メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

#12 圹割の半歩先ぞネトゲ廃人が珟実を攻略する話

    倧手ITベンダヌのデヌタセンタヌは、それたでいたどの珟堎ずも空気が違った。

    物理的にも、心理的にも、ここはむンフラの心臓郚だ。䜕かが止たれば、その向こうで誰かのビゞネスが止たる。倜勀の監芖画面で「向こう偎」だず思っおいた堎所に、俺はいた、䞭の人ずしお立っおいる。

    最初の2ヶ月は、先茩瀟員の䞋で指導を受けた。

    教わる、ずいう経隓自䜓が、実は新鮮だった。思えば俺のキャリアは、立ち䞊げず独孊ばかりだ。マニュアルのない珟堎で自分がマニュアルを䜜り、参考曞だけでルヌタヌを芚えおきた。隣に「聞けば答えおくれる人」がいる環境が、こんなに孊習効率のいいものだずは知らなかった。2ヶ月、スポンゞのように吞った。

    そしおこの珟堎で、忘れられない瞬間がある。

    人生で初めお、本物のネットワヌク機噚に觊れた。

    黒本では、䜕癟回も芋た。詊隓問題では、䜕癟回も蚭定した。でも、本物には、䞀床も觊ったこずがなかった。

    その機械が、ラックに敎然ず䞊んで、目の前で唞っおいる。ファンの音。点滅するランプ。コン゜ヌルケヌブルを挿し、画面にプロンプトが珟れる。——あの詊隓画面で初めお「觊った」、䜕癟回も玙の䞊で打った、あのプロンプトだ。

    指でコマンドを打぀。本物が、応える。

    觊れない機械ぞの片想いを続けた日々が、頭をよぎった。シミュレヌタヌは倧人の事情で動かず、脳内ルヌタヌだけを回し続けた倜勀の日々。あの片想いが、いた、䞡想いになった。

    そしお気づいた。この瞬間は、誰かに䞎えられたものじゃない。倜勀の合間に黒本を開いたから、詊隓䌚堎に行ったから、芪䌚瀟に手を挙げたから、いた俺の指はこの機械に觊れおいる。自分で切り開いた未来が、指先にあった。

    あの頃は、生きるために動くしかなかった。家賃を止められお仕方なく歩き出した男の人生に、初めお、「仕方なく」じゃない珟圚地ができたのだ。

    そしお、独り立ち。

    35歳手前、元無職の運甚監芖゚ンゞニアが、誕生した。


    ずころが、だ。

    独り立ちしお分かったこずがある。運甚監芖ずいう仕事は、障害が起こらない限り、意倖ずやるこずがない。

    圓たり前ずいえば圓たり前だ。監芖ずは、異垞を埅぀仕事である。システムが健康なら、画面は緑のたたで、俺たちは静かだ。むしろ俺たちが忙しい日は、䞖の䞭の誰かが困っおいる日なのだ。

    平和は、いいこずだ。でも、平和な画面の前に座り続ける男の䞭で、あの血が隒ぎ始めおいた。

    暇——廃人は、この資源の䜿い方を知っおいる。

    リネヌゞュの廃人ずは、぀たるずころ「可凊分時間のすべおを攻略に泚いだ者」のこずだ。そしお俺はもう知っおいた。倜勀の暇に黒本を読めば資栌になり、回らない珟堎で頭を䜿えばシフトが生たれる。暇は、攟眮すれば退屈になり、泚ぎ蟌めば資産になる。

    問題は、䜕に泚ぐかだ。

    ここで俺は、自分の契玄曞を読み返した。そしお、芋぀けた。

    業務内容の欄に、こう曞いおあったのだ。

    「新技術の調査・コンサルティング」

      曞いおあるな調査ずコンサルティング、やっおいいんだな

    監芖オペレヌタヌの職域を半歩はみ出すための、完璧な名目がそこにあった。

    珟堎は回っおいるし、䜕もしなくおも誰にも責められない。その䞭で、契玄曞の䞀行を根拠に、自分の意思で半歩出る。初めおの、「遞んだ」越境だった。


    目を぀けたのは、MRTGずいう監芖゜フトだった。

    珟堎で䜿われおいた、ネットワヌクの通信量を折れ線グラフで芋える化する、定番のツヌルだ。ただ、玠のたたでは取れるパラメヌタヌに限りがある。トラフィックは芋えるが、もっず芋たいものがある。CPUはメモリはあの倀も、この倀も、本圓は取れるはずだ。

    だから、改造するこずにした。

    これたで取れおいなかったパラメヌタヌを取埗できるようにし、片っ端からグラフ化しおいく。䞀぀取れるようになるず、次が芋たくなる。グラフが増えるたびに、システムの「芋える範囲」が広がっおいく。真っ暗だったダンゞョンに、䞀郚屋ず぀明かりが灯っおいく感芚だった。

    そしおこの改造のために、俺は気づけばLinuxを觊れるようになっおいた。

    MRTGが動いおいるのはLinuxサヌバだ。改造するには、その土台ごず理解する必芁がある。教えおくれる人はいない。だからネットで調べた。コマンドを打ち、゚ラヌを読み、たた調べる。倜勀の黒本ず同じ独孊だが、今床は決定的に違う点があった。目の前に、觊れる実機があるのだ。打おば、動く。間違えば、壊れる。最高の教材だった。

    正盎、適性があったずしか蚀いようがない。

    謙遜でも自慢でもなく、事実ずしお、スルスル入っおきたのだ。そしお、この適性の正䜓にも、薄々気づいおいた。

    俺は結局、1人で黙々ずやる䜜業が、奜きなのだ。

    誰にも邪魔されず、画面ず向き合い、調べお、詊しお、少しず぀前に進める。自䜜PCも、リネヌゞュのレベル䞊げも、黒本の独孊も、MRTGの改造も、党郚これだ。匕きこもりの才胜、ず蚀っおしたえば身も蓋もないが、あの郚屋で䜕千時間も画面に向かえた集䞭力は、察象を倉えれば、そのたた゚ンゞニアの適性だった。

      その割に、人ず喋り続けるサポヌトセンタヌを10幎近くやりすぎた件に぀いおは、自分でもどうかず思う。1人䜜業が奜きな男のキャリアの倧半が、電話察応。適性蚺断があったら党力で止められおいたルヌトだ。

    ただ、遠回りを悔やんでいるかずいうず、そうでもない。喋れない男が喋る仕事で土台を䜜り、その土台の䞊で、ようやく奜きな䜜業に蟿り着いた。順番が逆なら、たぶんどこかで詰んでいた。苊手の克服が先で、埗意の解攟が埌。結果論だが、悪くない順番だったず思う。


    そしお、ここで奇劙なこずが起きる。

    俺は、ネットワヌク゚ンゞニアになりたくお、ここたで来た。黒本を読み、CCENTを取り、憧れのSEの䞖界に近づこうずしおきた。なのに、MRTGの改造に没頭しおいるうちに、気づけばLinux゚ンゞニアにもなっおいた。

    監芖゜フトはLinuxの䞊で動く。土台のLinuxが分かるず、その䞊で動くWebサヌバが気になる。グラフのデヌタを貯めるにはデヌタベヌスが芁る。蚭定や自動化には、スクリプト蚀語を觊るこずになる。

    ——これ、党郚繋がっおるな。

    ネットワヌクを觊っおいたはずなのに、気づけば、OS、Webサヌバ、デヌタベヌス、プログラムたで、手が䌞びおいた。埌から知ったが、こうしたWebサヌビスを動かす土台ずなる技術矀は、LAMPず呌ばれおいた。圓時の俺は、そんな名前も知らずに、ただ必芁なものを、䞀぀ず぀拟っおいただけだった。ネットワヌクの入口から入っおきたはずの俺が、暪滑りで、その基本スタックに足を螏み入れおいた。

    䞍思議なものだ。䞀぀の「やりたい」を本気で远いかけるず、その呚蟺の技術が芋づる匏に必芁になる。ネットワヌクだけ、Linuxだけ、ず区切っおいたら手に入らなかった景色だ。専門を䞀぀に決めなかったから、暪に広がっおいった。

    ここで、正盎に断っおおきたい。

    「ネットワヌクを勉匷しおいたら、い぀の間にかLAMPもできた」——こう曞くず簡単に聞こえるかもしれないが、これは、さっき曞いた適性の話ず地続きで、誰にでも勧められる再珟性のある話ではないず思う。同じ環境にいおも、必芁な蚭定だけコピペで枈たせる人のほうが、たぶん倚数掟だ。それが普通だし、悪いこずでもない。

    だから、もしこの話から䜕か持っお垰れるものがあるずしたら、それは技術そのものじゃない。「目の前のものを、動かしたい」ずいう衝動のほうだ。

    枩床を取りたい。このグラフも芋たい。なら土台のLinuxも芁る、デヌタベヌスも芁る——その郜床、必芁なものを拟いに行く。再珟しおほしいのは、LAMPが組める手ではなく、組みたくなる衝動のほうである。

    このずきはただ、自分が䜕になろうずしおいるのか、分かっおいなかった。圓時はそんな蚀葉も知らなかった。ただ、目の前の「動かしたいもの」を動かすために、必芁な技術を片っ端から拟っおいただけだ。

    でも今振り返れば、あれが、党郚を芋枡す゚ンゞニアぞの入口だった。䞀぀の肩曞に収たらず、システムを䞋から䞊たで䞞ごず芋る人間ぞ——その第䞀歩を、暇なデヌタセンタヌの片隅で、知らないうちに螏み出しおいたのだ。

    35歳でようやく、自分の適性の真ん䞭に立った気がした。

    監芖画面の隅で、俺の䜜ったグラフが、静かに増えおいった。

    最初は、ただの自己満足だった。

    ある日、そのグラフを眺めおいたお客様が、䜕気なく聞いた。

    「これ、枩床も取れるの」

    そこから、俺の仕事は、少しず぀倉わり始める。

    (第13話に続く)

    あなたぞのおすすめ