の雚が萜ちお来た。
    「たずいね  」ず蚀葉を亀わすず同時に、激しい豪雚になり、バケツをひっくり返したような雚が僕らを襲った。同時に匷颚も吹き぀け、波が高くなり、ボヌトは波を越える床に跳ね䞊がり、バンッバンッず、氎面に叩き぀けられる。僕は必死にF3を濡らさぬように自分の䜓で芆い隠した。 皲光が光るたび、ボヌトを操るドラむバヌが、フラッシュにたかれた尟圢光琳の颚神雷神のような姿で浮かび䞊がる。その圢盞はたるで鬌のようで、僕らに怒鳎り散らす。
    「バンガロヌはどこだ」ず叫ぶが、嵐の闇の䞭では分かるはずもない。
    「あの岬のほうだ」「いや、もっず向こうだ」などず確信なく先の方に薄ら癜く浮かぶビヌチを指差し叫ぶが、
    「このたた行くず転芆するぞ」ず圌は叫んだ瞬間、暪からの波を思いっきりくらい、䜓が投げ出される寞前のずころでボヌトのぞりを掎んでボヌトの底に転がった。倧粒の雚は匟䞞のように䜓䞭を打ち぀けた。自分の倧事な歊噚F3を䜓で必死に守った。い぀か芳たノルマンディヌ䞊陞䜜戊の映画がフラッシュバックした。
    ドラむバヌは雚が匱たった隙を芋お、舵を切っお䞀番近いビヌチに向かっおものすごいスピヌドで走り始めた。
    ただビヌチたで30くらいはあるが、「ここで降りろ」ず蚀われ、しょうがなくタむパンをたくっお海に降りた。「コップンカヌ」ず圌に叫び、ボヌトはあっずいう間に闇の䞭ぞ消えお行った。

    遠浅ずはいえ膝䞊たで氎に浞かりながらザブザブず進み、やっずビヌチに蟿り着いた時には嵐は嘘のように止んでいた。二人ずも党身ずぶ濡れだったがカメラは䜕ずか無事だった。
    「いやぁ、すごかったねぇ、䜕だったんだ今の悪倢は」ずタオ君は笑った。
    「マゞで死ぬかず思ったよ  」ず、冗談抜きで返した。
    「ここ、どこなんだろ  」
    ずりあえずビヌチの先たで歩いお行くず、海にせり出た真っ暗い断厖絶壁が聳えおいお、その先は進めそうもない。厖に囲たれたビヌチには内陞に入る道もなさそうだ。やれやれ、どうやらバンガロヌには戻れないようだ。

    䞍幞䞭の幞い、ビヌチには小さなドリンク屋台があり、音楜を流しお10人くらいのタむ人が螊っおいた。そこの近くに湿った垃を広げお荷物を眮いた。屋台行っお、「サワディヌカヌ」ず挚拶をしおシンハヌビヌルをのボトルを2本買った。
    「ここから他のビヌチには行けないのかな」ず䞀応聞くず、
    「この時間だずボヌトが出おないから無理だね」ず返された。荷物の暪に腰をおろしお也杯をした。そしおおもむろにタオ君が懐から巻きタバコを取り出した。
    「濡れおなかったんだ」「奇跡だねぇ」ず二人しお倧笑いしおハむタッチ。さっきたでの嵐が嘘だったような満倩の星空を眺め、深々ずその貎重な巻きタバコを䞀服する。
    「初日から野宿か  俺、今日タむに着いたんだよな  」
    「カむト君いきなりタむの掗瀌を受けたね」ず愉快そうに笑うタオ君。
    「でもタオ君、クラビに宿があっお荷物眮いおあるんだよねでもっおピピでも宿を取っお荷物眮いお、で、結局どっちにも垰れないで今野宿っお。笑えるなぁ」
    「いやあ、アメヌゞングだねぇ。マむペンラむだけど」 タオ君は屈蚗なく笑い飛ばした。
    ”マむペンラむ”、僕の奜きなタむの蚀葉だ。”䜕ずかなるさ”。

    おもむろに1人のタむ人の若者がファむアヌダンスを始めた。波の音ず満倩の星空ず炎の軌跡。ビヌチの野宿に挔出が加わり、僕はうっずりず、その心地よい空間に身を預けた。旅の初日が野宿ずは  。いや、でも最高じゃないか  。

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    暗闇に浮かび䞊がる炎の茪。倜のビヌチは、䞍思議な熱気に包たれおいた

    い぀の間にか音は止み、屋台も消えおいた。
    寝萜ちかけた頃、どこからずもなく珟れた女神のようなタむのおばさんが、僕ら二人の䜓に優しく垃をかけおくれた。
    「コップンカ  」ずお瀌の蚀葉を囁いた。


    魅惑の楜園クラビ

    朝、䜓に感じる優しいタッチで目が芚める。子猫が数匹、僕たちの䜓の䞊で遊び始めおいた。二人ずも倧の猫奜きだったので、これ以䞊ない至犏のモヌニングコヌルだった。バッグからF3を出しお、じゃれ合う2匹の子猫の写真を撮った。
    二人でビヌチを歩き、昚倜行先を阻んだ厖の方に行っおみるず、朮が匕いたせいか、厖の根本は普通に歩くこずができ、隣のビヌチぞあっさりず蟿り着いた。
    「あれ、ここバンガロヌのあるビヌチじゃない」
    「ほんずだ〜 なんだ垰れたんじゃん」
    昚倜の野宿は䜕だったんだ  。ず拍子抜けするくらいあっさりずバンガロヌにたどり着いた。
    「随分展望台たで時間かかったわね」バンガロヌのおばちゃんに笑われた。
    「いろいろあっお、隣のビヌチで野宿したよ」ずタオ君が頭をかきながら返した。

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    竹を線んだだけの壁。泊たれなかったバンガロヌ

    泊たっおいないバンガロヌ代を支払い、 荷物をたずめお僕らはクラビぞ行くため、ボヌトタクシヌで船着堎に向かった。

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    『ロングビヌチ』。船銖に食られた花食りが、タむの海に来たこずを実感させおくれる。

    たどり着いたクラビは玠朎なビヌチコミュヌンだった。芳光化される前の、ロヌカルな空気が満ちおいる。タむのこの蟺り特有の、海から聳り立぀数100はある巚倧な岩山。よく芋るず岩肌にクラむマヌがぞばり付いおいる。

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    芋䞊げるほどの岩壁ず、透き通った海。自然のスケヌルに、ただ圧倒されるばかりだった

    昌は小さいゎムボヌトを借りお、岩沿いの海を探玢した。岩堎には、信じられないくらいの数の魚が泳いでいる。バンガロヌで借りたシュノヌケリングを着けお、ゎムボヌトから真っ青な海に飛び蟌んで海䞭を芋るず、色ずりどりの綺麗な魚たちが逃げもせずに泳いでいる。ピンク色で昔の菊池桃子に䌌た可愛い魚が1匹懐っこく寄っおきお、目が合っおキュンずした。
    さらに岩堎沿いに進むず、前方の岩の䞊50くらいの所にフリヌクラむマヌがいお、倧声をあげたず思うず真䞋の海に身を投げた。ザブンず足から海に入り蟌んで数秒埌、氎面に顔を出し、「サむコヌだぜヌヌ」ず叫んだ。
    「西掋人はぶっ飛んでるよなぁ」「あれは無理だわ」ず二人で蚀い合い、ボヌトの䞊から拍手を送った。

    倕方近くたでシュノヌケリングしおビヌチに戻った。ビヌルを飲み぀぀、タバコを吞いながらサッカヌをする少幎たちを眺め、写真を撮った。䞭孊生くらいか、なかなか皆䞊手かった。そのうちに僕もやりたくなっおきお、
    「タオ君ちょっず荷物芋おお」ず蚀っお少幎の1人に声をかけおゲヌムに混ぜおもらった。砂の䞊で裞足でやるサッカヌは䜓力䜿っお難しかった。しばらくは党くボヌルに觊れなかったが、埐々に慣れおきた。ドリブルで1人亀わしおゎヌル前にセンタリングし、1人の少幎がボレヌでゎヌルを決めた。䞡手を突き䞊げ、少幎たちず歓喜のハむタッチを亀わした。

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    裞足で参加したビヌチサッカヌ。蚀葉が通じなくおも、少幎たちず心が通い合った

    日が暮れるず、どこからずもなくサむケデリックなトランスサりンドが聞こえ始める。二人で音の鳎る方ぞず導かれるず、岩山の根本がえぐれた空間がラむトアップされ、デコレヌションオブゞェがブラックラむトで怪しく光っおいた。足元は砂浜。たさに自然のクラブだ。䞭に入っおいくずただ客は少なかったが、金髪で背䞭たで垂らしたドレッドを揺らしながら、1人のペヌロピアンが螊っおいた。䞊半身裞の背䞭には芋事な曌荌矅のタトゥヌが入っおいた。僕はカりンタヌでりォッカレッドブルを頌み、来るたでの間、写真を撮った。
    砂の䞊にトルコ絚毯が䜕枚も敷かれ、その䞊にはタむ特有の䞉角柱を暪にした背もたれクッションみたいなものがいく぀か転がっおいた。その䞀角に陣取ったタオ君は、暪にいた西掋人カップルず話しおいた。圌らはドむツ人で、僕もその茪に加わった。タオ君が流暢な英語でこれたでの旅話しをするず、ドむツ人の圌が、
    「先週たでずっずパンガン島にいたんだよ。やっぱあそこは最高だよ。もうすぐニュヌむダヌだからもっず盛り䞊がるず思うよ。い぀か絶察行くべきだよ」ず興奮気味に話しおいた。
    「行くべき行くべき」ず、暪でトロンずした目をした圌女が繰り返した。パンガン島はフルムヌンパヌティヌで有名なヒッピヌの聖地のような島。『The Beach』の舞台ずなった島がパンガン島の近くだった。マレヌシア半島のここクラビの反察偎に䜍眮する。もしタオ君がクラビに来おなかったら、パンガンに行こうかずも考えおいた。

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    倜のビヌチパヌティヌ。岩肌を照らす赀い光ず、砂浜に浮かぶ䞍思議なオブゞェ

    その埌ドむツ人カップルは、パンガンでの倱敗談をおもしろおかしく話しおくれた。僕は䜓隓談を魅力的に話せるほどの英語力は持ち合わせおいなかったし、英語堪胜なタオ君の前でカタコト英語で恥をかきたくもなく、ひたすら聞き圹になっおいた。

    気づくずDJが代わり、砂のフロアは倧勢の客で盛り䞊がっおいた。
    「螊ろう」ず圌女が立ち䞊がったのをきっかけに、皆でフロアの茪に加わっお螊り始めた。
    気たたに写真を撮ったり螊ったりずふらふらしおいた。拙い英語を喋るより、こうしおいる方が気が楜だった。しばらく経っお、
    「先戻っおるねヌ」ずタオ君に声をかけ、バンガロヌぞの道を歩いた。
    トランスのビヌトは埌方ぞずフェヌドアりトし、代わりに呚りにはカ゚ルの鳎き声が取り囲んだ。空を芋䞊げるず、ほが満月の䞞い月がぜっかりず浮いおいた。
    「よお、お月さんよ。倜道を照らしおくれおありがずうな。なんかタオ君を芋おるずさ、英語も堪胜、自由な旅人カメラマンで、自分が小っちゃく芋えおくるよ」
    僕は酔っ払っお月に語りかけた。
    「ただ旅は始たったばかり。憧れの存圚がいるだけ良いじゃない」
    「たあ、そうなのかねぇ」バンガロヌの前に到着し、入り口に座っおタバコに火を点けた。


    楜園ぞの氎先案内人

    それから数日、船でアむランドホッピングに出かけおシュノヌケルをしたり、地元の子䟛たちずサッカヌをやったり、倜は小芏暡な野倖パヌティヌで螊ったり、ずクラビでの倢のような日々を過ごした。

    ある日、二人でゎムボヌトに乗っおゆらゆらず、海から突き出た岩山ず空を眺めお遠浅の海に浮いおいた。
    「カむト君は日本にどうやっお連絡しおんの ポストカヌド」 タオ君が突然聞いおきた。
    「俺は『ホットメヌル』っおや぀を䜿っおるんだけど知っおるバンコクのネットカフェでアカりントを䜜ったんだ。これがあればさ、ポストカヌドが届くのを䜕週間も埅たなくおも、䞀瞬で日本ず文字のやり取りができるんだ。画面の䞭に自分専甚のポストがあるみたいなもんだよ」
    「ホットメヌル  ネットカフェでアカりント  」 タオ君が話す内容が、いたいちピンず来なく、たるで未来のテクノロゞヌのように聞こえた。
    「そのうち皆、メヌルを䜿うようになる日が来るんじゃないかな」
    「ぞ〜、それが䜿えたら䞀人旅のスタむルも倉わっおきそうだね」

    そんな話をしながら岩に沿っおボヌトを進めるず、岩陰から海にせり出たツリヌハりスのカフェを発芋した。
    「お、なんかあそこいいね」ずそこに近づいた。「Tree Cafe」ず曞かれた朚の看板が䞋がっおいた。朚の枝から垂れるロヌプを掎み、ボヌトをカフェに暪付けした。ボヌトが流されないよう、そのロヌプをくくり付けた。カりンタヌでりォッカトニックを泚文し、グラスを持っお朚の䞊の階の垭に行っおみた。
    ゎザが敷き詰められたその空間は6畳くらいで、倪い枝ず枝の間からは青い海が䞀望できた。そこに1人の長髪の男がタバコを吞いながら海を眺めおいた。僕らが入るず、チラリず芖線が向けられ、タむ人かいや南米かず思っおいたら、
    「あ、日本人すか」ず䜎く通る声で聞いおきた。
    「そうそう。えヌず、日本人」
    「そうです。芋えないでしょ」ず真っ癜い歯を出しお笑った。
    「ヒミです」ず蚀っおタトゥヌでびっしりず埋たった右腕を出しおきお、お互い名前を蚀っお握手を亀わした。
    圌は真っ黒に日に焌け、朚圫りの圫刻を思わせるその颚貌は幎霢が䞍詳で、南米人にしか芋えなかった。ピピに䜏み着いお半幎。タトゥヌアヌティストをやりながら、ピピではボヌトタクシヌのドラむバヌもやっおいた。ピピずクラビの間を行ったり来たりしおいうるず蚀う。
    「䞊からずっず芋おたんですよ。日本人ぜい男が二人でボヌトで近づいおくるなヌっお。たさか䞊がっおくるずは思っおなかったすよ。海から来るのは地元の連䞭だけだからね」ず、倧笑いした。ヒミ君はタバコに火を点けお、タむに来た経緯を話し始めた。
    「東京でフリヌのデザむナヌやっおたんですけどね。CDゞャケットずかポスタヌずか。でもなんかこう、ビルばっかのグレヌな倧郜䌚に䜏んでるず、苊しくおさ。い぀だったか朝、玍品で倧手町に行ったんですけど、グレヌのスヌツのサラリヌマンの倧矀が反察偎から歩いおきお、俺だけ長髪で倉な服着おおさ。すれ違う人が皆俺のこずを無衚情にゞロッず芋おきおさ。クラむアントのビルに入らずに地䞋鉄に乗り蟌んだんですよ。逃げるように」
    ヒミ君はそう蚀っお、现めた目で遠くの氎平線を芋぀めた。その瞳には、今も倧手町の地䞋鉄のホヌムを埋め尜くす、あの無機質な光景が蘇っおいるようだった。
    「そしたらそこにもグレヌのスヌツ軍団が次から次ぞず乗り蟌んで来お。なんか頭おかしくなりそうになっおさ。こんな街で俺はクリ゚むティブなこずできねヌな。っお思っちゃったんですよね」
    そう話す圌の背埌では、怰子の葉がサラサラず颚に揺られ、゚メラルドブルヌの海が光を反射しお茝いおいた。
    「それで翌週にはある皋床貯めた金持っおタむに行っおたっおわけです」
    「ず、たあグレヌな話しはここたでで」ずシンハヌのボトルを掲げた。
    屈蚗のない圌のキャラずはすぐに打ち解け、1時間ほどお互いのこずを話した埌、
    「今倜うちに遊び来たせんか」ず誘われ、特に予定なんおあるはずもない我々は、2぀返事で、「お、行きたい。いいの」ず返した。

    䞀床バンガロヌに戻り、倕飯を軜く枈たせお7時頃、地図を頌りに、ヒミ君が䜏んでいるバンガロヌに向かった。
    クラビのメむンストリヌトから、岬の反察偎に抜けるダシに芆われた道を10分くらい進むず、急に開けおビヌチに出た。目の前、海の䜎い䜍眮には巚倧なオレンゞの満月がぜっかりず浮かんでいお、海の䞊に真っ盎ぐ反射する光の道を䜜り䞊げおいた。
    それを芋た僕らは同時に声を䞊げお興奮し、海の方に駆け寄り、どちらからずもなくカメラを構え、シャッタヌを切った。
    「おヌヌい」ず10くらい離れたビヌチ沿いのバンガロヌの2階のテラスから人圱が手を振っおいた。
    「あ、あれヒミ君か」
    「おヌす今行くねヌ」ず返事しおバンガロヌぞず向かった。

    そのバンガロヌは2階建おで、なかなか立掟だった。䞊の階の郚屋に入るずお銙の良い銙りが錻をくすぐり、目の先には先ほどヒミ君がいたテラスの向こうにオレンゞの満月が郚屋の䞭を照らしおいた。
    「月明かりがある日は蝋燭䞀本で十分の明るさなんすよ」ず蚀いながら、冷蔵庫からシンハヌビヌルのボトルを3本取り出した。
    「最初はやっぱりシンハヌでしょ」ず蚀っお、栓を抜いお䞉人でボトルをカチンず合わせた。
    ヒミ君は手早く巻きタバコを巻き、火を点けお回しおくれた。
    「やっぱりタむ産のは矎味いよ」ず煙を吐きながら蚀う。
    「吞う前から銙りが違う」ずタオ君が受け取りながら感想をもらした。
    郚屋に静かに流れおいた曲は、かたや぀ひろしの『ゎロワヌズを吞ったこずがあるかい』。なぜかこの曲がそのシチュ゚ヌションずぎったり過ぎお、その埌のタむの旅䞭、この曲がずっず僕の頭の䞭を回るこずになる。

    僕は、ヒミ君の本棚に䞊ぶ本の背衚玙を端から眺めおいた。
    H・R・ギヌガヌ、メビりス (Moebius) の画集、ヘルマン・ヘッセ『シッダヌルタ』、がろがろになった雑誌『ガロ』、沢朚耕倪郎『深倜特急』、アレックス・ガヌランド『The Beach』、鈎朚光叞『楜園』。
    「ピピ・レむ島は行きたした」ずヒミ君が聞いおきた。
    「そう、ただ行けおないんだよ」ずタオ君が返すず、
    「いやあ、あそこはマストですよぉ。この蟺りで䞀番楜園に近い
    秘境のビヌチかも知れない」
    ず、ヒミ君が蚀葉を発したのず同時に『楜園』ずいう文庫本の背に指をかけおいた。
    「これ、どんな本」ず僕が聞くず、
    「あ、『楜園』ね。それ奜きでさ。倪叀のモンゎルで愛し合った男女の魂が、時空を超えお、18䞖玀の南囜ポリネシアぞず話が移り、最埌は  。あ、もし読みたいならネタバレになるんで蚀いたせん。ずにかくすっげヌ壮倧な話でさ。実はあのホラヌ小説『リング』の䜜家なんだよ。それはホラヌじゃなくおファンタゞヌだけど。ホラヌ䜜家ずしお有名になり過ぎお、それは名䜜なのにあたり知られおない」
    「あ、そうなんだあの貞子の生みの芪の『リング』『螺旋』は読んだけどね」
    「なんなら持っおっお良いすよ。旅のお䟛に」
    「たじでそれは嬉しい」

    いろいろな方面の話題で花が咲いた。ヒミ君が描いたタトゥヌのデザむンスケッチを芋せおくれたり、圌が圱響されたギヌガヌの画集を芋たり、ず話が尜きなかった。ギヌガヌのダヌクな䞖界にのめり蟌み過ぎお、頭がくらくらしおきたので、僕は立ち䞊がっおテラスの方ぞずフラフラず歩いた。
    そこで棚の䞊に鎮座しおいる倚肉怍物が目に入り、その30cmほど䞊に、䞍思議な金属質の物䜓がゆっくりず回転しおいた。よく芋るずスプヌンだった。いや正確に蚀うず曲がったスプヌンだった。たるでダリが描いた柔らかい時蚈のように曲がった状態で空䞭で回転しおいた。釣られたテグスが芋えなかったので浮いお芋えたのだった。僕はしばらく目が離せなかったが、匷く目を瞑り頭を振った。
    「ちょっずテラス出お良い」ず、ヒミ君に聞くず、
    「あ、そうしたしょうギヌガヌ、ディヌプ過ぎお危険なんすよ」ずヒミ君が笑った。
    テラスにはトルコ絚毯が敷いおあり、タむのどこのカフェでもお銎染みの䞉角枕クッションが眮いおあった。満月は随分ず空の高い䜍眮に茝いおおり、先ほどより2回りほど小さく芋えた。僕はさっきの曲がったスプヌンが気になっおいたが、ヒミ君の䜎い声でかき消された。
    「あ、さっき話の途䞭だったけど、明日、ピピ・レむ島行きたす」
    「そうだ行こうあそこさ、たさに『The Beach』の舞台にそっくりじゃない」ず僕が蚀うず、
    「さっすがカむトさん、僕もあれ読んだんですけど、噂によるず、ピピ・レむ島がロケ地の候補になっおるみたいすよ。それも䞻人公のリチャヌドは、ナアン・マクレガヌだずか」
    「あの『トレむン・スポッティング』の確かにむギリス人が䞻圹だもんね」
    「僕、明日ボヌト出したすよ。あそこは午埌になるず結構芳光客入っおくるんで、朝むチに行くのがベスト。でもここからレむ島に行くのは遠くお、普通はフェリヌですけど、䞀番早いので10:30発。僕のロングデヌルボヌトだず2時間半くらいかかるけど良いすか」
    「そっか、じゃあお願いしようかな」ず、タオ君が蚀いながら腕時蚈をはめおいない腕を芋る。それを芋お笑いながら僕が自分の腕時蚈を芋た。11:30。島のこの時間は東京の䞑䞉぀時くらいの感芚だ。
    「そうず決たればそろそろお暇しよう」ず蚀っお、お瀌を蚀っお倖に出た。ヒミ君は名残惜しそうに䞀緒にビヌチを歩き、最初に満月を芋た堎所たで来るず、
    「じゃあ明日。ここに7時で良いすか」
    「頑匵っお起きるよ、楜園のためなら。あ、『楜園』ありがずね」ず僕が蚀うず、
    「絶察タむにいる間に読んだほうが良いすよ」
    「おやすみヌ」ずお互いに蚀っお月明かりのビヌチを離れ、ダシに芆われた小道ぞず二人で入っお行った。

    楜園

    玄束の時間に昚日のビヌチに行き、ヒミ君に挚拶をしおロングテヌルボヌトに乗り蟌んだ。
    海䞊にはただ船圱も少なく、綺麗な海を独り占めしおいるようだった。゚ンゞンの音がうるさく、䌚話もたたならないので、僕は昚日ヒミ君からもらった『楜園』のペヌゞを開いた。結構揺れおはいたが読めなくはない。僕の脳内の景色は、すぐに遠い昔のモンゎルに倉わっおいった。
    倧人になるための儀匏で、赀い鹿の粟霊を远う若者の話から始たっおいた。タむの海の䞊にいるずいうのに、僕はモンゎルの森の䞭を圷埚っおいた。
    急に゚ンゞンの音が止んだので、芖線を本から海ぞず移した。するずヒミ君がTシャツを脱いで海ぞず飛び蟌んだ。
    「お、どうした」ず海を二人で芗き蟌んだ。ザバっず海面から顔を出したヒミ君は、
    「りミガメがいたすよ」ず教えおくれた。
    「たじで」ずタオ君ず目を合わせ、Tシャツを脱ぎ捚お、ゎヌグルを付けお同時に海に飛び蟌んだ。5くらい䞋の海底たでが良く芋え、たるで空䞭を飛んでいるようだった。たった今たで倪叀のモンゎルにいたず思ったらたちたち海の䞭だ。するず、2くらい先を空を飛ぶようにゆっくりずりミガメが泳いでいた。僕は远い぀き、そのカメず䞊んで泳いだ。ちらりずこっちを芋たカメは錻から気泡をいく぀か吐き出した。たるで呆れおため息を぀いたかのようだった。僕は嬉しくなっお頑匵っお䞊走したが、りミガメは進路倉曎をしお海底ぞず朜っおいった。
    僕は息が続かずに氎面に顔を出した。既にボヌトの䞊に立っおいたヒミ君が癜い歯を光らせお満面の笑みを浮かべおいた。
    「この蟺でもりミガメは滅倚に芋れないんすよ。ラッキヌすよ」
    ヒミ君の䞊半身は、ム゚タむの遞手のような筋肉で、圌がデザむンしたであろうタトゥヌが優雅に螊っおいた。

    それから30分ほど進むず、前方に垂盎に切り立぀岩で囲たれた島が芋えおきた。あれがピピ・レむかマダ・ベむずいうラグヌンに入る手前でヒミ君ぱンゞンを切り、巻きタバコを䞀服しお回しおくれた。
    今たでの゚ンゞン音が止んで、急に静かになったボヌトの䞊。タプンタプンず氎がボヌトの底に圓たる音だけが気持ちよく聞こえた。目の前には切り立った厖が聳えおいる。その先の青いラグヌンの向こうには、现く癜く茝くビヌチが光っおいた。
    再床゚ンゞンをかけ、誰もいない巚倧なラグヌンに滑り蟌んだ。芖界に入るのは100mはありそうな切り立った厖にぐるりず囲たれた、ずお぀もなく青く矎しい湟だった。真癜いビヌチが広がり、その奥にはダシの森が広がっおいた。
    「そうそうこの景色たさに『The Beach』の脳内で描いおた景色だよ」ず興奮しおヒミ君に叫んだ。
    「でしょ連れお来れお良かったよ」ず圌も倧声で返した。
    「やっばヌヌ」タオくんも叫んだ。そんな僕らの声ず笑い声が、誰もいないラグヌンの厖に反響しおいた。

    ビヌチに䞊陞するず、僕は海ずビヌチの境に倧の字に仰向けになり、楜園に身を委ねた。足先から背䞭に小さな波がリズミカルに䜓を最した。目を瞑るず、その小さな波音ず、ダシの葉が颚で靡く音、聞いたこずのない鳥の声、そんな究極のアンビ゚ントが心地よく耳に響いた。
    先ほどの巻きタバコが効いおきお、それらのサりンドず䜓を撫でる海氎が䞀䜓ずなっお、これたでに芋たこずも感じたこずのない倢の䞭にいるようだった。
    その心地よい波音によっお、たるで催眠術にかかるように昔のある時に意識が飛んだ  。

    䞭孊に入る盎前の春䌑み。スキヌで足を骚折しお、新しい孊校だずいうのに、新孊期早々1ヶ月䌑孊せざるを埗なかった。
    その間、早起きをしなくおもよくなった家で、2床寝しおは面癜い倢を芋る毎日。それをワヌプロに曞き留める、いわゆる倢日蚘を付け始めた。それを1幎続けた頃には、倢のストヌリヌを䞞々思い出せる癖が぀き、曎には倢の䞭を自圚に操䜜できるようになった。ここ最近では、䞀床起きおからもたた同じ倢の続きを芋る、ずいう技も習埗しおいた。
    今、自分が13歳なのか23歳なのかわからなくなった。りミガメが優雅に泳ぎながら、
    「サむンを芋逃すな。進む道は自然ず芋える」ず気泡を吐きながら喋った。
    その瞬間、ゎボゎボッ、耳の䞭に氎が入り蟌んできお目を開けた。360床厖に囲たれたラグヌンにいた。これは倢の続きかいや、『The Beach』のリチャヌドの意識に入り蟌んだのかフラン゜ワヌズはどこだ
    「カむトくヌん」ず遠くで声が聞こえた。いや、実際は近くだった。2぀の男の顔が僕を芗き蟌んでいた。逆光で誰だかわからない。
    「朮が少しず぀満ちおるから溺れちたうぞ」ず笑っおいた。やっずのこずで身を起こすず、タオ君ずヒミ君がいた。
    「おかえり〜」ずヒミ君が笑いながら吞いかけの巻きタバコを口に咥えさせおくれた。僕は倧きく煙を吐きながら、
    「いやあ、10幎くらい前に芋た倢の䞖界に行っおたわ  」ず呟いた。
    ゆっくりず銖を回しお内陞の方を芋やり、あの奥には『The Beach』のコミュヌンが存圚しおるんじゃないか、ず本気で思っおしたった。

    たっぷり2時間はその楜園で過ごしただろうか。倖掋から2隻の倧きなフェリヌが珟れた。ラグヌンの䞭倮で停泊するず、雄叫びを䞊げお䜕人もの芳光客が海に飛び蟌み、ビヌチに向かっお倧隒ぎしながら近づいお来た。
    「そろそろ朮時かな」ずヒミ君が呟き、
    「朝むチに来お倧正解だったよ」
    「ほんずありがずう」ず感謝を䌝えた。

    垰り道も『楜園』を読みながら垰った。
    昌過ぎにクラビに戻り、䞉人であのツリヌハりスカフェに行っおランチを食べた。
    「いやあ、ここでの出䌚いから始たったんだねぇ」ずタオ君がしみじみず蚀うず、
    「なんかさ、ここからボヌトで来る二人を芋おたら、なんか面癜そうなこずが起こりそう、っお分かったんだよね」ず笑うヒミ君。
    「ヒミ君、君は楜園に誘う氎先案内人だほんずにありがずうコップンカヌ」ず、僕は手を合わせお䞀瀌した。
    「なんだよそれ〜」ず、蚀っお䞉人で倧笑いした。

    䞉人でパッタむを平らげおツリヌハりスを埌にした。明日には日本に垰る予定の僕らずヒミ君ずはここでお別れだ。
    「たじで楜しかったよ。たったの2日ずは思えない」ずヒミ君。
    「たた䌚おうぜ」ず、タオ君がハグを亀わす。
    「『The Beach』ず『楜園』に連れお行っおくれお、ほんず感謝しかない。い぀か、どこかの楜園でたた䌚おうな」ず、僕は蚀っお固いハグをした。
    「Definitely」ず、䜎い矎声でヒミ君は囁いた。

    予想倖の展開

    翌日、日本ぞ垰るフラむトはタオ君ず同じ䟿を取っおいたので、二人でプヌケットの空枯からトランゞットのシンガポヌルぞ飛んだ。成田行きのフラむトは翌日の朝だったので、街のホテルに泊たろうずいうこずになった。
    街を散策し、カフェのテラス垭で飲んでいた孊生たちず䞀緒に飲み、誘われるがたたクラブに行っお螊りあかした。
    ふらふらずホテルぞ戻ったのは深倜で、二人しおベッドに倒れ蟌んで泥のように眠った。

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    シンガポヌルの倜。橋の䞊に停たったベスパが、街灯の光を济びお鈍く光っおいた

    翌朝。 目が芚めたのは9時。フラむト時間は9時5分だった  。
    「やばタオ君、9時だ」
    「うわたじか」
    二人でばね仕掛けの人圢のようにベッドから飛び起き、窓のカヌテンををシャッず開けた。窓の倖を芋るず、小さな飛行機が空を暪切っおいた。
    「もしかしおあれじゃない  」
    「  。」
    終わった  。二人しお無蚀で荷物を敎え、ホテルをチェックアりトしお空枯ぞ向かった。タクシヌの䞭で、「䜕でもタオ君に任せおいた俺が悪い。他力本願の自分が情けない  」ず反省しきりだった。

    空枯のカりンタヌで事情を説明しおみるも、幎末の繁忙期で空垭は党くない。キャンセル埅ちを申し蟌んだが、「数日間は期埅できない」ず蚀われた。そうした空枯スタッフずの亀枉も率先しおタオ君が察応しおくれた。
    「今倜は空枯だね」ず苊笑いするタオくん。
    その日は空枯のベンチで倜を明かした。僕は珟実逃避するように、ただひたすら『楜園』の䞖界に入り蟌んだ。第2郚の18䞖玀のポリネシアの海掋に僕はいた。海を挂流する䞻人公ず自分を重ね合わせ、䞀䜓この先どうなるのか、ず他人事のように思っおいた。
    翌日も垭は埋たったたただった。成り行きを党おタオくん任せにしおいた自分が情けなかった。

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    やたらずスポヌツ掚しのシンガポヌル10ドル札

    フラむト予定の電光掲瀺が次々ず映し出される。ロンドン、オヌクランド、テヘラン、レむキャビク、プノンペン、アテネ  。
    その時、ふず思った。 別に垰らなければならない理由はない。時蚈のアラヌムが鳎らなかったのは、「もっず旅をしろ」ずいうメッセヌゞだったのではないか。ず若さゆえの郜合の良い解釈だった。そしお思い立っお 僕は公衆電話から囜際電話をかけ、母に告げた。
    「シンガポヌルで成田行きの飛行機に乗り損ね、空枯でスタックしおるんだけど、しばらく日本行きの䟿の空垭がない感じで  。ちょっず他の囜に行っおみる。どちらにせよ、タむから戻ったら長期旅に行こうず思っおたし」
    ず、䞀気に喋った。それを聞いお、母は呆れお笑っおいた。
    「もう、䜕やっおんだか  。お金は倧䞈倫なの服は足りるの」ず圓然の心配をしおいたが、
    「City Bankから匕き出せるし、服は掗濯するよ」ず蚀っお電話を切った。
    バむトで貯めた金で数ヶ月は行けるだろう。ず適圓に考えおいた。急に気持ちが軜くなり、クラビで話したドむツ人の蚀葉がよぎった。
    「パンガン島。い぀か行くべきだよ」
    心臓が「トクン」ず打った。
    「俺も日本に垰る必芁ないから、むンドにでも行こうかな、カむト君どうする」ずタオ君。
    「バンコクに戻っお、パンガンに行っおみようかな。タオ君もどう」
    「たあ、お互いの旅をしようよ。それにしおもたたタむに逆戻りか」ず二人で笑い合った。
    タオ君ずの短いタむ旅行は、最初から最埌たで予想が付かない珍道䞭だった。でもそれが旅の醍醐味。ハプニングやトラブルも笑っお乗り越える圌の軜やかさは芋習うべきものがあった。旅慣れお英語も堪胜なタオ君に぀い぀い頌っおしたい、い぀もの他力本願が出おしたった。
    「カむト君、ここからは「旅行」じゃなくお「旅」の始たりだよ」タオ君はそう蚀っお、ポケットから小さな2぀のサむコロを取り出した。
    「これ、あげるよ。旅のお守り」ず、その小さな立方䜓を摘んだ。
    「決断に迷ったらこれを振っおみるずいいよ」ず、僕の手の平にそっず転がした。1蟺8mmくらいの小さなそのサむコロは、䜿い叀されお风色にツダが出おいた。
    「ありがずう」ず僕はギュッずサむコロを握り、空いた右手で握手を亀わし、そのたたハグをした。

    バンコク行きの䟿はあっさりず取れた。手枡されたバンコク行きのチケットは、どこずなく重く、そしお熱を垯びおいるように感じた。その瞬間、「ここからは䞀人か  」ず、少し背筋が䌞びる思いがした。

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    反察を向く矢印が、僕ずタオ君の行き先を瀺しおいるようだった

    第章タむ パンガン島 

    ミュヌズずの出䌚い

    バックパッカヌのスタヌト地点はタむのバンコク、カオサン通り。『The Beach』で、そう脳内に刷り蟌たれおいたこずもあり、空枯に着くやいなやカオサンぞ向かうためのタクシヌを探した。
    「タクシヌ」
    声をかけおきたタむ人に着いお行くず、そこには䞀台の薄汚れたワゎン車が停たっおいた。どうやら乗り合いタクシヌらしい。 車内にはすでに䞉人のペヌロピアンが座っおいた。目が合い「ハむ」ず埮笑み、少し詰めおもらい、車内に乗り蟌んだ。暪ではドむツ語で盛り䞊がる四人。窓を開け、倖の景色を眺めるこずにした。

    車ず䞊走するスクヌタヌには、四人が鈎なりになっおいる。恐らく家族だろう。運転しおいるお母さんの前には赀子が抱っこ玐の䞭で寝おいる。埌には小孊生らしき兄匟が笑いながら乗っおいる。皆ノヌヘル。これがバンコクの日垞なんだろうなぁ、ずがんやり眺めた。もしこれを東京の山手通りでやっおたら驚愕だよな  。昚日たでの矎しい青に満ちた䞖界から䞀転、スモヌクに満ちたカオスだ。
    埐々に景色が看板だらけになっおきお、僕は開けた窓から顔を出した。いよいよカオサンかそこから通りは益々賑やかになり、ヒッピヌやバックパッカヌでごった返すカオスな雰囲気。僕は興奮しお曎に窓から身を乗り出し、南囜ずタむ料理ず排気ガスず䞋氎ず、雑倚に混ざった匂いを思いっきり吞い蟌み、新たな自由な旅の始たりに心をずきめかせた。

    バンが停たり、「コップンカヌ」ず蚀っお飛び降りた。『The Beach』のリチャヌドになった気分でカオサン通りを歩き始めた。
    バヌやカフェやゲストハりスが建ち䞊び、様々なゞャンルの曲が鳎り響く。ゲストハりスの1階のカフェではただDVDになっおいないハリりッド映画がスクリヌンで流れおいる。
    たずは宿を探そう、ず『地球の歩き方』のカオサン通りが茉っおいるペヌゞを開いおみたが、「安宿゚リア」ずくくられおいるだけで、あたり詳しい情報はなかった。
    こうなったら盎感に頌ろう。しばらく歩いお䞀軒のカフェの前で立ち止たった。店内にはアンダヌワヌルドの曲が流れ、ペヌロピアン数人がく぀ろいでいる。悪くない。ピンず来お入っおみた。
    カりンタヌで倀段をきいみるず、1泊100バヌツ、400円ちょっず。倧孊の孊食ランチより安いではないか。チェックむンした。
    郚屋はシングルベッドず扇颚機ず掗面台。シャワヌずトむレは共同。たあ、これで良い。荷物を䞋しおベッドに仰向けになっおタバコに火を点け、倩井に着いた扇颚機に向かっお煙を吐いた。䜕も予玄しおいない。向かうのはパンガン島。こんな自由があるだろうか。明日から始たる予期せぬ旅に笑いが蟌み䞊げおきた。

    萜ち着いたら腹が枛ったので、そのゲストハりスのカフェに降りお垭に着いた。スクリヌンではただ日本では䞊映されおいない映画『トレむンスポッティング』が流れおいた。海賊版で画像は粗かったし、流れる英語は蚛りがひどくお理解䞍胜だった。ただ、ナアン・マクレガヌが躍動し、「Choose Life」ずいうワヌドず共に流れるアンダヌワヌルドの曲が印象的で、食い入るように芋入った。「人生を遞べ」それだけは聞き取れた。「人生を遞べ、人生を遞べ  」そのワヌドが頭の䞭に響き枡った。

    チキンのタむ料理、カオマンガむを食べ終えた時、隣の垭に日本人らしき女性が座った。ちらりず芋るず目が合った。小さな䞞顔の可愛らしい子。䜕歳か䞋か。
    「あ、どうもヌ」ず声をかけるず、
    「どうもヌ」ず返しおきた。
    カオサンに来お初めおの日本人だったので、僕は嬉しくお身を乗り出しお話し始めた。
    「さっきここにチェックむンしたばかりで  、明日パンガンに行こうず思っおるんだよね」
    「あ、そヌなんだ私もパンガンに行こうず思っおお、ただ今日の宿は決めおないけど  」
    「えヌそうなんだ奇遇だね。ここ、安いし汚くないし、悪くないよ。1人なの」
    「うん。ただ決めおないし、じゃあここにしようかな  」
    「いいねシンハヌ1杯おごるよ」ず蚀っおカりンタヌに向かった。
    冷えた2本のボトルを持っお垭に戻り、也杯した。
    「そのTシャツかわいいね。䜕が刺繍されおんの」
    「ほら、YAK YAK YAKっお曞いおあるでしょ。ネパヌルにいるダギみたいな動物さっきカオサンで買ったんだ」
    「僕カむト」
    「さきでヌす」ず握手した。圌女は3぀幎䞋。ダクTシャツにタむパンずいう出立。色癜の小さな䞞顔はずっず満面の笑みだった。
    「今、倧孊1幎なんだけど、あたり面癜い人いなくおさ。いろんな䞖界芋お、いろんな人に䌚っお、それでこれから䜕するか考えたくおさ。あずさヌ東京の冬寒くお嫌いで、冬䌑みでタむに来たんだよね」
    絵本から飛び出しお来たような、どこか劖粟のような䞍思議な魅力を持った子だった。
    圌女は2぀離れた郚屋にチェックむンした。倕方䞀緒に出掛けお、早速旅行代理店に行っお、翌日パンガンに行くためのスラヌ・タヌニヌ行きの列車を予玄した。

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    パンガンぞのゞョむントチケット

    ゲストハりスのレストランで、たたも背景に流れる『トレむン・スポッティング』を芳ながら䞀緒に倕ご飯を食べた。
    「カむト君はい぀タむに来たの」ずむしゃむしゃずチキンを頬匵りながらさきちゃんが聞いおきた。僕はピピずクラビの倢のような日々のこず、タオ君やヒミ君のこずを話した。さきちゃんは目をキラキラず茝かせながら僕の話に耳を傟け、時折、「それでそれで」「たじでヌ」ず最高の聞き圹になっおくれた。
    お互い2本目のシンハヌビヌルを空けたずころで、
    「じゃあ、明日からはパンガンの新たな冒険の始たりだね」ず空になったボトルで也杯した。
    「おやすみヌ」ず、それぞれの郚屋に入り、僕は湿ったベッドの䞊に寝っ転がった。さきちゃんずいう新しい仲間が出珟し、明日からの楜園に向けた旅立ちに胞を膚らたせた。
    そしおバッグから『楜園』を取り出しお、第2章のポリネシアの島ぞず入っお行った。


    いざパンガンぞ

    翌日、二人で朝早くチェックアりトし、スラヌ・タヌニヌ行きの列車に乗った。さきちゃんは窓を党開に開けた。
    「ねえねえ、パンガンっおどんな島だろうね倉な人いっぱいいるんだろうね」ず倖を眺め、颚を受けお話しおくるさきちゃん。
    「ヒッピヌの聖地ずか蚀われおるしね。そうそう、クラビで出䌚ったドむツ人カップルが、絶察行ったほうがいいっお力説しおたよ」
    「そっかヌ、ワクワクするね」

    1時間半でスラヌ・タヌニヌに着いた。列車を降り、バスに乗り換え、ドンサク枯に向かった。バスは倚囜籍のヒッピヌですし詰めだった。
    ドンサク枯から今床はボヌトに乗っお、ナ・トンの船着堎に枡った。

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    フェリヌ乗り堎の壁に描かれた地図

    客のほずんどがパンガンぞず向かうヒッピヌずいうのは䞀目瞭然だった。金髪のドレッド、ボロボロのバックパック。ディゞュリドゥアフリカの筒状の楜噚を抱えた党身タトゥヌの男。ピタピタの蛍光色のゎアパンツを履き、䞊はビキニの黒人女性。耳や錻に数えきれない皋のピアスを着けたペヌロピアン矎女。
    圌らの流れに着いおいくだけでよかった。今のずころタむ人以倖はアゞア人は芋おいない。「パンガンパンガンヌ」ず叫ぶタむ人が胞元に「Koh Pangan」ず曞かれた䞞いステッカヌを貌っおくれ、フェリヌに乗り蟌んだ。
    さきちゃんは、初めお䌚ったずは思えない芪しみやすさで、僕らは互いに、島旅の始たりを思いきり満喫した。

    サムむ島を経おパンガン島ぞず枡る船の甲板では、幎越しのパヌティヌを埅ちきれないずいった西掋人たちが、トランスを流しお螊っおいた。僕たちもその茪に加わり螊り始めた。真っ青な海を芋䞋ろすず、なんずむルカが数匹ものすごいスピヌドで船に䞊んで泳いでいるのが芋えた。するず䞀匹が氎面からゞャンプした。それに続くように他のむルカも次々ずゞャンプしながら付いおくる。生たれお初めお芋る自然のむルカたちに狂喜し、
    「わヌヌヌむルカが飛んでるヌ」ずさきちゃんが叫んだ。
    「すげヌヌヌヌ」ず僕もたたらず叫び、曎に螊るテンションが䞊がった。

    パンガン島䞊陞

    螊ったり飲んだり、むルカショヌを満喫しおいるうちに、あっずいう間に1時間が経っおパンガン島に到着した。
    パンガンの玄関口、トンサラ枯。甲板から芋䞋ろす海の透明床に感動しながら船を降り、桟橋を枡った。キャッキャ蚀いながらさきちゃんは自分の䜓皋もあるバックパックを背負ったたた桟橋を走っお行った。
    「パンガン䞊陞ちょっず䌑憩〜」そう蚀っおさきちゃんはぎょんず壁に座った。
    僕はスケッチブックを取り出しおその姿を描き留めた。

    最初のミッションはレンタルバむク。地図を芋た感じでは、パンガン島は、ピピ島の䜕倍も倧きく、島の内陞は道が通っおいるので、車かバむク移動が最適だ。
    枯から歩いお通りに出るず、昭和の八癟屋のような䜇たいのレンタバむクショップが目に留たった。店内を芗き蟌んでいるず、奥からサンタのような癜髭を蓄えた、腹の出たおっさんが珟れた。僕は、「バむクを2台借りたい」ず蚀いながら囜際免蚱を芋せた。しかしサンタは、興味のない本を枡されたかのような衚情で、「パスポヌト」ずがそりず呟いた。そこでシャツの内偎にぶら䞋げおいた小さいポシェットからパスポヌトを取り出し、サンタに枡した。
    「バむクを貞しおる間預かる」ず蚀われ、
    「え、ずっず預けるの」ず䞍安になっお返した。圓然だ、ずいった様子で頷くサンタ。僕らは顔を芋合わせたが、郷に入ったら郷に埓え。二人しおパスポヌトを預けた。
    50ccのバむクを2台借りおたたがった。
    「ヘルメットは」ず聞いたが、
    「ない方が気持ちいぞ」ず蚀われ、たあ、そんなものか、ず劙に玍埗し、゚ンゞンをかけ、
    「コップンカヌ」ずサンタに蚀っお走り出した。

    自由な翌を手に入れた僕ら二人は、ノヌヘルでサンダル、バむクに乗っお南囜の颚を感じお矜ばたいた。最高ずしか蚀いようのない疟走だった。到着したトンサラ枯から、たずはメむンのハヌド・リンビヌチたで行っおみようず走り出した。

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    驚くほど透き通った海

    タむの奜きなずころは、ずにかく䜕でも適圓、぀たり「マむペンラむなんずかなる」なずころだ。囜際免蚱蚌を出しおも芋るわけでもなく、パスポヌトを預ければすぐにバむクを貞しおくれる。ヘルメットはない。安党面を考えれば欲しかったが、確かにサンタの蚀う通り、ノヌヘルで島の颚を党身に济びお走る心地よさは、䜕物にも代えがたかった。

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    ノヌヘルサンダルで感じる南の島の颚は最高すぎた

    パンガン島はタむで5番目に倧きな島で、日本でいえば長厎県くらいのサむズ。しかしむンフラの敎備は行き届いおおらず、トンネルなんお代物は存圚しない。 日本だったら絶察にトンネルを掘るだろう山道に、掘らずに山を越える道を䜜っおしたう。それは䜓感40床くらいの急募配。トンサラから島の䞭心地であるハヌド・リンぞ続く道は、そんな尋垞じゃない傟斜の坂の連続だった。急な䞋り坂の先に、垂盎に近い䞊り坂が埅ち構えおいる。坂のトップでびびっおバむクを止める。たるでスキヌのラヌゞヒルゞャンプの遞手になった気分だ。
    「これ、道だよね」「そうらしいね」その異様な光景が受け入れられない。僕らは恐る恐るその急な䞋り坂を進んで行った。たるで盎角のようだった。䞋った埌には、同じくらいの急募配の䞊り坂が目の前に絶壁のようにそそり立っおいた。芖界の端に、壊れた赀い原付バむクの残骞が転がっおいた。走りながら、「䞋で止たったら絶察登れない」ず思い、そのたた䞋りの加速を利甚しお、坂を駆け䞊がった。50ccのバむクにはギリギリで、䜕ずか坂を駆け䞊がった。
    そんなアップダりンが3回くらい続き、䞊り坂の頂点で䞀床バむクを停めた。道の先にはハヌド・リンず思しきビヌチが芋え、そこからでもその賑わいが聞こえお来た。
    「あそこがハヌド・リンだね」ず指差した。
    「きっずそうだね」
    「よし、最埌の坂を䞀気に行こう」スロットルを回し、ラヌゞヒルのゞャンパヌよろしく盎滑降を始めた。

    カオサンずもピピ島ずも違った、独特な賑わいを攟぀ハヌド・リン。いかにもパヌティヌ奜きずいった西掋人で溢れかえっおいる。蚀うなれば、島のレむブパヌティヌ䌚堎にたどり着いた感じだ。二人しおテンションが䞊がり、バむクを停めお目抜通りを歩き始めた。
    誰も圌もが満面の笑顔で、ようやく楜園にたどり着いた、ずいう高揚感を発しおいる。カフェやレストラン、土産物屋やTシャツ屋、巚倧な浮き茪だけを売っおいる店、倧小様々なミラヌボヌルを売っおいる店、等々、雑倚でカオスで魅力的な店が䞊んでいた。そんな店を冷やかし぀぀、ようやくビヌチに出た。目の前には青い海。氎平線にはサムむ島のシル゚ットが芋えた。ビヌチ沿いには延々ず手䜜り感溢れる店が建ち䞊んでいた。
    「すっげ〜」
    「きたきたきた」思わず心の声を䞊げた。ビヌチ沿いに歩くず、各店からはレゲ゚が流れおいたり、テクノが流れおいたり、タむポップが流れおいたり。僕らは、奜きなゞャンルが流れる店の前に立ち止たっおはビヌチで気たたに螊り、砂浜に座っお海を眺め、ハヌド・リンずいう楜園を満喫した。
    「そうだ、今日の宿探さないずね」僕はり゚ストバッグから『地球の歩き方』を取り出した。
    「ガむドブック」ず聞くさきちゃん。
    「もうね、これ1冊あればどうにかなる」ず蚀っお埗意げにパンガン島のペヌゞを開いた。しかしサムむ島やプヌケット島の情報は結構茉っおいるが、パンガン島に関しおは芋開き1ペヌゞのみ。簡単なマップずハヌド・リンずトンサラ枯のこずに軜く觊れおいるくらいだった。
    「『ハヌド・リンビヌチは、バックパッカヌが集たる賑やかな゚リア。満月の日には、フルムヌンパヌティヌが行われ、䞖界䞭からヒッピヌが集たっおくる』だっおさ。」ず僕はそこに曞いおある説明を読み䞊げた。
    「ふヌん、それは知っおる。宿のこずは」ずさきちゃん。
    「えヌっず  」ず芋おみるが、2軒のやや高めのホテルの情報が茉っおいるだけだった。
    「安宿情報はないね  バむクで盎接探しおみようか」僕は本を閉じおり゚ストバッグに戻した。
    「そうだねヌ野宿したくないし」ずお互い笑い、バむクが停めおある堎所たで戻った。

    あの心臓砎りのアップダりンを超えお、島の内陞を適圓に走り出した。 けれど、䜕軒圓たっおもどこもかしこも満宀。島はバックパッカヌたちで溢れ返っおおり、空いおいるバンガロヌなど䞀軒も芋圓たらなかった。 気を取り盎しおカフェで腹ごしらえをしながら、二人で地図を広げる。
    「さすが幎末だね。宿、芋぀かるかな  」
    僕が呟くず、さきちゃんはい぀もの笑顔で返した。
    「たヌ、なんずかなるよきっず。䜕せタむだし マむペンラむ、マむペンラむ」
    「だよね」
    このカラリずした楜芳的な性栌は、圌女の倧きな魅力の䞀぀だった。
    腹が満たされたずころで再び走り出したが、やはり珟実は甘くない。
    バンガロヌを芋぀ける床に、空きがあるか聞いおみるが、
    「幎越しよ。島䞭探したっお空いおないわよ」
    どこも䌌たような答えが返っおくるばかり。
    そのうちに雲行きが怪しくなり、ポツリポツリず雚が萜ちおきた。パンガン島のあるタむ東岞は冬が雚季にあたるのだ。
    䜕軒目かのバンガロヌで、ようやく救いの手が差し䌞べられた。
    「郚屋はないけど、うちのスタッフず䞀緒に雑魚寝でいいなら䞀晩眮いおあげるわよ」
    指差されたのは、6畳ほどの小さな小屋だった。床はコンクリヌトにゎザが敷いおあるだけ。䞭にはタむ人ばかり所狭しず寝転がっおいた。
    「たじここか  。これでも、屋根があるだけマシか  。」
    持っおいた垃を敷いお二人䞊んで䜓を暪たえたが、真倜䞭に蚊の倧矀に襲われ、たたらずに飛び起きお建物の倖に出た。
    雚はほずんど止んでいた。手足を掻きながらポケットからタバコを取り出しお火を点けた。時蚈を芋るず2時だった。
    いやぁ参った。さすがにこの雑魚寝はないな  。この調子だず明日からの宿は深刻だな。自分䞀人であればどうにでもなるけど、さきちゃんず䞀緒でこれっおのは  。少し歩いおバンガロヌのカフェを探しおみた。タむのバンガロヌは、必ずレセプションずオヌプンなカフェやレストランが䜵蚭されおいる。その呚りにバンガロヌが連なっおいる。ビヌチの前にカフェがあり、屋根の䞋にハンモックも釣られおいる。「お、ここ良いじゃん」䜕もあのコンクリヌの郚屋で雑魚寝するこずはない。螵を返し、先ほどの小屋に入り、
    「さきちゃん」小声で呌び、肩を揺らしお起こした。
    「ん  どうしたの」眠そうに䞊半身を起こした。
    「あっちにもっず良い寝床を発芋したから行こう」ず小声で促した。
    「あぁ、うんわかった」
    「蚊に刺されなかった」
    「気づかなかったけど、確かに痒い」さきちゃんは腕をぜりぜりず掻いた。
    カフェの端の座敷ず、その前に釣っおあるハンモックを指さしお、
    「ほら、ここのほうがよっぜど快適じゃないどっちが良い」
    「おヌ、良いね。じゃあ私ハンモックで寝る」ず蚀っお乗り蟌んだ。
    「よかよか  ダクダク。カむト君ありがずねヌ」消え入るように蚀ったかず思うず、すぐに寝息が聞こえ始めた。


    曎なる楜園の探玢

    翌日、たた海岞沿いの道を走り、ガ゜リンを入れるためにスタンドに寄った。「ガ゜リンを入れたい」スタンドのおばちゃんに聞くず、1リッタヌのペットボトルに入った液䜓を枡された。これを自分で入れるのか  。他の客の芋よう芋たねでバむクのタンクにガ゜リンを補充した。お金を払うずきにおばちゃんが、
    「島の反察偎に行けばきっず空いおるバンガロヌがあるわよ」ず、貎重な情報をくれた。
    二人で地図を広げ、島の反察偎に行くルヌトを確認した。基本的には島の倖呚に沿った道があり、内陞ぞの道はほどんどない。1キロほど先の道を曲がれば内陞に行っお反察偎に出られそうだ。おばちゃんにお瀌を蚀っお゚ンゞンをかけた。

    内陞ぞず入る道は舗装がされおいなく、益々困難な道のりずなった。アップダりンは盞倉わらずで、さらに舗装されおいない道なのでタむダが滑る。坂を䞀぀䞊がっおは立ち止たり、次の坂ぞず挑む。䜕かず近い感芚だ  、思い出したのはスキヌだった。ただ初心者の頃に䞊玚者コヌスに連れお行かれ、ずんでもない急斜面ずコブ斜面にアドレナリンが溢れ、1歩も進めない、䞀぀ず぀コブをクリアヌしおはケツで滑る  。
    あの恐怖。さきちゃんの手前、びびっおいるこずは顔に出さず、右手のスロットルをゆっくりず回す。䞀぀の急坂を乗り越え、たた䞀぀を乗り越え、を繰り返し、䜕床かこけ、2時間くらいかけおやっず島の反察偎のビヌチに出た。

    そこはハヌド・リンずは違い、静かで穏やかなビヌチだった。海の氎ぱメラルドグリヌンで恐ろしく透明だった。ビヌチのデッキチェアでは幎配のペヌロピアン倫婊が本を読んでいる。あの雑螏ずは別䞖界の時間が流れおいた。
    バンガロヌのレセプションに聞いおみるず、今倜䞀泊であれば空き郚屋が䞀぀だけあった。4500バヌツ、およそ1000円皋床だ。やや高いが背に腹はかえられぬ。涌しげな顔で「OK」ず蚀っおチェックむンし、荷物を降ろした。
    散々動き回っおさすがに疲れ、ベッドにどさっず仰向けになり、どちらからずもなくタバコを取り出し、火を点けた。倩井で回る扇颚機に向かっおため息ず共に倧きく煙を吹き出した。
    「疲れたね〜」
    「ほんずだね〜」
    「でも宿芋぀かっお良かったよ」
    「あの坂はやばかったねぇ。なんか新皮の競技でもしおるみたいだった」
    「楜しかったけどねヌ、私バむクうたいでしょ」さきちゃんが笑う。
    「僕がさきちゃんだったら無理だったな、あの道は」
    「なにそれたじ意味わかんないんだけど」ず倧笑いした。

    僕はそんなさきちゃんずの時間を心地よく思い、時を過ごすごずに圌女の魅力に惹かれおいった。

    巻きタバコを䞀本、二人でビヌチで吞った。空はピンクずオレンゞずブルヌが混じり合い、たるでオヌロラのような絶劙な色合いで、それが海に反射し、矎しさを増幅させおいた。
    「なんか倩囜みたいだねぇ  」さきちゃんが煙を吐きながら呟いた。
    「ねぇ、カむト君、この色がハッパのせいかも知れないから、蚌拠ずしお1枚写真撮っおおいおよ」ず粋なこずを蚀う。
    「確かにね」ず蚀っお、僕は裞足で海ずビヌチの境界線たで行っおしゃがみ、1枚シャッタヌを切った。カシャンずいう心地よい音が響き、芪指でフィルムを巻き䞊げた。

    画像
    蚌拠の䞀枚

    その日の蚈画は、倜のハヌド・リンに行っおみようずいうものだった。果たしお倜の舗装されおいない砂利道のアップダりンを行けるのかず疑心暗鬌だったが、ずりあえず準備しおバむクにたたがり゚ンゞンをかけた。

    走り始めお10分。あたりに真っ暗な道ず、昌よりも急に感じる坂道にやられ、途䞭で止たった。
    「ちょっずいくらなんでも無謀かも  」
    「そうだね  」
    キヌを回しお゚ンゞンを切った。゚ンゞン音が止むず、気付かなかったカ゚ルの鳎き声が呚りを取り囲んでいた。ラむトが消えたこずによっお、蟺りは挆黒の闇に包たれ、頭䞊には満点の星空が茝いおいた。そしお、暗闇に目が慣れ始めた頃、県䞋には緑色の星空が芋え始めた。
    「え、䜕これ」
    「蛍」
    蟺り䞀面、無数の蛍が珟れ、緑の星空を䜜り出しおいた。䞊空の星空ず地䞊の蛍の星空が溶け合い、党倩呚が光に囲たれ、宇宙の䞭心に浮いおいるようだった。僕はバむクから離れ、近堎の蛍を远いかけた。1匹を䞡手で捕たえ、手で球䜓の空間を䜜り、それを目に圓おお䞭を芗き芋た。そこには青緑色に茝き、光が匷くなっおは暗くなりを繰り返す小さな宇宙が広がっおいた。
    「さきちゃん、これ芗いお芋お」ずさきちゃんに手を近づけ、圌女が芗き蟌む。
    「うわヌヌヌヌ䜕これ」ず感嘆の声を䞊げる。
    僕らはしばらく蛍を远いかけおは手に捕たえ、その光を芗き蟌んだ。
    しばらくしお萜ち着いお二人でタバコに火を付けた。緑の星空の䞭に赀い光が2぀加わった。さきちゃんは、手元の赀い光をゆらゆらずさせ、
    「私も仲間だよ〜」蛍に囁くように笑った。星空ず蛍の矀れをバックに、タバコの赀い光に浮かんだその笑顔が劖粟のようで、その瞬間、僕はさきちゃんに察し、これたで女の子に抱いた奜意ずは䜕か別の皮類の、蚀葉にできないような感情が芜生えおいるのに気づいた。
    「ずおもじゃないけど今倜ハヌド・リンに行くのは無理だね」ず僕は呟き、
    「そうだねヌ。たぁせっかく静かなビヌチに来たし、ゆっくりビヌルでも飲みたすか」ず満点の倜空に煙を吐いた。
    「だね」ず笑い、バむクにたたがり゚ンゞンをかけ、バンガロヌぞず匕き返した。

    これほどたでにセッティングされたロマンチックな倜はあるだろうか。バンコクで偶然出䌚った可愛い子ず䞀緒にパンガン島に行き、喧隒ずカオスのハヌド・リンから遠く離れた楜園のビヌチのバンガロヌ。二人で星空ず蛍に囲たれたのだ。そしお同じ郚屋  。
    ツむンのベッドでお互い暪になり、無蚀でタバコをふかしお倩井を眺めおいた。
    僕は間違いなくさきちゃんに惹かれおいたが、倩真爛挫で劖粟のような圌女は、人間離れしおいお捉えどころがなく、恋愛察象にしおはいけないような䞍思議な存圚だった。いや、それは蚀い蚳かも知れない。䞀歩螏み蟌んで、拒たれるのを単に恐れおいただけだったのかも知れない。䞀蚀で蚀えば自分は臆病者なのか。そんなこずを悶々ず考えおいた。
    「先にシャワヌ济びるねヌ」ずさきちゃんはベッドから跳ね起き、スタスタずシャワヌルヌムに消えお行った。
    「どうぞヌ」ず平静を装い、灰皿にタバコをもみ消した。

    旅に出る2ヶ月前、1幎ほど付き合っおいた圌女ず別れた。向こうに奜きな人ができお、しばらく䞡倩秀にかけられた挙句、振られたのだった。その倱恋の傷を癒したい、ずいうのも旅に目が向いた理由の䞀぀ず蚀えなくもない。あれほどしんどかった日々だったが、ピピに着く頃にはすっかり忘れおいた。あの時はこれたでにない皋の倧きな傷だず思っおいたが、今では遠い遠い過去の小さいカサブタ皋床にしか思えなかった。
    「お先〜」ず頭をタオルで拭きながらさきちゃんが出お来た。
    「僕も入るね」ずすれ違い、シャワヌルヌムに入った。久しぶりの熱いシャワヌを济び、あたりの気持ちよさにしばらくお湯に打たれおいた。この埌、巻きタバコを䞀本持っお倜のビヌチに行っお、星空でも眺めながら話すずいうのはどうだ「実は日本で倱恋しおさ  」なんおこずを話すずか  。などず思いながらシャワヌを出お、䜓を拭いお服を着お郚屋に戻った。するず、スヌスヌず心地よい寝息が聞こえおきた。さきちゃんは口をポカンず開けお完党に寝入っおいた。その姿を芋お、ふっず笑みがこがれ、小さなため息を぀いた。「やれやれ」ず぀ぶやき、ひずり巻きタバコを持っおビヌチに出た。そこで火を぀けお深々ず肺に入れ、倧きく煙を倜空に吐いた。

    その倜空、海の䞊には现くお癜い䞉日月が、気持ち良さそうに浮いおいた。
    「お前さん、随分ずダむ゚ットしたじゃないか。あれから2週間くらい経ったのか」月に話しかけた。カレンダヌではなく、月の満ち欠けで時を感じるずいうのは良いもんだ。
    「そういうお前はどうなんだこの先、䜕を求めお旅をするんだ」月が蚀う。
    「なんだろうねぇ  。あえお蚀うなら光を求めお」
    「随分ずキザだね。お前の光っおのは䜕なんだい」
    「ただ分からんねぇ  」
    「た、先は長い。のんびり探しなさい」

    月ずの䌚話を終え、郚屋に戻りベッドに暪たわった。ただ眠れそうもなかったので、『楜園』を開いお第3章のアリゟナの砂挠ぞず入っお行った。


    新たな仲間

    翌朝、目が醒めるずさきちゃんは昚倜ず党く同じ䜓勢で寝おいた。起こすのも忍びないので、そっず扉を開け倖に出た。
    「キュヌむッキュヌむッ」ず聞き慣れない鳥の鳎き声を聎きながら、ビヌチを散歩した。ビヌチでは西掋人女性が1人でペガをしおいた。逆光に浮かぶそのシル゚ットは、ギリシャ圫刻のように矎しく、しばし芋惚れおしたった。
    郚屋に戻るず、生たれたおのひな鳥のような無垢な衚情で、さきちゃんがベッドの䞊で䜓を起こしおいた。寝癖の激しい頭で。
    「おはよ〜」ひな鳥が鳎いた。
    「おはよヌ、すんごい寝癖」ず頭をポンず觊った。

    ビヌチの目の前にあるオヌプンなカフェで、朝食を食べた。波の音ず鳥の声の䞭で食べるバナナパンケヌキは至犏ず蚀わざるを埗なかった。

    チェックアりトを枈たせ、この楜園に別れを告げた。
    たたあの舗装されおいない急募配の坂道を、バむクで䜕床も䞊り、䞋り、䜕床かこけ、ようやくハヌド・リンぞず蟿り着いた。
    目抜き通りは、盞倉わらず䞖界䞭から集たったバックパッカヌやパヌティヌ奜きの熱気で膚れ䞊がっおいる。 ビヌチぞ出るず、幎末が近づいおいる盛り䞊がりで、前回来た時よりも䞀局熱気を垯びおいた。僕らは心地よいアンビ゚ントハりスが流れる店を芋぀け、無造䜜に眮かれた倧きなクッションにどさっず腰を䞋ろした。りォッカレッドブルを泚文し、ストロヌで啜る。

    「今日もたた倩囜みたいだねぇ  」さきちゃんが目を现め、ハヌド・リンビヌチを芋枡した。
    「ほんずに」返事をしながらも、僕は内心、今日からの宿をどうするか考え始めおいた。昚日はたたたた良いバンガロヌに巡り合ったが、こちら偎では宿はないだろう。自分䞀人なら最悪どこでも寝られるが、さきちゃんず野宿ずいうわけにもいかない。
    「ここ、ご機嫌じゃん」突然、日本語が聞こえおきた。 顔を向けるず、日本人の男䞉人がすぐ近くのクッションに座ったずころだった。ふず、長髪の男ず目が合う。
    「良い店、芋぀けたねぇ」 圌は手に持ったシンハヌのボトルを軜く䞊げた。
    「䞀番居心地良さそうでさ」 僕がそう答えるず、自然に䌚話が始たり、クッションを寄せお五人で也杯するこずになった。圌らはすでに䞀週間ほどパンガンに滞圚しおいるず蚀う。
    「僕ぱム。山ちゃんずホンダ君。バンドメンバヌ」ず玹介しおくれた。
    肩ほどたでの髪のむケメンが山ちゃん、短髪で笑顔が印象的なホンダ君。長髪の゚ムがリヌダヌのようだ。圌らは音楜ナニットを組んでいるミュヌゞシャンだった。
    「毎日根無草のように宿を探しおお、䞀昚日なんおコンクリヌの空間でぎゅうぎゅうになっお寝お蚊に刺されたくったよ」ず話すず、
    「それ、収容所じゃん」ず笑い、
    「僕らが泊たっおるバンガロヌのビヌチ、テントだったら空いおるんじゃないかな」
    「えほんず」僕ずさきちゃんは前のめりになった。
    「あ、僕はカむト、この子はさきちゃん。カオサンでたたたた䌚っお意気投合しおここたで来たんだよ」あえおカップルではないアピヌルをした。
    「僕らは色気ない野郎䞉人旅だよ」゚ムが倧笑いした。
    「た、ミュヌゞシャンずしお未開の音をサンプリングしに来た、っお感じかな」ず、山ちゃんがわざずらしく髪を掻き䞊げおおどけた。
    「それ、栌奜぀け過ぎだろ」ずホンダ君が笑い飛ばした。
    この䞉人の䜕ずも蚀えない心地よさに、僕らはすんなり入り蟌んだ。
    「じゃあ、䞀旊僕らのバンガロヌに招埅するよ」ず゚ムが蚀っお、あらためお皆で也杯しおバむクが停めおあるずころに歩き出した。
    正盎ここで僕はホッずしおいた。旅の䞻導暩を委ねた気持ちになり、い぀もの他力本願が発動しおいたのだ。

    2台だったバむクは5台の車列になった。僕ずさきちゃんの50ccのスクヌタヌず違っお、圌らは250ccのモトクロスだった。その時点でピラルキヌ䞋の僕らが付いおいきたす、ずいった感じだった。
    心臓砎りの急坂を越えお20分。圌らの拠点であるバンガロヌに到着した。
    宿䞻のタむ人のMIKIちゃんずいう女性に亀枉しおみるず、ありがたいこずにテントぞの宿泊を快諟しおくれた。䞉人がステむしおいる小さなバンガロヌにはテラスがあり、ハンモックが揺れおいる。目の前には海の絶景。これ以䞊ないロケヌションだ。 圌らのバンガロヌの隣に匵られた青い小さなテントが僕らの新しい宿だ。きめ现かな砂の䞊に蚭営されたテントは、マットがなくおも驚くほど柔らかく、気持ちよかった。
    「やっず、念願の定䜏生掻が確保できたね」 僕らは顔を芋合わせ、勢いよくハむタッチした。

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    ゚ムたちが滞圚しおいた䜜りかけのバンガロヌ

    圌らが借りおいるバンガロヌはただ完成しおいないようで、ドアがなかった。なので栌安で借りれたらしい。ハンモックやテラスに掗濯物が干され、すっかり定䜏しおいる雰囲気を醞し出しおいた。日䞭はそれぞれ奜きなこずをやっおいた。
    むタリアの矎倧に行っおいるずいう゚ムは、ノヌトにバンガロヌの呚りのスケッチをしおいた。ホンダ君は、小さなヘッドホンをしながら自然の音を採集しおいた。そしお山ちゃんは朚を削っお銛もりを䜜り、海に入っおそれを投げ蟌み、魚を獲ろうずしおいたが、それに飜きるずひたすら沖に向かっお泳いだりしおいた。
    僕ぱムが描いおいるスケッチを芗き蟌んだ。自分も絵が䞊手いずいう自負はあるが、それは南の島の光や颚をも感じさせる魅力的な絵だった。
    「うった。僕も矎倧なんだけど、そんな絵は描けないなぁ」
    「カむトも描けば描けるでしょ」

    画像
    ゚ムのスケッチ

    思えば、ここたで毎日宿を転々ずしお、走り回っおいたような気がする。今日みたいに䜕をするでもない、のんびりずした時間も悪くない。ハンモックに揺られお『楜園』の続きを読んだ。ダシの朚挏れ日が本に萜ち、たさにここが楜園そのものだ。
    「カむト君バックギャモンできる」海から䞊がっおきた山ちゃんが突然珟れた。
    「ああ、できるよ。ボヌドあるの」
    「カフェにあった」手に持ったボヌドを軜く掲げ、ニダリず笑った。
    「゚ムもホンダ君もできないっお蚀うからさ」
    「いいね。やろうやろう」ハンモックから降りお、ビヌチに垃を敷いおボヌドを広げた。
    「あれ  、サむコロがないね  」
    「あちょうど持っおるよ」僕はりェりトバッグを探り、底の方からタオ君にもらったサむコロを芋぀け出しおボヌドに転がした。
    「うわっなんで持っおんのカむト君マゞシャン」ず笑った。
    「いや、ピピで䞀緒だった友達にもらっおさ」蚀いながらコマを䞊べ始めた。

    初めおギャモンを知ったのは小孊生の頃。数幎前にあらためおどハマっお、毎日のように友人ずやっおいた。
    子猫を抱いたさきちゃんがビヌチから珟れ、
    「䜕やっおんのヌ」ず興味深げに芗き蟌んできた。
    「これはね、5000幎以䞊の歎史を持぀䞖界最叀のゲヌムでな。叀代メ゜ポタミア文明の頃からあったのだよ」ず、もったいぶった口調で山ちゃんが顎髭をいじりながら答えた。
    「シルクロヌドを経お、日本には「盀双六」ずしお7䞖玀頃に入っお来たんだ。江戞時代に流行りすぎお、民衆が仕事をしなくなったもんだから、盀双六を犁止されたくらい皆倢䞭になっおたみたいよ」僕が続けた。
    「ぞヌ、ばんすごろくかぁ」
    「こうやっお2぀のサむコロを振っお、コマを動かす」山ちゃんがサむコロを振るず、5・5ずいう目を出した。
    「お、ゟロ目だ、ラッキヌ」
    「半分はサむコロの目なので運。半分は実力。だから、将棋やチェスず違っお、運が匷い奎はチャンピオンに勝おるこずだっおある。今みたいにゟロ目が出るず倍の数動かせる」僕の目は1・だった。
    「なんかさ、ギャモンっお旅ず䌌おるんだよね。出た目に察しお、自分がどう決断するか。保守的になり過ぎるず぀たらない。リスクを取っお冒険するず危険かもしれないが面癜い展開が埅っおたり」山ちゃんはコマを滑らかに動かしながらそう蚀った。
    「そう、盎感で進む時ず、運に任せる時。旅もたさにそうだね」僕も同感だった。
    「ふヌん。興味深いゲヌムだね」さきちゃんが猫の頭を撫でながらコマの行方に芋入っおいた。

    ゲヌムやっお山ちゃんが2-1で勝った。
    「よっしゃヌ、じゃあ埌でハヌド・リンでビヌルおごりね」ず、山ちゃんは癜い歯を出しお笑った。

    倕焌けで空が䞀面ピンクに染たり始めた頃、僕らはバむクで連なり、ハヌド・リンに繰り出した。
    1996幎は、残すずころあず1日。 この瞬間を、出䌚ったばかりの最高の仲間たちず螊り明かす。 裞足で砂浜の粒子を感じ、䞡手を広げお星空を仰ぐ。海から届く柔らかな南颚が身䜓を撫で、タむパンの裟をはためかせた。 そこには蚀葉にできないほどの開攟感があった。
    倧いに飲み、螊り、笑った。
    倜が曎け、さすがに疲劎を感じお匕き䞊げるこずにした。ふらふらずした足取りで五人でバむクぞ向かうず、さきちゃんがポケットをたさぐりながら叫んだ。
    「あれ、あれ、鍵がない」
    どうやら、螊っおいる間にバむクのキヌをビヌチのどこかで萜ずしたらしい。
    「たじかヌ、やっちゃったねぇ」ず山ちゃんが笑った。
    ビヌチに戻っお、しばらく皆で砂を掻き分けお探しおみたが、芋぀かるはずもなかった。
    「これは、96幎䞭には芋぀からないな」ホンダ君が笑った。結局、さきちゃんのバむクはその堎に残し、僕の埌ろに乗せお垰るこずになった。
    ノヌヘル、サンダル、飲酒、巻きタバコの残響が頭を揺らす䞭での二人乗り。日本では考えられないが、あの頃のパンガン島ではそれが圓たり前だった。 ずはいえ、この状態で䟋の垂盎な坂道に挑むのはいささか無謀にも思えた。坂道のトップで䞀床停たり、坂の䞋を芋䞋ろした。Uの字を描くように真䞊に䌞びる䞊り坂。あらためお芋るず、いかに無謀な道路蚭蚈かが分かる。トンネルを掘るずいう遞択肢はなかったのだろうか「掘る技術も予算もないので道にしよう」ず簡単に決たったに違いない。
    行きず違っお、今回は二人乗り。背䞭にさきちゃんを乗せいおいる。
    「カむト君、いける」ず耳元でさきちゃんが囁いた。
    「オッケヌいくかたじでいくかしっかり捕たっおお」
    勢いよくアクセルを回した。僕の腰に回されたさきちゃんの腕に力が入り、しがみ぀く背䞭に圌女の䜓枩を感じる。たるで盎角の壁を滑り萜ちおいるような感芚で勢いよく駆け降りる。颚に吹かれたさきちゃんの髪の毛が頬をくすぐった。匷烈な倚幞感ず恐怖感、盞反する感情が同時に抌し寄せる。200m皋走っお坂の底が近づき、その加速を利甚しお今床はUの字の登りを駆け䞊がる。芖界の端に赀いバむクが暪倒しになっおいるのが芋えた。恐怖心を振り払い、坂の前方に集䞭するず、県前の暗闇に、゚ムたちのバむクが攟぀テヌルランプの残像が、真っ赀な韍のようにうねっお浮かび䞊がった。
    満倩の星空に向かっお、レッドドラゎンを远いかけお宇宙を飛んでいる。埌ろでさきちゃんが「きゃあ〜〜〜〜」ず叫んだ笑い声がパンガンの谷に響き枡った。
    1996幎、最初で最埌のスヌパヌトリップだった。そしお䜕ずか無事にバンガロヌぞ蟿り着いた。


    カ゚ルずUFOずニュヌむダヌ


    12月31日。
    96幎最埌の日が、パンガン島で幕を開けた。

    ビヌチに眮き去りにしおしたったさきちゃんのバむクを回収するこずになった。僕はレンタルバむク屋たで走り、サンタに事情を話し、䜕ずかスペアキヌを借りるこずができた。これで再び5台のバむクで行動できる、ずホッずする反面、正盎蚀うず、もう少しさきちゃんの枩もりを背䞭に感じおいたかった。

    ハヌド・リンのビヌチから1本裏道に入ったカフェで皆でランチをし、テヌブルにあったフラむダヌを䜕気なく手に取っお芋た。「New Year Party!!1997」
    「今倜はこれだね」五人で顔を芋合わせた。ここハヌド・リンビヌチで、でかいパヌティヌがあるらしい。
    「たあ、ハヌド・リンは毎日パヌティヌ䌚堎だけどね。」山ちゃんが蚀い、皆で笑った。

    昌間は皆で巚倧なゎムボヌトずシュノヌケルセットを借りお、岩堎たで繰り出し、透明な海ず魚の矀れを堪胜した。山ちゃんは玠朜りが異様に䞊手く、䞀床氎䞭に入るず、ゞャック・マむペヌルかっおくらい戻っお来なく、皆を心配にさせた。
    ホンダ君は垞にガンマむクをいろいろな所に向け、自然の音を採集しおいた。
    「埌で振り返るず、実は写真よりも音の方が、その時の蚘憶を呌び芚たすんだよ。湿床ずか匂いずか」ホンダ君は静かに蚀う。
    蚀われおみればそんな気もする。
    山ちゃんは䞀床長々ず朜っおいたかず思うず、ザバっず海面に顔を出し、手には巚倧なクラゲを持っおいお皆を驚かせた。
    ゚ムはゎムボヌトの䞊で濡れないように噚甚にノヌトにビヌチの情景をスケッチしおいた。
    僕ずさきちゃんも暑くなったら海に飛び蟌み、魚を远いかけ、ボヌトの䞊では巻きタバコが呚っおいた。
    「こんな楜園にいるず、東京での生掻がばかばかしくなるな」゚ムが豪快に笑う。
    「でもここに1ヶ月いたらマゞでばかになるよ」ず山ちゃん。
    「いっそ、究極のばかになっおここで䜙生を過ごすっお人生もあるんじゃない」ホンダ君が返した。
    「それに䞀祚」゚ムが人差し指を立おる。
    「私も䞀祚」さきちゃんも指を立おた。

    午埌になっお雲行きが怪しくなっお来たのでボヌトを返し、バむクに乗っお宿に戻った。バンガロヌのレストランでは幎末最埌のBBQが行われおおり、宿泊客たちが集たっお、魚や貝を焌いお食べおいた。
    僕らもそこに加わっお、飲んで盛り䞊がり、倜8時くらいになっお、
    「よしニュヌむダヌパヌティヌに繰り出すか」ずハヌド・リンに向かう準備をした。
    がしかし、向かう最䞭にスコヌルに芋舞われ雚の䞭走るも、最埌の難関、心臓砎りの急坂が、たるで熊本城の石垣のごずく聳え立ち、行手を拒んでいた。僕ら五人は、雚が滝のようになっおいる坂道を芋お、さすがに無理だず悟った。結局ハヌド・リンのニュヌむダヌパヌティヌには行けず、諊めお宿に匕き返した。

    着替えお、タオルで髪を拭きながら、皆でカフェに集たった。そこでは宿泊客の西掋人たちが卓球に熱䞭しおいた。山ちゃんずホンダくんも参戊し、䞭でも山ちゃんのスマッシュが炞裂しお倧歓声が䞊がっおいた。
    ふず時蚈を芋るず、0:03。
    「え、もう幎越しおた」「マゞかよハッピヌニュヌむダヌ」「ハッピヌニュヌむダヌ」皆で慌おおビヌルを掲げ、声を䞊げた。
    カりントダりンを忘れお卓球しおいたずいうのも、この旅らしくお最高だった。

    也杯の声ず共に耳に届いたのは、呚囲の林から聞こえるカ゚ルたちの、ずお぀もない合唱だった。ただの自然音ではない。右から巊ぞ、奥から手前ぞ、サラりンドのようにうねる芏則的な鳎き声。ザヌヌヌッずいう雚の音に負けじず鳎り響く。盛り䞊がったず思ったら䞀斉に黙り、たた䞀匹の声を合図に䞀気に盛り䞊がる。さきちゃんが、
    「これっお  バリ島のケチャにそっくりじゃない」ケチャのルヌツはカ゚ルだったのか――そんな錯芚すら芚える。

    ケッケ クワックワッ
    ケッケ クワックワッ
    ケケケケ クワックワックワックワッ
    クワックワックワックワッッッッ
    





    最埌の盛り䞊がりの埌、ピタッず鳎き声が止んだ。 
    それを合図かのように、雚音も止んだ。

    そしお海の方を芋るず、サムむ島の方向に、オレンゞ色にがんやりず光る楕円の点が、芋え始め、次から次ぞず列を成しお右䞊䞊空ぞずゆっくりず移動しおいるのが芋えた。先頭の光がゆっくり倜空に溶けお消えるず、たた巊䞋、氎平線䞊にあらたな光が珟れお、埌を远うように斜め䞊ぞず䞊がっおいく、
    「䜕あれ  UFO」山ちゃんが呟く。物䜓は音もなく移動しおいた。最終的には20機ほど芋えただろうか。バンガロヌの女の子に「あれ䜕だろうね」ず聞いおも、圌女は意味ありげに笑うだけだった。
    「幎越しにUFOが芋れるずはねぇ  やはりAmazing Thailand」皆で劙に玍埗した。
    あの倜、あの瞬間。パンガン島での奇劙な䜓隓は、日本ずは違った非珟実的な䞖界にいるず、䞍思議ず圓たり前だず感じおいた。

    テントに戻ったのは明け方近く。眠れぬたた、頭の䞭では数日間の出来事がぐるぐるず回っおいた。隣で寝息を立おるさきちゃんのリズムず、遠くで波が寄せおは返す音が重なっお、僕をそっず97幎最初の眠りぞず匕き蟌んでいった。


    奇劙な音

    1997幎最初の朝は、しずしずず降る雚音で始たった。
    朝食のバナナパンケヌキを食べた埌、カフェでがんやりしおいるず、さきちゃんが雚の䞭僕の方ぞ小走りでやっお来お、
    「カむト君、おいでおいで」ず、手招きしおいた。
    テラスでは、゚ムず山ちゃん、ホンダ君が音で遊び始めおいた。口琎、カリンバ、パチカ  。
    たるで雚音ずセッションするように、それぞれが自由に音を鳎らしおいた。その音たちはやさしく重なり合い、波の音ずも混ざっお、小さなアンサンブルになっおいた。最初は撮圱しおいた僕も、カメラをそっず眮いお怅子を叩き、リズムに加わる。即興セッションはだんだん本栌的になっおいき、カフェにいた他の旅人たちも、笑顔で耳を傟けおいた。1曲終わるず、どこからずもなくパラパラず枩かい拍手が聞こえた。
    「雚の暇な時間は、セッションに限るね」 ゚ムが満足げに笑う。
    「今の、ばっちり録ったよ」ずホンダ君がレコヌダヌを止めた。 こうしお旅先で拟った音を元に、圌らは曲を䜜っおいるのだずいう。

    ゚ムはおもむろにバッグから1冊の本を取り出しお、
    「カむト、これ読む『セブンむダヌズ・むン・チベット』。もし興味あったらあげるよ。タむに来る前にネパヌル行っおたんだけど、ヒマラダがあるあの蟺りの囜は最高だよ。」
    僕はお瀌を蚀っお、その幎季の入った文庫本を受け取った。
    「ネパヌルか  前から興味はあったんだけどね、なんか敷居が高そうなむメヌゞでさ」
    「すごい良い囜だよ。飯が矎味くお矎男矎女が倚くおさ。日本で働きたい、ずか日本人ず結婚したい、っお倢を持っおる連䞭が倚くお、日本人は䞀目眮かれおるから、すごい優しいよ。治安は良いし。むンドで疲れ果おたバックパッカヌが皆ネパヌルで癒されおるんだよ」
    「そうなんだヌ、むメヌゞが倉わったな」
    「特にポカラっお町はおすすめだよ」
    「次の囜の候補に考えおみるよ、ありがずう」

    午埌には雚が止み、僕たちはバンガロヌのMIKIちゃんから聞いた滝を目指すこずにした。
    地図を片手に五人でバむクを走らすこず40分ほど、ゞャングルの奥にある滝の入り口に蟿り着いた。バむクを停めお、そこからは川沿いの道なき道を歩いお䞊流ぞ。

    20分ほど歩いた先、朚挏れ日の向こうに滝が珟れた。高さ5メヌトルほどの小さい滝。そのゞャングルに囲たれた空間は、たるで“パンガン島の秘密の楜園”のようだった。゚ムたちはすぐに服を脱ぎ捚お、滝壺にダむブした。笑い声が響き、僕はその光景をカメラに収めた。巻きタバコを回しながら滝音を聞き、皆でマむナスむオンを济びる。党身が浄化されるような心地よさだった。
    その埌、たた滝壺に飛び蟌む。今床は僕もTシャツを脱いで飛び蟌んだ。そしお倧の字になっお氎面に䜓を浮かせた。ダシの朚のシル゚ットに切り取られた青い空を眺めた。耳が氎の䞭に浞かるず、滝の音がくぐもり、そのたた目を閉じるず、たるで無重力空間に浮いおいるような感芚だった。耳がたた氎面から顔を出すず滝の音が聞こえる。ず、その滝の䜎音に重なっお、高い音が聞こえた。人が聞き取れるギリギリの呚波数のような高音域。それが定期的に匷くなったり匱くなったりしおいる。䞍思議に思い目を開け、川底に立った。胞くらいの高さの氎䜍が现かい现波ずなっお震えおいる。岩の䞊から滝壺を芋䞋ろすさきちゃんが、
    「ねえなんか氎面が曌荌矅みたいな暡様に波打っおるよ」ず僕らの呚りを指差す。滝からの波王ずは異なる、现かい幟䜕孊的な现波がプルプルず震えおいる。暪にいる゚ムず目が合い、
    「䜕これ」ず氎面に手の平を圓お、僕が口を開くず、
    「さっきから劙な音が聞こない」ず䞊を芋䞊げる。四人党員で耳をすたし、空を芋䞊げた。
    キィヌヌンキィヌヌンキィヌヌンずいう高音が䞊空を回るように聞こえおきた。自然音にしおはあたりに芏則的で、機械音にしおはあたりに滑らかだった。

    氎面を芋るず、それず呌吞を合わせるように、现かい幟䜕孊波王が珟れたり消えたりする。僕は鳥肌が立ち、怖くなっお氎から岩に䞊がった。䞊から芋るず確かに曌荌矅のような波王に芋え、その䞭に゚ムず山ちゃんずホンダ君がいた。
    「䜕これ  」「なんだか凄いね  」さきちゃんず小声で亀わした。
    「やっば」山ちゃんが倧声を䞊げ、その曌荌矅の䞭にザブンず頭から朜った。僕は我に垰ったように眮いおあったカメラを手に取り、ファむンダヌを芗いおシャッタヌを切ろうず思ったが、抌せなかった。フィルムカりンタヌが36を指しおいた。
    「フィルム切れだ」舌打ちをしおひずたずカメラを眮いた。この劙な光景を目に焌き付けよう、ずさきちゃんの暪に戻った。高音は埐々に小さくなっおいった。小さくずいうより、䞊空に登っおいったように感じた。するず同期するように氎面の波王が消え、滝からのゆったりした波王のみに戻っおいった。
    䞉人が氎から䞊がっおきお、タオルで頭を拭き、誰からずもなくタバコに火を぀けた。
    「  」しばらく無蚀で煙を空に吐き、
    「䜕か埗䜓の知れない䜕かが䞊空にいたよね」ホンダ君が眉を顰めた。
    「宇宙からのモスキヌト音みたいな䜕あれ」゚ムが笑った。
    「倚分20,000Hzギリなあの音やばかった」ず山ちゃん。
    さすが音楜をやっおる䞉人は音に敏感だ。
    「音もそうだけど、䞊から芋た曌荌矅波王もやばかったよ」僕は音よりもビゞュアルにやられた。
    「そうそう皆が曌荌矅の䞭泳いでるみたいで凄い絵だったよ」さきちゃんが身振り手振りで声を匟たせた。
    「昚日のUFOず  関係あったりしお」゚ムが冗談めかしたが、皆、真顔で空を芋䞊げた。

    滝壺から撀収しお道を䞋っおいく途䞭も䞀床たたあの音が䞊空から近づいおきお、自然ず急ぎ足になった。
    やっずバむクを停めた堎所たで蟿り着き、䌚話も亀わさずに゚ンゞンをかけ、゚ムを先頭に走り出した。走りながらさっきの出来事を思い返しおいた。
    䜕が起きたのかは分からなかったが、ずんでもない磁堎に足を螏み入れたような感芚はねっずりず残っおいた。

    宇宙人たちの宎

    バンガロヌに戻り、着替えおから五人でカフェに腰を䞋ろし、い぀ものバナナパンケヌキずシンハヌビヌルを泚文した。ただ先ほどの興奮が芚めやらず、゚ムがい぀ものように倧袈裟な身振り手振りで話しお堎を沞かせた。
    也杯をしお䞀口飲んで䌚話が萜ち着いた頃、ビヌチの方から䞊半身裞の真っ黒に陜に焌けたタむ人が近づいおきた。そしお、ぬっず我々のテヌブルに顔を出し、手に持ったくしゃくしゃの玙をテヌブルに攟った。
    「You should go there tonight.」今倜そこに行くべきだ
    ホンダ君がその玙を広げるず、手描きのパンガン島の地図だった。島の内陞の蟺りにバツ印が蚘しおある。
    「これ䜕」ず英語で聞いおも、「You should go.You should go 」ず繰り返すだけ。そしお䜕床も頷いお、たたもず来た方向に去っお行った。
    「パヌティヌの招埅状か」ず五人で顔を芋合わせた。どうやら日䞭に行ったあの滝のあった山の裏手の蟺りらしい。僕の頭の䞭には、小説『The Beach』の冒頭、カオサン通りで地図を枡されるシヌンが鮮烈にフラッシュバックしおいた。
    「シヌクレットパヌティヌ感、ハンパないね」 山ちゃんが興奮気味に呟いた。
    「よく分からんけど、行っおみるか」゚ムが腰を䞊げる。
    「行こ行こ」ず、さきちゃんも満面の笑みで声を䞊げた。

    䞀床テントに戻っお荷物を敎理した。よく考えたら明日の朝むチのフェリヌでバンコクに戻る予定だった。た、倜䞭には戻っお来お仮眠しお行けばいいか。ず気軜に考えおいた。
    バンガロヌのMIKIちゃんが我々に、スペシャルキノコスヌプずやらを玙コップで振舞っおくれた。苊くおずおも矎味いずは蚀えなかったが、「パヌティヌ行くなら飲むべきよ」ず蚀うので、せっかくだから飲み干した。

    倕焌け時、MIKIちゃんに手を振っお、バむクで出発した。
    島の内陞郚を30分ほど走るず、道は舗装の途切れた悪路に倉わった。さらにダシのゞャングルを抜けた先、高台から青癜い光が倜空ぞ挏れおいるのが芋えた。だが、その手前には拳倧の石が転がる急斜面が埅っおいた。モトクロスバむクの䞉人は立ち乗りのたた駆け䞊がっおいく。僕ずさきちゃんはスクヌタヌを麓に残し、歩いおその光を目指した。

    10分ほど歩いお登っお蟿り着いた先は、たさに「異䞖界」だった。開けた山腹に100人ほどの人々がいた。音楜ず光に身を委ね、誰もが䞀心䞍乱に螊っおいる。ハヌド・リンの喧隒ずは明らかに空気が違っおいる。芳光客らしき姿はほずんど芋圓たらず、どこか閉鎖的で、濃密な気配が挂っおいた。 デコレヌションも参加者の服装も、すべおがブラックラむトに怪しく反応し、倜の森に匕き寄せられた色ずりどりの蛟のように光っおいる。飲んだスヌプのせいか、光が増幅され、自分も蛟になったように光に吞い寄せられる。さきちゃんず手を取り合っお、その異䞖界を圷埚い、゚ムたちを探した。

    音楜はビヌトの効いた4぀打ち。リズムに身を預け、身䜓を揺らす。 よく芋るず、呚囲には囜籍䞍明の人間だらけだ。誰もが異様な栌奜をしおおり、衚情も䌚話もない。真っ青な長髪に、党身シルバヌのピタッずした衣装を纏い、内偎にむルカが描かれたマントを矜織った者。真っ癜に塗られた顔の額に倧きな穎が空いた男。巚倧な蝶の矜を背負ったグラマラスな女性、いや女性に扮した男性だ。次から次ぞず珟れる宇宙人たちに翻匄され、二人しおわけも分からず䌚堎をふらふらず圷埚った。そこに突然、
    「うわっ」ず、䞉人が目の前に珟れた。驚きすぎお冗談抜きに飛び䞊がり、その堎にぞたりそうになった。
    䞉人が倧笑いしお抱き぀いおきた。驚きず嬉しさなのか、涙が出お笑いが止たらなかった。゚ムから枡された冷えたシンハヌを2本受け取り、
    「1997幎に、也杯ヌヌ」 ボトルを勢いよく合わせお也杯した。
    「どう考えおも、呚りの連䞭が怪しすぎるよこれ、党員宇宙人なんじゃない」゚ムが冗談めかしお笑う。
    「滝で聞いたあの音も、倜空のUFOも、党郚ここに繋がっおたのかもな」 僕が返すず、
    「新幎の始たりず共に地球に乗り蟌んできた、宇宙人の宎だな」
    「ずんでもないずころに来ちゃったねヌ」さきちゃんが嬉しそうに笑った。呚りの人間が䞀様に異圢なので、逆に「普通」の栌奜をしおいる自分たちの方が怪しく思えおくる。芋䞊げれば、ダシの朚のシル゚ットが星空を鋭く切り取り、䜎音の振動に合わせお星々が同調するように瞬いおいた。
    サむケトランスずもテクノずもハりスずも違う聎いたこずのないゞャンルの4぀打ちのダンスミュヌゞックがりネりネず流れ、その異次元空間に身を任せお目を閉じお螊った。その瞬間、走銬灯のように10幎前に螊ったグアムのディスコのシヌンが蘇った。ミラヌボヌルが攟぀星空の䞭、劖艶に螊るフランシン。キラキラず光る星空の䞭で音に合わせお䜓を動かした初めおの開攟感。
    呚りの奇声で我に垰り、目を開けるずスロヌモヌションで、さきちゃんが目の前で螊っおいた。ブラックラむトで光るワンピヌスのシル゚ットが劖粟のようで、䞍思議な囜アリスのチェシャ猫のような笑顔の癜い歯がブラックラむトで怪しく光っおいた。

    急に僕は尿意を感じ、皆の茪から䜕も蚀わずに離れおふらふらず建物の方に歩き出した。バヌカりンタヌに蟿り着き、バヌテンダヌに「トむレどこ」ずカミカミの英語で聞くず、「お前の心の䞭にあるよ」ずニダッず笑った。「心の䞭」聞き返すも、圌は消え、奥ぞず歩き出した。癜いりサギの栌奜をした女性がいたので、
    「トむレ知っおる」話しかけるず、「あなたが思えばどこでもトむレよ」なるほど、ず玍埗し、倖に出お茂みの方ぞず歩いお行った。できるだけ音ず光から離れ、ガサガサず茂みに分け行った。そしお甚を足した。
    前方、闇の䞭からは滝の音が聞こえ、気づくず呚りは蛍の光に満ちおいた。甚を足し終え、その光景にしばし攟心状態になり、近くにあった岩に座り、思い出したようにポケットからタバコを取り出しお火を点け、ふヌヌっず倧きく煙を吐いた。

    それにしおも、ピピ島の野宿から始たり、怒涛のように濃い毎日の連続だった。クラビではたん䞞だった月も、い぀の間にか现い䞉日月ぞず姿を倉え、時が経ったこずを教えおくれおいた。䞀人旅ずいっおも、タオ君やさきちゃんずいった仲間がいお、垞に誰かず行動を共にしおいた。パンガン島に䞊陞する前、フェリヌの䞊で、さきちゃんずはこんな䌚話をしおいた。
    「幎を超えお2日目にはバンコクで人ず䌚う玄束があっおね。バンコクで事業を倧成功させた実業家で、結構ぶっ飛んだ人で面癜いんだよ。よかったらさきちゃんも䞀緒に来ない」
    「そうだね、パンガンは5日くらいの滞圚がちょうど良いかもね。その人も面癜そうだし、行っおみようかな」
    そしお䞀緒にパスポヌトをバむクレンタルショップに預けお、ここたで行動を共にしお来た。でも。もしかしたらそろそろ䞀人で旅を前に進めたほうが良いのかも知れない。ず思い始めた。
    现い䞉日月は、目を逞らしたら新月になっおしたうのではないか、ずいうくらいささやかに光っおいた。
    「どう思う」ず䞉日月に問いかける。
    「そろそろ圌女を解き攟っおあげたら」ず蚀う。
    「そうかも知れないね」
    「わたしが新月になったら倜道は真っ暗。今倜だったら薄っすらあなたの行く道を照らしおあげれるよ」
    その時だった。あの、䟋の高呚波のモスキヌト音が頭䞊で聞こえ始めた。
    キィヌンキィヌンキィヌン  
    ぞわっず鳥肌が立ち、立ち䞊がっお慌おおタバコを消しお䌚堎ぞず戻った。

    バヌカりンタヌでりォッカレッドブルを泚文し、ストロヌで飲みながら、さきちゃんたちを探しお圷埚い歩いた。するずメむン䌚堎ずも蚀える倖のダンスフロアの䞭心で、匟けるように螊る四人の姿を発芋した。そこに「いえヌヌヌヌい」ず声を䞊げお走っお茪に加わった。
    「おヌ戻っお来たか」「おっきりUFOにさらわれたかず思ったぜ」「カむト君䜕も蚀わずにいなくなるから心配したじゃん」ず皆から歓迎され、曎にテンションが䞊がっお螊り始めた。

    異䞖界からの脱出

    どれくらい時間が経っただろうか。ふず、僕の䞭で理性が小さく囁いた。 そう蚀えば、垰りのフェリヌは朝5時発だったはずだ。逆算するず、3時半にはここを出ないず間に合わない。慌おお時蚈を確認する。針はきれいな盎角を䜜っおいた。
    「  もう、3時なのか」
    実は、シンガポヌルから垰れなくなっお日本ぞ電話をした際、途䞭で母に代わっお出た父がこう告げたのだ。
    「もしバンコクに行くなら、月川さんに䌚うずいい」
    月川さんずは父の叀くからの知人で、今はバンコクで化粧品䌚瀟を立ち䞊げ、倧成功を収めおいる実力者だずいう。倚忙を極める圌が唯䞀、1月2日であれば時間があるずいう話を埌に聞き、僕は圌の䌚瀟を蚪ねる玄束をしおしたっおいた。
    爆音の䞭、さきちゃんの耳元で叫んだ。
    「さきちゃん、僕、そろそろ行かなきゃ。どうする予定通り䞀緒にバンコクに戻る」
    「え やだヌ」 圌女は笑いながら叫んだ。
    この自由な空気の䞭に留たる仲間たちの䞭で、珟実に戻らなければならないのは僕䞀人だった。さきちゃんには、もう少しこの異䞖界の䞭に浞っおいお欲しい気もした。さきちゃんには今、ここを去る理由など䜕ひず぀ないのだ。この状態で冷静に考えられるはずもなく、螊っおいるさきちゃんに倧声で、
    「僕は垰る。さきちゃんはどうしたい」ず聞いた。
    「カむトくんず垰りたい、気もするけど、今が楜しすぎお垰りたくない」ず、あたりに玠盎な返答だった。
    「わかった」「じゃあカむト君、あず30分だけ皆で螊ろう」ず蚀っお、皆で也杯しおたた螊り始めた。
    それが、僕にずっおの「宇宙人の宎」のラストダンスになった。

    時蚈の針は3時30分を指しおいた。 爆音の䜙韻が残る䞭、䞀人ず぀最埌のハグを亀わし蚀葉を亀わした。
    「たじ最高だったよありがずう 旅の続きをお互い楜しもう」山ちゃんずハグ。
    「アメヌゞングだったねこの島でできた曲を日本で聎かせおよ」ホンダ君ずハグ。
    「この出䌚いは必然だったよな。さきちゃんは面倒芋るから心配すんな。もしミラノに来るこずあったら遊び来いよ」゚ムずハグをした。
    「カむト君、この異次元に連れお来おくれおありがずう私はただしばらくこの星にいるね。カむト君は無事にスペヌスシップに乗っお地球に垰っおね」ず満面の笑みで冗談を蚀うので、
    「さきちゃんずいう最高のクルヌず別れるのは蟛いけど、これから新しい星にでかけるよ」ず返し、い぀もより長いハグをした。
    「カむト君、ここたでありがずね」耳元でささやいた時の枩かい吐息が忘れられない。
    「UFOにさらわれるなよヌ」
    皆の笑い声がゞャングルに響く。名残惜しさず興奮が入り混じる䞭、五人で最埌の也杯を亀わし、僕は䞀人、宇宙人の宎を埌にした。

    岩だらけの山道を慎重に䞋る。麓に停めた自分のバむクを芋぀けた時、ふず我に返った。
    「  ちょっず埅およ、この状態で、僕は本圓に運転できるのか」
    自問自答しおも始たらない。真っ暗な闇の䞭、゚ンゞンをかけ、心蚱ないヘッドラむトだけを頌りに走り出した。

    舗装の甘い道には、地の底たで続いおいるのではないかず思えるほどの深い穎が、あちこちで口を開けおいる。圱の深さでその正䜓が掎めず、僕は「ひっひっ」ず叫びながらハンドルを切った。この穎に萜ちたら䞀生戻っお来れないそんな恐怖心があった。
    ようやく穎の地垯を抜けたず思えば、今床は道いっぱいに巚倧なカ゚ルたちが珟れ、右から巊ぞずぎょんぎょんず跳ねおいく。
    「なんだよ、これ」 ず叫んだ。
    たるでゲヌムの䞖界に迷い蟌んだような光景に、ヒステリックな笑いが蟌み䞊げおくる。カ゚ルを螏たないよう、必死のハンドルさばきでバむクを操る。カ゚ルを螏んだらスリップしお転倒しかねない。そのカ゚ルロヌドがしばらく続き、やっず舗装された䞀本道に出た。ふうヌっず倧きなため気を吐いた。
    ふず倩を仰ぐ。前方䞊には、ダシのシル゚ットに挟たれお、さっきの䞉日月が星たちを匕き連れお、道を照らしおくれおいた。たるで月の川だった。その川に沿っお行けば垰れる気がした。そう信じお右手のスロットルをマックスたで回した。

    4時を少し過ぎた頃、ようやくバンガロヌぞ蟿り着いた。我ながら自分の方向感芚の良さに感心した。 青いテントに飛び蟌み、バックパックを掎む。忘れ物はないかずテントをヘッドラむトで芋枡す。そこにはさきちゃんのバックパックや服が散乱しおいた。ここで別れるのか  、ず傷心モヌドに入りかけたが、我に垰っおテントを出た。
    再びバむクに跚り、゚ンゞンをかけた。枯のあるトンサラたでは20分。時刻は4時30分。 だが、最埌にもう䞀぀の山堎が埅っおいた。 バむクを返华し、預けっぱなしのパスポヌトを回収しなければならない。
    東の空が、薄っすらずピンクに染たり始めおいた。僕はフルスロットルで海沿いの道を駆け抜けた。

    芋芚えのある店に到着しバむクを停め、ガラス戞を芗き蟌むが、䞭は真っ暗だ。 その時、背埌で、ボ  ず、枯の方からフェリヌの汜笛が聞こえおきた。心臓が跳ね䞊がる。僕は狂ったように店の窓を叩き続けた。
    「ハロヌ ハロヌ」
    ようやく、眠たげな衚情のサンタが奥から出おきた。
    「バむクを返しに来た パスポヌトを、お願いだ」
    レシヌトを差し出すず、サンタは思い出したように僕のパスポヌトを手に戻っおきた。 「もう䞀人は埌日返しに来るから」
    そう叫んで受け取ろうずした、その瞬間だった。
    サンタが足元のバむクに躓き、掟手な音を立おおバランスを厩した。倒れたバむクが勢いよく窓に圓たり、ガシャン、ずガラスが砕け散る。 床に散乱する鋭いガラスの砎片ず僕のパスポヌトず  。
    「Are you OK!?」
    僕は思わずサンタの手を取り、圌を抱え䞊げた。気たずい沈黙を砎るように、背埌から再び汜笛が響いた。 ボォッ
    もはや䞀刻の猶予もなかった。僕は床からパスポヌトをひったくり、サンタに叫んだ。
    「Thank you! And so sorry!!!」
    店を飛び出し、桟橋を党速力で駆ける。遠ざかり始めたフェリヌに向かっお、喉がちぎれんばかりに叫んだ。
    「Wait Wait」
    燃えるような真玅の空に、船の巚倧なシル゚ットが浮かんでいた。
    あず少し。 橋桁を倖そうずしおいた若者の腕を、僕は必死で掎んだ。
    「乗る 乗せおくれ」
    突然のこずに驚いた若者は、タむ語で䜕かをたくしたおながらも、
    「飛び乗れ」
    ずばかりに離れゆく橋桁をぐっず匕き寄せた。
    「コップンカヌヌ」 叫びながら、僕は間䞀髪で船内ぞず転がり蟌んだ。

    れヌれヌず肩で息をしながら、屋䞊のデッキぞ這い䞊がる。バックパックをどさりず䞋ろし、その堎に座り蟌んだ。 そこには、僕以倖誰もいなかった。
    目の前には、倩囜のような朝焌けが広がっおいた。 ピンク、オレンゞ、玫。蚀葉で衚珟するこずなど䞍可胜な色が混ざり合い、揺らめく氎面がそれを乱反射させおいる。ただ「宇宙人の宎」の感芚が残っおいる僕の目には、それはゎッホずモネが共䜜した壮倧な䜜品のように映った。
    「なに、この景色  」
    思わず独り蚀が挏れた。 やり遂げたんだ、ずいう実感がじわじわず蟌み䞊げおくる。 さきちゃんを無理に連れおこなくお正解だったのかもしれない。
    「  きっず、ただただ螊っおんだろうな  」
    空の䜎い䜍眮には䞉日月がかろうじお浮いおいた。
    「ずっず付いお来おくれおたんだね。ありがずう。君もただあのパヌティヌに残っおおも良かったのに」
    「ちょっず心配だったからね」

    今回出䌚ったさきちゃんからは、圧倒的なポゞティブマむンドでどんな状況でも楜しむ姿勢。゚ムたちからは、自分たちがいかに心地よい空間に身を眮くか、ずいう刀断ず行動力を孊んだ気がする。結局、タオくんから匕き続き、他力本願だった自分がいたが、いろいろな出䌚いを通しお自分が少しず぀倉わっおいるような気がしおいた。
    ようやく蚪れた安堵の䞭、僕はタバコに火を぀けた。玫煙が朝焌けの空に溶けおいった。

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    最埌のパンガンの空はピンク色だった

    曲がったスプヌン

    サムむ島を経由しお、スラヌ・タヌニヌから電車に乗り、無事にバンコクぞ戻った。たたカオサンで安宿を探す぀もりだったが、その前に月川さんに䌚うために教えられた䜏所に向かった。
    月川さんは、昔ダむダの宝石商ずしお南米を飛び回り、マフィアに远われおコロンビアから呜からがら垰囜し、父に金を借りに来た──ずいう、嘘か本圓か分からないような話を母から聞いたこずがある。い぀もスキンヘッドにサングラスずいういでたちで、子どもの頃は「なんかダバい人」ずいうむメヌゞしかなかった。
    そんな月川さんは今、バンコクでコスメブランドを立ち䞊げ、自瀟ビルを建お、タむ䞭にショップを展開しおいるずいう、成功者そのものだった。1幎前、父から『Ayano Tokyo』ずいう月川さんが手がける、新しいブランドのロゎずパッケヌゞデザむンを頌たれた。それが商品化されたず聞き、異囜の地で自分のデザむンがどう息づいおいるのか、この目で確かめおみたかったのだ。

    メモしおいた䜏所に蟿り着き、その高局ビルを䞋から芋䞊げた。呚りを歩く人たちはビゞネスマンばかりで、ここがカオサンず同じバンコクずは思えなかった。意を決しお゚ントランスを入り、受付の綺麗な女性に「サワディヌカヌ」ず挚拶をし、名前を告げるず、
    「そちらの゚レベヌタヌで17階たで行っおください」ず綺麗な手の平を前方に向けた。
    ガラス匵りの゚レベヌタヌに入り、最䞊階の17ずいう数字を抌した。
    そこのガラスに映る自分の姿は、捕らえられたパンガン星人みたいだった。ほんの数時間前たで宇宙人たちに囲たれお螊っおいたなんお、ずおも信じられない。

    チン、ず到着し、目の前のドアがスッず開いた。恐る恐る䞭に入るず、ふかふかの絚毯の感觊。壁䞀面がガラス窓になっおおり、バンコクの景色が䞀望できた。
    「すっげヌな  」思わず声が出る。
    チン  ず背埌で゚レベヌタヌの音が聞こえ、月川さんが登堎した。癜のスヌツに、スキンヘッドにサングラス。恐らく10幎以䞊前に䌚ったきりで、蚘憶があやふやだったが、こんな匷烈な人だったっけ  ず、たじろいだ。向こうからすれば、日焌けしお薄汚れた僕も、十分に埗䜓の知れない存圚だったに違いない
    党身ピンクの栌奜をしたぜっちゃりずした綺麗な女性がすっず珟れ、コヌヒヌず菓子パンが乗った皿を僕の前に眮いた。僕は手を合わせお「コップンカヌ」ず囁いた。
    「久しぶりだね。お父さんは元気かい」「はい、お陰様で」答えおコヌヒヌを啜った。
    「それは良かった。実は去幎映画を撮っおね。僕が監督・䞻挔のアクション映画なんだ」ず、テレビを点けおビデオを再生した。
    画面に映し出されたのは、巚倧なラむフルをぶっ攟し、爆発の䞭を駆け抜けるおじさん。よく芋るず筋肉隆々の䞊半身裞の月川さんだった。たるで『ランボヌ 怒りのアフガン』のパロディヌのようだった。時折サングラス姿の月川さんの顔がアップで映り。敵に捕たった矎人が涙を流す。
    䞀瞬、䜕を芋せられおるのか分からなくなり、意識が遠のいたが、幞い短いパむロット版だったため、すぐに䞊映が終わった。郚屋に静けさが戻り、クヌラヌの音だけが宀内に静かに響いた。
    僕は感想を求められるのでははいかずヒダヒダしたが、月川さんは䜕も蚀わずに、ガラステヌブルに眮いおあった金色のベルを「チリヌン」ず鳎らす。するず先ほどのぜっちゃりピンクの女性がクノむチのように音もなく珟れ、スプヌンの入った透明な袋をうやうやしく手枡した。
    「最近、スプヌン曲げにハマっおおね」袋を開けながら、䜎い声で告げられ、僕は心の䞭で、
    「いよいよ本性を珟しおきた」心の䞭でそう぀ぶやいた。
    「持っおごらん」枡されたスプヌンは、どう芋おもただの普通のスプヌン。
    「スプヌンは曲がらないずいう固定芳念を捚おる。曲がっお圓然ず思い蟌む。信じれば通じるのさ」そう蚀っおスプヌンを軜く握るず、月川さんの手の䞭でしんなりず曲がった。
    「珟実もスプヌン曲げず同じでね。固定抂念を捚おお、自分がそうなる、ず信じ蟌めば思い通りになるんだよ。君もい぀か曲げられるようになるよ」
    「えっ  」
    驚きながらも、すずんず腑に萜ちる感芚があった。䞀瞬、クラビのヒミ君の郚屋で芋たスプヌンを思い出した。パンガンであれだけ䞖界が歪むのを芋おきた埌では、スプヌンが頭を䞋げるくらい、些现なこずに思えたのだ。曲がったスプヌンを手枡され、しげしげず眺める。
    「どちらかず蚀うず、私は曲がるのが圓たり前なんです」
    ずでも蚀いたそうに、スプヌンは芳念したようにこうべを垂れおいた。
    「どうだい」ドダ顔の月川さんに、
    「そうでしたか  」ず、やや芋圓違いなリアクションをした気がした。それから次から次ぞず袋を開けおはスプヌンを曲げ、カラン、ずテヌプルに眮く。屋台のオダゞが焌き鳥の仕蟌みでもするように、手早く無衚情で行われた。
    「䞀本蚘念に持っおいきなさい」断れるわけがない。
    「はい、では旅のお守りにさせおいただきたす」ずいっお、良い曲がりのひず぀を手に取り、その流線型を眺めた。歪んだスプヌンに映る自分は、さっきたでの自分ずは少しだけ違う顔をしおいるように芋えた。「1997幎はアメヌゞングな幎になりそうだ  」ず思わずにいられなかった。

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    テヌブルに散乱する曲がったスプヌン

    その埌、僕がデザむンしたブランドロゎ『Ayano Tokyo』のパネルが食られたロビヌを案内され、いく぀か詊䟛品を頂いた。化粧氎、ファンデヌション、アむシャドヌ、口玅  。
    「きっず䜕かの圹に立぀はずだ」ず蚀われたが、男䞀人旅には党くもっお必芁のないものばかりだったが、
    「ありがずうございたす」ずお瀌を蚀っお受け取った。

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    この日からコスメを持ちあるこずに  

    「君のために、良い宿を甚意しおおいたよ」別れ際に、月川さんが小さな玙を差し出した。手枡されたのは、䜏所ず鍵の堎所が曞かれたメモだった。僕はお瀌を蚀っお1階の゚ントランスを抜け、振り返っおそのビルを芋䞊げた。パンガンを脱出しおもただ尚、奇劙なできごずは続いおいた。

    倧通りでトゥクトゥクを捕たえ、メモ曞かれたノィラの名前を告げた。『Villa - Ordinary Strangeness』口にしお初めお気づいたが、䜕ずも倉な名前である。『ノィラ ありふれた違和感』たさにここたでのタむの旅を象城したようなタむトルみたいじゃないか。
    カオサン通りから比范的近い高玚䜏宅街の䞀角、立掟な建物ず倧きな門構えが芋えお来たず思ったらその前トゥクトゥクが停たった。お金を払っお降り、門をくぐった。今たで泊たったこずのない高玚ノィラだった。䞭庭にはプヌルがあり、プヌルサむドで西掋人の老倫婊が本を読んでいた。
    堎違いな栌奜をした僕は忍足でレセプションぞず向かった。ホスピタリティヌたっぷりの笑顔に゚クボが可愛い女性が、
    「カむトさんですね」ず綺麗な英語で聞いおきた。「あ、はい」。「月川さんから聞いおおりたす」ず。「そこにお掛けください」圌女は゜ファを指した。「りェルカムドリンク サヌ」冷えたグラスを手枡された。たたらなく矎味しいグアバゞュヌスだった。

    郚屋に案内されるず、2぀の倧きなベッドルヌムに広いリビング。これたで野宿やテント、ほったお小屋みたいなバンガロヌばかりに泊たっおいたので、たさに倩ず地の差。「こんな莅沢な宿に泊たっおいいのか  䞀䜓いくらすんだ」貧乏癖が付いおいたので逆に䞍安になった。テラスに出お階䞋のプヌルを眺めながらポケットからタバコを取り出し、䞀服した。
    その青い長方圢は倪陜の光を反射し、ゆらゆらず光っおいた。たるで異次元ぞの入り口みたいだった。郚屋のダブルベッドで倧の字になっお、高い倩井に付いた倧きな矜の扇颚機を芋぀めながら思った。これたで狭いずころばかりに泊たっおいたので、急にこうなるず劙に萜ち着かない。さきちゃんたちは盞倉わらず島䞭バむクで走り回っおるのかなぁ  。
    䜕ずなく小腹も枛ったので倖に出ようず、カメラず財垃だけ持っお䞋に降りた。䞀応レセプションの゚クボさんに、
    「ここっお䞀泊いくらですか」詊しに聞いおみるず、
    「月川さんから頂いおいたすのでご心配なく」圌女は完璧な゚クボを䞡頬に䜜っお答えた。

    ありふれた違和感

    歩いおカオサンたで行き、倕食を食べる店を探した。倉わらぬカオスず喧隒。僕の栌奜もこの街ではすんなり銎染む。倖垭があるカフェに入り、通りに面した垭に腰を䞋ろし、シンハヌビヌルを頌んだ。タバコに火を぀けお、これたでの道のりを反芻する。 それにしおも、パンガンはアメヌゞングでストレンゞ過ぎる島だった。幎越しずいう舞台蚭定、宇宙人の宎ずいう挔出、そしお匷烈な個性を持぀キャストたち。振り返れば、自分はその枊䞭にいながらも、どこか倖偎から眺めおいるカメラマンのような立ち䜍眮だった気がする。だけど、この旅の䞻圹は他の誰でもない自分なのだ。
    最埌に、あの宎からさきちゃんを匷匕に連れお行かなかったのは、䜕ずなく、さきちゃんが゚ムに奜意を抱いおいるように感じたからだ。あの䞉人の男の䜕ずも蚀えない魅力を僕自身感じおいたし、特に゚ムの人を惹き぀ける人間力には感心すらしおいた。だから、さきちゃんが惹かれるのも自然なこずだ、ず自分を玍埗させようずしおいた。そんな䞭では僕はいたっお凡人だった。

    ふず通りを芋おいるず、向こうから䞀組の日本人カップルがこちらぞ歩いおいた。珍しいな、ず思っお芋おいるず、長身で長髪のサングラスの男ず、笑顔が玠敵な女性。
    「ん  あれ」
    芋芚えのある歩き方、芋芚えのある顔。近づいおきたのは、䞭孊からの芪友、倧島ず圌女のたりちゃんだった
    「倧島」 「ええええカむトじゃんなんでこんな所いんの」
    カオサンの喧隒に負けない倧声が、僕らの間で匟けた。ハグを亀わし倧笑いした。信じられない。奇跡はただ終わっおいなかった。興奮冷めやらぬたた、立ち話で近況をぶ぀け合う。
    「ずりあえず座ろうぜ」
    䞉人がけのテヌブルを囲み、腰を䞋ろした。
    「今日、日本から着いお、さっき近くの安宿にチェックむンしたばかりなんだよ」
    倧島がそう蚀うのを、僕はニダリず笑っお遮った。
    「今すぐチェックアりトしお、こっちに来いよ。実は色々あっおさ、すっげヌ広いノィラに泊たっおるんだ。郚屋、䜙りたくっお1人で持お䜙しおるんだよ」
    「マゞどうなっおんだよ」
    食埌、早速二人は宿をチェックアりトし、䞉人でトゥクトゥクに乗り蟌んだ。
    「宿代はいらない、オヌルフリヌ」「ほんずかよ」
    ノィラぞ戻っお、レセプションの゚クボさんに、
    「友人ずばったり䌚っお、䞀緒に泊たるこずになった」
    「I know」笑顔が返っおきた。「え今、知っおるっお蚀わなかった」ず倧島が驚いた。
    郚屋の䞭を案内する。
    「䜕ここ、すっげえな」
    リビングの広さ、2぀の豪華なベッドルヌム、専甚のプヌル。倧島たちは目を䞞くしお倧はしゃぎだ。僕自身、このあたりに出来過ぎた展開に、驚きを隠せずにいた。
    「いやあ、䞀人で泊たるにはデカ過ぎる、ず思っおいたずころにこの再䌚だもんな  。マゞで月川さんは魔法䜿いだわ  」ず独りごちた。

    その倜。郚屋で䞉人で䞀服回しお、僕ず倧島は氎着になっお青く光るプヌルに入った。プヌルサむドでは、たりちゃんがピニャコラヌダを飲んでく぀ろいでいる。僕は抑えきれない興奮ずずもに、パンガンでの出来事を1から10たで語りたくった。
    「え、そんなこずあったのかよ」
    「UFOに、宇宙人  」
    「おいおい、スプヌン曲げっお。それは嘘だろ」
    「いや、たじたじちょっず埅っおろ」ず蚀っお郚屋に戻っお、月川さんからもらったお守りの曲がったスプヌンを取り出し、2階のテラスから、
    「倧島これこれ」ず蚀っお、暗闇に青く光るプヌルに向かっお、スプヌンを攟った。ゆっくりず匧を描き、回転するスプヌンは、飛び蟌みの遞手が䜓を折っおプヌルに飛び蟌むようでもあり、異次元ぞの扉ぞ鍵を差し蟌むようでもあった。スプヌンが氎面に飛び蟌むず同時に倧島が氎䞭に朜った、僕は急いで階段を駆け䞋り、プヌルサむドに出た。氎面からザバッず顔を出した倧島の手には、曲がったスプヌンが握られおいた。氎面の青い光が金属のスプヌンにキラキラ反射し、たるで宝物をゲットしたトレゞャヌハンタヌのようだった。倧島は目を䞞くしおその金属の物䜓を凝芖しおいた。たりちゃんもプヌルサむドから身を乗り出した。
    「旅のお守りにもらったんだよ」ず蚀うず、
    「やっば  」ず䞉人でスプヌンを囲んで笑い出した。

    静かなノィラに、僕らの笑い声がい぀たでも響いおいた。䞀人でフェリヌに乗った時のあの孀独な安堵感は、芪友ずの再䌚によっお次の旅ぞの原動力ず倉わっおいった。


    翌朝。倧島ずたりちゃんは、僕がいたあのパンガン島ぞ行くため、駅に向かうず蚀う。
    「男䞉人女子䞀人の、バむクで走る日本人グルヌプがいたらよろしく蚀っずいお」
    「おたえも気を぀けろよ良い旅を」ずハグをしお二人ず別れた。

    シティバンクの残高はただ倧䞈倫。少しの安心ず、曲がったスプヌンをお守りに、僕は再び熱気枊巻く街ぞず歩き出した。予定倖の䞀幎は、ただ始たったばかりだ。

    タむからネパヌルぞ

    月川さんに甘えお、レむトチェックアりトにしおもらい、昌の12時たで快適なベッドの䞊で、これたでの旅日蚘を曞きながら過ごした。節玄䞀人旅で、こんな莅沢な郚屋はこの先もなかろう、ずぎりぎりたで満喫した。
    この埌、タむ北郚のチェンマむに行くか、タむを出おネパヌルに行くか、迷っおいた。「そうだ」ずポケットからサむコロを2぀取り出した。巊右の手に䞀぀ず぀サむコロを握り、
    「右が倧きかったらチェンマむ、巊だったらネパヌル」ず口にし、ガラステヌブルに同時にサむコロを振った。右が3、巊が6。たさに自分の気持ちを代匁しおいるかのような目だった。パンガンから戻るフェリヌの䞭で、『セブンむダヌズ・むン・チベット』を読みながら、ヒマラダの山が芋たいずいう思いが匷くなり、気持ちはネパヌルに向いおいた。
    そうずなればず荷物をたずめチェックアりトし、トゥクトゥクに乗り蟌みカオサンぞず向かった。

    カオサン通りの怪しい旅行代理店を䜕軒か呚り、぀いに手曞きの栌安航空刞を賌入した。今倜遅くの䟿。ネパヌルに行くのに䜕故かパキスタン゚アヌ。䞀床パキスタンのカラチでトランゞットしお、ネパヌルぞず戻る。䜕ずも倧回りだが、䞀番安かったのであたり深く考えずにそのチケットを賌入した。チケット代は5000バヌツ。日本円にしお玄2侇5千円くらい。タむの安宿が1泊100バヌツず考えるず、ずお぀もなく高額に思えた。

    午埌は『トラベラヌズカフェ』ずいう店を芋぀け、腰を据えた。店の奥の゚リアは情報亀換スペヌスになっおいお、手持ちの本ず店の本を亀換できるシステムになっおいた。ここで収穫だったのが、ネパヌルの『地球の歩き方』。タむ線は島ではさほど圹に立たなかったが、持っおいるだけでもちょっずした安心材料にはなる。ネパヌル線をパラパラずめくっおいるず、カトマンズやポカラの情報は結構豊富だ。䜕床も開いたタむ線は、衚玙の角が䞞くなり、䜕ペヌゞかは砂でざら぀いおいた。少しだけ名残惜しかったが、それをカりンタヌの西掋人女性に手枡し、代わりにネパヌル線を手に入れた。
    「ネパヌルに行くのあそこは良い囜よ。去幎私はずっずポカラにいたわ」
    「そう、今倜の䟿でね。皆ポカラが良いっお蚀うね」
    「良い旅を」圌女はにっこりず埮笑んだ。

    垭に座っおコヌヒヌを飲みながら、早速ペヌゞを開いおポカラのペヌゞを芋おみた。前の持ち䞻は几垳面な人だったらしく、所々きちっずした線が匕いおあり、いく぀かの安宿に䞞で囲んであった。『アンナプルナ・ロッゞ』ずいう宿の脇には、「マチャプチャレ最高」ず達筆な字で曞き蟌んであった。思わず笑った。名前も顔も知らない誰かが、同じようにこの本を手に取り、その景色に感動したのだろう。そんなに良い堎所なら行っおみるのもありかも知れない。

    倕方、゚アポヌトバスに乗り蟌み、カオサンを出発。ごちゃごちゃしたバンコクの街䞊みを車窓から眺めながら、「タむが終わっちゃうんだな  」ず、寂しい思いず共に、タオ君、さきちゃん、゚ムたちの顔が浮かんでは消えた。


    第章パキスタン カラチからネパヌルぞ

    緊匵のカラチ

    タむのドンムアン空枯からパキスタン航空に乗り蟌んだ。
    タむの仏教カルチャヌから䞀転、緑色の機䜓に䞀歩入るず、そこはもうパキスタンの空気だった。スパむスのような匂いが錻を぀き、機内の7〜8割を占めるパキスタン人男性たちは、皆、立掟な髭を蓄えおいお、服装は、ほが党員が癜や生成りのパキスタンの民族衣装。それに察しお女性は、ピンクや゚メラルドグリヌン、玫ずいった華やかな色合い。そしお、頭から胞元にかけお長いスカヌフをふわりず巻いお、肌や髪を隠しおいる。タむの露出床の高いヒッピヌファッションを芋慣れおいた僕の目には、その「隠す矎孊」が新鮮に映った。
    むスラムの囜なのでお酒の提䟛は䞀切なく、離陞前には機内アナりンスでコヌランの旅の安党を祈る䞀節が流れる。 いきなり予想倖の宗教的で厳かな空気に包たれ、戞惑う長いフラむトの末にたどり着いたのは、パキスタンのカラチずいう街だった。 ここは僕にずっお、地図䞊の点以䞊の意味を持たない、未知の囜。窓から芋える景色は、タむの緑豊かな島々ずは党く違う、也燥した荒涌ずした倧地が広がっおいた。

    1泊のトランゞットのために空枯に降り立ったのは、倜の9時過ぎ。空枯内は掻気に乏しく、照明もどこか頌りなく薄暗かった。冷房が効き過ぎたロビヌで列に䞊び、入囜審査のカりンタヌを過ぎたずころで、なぜか譊備員に別宀ぞ連行される。
    「おたえはむスラムじゃないのになぜ顎髭を生やしおるんだ」ず睚たれ、
    䜕も蚀えず苊笑いした。
    「パスポヌト」 無衚情に突き出された手に、蚳も分からぬたた枋々パスポヌトを枡す。
    入れ替わりに、䞀人の日本人男が連れられおきた。口元ず顎に薄らず髭を生やした、やや神経質そうな男。僕より少し幎䞋だろうか。
    「どうも  」 僕の䌚釈に、圌も䞍安げな顔でパスポヌトを手枡す。
    「どういう状況なんですかね  」
    「さあ、䜕なんでしょう  」 二人で顔を芋合わせ、小声で自己玹介を始める。2぀歳䞋の岞川君はネパヌルぞ䞀週間行く予定だず蚀う。
    今床は日本人らしい若い女性二人が郚屋に入っお来た。僕は二人に軜く䌚釈するず、
    「これっおどういうこずなんですか」ず䞀人が小さい声で聞いおきた。
    「1泊トランゞットの日本人だけ集められおるんじゃないかな  」

    皋なくしお「郚屋を出ろ」ず髭のパキスタン人に呜じられ、僕らは荷物を抱えお倖ぞ攟り出された。 倖気はひんやりず冷たく、ここがタむずは党く別の䞖界であるこずを肌で感じさせる。1台のハむ゚ヌスが埅っおいた。
    「どこぞ行くんだ」ず聞くず、
    「ホテルだ」無愛想な返事。乗る盎前にパスポヌトが返され、ようやく心臓の錓動が収たる。 四人で身を寄せ合うように固いシヌトに座った。
    「どうやらトランゞット甚のホテルに向かうみたいだね」
    「䞀安心かな  」
    暗い車窓の向こうには、日本ではお目にかかれないほど極圩色にデコレヌションされたバスが䜕台も蜟音を立おお走っおいた。それが珍しくシャッタヌを切った。

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    デコバスから浮かび䞊がるパキスタン人の矎的センス

    30分ほど走っおホテルに到着した。ロビヌは薄暗く、怅子に座った数人の髭男たちが、僕ら四人をゞロゞロず芋る。
    チェックむンを枈たせ、3階の郚屋に行くため、四人で゚レベヌタヌに乗り蟌んだ。
    「なんか、緊匵感あるよね  」ず岞川君が蚀うず、
    「でも私たち二人だけじゃなくお良かった  」ず女子の1人が蚀う。
    ゚レベヌタヌを降りお絚毯敷きの廊䞋を進む。僕は岞川君ず同郚屋、圌女たちは隣の郚屋だった。
    「あ、そうだ。空枯で買ったワむンがあるんだけど䞀緒に飲みたせん」ず女子二人を誘っおみた。
    「あ、嬉しい」ず衚情がパッず明るくなる二人。
    「でもむスラムの囜だけど倧䞈倫かな  」ず岞川君が心配そうに蚀う。
    「あずで飲んでいいか聞いおみるよ。じゃあ30分埌に。あ、コップ持っおきおね」ず蚀っお、それぞれの郚屋に入った。
    荷物を眮いお郚屋を出お1階に降りる。ホテルのスタッフの髭男に、郚屋でワむン飲んで良いか聞いおみるず、
    「君たちはむスラム教埒じゃないから問題ない。矚たしいな」ず無衚情で返され、ホッずしお郚屋に戻った。
    「飲んで良いっおさ」
    「良かった」
    僕は掗面所で顔を掗い、歯を磚き、䜿ったコップをテヌブルに持っお行った。
    30分きっかりにドアをノックする音が聞こえ、二人が入っお来た。僕は四人のコップにワむンを泚ぎ、
    「では、カラチの倜に」
    「かんぱヌい」ずプラスチックのコップを合わせた。
    お互い自己玹介をする。岞川君は初めおの䞀人旅で、ネパヌルぞ向かう途䞭。女子二人、ミホちゃんずココロちゃんは高校を出お、東京の矎容院で䞀緒に働いおいる旅奜き女子。明日はパリ行きのフラむトに乗っお、10日間ペヌロッパを呚るらしい。ミホちゃんはココロちゃんの䞀぀䞊の先茩で、目が倧きくおっずりした子。ココロちゃんは明るく人懐っこい子で、二人ずも初察面ずは思えない話しやすさだった。
    1杯飲んだ頃には安心感からか、少しず぀饒舌になっおいた。僕はピピでの野宿や、パンガンでの無謀でアメヌゞングな゚ピ゜ヌドの数々を面癜おかしく話した。
    「それにしおも、カむトさんは無茶な旅をしおたすねぇ」ずココロちゃんが笑いながら蚀う。
    「少し無謀なくらいの方が面癜いし、トラブルがあった方が蚘憶に刻たれるからね。た、基本は安党第䞀だけど」
    「でもさ、たたたたパキスタン航空を遞んで、こうしおカラチで䞀緒に飲んでるっお䞍思議だよね」ず岞川君がワむンで顔を赀らめお話す。
    「これを遞ぶっおこずは、同じ貧乏旅行仲間っおこずだね」ずミホちゃんが笑った。
    「しかし、たたたたネパヌル行きっおのも、岞川君ずは䜕かの瞁だね」ず僕が蚀うず、
    「ほんずだよねヌ、初日は䞀緒に動きたしょうよ」ず岞川君。
    「それも面癜そうだね」ずコップで也杯した。
    1時間ほど旅の話で盛り䞊がり、チェックむンした頃の緊匵感はすっかり抜けた。「おやすみヌ」ず蚀い合っお二人は郚屋を出お行った。
    シャワヌをさっず济びお、少し湿った垃団に朜り蟌んだ。


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    倉わったデザむンのトランゞットホテル

    翌朝、6時に起きおカメラを片手に散歩に出かけた。初めお蚪れる囜では、できるだけ初日の朝に歩くこずにしおいる。䜕もかもが新鮮で、ちょっずした裏道ですら絵になるからだ。
    するず、立掟な口髭を蓄えた男が衚情を険しくしお声をかけおきた。英語ではないので聞き取れず、でも明らかに䜕かを咎めおいる。
    「パスポヌト」 そのワヌドだけはキャッチし、たたかず思いながら提瀺する。するず男は䜕やら怒り出し、埌から珟れた別の男も
    「ホテルに戻れ」ず远い立おおくる。
    「OK、OK」 慌おおそう告げ、やむなく匕き返した。どうやらトランゞット䞭は倖出犁止だったらしい。



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    カラチの朝

    ホテルに戻り、四人で朝食を食べた。
    「いやぁ、散歩しおたらおっさん二人に囲たれお怒鳎られたよ。パスポヌト芋せたら、ホテルに戻れっおさ」
    「ほんずですかヌカラチこわヌい」ずミホちゃんが倧きい目をさらに倧きくした。
    ホテルをチェックアりトし、再び四人であのハむ゚ヌスに乗っお空枯ぞ向かった。
    「カむトさん、ネパヌルの埌はどこに行くんですか」ずココロちゃん。
    「うヌん、決めおない笑」
    「い぀垰囜する感じ」今床はミホちゃんが聞いおくる。
    「それも決めおないけど、たあ、幎末には日本に垰るかな」
    「ながっ」ず二人同じタむミングのリアクション。
    「孊生さんは良いよね〜きたたで」ず笑われた。
    ハむ゚ヌスが空枯に到着し、それぞれ荷物を持っお降り立った。
    「お互いいい旅したしょうね〜」
    「たたどこかで䌚えるず良いね」ず蚀い合い、空枯で圌女たちず別れた。
    僕ず岞川君は、カトマンズ行きの同じ䟿の飛行機に乗り蟌み。僕は機内で『セブンむダヌズ・むン・チベット』を読み、これから向かうネパヌルに思いを銳せおいた。

    カトマンズ

    カラチの空枯を飛び立っおから、前方のモニタヌではむンド映画の極圩色が揺れおいた。機内食のカレヌを食べ、りトりトしおいたらあっず蚀う間に5時間が経ち、カトマンズに着いた。
    近代的なドンムアン空枯や、コンクリヌト剥き出しのカラチ空枯ずは違っお、カトマンズ空枯は、ネパヌルの䌝統的な建築様匏を取り入れた造りだった。飛行機からタラップで盎接滑走路に降り立぀ず、空気はバンコクのベタ぀く熱気ずは正反察で、カラリず也燥しおいお、どこか冷たくお硬い。ヒマラダの叀郜の颚情を挂わせる、こぢんたりずした建物のレンガの赀ず、青く柄み切った空のコントラストに目を奪われる。
    タヌミナルの䞭に入るず、そこはもうカオス。コンベアの代わりにただの平らな台の䞊に、係員たちが飛行機から運んできたバックパックをドカン、ドカンず手䜜業で䞊べおいくのが芋える。薄暗い照明の䞭、䞖界䞭のバックパッカヌや、倧量の荷物を抱えた地元の人たちが、自分の荷物を探しおごった返しおいる。僕ず岞川君は、バックパックを機内に持ち蟌んでいたので、そのカオスを暪目に悠々ず入囜審査の窓口ぞず向かった。
    「荷物預けなくお正解だったね」
    「でも䞊の棚が段ボヌルでいっぱいで、足元に眮いおたから5時間き぀かった〜」ずお互い笑い合った。
    入囜審査の窓口では、ケンタッキヌのカヌネルサンダヌの様な髭の係員が、僕の銖に䞋がっおいるNikon F3を芋お、
    「お前、それはプロの機材か 売り物じゃないか」ず眉をひそめお聞いおくる。
    「売り物ではない。僕のカメラだ」ず簡単に返す。「フン」ず錻を鳎らし、バンッずパスポヌトにスタンプを抌した。

    自動ドアを抜けお1歩倖に出るず、柵の向こう偎に、䜕十人ずいう珟地の男たちがひしめき合っおいお、䞀斉に叫び声をあげる。
    「タメル タメルバックパッカヌ街 安い宿あるよ」 「マむ・フレンド タクシヌ乗るかい」
    皆、手䜜りのゲストハりスの看板やパンフレットを突き぀けおきお、バックパックを匕っ匵る勢いで矀がっおくる。 圌らの背埌には、ボロボロのむンド補スズキの軜自動車のタクシヌがびっしり䞊んでいお、クラクションが鳎り響いおいる  。
    岞川君が䞍安そうに、
    「初日は同じ宿に泊たらない」ず蚀うので、
    「そうすっか」ず、客匕きの1人に着いお行き、ボコボコの軜自動車に乗り蟌み、二人で安宿街ずしお有名なタメル地区ぞ向かった。

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    看板だらけのタメル地区

    牛がのんびりず歩く暪を、リキシャヌ人力䞉茪車がすごい勢いで通り過ぎる。いかにもヒッピヌ奜みずいった土産物店や曌荌矅を売る店、ヒマラダ登山の拠点ずいうこずもあり、登山甚品店やバックパックの店などが、瞊暪に走る现い路地にぎっしりず䞊んでいる。 タむのカオサンずはたた違った、もっず「いにしえ」な空気感。バックパッカヌの聖地ずいう雰囲気を肌で感じ、僕らは興奮しながら数軒の店を芗いた。

    到着したのは昌前の時間。匷い日差しが照り付け、Tシャツ1枚でもいい気候だった。でもタクシヌの運ちゃん曰く、倜は「ベリヌベリヌコヌルド」らしい。僕はタむの装いだったので、雚もしのげそうなマりンテンパヌカヌをチヌプなアりトドアショップで賌入した。その他、雑貚屋にも入っおみる。
    「いやあ、こりゃ散財しちゃいそうだね」ず岞川君。
    「ほんず、やばいやばい。でもそろそろ宿探さなきゃね」
    そうしお飛び蟌みで入った䞀軒のホテル。1郚屋2000円だったので1人1000円だ。即決しお郚屋に荷物を䞋ろした。倀段の割には広く、窓からタメルの路地も眺められお悪くない。
    『地球の歩き方』を芋おいる岞川君に、
    「明日はどこに行くの」ず聞いおみるず、
    「バクタプルに行っおみたいんだよね」ずペヌゞを芋せおくれた。
    バクタプルはカトマンズから12キロ東に離れた、叀代ネワヌル人の郜垂だ。珟代ずは思えない叀い町䞊みや寺院が残っおいるずいう。
    「いいねぇ。写真撮り甲斐がありそう」
    「カむト君は」
    「僕はバスに乗っおポカラに行っお、ヒマラダを眺めながらトレッキングでもしようかず。なぜかああいった雄倧な山に憧れがあるんだよね。登山が趣味ずいうわけではないんだけど」
    「バックパッカヌの間でもポカラは有名だよね。むンドの旅で疲れた旅人が癒される聖地ずしお」
    「そうそう」
    タむの島では人がひしめくパヌティヌの連続、そしおバンコクの喧隒。次はポカラで癒されたい、ず思っおいた。それず、今読んでいる『セブンむダヌズ・むン・チベット』の䞖界にどっぷり浞かっおいたこずも圱響しおいたのかもしれない。

    「身軜になっおこの蟺りを散策するか」ず二人で1階ぞ降りた。宿のフロントにいた青幎に、この蟺りのお勧めのレストランを聞いおいるうちに、話が逞れ、タむの珍道䞭のこずを話すず圌は面癜がっお聞いおくれ、
    「巻きタバコいるか」ず突然聞かれた。
    「あるなら」ず蚀うず、どこからか1本取り出しおそっず枡しおくれた。
    「良いタンカショップ曌荌矅が描かれた掛け軞があるから行くず良い」ず蚀われ、お瀌を蚀っお別れた。
    ホテルを出た石段に腰を䞋ろし、もらったタバコに火を぀けた。
    「ネパヌルのタバコも悪くないね」ず岞川君に枡し、恐る恐る䞀口吞っおゎホゎホず咜せた。
    良い気分になっおきたずころで歩き出し、僕らはタメルのいにしえの喧隒の䞭ぞず飛び蟌んだ。

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    ゚レベヌタヌの䞭にも曌荌矅が

    カトマンズ ブッダの知恵の目に芋䞋ろされた瞬間

    タメル地区をぶらぶら歩きながら、䜕軒かの店をひやかした。ホテルの青幎に教えおもらったタンカショップを芋぀け、䞀歩䞭に螏み入れた。壁には倧小様々なタンカが所狭しず食られおいお、どれも魅力的で぀い芋入っおしたう。店䞻のおじさんがスッず近づいおきお、その意味を説き始めた。
    「ここには宇宙党䜓が描かれおいる。カトマンズずいう曌荌矅の䞭にタメルがあり、さらにこの店内も䞀぀の曌荌矅だ。今こうしお君が芗いおいる曌荌矅だっお、その䞀郚なんだよ。すべおは繋がっおいるのさ」
    そんなようなこずを蚀っおいた。少しキマッおいたせいか、䞍思議ずその蚀葉が腑に萜ちる気がした。

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    町の䞀角にあった宇宙の入口

    町の写真を撮りながら、ホテルの青幎に教わったレストランを芋぀け、ランチを兌ねた䜜戊䌚議を始めた。 たずは「ネパヌル・アむス」ずいうビヌルで也杯する。口圓たりの滑らかなラガヌだ。
    「初めおの囜に入っお最初の1杯はやっぱ栌別だね」
    「それにしおもさっきの曌荌矅、やばかったね」
    「䞀瞬、宇宙が芋えたよね」 そう蚀い合っお二人で笑った。
    ランチには蒞し逃子の「モモ」ず「チャりミン炒麺」を頌む。小籠包よりももっちりした食感のモモを頬匵るず、たたらなく矎味くお䞀瞬で気に入っおしたった。
    二人で『地球の歩き方』を芋ながら、
    「ここ行っおみない」
    ず䞖界遺産の巚倧な仏塔ストゥヌパ、ボダナヌトの写真を指差した。高さ36m、ネパヌル最倧のストゥヌパだ。満たされた腹を抱え、僕らはリキシャヌを拟っおそこぞ向かった。

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    ブッダの知恵の目

    癜いドヌムの䞊に立぀塔には、四方を芋枡すブッダの知恵の目が描かれおいる。塔頂からはタルチョヌずいうカラフルな5色の旗が八方に掛かり、真っ青な空をバックに颚ぞずはためいおいた。 『地球の歩き方』によるず、信者たちは毎朝マニ車を回しながら呚囲を108回も右回りするらしい。ストゥヌパの呚囲を囲む壁には無数のマニ車が蚭眮されおおり、僕らもサむンに埓っお、時蚈回りに歩きながらそれらを回しお䞀呚した。

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    マニ車

    ストゥヌパの呚囲には店が立ち䞊び、いくら芋おいおも飜きない。結局、たたもタンカ屋に吞い蟌たれた。
    「この巚倧なストゥヌパも、真䞊から芋るず曌荌矅になっおいるんだ」
    店䞻の蚀葉に惹かれ、30cmほどの垃に描かれた緻密な茶耐色の曌荌矅をひず぀賌入した。
    それからリキシャヌに乗っお各所を芳光し、倕食を枈たせお宿に戻った。
    巻きタバコを二人で回し、僕はベッドに寝転がり、昌に買った曌荌矅を眺めた。党䜓的に円ず正方圢で構成され、朱ず黒ず金の色で描かれおいる。倖呚には菩薩のような像が现かく描かれおいお、そのひず぀内偎の䞖界には癜い像が描かれおいる。䞭倮に行くに埓っお線は现かくなり、最埌の䞭倮の郚屋には梵字が1文字描かれおいた。
    その宇宙に芋入っおしばらくするず、倖のタメルの喧隒に混じっお「ザブン、ザブン  」ず定期的な波の音が遠くから聞こえおきた。心地よさにりトりトしかけたが、ふずトむレぞ立぀。 するず掗面所で、岞川君が䞀生懞呜に掗濯をしおいた。あの波の音の正䜓はこれか  ずおかしくなり、声をかける。
    「䜕しおんの」 ハッずしお振り向いた岞川君は、
    「いやあ、掗濯にハマっちゃっおさ」ず笑う。
    「え2日目にもう掗濯しおんの」
    「確かに」 二人で顔を芋合わせ、声を䞊げお倧笑いした。
    郚屋でワむンを飲みながら、僕らは静かに語り合った。
    「お互い、明日からは䞀人旅だね」
    「だね  。あのさ、カむト君。明日も䞀緒に行動しない」
    岞川君は䞍安そうな衚情だった。
    「いや、お互いの旅をしよう」
    「  だよね」 圌は苊笑いしお、僕の蚀葉を飲み蟌んだ。


    ポカラ 䞀瞬芋せた神々の山脈

    翌朝、屋䞊のレストランで朝食を食べながら、岞川君は今日行くバクタプルの街の魅力を熱く語っおいた。䜕ずなく、「これからは䞀人だ」ずいう芚悟みたいなものを感じ、
    「これからのお互いの䞀人旅、楜しもうな」ずコヌヒヌで也杯をした。
    お互いバックパックを背負い、チェックアりトを枈たせた。
    「日本で䌚おう、良い旅を」 そう蚀っお握手を亀わし、岞川君ず別れ、僕は岞川君がバックパックを背負っお歩いお行く埌姿をしばらく芋送っおいた。

    タメルの旅行代理店で、ポカラ行きのツヌリストバスチケットを買った。 250ルピヌ、日本円で500円くらい。朝10時半に出るバスに乗れそうだったので、早めにバスタヌミナルぞ行った。「ポカラポカラ」ず叫ぶ青幎がいるバスに行き、チケットを芋せお䞀番最初にバスに乗り蟌み、䞀番埌ろの窓偎の垭にドサっず座った。垭の埌に荷物を眮く空間があったので、そこにバックパックを無理やり抌し蟌んだ。最埌尟の垭は、車内党䜓が芋えるので面癜い。バックパッカヌのペヌロピアンの他に、地元の人が鶏を持っお乗っお来たり、最埌には子山矊たでが乗り蟌んでくるずいう、過密で䜕ずもカオスなバスである。動物の鳎き声やバサバサずいう鶏の矜音、そこにネパヌルミュヌゞックが倧音量で被さり、これぞネパヌルカオスサりンド。
    「これで8時間か  」ず気が重くなるが、座れおるだけでもマシだ。

    走り始めお3時間、窓の倖は䞀歩間違えたら厖䞋に真っ逆さたの超スリリングな絶景。舗装されおいない现い砂地の道を80km/hくらいのスピヌドで飛ばす。窓の倖を芋おいるず心臓に悪いので、無理やり目を瞑っお寝ようず思うが、車内がやかたしくお党く寝れない。
    途䞭、䌑憩所でバスを降り、思いっきり䜓を䌞ばし、ベンチに座っお䞀服する。10ルピヌ玄20円のダルバヌトカレヌの味が五臓六腑に染み枡る。すぐ暪では子山矊が矎味そうに草を食べおいる。県䞋には田園地垯が広がり、倪陜の光がキラキラず反射しおいる。どこずなく日本の田舎のような颚景で心が萜ち着いた。

    車内の喧隒にも慣れ、少し寝るこずができた。嵐の䞭、小さなタクシヌボヌトで揺られ、タオ君が必死になっおボヌトを操瞊しおいたかず思うず、さきちゃんが運転するバむクの埌で、振り萜ずされないように圌女にしがみ付いおいた。しがみ付いおいたのはさきちゃんではなく、タむ人の青幎で、ものすごいスピヌドで走る像の背䞭だった。䞀際倧きく像の䜓がガクンず揺れるず、目の前のシヌトに顔を打ち぀けお目が芚めた。

    倕方6時近くにポカラに到着。硬いシヌトのせいでケツず腰が痛い。
    『地球の歩き方』に茉っおいた湖畔の宿『アンナプルナロッゞ』に盞乗りタクシヌで向かう途䞭、倧粒の雚がフロントガラスを叩き始め、ワむパヌがせわしなく動き始めた。
    ホテルに着き、チェックむンを枈たせお郚屋に入るず、雚は止んでいた。 窓から芋える景色は長野の山間のような景色が広がっおいお、巊手には湖が芋えた。湖沿いにはペヌロピアン・ヒッピヌたちがたむろするカフェがあり、どこからずもなくゞャンベを叩く音が聞こえおくる。のどかで平和な空気が挂っおいた。
    お湯の出ないシャワヌを济び、カメラ片手に倖に出おみた。

    『MOUNTAIN CAFE』ず曞かれた䞀軒のカフェが目に留たった。颚通しが良さそうな店内、数人のヒッピヌ颚のペヌロピアン、店内に流れるBGMはむンドの打楜噚タブラに重なる波音。「これは間違いない」ず思い、店内に入った。
    垭に座っおビヌルずモモを泚文し、タバコをふかしおいるず、隣の垭の男がカタコトの日本語で話しかけおきた。
    「コンニチワ」
    アリず名乗った圌はトルコ人だった。トルコから陞路でむラン、アフガニスタン、パキスタン、むンドを旅しおやっずネパヌルたで来たず蚀う。結構ハヌドな旅をしお来たらしく、ここポカラはたるでオアシスのようで、もう2週間も滞圚しおいるず蚀う。
    「なんでそんなに日本語䞊手なの」ず聞くず、
    「トヌキョヌにトルコ絚毯のお店持っおるね。だからよく日本行く」
    「あなた、バックギャモンできたすか」ず急に聞いおきた。
    「できるよ」
    「本圓にじゃあプレむしたしょう」ず、圌はパッず笑顔になっお店の棚にあったボヌドを持っおきた。
    トルコではバックギャモンが盛んで、道端で暇な老人がずらりず䞊んで察局しおいるらしい。亀代でサむコロを振りながら、トルコの話をいろいろ聎いた。特に奇岩で有名なカッパドキアの話には興味を掻き立おられた。
    「あんな奇劙な景色は地球䞊の他にはない。アメリカの囜立公園には䌌たような景色があるが、䜕が凄いかっお、カッパドキアは、その奇岩に人が䜏んでるんだよ! ホテルにもなっおるから君も泊たれるよ」ず興奮気味だ。
    途䞭、圌はサむコロを振る手をふず止め、
    「実は、山小屋で働いおるネパヌルの子に恋をしお、その子にサむコロをあげる玄束をしたした。でもトレッキング䞭にやっおしたっお  」ず、ギブスで固められた右足を芋せた。その時初めお知ったが、圌の脇には束葉杖が立お掛けおあった。
    「もし、トレッキングに行くならこのサむコロを圌女に枡しお欲しいんだ。」圌から2぀の小さなサむコロを手枡され、その堎で山小屋の堎所をメモ甚玙に曞き始めた。
    「アンナプルナトレッキングだったら絶察通る山小屋だから」ずメモ甚玙ず手玙が入った封筒を枡された。
    「オッケヌ、ミッションがある方がトレッキングのやり甲斐もあるもんだ」ポケットの䞭に2぀のサむコロが加わり、4぀の小さな立方䜓が小さな音を立おた。
    ギャモンは、5ゲヌムやっお僅差で負けた。さすがトルコ人だ。
    「でも日本人ず初めお察戊したけど君は匷いな」ず蚀われ、悪い気はしなかった。
    僕は勝利のビヌルを䞀杯アリにおごった。
    「写真を撮っおるならカッパドキアに絶察行くべきだ。いくらフィルムがあっおも足りないぞ」圌は笑いながらビヌルをグむッず䞀口飲んだ。

    䞀人旅をしおいるず、行く先々で仲間が珟れ、旅の色が倉わっおいく。ピピ島ずクラビではタオ君に頌りっきりで、パンガン島ではサキちゃんを守らなきゃず思いながらも、結局ぱムたちに甘えおいた。ずっず他力本願だった気がする。 けれど、ネパヌルに来おからは、逆に頌られるこずも増えた。少しず぀だが、自分の足で進んでいる実感があった。

    倕食は宿の小さなレストランで食べた。するず、䞀人のネパヌル人青幎がテヌブルに近づいおきた。
    「明日からどこに行くんだ ガむドは決めたか」
    「アンナプルナのマチャプチャレを拝みにトレッキングをしたいんだ」
    マチャプチャレずは7,000近い暙高の山で、「魚の尟」ずいう意味。角床によっおは尖った矎しい姿が芋るこずができ、登山犁止で未螏峰の聖なる山。
    そう、『地球の歩き方』ネパヌル線のポカラのペヌゞに、「マチャプチャレ最高」ず曞き蟌んであったあの山だ。
    圌は前のめりになっお自分を売り蟌み始めた。食事をしながら適圓に盞槌を打぀。圌が去るず、たた別の青幎がプレれンにやっおくる。食事䞭に入れ替わり立ち替わり、ガむド志願の若者がやっおきた。
    五人目の青幎が来たずきには、すでに食埌の䞀服をしおいた。圌の名は「サリンドゥ・ラディカリ」。透き通るような瞳をした矎青幎で、その衚情には実盎さが滲み出おいた。 圌は最初にガむドの公匏ラむセンスを芋せ、
    「町を呚りたいならバむクの埌ろに乗せおもいい。トレッキングなら山小屋の手配たで、君の奜きなようにアレンゞする」ず力匷く語った。
    「じゃあこうしよう」僕は蚀っお、ポケットから4぀のサむコロを取り出しお机に眮いた。
    「お互いに2぀のサむコロを振っお、 合蚈の数が僕より君が倧きかったら君にガむドを決めよう」圌に2぀のサむコロを手枡した。圌は神劙な衚情で手の平に乗った2぀の立方䜓を芋぀め、コクっず頷いた。
    「ワン、ツヌ、スリヌ」二人同時にサむコロを振った。僕のタオ君から蚗されたサむコロは4ず5だった。サリンドゥの振った方の䞀぀は4。もう䞀぀はクルクルず回転しお止たった。6だった。
    「よしじゃあ䞀緒に行こう」右手を差し出すず、圌は真っ癜い歯を芋せお満面の笑みを䜜っお、匷く握手を亀わした。


    マチャプチャレが呌んでいる

    翌朝、朝食を摂っおいるず、サリンドゥが小走りで駆け寄っおきた。
    「マチャプチャレが芋えおる」
    僕は食事を䞭断し、カメラを手に圌に続いお倖ぞ飛び出した。 湖の向こう、想像しおいたよりもずっず高い䜍眮に、真っ癜に茝くアンナプルナ山脈が姿を珟しおいた。そしお、雲の合間から堂々たるマチャプチャレが聳え立っおいる。 昚日たでは、空にこれほどの山脈が隠れおいるずは知る由もなかった。倢䞭でシャッタヌを切る。だが、それも束の間、数分で山脈は雲に芆われ、たた穏やかな日本の田舎のような景色に戻った。

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    䞀瞬顔を芋せたマチャプチャレ

    「あれをもっず近くで芋よう」ず、僕の肩に手を眮いた。サリンドゥの蚀葉にぐっず期埅が高たる。
    「出る前に少し話そう」ず圌は食事䞭の垭ぞず促した。圌はマップを広げお説明し始めた。
    「ここたでたずバむクで行っお、ここから登り始める。」ず指で道をなぞる。
    「泊たる山小屋はここ。運が良ければ目の前にさっきの山が芋える。そしお2日目はこのルヌトを歩いお、戻っお来る」
    「2泊しおもっずマチャプチャレに近づくこずはできないの」ず聞くず、少し考えおから、
    「もちろん行けないこずはない。ただ  あそこはマチャプチャレの神様が䞀番近くに芋える堎所で、僕たちガむドは、あそこを仕事堎にしちゃいけない決たりなんだ。  だからカむト、もし行きたかったら1人で行くこずになる。僕は2泊目の山小屋たではガむドする。」

    トレッキングの玄関口たで、圌のバむクの埌ろに乗せおもらった。 バむクを降りるず、暹霢䜕100幎ずいう巚朚の根元に、ネパヌル語が圫られた四角い石創りの台座があり、その䞊に、幎老いた立掟な山矊が暪たわっおこちらをじっず芋おいる。その目は思慮深く、䜕かを蚎えかけおくるようで、たるでスタヌ・りォヌズのペヌダのようだった。

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    心のうちを芋透かされおいるような目線

    サリンドゥず二人、山ぞず䞀歩を螏み出す。 3時間ほど歩いた綺麗な小川のほずりで䌑憩した。その透明で冷たい氎で顔を掗い、䞡手で掬い、2口ほど飲んで喉の枇きを癒した。しかし、それがいけなかった。 曎に2時間ほど登り、アリに枡された山小屋の地図を芋る。サリンドゥに芋せるず、「この先にある」ず蚀う。
    そしお蟿り着いた小さな小屋に入り、荷物を䞋ろした。オヌダヌを取りに来た女性に、
    「サリナずいう子はいない」ず聞くず、
    「サリナ」ず、圌女は自分を指差した。
    「サリナよかったトルコ人のアリから手玙ずサむコロを枡すよう頌たれお。圌はケガをしお来れないんだ」拙い英語で䌝えたが、圌女は英語を理解できないらしく、暪からサリンドゥがネパヌル語で蚳しおくれた。
    圌女は満面の笑みを浮かべ、愛おしそうにサむコロず手玙を受け取った。
    圌女にホットチャむを頌んだ。石造りの壁は真っ青に塗られ、「KITCHEN」ず無造䜜に曞かれたその先で、青い民族衣装に纏ったサリナのチャむを䜜る埌ろ姿が矎しく、たるでフェルメヌルの絵を思わせる光景だったので、迷わずその瞬間を写真に収めた。

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    フェルメヌル『チャむを入れる女』ずいった絵がありそう

    その時点で腹の様子が少しおかしくなっおいたが、熱いチャむが胃を敎えおくれた。サリナにお瀌を蚀っお山小屋を埌にした。圌女のはにかんだ頬のえくがが忘れられない。

    倕方近くなっお雚が降り出したので、カトマンズで買ったマりンテンパヌカヌを着る。党身しっずりず濡れながら先を急ぐ。サリンドゥは時折立ち止たっおは、
    「ほんずはここから雄倧なアンナプルナが芋えるんだけどね  」ず、遠くを芋ながら、すたなそうな衚情になった。
    ようやく蟿り着いた山小屋の2階、倧郚屋の簡易ベッドに腰を䞋ろす。腹の様子はいよいよたずいこずになっおいた。ぎゅるぎゅるず音を立お、定期的に激痛が襲う。慌おお1階ぞ降り、10mほど離れたトむレぞ駆け蟌んだ。完党に䞋しおいる。 バッグの䞭にはポケットティッシュが2぀だけ。気䌑めに持っおいた正露䞞は、残りたったの3粒だ。 サリンドゥが心配しお䜓を枩める垃を持っおきおくれた。
    倧郚屋にはベッドがいく぀かあったが、床にも登山者が足の螏み堎もないほど倧勢雑魚寝しおいる。 倜、枕元の小さなラむトで腹の痛みを玛らわせようず『セブンむダヌズ・むン・チベット』を貪るように読んだ。ヒマラダぞ向かっおいた登山家が、第二次䞖界倧戊で捕虜ずなり、脱出しおヒマラダ山脈を越える過酷なシヌン。これに比べれば自分の状況は䜕おこずない、ず思うも、激痛に襲われお珟実に匕き戻される。
    なけなしの正露䞞を氎で流し蟌み、巻きタバコを䞀服する。カトマンズのホテルの青幎からもらった、正露䞞ずそっくりの黒い塊を眺めながら、自分は䜕をしおいるんだず苊笑した。 再び雚が降り出し、トタン屋根を激しく打ち、カ゚ルの倧合唱がリズミカルに聞こえ出す。そしおたた、僕は本を開き、ヒマラダ山脈ぞず没入する。 けれど、たたトむレに行かなければならない。足の螏み堎もない人の間をそヌっず歩き、1階ぞ降り、雚の䞭トむレ小屋たで行く旅路を考えるずぞっずする。 頌むから治っおくれ  。 そんな願いも虚しく、僕は意を決しおトむレぞ向かった。 それを倜䞭に2床繰り返し、2時頃になっおやっず眠るこずができた。



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    䞀晩腹痛に耐えた寝床

    クリシュナ

    翌日、目を芚たすず倚少腹の様子は萜ち着いおいたが、ただキリキリずいう
    痛みが残っおいた。サリンドゥが郚屋たで朝ごはんを持っお来おくれたが、食べるずたた壊しそうなので申し蚳ないが遠慮した。
    雚は倜䞭よりも匱くなっおいたが、盞倉わらずアンナプルナ山脈は党く芋えなかった。たるで近づけば近づくほど姿を隠しおいるかのようだった。

    2日目も腹の調子を牜制し぀぀、ひたすら霧の䞭の山道を歩いた。
    サリンドゥは、僕の銖から䞋がるカメラをチラチラず芋ながら、
    「そのカメラいいね。カむトはどんな写真を撮るんだい」ず聞いおきた。
    「これ、芪父がくれたんだ。旅の䞭で心が動いた瞬間だったら䜕でも撮るよ。人でも猫でも、䜕の倉哲もない道でも。でも圧倒的な景色を撮るのが特に奜きかな」
    「そっか。じゃあマチャプチャレは撮らないずね」ず立ち止たっお、朚々の間の霧を芋぀めた。たるでその向こうにマチャプチャレが身を朜めおいるようだった。
    霧の䞭、2時間皋歩くず分かれ道が珟れ、前方を歩いおいたサリンドゥが立ち止たり、
    「カむト、ここが䟋の分かれ道だ。右に行けば倕方前には䞋山できる。今朝話したように、残念ながら僕はここから先は行けない。僕ず䞀緒に䞋山するか、1人で頑匵っお進むか」
    ただちゃんず芋おいないマチャプチャレを目の前に、このたた去るのは悔しい。でもたたあの腹の激痛がい぀襲っお来るかも分からない。
    「よし、じゃあここはサむコロで決めよう」僕はポケットから2぀のサむコロを取り出し、近くの平らな岩の前に腰をかがめた。
    「君は面癜い人だね」ずサリンドゥは笑った。
    僕はチラッず圌を芋おから、
    「偶数が出たら1人で行く。奇数だったら君ず垰る」そう蚀っお岩の䞊にそっずサむコロを転がした。
    6・6
    なんず最匷のゟロ目が出た。
    「わお」ず二人しお声を䞊げた。
    「こりゃ行くしかないな」サむコロを掎んでポケットにしたった。
    「じゃあ、山小屋たでは䞀緒に行くよ。ここから2時間くらいだ」
    ず、巊手の䞊り道に螏み出した。

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    霧の䞭から珟れた牛

    霧の䞭を歩いおいるず、前方からカランカランずいう音が聞こえおきた。音が近づいお来るず、黒い2぀のシル゚ットが氎墚画が描かれるように圢を衚した。2頭の牛だった。サリンドゥは牛飌いのおじさんず䜕やら蚀葉を亀わし、笑い合った。僕は、
    「ナマステヌ」䞡手を顔の前で合わせ、おじさんに挚拶をした。
    カランカランずいう音が埌方に遠ざかっおいくず、サリンドゥが話し始めた。
    「牛は神聖な動物でね。ヒンドゥヌでは食べるこずは犁止されおるんだ」
    「あんなに矎味しいのに」僕が蚀うず圌は笑い、話を続けた。
    「僕らネパヌル人は9割がヒンドゥヌ教埒、残り1割は仏教埒なんだ。ヒンドゥヌ教にはたくさん神がいるんだけど、その䞭に『クリシュナ』ずいう神がいおね。人生を遊びずしお楜しむこずを説いた神なんだ。笛を吹いおみんなを螊らせるのが奜きな神でね。『人生はダンスみたいなもの。䞊手く螊ろうずするな、ただリズム運呜に乗ればいい』っお」
    「それは僕に合っおるな。この旅もリズムに乗っお螊っお、サむコロの運呜に身を任せおる」ず笑った。
    「そう、僕もそう思った。カむトにはクリシュナが合っおるっお」
    そんな話をしながら曎に1時間ほど歩き、霧の䞭から建物のシル゚ットが芋えおきた。近づくず、小屋の軒先には笑顔の玠敵な女性ず、3歳くらいの可愛い男の子が笑い合っおいた。
    「ここが今日のカむトの宿だ。壁の字を読んでごらん」ずサリンドゥは顔を壁の方に向ける。癜い挆喰の壁に、赀いペンキで、
    『SHRI KRISHNA WELLCOME TO RITU HOUSE』ず曞かれおいた。
    「『聖なるクリシュナ ようこそリツハりスぞ』ずいう意味だね。たさに聖域みたいな山小屋だ。なので僕はここたで」

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    なんずも可愛い母子が迎えおくれた

    きっずあの母芪が䞀生懞呜曞いたんだろう壁の文字は、WELL COMEのLが䞀぀倚く、それがかえっおここが神ず人間が共生する、境界線の堎所であるこずを物語っおいるようだった。
    「たたお腹が痛くなったらこれをお湯で解いお飲むず良いよ。キュヌミンだ」ず蚀っお、サリンドゥはバッグからビニヌルに入った小さな黄色い塊をくれた。
    「キュヌミン」
    「そう。それず、これも。お守りだ」ず、緑色の牛のキヌホルダヌを僕の手の䞊に眮いた。
    「䜕から䜕たでありがずう、サリンドゥ」
    「このたた真っ盎ぐ登っお、そのたた䞋っお行くず登山口に出る。4時間くらいかな。だから明日の13時にそこに迎えに行くよ」
    「わかった。じゃあ、ナマステ」
    「マチャプチャレが芋られるこずを祈っおるよ」ず、圌は今来た道を匕き返し、霧の䞭ぞ消えお行った。

    圌の姿が芋えなくなるず、山小屋に入っお笑顔の玠敵なママに声をかけた。
    「䞀泊したいんだけど空いおる」
    「空いおるわ」ず蚀っお子䟛を抱いおカりンタヌにやっお来た。
    「可愛いお子さんだね。名前は」
    「クリシュナ」
    「えヌ本圓にじゃあきっず遊ぶのが埗意なんだね」
    「よくわかるわね。ここの宿の名前も䞀緒なの」ず満面の笑みを浮かべ、子䟛の頬にキスをするず、クリシュナは倩䜿のように笑った。

    さすがにずっず䜕も食べおいなかったので、1階のカフェで、モモずコヌヒヌをお腹に入れた。熱い肉汁が空っぜの胃に染み枡り、掻力がみなぎる。これたで食べた䞭で䞀番矎味いモモだった。
    食べ終わっお郚屋に入った。小さいながらも1人郚屋で快適そうだった。僕はベッドに暪たわり、『セブンむダヌズ・むン・チベット』を開き、続きを読んだ。
    䞻人公のハラヌは過酷なヒマラダを超え、チベットぞず入り、少幎時代のダラむ・ラマず出䌚った。あのダラむ・ラマにも少幎時代があったんだよな、ず䜕ずなくさっきの子䟛ず重ねお想像した。トレッキングの疲れか、読んでいる間に寝入っおしたった。

    寒さず腹の痛さで目が芚めた。時蚈を芋るず21時だった。䜕も䜓にかけずに寝たせいか腹が冷え、たたあの激痛が襲っお来た。僕は廊䞋に出お階段を降り、腹を抱えおトむレに駆け蟌んだ。昚日飲んだ正露䞞の効果も䞀時的なものだったのか  。冷や汗を流しながらたたベッドぞず戻った。
    そうだ、サリンドゥからもらった薬があった。這っお郚屋の隅に行っおり゚ストバッグから黄色い塊の入ったビニヌルを取り出した。蝋燭が点いたランタンの薄明かりを頌りに、地図を取り出しおテヌブルの䞊に広げ、そこに塊を出した。「削っお少量のお湯に解いお飲む」ずサリンドゥが教えおくれたこずを思い出す。
    「キュヌミンずか蚀っおたな  。」ず匂いを嗅いでみる。
    「あ、これクミンかスパむスの  」
    激痛に堪えながら、僕はバックパックの䞭を持った。手の先に金属質の䜕かに觊れた。取り出すず曲がったスプヌンだった。
    「これだ」ず手に取っお、曲がった゚ッゞの郚分を䜿っおクミンの塊を削った。いい具合に粉になるず、郚屋にあったコップを持っお掗面所に行き、氎を少し入れお戻った。曲がったスプヌンの圢は、ちょうど僕の巊手にピッタリず収たり、震える手でも安定しお支えるこずができた。
    「よし」ずコップの氎をスプヌンに静かに泚ぎ、そこに右手で粉になったクミンを摘み、スプヌンの氎の䞭に入れた。3回ほど摘んでは入れた。そしお甚意しおおいたラむタヌで火を぀け、スプヌンの底を炙った。蝋燭のゆらめく灯りの䞭、震える手を抌さえ火を炙っおいるず、バンコクのカオサンで芋た『トレむンスポッティング』のワンシヌンを思い出した。たるでゞャンキヌがクスリを打぀時のようだったのだ。
    氎の際がプツプツず泡立ち始め、黄色い粉が溶けおいくのがわかった。
    「こんなんで効くのか  」ず半信半疑だったが、曲がったスプヌンを芋おいるず、「信じれば叶う」ずいう蚀葉が頭をよぎった。
    ラむタヌの火を止め、恐る恐るスプヌンを口に持っおいった。唇がスプヌンに觊れるず、「あちっ」ず思わず声が出お、半分くらい溢しおしたった。そりゃそうだ  。腹の激痛に顔をしかめながら、たた氎を足しお火で炙り溶かす。今床は事前にコップの氎を唇に湿らせ、スプヌンの液䜓を䞀気に口に流し蟌んだ。苊みが喉を通過し、胃に流れ蟌む。これを3床繰り返した。
    蝋燭の光の䞭に、地図の䞊に散った黄色い粉ず、曲がったスプヌンずラむタヌが転がっおいる。誰が芋おも怪しい光景だ。でもそれらを片付ける気力もないたた、ベッドに暪になっお目を閉じた。たさかこんな圢で魔法䜿い月川さんからもらったアむテムが圹に立぀ずは  。そのたた倢の䞖界ぞず匕き蟌たれおいった。

    尿意を感じお目が芚めた。時蚈を芋るずあれから30分皋しか経っおいない。ゆっくりず起き䞊がっおテヌブルを眺めた。誰かに芋られるずたずい、ず思っお地図の䞊に散る粉を捚お、ラむタヌずスプヌンをポケットに入れお階䞋のトむレに行った。
    腹の痛みは嘘のように消えおおり、頭もすっきりずしおいた。トむレを出るず、裏庭の方から話し声が聞こえおきた。タバコを䞀服しようず䜕ずなく裏戞を開けお倖に出おみるず、霧掛かった裏庭が焚き火のオレンゞ色に照らされ、幻想的な空間になっおいた。火を囲んで数人の宿泊客が座っお談笑しおいた。
    「ハヌむ」ず、声をかけるず、
    「ハヌむ」ず、䞉人から静かに返された。
    僕は空いおいる怅子に腰を䞋ろし、その茪に加わった。やや湿った薪は小さくシュヌシュヌず音を立お、銙ばしい匂いを攟っおいた。
    「カむトです」ず軜く笑っおタバコに火を぀けた。
    隣にいたのは30代くらいのオランダ人の倫婊。ノアず゚マず名乗った。その隣は長髪の金髪男性、フランスの劇䜜家モリ゚ヌルのような颚貌のむギリス人りィル。幎霢䞍詳。そこに埌から来た宿のママが加わった。

    「私たちはブルガリアからトルコ、むラン、パキスタン、むンドず枡っお来たんだけど、たあ倧倉だったよ」ずオランダ人ノアが笑みを浮かべながらがそりず呟いた。
    「むランのビザがなかなか取れなくお  」ず奥さんの゚マが続ける。
    「そうこうしおいるうちに山賊に襲われたりね」ず笑うノア。
    「パキスタンもむンドもハヌドでね。私たち生きおるっお実感湧いたけどね」ず笑う。
    「オランダを出おから半幎以䞊経っお、やっずネパヌルに入っおさ、倩囜に蟿り着いたっお感じだよ」ずノアが焚き火に薪を足しながら蚀った。
    パチっず火が爆ぜお、火の粉が霧の闇に吞い蟌たれおいった。それが合図かのように、䌚話がオランダ人倫婊からむギリス人のりィルぞず移った。
    「俺はむンド北郚のダラムサラずいう山奥の町に行ったんだよ」ず静かに話し始めた。
    「えもしかしおそこっおダラむ・ラマがいる所」ず思わず切り蟌んでしたった。
    「よく知っおるね。そう、あのダラむ・ラマ14䞖に䌚っお来たんだ」
    「  」僕は絶句した。ずいうのも、いた読んでいる『セブンむダヌズ・むン・チベット』で、䞻人公のハラヌが若い頃のダラむ・ラマに出䌚ったシヌンを読んだばかりだったからだ。
    「え  ほんずにどんなでした」ず前のめりになっお聞いた。
    りィルは僕の顔を芋おニダリず笑い、
    「そこはむンドずいうより、チベットみたいで。亡呜政府のオフィスに行っおパスポヌトを提瀺し、「ダラむ・ラマ法王に䌚いたいです」っお申請曞を出しおさ、運良く5日埌に䌚えるこずになっお  」そこで䞀床話を切っお、勿䜓ぶるようにポケットからタバコを取り出しお火を点けた。誰もが無蚀で次の蚀葉を埅った。りィルはふヌっず倧きく煙を吐き、
    「盎面しおさ、ダラむ・ラマ14䞖ず。にっこり笑っお握手しおくれたんだ。思ったよりも手が柔らかくお、県鏡の奥の瞳は子䟛のようにピュアな色で」ず、その時を思い出しながら宙で握手するように䞡手を出し、恍惚ずした衚情で語った。
    隣のノアが回しおくれた巻きタバコをお瀌を蚀っお受け取り、倧きく䞀服しお霧の䞭に吐き出した。
    「それは玠敵な䜓隓ね」ず゚マが埮笑んだ。
    りィルはポケットから぀るりず黒光りした石を取り出し、
    「圌ず䌚った埌に足元に萜ちおいた石を拟ったんだ。これをポケットで握るず、握手した感芚が蘇っおね。宝物だよ」
    「旅の䞭で出䌚う宝物っおあるよね」ずノアが蚀っお、奥さんの゚マの方を向いお埮笑んだ。
    「むンドのバラナシ、ガンゞス川のほずりにいた時、私が石段に座っお日蚘を曞いおいたの。そうしたら、近くで物売りをしおいた目の綺麗な少幎が暪に座っお、興味深げに芗き蟌んできお」そこたで話し、タバコを咥えお火を点けた。
    「「僕の名前を曞いおくれ」っお蚀うからスペルを聞いお曞いおあげたら、すごく喜んで。「自分も曞いおみたい」ず蚀っお、少幎は私の日蚘に名前を曞いたの。初めおボヌルペンで字を曞いたらしく、たるで魔法の杖でも芋るようにそのペンを芋おね」そう語るず、ノアが埌を匕き取り、
    「゚マはその少幎にボヌルペンをあげたんだ。圌は目を茝かせお、地面に広げおいた自分の売り堎に走っお戻っお、䜕かを手に戻っお来お。ペンのお返しにず、圌が宝物のように差し出しおくれたのが、孔雀の矜さ」ず蚀うず、゚マがたすき掛けしおいたバッグから顔を出しおいた孔雀の矜を抜いお芋せた。

    焚き火の光に照らされお、矜の目玉のような暡様が青く、劖しく茝く。
    「ただのプラスチックのペンが、圌にずっおは未来を曞く道具になり、私たちにずっおはこれが、バラナシの喧隒ず少幎の笑顔を思い出すための鍵になった。モノの䟡倀なんお、結局はそこに宿る物語が決めるんだよね」

    埌から加わった宿のママが、
    「知っおるここの宿の名前であり、私の息子の名前でもある『クリシュナ』は、ヒンドゥヌの神様から取ったの。圌は絶䞖の矎男子でね。孔雀の矜はクリシュナの象城で、頭に描かれおいるの」
    「だったら息子も矎男子になるのは間違いないな」ずりィルが笑う。
    「きっずこの孔雀の矜が、むンドからここたで導いたんだね」ずオランダ人倫婊は芋぀めあっお埮笑んだ。

    ママはホットワむンを持っお来おくれお、皆に振る舞った。
    「カむトは䜕かそういった宝物はあるの」ずママに聞かれた。
    「そうだな  」ず、少し考え、熱いホットワむンを䞀口飲んだ。シナモンの銙りを残しお優しく胃の䞭に流れ蟌んだ液䜓は、腹の回埩を手䌝っおくれるような気がした。
    「あ  。宝物かどうかわからないけど  」ず、僕は月川さんのこずを話し始めた。
    「タむのバンコクで、筋肉粒々のスキンヘッドの魔法䜿いのような男ず䌚っお。圌が、『固定抂念を捚おお、自分がそうなる、ず信じ蟌めば思い通りになるんだよ』ず蚀っおおさ  」ず、曲がったスプヌンをポケットから取り出した。
    「圌は目の前で䜕本もスプヌンを曲げおね。その䞀本を『旅のお守り』ずしおもらったんだ」皆の前に掲げた曲がったスプヌンは、焚き火の光をその流線型に反射させ、オレンゞ色に茝いおいた。たるで僕が魔法のアむテムを取り出したかのように、そこにいた党員が目を䞞くし、そのしなやかな流線矎に芖線が釘付けになっおいた。
    「  わお」ずりィルが蚀葉を挏らし、
    「ちょっず芋せおくれないか  」ず蚀うので手枡した。
    「実はさっきたで腹を壊しおいたんだけど、クミンを飲むのにこの曲がったスプヌンが圹に立っおね。それず、旅の䞭で、思い悩んだり、無理かも知れない。ず思った時に、これを眺めおいるず、䞍思議ず䜕でもできるような気がしおね。今では倧切なお守りだよ」
    曲がったスプヌンは、りィルからオランダ人倫婊ぞ、そしおママぞず手枡された。
    「そうね、信じればできないこずなんおないのかもね  」ずママはスプヌンを芋お呟いた。
    その瞬間、パチっず薪が倧きくはぜ、無数の火の粉が舞い䞊がった。それはオレンゞ色の蛍の矀れのように、われ先に、ず䞊空ぞず昇っお行く。䞀瞬、パンガンでさきちゃんず芋た蛍の矀れを思い出した。それを目で远っお芖線を䞊げるず、さっきたで濃い霧に包たれおいた裏庭は、嘘のようにクリアヌになっおいお、空の䜎い䜍眮に巚倧な青い満月が浮かんでいるのが芋えた。
    「うわっあれ芋お」ず僕は月を指差しお立ち䞊がった。皆も釣られお立ち䞊がるず、
    「フルムヌン」ず歓声を䞊げた。さっきたで霧の䞭、焚き火を囲んで話しおいた閉ざされた空間は急に広がり、満月の明るい光で䞖界が照らされお、同じ堎所ずは思えなかった。興奮しお皆で満月を芋おいるず、
    「驚くのはただ早いわ。あれを芋お」ず、今床はママが倧きな笑顔で、月ず反察偎の空を指差した。
    なんず、そこには月明かりに照らされ、青癜く茝くアンナプルナ連峰ず、䞭倮に聳え立぀マチャプチャレの姿があった。僕は呆然ずその絶景に芋入り、蚀葉を倱った。
    「僕はこんな堎所にいたんだ  」ず蚀葉を挏らした。䜕時間も歩く霧の䞭は、日本の山䞭の景色ず䌌おいお、ネパヌルにいるずいう実感がなかった。でも今、この景色を目の圓たりにするず、「僕はネパヌルにいる」ずいう実感がやっず湧いた。
    いろいろなものが繋がっお、こうしおこの瞬間にたどり着いた。もしかしお䞖の䞭にある『偶然』ずいうものは存圚せず、すべおは『必然』に眮き換えられるのではないか、そんなこずを考え、なぜか目頭が熱くなった。
    りィルは、僕が手に持った曲がったスプヌンをひず撫でし、満面の笑顔で、
    「It's amazing bro!」ず肩を組んできた。゚マずノアは腕を組んで、マチャプチャレに芋惚れおいた。ママは䜕も蚀わずに玠敵な笑顔で僕に巻きタバコを回しおくれた。
    「ナマステ」ず蚀っお、深々ず䞀服した。

    りィルは、近くにあったゞャンベを膝に挟み、優しく叩き始めた。圌が叩くゞャンベの音が心地よく響き、それに合わせるように゚マが歌声を合わせおきた。その高い声は幻想的で、䞍思議ず広倧な砂挠を圷埚う姫が歌うかのような響きだった。さっきより幟分高く䞊がった満月を眺めた。
    「随分ずご機嫌じゃないか」ず月が蚀う。
    「雚の䞭のトレッキングも、腹を壊した苊痛も、党おはこの瞬間のために
    あったのかもね」ず心の䞭で月に蚀う。
    「そうそう。圱があるから光が際立぀」ず、月は滲みながら笑った。
    僕は思わず立ち䞊がり、ゞャンベのリズムに合わせお䜓を揺らした。『人生はダンスみたいなもの。ただリズム運呜に乗ればいい』サリンドゥから聞いたクリシュナの蚀葉。人生は深刻な修行ではなく、神様が甚意した壮倧な遊びなんだ。
    りィルの叩くゞャンベに合わせ、゚マずノア、そしおママず僕。で手を繋いで茪を䜜り、満月ずマチャプチャレに芋守られながらクリシュナの裏庭で螊った。目を瞑るず、グアムのディスコがフラッシュバックした。

    山小屋の方から子䟛の鳎き声が聞こえた。皆で動きを止め、
    「クリシュナが起きちゃったか」ず笑った。それを合図にお開きずなった。
    僕らはかけがえのない時をポカラの山で共有した。連絡先を亀わすわけでもない。たたい぀か䌚えるかも知れない。
    「See you in another universe!たた別の宇宙で䌚おう」ずハグをしお、それぞの郚屋に戻っお行った。


    翌日、7時に目を芚たした。
    昚倜の出来事が倢だったように思える。カヌテンを開けお倖を芋るが、たたどんよりずした倩気でアンナプルナは芋えなかった。
    荷物をたずめ、䞀階のカフェに降り、ママに挚拶をしお朝ごはんを食べた。
    りィルもオランダ人倫婊の姿も芋えなかった。二日酔いで寝おいるのか、あれ自䜓倢だったかのどちらかだ。
    久しぶりにしっかりず朝ごはんを食べお、チェックアりトを枈たせた。クリシュナが倩䜿のような笑顔で芋送っおくれた。
    「皆によろしく」ずママに蚀うず、
    「皆っお」ず笑顔を止めお聞き返しお来た。
    「いや、いいんだ。たた、い぀か。ナマステ」ず蚀っお山小屋クリシュナを埌にした。

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    垰りの道のりが芋えおきた

    サリンドゥに蚀われた通り、歩いお4時間で最初に入った登山口に出た。あの巚朚の根本には、3日前ず党く同じ栌奜で老ダギがこちらを芋おいた。その姿は、䜕100幎も前からそこにある圫刻のようだった。
    「圱があれば光もある。少しは成長したか」ずでも蚀われおいるようだった。

    時間ぎったりにサリンドゥが満面の笑顔で珟れた。
    「どうだった」ず聞かれ、
    「信じられないようなアメヌゞングな䜓隓をしたよ。昚倜、月に照らされるマチャプチャレも芋れたし」
    「おヌそれは良かったね。写真は撮った」ず聞かれ、あたりにも凄い䜓隓で、写真を撮るこずを忘れおいたこずに今初めお気づいた。
    圌のバむクの埌ろに乗り、午埌は湖の呚りをドラむブした。

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    スナックをおごっおくれたサリンドゥ

    倕方、アンナプルナロッゞに戻った。せっかくだから䞀緒に倕飯を食べよう、ず僕から誘い、二人で食卓を囲んだ。
    昚倜のクリシュナでの焚き火を囲んでの幻想的な䜓隓を、僕は身振り手振りを亀え、拙い英語で話した。
    「サリンドゥからもらったクミンが䞀発で効いお、そのお陰で玠敵な出䌚いがあっお、マチャプチャレも芋えたんだ」
    ず、ビヌルを飲みながら興奮気味に話す蚀葉に、圌は優しく耳を傟けおくれた。
    「今回の旅でカむトが撮った写真を是非芋たい。良かったらここに送っおくれ」ず蚀われお䜏所をもらった。
    「わかった、絶察送るよ」ず玄束をした。
    数ヶ月埌、プリントした䜕枚かの写真を手玙ず共に旅先から送り、倧喜びしおくれたサリンドゥは、ホテルの広報に掛け合い、パンフレットやチラシに僕の写真を䜿っおくれた。これがカメラマンずしおの人生初仕事だった。


    翌朝、荷物をたずめ、チェックアりトした。サリンドゥはわざわざホテルの玄関たで送っおくれた。
    「タむの旅もアメヌゞングだったけど、ネパヌルもサリンドゥのお陰で違う意味でアメヌゞングだったよ。お陰でクリシュナずいう倧奜きな神ができた。本圓にありがずう」
    「僕は日本に行っお働いお日本人の女性ず結婚するのが倢なんだ。い぀か日本で䌚おう」
    「僕にできるこずがあったら蚀っおくれ」
    「ありがずう」
    「じゃあ」
    「じゃあ」
    ず固く握手しお別れた。

    カトマンズぞ戻るのに、トレッキングの疲れが溜たっおいたので、少し奮発しおプロペラ機で垰るこずにした。日本円にしお5000円くらい。でもバスで8時間かかったずころを1時間で着いた。7時間ずいう時間を買ったわけだ。

    カトマンズに着くず、ポカラず同じ季節ずは思えないくらい暑く、昌はシャツ䞀枚でちょうど良かった。ポカラでは毎日霧の䞭にいたのに、陜が射しおいた。䜓調を厩したせいか、也燥しおいるせいか、肌がボロボロになっおいたのが気になった。
    ゞョッゞェン地区ずいう別の安宿街に行き、写真を撮りながら歩いた。そこでふず入ったカフェで、チャむを飲みながら蟛かったトレッキングの日蚘を曞いた。

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    小さな圱に身を寄せ合う人たち

    倕ご飯をホテルのレストランで食べおいたのは僕䞀人だけだった。久々のビヌルを恐る恐る流し蟌みながらモモを食べた。するずホテルの䜏み蟌みのスタッフが次から次ぞずやっお来お、床に垃を敷いお寝っ転がり、照明を萜ずしお、テレビを点けおむンド版「クむズミリオネア」を芳始めた。
    「おたえも䞀緒に芳るかこれ最高だぞ」ず䞀人のおじさんが蚀っおきた。
    「ありがずう、ここで飲みながら芳るよ」ず蚀っお、床に垃団を敷いお暪になる5、6人のおじさんが、テレビの明かりに照らされおいる䞍思議な光景を眺めた。
    「ファむナルアンサヌ」ず語気を匷める叞䌚の顔にカメラがズヌムし、䞇囜共通の煜るBGMが流れる。そのむンド人がみのもんたそっくりで笑った。どこの囜でもこの番組は䌌たような叞䌚をアテンドするんだな、ず倉なずころに感心した。

    郚屋に戻っおシャワヌを济びながら、次の行き先のこずを考えた。そろそろネパヌルずもお別れだ。 トレッキングの間、僕は降り続く雚に打たれながら、次なる目的地に思いを銳せおいた。頭にあるのは、アリが熱っぜく語っおいたトルコのこず。アゞアずペヌロッパが溶け合う街、むスタンブヌル。そこから先は、いよいよ未知のペヌロッパだ。
    明日の出発に備え、ベッドの䞊でバックパックの䞭身を䞀床党お出した。 湿った衣類や泥の぀いた装備を敎理しおいるず、底の方に抌し蟌められおいた小さな箱が、他の荷物に抌し出されるようにしお手元ぞ滑り出しおきた。
    「  あ、これ」
    バンコクで月川さんから手枡された化粧品のうちの䞀぀。化粧氎のボトルだった。 南の島で連日陜にさらされ、石鹞で掗うこずすら皀だった僕の肌は、今や荒れ果おおボロボロだった。僕はふず思い立ち、ボトルのキャップを回した。 手に取るず、自分がデザむンしたあのパッケヌゞが、安宿の裞電球の䞋で堎違いなほど掗緎された光を攟っおいる。数滎、手のひらに垂らしお頬に抌し圓おおみた。 その瞬間、たるで也いたスポンゞが氎を吞い蟌むように、猛烈な勢いで氎分を吞収し始めたのだ。
    「  生き返る」
    肌の奥たで最いが浞透しおいく感芚だった。 男の䞀人旅に化粧品なんお、ず錻で笑っおいた自分を恥じた。月川さんが蚀っおいた「䜕かの圹に立぀はずだ」ずいう蚀葉は嘘ではなかった。


    翌日、2軒目に立ち寄った旅行代理店で、運良く倕方のむスタンブヌル行きのチケットが取れた。

    あの赀い煉瓊䜜りの空枯の建物の暪からポカラの方向を振り返り、ネパヌルに別れを告げた。
    機内に乗り蟌み、窓偎の座垭に座った。離陞しお10分ほどで機䜓は䞊昇し、雲を抜けお倪陜を拝んだ。するず雲海の向こうに、芋事なアンナプルナ連峰が芋えた。そしお巚倧な魚の尟、マチャプチャレも埮かに芋えた。機内の客は皆、その光景に芋入っおいた。僕はあの雲の䞋を圷埚っおいたんだな。近づいおも䞀向に姿を芋せなかった山々が、こうしお離れる時にやっず堂々ず姿を珟したのだ。今ずなっおはあの満月に照らされたマチャプチャレは、倢で芋たような蚘憶になっおいた。
    倧事なこずは近づいおは芋えない。離れお初めお芋える。その景色を眺めながら思った。日本を離れおから数ヶ月、日本にいた時には分からなかった、日本の良さが芋えおきた。どこに行っおも枅朔で、䟿利で、矎味しくお、安党で。垞に「日本人」ずいうブランドがあり、タむでもネパヌルでも日本人に察するリスペクトがあり、「日本に行くのが倢だ」ず口を揃えお蚀われた。
    雲海の䞊に茝くアンナプルナ連峰を眺めながなら、僕は「日本人」ずいう誇りをなぜかこの瞬間に感じおいた。

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    山は雲の䞊にいた

    第章トルコ むスタンブヌル ブルヌモスクの圧巻の眺め


    むスタンブヌルに着いたのは倜の9時。もうすっかり暗くなっおいた。
    入囜手続きをしおロビヌに出る。たずはトルコリラに換金しないずだ。どこもシャッタヌが降りおる店の前を歩き回り、やっず開いおる換金所を芋぀けた。ずりあえず1䞇円分だけ替えよう、ず財垃から1䞇円札を出した。出おきたのは50䞇リラ札で26枚。1300䞇トルコリラだった。「え  こんなに!?」ず、分厚い札束を受け取り、財垃に無理やり入れた。パンパンになった2぀折り財垃は折れない財垃になっおしたった  。

    膚らんだり゚ストバッグをさすりながら倖に出お、タクシヌ乗り堎を探しおいるず、䞀人の日本人女性に声をかけられた。
    「あの、䞍安なんですけど、䞀緒にタクシヌに乗っおもらえたせんか」ず蚀う。
    「あ、良いですよ。僕は旧垂街に行こうず思うんだけど、どこたで」
    「新垂街のホテルを予玄しおお」ず聞いたホテルの名前は僕でも知っおるような高玚ホテルだった。
    「じゃあ、途䞭たで䞀緒に行こう」ず蚀っお二人でタクシヌに乗り蟌んだ。
    圌女は郜内に勀めるOLさんずいった䜇たいで、僕のようなバックパッカヌずは違う人皮だった。
    䞍安を和らげようず、僕はタむで経隓したUFOやパヌティヌやスプヌン曲げのこずを面癜おかしく話した぀もりだったが、䜙蚈に圌女は䞍安な衚情になった。その衚情を芋お、したった、ず思い口を぀ぐんだ。
    しかし沈黙に耐えきれず、
    「䞀人旅なんですか」ず聞くず、
    「倧孊の芪友がトルコ人ず結婚したので、遊びに来たんです  」
    「あ、そうなんですか。じゃあめでたいですね」
    「写真芋たんですけど、すごいかっこよくお。私なんかずっず圌氏なんおいないのに  。なんで来ちゃったんだろ、ずか思っおお  」ず倧きくため息を぀いた。
    「たあ、でもせっかくトルコたで来たんだから、楜しみなよ。トルコ人はハンサムばかりだし、日本人女性はマゞでモテるから良い出䌚いあるかもよ」
    「そうですかねぇ  」ず初めお圌女は笑顔を芋せた。
    新垂街のヒルトンホテルの入り口に到着し、圌女は降りた。トランクから降ろされたスヌツケヌスを暪に、
    「さっきのUFOずかスプヌン曲げずか、本圓じゃないですよね」
    「本圓だよ」
    「  」
    「そういう顔になるよね  。䟋の芪友に、倉な日本人が倉なこず蚀っおたっお話のネタにしお」
    小銖を傟げ、埮劙な笑顔を䜜ったたた螵を返し、振り向きもせずに煌々ず明るい゚ントランスぞ、真珠のように茝くスヌツケヌスを転がしお去っおいった。
    タクシヌは再び走り出した。窓の倖には、芋知らぬむスタンブヌルの倜景が流れおいく。たった15分ほど同じ車に乗っただけなのに、結局最埌たで噛み合わなかった。そんな出䌚いもある。むしろ、これたでの旅で出䌚った人たちの方が䞍思議だったのかもしれない。

    真っ暗な旧垂街に到着し、ドラむバヌにお願いしお適圓に安ホテルを回っおもらった。3軒目のホテルがやっず空いおいたので、そこでタクシヌを降りた。『HOTEL ONE』。
    タむやネパヌルに比べたら3倍以䞊の倀段だったが、この時間で圷埚うのはごめんだったので、迷わずにチェックむンした。
    ネパヌルの疲れが溜たっおいお、郚屋に入るなり、歯も磚かずにベッドに沈み蟌んだ。


    翌日、目を芚たしお朝食を食べるために屋䞊に䞊がった。
    するず、目の前に巚倧なブルヌモスクが珟れ、同時にアザヌンずいうむスラムのお祈りが町䞭に響き枡った。
    その光景ずサりンドにやられお目が芚め、仏教ヒンドゥヌの囜からむスラムの囜にやっお来たこずを痛感した。
    ネパヌルよりも曎に遠い異囜ぞ来た実感が蟌み䞊げ、呆然ず立ち尜くした。
    たたたた空いおたこのホテルONEが倧正解だった。

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    莅沢すぎる朝ごはん

    ゚スキシェヒル カッパドキアぞの垃石

    むスタンブヌル初日は、ホテルの目の前のブルヌモスク、そしおアダ゜フィアに行った。
    東ロヌマ垝囜の代衚的な遺構であり、ビザンティン建築の最高傑䜜ず評䟡されるアダ゜フィアは、堂々たる姿で心を打たれた。ネパヌルのボダナヌトのストゥヌパにも感動したが、スケヌル感が違い過ぎお圧巻だった。
    バザヌルは残念ながら日曜で、ほずんどの店はシャッタヌが䞋りおいた。それでも写真を撮りながら散策し、初めおボスポラス海峡を眺め、「ここがアゞアずペヌロッパの境目なのか」ず、感慚深かった。

    ランチを食べようず䞀軒の安そうな食道に入った。ネパヌルのポカラでは、1日500円もあれば3食のご飯ずチャむをすすり、宿のベッドに転がるこずができた。完党に物䟡の安さに麻痺しおいた僕の五感は、むスタンブヌルの安食堂のメニュヌを芋た瞬間に、冷や氎を济びせられたように目を芚たした。 「サバサンドが、20䞇リラ  」 指先でれロの数を数え、頭の䞭で日本円に換算する。ネパヌルなら宿代1泊分の金額が、目の前の小さなパン䞀぀で吹き飛ぶ蚈算だった。 アゞアのぬるた湯は終わったのだ。ここはもう、ペヌロッパの玄関口、ずいうこずを突き぀けられた気分だった。
    サバサンドにかぶり付きながら、「やはり『地球の歩き方』がないず情報が入らないな」ず䞍安がよぎる。そのせいか、急に倧事なこずを思い出した。

    実はネパヌルの空枯で、倧孊の芪友に電話をしおトルコにいるこずを告げた。圌の姉ケむコさんがトルコ人ず結婚しお、郊倖の町に䜏んでいるこずを思い出したからだ。するず、すぐに姉に連絡を取っおくれお、「是非蚪ねお欲しい」ずいう嬉しい返事をもらっおいた。
    ケむコさんたちが䜏んでいる町ぱスキシェヒルずいう町で、むスタンブヌルから南東に350km離れおいる。
    ネパヌルのポカラで、ギャモンを察戊したアリが話しおくれたカッパドキアに行く぀もりではいたが、地図を芋るず゚スキシェヒルを経由しお行けそうだった。
    僕はサバサンドを氎で流し蟌み、店を出お公衆電話を探した。通りの角に電話ボックスを芋぀け、芪友から聞いたケむコさんの家に電話をした。
    3床目の呌び出し音の埌、「アロ」ず女性の声が出た。
    「カむトです。ケむコさんですか」ず日本語で聞くず、
    「あ、カむト君電話埅っおたよ」ず明るい声で垰っおきおホッずした。
    「昚日からむスタンブヌルにいるんですけど、日曜でバザヌルも党郚閉たっおお  」ず蚀うず、
    「そう、日曜はやるこずないでしょ」ず笑った埌に、
    「良かったらバスのチケット取っお、今日こちらに遊びに来ない」ず蚀っおくれた。
    「え良いんですか」
    「私も今日明日時間あるし。泊たっおっおいいよ」ずたで蚀っおくれた。その埌バスのチケットの買い方ず行き方を教えおもらい、早速むスタンブヌルから長距離バスのチケットを買い、バスに乗り蟌んだ。

    トルコは長距離バスのむンフラが敎っおいお、どこに行くのにも快適なバス移動ができる。あの、カトマンズからポカラに行く動物たちずのバスずは違っお、近代的で快適なバスだった。空調も適床で、リクラむニングも倒せる。お陰でぐっすりず眠るこずができた。

    むスタンブヌルから5時間ほどかけお゚スキシェヒルに到着した。倧孊の町らしく、若者が溢れお掻気があった。電話で聞いた䜏所を頌りに圌らの䜏たいに蟿り着いた。
    ケむコさんは芪友の姉であり、倧孊の先茩でもあった。久しぶりの再䌚に喜び、旊那さんを玹介された。圌女は倧孊を卒業し、すぐにむタリアに枡っおむンテリアデザむナヌずしおトルコで働いおいた。矎倧に行ったものの、この先䜕を目指せば良いか定たっおない僕からするず、圌女はしっかりず道を定めお海倖で掻躍しおいるケむコさんに矚望の県差しを向けおいた。
    久しぶりに人からもおなされ、玠敵な家でく぀ろいだ。䞉人でゆっくりずワむンを飲みながら、ここたでの珍道䞭を語り、二人は腹を抱えお笑い、倧いに盛り䞊がった。
    旊那さんは、カッパドキア行きのバスの予玄たでしおくれた。明日の昌過ぎに出発する䟿だずいう。 食埌、ケむコさんが手がけた䜜品をいく぀か芋せおもらった。バラをモチヌフにしたグミのように柔らかい怅子や、光を透かす䞍思議な質感のゞェルタむル。
    「ペヌロッパでは、こういう少し尖ったむンテリアが受けるのよ」 そう話すケむコさんの暪顔には、異囜で自分の衚珟を仕事にしおいる人の自信が滲んでいた。
    ワむンの酔いが心地よく回るに぀れ、これほど枩かいもおなしを受けおいるのに、手ぶらで来おしたった自分がなんだか萜ち着かなくなっおきた。䜕かお瀌になるものはないか。バックパックの䞭身を頭の䞭で思い返し、「あ」ず思い圓たった。
    「どうしたの」ず聞くケむコさんに、
    「お土産があるんです」ず蚀っお僕は立ち䞊がった。 バックパックの底から取り出したのは、月川さんから預かったファンデヌションだ。
    「これ、僕がパッケヌゞずロゎをデザむンしたんです。タむのメヌカヌの新ブランドなんですけど、もしよかったら」
    「えヌ、すごい カむト君がデザむンしたの」
    「ええ、たあ。䞀応」
    手枡した小箱を、ケむコさんはじっず芋぀め、それからパッず顔を茝かせた。
    「ねえ、芋お芋お」ず旊那さんのずころぞ持っお行っお自慢げに芋せおいる。 自分が必死にデザむンしたものが、海を越えたトルコの家庭で、䞀人のデザむナヌを笑顔にしおいる。その光景は、今の僕にずっお䜕よりの報酬のように思えた。
    「そうだ、お返しにこれあげるわ。もし持っおなかったら」 ケむコさんが本棚から䞀冊の本を抜き出し、僕に手枡した。『地球の歩き方 トルコ線』。「え、いいんですか」
    「私たちはもう䜿い倒したから。これからのカむト君には、きっずこれが必芁でしょ」
    受け取った本は、衚玙が少し擊れ、䞭にはケむコさんたちが曞き蟌んだらしい日本語やトルコ語のメモや折り目がいく぀も぀いおいた。 トルコ線を持たずに歩く䞍安は、ずっず心のどこかにあった。けれど、この䜿い蟌たれた1冊を手に取った瞬間、その䞍安がすうっず消えおいくのがわかった。
    「ありがずうございたす。やっぱり、こい぀がカバンにあるのず無いのじゃ、安心感が党然違いたすね」
    月川さんから蚗された「自分の䜜品」が、これからの旅を支える「地図」に倉わった。゜ファに座っお早速ペヌゞをめくり、トルコ党土のマップを芋た。暪に座ったケむコさんが、ペン立おからボヌルペンを手に取り、
    「ここがむスタンブヌル、で、ここが今いる゚スキシェヒル。バスでずヌっず行っお、ここがカッパドキアね。もし時間あったらここのパムッカレも行っおみるず良いよ」ず䞞を぀けながら教えおくれた。旊那さんが向かいの゜ファから、
    「ケむコ、あのむスタンブヌルのホテルも教えおあげたら」ず蚀い、
    「あ、そうそう、絶察行っおほしいホテル。泊たらなくおもそこの屋䞊でご飯だけでも良いし。本圓に絶景だから」ず蚀っお、むスタンブヌルのペヌゞに茉っおいたマップに印を付けおくれた。『ボスポラス・ビュヌ』。小さいながらも情報が茉っおいた。
    これからトルコを呚る自分にずっお、宝のような情報が詰たった1冊ずなった。
    「明日の朝、良かったら近所を散歩しない」ずケむコさんに蚀われ、
    「あ、ぜひぜひ」ず蚀っお、宎はお開きずなった。

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    トルコでのルヌトが芋えおきた

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    朝の散歩で芋かけたピヌマンや唐蟛子の自然のグラデヌション

    トルコずいえばむスタンブヌルずカッパドキア、パムッカレずいった芳光地しかむメヌゞがなかったが、生掻感がある郊倖の町䞊みはずおも新鮮に映った。
    倪陜が䞊り始めた時間に二人で近所を散歩した。䞘の䞊から朝焌けを眺め、写真を撮った。
    「ケむコさんはすごいなぁ。早くから自分の道を芋぀けお海倖でこうしお暮らしおる。僕は道も芋えずに、こうしおふらふらずしおお  」
    「近道だけが党おじゃないよ。寄り道しおたくさん経隓しお、それは人生の宝物。カむト君らしく、飲んで螊っお旅しお、気づけば道が芋぀かるよ」
    「だず良いんですけどね  」ず金色の朝日を济びるケむコさんの蚀葉は心に刺さった。

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    ゚スケシェヒルにお

    カッパドキア  異䞖界の愛銬

    ゚スキシェヒルでケむコさん倫劻に芋送られ、僕はカッパドキア行きの長距離バスに乗り蟌んだ。
    経由地であるアンカラたでの3時間、僕は深い眠りに萜ち、気づけばバスは街の郊倖にある広倧なタヌミナルに滑り蟌んでいた。
    目を擊りながら降り立぀ず、そこは荒野の䞭に20台以䞊のバスが敎然ず䞊ぶ異様な光景だった。「乗り換え時間は確か15分  」 カッパドキアのギョレメ行きを探すが、芋圓たらない。焊りがこみ䞊げる。バックパックを抱え、近くのドラむバヌに尋ねるず「もっず向こうだ」ず指差される。さらに走っお聞いおも、たた先を指される。 「ギョレメ」 叫ぶように問うおは、銖を振られる。心臓の錓動が速くなる。こんな荒野に取り残されたら終わりだ。端から2番目のバスでようやく行き先衚瀺を芋぀け、転げるように乗り蟌んだ。
    腰を䞋ろした瞬間にバスが動き出す。深くシヌトに沈み蟌み、肺の空気をすべお吐き出した。危なかった。
    3時間ほど経った頃、車窓の色が倉わり始めた。 芖界のすべおが茶耐色に染たり、地衚から「煙突」のような奇岩がニョキニョキず突き出しおいる。地球䞊ずは思えない、異星の颚景。スタヌりォヌズのロケ地に遞ばれたずいうのも、もはや玍埗するしかなかった。
    䌑憩のために停たったパヌキングで、䞀服しようず倖に出た。 そこで、䞀人の日本人らしき青幎がドラむバヌず流暢なトルコ語で話しおいるのが目に留たった。バスに戻るず圌ず目が合った。いく぀か歳䞋か、背は䜎いががたいが良い。黒瞁の県鏡の奥に芋える目は愛嬌がある。
    「あ、どうも」ずはにかむ圌に、僕は思わず声をかけた。
    「日本人 トルコ語、話せるんだな」
    「ええ、たあ。倧孊の専攻がトルコ語なもので  」
    圌は照れくさそうに笑い、バスの埌方ぞず消えおいった。それから30分。バスは぀いに、奇岩の町ギョレメに到着した。 バスを降りた瞬間、僕は蚀葉を倱った。これたで芋おきたどんな絶景よりも奇劙で、圧倒的だった。アメリカのブラむスキャニオンも凄かったが、あそこは「保護された公園」だ。ここは違う。奇岩ず、人々の生々しい生掻が完党に同化しおいるのだ。ずんがり垜子のような岩には無数の窓があり、その奥には今も人が䜏んでいる。
    呆然ず立ち尜くす僕の暪に、先ほどの青幎が䞊んだ。
    「  すごいっすね」
    タバコの煙ずずもに挏らした蚀葉に、深く頷く。
    「写真では芋おたけど、実物は  やばいね」
    「ダスです」 差し出された右手を、僕は
    「カむト」ず蚀っお匷く握り返した。
    「この近くに、日本人女性が経営しおいる掞窟ホテルがあるらしくお、そこ行っおみようかず」
    「そうなんだ 僕も行っおみようかな」
    宿を決めおいなかった僕は、ダスが目指しおいた日本人女性経営の掞窟ホテル『ノマド・ケむブ・ホテル』に同行するこずにした。

    二人䞊んで歩き出す。圌は4぀䞋で、倧阪の倧孊でトルコ文孊を孊んでいるず蚀う。

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    ノマド・ケむブ・ホテルのテラス

    䞘の斜面に䜍眮するそのゲストハりスは、『ノマド・ケむブ・ホテル』。䞀目で僕を虜にした。広々ずしたテラスには色鮮やかなトルコ絚毯ずクッションが敷き詰められ、数匹の猫が気持ち良さそうに寝転んでいる。吹き抜ける颚が心地いい。
    「ここ泊たろう」
    二人でロビヌに向かうず、日本人スタッフのヒロコさんが出おきお察応しおくれた。
    「こんにちは 最近は『地球の歩き方』にも玹介されたから、日本人がたくさん来おくれお嬉しいんです 今も䜕人か若い日本人の人が泊たっおたすよ」
    ヒロコさんはにっこりず笑った。その屈蚗のない笑顔に、長旅の緊匵がほどけおいくのを感じた。
    それぞれチェックむンしお、案内された郚屋は、巚倧な奇岩を盎接くり抜いた正真正銘の「掞窟」だった。ひんやりずした空気の䞭に、盎線が存圚しない有機的な空間。そこにビビッドな絚毯が敷かれおいる。

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    たさに掞窟ホテル。トルコ絚毯が心地よい

    「フィルムがいくらあっおも足りないぞ」 ポカラでのアリの蚀葉が、呪文のように脳内に響く。たさにその通りだ。手持ちが少なくなっおいたフィルムをかき集め、F3だけを手に町ぞず繰り出した。

    地図を広げお党䜓像を把握するが、この迷宮のような異䞖界を歩いお回るのは䞍可胜だず悟った。そんな時、小さなレンタカヌショップが目に留たる。 「車か バむクか」 スタッフに聞かれ、僕は迷わず店内に䞊ぶ䞀台を指差した。 MONDIAL 250。むタリア車のオフロヌド。 日本で400ccのアメリカンに乗っおいた僕にずっお、オフロヌドは未知の領域だったが、この砂地ずアップダりンの激しい倧地にはこれしかないず盎感が告げおいた。
    「24時間で、1200䞇リラだ」
    超高むンフレ䞋のトルコ。換算すれば玄1䞇円。安くはないが、この「異䞖界の銬」を手に入れる誘惑には勝おなかった。

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    真っ赀な愛銬MONDIAL

    走り出した瞬間、高揚感が党身を駆け巡った。 車高の高いシヌトから芋䞋ろす景色は、アメリカンずは党く別物だった。砂埃を巻き䞊げ、岩の合間を瞫うように走る。自由に、玠早く、どこぞでも。 この感芚は、か぀おの男たちが野生の銬を乗りこなした時の喜びに近いのではないか。
    気になる奇岩を芋぀けおは急停車し、シャッタヌを切る。そしおたた愛銬に跚り、颚を切る。 たった数時間で、僕はギョレメずいう堎所を、そしおこの愛銬を、心の底から奜きになっおいた。

    倕方、空が厚い雲に芆われたので、僕はノマドぞ戻った。 テラスには、ダスの他にも数人の日本人が集たっおいた。 ナヌラシア倧陞を自転車で暪断䞭ずいう通称チャリダヌ。そしお17歳の女子、チヌちゃん。圌女は、ぬいぐるみのような愛くるしい雰囲気の女子だったが、倖芋ずは裏腹に、内面はタフな䞀面を持っおいた。
    「芪の反察抌し切っお、飲み屋のバむトで貯めた金で初の䞀人旅。トルコに着いおから、䜕人ものトルコ人にナンパされおおちょヌうざいんですよヌ」ずケラケラ笑う。
    「自転車でずっず走っお来たんですが、トルコに入っおからずいうもの、片手に棒を持っお走っおるんですよ。それはね、野犬がいっぱい远いかけおくるからそれを远い払うため」ず、现身の県鏡のチャリダヌが興奮しお喋る。
    「たじでこわっ」ずダスが反応した。
    「今日、バむク借りお走り回っおきたけど、ギョレメ、最高だよ」 僕が蚀うず、チヌちゃんが目を茝かせた。
    「うわぁ、レンタルバむクなんお倧人ですね、カむトさん」
    たかだか4、5歳の差なのに、ここでは僕が「兄貎分」のような立ち䜍眮になっおいるのが可笑しかった。
    「明日の倜、皆でこのツアヌに行かないか」
    日䞭、カフェのスタッフに勧められたチラシを広げる。ベリヌダンスず、䌝統的な旋舞「セマヌ」が芋られるずいう。
    「だらだらしおるのもいいけど、たたにはむベントもいいかもね」 チヌちゃんが賛成し、ダスずチャリダヌも、
    「行きたしょう」ず頷いた。

    異䞖界の倜が曎けおいく。明日の朝、ここから無数の気球が䞊がるずいう。 カッパドキアの光を、僕はただ、本圓の意味では捉えおいなかった。


    少幎の朝

    早朝5時。ただ星が瞬くギョレメを、僕は愛銬に跚っお走り出した。 目指すは昚日ロケハンしおおいた町の高台だ。冷たい朝の空気がヘルメットの隙間から入り蟌み、意識を匷制的に研ぎ柄たせおいく。
    䞘の頂にバむクを停め、厖の瞁ぞず歩を進める。 東の空がゆっくりずオレンゞ色に溶け出し、倜を支配しおいた星たちが慌おたように姿を消しおいく。県䞋に広がる無数の奇岩の谷間では、たるできのこの矀生のように、色ずりどりの気球たちが火を吹き蟌たれ、じわじわず膚らみ始めおいた。

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    この奇劙な景色ず気球ずいう組み合わせがなんずもファンタゞヌ

    「ゎヌ  ゎヌ  」
    静寂を切り裂くように、あちこちから気球に生呜を吹き蟌む重䜎音が響き枡る。 十分に熱を孕んだ気球たちが、䞀぀、たた䞀぀ず重力から解き攟たれ、オレンゞず濃玺が混ざり合うグラデヌションの空ぞず舞い䞊がっおいく。その数は、瞬く間に100を超えた。
    ちょうど地平線から倪陜が顔を出したその時。 䞘の先、特等垭のような堎所に10歳くらいの少幎が䞀人、静かにその光景を芋぀めおいるのに気づいた。それが圌にずっおの、圓たり前で、けれど莅沢な日課なのだろう。
    僕はF3を構え、ファむンダヌ越しに少幎の背䞭を远った。 するず、少幎の背埌、䞘の向こう偎からずお぀もなく倧きな気球が、たるで巚倧な生物のように音もなくぬうっず姿を珟した。 「EFES」―トルコで最も愛されおいるビヌルのロゎを倧きく背負ったその巚躯は、小さな少幎のシル゚ットず察比され、珟実感を倱うほどに倧きく芋えた。 あたりにドラマチックな登堎の仕方なのに、音䞀぀立おない。たるでサむレント映画の䞀幕だ。僕は倢䞭でシャッタヌを切った。

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    少幎の埌から珟れた気球

    「  ここに来お、本圓によかった」
    気球に乗るには3䞇円かかるず聞き、予算を考えお諊めおいた。けれど、こうしお䞘の䞊から少幎の隣で眺めおいるだけで、3䞇円以䞊の䟡倀がある光景を独り占めしおいる確信があった。
    空には100近い気球が浮遊し、地䞊には同じ数、いやそれ以䞊の奇岩が倩を突いお立っおいる。 オレンゞ色の朝日がそのすべおを均等に照らし出し、この䞖のものずは思えない倧パノラマを珟出させおいた。 35ミリの単焊点レンズでは、この圧倒的なスケヌルをすべお収めるこずなど到底できない。けれど、その「収たりきらなさ」さえも愛おしかった。
    気球が遠ざかり、朝の儀匏が終わる頃。 僕は隣にいた少幎ず、短く、けれど確かな感觊を残しおハむタッチを亀わした。 圌は照れたように、ほんの少しだけ埮笑んだ。
    僕は再び愛銬に跚り、仲間たちが埅぀ノマドぞず匕き返した。

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    嬉しそうに気球を眺める少幎の目が忘れられない

    光の求道者ず、泥酔の倜

    ノマドに戻るず、起きたばかりのダスやチャリダヌ、チヌちゃんずテラスでパンを食べながら、僕は興奮気味に朝の光景を話した。
    「早起きは䞉文の埳っすね」ず笑うダス。
    「チャリで走っおおも、ドラマは垞に早朝に起きるんですよ」ず、日に焌けた顔で頷くチャリダヌ。
    「それにしおもこのギョレメっお町は面癜いねヌ。なんか珟実ずは思えない」ずチヌちゃん。
    「なんかさ、Dr.スランプのペンギン村みたいなんだよね。っお䞖代違うか」ず僕が笑いながら蚀うず、
    「わかるヌ」ず皆、声を合わせた。
    「ほんずに」
    「そんな倧しお違わないっすよ〜」ずダスが笑う。
    ペンギン村の䞊空には、ただ10機ほどの気球が浮かんでいた。
    1997幎のギョレメの朝は、そんな颚に旅人たちの他愛もない蚀葉で始たった。

    午埌は隣町たで愛銬を走らせ、ギョレメの隣町に行き、たた違う異様な岩肌をフィルムに収めた。
    倕方、ノマドに戻り、迎えに来たツアヌのバンに皆で乗り蟌んだ。 そこで隣り合わせたのがフランス人女性の゜フィアだった。 ショヌトカットで端正な暪顔からは知性が溢れおいた。圌女は僕より䞀぀幎䞊で、むタリアでルネッサンス期の壁画修埩を孊んでいるずいう。
    「ルネッサンスの巚匠たちは、すべお光ず圱を描くこずから始たっおいるの」
    揺れる車内、圌女は静かに、けれど匷い意志を持っおフランス蚛りの英語で語り始めた。
    「修埩ずいう行為は、䜜者の粟神に寄り添うこず。自分のマむンドを、圓時の圌らが䜕を芋おいたかずいう䞀点にたで持っおいかなければならないのよ」
    僕は分からない単語を予枬し、必死で文を繋げ぀぀、耳を傟けた。
    この数幎、倧孊目指しおひたすら「描く」こずに集䞭し、今はそれがバむトだけどお金になっお。でも今は自ら䜕かが描きたいずいう欲があるわけではない。
    圌女の蚀葉が深く突き刺さった。僕は気づけば、拙い英語で䞀時ハマっおいたフェルメヌルに぀いお熱匁しおいた。圌の描く光の玠晎らしさに぀いお。
    「そんなにフェルメヌルが奜きなら、オランダの光を芋に行ったほうがいいわね」ず笑った。
    「オランダか  」

    倕食埌のツアヌは、芳光客向けのベリヌダンスや「セマヌ」の旋舞。最初は「少し倖したかな」ず冷めた目で芋おいた僕らだったが、タブラッカの打楜噚が激しく鳎り響き、ホヌルが熱を垯び始めるず、䜕かが匟けた。 僕は酔いに任せお、真っ先にホヌルの真ん䞭ぞず躍り出た。 ゜フィアの手を取り、ダスやチヌちゃんを巻き蟌み、い぀の間にか数10人の茪ができおいた。 小孊生の頃、林間孊校の焚き火を囲んで螊ったマむムマむムのような、根源的な昂揚感。理屈も囜境も消え倱せ、僕らは狂乱の枊の䞭で我を忘れお螊り狂った。

    無情にもツアヌが終わり、バンで送り届けられる車内。僕は行きよりもずっず高いテンションで゜フィアを誘った。
    「明日、䞀緒にりチヒサルの砊に登らないか 僕の愛銬で迎えに行くよ」
    「カむト、銬を飌っおるの」ず圌女は笑い出し、 自分でもおかしくなっお倧笑いした。
    ギョレメにツアヌバスで戻った埌、゜フィアは自分のホテルぞ垰り、チャリダヌは、
    「酔っ払い過ぎたした」ず敬瀌しお宿に垰っお行った。
    僕ずダス、チヌちゃんの䞉人は飲み足りず、いや螊り足りず、ギョレメの小さなクラブぞ繰り出した。
    パンガン以来の、爆音のハりスミュヌゞック。 意識が音に溶け、目を閉じるず、走銬灯のようにこれたでのシヌンが蘇った。グアムで初めお螊ったミラヌボヌルの光、クラビの岩元でタオ君やドむツ人ず螊った倜、パンガンの宇宙人の宎で、さきちゃんず螊ったブラックラむトの怪しい光。
    ふず目を開けるず、ホヌルの䞭倮でチヌちゃんがトルコ人の男たちに囲たれおいるのが芋えた。「こりゃたずい」。 僕は「圌女の圌氏」の顔をしおすっず割り蟌み、圌女を保護するようにカップルのフリをしお螊った。隙あらば日本人女性を狙う、圌らの逞しくも厄介な芖線を跳ね陀けるように。
    酔いが回り、螊り疲れ、そろそろ出よう、ず䞉人で店を出た。空に浮かぶ青い月が、回りの奇岩を照らしおいた。䞉人で近くの岩堎に座り、僕ずダスはタバコを口に咥えお煙を吐いた。
    「カむトさん、ここどこっすかねヌ」ず酔っ払ったダス。
    「確か隣の銀河の4番目の惑星のペンギン村  」
    「私は地元のギャングに囲たれたずころを救われたペンギン村の姫よ」ずちヌちゃんが悊に入った衚情で乗っおくる。眮かれた状況が非珟実的で、䜕を蚀っおもおかしく、䞉人で倧笑いした。

    深倜1時。ノマドに戻った僕らは、僕が持っおいた赀ワむンのボトルを開け、テラスで飲み盎しおいた。 そこぞ、ホテルのスタッフのおっさんが珟れた。
    「こんな時間に垰っおきお、ただ飲んでいるのか 日本人はけしからん」
    ず、カヌペットの䞊に座り蟌み、 滔々ず説教を始めた。僕は酔いの䞭で、がんやりずその声を聞いおいたが、内容が頭に入っおこなかった。たるで興味のない萜語を聞かされおいるようだった。
    「いったい僕は今、どこで䜕をやっおるんだっけ  」 さっきたでの狂乱ず、この深倜の説教。月明かりに照らされた奇岩を眺めながら、がヌっずしおいるず、
    「聞いおるのか」ずおっさんにピシャリず蚀われ、
    「む゚ッサヌ」ず背筋を䌞ばし敬瀌した。


    ロヌズバレヌの光ず圱

    翌日、僕ずダス、ちヌちゃん、チャリダヌの四人で、巚倧地底郜垂のを散策するツアヌに参加した。20分ほどツアヌバスに乗っおたどり着く。
    入堎チケットを買っお地䞋16階、2䞇人を収容したずいう巚倧地底郜垂ぞず朜った。 アリの巣のように入り組んだ通路には、ワむナリヌやキッチンがあり、か぀おここで壮絶な生掻が営たれおいた息遣いが残っおいた。2䞖玀から4䞖玀、迫害から逃れた隠れキリシタンたちが身を隠した堎所。 暗闇に描かれたキリストの絵を芋぀めながら思った。 日の光も济びず、ただ迫害の恐怖に怯えながらひたすら十字を切っお過ごした圌らの宗教芳は、僕ら日本人には到底理解できない領域にある。けれど、その「暗闇」の深さが、圌らにずっおの「信仰ずいう光」をより鮮明にしおいたのかもしれない。
    30分くらいかけお地䞋郜垂を芋孊しお地䞊に戻るず、思いっきり肺に息を吞い蟌んだ。匷い昌の日差しを䜓いっぱいに济び、倪陜のありがたみを感じた。
    目の前にある倖カフェでオレンゞゞュヌスを買っお、垭に腰を䞋ろした。
    「予想以䞊に深くお入り組んでたしたね」ずチャリダヌが汗を拭いた。
    「完党にアリの生掻だよな。でも、信じるものがあるっおのは、こんな地䞋での生掻ですら可胜にしちゃうんだね」ず僕が蚀うず、
    「俺ら無宗教の日本人には考えられないっすね」ず、ダスはオレンゞゞュヌスを䞀気に飲み干した。

    その埌、バスで少し移動し、川沿いをハむキングしおランチを食べた。

    13時過ぎにバスでギョレメに戻り、14時に゜フィアず埅ち合わせしおいたカフェに愛銬を走らせた。゜フィアず合流し、圌女を埌ろに乗せ、僕らは『りチヒサル』ぞず向かった。そこはカッパドキアの最高地点に聳える、自然が䜜り出した巚倧な岩の城。岩山そのものが町であり、城であり、巚倧な圫刻のようだった。

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    岩山の城りチヒサル

    バむクを停めお頂䞊目指しお歩き出した。
    岩に沿っお䜜られた急な階段を20分ほどかけお頂䞊に登るず、巚倧な真っ赀なトルコ囜旗がはためいおいた。 360床の倧パノラマ。県䞋には「ペンギン村」の党貌が広がっおいる。僕は頂䞊の岩に立ち、䜓を旋回させながらシャッタヌを切り続けた。 「これを垰囜しおからフォトショップでパノラマに繋げよう」ず、画期的なこずを考えおいた。

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    りチヒサルの頂䞊にお

    僕の埌に゜フィアが頂䞊に立った。その姿があたりに絵になっおいたので、「゜フィア、そのたた5分動かないで」そう䌝え、バッグからスケッチブックを取り、゜フィアを描き留めた。写真で撮るのずはたた違った空気感が切り取られるから、クロッキヌは面癜い。

    芋䞋ろす奇岩の矀れず、そこに同居する人間。それはたるで巚倧な蟻塚に蠢くアリのようにも芋えた。

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    じっず奇岩を芋おいるずいろいろな物に芋えおくる

    垰路、岩山の別のルヌトを降りおいるず、壁の窪みから顎髭の長い、サドゥヌのような老人が珟れ、手招きをした。 恐る恐る近づくず、穎の䞭には色取り取りの絚毯が敷き詰められた静かな空間が広がっおいた。老人はゞェスチャヌで僕らを座らせ、差し出された小さなガラスの噚にチャむを泚いでくれた。
    ふず、沢朚耕倪郎の『深倜特急』の䞀節を思い出した。ナヌラシア倧陞を西ぞ進むず、「お茶」を指す蚀葉は「C」で始たる「チャ」や「チャむ」の囜から、ある地点を境に「T」で始たる「テ」「ティヌ」の囜ぞず倉わる。トルコはたさに、その「C」の文化圏の西端なのだ。 そんなこずを思い出しながら熱いチャむを啜った。
    「私はここに䜏んでいお、毎日ここから町を芋おいる」ず老人はカタコトの英語で話した。
    「ここからだったら、朝日も倕陜も綺麗に芋えるんでしょうね」ず゜フィアが返すず、
    「倕陜だったらロヌズバレヌに行っお芋るず良い。谷党䜓がバラのようなピンクに染たる」
    「ロヌズバレヌか。良い響きだね。これから行ったらちょうど良い時間だね。行っおみようか」ず゜フィアに聞いおみた。
    「いいわね。行っおみたしょう」
    二人で老人にお瀌を蚀っお立ち䞊がった。
    老人が教えおくれた「ロヌズバレヌの倕陜」ずいう蚀葉を胞に刻み、りチヒサルを埌にした。

    䞋山するず、僕は゜フィアを愛銬の埌ろに乗せお、茶色い䞖界を再び走り出した。
    「颚が気持ちいい」ず埌で゜フィアが倧きな声で叫び、僕は右手のスロットルを曎に回しお加速した。
    20分ほど走っお蟿り着いたそこは、幟重にも重なる䞉角の岩が倕刻の光を埅぀、静たり返った異䞖界だった。 ゚ンゞンを切るず、耳が痛くなるような静寂が埅っおいた。颚も無い、鳥もいない、完党なる静けさに、ゞャリっずいう二人の足音がやけに倧きく響いた。
    岩に腰掛け、倪陜が萜ちるのを埅぀。 ゜フィアは、ダ・ノィンチやレンブラント、そしおフェルメヌルがいかに光を捉えおいたかを語り始めた。
    「レンブラントは光じゃなくお圱を描いおいたのよ」そう蚀っお゜フィアは倕陜に照らされた谷を芋぀めた。僕はその蚀葉を反芻した。
    シンガポヌルで垰囜䟿が芋぀からなかった倜。パンガンで宿がなくお途方に暮れた日。ネパヌルで腹を壊した山小屋。思い返せば、楜しかった蚘憶の前にはい぀も少しだけ面倒な出来事があった。

    圱があるから光が際立぀。旅も同じなのかもしれない。

    倪陜が地平線に萜ちる盎前、背埌のバレヌが鮮やかなバラ色に染たった。 なるほど、これがロヌズバレヌか。 陜が萜ちおから15分、マゞックアワヌが始たった。䞖界がオレンゞずピンクが混じり合う圢容し難い色圩に包たれた。 僕は倢䞭でシャッタヌを切り、ふず隣を芋るず、゜フィアが埮笑んでいた。
    「きっず䞭䞖から、この矎しい光は倉わっおいないわね」 そう呟いた゜フィアの青い瞳には、マゞックアワヌの淡いピンク色が映り蟌んでいた。その蚀葉は、僕をペヌロッパの䞭䞖ぞの旅ぞず、静かに、けれど抗いがたく誘っおいるようだった。
    「あ、そうだ」 急に思い出し、僕はバッグの䞭から「Ayano」の小箱を取り出した。䞭に入っおいるのは、今、目の前に広がっおいるロヌズバレヌの岩肌によく䌌た、萜ち着いた色の口玅だ。
    「これ、僕がデザむンしたコスメなんだけど  プレれントするよ」 手枡しながら、我ながら挔出がクサすぎお苊笑いしおしたった。けれど、゜フィアは目を芋開いお驚いたあず、パッず花が咲いたような笑顔になった。
    「カむトがデザむンしたの 玠晎らしいじゃない」
    「バンコクで、なぜか倧量に預かるこずになっちゃっお。でも、この堎所にぎったりだず思ったんだ」 圌女は口玅を箱から出し、沈みゆく倕陜に透かすように掲げた。
    「たさにロヌズね。玠敵なプレれントをありがずう、カむト」゜フィアはにっこりず埮笑むず、少し考えたあずで僕を芋た。
    「もしパリに来るこずがあったら遊びに来お。䜕か曞くものある」 圌女がペンを取り出したので、僕はバックパックから『地球の歩き方 トルコ線』を取り出した。゚スキシェヒルでケむコさんから譲り受けた、あの本だ。
    「じゃあ、ここに」 巻末の癜いメモペヌゞを開いお枡すず、圌女はさらさらず自分のアドレスを曞き蟌んだ。 むンクの匂いが䞀瞬錻先をかすめた。 曞き終えた本を返しおもらいながら、僕はバンコクのあの無機質な郚屋で月川さんが蚀った蚀葉を思い出しおいた。
    「きっずこの先、圹に立぀はずだ」
    あの時は半信半疑だったその蚀葉が、ネパヌルの荒れた肌、゚スキシェヒルの倜、そしおこのカッパドキアの倕陜を経お、確かな手応えずなっお僕の手に残っおいた。


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    ロヌズバレヌからの倕陜

    それから3日間、僕は「ペンギン村」に留たり、愛銬であるMONDIALを返华した。 毎朝、䞘の䞊から気球を眺めるたびに、䞀床くらいは乗っおみようかず心が揺れた。けれど、2時間で3䞇円ずいう額は、圓時の僕にはあたりに重かった。 「これは、もっず倧人になっおから、たたここに来お乗ればいい」 自分にそう蚀い聞かせ、僕はその莅沢を未来の自分に蚗すこずに決めた。


    翌日、パムッカレぞ発぀こずを決めた倜。ノマドホテルのテラスで「最埌の晩逐」が開かれた。 い぀ものダス、チヌちゃん、チャリダヌ。スタッフのヒロコさん、五人でワむンのグラスを傟ける。
    カッパドキアずいう異界がいかに面癜い堎所だったか。ここで僕らが出䌚った奇跡には、どんな意味があるのか。 青臭い議論を亀わしながら、僕らは旅路が䞀瞬だけ亀差したこの時間を心から分かち合い、䜕床も也杯を繰り返した。
    チャリダヌはいよいよ囜境を越え、自転車でペヌロッパ・ブルガリアぞず突入する。チヌちゃんは日本ぞ垰り、ダスはただしばらくトルコの深郚を圷埚うずいう。ヒロコさんが、
    「こうやっおさヌ、毎日毎日、いろんな日本人がやっお来お、出䌚っお別れる人生の亀差点みたいでさ、面癜いんだよねヌ。それぞれ色んな方向を向いおいる矢印があっお、それがたたったたここでこうしお時空を共にしお。皆、たたカッパドキアに来るこずがあったら、ぜひたた遊びに来おね。私はただ圓分ここに䜏んでるず思うから」
    「その時にはトルコ人ずのハヌフの子䟛がいっぱいいそう」ずちヌちゃんが笑う。
    「䞀応結婚はしおるんだけどね」ずヒロコさんは照れながら巊の薬指に光るリングを芋せ、ワむンを飲み干した。
    「えヌそうだったんですかヌトルコの人」ずちヌちゃんが倧声で驚く。
    こくっず頷くヒロコさん。
    「えヌ俺ショックっすよ〜」ずチャリダヌがのけぞった。
    「狙っおたんすか」ずすかさずダスが突っ蟌んで、皆で倧笑い。

    「カむトさんは、これからどうするの」
    チヌちゃんに聞かれ、僕は迷いなく答えた。
    「うん。オランダに行っお、フェルメヌルを芋おこようず思う。その埌はパリに行くかも」
    フランスに来るこずがあったら連絡しお、ずロヌズバレヌで倕陜を芋た時、゜フィアから䜏所ず電話番号が曞かれたメモをもらっおいた。 携垯電話もメヌルアドレスも持たない僕にずっお、この小さな玙きれが、圌女ず僕を繋ぐ唯䞀の、そしおあたりに䞍確かな鍵だった。
    「パリで゜フィアず再䌚しちゃうずか」ずちヌちゃんが冷かした。
    「だずいいけどね〜」ずはぐらかした。
    それからもそれぞれの未来の旅の話で盛り䞊がり、ワむンを3本空け、倜颚が少し冷たくなった頃、重い腰を䞊げた。すっかり酔っ払ったチャリダヌが、
    「じゃヌここで䞀本締めで」ず倧声を䞊げたが、
    「やめヌやぁここは日本ちゃうねんで」ずダスが制した。
    笑いながら「おやすみヌ」ず蚀い合っお、それぞれの掞窟に垰っお行った。心地よいワむンの酔いの䞭、掞窟郚屋に眮かれたベッドの垃団に朜り蟌んだ。


    ファンタゞヌな絶景、パムッカレ

    翌日、空に浮かぶ無数の気球を眺めながらテラスで朝食を食べおいるず、ダス、チャリダヌが珟れた。二人ずも絵に描いたような2日酔いずいった衚情で、「おはよヌございたぁす」ず目を擊った。
    僕は9時のパムッカレ行きのバスを予玄しおいたので、早めに食べ終えおパッキングをしようず思っおいた。
    食埌にい぀もの熱々のチャむを飲んでいるず、
    「いやぁ、盛り䞊げ隊長がいなくなるのは寂しいっすねぇ」ずチャリダヌが蚀う。
    「い぀から僕が盛り䞊げ隊長なんだよ」ず笑った。
    「お互いに自分の地球の歩き方をしお、たたどこかで䌚えるず良いよな」ず返した。
    「あ、䞀応日本の連絡先亀換しおくださいよ」ず蚀っお、䞉人でメモ垳に曞いお亀換した。
    「ちょっず荷造りしおチェックアりトしお来ちゃうね」ず蚀っお郚屋に戻った。

    バックパックを背負い、レセプションに行っおヒロコさんを呌んだ。
    「寂しくなるなヌ。い぀かたた来およね。今床は家族でも連れお」
    「ですねぇ。次来た時は絶察気球乗っお、空の䞊からヒロコさんに手振りたすよ」
    「じゃあ、お䞖話になりたした」ず握手をしおヒロコさんず別れた。
    テラスに可愛い猫がいたので、しゃがんで顎の䞋を撫でるず、気持ちよさそうに目を瞑り、ゎロゎロず喉を鳎らした。するず背埌から、
    「カむトさんおはよヌ」ず声をかけられた。
    起きたおのぬいぐるみのようなちヌちゃんが立っおいた。
    「おはよヌ、もうすぐ出るずこだったよ」
    「そっかヌ、これからはトルコの男たちから守っおくれる人がいなくなるなヌ」ずむタズラっぜく笑う。
    「トルコ人はハンサムばかりだからなぁ、気を぀けろよ」
    圌女の頭をポンポンっずしお別れ、ホテルの出口を出た。
    10mくらい道を進むず、背埌から
    「カむトさんSeeee Youuuu」ずダス、チャリダヌ、ちヌちゃん、ヒロコさんが倧きく手を振っおいた。
    「たたねヌ」ず手を振り返しながら埌ろ向きに歩き、道を曲がっおバス停ぞず向かった。


    バックパッカヌのトルコでの移動の定番は倜行バスだった。1泊の宿代が浮くからだ。けれど、僕はあえお日䞭移動のバスを遞んだ。それは、移動䞭の車窓からの景色を堪胜したかったからだ。なので、できるこずなら窓際の垭に座る。

    オトガルバス停に到着するず、ずらりず巚倧なバスが䞊んでいる。パムッカレ行きの乗り堎である12番を探しお歩いた。
    巚倧なベンツの゚ンブレムが付いたバスが停たっおいお、運転手に行き先を確認しお乗り蟌んだ。車内に入るず、なんだか懐かしい匂いがふわっず錻腔を刺激する。埌方の窓際に座り、F3以倖の荷物を棚に䞊げお、リクラむニングを倒しおシヌトに深く身を委ねた。
    垭が満垭になり、15分ほどでバスは出発した。車内では、ビシッず制服を着た「車掌の男の子」が、乗客の手にレモンの銙りのコロンコロニャをピピッず振りかけおくれる。あ、この匂いか。

    窓の倖に流れる景色を眺める。最初はカッパドキアの奇岩地垯、そこから地平線たで続く広倧な小麊畑や荒涌ずした倧地、遠くに芋えるタりルス山脈の残雪  。たたにF3を構えおシャッタヌを切る。芋おいお飜きない景色が続く。

    パムッカレたでは10時間のロングドラむブ。3時間くらいおきに、ロカンタドラむブむン兌食堂に停たる。地元のおじさん達が䜕人も倖垭でバックギャモンに興じおいる。買ったケバブをかじりながらバックギャモンの詊合を芳戊する。
    䌑憩の30分が迫っおいたのでバスに戻っおシヌトに座った。

    それからは寝おは起きおを繰り返し、陜が萜ちる頃に、雲ひず぀ない空は1面オレンゞからブルヌぞず倉わる芋事なグラデヌションで圩られた。
    もう䞀床ロカンタに停車し、その埌は暗い䞭バスは走り、倜8時半にパムッカレの麓の街デニズリに到着した。11時間半もかかったこずになる。そこからミニバスに乗り換えお、真っ暗なパムッカレの村にたどり着き、客匕きに声を掛けられた。探すのも面倒なのでそのたた付いお行き、宿を決めおチェックむンした。
    快適なバスずはいえ、さすがの長時間で疲れ果お、歯だけ磚いおすぐにベッドに倒れ蟌んだ。


    翌朝、目が芚めお倖に出るず、遠くに『綿の城』が聳え立っおいた。 たるでそこだけ雪が積もった山か、巚倧な綿菓子のように真っ癜に茝いおいる。
    朝食を食べ終え、あの癜い山に向かっお歩き出した。
    近づいおみるず雪でも氷でもなかった。倧昔から湧き出おいるカルシりム石灰が、長い幎月をかけお固たっおできた玔癜の岩肌だった。それが、たるで段々畑のようになっおいお、そこぞ枩泉氎がなみなみず溜たっおいる。 倪陜の光を反射しお、真っ癜な石灰に囲たれたミルキヌブルヌに茝く氎面は、ゆらゆらず茝き、たさにこの䞖のものずは思えないファンタゞヌの䞖界のようだった。『地球の歩き方」の小さな写真では芋おいたが、実際にそこに立っおみるず、「やっぱり来おみないずわからないな  」ずいう感動がじわじわず蟌み䞊げお来た。
    お湯に足を浞らせ、棚田を裞足でペタペタず歩くず、心地よい感觊が足の裏から䌝わっおきた。石灰棚を䞊たで登りきるず、目の前には玀元前2䞖玀頃から栄えた聖なる郜垂、ピラポリスの廃墟がどこたでも広がっおいた。䞘の斜面にそびえ立぀「円圢劇堎」、トルコ最倧玚ず蚀われる叀代のお墓の街、ネクロポリスなどを芋お、街ぞ戻った。
    カフェで倕ご飯を食べながら旅日蚘を曞き、ホテルに戻る途䞭で明日のむスタンブヌル行きの倜行バスのチケットを賌入した。


    翌日、今床は遺跡のど真ん䞭に湧き出る倩然の枩泉プヌルに氎着を持っお行っおみた。地震で厩れ萜ちた本物のロヌマ時代の神殿の柱や圫刻が、そのたた氎底にゎロゎロ沈んでいお、その䞊を泳いだり、腰掛けたりできた。本物の遺跡がこんな雑な扱いで良いんだろうか、ずおかしくなった。 氎䞭も撮れるカメラがあったらさぞかし面癜い絵が撮れただろうな、ず遺跡に腰掛け、その䞍思議な光景をがんやりず眺めた。トルコに入っおからずいうもの、茶色い砂地の䞖界䞀色にいたので、䜓䞭が氎分を欲しおいたように、党おの毛穎からごくごくず吞収しおいるみたいだった。干からびおいた现胞に、湯がじわじわず染み枡っおいくようで元気になり、午埌は街を歩き回っお、カフェで旅日蚘を曞いたりずのんびり過ごした。

    倜8時発のむスタンブヌル行きのバスに乗り蟌んだ。今床は倜行バス。明日の朝には着くはずだ。オレンゞ色の街灯が定期的に流れおいく車窓からの景色を芋ながらゆっくりず眠りに萜ちお行った。

    カヌテンの間から入る朝日が眩しく、目が芚めた。間もなくむスタンブヌルだった。到着しおバスを降りた。
    ゚スキシェヒルのケむコさんに、「むスタンブヌルではここに泊たるずいいよ」ず勧められおいたホテル、「ボスポラス・ビュヌ」を探そうず、久しぶりに『地球の歩き方』を開いた。旅が進むに぀れ、バッグに入った『地球の歩き方』を開く機䌚が枛っおいた。い぀の間にか、本に茉っおいる情報よりも、旅先で出䌚った人たちから聞く話の方が面癜くなっおいた。それでも、こうしおペヌゞを開くず劙に安心する。気づけば「お守り」のような存圚になっおいた。

    巚倧なモスク、アダ゜フィアの裏手の䞘、ボスポラス海峡を望む䞭腹にそのホテルはあった。トルコの初日に泊たった「Hotel ONE」ず倧しお倉わらない倀段だったので、迷わずにチェックむンした。枡された鍵に曞かれた303ずいう郚屋に入り、バックパックを䞋ろしお窓のカヌテンを開けた。なんず前方には巚倧なアダ゜フィアが芋えるではないか。窓を開けるず気持ちのいい颚が入っおカヌテンを揺らした。屋䞊に行っおみよう。ず2階分の階段を登っお屋䞊に出おみた。するず、郚屋から芋たアダ゜フィア、そしお右偎にはブルヌモスクも芋えた。振り返るず、真っ青な空の䞋に倧パノラマビュヌが広がっおいた。たかが5階だが、ボスポラス海峡に向かっお䞘が䞋っおいるので芋晎らしが玠晎らしい。ここ旧垂街は高い建物などがないので、鉛筆のように尖ったミナレット尖塔が目立぀。巚倧な倧橋の䞋をフェリヌが通過しおいるのが芋える。橋のこちら偎は地理的にも歎史的にもペヌロッパ。そしお向こうがアゞアだ。ず思っおその景色を眺めおいるず、ペヌロッパに来たのか  ずいう実感が静かに湧いお来た。
    そこにあった怅子に腰掛け、タバコに火を぀ける。今回、むスタンブヌルの目的は、最初に来た日がたたたた日曜日で、グランドバザヌルが閉たっおいた。特に買い物をしようずいうわけではないが、あの雰囲気を芗いおみたかった。

    トルコ商人の亀枉術

    F3ず貎重品だけ持っお、巚倧迷路のようなグランバザヌルの䞭ぞ足を螏み入れた。
    衣類、宝石、カヌペット、スパむス、猫  。ありずあらゆる欲望がひしめき合い、芋お歩いおいるだけでも心が螊った。
    倪い道から现い道ぞ、曎にたた现い道ぞ、ず入り蟌んで行くず、角に䞀軒のバックギャモン・ショップを発芋した。さすがトルコである。バックギャモンだけの専門店があるずは。日本では芋られない矎しいボヌドの数々を芋おいるず、
    「チャむ飲むか」ずロバヌト・デ・ニヌロ䌌の店䞻に誘われた。
    断る理由もいのでチャむをいただく。舌が火傷しそうな皋熱い。ふうふうず冷たしながら飲んでいるず、䞀぀のボヌドを開いお芋せおくれた。赀ず黒の配色で、駒の色がラメで矎しい。それに芋入っおいるず、デ・ニヌロはそれよりも䞀回り倧きいボヌドを取り出し、うやうやしく開いた。組み朚のようなむスラム王様でできたボヌドは滑らかで、觊り心地が玠晎らしかった。
    「おおぉ  良いねぇ」ず蚀うず、デ・ニヌロは満足そうに笑い、䞊の棚からたた曎に䞀回り倧きなボヌドを出しお来た。
    「ゎヌゞャスだろ駒は倧理石だ。サむコロはラクダの骚でできおいる」
    「うわ  すごいね  。こんなボヌド初めお芋た」
    「君のためにスペシャルプラむスを甚意する」ず始たった。
    「いやいや、さすがに買えないよ。バックパック旅の途䞭だから荷物になるし」
    「じゃあちょうど良いのがある」圌はごちゃごちゃずしたカりンタヌの䞋から卒業蚌曞を入れるような筒を持っお来た。そこから出お来たのは動物の皮の巻物のようなもので、玐で留められおいた。デ・ニヌロはその巻物をガラス棚の䞊に眮くず、玐を解いおクルクルっず広げた。
    「これはラクダの皮でできおいお、サむコロはさっきず同じくラクダの骚だ」
    駒は黒檀のような固い朚で、しっずりずした質感だった。
    「これは玠晎らしいね。かさばらないし」
    「そうだ、君のバックパックの隙間に入るだろう」
    やっず半分くらいの量になったチャむを䞀口すすった。
    「いやあ、でも  高いんでしょ」ず口を滑らせた。こうした商人盞手には、倀段を聞いたら亀枉スタヌト。買わないずいう未来はたずない。
    「倀段を蚀っおみろ」ず圌。それはずるい。
    「アゞアを貧乏旅しお来お、あたり金がないんだよ」
    「いいから」ず蚀うように電卓を枡しお来た。
    蚈算機で日本円換算し、詊しに「5,000,000」ず打っおみた。500䞇トルコリラ。日本円で5000円匱。をれを芋お、無衚情に、「22,000,000」ず打ち返しおきた。トルコリラはずにかく桁が倚すぎお面倒だ。
    「䞀十癟  」ず声に出し、3000䞇リラ。3䞇円くらいか。
    「いや無理」ず跳ね返す。そのラリヌがもう1埀埩したずころで、チャむが無くなりかけおいたグラスに、たた熱々の液䜓が泚がれる。これがトルコ商人の商談には欠かせない垞套手段のようだ。ダクルト1本くらいの小さなガラスの噚なので、぀い぀い頂いおしたうのだが、熱くおたったく飲めないのである。垰るに垰れない。
    そしお詊合再開。双方がじわじわず歩み寄り、結局「1000䞇リラ」で勝負が着いた。「しょうがない、半分プレれントみたいなもんだ」ず亀枉に完敗したような苊笑いを浮かべた。それが本心かどうか分からず仕舞いだった。これたでのアゞアの旅を考えるず、玄1䞇円は、ずんでも無い金額であるこずは間違いなく、枅氎の舞台から飛び降りる芚悟ではあった。いや、これが本圓にラクダの皮ずラクダの骚であれば、結構良い買い物だったのではないかず自分を蚀い聞かせた。
    残りのチャむを飲み干し、金を払っおデ・ニヌロず握手をしお店を埌にした。
    歩きながら満足げに手にしたその筒を眺めたが、「この卒業蚌曞みたいな筒のデザむンがもっず玠敵だったら蚀うこずなかったんだけどな  。」そこだけが匕っかかった。

    むスタンブヌルで奇跡の再䌚

    バザヌルを抜け、アダ゜フィアの近くを歩いおいた時、
    「ゲンキ ガリガリくん」 劙な日本語で話しかけおくるおっさんに捕たった。倧抵は、「トヌキョヌオオサカコニチワ」ず話しかけおくるが、「ガリガリ君」ずいう呌びかけに、思わず反応しおしたった。
    「あなたガリガリくんね」圌は近づいお来た。僕は立ち止たらずに歩きながら、
    「ガリガリ君ではない」思わず笑っお返した。
    「どうしお」ず聞くので、
    「どうしおも䜕も  」返答に困っお笑っおいるず、肩を組んできお、
    「日本語ペラペラ埓兄匟がいお、ちょうど日本から垰っお来おるんだ。倚分、君は知っおるず思う。ここ曲がった店にいる」英語でたくし立お、半ば匷匕に連れお行かれたのは、䞀軒の絚毯屋だった。
    「たあ、絶察に買わないけどな」 そんな決意で店内に足を螏み入れた僕の前に珟れた店員はなんず、あのネパヌルのポカラで䌚ったアリだった。
    「え嘘だろ」
     「ポカラの  あの時のカむト」
     僕らはお互いに目を䞞くしお、䞡手で握手を亀わした。暪ではさっきのおっさんが笑いながら、
    「知っおるっお蚀ったでしょ」ず圓然のように頷いた。
    こんな偶然が起こるなんお。 再䌚を祝しおアリが淹れおくれたチャむで也杯する。
    「さっき、皮でできたギャモンボヌドを買ったばかりなんだ」
     僕が筒から買ったばかりのギャモンを取り出すず、アリは䞍敵に笑った。
     「早速やるか」 ず流暢な日本語で蚀っおきた。
    僕らはポカラの時ず同じように、無造䜜にコマを䞊べた。
    「ねえ、これラクダの皮で、サむコロはラクダの骚っお蚀っおたけど、本圓かな」アリは確かめるように觊り、サむコロを手のひらに眮いお芋぀めた。
    「本圓だね。安心しろ。いくら払った」
    「良かった〜。ええず、1000䞇リラ」
    「おおそれはお買い埗だよ1500䞇はするよ」そう蚀われ、ゲットした喜びが倍増した。

    ゲヌムをしながら、ネパヌルの埌のカッパドキアの話をした。
    「あそこは最高だったよバむク乗っお走り回っおさ。ほんずありがずう」
    「蚀った通りだろこの囜は玠晎らしい所がたくさんある。そうだカむト、サリナにサむコロず手玙を枡しおくれおありがずう」
    「あ、そうだったね。可愛い子だった」
    「圌女からその埌手玙が来お、ポカラで䌚ったんだよ。カむトのお陰だ」
    そんな話をしながら、真剣勝負の5ゲヌムマッチをプレむした。勝ちず負けが亀互になり、最埌4-4の倧詰めで、僕は倧きい賭けに出お、最埌に5・5のゟロ目を出しお逆転勝利を掎んだ。
    「なんだか、旅を通しおプレむが倉わったなカむト。リスクを取っお勝負に出る。そしお運も味方に付けおる」
     アリは肩をすくめた。たあ、チャむでも飲んでけよ。お決たりのグラスを枡され、熱々のチャむが泚がれた。
    「このギャモン良いじゃない。軜いしね。でもこれだけペラっず眮くず、ちょっず貧しい感じだね」
    「貧しい」
    圌は腰を䞊げお奥から小さな赀い王様の薄いカヌペットを持っおきお、皮のギャモンの䞋に敷いた。
    「ほら、これでリッチになった」確かに、濃い茶色の皮に敷かれた赀によっお、瞁取りされ、急に高玚感が増した。
    「さすが絚毯屋、プレれンが䞊手いねぇ」
    「ギャモンはやる時の気分が倧事なんだ。貧しい堎所で、ボロボロのボヌドでやっおも楜しくないだろ」
    「それは䞀理ある。日本ではさ、バックギャモンをやる集たりみたいなのがあるこずはあるんだけどね。叀い雑居ビルの䌚議宀みたいな所で、パむプ怅子に座っおやるんだよ。氎飲みながら。なんかやる気にならなくっおさ」
    「トヌキョヌたたに行くから知っおるよ」ずアリ。
    「あ、でも代官山のミケランゞェロ・カフェっお店では、毎週火曜日にギャモンナむトやっおお、お酒飲みながらお排萜空間でできるよ」
    「ほんずにい぀かトヌキョヌ行ったら連れおっおよ」
    「いいね」
    「で、この小さいカヌペットどうだい」
    たるでこのギャモンず最初からセットだったかのようにしっくりずしおいる。
    「わかったこの筒はあたり玠敵ではないので、こうしおカヌペットを䞀緒にクルッずしお、玐で結ぶずいいかも」ず蚀いながらしっかりした筒状になったそれを僕に手枡した。
    「悪くないね」ず玐を解いお、クルッず広げるず、カヌペットが敷かれた状態で珟れる。
    「良いねぇ」ず二人しお声を䞊げる。
    「で、いくらなの」倀段を聞いたら買わない未来はない。結局ギャモンの半分くらいの倀段で買う矜目になった。
    「ポカラでサむコロを届けおくれたお瀌だからその倀段でいいよカむト」
    「アリ、お前、僕に買わせるためにわざず負けたろ」 
    「そんなこずないさ」目を䌏せお笑う。
     「いや、そもそもポカラの出䌚いから仕組んでたんじゃないか」
     僕が冗談を飛ばすず、
    「ポカラでカむトず䌚っお、ギャモンをやっお、サむコロを蚗しお、僕の友達のギャモンショップで買わせ、ここに導いおわざず負けた。ばれたか  」
    1秒の沈黙の間の埌、
    「んなわけねヌだろ」僕が突っ蟌み、二人で腹を抱えお倧笑いした。たずえカモにされたのだずしおも、この再䌚の喜びにはそれだけの䟡倀があった。
    「今床、日本に来るこずがあったら、たた䞀戊やろうぜ」
    「雑居ビルの䌚議宀じゃなくおカフェでね」笑い合い、連絡先を亀換しお別れた。

    アリの店を埌にしお、目を぀けおいた街の旅行代理店ぞず向かった。ロシア経由、アムステルダム行きの栌安チケット、『ア゚ロフロヌト』を賌入した。次のルヌトが決たったので䞀安心し、ホテルに戻っお郚屋にカメラずカヌペットギャモンを眮いお、屋䞊のレストランに足を運んだ。
    䜕組かの宿泊客が食前のワむンを飲んだり、メニュヌを芋ながら談笑しおいた。僕はテヌブルに着く前にテラスに出おみた。そこで芋えた景色に思わず声が出た。ボスポラス海峡を挟んで、ペヌロッパずアゞア、2぀の䞖界が倕陜に染たっおいた。雲ひず぀ない赀いグラデヌションの空には、新月から垰っお来たばかりの薄い䞉日月が浮いおいる。そしお、なんずその䞉日月ず向かい合うように小さな星が光っおいるではないか。「これっお、トルコの囜旗じゃん  」。気づいおいる人がいないかず呚りを芋たが、誰も倖の景色を芋おいなかった。郚屋にカメラを取りに行くか悩んでいるず、突然背埌のアダ゜フィアからい぀ものお祈り、『アザヌン』が流れ始めた。
    「アッラヌフ・アクバ〜ル、アシュハドゥ・アン・ラヌ・むラヌハ・むッラッラ〜ハ」
    「アッラヌは偉倧なり、私は蚌蚀する、アッラヌのほかに神はなしず  」
    これはギョレメの『ノマド・ケむブ・ホテル』のヒロコさんが教えおくれたこずだ。
    これが、背埌のモスクから、そしお前方のモスク、遠くのモスク、ず街䞭のモスクから埮劙な時間差で流れるので、ディレむしお聞こえ、その景色ず盞たっお、街党䜓が珟実ずは思えない幻想䞖界に芋えた。
    アザヌンの意味を教えおくれたヒロコさん、このホテルを勧めおくれたケむコさん、「きっず䞭䞖から、この矎しい光は倉わっおいないわね」ず蚀っおいた゜フィア、トルコで出䌚った女性たちのこずを思い出し、䌚えたこずにありがずう、ず蚀いたくなった。

    あのパンガンからの脱出を先導しおくれた䞉日月から2ヶ月が経ったのか。月を眺めお思った。
    「なんか久しぶりだな。ポカラの山奥の挔出には舌を巻いたけど、たた玠敵なずころで顔を出すじゃないか。ペヌロッパずアゞアの間の赀い倕焌けの䞭、トルコの星を埓えお登堎かよ。それもBGM付きで」
    「わたし䞉日月は『発展や新しい始たり』、星は『導き』を意味するんだ。明日からのペヌロッパぞの旅に向けお、わたしからのちょっずしたプレれントだよ。」
    「そうか  ありがずうな。䞀人旅ず蚀っおも、君がい぀もいおくれるから心匷くおね。子䟛の頃、車の埌郚座垭でさ、ずヌっず僕に付いお来おくれる月を眺めお䞍思議に思ったもんだよ。小さい頃さ、『なんで月は僕たちに付いお来おくれるの』ず母に聞いたら、『月はみんなのものだから。みんなに付いお来おくれるんだよ』ず蚀われたのを芚えおるよ。」
    「いいお母さんを持ったね。そう、わたしは皆のものなんだよ。楜しい時も蟛い時も、い぀でもそばにいるから安心しな」
    「明日からたた新しい旅の始たり、これからもよろしくな」僕はグラスに泚がれた赀ワむンを䞉日月に掲げ、ゆっくりず味わうように胃に流し蟌んだ

    タむのピピ、クラビ、バンコク、パンガン、ネパヌルのカトマンズ、ポカラ、そしおトルコ。い぀の間にか3月も終わろうずしおいる。東京でなんずなく過ごす3ヶ月ず比范しお、なんお濃く、いかれた日々だっただろう。タオ君ずビヌチで野宿したこずなんお、もう倧昔の出来事に感じる。日本で倱恋した傷は、瘡蓋もすっかり剥がれ萜ち、どこに傷があったのかさえ分からないほどだった。
    旅に来おからは毎日が新しいこずの連続で、たるで予想が぀かず、垞に遞択ず決断を迫られた。ピピ島の展望台からどちらの道を䞋るのか。シンガポヌルの空枯で、どこの郜垂に行くチケットを買うのか。カオサンのカフェで隣にいた子に話しかけるのか。ポカラで䞀人でトレッキングに進むのか。
    そうした自分自身の遞択ず決断の積み重ねが、旅の景色を倉えおいった。ビビっお守りに入らずに䞀歩螏み蟌むほうが、い぀だっお面癜い道が開けた。 それず、どんな人ず出䌚うかでも景色は倉わった。お互いが䞀人旅だず、自分の䞭の野生の勘みたいなものが敏感になっおいるから、䞍思議ず感芚の合う人に出䌚いやすい。そうしお出䌚った旅人のたった䞀蚀が、その埌の旅の方向を倉えおしたったりするから面癜い。たさに䞀人旅ずは、人生をギュッず凝瞮したようなものだ。

    明日、僕はトルコの熱気を背に、極寒のモスクワを経由しお、゜フィアが蚀っおいた「光の囜」アムステルダムぞず飛ぶ。
    アゞア線を終えおいよいよペヌロッパぞ。ただ芋ぬアムステルダム、パリ、チュヌリッヒ、フィレンツェ  。それらの街の名前を口にするだけで、期埅で心が激しく躍った。

    Nikon F3片手に、1997幎、僕の「地球の歩き方」はただただ続く。


     
     
    映像ディレクタヌずしお15幎、䞖界を切り取っおきたした。珟圚はドロヌン空撮を通じ、新しい芖点を探求しおいたす。 noteでは日垞の気づきや旅の足跡を、TALESでは心に残った蚘憶を「小説」ずしお再構築しおいたす。実䜓隓ず想像が亀差する、その境界線を描いおいたす。

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