麦茶の味
夏、15時頃、小学校から帰ってきたらまず冷蔵庫を開けて、よく冷えた麦茶をコップ一杯、二杯と一気に飲み干す。
この麦茶は格別のうまさで、20年近く経った今でもよく覚えている。
外から帰ってきて、冷蔵庫でよく冷えた麦茶を飲むと時々、ふわっとその時の感覚が蘇ってくる感じがする。
それと同時にその頃に戻れやしないかな、なんてよく思う。
誰もいない照明のついてない散らかったリビング、かけっぱなしのラジオからは当時流行りの音楽が流れている。
しばらくするとそれを消して、代わりにケーブルテレビを点けてアニメをぼーっと観ている。
そんな少年時代に戻りたくなる。
何かの味や匂いや風景やメロディが、懐かしい記憶を強烈に想起させるあの感覚はとても不思議で興味深い。
そのままその時間軸に戻れそうな気がするけれど、一度だって戻れた試しはない。
けれどいつか戻れるかも?
戻れるならどの時間に戻ろうか?
そんなことを考えながら、五感に封じ込められた記憶を手繰り寄せる。
そのひとつが麦茶の味で、それは他にもたくさんある。
京都で暮らしていた頃に使っていたワックスの匂いだとか、8ミリフィルムみたいに淡くぼやけた平成初期の街並みだとか。
きっと誰にでもあるものだろう。
それが悪い記憶だとトラウマと呼ばれるのか、だとするとトラウマを抱えている人には大変気の毒な話になるのか。
まあ、そういうこともあるさ。
あなたは良い記憶か悪い記憶か、どちらが印象的だろうか。