
短編小説[車デートは最終試験]
「好きな人を助手席に乗せると考えるだけで、こんなに緊張するとは思わなかった。」
LINEの交換から始まり、数度のデートを経て、いよいよ告白が現実味を帯びてきた。
恋愛のステップにおいて、告白はゴールであり、スタート地点でもある。
でも、臆病な僕は石橋を叩きすぎて、いつか壊してしまうんじゃないかと自分でも不安になる。
そんな慎重な僕の愛車は、なぜかマニュアルのインプレッサだ。
趣味なんてなかった僕に
「免許は早めに取っておけ」
「免許はマニュアルでとっとけ」
「家の駐車場が空いてるから車を買え」と、
父の「男のロマン」を押し付けられた結果だ。
半分出してもらった手前断れなかったのだけれど、今の僕には、この無骨なシフトレバーを握るだけで手から脂汗が出る。
そんな「よくわからない車」に乗っていることを彼女に話すと、彼女は意外にも目を輝かせて言った。
「インプレッサ? すごい! 是非乗ってみたい!」
こうして、僕の人生において最も過酷な「車デート」が決定した。
当日が近づくにつれ、不安は加速度的に増していく。
運転技術はもちろんだが、それ以上に「密室」という環境が怖い。
シフトチェンジのたびにガクッとならないか。
車間距離で「怖い」と引かれないか。
車内は清潔か? 芳香剤の匂いがキツすぎないか?
正直に告白すると、女性を助手席に乗せるのは母と妹以外、これが初めてだ。
芳香剤の匂いを極限まで抑え、ダッシュボードのホコリを拭い、タイヤの空気圧までチェックする。
もはやデートの準備というより、国家試験の最終実技試験に臨む受験生の心境に近い。
車という狭い密室の中で、ハンドルを握る僕の横顔と、助手席で笑う彼女。
この試験に合格できれば、次は告白という卒業式が待っている。
シフトをローに入れ、サイドブレーキを下ろす。
心臓の鼓動をエンジン音にかき消して、僕は今日、一番の勇気を振り絞る。