
すぱたすぱた
まずは先の投稿の顛末をご報告。
午後3時すぎに雪はピタリと止んだとはいえ、帰宅は大きな通りからの大迂回になるなあ、と覚悟していたのですが、夕方までには例の倒木は処理され、ちゃんと通行できるようになってました。しかもあれ一本だけじゃなくて、さらに写真の3、40m先でも2本倒れてたようで、それも道路から撤去されてました。仕事の早さに驚いた。
ほんとうにありがたい。お仕事おつかれさまです。と、この場を借りて。
さて、インパクトのある良話は、有名人のネタか、都市伝説か、すでに知られた類話があるのでは?と疑ってしまうビビリのワタシ。
それを恐れて、ひとさまに披露するのは「あんまり怖くない話」に偏りがちってこともある。(ちょっと言い訳がましい)
これもまた夕方の話だ。
聞いたのは平成に入ってすぐの頃。
一時期、ビルメンテナンスの会社に勤めていた弟から聞いた、当時の同僚Aさんの体験談。
ある低層ビルの改装工事でのこと。
工事の終盤、内装や電工・設備関係の造作が終わってからが清掃担当の出番である。
その清掃作業を終えた、夕方のことだ。
その日、現場に入った社員は3、4人だったか。
うち一人が最後の点検をし、他のメンバーがその間に機材・資材を社用車に積み込んでおくことになった。
最終点検役がAさんだった。
最上階の、4階だか5階だかから順にフロアをチェックしていく。
工具や機材の忘れ物や、誰も残っていないことを確認して、クリアならその階の照明を落とす。
階段で下の階へ。
これを繰り返して順に階を降りていく。
エレベータは稼働させていない。
強烈な西日が階段室の各階の採光窓から差し込んでいた。 だから階段の照明は点けていなかったそうだ。
上の階から順に降り、最後に2階をひととおりチェックしてから、フロアの照明をぱちん、ぱちんと落とした。
この頃には、下の階ではもう西日はほとんど入ってこない。 階段はすっかり暗くなっていた。
この階段でアクセスできる1階は機械室のみ。そこはすでに施錠してある。
だからフロアチェックはこれでおしまい。
さて、とAさんが1階へと降りかけたその時、
すぱたすぱたすぱたすぱたすぱた‥‥
と、ペタペタの安物っぽそうなスリッパの音をたてて、ずっと上の階から大慌てで誰かが駆け降りてくる足音が階段室に響いてきた。
あれ、誰かまだ残ってるヒトいた?
おかしいな、トイレも見たよな。何階に居たんだろ。設備屋も内装屋もウチらより先に撤収していたはず。
社の誰かだろうか。どこかで行き違った?
安全靴の跡をつけたくない場所でスリッパで作業するのはよくあること。
それはおかしくないのだが。
‥‥すぱたすぱたすぱたすぱた‥‥
それにしてもすごい大慌てだな。暗闇にビビってるのか。
ちょっとクスっとして、上に向かって声をかけた。
「やー、ごめんごめん。電気消しちゃって。まだ残ってたのわかんなかったよ。ここで待ってるから」
‥‥すぱたすぱたすぱたすぱた‥‥
すごい勢いで降りてくる。
いや、まあそんなに慌てなくても、と 2階-1階の中間の踊り場に留まり、降りてくる人を待つ。
‥‥すぱたすぱたすぱたすぱた‥‥
音は近づいてきた。
ここには眼下の1階出入り口の両開きの扉から、いくらか外光は入っている。
すぐそこの、2階の角を曲がったら下りてくる人の姿が見える。
‥‥すぱたすぱたすぱたすぱたすぱた
はずが、え?音はその角を曲がったのに
‥‥すぱたすぱたすぱた‥‥すぱた。
自分の立っている踊り場の、すぐ目の前の段まで足音が来た。
足音だけが眼前でピタリ止まった。
のに、誰の姿もない。スリッパもない。
「!!!!!」
今度はAさんが大慌てで階段を駆け降りる。 ついには段とばしで飛び下り、転がる勢いでドン突きの扉をはね開けて外へ飛び出した。
機材を積み終えた社の車が、扉のすぐ前に横付けされていた。
西の空の残光だけ、外はもう薄暗くなっており、自分が降りてくるのを仲間たちがライトを点けた車の外で待っていた。
「いま、そこ!かいだん!」
パニック状態のAさんの様子に、待っていた一同も驚いた。
大慌てで叫びながら飛び出してきたと思ったら、腰砕けで仲間にすがっているのだから無理もない。
落ち着かせてから何事があったのかと、よくよく聞いたところ、上の話だったと。
先に積込みを終え、Aさんを外で待っていたメンバーの一人が、私の弟である。