見出し画像

二科展と父の「人生最後の大作」

もう何度目だろう… 

父の油絵が二科展に入選しました。今日は父の作品を見に国立新美術館へ



父が言うには 「人生最後の大作」 

父の入魂の力作

もう85歳になる父。いつ倒れてもおかしくない年なので、納得がいく一方、その言葉を素直に受け入れられない自分がいる。

なぜなら、

父の"人生最後の大作"はもう5作目です

「これが人生最後の大作だ」

父がそう言ったのは、もう5年前のことだ。

キャンバスの前に立つ父の姿を、僕は今でもよく覚えている。100号という、父の身長とほぼ変わらない大きさの真っ白なキャンバス。それに向かって筆を握る85歳(当時80歳)の背中は、どこか覚悟を決めているように見えた。

「これで最後にする。悔いのないように描く」

家族はみな、その言葉を神妙な顔で受け止めた。長年描き続けてきた油絵の、集大成となる一枚になるのだろうと。

実はこの100号というサイズには理由がある。父が毎年出品している二科展は、このサイズでなければ入選の土俵にすら立てないらしい。つまり「人生最後の大作」は、有無を言わさず父の身長ほどもある巨大なキャンバスになる運命だったわけだ。

その年、父の絵は見事に入選した。家族で展示会場に足を運び、大きな絵の前で記念写真を撮った。「本当に最後の大作になったね」なんて言いながら。

ところが。

翌年、父はまた100号のキャンバスを買ってきた。

「今度こそ、これが本当に人生最後の大作だ」

家族の間に、微妙な空気が流れた。去年も同じことを言っていなかったか。でも誰も口には出さなかった。父の目が、去年と同じように真剣だったから。

そしてその絵も、入選した。

さらに翌年も。またその翌年も。「人生最後の大作」は気づけば5作目を数えていた。もはや我が家では、父が新しいキャンバスを買ってくるたびに、家族一同「ああ、また"最後"が始まったな」と苦笑いするのが恒例行事になっている。

85歳になった父は、今では杖をつきながらでないと歩けない。かつてのように長時間立ち続けることも難しくなった。それでも父は、あの100号のキャンバスに向かい続けている。杖を横に置いて、絵筆だけは何時間でも握っていられるというのだから、不思議なものだ。

正直、心配もある。この歳で、あの大きさの絵を描き続ける体力が、いつまで持つのだろうか。でも父の目を見ていると、それを止める言葉はどうしても出てこない。

今年もまた、入選の知らせが届いた。

家族で展示会場に向かい、父の絵が飾られたエリアを探した。ようやく見つけたその一角に掲げられていた案内板を見て、僕たちは思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

そこにはこう書かれていた。


「次世代を担う精鋭室」 

杖をつき、ゆっくりとしか歩けない85歳の父の"人生最後の大作(5作目)"は、次世代の精鋭として、そこに堂々と飾られていた。

来年もまた、父は新しいキャンバスを買ってくるのだろう。

いいなと思ったら応援しよう!

ドゥギー@トムヤム経理次長どうでしょう サポートありがとうございます😊 お礼に簡単な加湿器の作り方を教えます。 材料はマグカップとキッチンペーパーです。 作り方は……