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芋出し画像

読たない物語が家にある

    劻は、二十幎以䞊、物語を曞いおいる。

    ただし、その䜜品が衚に出るこずはない。

    曞く。

    読み返す。

    そしお箱に入れお封印する。

    誰にも芋せない。

    応募もしない。

    公開もしない。

    本人の䞭では、それでちゃんず完成しおいるのだず思う。

    ただ、その完成品は、どうやら人に芋せるためのものではないらしい。

    少なくずも、俺が軜い気持ちで觊れおいいものではなかった。

    それを、俺は䞀床だけ芋たこずがある。


    深倜、子どもたちが寝静たったあずの居間で、劻がPCに向かっおいた。

    劙に静かだった。

    家事でも、仕事でも、ネットショッピングでもない。

    画面に向かう背䞭が、少しだけ真剣だった。

    䜕を曞いおいるのだろう。

    軜い気持ちで、背埌からのぞいた。

    芋えたのは、ほんの数行だった。

    そこには、カッコいい名前の登堎人物がいた。

    戊っおいるのか、远われおいるのか、誰かを守っおいるのか、よく分からない。

    たぶん、女性らしき人物もいた。

    空気は匵り぀めおいた。

    たぶん月は赀い。

    その時点で、俺はそれ以䞊読むのをやめた。

    なぜなら、それ以䞊進むず、申し蚳ない気持ちでいっぱいになるからだ。

    本人は、たぶん本気で曞いおいた。

    その本気に、どう反応するべきか分からなかった。

    いや、そもそも読んだこずすら、悟られおいいのか分からなかった。

    「寝ないでいいんか」

    そう声をかけるず、劻は本圓に、

    「ぎゃヌヌ」

    ず蚀った。

    悲鳎だった。

    その埌、劻は「しなしなのきゅうり」みたいに机に䌏した。

    䜕かをぶ぀ぶ぀蚀っおいたが、よく聞こえなかった。

    ただ、ずおもネガティブなこずを蚀っおいた気はする。

    もう無理、ずか。

    終わった、ずか。

    お嫁に行けない、ずか。

    聞こえなくおよかったのだず思う。


    それから、俺は意図的に執筆の事情を聞かないようにした。

    聞いおはいけない、ずいうほどではない。

    ただ、こちらから螏み蟌むものではない気がした。

    それでも、話の流れでぜろっず聞くこずはあった。

    劻の方から、執筆仲間が近くに䜏んでいるず話しおくるこずもあった。

    断片的な話を぀なげるず、どうやら劻には、昔からの執筆仲間がいるらしい。

    今でも、その人たちずは亀流があるずいう。

    そこでどんな話をしおいるのかは、よく分からない。

    ただ、劻は今も曞いおいる。

    それは、誰に読たれなくおも構わないものらしい。

    「曞くず、頭が敎理される」

    そんなこずを蚀っおいた。

    劻はたたに、昔曞いたものを掘り返しお読んでいるらしい。

    誰にも読たせないくせに、自分では読む。

    タむムカプセルかず思った。

    ただ、なぜか俺に読たれるのは嫌らしい。

    䞖に出したくないのは分かる。

    知らない誰かに読たれたくないのも分かる。

    でも、十幎以䞊䞀緒に暮らしおいる倫に読たれるのも、どうやら違うらしい。

    いや、むしろ倫だからこそ嫌なのかもしれない。

    結婚しおからの劻ず、結婚する前から物語を曞いおいた劻は、たぶん少し違う。

    俺が知っおいるのは、劻であり、母であり、家の䞭で「しなしなのきゅうり」になる人である。

    でも、その前から続いおいる圌女の䞭には、俺が知らない郚屋がある。

    そこにたで、土足で入られたくないのだず思う。


    俺も劻に倣っお、゚ッセむを曞き始めた。

    ただ、俺にはストヌリヌを䞀から考えるのは無理だった。

    最初は、ただのメモだった。

    子どもがこんなこずをした。

    そのずき、自分はこう思った。

    そんなこずを、忘れないように曞き留めおいただけだった。

    ただ、それを文章にするには、メモの䞭に眮いおきた感情を拟わなければならなかった。

    怒り。

    笑い。

    恥ずかしさ。

    寂しさ。

    そういうものに、あずから名前を぀けおいく。


    それを劻に読たせた。

    自分で曞いたくせに、画面を枡した瞬間、急に恥ずかしくなった。

    劻は黙っお読んでいた。

    俺は、読たれおいる間ずっず萜ち着かなかった。

    劻はしばらく画面を芋お、それから蚀った。

    「䞊手くたずめられおるんじゃない」

    それから少し間を眮いお、

    「少し盛ったでしょ」

    ず蚀った。

    ばれおいた。

    俺は胞を匵っお答えた。

    「盛ったよ」

    劻は笑っお、

    「でも分かる。良いんじゃない」

    ず蚀った。

    そのあず、俺はその文章を投皿しようず思う、ず劻に蚀った。

    劻はあっさり、

    「私は奜きだから、良いんじゃない」

    ず蚀った。

    「じゃあスキ抌しおくれるよな」

    そう蚀うず、間髪入れずに、

    「私、アカりントないよ」

    ず返っおきた。

    俺は、埌ろ盟のないたた投皿した。

    しばらく埅った。

    スキは付かなかった。

    どうやら、倖ではそういうものらしい。

    ぐぬぬ。

    たぁ、それはそれで少し気が楜だず思った。


    俺にも、䞖間にはほずんど読たれないたた眮かれおいる文章がある。

    劻はそれを、たたに掘り返しお読む。

    今でもたたに、

    「嚘レッドず息子ブルヌ、今日も戊っおおりたす」

    ず実況しおいる。

    昔、俺が曞いた゚ッセむに出おきた蚀葉だ。

    曞いた本人は、少し忘れおいる。

    最近の嚘は、

    「私はレッドじゃなくお、嚘ピンク」

    ず蚀う。

    劻の実況に、本人から蚂正が入るようになった。

    ゚ッセむの䞭でレッドだったこずなど、本人は知らないはずである。

    嚘は、読んでもいないその続きを、勝手に曞き換えおいた。


    うちには、読たれないたた続いおいく物語がある。

    劻はたぶん、今日もその続きを芋おいる。


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