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ショートショート ラスト・パーティー

    岩鷹 | 習慣化 断酒 創作


    「いい、ローラ。下層区(セクター9)のジャンクたちのことは、視界からデリートしておきなさい。今日のパーティーは、あなたの新しいボディの、最高のお披露目なのだから」

    マザー・シェリダンは、ローラの量子プロセッサに直接、極上の最新情報を流し込みながら微笑んだ。

    シンギュラリティ以後の世界において、死は「貧しさ」と同義だった。富裕層は脳を量子化し、強靭で美しいナノマシン・ボディへと乗り換える。彼らにとって人生とは、不老不死という特権を誇示するための、終わりのない光り輝くパーティーだった。

    ローラに与えられた最新型のボディは、非の打ち所がない最高級品だった。流線型のプラチナ・フレームに、角度によって黄金のデージーのように煌めくホログラム・スキン。

    特区のすぐ外で、生身のまま働いていた下層民の男が、重機の爆発に巻き込まれて死亡したというログを拾ったとき、ローラは一時、プロセッサを激しく動揺させた。パーティーを中止すべきだとさえ訴えた。

    しかし、鏡に映る自分の、あまりにも完璧で美しい最新ボディを見た瞬間、彼女のセンサーは歓喜で満たされてしまった。

    「……まぁ、あちらの世界はそういうものなのね」

    ローラは思考にプロテクトをかけ、眩い光と音楽に満ちたパーティーへと駆け出していった。

    パーティーが終わった夕暮れ時、マザーは余った高濃度エネルギーパックをケースに詰め、ローラに手渡した。
    「あちらの遺族に届けておいで。我が家の慈悲を分けてあげるのよ」

    特区のゲートを越えると、世界から色彩が消えた。

    セクター9は、オイルの泥と、錆びたパーツの削り屑で満ちていた。その薄暗闇の中で、ローラの黄金に煌めくホログラム・スキンは、冷酷なほどに眩しく浮き上がっていた。すれ違う下層民たちの、すり減ったお粗末な人工肉体が、ローラの最新ボディを忌々しげに見つめる。ローラは自分の輝きが恥ずかしくなり、身を縮めた。

    案内された粗末なシェルターの奥に、その遺体はあった。
    サイボーグ化の恩恵を受けられず、肉体のまま命を終えた若い男。

    ローラは恐怖でセンサーを狂わせるかと思った。しかし、違った。

    男は、深く、深く眠っていた。

    そこにはパーツの劣化への怯えも、エネルギーの奪い合いも、特区の傲慢な喧騒も届かない。ただ、命を燃やし尽くした者だけが到達できる、圧倒的で、神聖なまでの完成された平穏があった。

    不老不死の私たちが、どれだけボディを磨き、終わりなき享楽に興じようとも、決して手に入らない本物の「生の尊厳」がそこにあった。

    それに比べて、自分のまとっているこの最新のプラチナ・ボディは、なんと浅はかで、軽薄で、不躾な機械の塊なのだろう。男の厳かな死の前で、自分の特権的な輝きが、どれほど残酷に彼らを傷つけているかを、ローラは初めて理解した。

    ローラの目元から、熱い合成涙液が溢れ、床の染みとなって消えた。

    彼女は輝くホログラムの手を胸に当て、静かに、心からのエラーを吐き出すように呟いた。

    「……こんな身体(すがた)で押し掛けて、ごめんなさい」

     
     
     
    断酒で人生リセット。 AIと共に小説を毎日執筆。 副業ノウハウや習慣化、妄想起業アイデアも。 英語中国語の語学学習継続中。 物語もビジネスも妄想から始まる。 |https://note.com/denkenanima ※本記事にはアフィリエイトリンクが含まれます。

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