
こわくないって、だれか言って
(4歳の息子に読み聞かせしたいな、
と考えながら作ったお話です。)
ぼくは眠るのが怖い。
目を閉じると、
静かな闇と時間に胸がきゅうっとなる。
また、夜がきた。
お布団に入って、
ママ、パパと絵本を読む。
最後の1ページが終わったら、
電気を消して
「おやすみなさい」
そうして
目を閉じる。
でも、僕は
胸の辺りがきゅうっとなって
なかなか眠れない。
目を閉じると真っ暗で、
「こわい」って
言いたいけど、
ママもパパも
もう眠そう。
だから僕は、
胸の前で手をぎゅっと握って、
この
きゅうってする気持ちを
小さく小さくするんだ。
ある夜、
その日はなかなか
きゅうってする気持ちが
小さくならなかった。
どうしよう。
どうしよう。
はやく
寝ないといけないのに。
まくらを
ぎゅっと
抱きしめると、
なにかが
まくらの下にあった。
取り出すと、
それは
小さな切符だった。
“ねむれない よるの きっぷ”
切符には
そう書かれている。
こんな おもちゃ
あったかな。
不思議に思いながら、
ふと、
窓を見ると——
カーテンに
ゆらゆらと
電車の影が
うつっている。
おそるおそる
カーテンを
めくってみると、
そこには、
静かに
夜の空に
電車が浮かんでいた。
ドアのところには
ぼうしを被った
やさしい目の
車掌さん。
「こんばんは。
ねむれない子は
きみかな?」
ぼくは
びっくりして、
でも
うなずいた。
手をひかれて
電車に乗ると、
静かな
夜の街が
窓の外に
ひろがっていた。
電車が
出発すると、
ふわりと
空へ
あがっていく。
星が近くて、
手が
届きそうなくらい。
やがて電車は、
まんまるお月様の前に停まった。
車掌さんが
ぼくの隣に座って
ゆっくり
話してくれた。
「よるが
こわいんだね」
「でも、こわいって、
わるいことじゃないよ」
「ひとりになると、
だれだって
ちょっとこわいものさ。」
「でもね、きみは
ひとりじゃないよ」
車掌さんの
おだやかな声が、
ぼくの胸に
じんわり
ひろがっていく。
きゅうってしていた胸が、
少しだけ
楽になった。
電車は
また
ふわりと動いて、
お家の前で停まった。
「また
いつでも おいで」
にっこり わらった
車掌さん。
ぼくは
手を振って
お家へ
戻った。
お布団に入ると、
ママとパパは
もう眠っていた。
今起きた出来事を
話すことは
できない。
ぎゅっと
してもらうことも
できない。
でも、
静かな部屋で
よく
耳をすますと——
すう…すう…
ママとパパの
寝息が
聞こえた。
ちゃんと
そこにいる音。
ひとりじゃないって
わかる音。
ぼくは
切符を
まくらの下に
そっと
かくして、
目を
とじた。
すう…すう…
ふしぎと、
胸の
きゅうっとした気持ちは
どこかへ
いってしまった
みたいだった。
こわい夜も、
きっと、もう、
だいじょうぶ。
その夜、
ぼくは
ちゃんと眠れた。
すう…すう…