ことばを訳す。時代を越えて、人をつなぐ。Translating Words, Connecting People Across Time
今日、9月30日は「国際翻訳デー」です。
この日を迎えて、あらためて津田梅子さんのことを思いました。
私は大学で日本語を教える一方で、翻訳にも関わってきました。その中の一冊が、津田梅子さんについての本です。
今では五千円札の肖像としても知られる梅子さんですが、翻訳をしながらその人生をたどっていくと、だんだん「歴史上の人物」というだけではなく、一人の女性として身近に感じるようになりました。
どんな思いでこの道を選んだのだろう。
このとき、迷いはなかったのだろうか。
それでも、どうして前に進めたのだろう。
一つ一つのことばを追いながら、そんなことを何度も考えました。
翻訳は、ただ意味を別の言語に置き換えるだけではないのだと思います。
その人が生きた時代や文化、そのことばを口にしたときの気持ちまで考えながら、どうすれば伝わるのかを考えます。
津田梅子さんとは、翻訳だけでなく、朗読を通しても向き合う機会がありました。
梅子さんのスピーチを朗読したときのことは、今でもよく覚えています。
翻訳しているときにも梅子さんの思いには触れていましたが、実際に声に出して読むと、その思いがさらに深く胸に入ってきました。
読んでいる途中で何度も感極まり、涙を抑えるのが大変でした。
朗読ですから、途中で泣いてしまうわけにはいきません。何とか声を保とうとするのですが、梅子さんのことばを読むたびに胸がいっぱいになりました。
そのとき、ご一緒したプロのピアニストの先生が、涙を抑える方法を教えてくださいました。
まさか、津田梅子さんの朗読をしたことで、そんなことまで教えていただくとは思っていませんでした。
今振り返ると、それもあの朗読会でいただいた大切な学びの一つです。
翻訳では、一つ一つのことばを読み込みながら梅子さんに近づきました。
朗読では、そのことばを自分の声にしてみることで、また違った形で梅子さんの思いを感じることができました。
そして、私にとってもう一つ大切なのが、日本語教育です。
教室でも、ことばを通して人と人がつながっていく瞬間をたくさん見てきました。
一つの日本語のことばから、学生の国の文化や暮らしの話に広がることがあります。
「日本ではこう言います」と私が説明すると、今度は学生が、
「私の国では、こう言います」
と教えてくれることもあります。
日本語を教えているつもりなのに、いつの間にか私の方が教えてもらっていることも、本当にたくさんあります。
最近も、授業で「贅肉」ということばを説明したところ、中国からの学生が別の表現を教えてくれたり、防災の話をしていたら、学生の方がきちんと防災バッグを用意していて、私が反省したりしました。
教える側、教わる側と、きれいに分かれるわけではないのだと思います。
ことばを通して、お互いの暮らしや文化を知り、ときには一緒に笑いながら、少しずつ相手の世界を知っていきます。
私は、そんな教室がとても好きです。
翻訳をするときも、日本語を教えるときも、朗読をするときも、私が大切にしたいことは同じなのかもしれません。
ことばだけを見るのではなく、そのことばの向こうにいる人を感じることです。
その人が何を思い、どんな背景の中でそのことばを使っているのか。
そこまで想像しながら、ことばと共にその人の想いを大切に届けていきたいと思っています。
国際翻訳デーの今日、久しぶりに自分の翻訳した本を見ながら、そんなことを考えました。
これからも、翻訳でも、日本語教育でも、朗読でも、一つ一つのことばを大切にしていきたいと思います。
ことばを訳す。時代を越えて、人をつなぐ。
……それにしても、こんなに梅子さんが好きなのに、
お札の梅子さんの方は、なかなか私のところへ会いに来てくれません(笑)。
いつか、もう少したくさん会いに来てくれますように。
日英対訳 『梅子の7つの習慣』 The Seven Habits of UMEKO TSUDA
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