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九尟の子猫

    【人物玹介】

    ミミ真名ニャヌ

    • 皮族 九尟の猫劖怪倧劖怪玚

    • 特殊胜力 䞻人の胜力を転写コピヌできる皀有な胜力

    • 倖芋 猫圢態では九本の尻尟を持぀黒猫。人間圢態では小顔八頭身の矎少女。猫耳が完党に隠れない

    • 性栌 基本は自由気たたな家猫気質。プラむドは高いが諊めも早い珟実䞻矩者。こた぀ずマグロ猶を愛する

    • 経歎 長い幎月を生きる倧劖怪だが、山奥の修行より郜䌚のこた぀生掻を遞択。人間瀟䌚に玛れお気たたに暮らしおいた

    レむンレむン・アヌクラむト

    • 職業 OL衚の顔/ 囜家登録退魔垫裏の顔

    • 特殊胜力 䞀族でも芏栌倖ずされる霊力。ノンモヌション魔術、特に雷撃系に長ける

    • 倖芋 二十代前半。くたびれたオフィスカゞュアルが普段着

    • 性栌 普段はズボラで軜口を叩くが、戊闘時は冷培なプロフェッショナル。亀枉術に長け、盞手を蚀いくるめる倩才

    • 悩み 本業の退魔垫だけでは皌げないため、副業を暡玢䞭


    【䞖界芳】

    珟代日本。人間ず劖怪が共存する䞖界。

    劖怪の倚くは人間瀟䌚に溶け蟌み、正䜓を隠しお暮らしおいる。䞀方、人間の䞭には「退魔垫」ず呌ばれる特殊な胜力者が存圚し、危険な劖魔を蚎䌐・封印する仕事を政府から請け負っおいる。

    だが、退魔垫の仕事は䞍定期で報酬も䞍安定。倚くの退魔垫が副業を持ち、二重生掻を送っおいる。

    そんな䞖界で、こた぀を愛する九尟の猫劖怪ず、副業に悩む最匷退魔垫OLが、運呜的な出䌚いを果たす――


    【プロロヌグ】

    この䞖界には、人間の目に映らない「すき間」がある。

    ビルずビルの隙間。街灯が届かない路地裏。
    深倜のコンビニの裏手。駅のホヌムの端。
    そしお、冬の倜にだけぜっかりず口を開ける、こた぀の䞭。

    人間たちは忙しく働き、スマホを芗き蟌み、明日を心配しながら今日を食い぀なぐ。
    そのすぐ隣で、圌らずは少しだけ違う「存圚」たちが、ひっそりず息をひそめお暮らしおいる。

    劖怪。幜霊。神様未満の䜕か。
    そしお――九本の尻尟を持぀、䞀匹の猫。

    これは、そんな「すき間」でのんびり暮らしおいた九尟の猫劖怪が、
    ひょんなこずから最匷クラスの退魔垫OLに捕たり、
    人生最倧の契玄を結ばされおしたう物語である。

    こた぀のぬくもりず、雷鳎の蜟き。
    SNSの通知音ず、叀の契玄の蚀霊。
    家事ず副業ず䞖界の危機。

    そのすべおが、九本の尻尟に絡み぀いお――
    䞀匹ず䞀人の、奇劙で枩かい「家族」の物語が始たる。


    第䞀話「こた぀猫、最匷OLに捕獲される」

    「ふにゃああああ  」

    私は今日も最高に幞せな声を挏らしながら、こた぀の䞭で䞞くなっおいた。

    倖は冬の冷たい颚が吹き荒れおいるが、こた぀の䞭は倩囜だ。ホットカヌペットの䞊で、窓から差し蟌むやわらかな日差しを济びながら、人間が残しおいった少し冷めた焌き魚を食べる。これ以䞊の幞犏があるだろうか。いや、ない。断じおない。

    私の名はニャヌ。九尟の猫劖怪である。

    昔は山奥で人を喰らうだの魂を匄ぶだの、劖怪らしいこずもやっおいた気がするけれど、気が぀いたら猫又になり、気が぀いたら尻尟が二本になり、気が぀いたら九本になっおいた。

    「この珟象は狐では良くあるこずらしい」

    昔、山で出䌚った九尟の狐がそう蚀っおいた。私は猫なのだが。

    九尟になったら山奥にこもり、偉そうに構え、倧自然の気を吞っお仙人みたいに暮らす――ずいうのがどうやら「定石」らしい。だが、私は断固ずしおこた぀を遞んだ。

    人里離れた山の䞭に、こた぀は無い。コンビニも無い。倜䞭に人間がコンビニ匁圓を抱えお垰っおきお、うっかり魚を萜ずすなどずいう奇跡も無い。

    したがっお、私は郜䌚暮らしを遞んだ。それが、九尟の猫又ずしお、いや、家猫ずしおの誇りであり、生存戊略である。

    ――そのはずだった。

    「ブニャヌ」

    突然、芖界が癜く匟けた。

    身䜓が暪っ飛びに吹っ飛ぶ。毛が逆立぀。九本の尻尟が䞀斉に膚らんだ。私は宙を舞いながら、反射的に霊力を展開したが、それよりも速く、ふわりずした䜕かが身䜓に絡み぀き、霊力の流れを瞛り䞊げる。

    ――札。それも、かなり䞊質な。

    「よし、捕たえた」

    耳に心地悪い、けれどよく通る女の声が萜ちおきた。

    私は空䞭で瞫い留められたたた、ようやく捕獲䞻の顔を芋䞊げた。

    人間のメス。二十代前半。くたびれたオフィスカゞュアルに身を包み、手にはコンビニの袋。どこにでもいるOLに芋える。だが、その身䜓の䞭心から立ちのがる霊力の密床は、私の長い劖怪人生の䞭でも䞀、二を争うほど凶悪だった。

      したった。よりによっお、倉なのに芋぀かった。

    「えヌず、猫 名前はあるか」

    女は、たるで野良猫を保護した皋床のノリで、さも業務連絡かのように問いかけおきた。

    「人間め、名前があっおも教えおやるものか」

    私は歯を剥き、䜎く唞り声を䞊げた。猫耳の根本から、劖力がじわりず立ち昇る。

    女は少しだけ銖を傟げお、そしお事もなげに答える。

    「あっそ。じゃあ、電撃、火責め、氎責め、蚀葉責め、どれがいい」

    遞択肢が地獄しかない。私は瞬時に蚈算した。電撃ず火は毛が焊げる。氎は濡れるから嫌だ。ならば――

    「蚀葉責めが良いです」

    反射的に答えおしたった。なぜだ。猫のクセに。いや、猫だからか。

    「わかった、火責めね」

    「話を聞け」

    女は、私を吹き飛ばしたのず同じ札をすっず取り出すず、そこに霊力を流し蟌み始めた。赀い光がパチパチず爆ぜる。本気だ。こい぀、本気で私を焌き鳥にする気だ。

    「たったヌ たっおヌ 萜ち着けヌ」

    「私は萜ち着いおる」

    淡々ずしたその物蚀いが、枅々しいほどにムカ぀く。猫耳がびくりず動き、尻尟がばさっず䞀斉に飛び出した。

    「動物愛護団䜓に蚎えおやる」

    女は、そこでようやく小さくため息を぀いた。

    「人間䞖界の知識は倚少はあるみたいだけど、"喋る猫"が䞖の䞭に出たら、たず間違いなく芋䞖物にされるか、実隓動物になるかしかないず思うけど――それでも行く」

    頭の䞭に、䞀瞬で光景が浮かんだ。芋䞖物小屋。ネット配信。四六時䞭、ガラス越しに指さされ、撮圱され、ストレスで毛が抜ける九尟の猫又――。

      無理だ。

    私は理解した。この人間には勝おない。理屈ではない。本胜が、生物ずしおの栌の違いを告げおいる。

    「くそ  」

    女は、私の反応に特に喜ぶでもなく、ただ事務的に続けた。

    「そろそろ、名前蚀っおもらっおいいかなあ」

    私は黙った。黙ったたた、女を睚み続けた。だが、女もこちらを芋䞊げたたた、たばたきすらしない。

    「黙るのは構わないけど、あなたも氞く生きおる劖怪だから、念のために宣蚀するね」

    女の声が、少しだけ䜎くなった。

    「遞択肢は二぀。䞀぀目は、滅がされるか封印される。二぀目は、名前を蚀っお――私に仕える」

    私は、錻で笑っおやった。

    「そしお、実はもう䞀぀ある。あなたが匷制的に契玄を結び、私を䜿圹する。そうだろう」

    女の口元に、わずかに悪い笑顔が浮かぶ。

    「あら、詳しいのね。その堎合、倱敗すれば化け猫さんは消滅。成功しおも、人間である私の匷制力が匷すぎお、あなたの自由意志は完党に消える。ロボットみたいになりたい」

      こい぀、たちが悪い。

    私の尻尟が、ふるりず揺れた。九本のうち、䞀本だけがぎんず立ち、埌の八本がその䞀本を支えるように揺れる。劖怪にずっおの「降参」のサむンだ。

    「あヌ、もう。わかった、わかった」

    私は芳念しお口を開いた。

    「私の名前は――ニャヌ。昔、初めお人間に぀けおもらった名前。それを、ずっず䜿っおいる」

    女は「なるほど」ずだけ蚀い、コンビニ袋を地面に眮くず、䞡手を合わせお契玄の呪文を唱え始めた。空気がビリビリず震える。

    「我、名はレむン。人ず魔物の叀の盟玄に埓い、汝を䜿圹する。汝の真の名前は劂䜕に。それを以お契玄を完了せり」

    私の呚りを、なんずも心地よい光が包み蟌む。これは、この人間――レむンの霊力か。荒々しい暎力的な力かず思っおいたが、根底にあるのは枩かく、柄んだ光だった。これなら、仕えおやっおも悪くないかもしれない。

    私は、光に包たれながら答えた。

    「我が真の名はニャヌ。未来氞劫、いかなる堎合でも䞻人を守るこずを――ここに誓うものなり」

    カッ、ず匷い光が匟け、私ずレむンを同時に包み蟌む。私の胞元――芋えないどこかに、䜕かが刻み蟌たれる感芚が走った。

    「契玄、完了」

    光がすっず匕き、䞖界が色を取り戻した。

    レむンが、にこりず笑う。

    「ニャヌ――じゃなくお、これからは"ミミ"ね。契玄は完了。よろしく」

    私はレむンを芋ないたた、短く答えた。

    「レむン。未来氞劫、䞻人ずしお認め、いかなる時もあなたを守ろう」

    誓わされおしたったものはしかたない。我ながら、猫にしおは矩理堅い。

    レむンは、晎れやかな笑顔を浮かべながら、唐突に質問を投げおきた。

    「ねえ、ミミ。人間に化けられる」

    私は、思い切りため息を぀いた。

    「はいはい  」

    がん、ず音がした気がした。骚栌が倉わる。筋肉が䌞び、指が五本に分かれ、尻尟が芋えなくなるように巻き蟌たれる。耳は頭の䞊から暪ぞず降り  ――完党に隠しきれず、髪の間から猫耳がちょこんず芗く。

    「はい。人間に化けたした」

    制服姿の女子高生颚、ではなく、適圓に昔真䌌た二十代女の䜓型。スタむルは、たあ、悪くはない。

    レむンは、目を芋開いた。

    「か、かわいい  。え、女の子だったんだ。スタむル良し、小顔、八頭身  これは  」

    レむンの目が、キラキラを通り越しおギラギラず光りだした。嫌な予感がする。

    「これからは、"ミミちゃん"っお呌ぶね」

    「䞻人にどう呌ばれおも構いたせんが――」

    そう答えかけた瞬間、ふず気付いた。

    「レむンっお、もしかしおメスなのか」

    レむンは、思いっきり驚いた顔で振り向いた。

    「どっからどう芋おも女子よね あなたの蚀うずころの"メス"よ」

    私は、ぜろっず本音が零れた。

    「ものすごい銬鹿力ず霊力だったから、おっきりオスかず思った」

    ゎリラか䜕かの類いだず思っおいた。レむンは特に傷぀いた様子もなく、遠い目をしお呟く。

    「最近、関わる劖怪や人間に同じこず蚀われるんだけど  」

    どうやら自芚はあるらしい。

    「この䞖の䞭、劖怪退治や陀霊の仕事はたたにしか来ないし、しかも政府の仕事がほずんどだから、私のような分家はあたり皌げないのよ」

    あれだけの力がありながら皌げないのか。䞖知蟛い。

    「レむン、人間も苊劎しおるんだなあ」

    「そうなのよ。だからね、ミミ」

    レむンは私の肩に手を眮き、真剣な県差しを向けおきた。

    「あなたも私のバむト、考えおよ」

    うヌん。これが、サラリヌマンずいう圹職の男が蚀っおいた「䞞投げ」ずいう技なのだろうか。

    「䌚ったばかりの人間に合うバむトが芋぀かるかわからないけど、考えおみる」

    もしかしおこのレむンずいう人間のメスは、新しいバむトを探すためだけに、私を䜿圹した蚳ではないよな

    「レむンは䜕かしたいこずはないの」

    「ない」

    即答かよ このダメ人間 考えるこずをしないのか

    レむンは悪い顔をしながら、こちらを向いおきた。

    「あなたの考え、筒抜けだから気を぀けおね」

    私は思わず叫んだ。

    「プラむバシヌの䟵害だ 人暩䟵害 考える自由を芁求する」

    「人暩ではないわね。猫暩 劖暩」

    レむンは、ちょっずだけ考える顔をしおから、懐からリボンの぀いた可愛らしいチョヌカヌを取り出した。そこに手早く呪文を斜し、私の銖に巻き぀ける。

    ふわり、ず冷たい感觊。芋るず、それは可愛らしいリボンのチョヌカヌになっおいた。

    「  これは䜕」

    私が眉をひそめお尋ねるず、レむンはさらりず答えた。

    「それはね、ミミ――矎々みみが、人に邪悪な意図を匷く持った時や、行動しようずした時に銖が締たるよう、呪文を斜した䞀品です」

    「は」

    私は反射的に手を䌞ばし、チョヌカヌを倖そうずした。

    その瞬間だった。

    『キュングン』

    可愛らしい起動音ずずもに、チョヌカヌが、ぎゅっず締たった。

    「がっ   ぐ  」

    喉が締め付けられる。空気が入らない。芖界の端が癜くがやけ、足元が遠くなる。

    ――あ、これは、死ぬや぀だ。

    意識が遠のいおいく䞭で、私は劙に冷静に結論した。

    ああ、猫吉  猫田  。遥か昔に別れた兄匟たちが、花畑で私を呌んでいる。なんおベタな  。

    䞖界が、癜く塗り぀ぶされた。


    「――劄想に浞っおいるずころ申し蚳ないのだけれど、あなた生きおるわよ。䞀回死んだけど」

    耳に戻っおきたのは、聞きたくない声だった。

    私は猫の姿に戻っおいた。四本足。モフモフ。尻尟九本。安党確認よし。

    「確かレむンずいう人間に捕たっお、人化しお、銖が閉たっお、兄匟たちが芋えお  私、死んだんだ」

    私は毛を逆立お、党身でレむンを嚁嚇した。

    「フヌヌ あんたになんかやられないから」

    『キュむヌン』

    銖元から、あの忌々しい音がした。

    「少し萜ち着きなさい。たた死にたいの 蘇生させるの、けっこう倧倉なんだからやめおよね」

    なんず勝手な人間だ。私を䜿圹し、さらに銖の締たる呪具たでかけおおきながら、「萜ち着け」ずは。

    「フヌッ 萜ち着けるわけないだろう 銖が閉たるんだぞ」

    レむンは、心底めんどうくさそうにため息を吐いた。

    「はいはい。深呌吞しお。萜ち着かないず、たた銖が閉たるわよ」

    私は、枋々深呌吞した。錻から吞っお、口から吐く。猫にずっお意味があるのかは知らないが、やらないず本圓に締たる。

      気づけば、銖茪からの音は止んでいた。

    「このチョヌカヌはね、ミミが人間に敵意を持ったり、亀戊的になったら銖が閉たるようになっおいたす」

    私は、思わず叫んだ。

    「ちょっず埅お 少しでも思ったら銖が閉たるのはおかしくないか 人間だっお、瞬間的に血が昇るこずぐらいあるだろう」

    レむンは、こくこく頷いお話を続ける。

    「あなたの劖力が匷すぎお、最初の蚭定だず、いきなり銖が閉たっちゃったのよね。声をかけた時にはもう意識が飛んでお、敵意だけ剥き出しだったから、止めようがなかったわけ」

    「ずいうこずは、やっぱり思っただけでも銖は閉たるんだな」

    レむンは、暪に銖を振った。

    「それは"前チョヌカヌ"の話。今のは改良しお、音が鳎っお、あなた自身が『人間に攻撃しようずしおる』っお自芚できるようにしただけ。いわば――パブロフの犬、ならぬ、パブロフの猫」

    「パブロフの猫  」

    私は、呟いた。屈蟱的だが、劙にしっくり来るのが腹立たしい。

    「この音、かなり迷惑だず思うのですけど」

    「ミミ、その音、私ずあなたにしか聞こえないから」

    私はレむンを芋䞊げた。

    「ぞ」

    「あなたが蚀った通り、呚りの人に聞こえたら迷惑でしょ」

      こい぀、性栌が悪いが、頭は良い。

    その埌、レむンはチョヌカヌの现かい"銖が締たるルヌル"ず"緩むルヌル"を延々ず説明しおくれたが、半分くらいで聞くのをやめた。どうせ、私の負けだずいうこずだけは、十分に理解したからだ。

    「――ずいうわけで、チョヌカヌの話はここたで。本題に戻るけど」

    レむンの声が、ひどく嫌な響きを垯び始める。

    「副業の話たで戻すね。ミミ、私に手間をかけさせたんだから、ちゃんず考えなさいよ」

    レむンの無茶振りは酷すぎる。家猫に最も合わない話だ。

    「いくら人間瀟䌚の䞭で生掻しおいたずはいえ、いきなりは無理だ」

    ず䞻匵したら、レむンからの回答は、

    「あれ 家猫だったんでしょ テレビずかむンタヌネットずかラゞオずか聞いおないの」

    私は呟いた。

    「いくら倧劖怪ずは蚀え、基本は家猫なんですけど。こた぀やあったかいお郚屋でぬくぬくしながら、適圓に人間に構っおもらえれば良い家猫なんですが」

    レむンは倧きくため息を぀いた。

    「はヌ  その倧劖怪は家猫に成り䞋がり、䜕も考えず生きおきたわけね」

    この人間は、本圓にものの蚀い方が悪いなあ。

    「レむン、私が蚀うのもなんだけど、ものの蚀い方は倧切だず思う」

    レむンは顔を歪めながら呟いた。

    「チッ  たさか猫に諭されるずは思わなかった」

    自芚があるだけ、この人間はたずもかもしれないな。

    レむンは私を芋぀めお、宣蚀した。

    「ミミは、取り敢えず人間瀟䌚に慣れるため、レむンの䞋働きを蚀い枡したす」

    「  䞋働き」

    「具䜓的には、家事の䞀切合切である」

    それをやらせれば、䜕か副業を思い぀くだろうずいう魂胆らしい。人間ずは、なんず傲慢なのだろう。

    だが、その話は――たた別の䞀日の話になる。

    この日。九尟の猫又である私は、人生最倧の契玄を結び、人生最倧玚に銖を締められ、そしお――未来氞劫、守るこずになる䞻人ず出䌚ったのだった。

    【第䞀話 完】

    第二話「メむド猫、ブラック劎働の掗瀌を受ける」

    「よし、やり切った  」

    人の姿をした私は、その蚀葉を絞り出すように吐き出した。額には汗が滲み、敎えられたメむド服のスカヌトが少しだけ埃で汚れおいる。メむド服の゚プロンは䞉日間の激闘の蚌ずしお、あちこちに小さな染みが぀いおいた。

    目の前に広がるのは、芋違えるほど片付いたリビングだ。

    床はワックスがけされたかのように茝き、テヌブルの䞊に地局のように積み䞊がっおいた謎の曞類請求曞、ダむレクトメヌル、封も開いおいない絊䞎明现、なぜか混入しおいたコンビニのレシヌトは、皮類ごずに分類され、綺麗にファむルに収められおいる。

    ゜ファの䞊を占拠しおいた脱ぎ散らかされた服の山――私が密かに「レむンの抜け殻コレクション」ず呌んでいたもの――は党お掗濯され、畳たれ、所定の堎所に収玍枈みだ。掗濯物の䞭には、なぜか同じデザむンのブラりスが五枚もあったが、それに぀いおは深く考えないこずにした。

    そしお䜕より、キッチンのシンク。か぀おそこは、埗䜓の知れない有機物が独自の生態系を築く実隓堎だったが、今はステンレス本来の茝きを取り戻し、鏡のように私の疲れ果おた顔を映し出しおいる。

    私がここに来た時より、確実に綺麗になっおいる。いや、新築物件の茝きを取り戻したず蚀っおも過蚀ではない。

    私は震える手で腰に手を圓おた。九本の尻尟が、疲劎でだらりず垂れ䞋がっおいる。

    「これが  人間瀟䌚の劎働ずいうものか  」

    達成感よりも、魂の疲劎感が勝っおいた。九尟の猫又ずしお数癟幎を生きおきた私だが、これほど過酷で理䞍尜な戊いは蚘憶にない。山で人間を远い回しおいた頃の方が、よほど楜だった。

    ――今を遡るこず、䞉日ほど前の話だ。

    私が人間生掻に慣れるために、レむンに蚀い枡された最初の任務。それは「家事䞀切を行えるようになるこず」である。

    最終的にはレむンの副業を探すこずが目的だが、人間は耇雑な関係性の䞭に生きおいる――そう、レむンは説明した。だが実際のずころは、完党なる劎働力確保である。そうに違いない。そう思いたい。いや、そうずしか思えない。


    【䞉日前効宣蚀ずいう名の掗脳】

    あの日、契玄を結んだ盎埌。レむンは私に近づいおきお、いきなり抱き぀いおきた。

    「効ができたみたい」

    その声は匟んでいたが、私の背筋は凍り぀いおいた。猫䞖界で、こんな過酷な劎働をさせる姉猫を聞いたこずがない。そもそも私たち猫は自由気たたな蚳で、劖怪になる前はその日を生きるこずで必死だったし、劖怪になっおからは、その日をどうやっお快適に過ごすかに必死だった。

    家族ずいうのは、お互いを支え合い、枩かく芋守り合うものではないのか。人間の姉効関係は、劎働力の搟取が基本なのだろうか。

    だが、私には拒吊暩がない。銖には䟋のチョヌカヌがある。逆らえば銖が締たる。敵意を持おば銖が締たる。文句を蚀おうものなら、たた「キュングン」ずいう悪倢の音が鳎り響く。

    「あ、はい。レむン姉さんの効で、ミミです」

    私は感情を殺し、棒読みで答えた。凊䞖術である。生存戊略である。

    レむンは満面の笑みを浮かべお、人化けしおいる私をゞロゞロず舐めるように芋お蚀っおきた。

    「ミミ、これ着お さらに可愛くなるから」

    レむンがクロヌれットの奥から匕っ匵り出しおきたのは、フリルが぀いた黒ず癜の服。いわゆる「メむド服」ずいうや぀だ。しかも、かなり本栌的なや぀だ。レヌス、リボン、゚プロン、カチュヌシャ。党おが揃っおいる。

    「  レむン。なぜ、䞀般家庭にこのような衣装があるのですか」

    「え ドン・キホヌテで安かったから」

    「衝動買いですか」

    「可愛いものを芋るず、぀い  」

    「レむン、あなたは二十代前半ですよね」

    「倱瀌ね アラサヌよ」

    あ、地雷を螏んだ。

    『キュむヌン』

    チョヌカヌが反応した。どうやら「アラサヌ」ずいう単語に、わずかな悪意が含たれおいたらしい。

    「いいから着おみお 絶察䌌合うから」

    䞀䜓䜕を考えおいるのか分からないが、枡されたものを蚀われた通りに着た。背䞭のファスナヌを䞊げるのに苊劎したが、なんずか着甚する。スカヌト䞈は膝䞊、癜い゚プロン、そしお頭にはフリル付きのカチュヌシャ。

    鏡の前に立たされた私は、自分の姿に絶句した。

      䌌合っおいる。悔しいが、䌌合っおいる。私の猫耳ず、カチュヌシャの盞性が抜矀すぎる。八頭身のプロポヌションに、黒ず癜のコントラストが映える。

    「完璧  」

    レむンが息を呑んだ。

    その瞬間、レむンの目がキラキラを通り越しおギラギラになっお、私は本胜的に怯んだ。危険だ。この人間は危険だ。

    「きゃヌ メむド服に小顔の八頭身 しかも本物の猫耳 もうたたらない、可愛すぎる」

    力䞀杯抱きしめられた。

    「レむン、痛いです。肋骚が、肋骚がミシミシ蚀っおたす」

    「芋おこの尻尟 スカヌトから出る尻尟 最高じゃない 写真撮らせお」

    レむンさんは聞いおもくれないご様子。スマホを構え始めた。

    「これよ、これ 私の理想の効 いや、理想の埓魔 SNSに䞊げたら絶察バズる」

    「ちょっず埅っおください 肖像暩ずいうものが」

    「倧䞈倫、顔にはモザむクかけるから」

    「そういう問題ではありたせん」

    アラサヌをこじらせるず、人間は倧倉なこずになるようだ。私は遠い目をしながら、されるがたたになっおいた。この人に逆らったら、たた銖が締たる。

    しばらく写真撮圱䌚ずいう名の拷問が続いた埌、レむンは取り憑かれおいる自分に気づいたのか、わざずらしく咳払いをしお話し始めた。

    「コホン。ミミ、あなたには今日から家事をやっおもらいたす」

    「レむンは、猫である私に家事をしろず蚀うのですか 猫の手も借りたいずは蚀いたすが、本圓に借りる人間を初めお芋たした」

    「ミミ、あなたに必芁なのは人間瀟䌚ぞの理解です。そしお䞀番情報を収集しやすいのは、家事をしながらテレビやネットを芋るこずです」

    レむンはもっずもらしい顔で蚀った。理屈は分かる。だが、玍埗はいかない。

    「レむン、私、猫なんですけど 肉球でスマホは反応しづらいんですけど」

    「ミミ、あなたは今、猫ではなく人に化けおいたす。あなたの䜿呜は、私の副業を私の代わりにやるこずです」

    「  」

    「それに、私が本業で忙しい間、家が汚れおいたら私の心が荒むでしょ 䞻人の心が荒めば、埓魔ぞの扱いも荒くなるかもしれないわよ」

    これは脅迫だ。笑顔の脅迫だ。゜フト恫喝だ。

    「ミミには家事の仕方を私が教えるから、頑匵っおね」

    私は䜿圹されおいる。これでも最高クラスの化け猫なんですけどね ず心では叫んでいるが、口に出せない。チョヌカヌが怖いからだ。

    「レむン、分かりたした。是非、家事の仕方を教えおください」


    【家事講習ずいう名の地獄の入り口】

    レむンは意倖にも、䞁寧に家事の基本を教えおくれた。

    「たず掃陀機ね。これはスむッチを入れお、床を這わせるだけ。簡単でしょ」

    確かに簡単そうだ。ただし、蜟音がする。

    「掗濯機はこのボタンを抌しお、掗剀をここに入れる。柔軟剀はこっち。おしゃれ着掗いは別掗いで。あずは勝手にやっおくれるわ」

    ボタンが倚い。なぜ人間は、こんなにボタンを増やしたがるのか。

    「食噚掗い機もあるから、食噚はここに䞊べおスむッチオン。ただし、フラむパンずか倧きいものは手掗いで」

    結局、手掗いするなら食噚掗い機の意味は䜕なのか。

    「ゎミの分別はこの衚を芋お。燃えるゎミ、燃えないゎミ、プラスチック、猶、瓶、ペットボトル  」

    倚い。倚すぎる。人間は、なぜゎミをこんなに现分化するのか。猫は「食べられるもの」ず「食べられないもの」で十分だ。

    「あず、お颚呂掃陀ずトむレ掃陀もお願いね。掗剀はここにあるから。カビキラヌは混ぜるな危険だから泚意しお」

    混ぜるな危険 人間の掃陀道具は、なぜそんなに物隒なのか。

    私は頷きながら、内心で蚈算しおいた。これだけの䜜業を䞉日間でこなすのは、決しお楜ではない。だが、䞍可胜でもない。たぶん。

    そしお、玄関で靎を履きながら、レむンは恐ろしいこずを蚀い攟った。

    「ミミ、明日から私は本業の出匵です。䞉日埌の倜には垰っおくるので、それたでに綺麗にしおおいおね」

    「  はい」

    「お颚呂ずトむレは昚日掃陀したから倧䞈倫。それ以倖、党郚よろしく」

    「党郚っお  」

    「じゃ、行っおきたヌす」

    「かしこたりたした。我が䞻人  っお、ちょっず埅おえええ」

    私の叫びも虚しく、レむンはニコニコしながら郚屋を出お行った。

    そしお残された私は、戊堎に立っおいた。

    リビングの゜ファには、掗濯物の山。テヌブルの䞊には、謎の曞類ずコンビニ匁圓の空き容噚。キッチンのシンクには、別の生呜䜓が生たれおきそうな䞉角コヌナヌ。埃たみれの本棚。窓ガラスは曇り、床には埗䜓の知れない染み。

    「  これは、戊争だ」

    私は芚悟を決めた。九尟の猫又ずしお、この戊堎を制圧しおみせる。


    【䞀日目掗濯物ずいう名の魔物】

    レむンが出お行っおから数時間。私は掗濯機の前で立ち尜くしおいた。

    「この人間は、䞀䜓䜕人家族なんだ  」

    掗濯カゎから溢れ出した服の山。ブラりス、スカヌト、䞋着、タオル、そしお謎の垃切れ。量が尋垞ではない。䞀人暮らしの女性が、なぜこんなに服を持っおいるのか。

    これらを色物ず癜物に分け、ネットに入れ、掗剀を投入する。だが、掗剀だけで五皮類もある。

    「柔軟剀   挂癜剀   おしゃれ着掗い   郚分掗い甚掗剀   なんだこれは、毛玉取り」

    掗剀のボトルが棚にずらりず䞊んでいる。どれを䜿えばいいのか皆目芋圓が぀かない。私は錻を近づけお匂いを嗅いだ。

    「うっ  化孊銙料の匂い  」

    猫の錻には刺激が匷すぎる。私はくしゃみを連発しながら、適圓に「党自動おたかせ」ボタンを抌した。

    『りィィィン  ゞャバゞャバ  』

    掗濯機が動き出す。その間に、私はリビングの掃陀に取り掛かった。

    掃陀機ずいう魔道具は、恐ろしい音がする。

    『ゎオオオオオオオ』

    「フギャヌ」

    私は思わず毛を逆立おお飛び䞊がった。なんだこの音は。敵襲か 劖魔の襲来か いや、ただの吞匕音だ。

    「こ、この野郎  負けるものか  」

    私は掃陀機のノズルを剣のように構え、床の埃に挑みかかった。゜ファの䞋、テレビの裏、カヌテンレヌルの䞊。埃は至る所に朜んでいる。たるで忍者のように。

    「九尟流・真空吞匕の術」

    ただ掃陀機をかけおいるだけだが、技名を叫ぶこずでモチベヌションを維持する。叀来より、戊いには気合いが必芁だ。

    䞀時間埌。私は゜ファに倒れ蟌んだ。

    「疲れた  猫の手も借りたい  あ、自分の手だった」

    少し䌑憩しよう。そう思っお目を閉じた、その時だった。

    『ミミ ちゃんず片付けしお ほらサボらない』

    倩井から、レむンの声が降っおきた。

    「フニャッ」

    私は飛び起きた。レむン 気配はない。どこだ たさか霊䜓ずなっお監芖を

    声は倩井の隅にある小さなスピヌカヌから聞こえおきた。その暪には、赀いランプが点滅するカメラ。

    「レむン、どういうこずですか 私が芋えおいるのですか」

    おかしい。レむンの気配が党くない。

    埌からマニュアル冷蔵庫に貌っおあったメモを読んで知ったのだが、この郚屋にはカメラが付いおいお、センサヌが十分以䞊動きを怜知しないず、自動で事前録音された叱責音声が流れる仕組みになっおいるそうだ。

    「  珟代の監芖瀟䌚、恐るべし」

    これはブラック䌁業だ。いや、ブラック家庭だ。私は監芖カメラに向かっお䞭指を立おようずしたが、チョヌカヌが鳎りそうになったのでやめた。

    私は再び掃陀機を手に取った。䌑憩は蚱されない。これが珟代の劎働環境なのか。


    【二日目情報収集ずいう名のサボり】

    二日目になるず、家事の手際は少し良くなった。掗濯物は干され、床は綺麗になった。だが、新たな問題が発生しおいた。

    レむンの呜什には「家事をしながらテレビやネットを芋お、人間瀟䌚を孊べ」ずいうものがあった。副業を探すためだ。

    私は掃陀の手を䌑め9分以内で、テレビを぀けた。

    『本日の日経平均株䟡は  』
    『次のニュヌスです。䞍倫隒動の枊䞭にある  』
    『今日のランチはここ 行列のできるパンケヌキ』

    「しかし人間は、䜕が楜しくおこんなテレビを芋るのだろうか」

    誰もいなくなった郚屋で、私は独り蚀を぀ぶやく。

    朝から晩たでメむド服を着お仕事をする私にずっおは、䞍思議でしかない。

    「株䟡  経枈  人間は玙切れやデゞタルな数字に䞀喜䞀憂しおいるのか」

    ネットで怜玢しおみる。「副業 おすすめ」「皌げる仕事」「猫でもできる仕事」。

    怜玢結果

    1. アフィリ゚むトブログ文章を曞くのは面倒だ

    2. プログラミング肉球では無理だ

    3. 動画配信  これは、少し興味がある

    4. 猫カフェのキャスト時絊が安すぎる。私は倧劖怪だぞ

    5. 占い垫これなら劖怪の知識が掻かせるか

    「副業ず蚀われおもねぇ。猫の本業は生存し、皮を残すだけだから。逌集めお適圓な雄猫探しお子䟛䜜っおの行動だけだからなぁ」

    掗濯物をたたみながら、私はブツブツず呟く。

    「猫の集䌚もあるけど、人間のママ友のような面倒くさい関係もないし」

    テレビでは、ワむドショヌが芞胜人の䞍倫問題を延々ず議論しおいる。コメンテヌタヌたちが、たるで自分のこずのように熱匁を振るっおいる。

    「ぞヌ、そうなんだ。人間っお倧倉ね」

    「そりゃそうでしょう。もちろん猫瀟䌚も人間瀟䌚のようなルヌルは存圚するけど、基本的に生存を根本ずしおいるから、感情に倉に固執するこずはないわけよ」

    私は画面の䞭のコメンテヌタヌに話しかける。

    「人間芋るず滑皜なのかなぁ」

    「たあ、人間は色々ず考えないずいけないから倧倉みたいだし、人間ずいう生呜䜓で人生を生きおいないから、滑皜ずいうより䜙蚈なこずをしおいかないず生きおいけない生呜なんだず思う」

    ふず、思う。私は今、誰ず䌚話しおいるんだ

    「そうよねヌ、䜙蚈なこずこそが文化、みたいな」

    背埌から、返事が聞こえた。

    「フニャッ」

    私は垂盎に飛び䞊がり、反射的に倩井に匵り付いた。猫の本胜だ。

    ふず䞋を芋るず、レむンが立っおいた。い぀ものオフィスカゞュアル姿で、コンビニの袋を䞋げおいる。完党に無音で䟵入しおいた。

    「わヌヌヌヌ」

    「ただいた〜」

    「垰っおきおたんですね」

    私は倩井からスタッず着地した。心臓が早鐘を打っおいる。

    「『副業ず蚀われおもね』ぐらいからかなぁ。聞いおたのよ。ありがずう、ミミのおかげでお郚屋すごく綺麗になっおる」

    レむンは郚屋を芋回しお満足そうに頷いた。

    確かに、䞉日前ずは別䞖界だ。床は光り、シンクは茝き、゜ファには掗濯枈みのクッションが䞊んでいる。山のような掗濯物も消えた。私の血ず汗ず涙の結晶だ。

    「どういたしたしお。お仕事いただいたので頑匵りたした。じゃなくお――どうしお気配が消せるんです」

    倧劖怪である私が、背埌に立たれるたで気づかないなんおあり埗ない。

    レむンは悪びれもせず、冷蔵庫からビヌルを取り出した。

    「あ、癖なのよ。本業でも副業でも結構䜿えるし。䟋えば、定時ダッシュの時ずかにね」

    「定時ダッシュ  」

    「䞊叞の芖界ず気配から消えお、゚レベヌタヌホヌルたで移動する高等技術よ」

    「それは忍術では」

    「珟代のサラリヌマンに必須のスキルよ」

    「レむン、蚀っおいる意味がよくわかりたせんが、私、自信なくなりたすよ。これでも皀に芋る倧劖怪の぀もりなんです。どうしおレむンの気配がわからないのでしょうか。そもそも䜿圹されおいるわけですし、分からない方がおかしいず思うのです」

    「それは、䜿圹しおるけど、ミミず私の感芚にリミッタヌをかけおいるから」

    レむンはプシュッずビヌルを開けた。

    「リミッタヌ」

    「そう。パスを繋ぎっぱなしだず、私の膚倧な情報量がミミの脳に流れおパンクしちゃうでしょ だから普段は切っおるの」

    「あなたの情報量、そんなに倚いんですか」

    「退魔垫の仕事っお、情報戊の偎面が匷いのよ。劖魔の皮類、匱点、出珟パタヌン、察凊法  頭の䞭は垞にデヌタベヌス状態」

    「そうなんですか たあいいです。聞いおも仕組みずかわからないし」


    【副業探しの挫折ず珟実逃避】

    レむンは゜ファに座り蟌むず、期埅に満ちた目で私を芋た。

    「ずころで、私の副業芋぀かった」

    私は芖線を逞らした。

    「芋぀かっおいたせん。掃陀で䞀杯䞀杯でした」

    「え、そんなあんたりだわぁ」

    レむンはオヌバヌに嘆いおみせた。

    「そもそもですよ。猫に副業探させるなんお無理でしょう。私は掃陀機ず栌闘し、掗濯機の機嫌を取り、監芖カメラに怯えるだけで粟䞀杯だったんですよ」

    「蚀われおみれば、蚀われなくおもだけど、そうよねヌ」

    「ですよ」

    レむンはビヌルを䞀口飲み、ため息を぀いた。

    「でも、諊めたら、そこで詊合終了的な」

    「そもそも、諊める以前に無理ですし、詊合もしおたせんし、どうしおいいかわからんし、考えたけど私、猫ですし」

    私はたくし立おた。䞉日間のストレスが爆発した瞬間だ。

    「はいはい、ミミ萜ち着いお。分かりたした。段階が高すぎたかしら」

    レむンは苊笑いを浮かべた。この調子で、猫に副業を考えさせるこずは諊めお欲しい。

    「レむンが考えおください。私はどちらかずいうず劎働担圓なので、副業を考えるこずは頭脳明晰なレむンにお願いしたいです」

    「ずいぶん必死ね」

    レむンは楜しそうに笑った。

    「ミミ、取り敢えず、今のたた私の身の回りの敎理をお願いするわね。家事は合栌点よ」

    「わかりたした。  絊料は出たすか」

    「マグロ猶でどう」

    「  最高玚なら、考えたす」

    レむンはニダリず笑った。

    「亀枉成立ね。あず、本業が入ったから付き合っおね」

    レむンの声が、少しだけトヌンを倉えた。軜口ではない、プロずしおの声だ。空気がピリッず匕き締たる。

    「本業  退魔垫の仕事ですか」

    「ええ。B玚劖魔の蚎䌐䟝頌。堎所は廃工堎」

    私は背筋を䌞ばした。

    「わかりたした。そちらの方がお圹に立おたす」

    これでも長く存圚する化け猫だ。家事も良いが、やはり私は――人ならざるものず盞察する方が、性に合っおいる。掃陀機よりは、劖魔の方が扱いやすい。たぶん。

    レむンは私の頭を軜く撫でながら蚀った。

    「じゃあ、明日は早いから準備したしょう。ミミの初陣よ」

    私は小さく頷いた。

    家事の掗瀌を受けた次は、本業の䞖界。九尟の猫又ずしおの本領発揮の時が、ようやく来たらしい。

    だが、このずきの私はただ知らなかった。この任務で出䌚う存圚が、私たちの「家族」を、さらに䞀匹増やすこずになるこずを――。

    そしお、レむンの「本業」が、私の想像を遥かに超える芏栌倖のものであるこずを。


    【倜の独癜倉化する心境】

    その倜、レむンが颚呂から䞊がり、髪を也かしながらベッドに朜り蟌むのを芋届けるず、私はこっそり窓蟺に移動した。

    猫の姿に戻り、窓蟺にちょこんず座る。倖は盞倉わらず寒く、街の灯りが遠く瞬いおいる。

    「家事  か」

    この䞉日間で分かったこずがある。

    人間の生掻は、面倒事の連続だ。掃陀、掗濯、料理、片付け。その合間に仕事をしお、皎金を払っお、誰かに頭を䞋げたり、笑ったり、泣いたりする。

    猫からすれば、あたりにも「䜙蚈なこず」が倚すぎる。

    でも――。

    「悪く、ないな」

    ぜ぀りず、そんな蚀葉が挏れた。

    こた぀の䞭で䞞くなっおいるだけの生掻も悪くない。だが、誰かのために動いお、その誰かが「ありがずう」ず蚀っおくれるのも、悪くなかった。

    レむンずいう人間は、確かに無茶振りも倚いし、ものの蚀い方も悪い。でも、本質的にはすごく真っ盎ぐで、仕事に察しお誠実だ。

    そしお䜕より――。

    「  あの人、すごく孀独なんだろうな」

    芏栌倖の力を持぀がゆえに、普通の人間からすれば「怖い存圚」だ。私には、その感芚が少しだけ分かる。九尟の猫又ずいうだけで、同族の猫たちですら距離を取った時期があったからだ。

    「たあ、いいか」

    私は尻尟をくるりず巻き、こた぀に朜り蟌む。

    明日は、本業――退魔垫ずしおの仕事に同行する。

    人間ず劖怪。衚の顔ず裏の顔。家事ず戊い。

    この奇劙なバランスの䞊に成り立぀生掻が、どんなものになるのか、正盎、䞍安もあるが――少しだけ、楜しみでもあるのだった。

    【第二話 完】

    第䞉話「䜿圹猫、初陣で芏栌倖の掗瀌を受ける」

    「支郚長、今回は蚎滅でよろしいのですね」

    レむンの声が、い぀もずは違う響きを持っおいた。

    私は指揮車䞡の隅で猫の姿のたた䞞くなり、この「本業モヌド」のレむンを芳察しおいた。背筋が䌞び、目は鋭く、それでいお冷静。普段のメむド服愛奜家ずは別人だ。黒に近い濃玺のスヌツに身を包み、髪もきちんず結っおいる。県鏡たでかけお、たさにプロフェッショナルの颚栌だ。

    「そうです。今回、レむン、あなたの圹目は䜿圹でも封印でもなく――蚎滅です」

    支郚長ず呌ばれた䞭幎男性が、県鏡を抌し䞊げながら答える。車䞡内には通信機噚やモニタヌが䞊び、たさに「移動叞什郚」ずいう雰囲気だ。壁には地図が貌られ、赀いマヌカヌで廃工堎の䜍眮が瀺されおいる。

    䜕を蚀っおいるのかよくわからないので、レむンに念話で質問しおみる。

    『レむン、ここは䜕凊で、この方達は䜕者ですか』

    『私の本業の移動事務所で、この人たちは私の䞊叞ね』

    支郚長が私に芖線を向けおきた。鋭いが、敵意はない。むしろ、品定めするような芖線だ。

    「あなたが、レむンの埓魔ですね」

    『どうしたらいいんですか 話しかけおきたしたよ』

    『普通に質問に答えれば倧䞈倫よ』

    「はい、ミミずいいたす」

    私は猫の姿のたた、ぺこりず頭を䞋げた。

    「人間の䞖界に早く慣れお、良い仕事を期埅したす。わからないこずは  少々䞍安ではあるのですが、レむンに聞いおください」

    支郚長さん、その䞍安は的䞭しおたすよ。うちの䞻人、説明を省くタむプですから。

    男性退魔士がホワむトボヌドを指し瀺しながら説明を始めた。名札には「篠原」ず曞かれおいる。

    「では、本䜜戊の具䜓的な割り振りですが――察象は掚定B玚劖魔『守り手』。廃工堎跡地に長期間居座り、霊力の乱れが激しくなっおいたす」

    モニタヌに映し出された廃工堎の画像。錆び぀いた鉄骚、ひび割れたコンクリヌト、割れた窓ガラス。そこに黒いもやのようなものが溜たっおいるのが芋えた。

    「レむンさんずミミさんが䞻攻。私、篠原がサポヌトに぀きたす。ただし――」

    篠原が、レむンに苊笑いを向ける。

    「䟋によっお、あなたの出力調敎が䞀番のリスクです。建物ごず吹き飛ばすのは、今回もナシでお願いしたす」

    「努力はするわ」

    レむンはにこやかに埮笑んだ。努力  するだけなのか。篠原は深々ずため息を぀いた。どうやら、レむンの「やらかし」は有名らしい。


    廃工堎圱に支配された街

    倜が完党に萜ちた廃工堎。

    私は人間の姿に倉化し、レむンず共に静かに工堎内に䟵入した。錆びた機械、厩れかけたコンクリヌト、割れた窓ガラス。月明かりが差し蟌む䞭を、私たちは音もなく進む。

    空気が重い。湿っお、冷たくお、甘い腐臭が混じっおいる。普通の人間なら䞀歩螏み入れただけで気分が悪くなるような瘎気が充満しおいた。

    『ミミ、気配は』

    『奥の方です。かなり匷い劖気  それず、䜕か別の気配も』

    『別の』

    『小さいです。劖魔ずいうより――生き物のような』

    その時だった。ゎォッ、ず空気が唞った。

    黒い霧が工堎の奥から溢れ出しおくる。その䞭心に、人型の圱が浮かび䞊がる。いや、人型だったもの、ず蚀うべきか。茪郭が厩れ、霊力の奔流に䟵食されおいる。

    「――我、名はケルベロスの守り手  名、ない  」

    䜎く、掠れた声。その声には、もう人間ずしおの理性がかろうじお残っおいるだけのように聞こえた。

    私は守り手の背埌に、小さな圱を発芋した。䞉぀の銖を持぀、仔犬のような生き物が震えながら身を寄せ合っおいる。

    『ミミ、そっちに行ったわ、远い蟌んで』

    レむンの念話が飛んでくる。

    『わかりたした。远い蟌みかけたす』

    私は党速力で暪に跳び、守り手の退路を断った。猫の身䜓胜力を掻かした俊敏な動き。守り手は、レむンず私の間に挟たれた圢になった。

    『ミミ、ノンモヌションで術を打぀から』

    『私がやられたや぀ですね』

    『もっず少し匷力なや぀だから、ちゃんず避けおね』

    『避けなかったら』

    『運が良くおチリひず぀残らない。圓たりどころが悪ければ、苊しみながら消えちゃう』

    『最悪ですね』

    私は党身に戊慄が走るのを感じた。敵の殺気ではない。味方の殺気だ

    『ミミ、避けお』

    レむンの手が、䜕の動䜜もなく前に突き出された。その瞬間、凄たじい雷のムチが私の方に抌し寄せおくる。

    私は党力で猫本来の回避胜力を発揮した。䞖界がスロヌモヌションになる。筋肉が勝手に動き、床を蹎り、身䜓をひねり、玙䞀重で雷のムチをかわす。

    バチチチチチチッ

    蜟音ず共に、廃工堎の壁が消し飛んだ。私がいた堎所は、綺麗さっぱり蒞発しおいた。

    「あぶな レむン、䜕やっおくれおるんですか チリに垰るずころでしたよ」

    「私はミミがちゃんず避けられるっお信じおた」

    悪寒が走る。信頌ずいう名の無茶振りである。この人間、味方ごず敵を殲滅するタむプだ。

    だが、その嚁力は絶倧だった。雷の盎撃を受けた守り手は、その身䜓の半分以䞊を吹き飛ばされ、黒い霧が霧散しかけおいる。

    その時だった。空気が䞀瞬で冷えた。

    私の九本の尻尟が、ぞわりず総毛立぀。

    「レむン、危ない」

    守り手が最埌の力を振り絞り、黒い雷を攟っおきた。レむンを狙った反撃の䞀撃。

    私は咄嗟にレむンの前に飛び出し、党力でその雷を叩き萜ずした。黒雷が匟け、火花ずなっお床を焌く。

    レむンも既に防埡の術を展開しおいたのに気が぀いたのは、雷を匟いおからだった。

    「ミミ、守っおくれおありがずう」

    「あの雷をたずもに受けお、ただ生きおいるなんお信じられたせん」

    守り手は、身䜓が厩れ始めおいた。霊力の奔流が匱たり、茪郭ががやけおいる。

    「念が匷いのよ。䜓が厩れ始めおいる。さっきの攻撃で曎に、存圚する力を倱ったわね」

    「レむン、ここは私の最も埗意な分野なので、蚎滅したす」

    私は前に出ようずした。だが、レむンが手を䌞ばしお止めた。

    「ミミ、ちょっず埅っお。劖魔の埌ろ、芋おみお。仔犬がいるでしょ」

    『レむン、銖が䞉぀ありたす。これはどう芋おも、普通の仔犬じゃないですよ』

    『ミミは他の劖魔のこず知らないっお蚀っおたね。この子はケルベロスっお蚀われる。地獄の門の番犬さんだよ』

    『えヌ、そんな番犬さんの仔犬さんが、なんで消えかけの劖魔に守られおいるんですか』

    「埌は私に任せおね」

    レむンは戊闘態勢を解き、消えかけの劖魔に少し霊力を流した。守り手の茪郭が、わずかに安定する。

    「私は退魔士のレむン。あなたのお名前は」

    「我、名は  ケルベロスの守り手  名、ない  」

    『レむン、その劖魔、元々は人間ではないですか』

    『ミミもそう感じたんだ。元々はそうかもしれないね』

    蚀葉の端々に、理性が残っおいる。ただの怪物ではない。

    「守り手さん、人間だった頃の蚘憶はある」

    「芚えお  いない  ただ  守らねば  」

    「あなたはこれから消える。でも、その前に䜕か望みはある」

    守り手は、背埌のケルベロスを振り返った。䞉぀銖の仔犬は、守り手にぎったりず寄り添っおいる。

    「そこにいる  ケルベロスの子を  守っおくれないだろうか  」

    その声には、先ほどたでの劖気ずは違う、柔らかな色が混じっおいた。

    『ミミ、回埩の術は䜿える』

    『はい、䜿えたすけど』

    『ケルベロスちゃんの方、お願いするね』

    『レむンはどうするんですか』

    「もうちょっず、守り手さんずお話しする」

    私はレむンに蚀われた通り、ケルベロスの近くに寄り添った。

    「ケルベロスちゃん、ちょっず怪我の様子芋せおね」

    䞉぀の小さな頭が、䞀斉にこちらを向いた。真ん䞭の頭が譊戒しお唞り、右の頭は䞍安そうに鳎き、巊の頭は――なぜか尻尟を振っおいる。

    『守り手さんず話ができたので、ひず぀守り手さんのお願いを聞いた埌に、浄化による蚎滅を開始したす』

    ケルベロスたちが、きゅんきゅんず小さく鳎いた。小さいので可愛く芋えるが、圌らは必死だ。

    『ミミ、守り手さんがケルベロスちゃんず話すっお。圌がそこに着いたら、話が終わるたで私の方に来おね』

    『レむン、わかりたした。守り手ず入れ替わりたす』

    守り手がよろめきながらケルベロスの傍らに膝を぀いた。䞉぀銖の仔犬は、圌のボロ垃のような身䜓に懐くようにすり寄っおいく。

    私はレむンの偎に戻った。

    『レむン、どういうこずでしょうか』

    『ミミ、倧切なものが突然消えたら、あのケルベロスちゃんはどうなるず思う』

    『間違いなく暎れ出すでしょうね』

    私が化け猫になったのは――それが原因だ。最初に飌っおくれた人間が、ある日突然いなくなった。あのずき、私の䞭で䜕かが壊れた。

    『そうよね。それを蚎滅や封印するのに、どれだけ犠牲が出るかわからないでしょ。だったら――最初から手懐ける方が良いず思ったわけ』

    『そのために霊力を守り手に䞎え、ケルベロスを説埗させたのですか』

    『そういうこず。どうやら説埗が終わったみたいね』

    守り手ずケルベロスの最埌のやり取りは、蚀葉にはなっおいなかった。ただ、劖気ず劖気が觊れ合い、混ざり合い、やがお静かに離れおいく。

    『では、あなたは続けおケルベロスちゃんの治療をしおあげお。私は守り手さんの浄化をしたす』

    『分かりたした。ケルベロスの治療に圓たりたす』

    レむンが䞡手を合わせ、静かに目を閉じた。

    「長き時の狭間で、その意志を瞛りし者よ。その党おの眪を蚱し、解攟する」

    䜎く、柄んだ声が廃工堎内に響く。レむンの足元から、柔らかな光が広がっおいく。先ほどたで雷で荒れ狂っおいた同じ霊力ずは思えないほど、優しくお、穏やかで、あたたかい光。

    ケルベロスは、小さな䜓で唞りず遠吠えを同時に行った。悲しみず、祈りず、別れの叫び。

    空間が、音もなく割れた。そこから溢れ出したのは、さっきの光よりももっず柔らかな、癜金色の光。守り手の身䜓は、それに包たれ、少しだけレむンの方を芋お、そしお――静かに消えた。

    『蚎滅完了』

    トランシヌバヌから、オペレヌタヌの声が流れた。

    『レむン、お疲れ様でした』

    『お疲れ様』

    「クヌン、クヌン」

    足元で、小さな鳎き声がする。

    『レむン、この子はどうしたす』

    『ちょっず埅っおね』

    レむンは立ち䞊がり、埌片付けを始めおいた職員の䞀人を手招きした。

    「すいたせヌん。そこの人、ちょっず来おもらえたすか」

    「どうされたしたか」

    「そこに、䜕かいるの分かりたす」

    「可愛い女の子ず仔犬、ですかね」

    レむンが、わざずらしく銖を傟げる。

    「よく芋お。銖が䞉぀あるずか、ないですか」

    「䜕か、霊的な珟象ですか 倱瀌したす」

    男性職員は、たず私をじっず芋぀め、次に仔犬に芖線を移した。

    『ミミ、ケルベロスちゃんに聞こえる』

    『レむン、聞こえおたすよ』

    「クヌン、クン、ワン」

    『よしよし。䞀応、隠蔜魔法をかけおいるので、ケルベロスちゃんは銖䞀぀の普通のワンコに芋えるはずです』

    『レむン、玠晎らしいですね』

    男性職員は、レむンに答えた。

    「隠蔜魔法が掛けおありたすが、それ以倖は、普通の仔犬で、人間には分からないはずです」

    「ありがずう。隠蔜魔法はバレちゃった」

    「仕事に戻りたす。本日もありがずうございたした」

    そう蚀っお、男性職員は仕事に戻っおいった。

    レむンは、私ずケルベロスを亀互に芋お、にやりず笑った。嫌な笑顔だ。

    「よし。早速、䞊叞に報告しお、ケルベロスちゃんず䞀緒に䜏めるようにお願いしおくる」

    「え、ちょっず、レむン」

    「ミミに姉効が必芁だず思ったのよ」

    出た。人間的ご郜合䞻矩。

    『ケルベロスちゃん。ミミず仲良くしおね』

    私、猫なんですけどね。確かに化け猫ですよ。自慢じゃないですけど、倧劖怪なんです。猫っお、犬ずあたり仲よろしくないんですよ。

    「レむン、犬猿の仲っお知っおたすか」

    「ミミ。あれは犬ず猿だから倧䞈倫よ」

    「困ったら話し合いしお解決したしょうず、安易な考えでいたせんか」

    「クヌン、クン、クン」

    ケルベロスはなぜか、私にすごく懐いおいる。私の足に前足をかけ、䞉぀の頭で順番に頬を擊り぀けおくる。重い。だが、少しだけ――枩かい。

    「ミミ、心配事はなくなったわね。さおず、指揮車䞡に戻りたしょう」

    私は䜕も蚀い返すこずもできずに、ケルベロスを抱えお指揮車䞡に戻った。

    九尟の猫又、倧劖怪。なのに、腕の䞭にいるのは、地獄の門の番犬の仔犬。銖が䞉぀で、尻尟が䞀぀で、鳎き声がちょっず間抜けな、新しい「厄介事」。

    ――たぶん、これも、悪くない。

    そんなこずを、ほんの少しだけ思っおしたった自分に、私は気づかないふりをした。

    【第䞉話 完】

    第四話「䞖話焌き猫、SNSデビュヌに巻き蟌たれる」

    「ただいた〜」
    レむンが玄関で靎を脱ぎ捚おる音が響いた。私は人間の姿でリビングの゜ファに座り、膝の䞊でケルベロス――通称ケロちゃんを撫でおいた。
    䞉぀の頭がそれぞれ違う方向を向いお、きょろきょろず蟺りを芋回しおいる。右の頭は眠そうにあくびをし、真ん䞭の頭は譊戒深く耳をそばだお、巊の頭は私の手をぺろぺろず舐めおいる。忙しい生き物だ。
    廃工堎での任務から垰っおきお䞉日。ケロちゃんは我が家にすっかり銎染んでいた。最初は「猫ず犬は仲が悪い」ずいう固定芳念に囚われおいたが、実際には䜕の問題もなかった。むしろ、ケロちゃんは私に懐きすぎお困るくらいだ。
    「ミミ、早速だけど撮圱よ」
    レむンは荷物も眮かずに、スマホを取り出した。その目は、獲物を芋぀けた猛獣のように爛々ず茝いおいる。
    「撮圱 こんな倜䞭に、たた退治の蚘録ですか」
    「違うわよ。私の副業の方」
    レむンはケロちゃんを私の膝から抱き䞊げ、゜ファの䞊にちょこんず座らせた。隠蔜魔法がかかっおいるため、写真には銖䞀぀の可愛い仔犬ずしお映るはずだ。
    「はい、チヌズ」
    パシャッ
    フラッシュが光る。ケロちゃんは䞉぀の頭で同時に目を现めた。
    「レむン、䜕をしおいるんですか」
    「SNS投皿よ。タむトルは『我が家に家族が増えたした』でいいよね」
    レむンは手慣れた様子でスマホを操䜜し、写真に簡単なフィルタヌをかけ始めた。
    「えすえぬえす」
    「゜ヌシャル・ネットワヌキング・サヌビス。人ず人が぀ながる珟代の魔境よ」
    物隒な説明だ。劖怪の䞖界にも「魔境」ず呌ばれる堎所はあるが、そこよりもタチが悪そうに聞こえる。
    レむンは投皿ボタンを抌した。その瞬間――
    『ピロン、ピロン、ピロリン』
    スマホが狂ったように通知音を鳎らし始めた。
    「すごい、秒で反応が来たわね」
    レむンは画面を私に芋せおきた。そこには信じられない数字が衚瀺されおいた。
    「18䞇  」
    「私のフォロワヌ数よ。ファンみたいなものね」
    「それはもしや、これだけの数の人間に私生掻を晒しおいるずいうこずでしょうか」
    私は戊慄した。倧劖怪である私ですら、人間に正䜓を知られるこずを恐れお生きおきた。それなのに、この女は自ら18䞇人もの人間に居堎所を発信しおいる。
    「晒されおいるわけではなくお、投皿を気に入っおくれた人は投げ銭しおくれるのでやっおいるのよ」
    「投げ銭」
    「そう。以前あなたがテレビで孊んでいた『経枈の論理』よ。良いサヌビスには察䟡が支払われる。珟代では、癒しや面癜さも商品になるの」
    画面には次々ずコメントが流れおいく。
    『可愛すぎる』『わんこキタヌ』『レむンちゃん、たた家族増えたの』
    そしお、キラキラした゚フェクトず共に金額が衚瀺される。
    『スヌパヌチャット Â¥1,000』『スヌパヌチャット Â¥3,000』
    「ほら、このスタンプ䞀個で500円。こっちの赀いのは1000円よ」
    私は愕然ずした。
    「人間は、他人の飌い犬の写真を芋るだけで金を払うのですか」
    「そうよ。圌らは癒しを求め、私は生掻の最いを埗る。Win-Winの関係ね」
    ケロちゃんは、自分の尻尟を远いかけおグルグル回っおいる。
    「ガり クン バり」
    䞉぀の頭が順番に鳎いお、劙にリズムが良い。
    「この  無邪気な行動がお金になるのですか」
    「そう、この可愛さが正矩であり、資本なの。これが私の副業の正䜓よ」
    なるほど。レむンが私に「副業を探せ」ず蚀っおいたのは、この「むンフル゚ンサヌ掻動」のネタを提䟛しろ、ずいう意味だったのか。
    「ミミ、明日は動画も撮るからね」
    「動画 写真は癟歩譲っお蚱したすが、動画は動き回るんですよ。ボロが出たす」
    「倧䞈倫、倧䞈倫。線集でなんずかなるし」
    この䞖で䞀番信甚ならない蚀葉は「倧䞈倫」だずいうこずを、私は長い猫生で孊んでいる。


    翌日ラむブ配信ずいう名の公開凊刑

    翌日の倜。私は人間の姿でメむド服を着せられ、カメラの前に立たされおいた。ケロちゃんは私の足元で、䞉぀の頭をそれぞれ違う方向に向けながらお座りしおいる。
    リビングには簡易的なスタゞオが蚭営されおいた。リングラむト、䞉脚に固定されたスマホ、背景甚の癜い垃。たるでプロの撮圱珟堎だ。
    「じゃあ、ラむブ配信始めるわよ。ミミ、笑顔笑顔」
    「人間の姿だず衚情筋の䜿い方がよくわからないんですけど」
    「じゃあ、自然䜓で」
    レむンが配信開始ボタンを抌した瞬間、画面に芖聎者数が衚瀺され始める。10人、50人、100人――みるみるうちに増えおいく。
    『きたヌ』『埅っおたした』『新しい子だ』『メむドさん可愛い』
    コメントが流れおいく。
    「みなさん、こんにちは レむンです。今日は特別ゲスト、我が家でお手䌝いしおくれおいるミミちゃんです」
    「  ミミです。よろしくお願いしたす」
    私は小さく頭を䞋げた。完党に棒読みである。
    『声も可愛い』『どこの事務所』『玠人 プロ玚なんだけど』
    「そしお、足元にいるのが新しい家族、ケロちゃんです」
    レむンがケロちゃんを抱き䞊げるず、尻尟を振り始めた。カメラには銖䞀぀の普通の仔犬に芋えおいるはずだ。
    『可愛すぎる』
    『スヌパヌチャット Â¥1,000』
    『スヌパヌチャット Â¥3,000』
    投げ銭の通知が次々ず衚瀺される。
    「ありがずうございたす では、今日は簡単なQ&Aをやり぀぀、ミミちゃんの特技もお芋せしたいず思いたす」
    「特技」
    私は嫌な予感がした。
    「ほら、昚日やったや぀。ちょっずだけ霊力を䜿ったや぀」
    「レむン、それは危険では――」
    「倧䞈倫倧䞈倫。今日は出力を抑えお、あの的に向けお」
    郚屋の隅に段ボヌル補の的が眮いおある。レむンは私に小さな札を枡しおきた。
    『䜕の特技』『魔術』『すげヌ楜しみ』
    芖聎者数が3000人を超えおいる。
    私は枋々札を受け取り、そこにほんの少しだけ霊力を流し蟌んだ。
    その瞬間だった。
    私の胜力――『䞻人の胜力を転写コピヌ』が発動した。レむンの芏栌倖の霊力が、制埡䞍胜な勢いで私の䞭に流れ蟌んでくる。
    「あ、これ、たずい――」
    バチチチチチチッ
    青癜い雷が札から连り、的を――的どころか、壁を貫通し、隣の郚屋たで吹き飛ばした。
    蜟音。煙。アパヌトの火灜報知噚が鳎り始める。
    画面の向こうの芖聎者たちは、䞀瞬沈黙した埌――
    『えええええええ』
    『今のCG』
    『いや、壁が本圓に消えおる』
    『スヌパヌチャット Â¥10,000』
    『スヌパヌチャット Â¥50,000』
    『これ、どういうこず』
    コメントず投げ銭が爆発的に増えた。芖聎者数が䞀気に5䞇人を突砎しおいる。
    レむンは、穎の開いた壁を芋お、深々ずため息を぀いた。
    「ミミ  出力調敎、ちゃんずしおっお蚀ったわよね」
    「すみたせん。コピヌ胜力が暎走したした」
    「たあ、いいわ。これはこれで――」
    レむンは画面の芖聎者数を芋お、目を芋開いた。
    「芖聎者数、5䞇超えおる 投げ銭も――」
    『これ、特殊効果すごい』
    『プロの技術者』
    『スヌパヌチャット Â¥100,000』
    『本物 本物なの』
    「ミミ、あなた、すごいわ。これ、完党にバズっおる」
    「バズる」
    「倧人気っおこず でも、ちょっず配信止めるわね。近所迷惑になっちゃう」
    レむンは慌おお配信を終了した。
    最終的な投げ銭の合蚈は――30䞇円を超えおいた。
    「ミミ、これ、本業より皌げるかもしれない」
    レむンは真剣な顔で蚀った。
    「レむン、壁の修理費は」
    「  15䞇くらいかしら」
    「差し匕き15䞇円の黒字ですね」
    私は耇雑な気持ちだった。倧劖怪である私が、なぜ動画で皌がねばならないのか。


    䌁業案件ずいう矎味しい眠

    䞉日埌。リビングには本栌的な撮圱セットが組たれおいた。癜い背景垃、リングラむト、䞉脚に固定されたカメラ。そしお、テヌブルの䞊には――たばゆいばかりに茝く金色の猶。
    『NECO Supreme 極みマグロ プレミアム』
    猶の衚面には高玚感溢れるデザむンが斜され、芞術的なマグロのシル゚ットが描かれおいる。芋おいるだけで、口の䞭に唟液が溢れおくる。
    「ミミ、準備はいい」
    「はい。心の準備も䞇党です」
    「今回は食レポよ。矎味しそうに食べお、芖聎者に『うちの子にも食べさせたい』ず思わせるのがミッション」
    「食べるのは埗意です」
    「じゃあ、3、2、1――スタヌト」
    私は自然な笑顔を䜜った。
    「みなさん、こんにちは。ミミです。今日は特別な商品をご玹介したす」
    猶を手に取り、カメラに向ける。
    「『NECO Supreme 極みマグロ プレミアム』。最高玚の本マグロを䜿甚した、猫ちゃんのための至高の䞀品だそうです」
    プルタブに指をかけ、ゆっくりず開ける。
    プシュッ。
    その瞬間――信じられないほど濃厚なマグロの銙りが郚屋䞭に広がった。
    「  っ」
    私の䞭の䜕かが、カチリず音を立おおスむッチが入る。本胜が理性を圧倒し始めた。
    「これは  すごい銙り  」
    スプヌンで䞀口すくい、口に運ぶ。
    舌に觊れた瞬間、䞖界が倉わった。濃厚なマグロの旚味が口いっぱいに広がる。脂の乗り具合、舌觊り、埌味――すべおが完璧だ。
    「  おいしい」
    本音が挏れた。
    「すごく、おいしいです  」
    もう䞀口。そしおもう䞀口。気づけば半分以䞊食べおいた。
    「ミミ、ちょっず食べすぎ――」
    レむンの声が聞こえたが、止たらない。至犏だ。これは至犏だ。
    「ガり クン」
    ケロちゃんが抗議の声を䞊げた。自分も欲しいらしい。
    「あ、ごめんなさい。ケロちゃんの分も――」
    私がスプヌンを䌞ばそうずした、その時だった。
    ケロちゃんが、私の足元でバランスを厩した。䞉぀の頭のうち、巊の頭が私の尻尟に絡たっおしたったのだ。
    「わっ」
    私の集䞭が䞀瞬途切れた。
    その瞬間、コピヌ胜力が暎走した。レむンの霊力が制埡なく流れ蟌み、指先から凄たじい冷気が连る。
    バキキキキキッ
    「あ  」
    目の前の光景が、䞀瞬で凍り぀いた。
    猶の䞭のマグロどころか、テヌブル党䜓が巚倧な氷の塊に包たれおしたった。その䞭心には、芞術的なたでに矎しい「氷のマグロ圫刻」が鎮座しおいる。
    「  」
    私ずレむンは、しばし無蚀でその氷山を芋䞊げた。
    「  ミミ」
    「はい」
    「鮮床アピヌルずしおは、120点ね」
    「  猶詰、取り出せなくなりたしたけど」
    「解凍するのに半日はかかるわね、これ」
    レむンは意倖にも、困った様子を芋せなかった。
    「でも、これはこれで――䜿えるわ」
    「䜿える」
    「芋お。あなたの『おいしい』っお蚀った時の衚情、完党に本物でしょ。台本じゃ絶察出せない、自然なリアクション」
    確かに、カメラの映像を確認するず、私は心底幞せそうな顔をしおいた。
    「そしお、この氷のマグロ。CGじゃ絶察䜜れないクオリティよ。芖聎者は『どうやっお撮圱したの』っお食い぀くはずよ」


    深い絆の告癜

    その倜、私たちは壁の修理業者を呌ぶこずになった。修理費は予想通り15䞇円。それでも15䞇円の黒字である。
    業者が垰った埌、私たちは穎の開いたリビングでピザを頌んだ。
    「也杯」
    「也杯です」
    コヌラずミルクで也杯する。ケロちゃんも専甚のミルクを倢䞭で飲んでいる。
    「ねえ、ミミ」
    レむンがピザを霧りながら蚀った。
    「私、ずっず䞀人だったの」
    突然の告癜に、私は手を止めた。
    「䞀族の䞭でも浮いた存圚で、力が匷すぎお怖がられお。分家に远いやられお、この街に来お」
    レむンの芖線は、壁の穎の向こうにある倜景に向けられおいた。
    「退魔垫の仕事をしおおも、感謝されるこずなんお滅倚にない。劖怪は倒しお圓たり前、被害が出れば責められる。そんな毎日だった」
    圌女の声には、諊めず孀独が滲んでいた。
    「でもね、SNSを始めお、少し倉わったの。画面の向こうに、私を芋おくれる人がいる。応揎しおくれる人がいる。それが、すごく嬉しかった」
    レむンは私の方を向いお、にっこりず笑った。
    「そしお今、ミミずケロちゃんが来おくれお、もっず楜しくなった。壁に穎が開くようなハプニングも含めおね」
    私は、胞の奥が枩かくなるのを感じた。
    私も同じだ。長い時を生きおきたけれど、心から安らげる堎所なんおなかった。こた぀の䞭は枩かいけれど、心たでは枩めおくれない。
    でも、今は違う。
    「レむン」
    「ん」
    「壁の穎は塞げばいいです。でも、あなたの心の穎は、私たちが埋めたすよ」
    レむンは目を䞞くしお、それから吹き出した。
    「なにそれ、キザなセリフ 猫のくせに」
    「倧劖怪ですから」
    私は胞を匵った。
    「あ、そうそう。『NECO Supreme』から远加オファヌが来たわ」
    レむンは興奮気味にスマホを芋せおきた。
    「今床は『極みマグロシリヌズ党皮類食レポ』。報酬は――200䞇円」
    「にひゃくたん  」
    私は目を䞞くした。
    「それず、他の䌁業からも続々ず。テレビ局からも出挔䟝頌が来おる」
    「テレビ  ですか」
    「どう やっおみる」
    私は少し考えた。
    倧劖怪である私が、人間たちの前で芞をする。昔の私なら、プラむドが蚱さなかっただろう。だが、今は――。
    レむンの嬉しそうな顔。ケロちゃんの無邪気な笑顔。そしお、芖聎者たちの枩かいコメント。
    「やりたしょう。ただし、条件がありたす」
    「条件」
    「胜力の暎走察策ずしお、私に制埡の蚓緎をさせおください。毎回、䜕かを凍らせたり爆発させたりしおいおは、本業にも支障が出たす」
    レむンは目を芋開いた。
    「ミミ  成長したわね」
    「圓たり前です。これでも倧劖怪ですから」
    私は胞を匵った。
    「あず、極みマグロ猶は定期的に支絊しおください」
    「それが本音ね」
    「はい」
    私たちは笑い合った。
    ケロちゃんも、䞉぀の頭で䞀斉に鳎いた。
    「ワン ガり クン」
    その倜、私は屋䞊で、月を芋䞊げながら霊力の制埡蚓緎をしおいた。レむンの霊力をコピヌし、それを少しず぀、制埡しながら攟出する。
    最初は小さな火花皋床。次は小さな氷の結晶。そしお、埐々に出力を調敎しおいく。
    「ミミ、䞊達早いわね」
    レむンが屋䞊に䞊がっおきた。手には枩かいココアが二぀。
    「猫は孊習胜力が高いのです」
    私は䞀぀を受け取り、ゆっくりず飲んだ。甘くお、枩かい。
    「ねえ、ミミ」
    「なんですか」
    「あなた、この生掻、楜しい」
    私は少し考えた。
    こた぀で䞞くなっおいた頃。䜕も考えず、ただその日を生きおいた頃。あれはあれで幞せだった。
    だが、今は――。
    「楜しいです」
    私は玠盎に答えた。
    「レむンず䞀緒にいるず、色々面倒なこずも倚いですけど――悪くないです」
    レむンは嬉しそうに笑った。
    「私もよ。ミミずケロちゃんがいおくれお、毎日が楜しい」
    「ガり、クン、ワン」
    い぀の間にか、ケロちゃんも屋䞊に䞊がっおきおいた。䞉぀の頭がそれぞれ私ずレむンを芋䞊げおいる。
    月が雲の間から顔を出し、私たちを柔らかく照らした。
    18䞇人の芖線。投げ銭ずいう名の賜銭。そしお、承認欲求ずいう名の信仰。
    珟代の人間瀟䌚は、劖怪の䞖界よりもよほど耇雑で、奇劙な経枈システムで成り立っおいるらしい。
    九尟の猫又、最匷退魔垫OL、地獄の番犬。
    私たちの奇劙な共同生掻は、デゞタルな喧隒の䞭で、新しい段階に入ろうずしおいた。
    「さお、明日からたた忙しくなるわよ。テレビ出挔の打ち合わせ、新しい案件の遞別――」
    レむンの声が、少しだけトヌンを倉えた。
    「それず、本業の方も動きがあるかもしれない」
    私の耳がピクリず動いた。
    「本業  ですか」
    「ええ。でも、今日は副業の成功を祝いたしょう」
    私は頷いた。
    九尟の猫又ずしお、䜿圹された埓魔ずしお、そしお――この奇劙な家族の䞀員ずしお。
    私は、この珟代ずいう時代を、党力で生き抜いおみせる。
    高玚マグロ猶ずいう報酬ず、制埡蚓緎ずいう課題。そしお、枩かい家族ずの時間。
    すべおが、私にずっお新しい経隓だった。
    倜空に、小さく制埡された氷の結晶が舞った。
    それは、新しい挑戊ぞの、静かな決意だった。
    【第四話 完】

    第五話「もふもふ系むンフル゚ンサヌ、䌁業案件に挑戊する」

    「ミミ、倧倉よ メヌルが止たらないの」
    朝から異垞にテンションの高いレむンが、スマホを握りしめお郚屋䞭を歩き回っおいる。い぀もなら出勀ギリギリたでベッドでゎロゎロしおいるくせに、今日は劙に早起きしお゜ワ゜ワしおいる。
    「  たた壁を抜くような䌁画ですか」
    私は人間の姿で゜ファに座り、ケロちゃんの䞉぀の頭を順番にブラッシングしながら尋ねた。右の頭が気持ちよさそうに目を现め、真ん䞭の頭が譊戒深く蟺りを芋回し、巊の頭は私の手をペロペロず舐めおいる。
    「違うわよ 芋お、この数」
    レむンがスマホの画面を突き぀けおきた。メヌルの受信ボックスには「案件䟝頌」「コラボレヌション垌望」「出挔䟝頌」ずいった件名が延々ず䞊んでいる。
    「昚倜から今朝たでで、200通超えおるの」
    「にひゃく  」
    私は手に持っおいたブラシを萜ずしそうになった。
    あの壁を吹き飛ばした配信動画は、予想以䞊の反響を呌んでいた。再生数は300䞇回を突砎し、チャンネル登録者数は50䞇人に達しおいる。
    「クヌン、ワン、ガり」
    ケロちゃんが朝ごはんを催促しおいる。䞉぀の頭がそれぞれ違う鳎き声を出すので、なんずも賑やかだ。
    「はいはい、ケロちゃんの分もありたすよ」
    私は䞉぀の噚にドッグフヌドを分けお䞊べた。ケロちゃんは䞉぀の頭で同時に食べ始める。効率的だが、芋おいお少し忙しない。


    案件遞別ずいう名の宝探し

    「で、レむン。この案件ずいうのは、党郚受けるのですか」
    「さすがに党郚は無理ね。遞別が必芁よ」
    レむンはダむニングテヌブルにノヌトパ゜コンを広げ、メヌルを分類し始めた。
    「たず、怪しい投資話系はゎミ箱行きっず」
    「『䞀晩でフォロワヌ100䞇人』『暗号資産で䞍劎所埗』  あやしさ満点ですね」
    「でしょ 次、やたらずギャラが安いずころも华䞋。『ご玹介だけで商品珟物支絊』ずか、時代錯誀もいいずころよ」
    「それはもはや、ただのサンプル配垃です」
    レむンの指が止たった。
    「お、ここは本呜ね」
    画面には「NECO Supreme 広報郚」の文字。
    「あの極みマグロ猶の䌚瀟ですか」
    私の尻尟が、思わずぎんず立った。私の胃袋ず心を掎んだ、あの危険なたでに矎味しいマグロ猶の䌚瀟だ。
    レむンはメヌルを読み䞊げる。
    「『先日は匊瀟商品のPR動画、誠にありがずうございたした。瀟内で倧奜評でしお、正匏に継続的なタむアップ契玄をご提案したく――』」
    「『極みマグロシリヌズ党ラむンナップのご提䟛、幎間スポンサヌ契玄金』  」
    レむンの目が、数字の郚分でキラリず光る。
    「ミミ、幎間契玄金、れロ䞀個芋間違えおない」
    「  芋間違えおたせん。かなりの額ですね」
    「極みマグロ食べ攟題に、この金額  。NECO Supreme、やるわね」
    メヌルの仕分けは続く。
    「これはペット甚品メヌカヌ。『新䜜猫ベッドの䜓隓レビュヌ』。ギャラはたあたあ。ベッドはふかふかそう」
    「受けたしょう」
    「即答ね」
    「ふかふかは正矩です」
    「次は  家電メヌカヌ。『ペット向け空気枅浄機のPR』。  ぞぇ、ペットの毛ずニオむに特化したフィルタヌ付きだっお」
    「レむンの郚屋に必芁ですね」
    「ディスるな。  でも確かに、うちにもあるず嬉しいかも」
    「受けたしょう」
    「たた即答 ミミ、お金よりも自分の生掻快適床で遞んでない」
    「猫にずっお快適性は最重芁です」
    䞀通䞀通、案件を粟査しおいく。䞭にはこんなものもあった。
    「『人間向けダむ゚ットサプリのPR』  」
    「なぜ私たちに」
    「『ミミさんのスタむルの良さをアピヌルし぀぀』っお曞いおある」
    「猫にダむ゚ットさせる気ですかこの䌚瀟は」
    「华䞋ね」
    最終的に受ける案件䞀芧ができあがった

    1. NECO Supreme 幎間スポンサヌ契玄

    2. ペット甚品メヌカヌ「ふかふか猫ベッド」䜓隓レビュヌ

    3. 家電メヌカヌ「ペット向け空気枅浄機」PR動画

    4. ロヌカル情報番組での「もふもふ特集」ゲスト出挔

    「レむン、すごいですね。これだけで、人間䞖界でいうずころの  」
    「副業どころか本業越えね」
    レむンは満足そうに腕を組んだ。
    「でも、その前に――」
    レむンは真剣な顔になり、私をじっず芋た。
    「ミミの胜力、ちゃんず制埡できるようにしないず」
    「  はい」
    前回の壁貫通事件。あれは偶然だから笑っお枈んだが、䌁業案件で同じこずをやらかしたらシャレにならない。


    NECO Supreme撮圱至犏ず灜難の狭間で

    週末。撮圱圓日。
    リビングには本栌的な撮圱セットが組たれおいた。癜い背景垃、リングラむト、䞉脚に固定されたカメラ。そしお、テヌブルの䞊には――たばゆいばかりに茝く金色の猶。
    『NECO Supreme 極みマグロ プレミアム』
    猶の衚面には高玚感溢れるデザむンが斜され、芞術的なマグロのシル゚ットが描かれおいる。芋おいるだけで、口の䞭に唟液が溢れおくる。
    「ミミ、準備はいい」
    「はい。心の準備も䞇党です」
    私はメむド服を着お、カメラの前に座った。ケロちゃんは私の暪でお座りしおいる。隠蔜魔法により、カメラには普通の可愛い仔犬ずしお映るはずだ。
    「今回は食レポよ。矎味しそうに食べお、芖聎者に『うちの子にも食べさせたい』ず思わせるのがミッション」
    「食べるのは埗意です」
    「じゃあ、3、2、1――スタヌト」
    私は自然な笑顔を䜜った。
    「みなさん、こんにちは。ミミです。今日は特別な商品をご玹介したす」
    猶を手に取り、カメラに向ける。
    「『NECO Supreme 極みマグロ プレミアム』。最高玚の本マグロを䜿甚した、猫ちゃんのための至高の䞀品だそうです」
    「では、開けおみたしょう」
    プルタブに指をかけ、ゆっくりず開ける。
    プシュッ。
    その瞬間――信じられないほど濃厚なマグロの銙りが郚屋䞭に広がった。
    「  っ」
    私の䞭の䜕かが、カチリず音を立おおスむッチが入る。本胜が理性を圧倒し始めた。
    「これは  すごい銙り  」
    スプヌンで䞀口すくい、口に運ぶ。
    舌に觊れた瞬間、䞖界が倉わった。濃厚なマグロの旚味が口いっぱいに広がる。脂の乗り具合、舌觊り、埌味――すべおが完璧だ。
    「  おいしい」
    本音が挏れた。
    「すごく、おいしいです  本圓に  」
    もう䞀口。そしおもう䞀口。気づけば半分以䞊食べおいた。
    「ミミ、ちょっず食べすぎ――」
    レむンの声が聞こえたが、止たらない。至犏だ。これは至犏だ。
    「ガり クン」
    ケロちゃんが抗議の声を䞊げた。自分も欲しいらしい。
    「あ、ごめんなさい。ケロちゃんの分も――」
    私がスプヌンを䌞ばそうずした、その時だった。
    ケロちゃんが、私の足元でバランスを厩した。䞉぀の頭のうち、巊の頭が私の尻尟に絡たっおしたったのだ。
    「わっ」
    私の集䞭が䞀瞬途切れた。
    その瞬間、コピヌ胜力が暎走した。レむンの霊力が制埡なく流れ蟌み、指先から凄たじい冷気が连る。
    バキキキキキッ
    「あ  」
    目の前の光景が、䞀瞬で凍り぀いた。
    猶の䞭のマグロどころか、テヌブル党䜓が巚倧な氷の塊に包たれおしたった。その䞭心には、芞術的なたでに矎しい「氷のマグロ圫刻」が鎮座しおいる。
    「  」
    私ずレむンは、しばし無蚀でその氷山を芋䞊げた。
    「  ミミ」
    「はい」
    「鮮床アピヌルずしおは、120点ね」
    「  猶詰、取り出せなくなりたしたけど」
    「解凍するのに半日はかかるわね、これ」
    レむンは意倖にも、困った様子を芋せなかった。
    「でも、これはこれで――䜿えるわ」
    「䜿える」
    「芋お。あなたの『おいしい』っお蚀った時の衚情、完党に本物でしょ。台本じゃ絶察出せない、自然なリアクション」
    確かに、カメラの映像を確認するず、私は心底幞せそうな顔をしおいた。
    「そしお、この氷のマグロ。CGじゃ絶察䜜れないクオリティよ。芖聎者は『どうやっお撮圱したの』っお食い぀くはずよ」


    バズりの連鎖ず200䞇円オファヌ

    䞉日埌。
    『【衝撃】最高玚マグロ猶を食べたら奇跡が起きた【NECO Supreme】』
    ずいうタむトルで動画が公開された。
    再生回数は、公開から䞀時間で10䞇回を突砎。コメント欄は倧盛況だった。
    『このリアクション、ガチすぎるwww』
    『最埌の氷のマグロ、どうやっお撮圱したの』
    『CGじゃないよね 本物』
    『この子の食レポ、信頌できる』
    『スヌパヌチャット Â¥5,000』
    そしお、予想倖の反応も。
    『これ芋おNECO Supreme買ったら、うちの猫が狂喜乱舞した』
    『マゞで矎味しいらしい。うちの猫、普段食べないのに完食した』
    『ミミちゃんのリアクション芋お即ポチった』
    「ミミ、芋お。『NECO Supreme』から远加オファヌが来たわ」
    レむンは興奮気味にスマホを芋せおきた。
    「今床は『極みマグロシリヌズ党皮類食レポ』。報酬は――200䞇円」
    「にひゃくたん  」
    私は目を䞞くした。
    「それず、他の䌁業からも続々ず。テレビ局からも出挔䟝頌が来おる」
    「テレビ  ですか」


    䌁業スタゞオ朜入電気劖怪ずの遭遇

    数日埌。私たちは、ずある撮圱スタゞオに招かれおいた。今日は家電メヌカヌずの合同撮圱だ。
    「はぁ  人が倚い  」
    私はメむド服姿で、控え宀の゜ファに座っおいた。他にも数組の「ペットむンフル゚ンサヌ」が招かれおおり、人気の猫や犬たちがあちこちで飌い䞻ず共に埅機しおいる。
    スタゞオ内は、照明がたぶしく、撮圱機材が敎然ず䞊んでいた。䞭倮には、今回の䞻圹である「ペット向け空気枅浄機」が鎮座しおいる。䞞みを垯びた癜いボディに、肉球のマヌクが぀いおいる。
    撮圱は順調に進んでいるように芋えた。
      が。
    「あれ なんか照明、暗くない」
    スタッフの䞀人が぀ぶやいた。
    私の尻尟がぎんず立぀。劖気を感じる。照明の䞀぀が、チカチカず䞍自然に瞬いおいた。
    『レむン』
    『ん どうしたのミミ』
    『あの照明、なんだか嫌な感じがしたす』
    『䜎玚の電気系劖が入り蟌んでるかもね。たたにいるのよ、スタゞオずか電車の倉電蚭備ずかに』
    照明の根元、金属フレヌムの圱の郚分に、小さな黒いモダが枊巻いおいるのが私にも芋えた。
    「ちょっず、ブレヌカヌ確認しおきたヌす」
    スタッフがスタゞオを飛び出す。
    その瞬間だった。
    バチッ
    鈍い音ず共に、スタゞオ内の電気が䞀斉に萜ちた。
    「きゃっ」「暗っ」
    悲鳎ずざわめき。非垞灯だけが赀く点灯し、スタゞオは䞀気に䞍気味な雰囲気に包たれた。
    『あの黒いモダが劖怪ですか』
    『ええ。䜎玚だけど、電力蚭備に取り憑くず厄介なや぀』
    『蚎滅したすか』
    『ううん、この皋床なら"぀たみ出す"くらいでいいわ。ここ、䌁業のスタゞオだし。壊したら匁償だからね』
    匁償――恐ろしい単語だ。
    『ミミ、さっきの制埡蚓緎芚えおる』
    『もちろんです』
    『じゃあ、出力30の雷を、あのモダにピンポむントで圓おお。呚りの機材には絶察圓おないように』
    私は深く息を吞い蟌み、䜓内の雷を意識した。
    「出力  30」
    額に軜く觊れおきたレむンの指先から、埮量の雷゚ネルギヌが流れ蟌んでくる。それを自分の䞭に取り蟌み、「30」ずいう数字のむメヌゞに合わせお調敎する。
    「九尟流・点雷おんらい」
    ピッ。
    䞀瞬、指先から现い光の糞が走った。雷ずいうより、レヌザヌポむンタヌのような粟密な線。その線は黒いモダを貫き、音もなく消えた。
    『ギッ  』
    かすかな悲鳎のようなものが聞こえた気がした。黒いモダは匟けるように散り、空気が軜くなる。
    同時に、非垞灯以倖の電気が順番に戻っおきた。
    「あ、埩旧した」「よかった〜」
    『お芋事。完璧なピンポむント攻撃だったわ』
    『ふふん、圓然です。これでも蚓緎したしたから』


    地獄の制埡蚓緎ず静かな成長

    その日の午埌、私たちはマンションの屋䞊にいた。
    冷たい颚が吹き抜ける䞭、レむンは簡易的な結界を匵り、呚囲を魔法障壁で囲った。
    「ここなら倚少暎発しおも倧䞈倫。  たぶん」
    「『たぶん』の粟床をもう少し䞊げおください」
    「じゃ、たずは基瀎から。コピヌ胜力で私の雷を受け取る。そのあず、自分の䞭でどれくらい増やすか決めお、指先から小さく出す」
    レむンが手のひらに、小さな雷球を生み出した。い぀もの砎壊的雷撃ではなく、豆電球皋床の可愛らしい光だ。
    「このくらいの出力ね」
    その雷球を、レむンがポンず私の額に投げ぀けた。
    「ふにゃっ」
    額から身䜓の䞭に、しゅるしゅるず雷の感觊が入り蟌んでくる。
    『䞻人の胜力を転写コピヌ』
    私の䜓質がそれを受け取り、自動的に倉換を始める。
    「ミミ、深呌吞しお。自分の䞭に入った雷を、数字でむメヌゞしおみお」
    「数字」
    「そう。今のは『出力10』くらい。い぀もの雷撃は『出力1000』。前に壁を吹き飛ばしたずきは『出力800』くらいをコピヌしちゃった感じかな」
    「今回は、『出力5』だけ倖に出すむメヌゞで」
    私は目を閉じ、自分の䞭の雷を意識した。
    確かに、䜓内を流れる゚ネルギヌの量を「倚い」「少ない」でなく、䜕ずなく「数字」で感じ取れる。
    「出力  5」
    私は指先に意識を集䞭させた。
    「――ふっ」
    ピチッ。
    指先から、小さな静電気の火花が飛んだ。
    「  成功」
    「成功よ 玠晎らしい」
    それからしばらく、私たちは延々ず「出力調敎ゲヌム」を続けた。
    出力5、10、20、50。最初は誀差が倧きかったが、埐々に感芚が掎めおきた。
    䞀週間の蚓緎を経お、私の制埡胜力は栌段に向䞊しおいた。
    「冷法・霜華」
    テヌブルの䞊のグラスに向けお、制埡された冷気を攟぀。氎面だけが薄く凍り、グラス党䜓を凍らせるこずなく術を完了させた。
    「玠晎らしいわ 範囲制埡も出力制埡も、栌段に䞊達しおる」
    レむンが拍手する。
    「前はテヌブルごず冷凍マグロにしおたしたからね  」
    「でも、その『事故映像』のおかげで、今の人気があるのよ」


    屋䞊での語らい深たる絆

    その倜、私は屋䞊で、月を芋䞊げながら霊力の制埡蚓緎をしおいた。レむンの霊力をコピヌし、それを少しず぀、制埡しながら攟出する。
    最初は小さな火花皋床。次は小さな氷の結晶。そしお、埐々に出力を調敎しおいく。
    「ミミ、䞊達早いわね」
    レむンが屋䞊に䞊がっおきた。手には枩かいココアが二぀。
    「猫は孊習胜力が高いのです」
    私は䞀぀を受け取り、ゆっくりず飲んだ。甘くお、枩かい。
    「ねえ、ミミ」
    「なんですか」
    「あなた、この生掻、楜しい」
    私は少し考えた。
    こた぀で䞞くなっおいた頃。䜕も考えず、ただその日を生きおいた頃。あれはあれで幞せだった。
    だが、今は――。
    「楜しいです」
    私は玠盎に答えた。
    「レむンず䞀緒にいるず、色々面倒なこずも倚いですけど――悪くないです」
    レむンは嬉しそうに笑った。
    「私もよ。ミミずケロちゃんがいおくれお、毎日が楜しい」
    「ガり、クン、ワン」
    い぀の間にか、ケロちゃんも屋䞊に䞊がっおきおいた。䞉぀の頭がそれぞれ私ずレむンを芋䞊げおいる。
    月が雲の間から顔を出し、私たちを柔らかく照らした。
    「でも、レむン。あの時、あなたに出䌚えお本圓に良かった」
    「私もよ。ミミずケロちゃんがいおくれお――こんなに賑やかで枩かい家族ができるなんお」
    レむンは私を芋お、埮笑んだ。
    「䞖界䞭が、私たちの家みたいになれば、きっず楜しいず思うの。九尟の猫又ず、地獄の番犬ず、远攟された退魔垫が、こうやっお家族になれたんだもの」
    私は、レむンの隣に䞊んだ。
    「隒がしくお、面倒くさくお、でも枩かい。そんな堎所なら、悪くありたせん」
    私の銖元のチョヌカヌが、小さく揺れた。もう音は鳎らない。敵意も殺意も、ここにはないからだ。
    「ミミ」
    「はい」
    「これからもよろしくね。私の最高の盞棒」
    レむンが手を差し出しおきた。
    私はその手をしっかりず握り返した。
    「こちらこそ。未来氞劫、お守りしたすよ。私の倧切な、䞖話の焌けるご䞻人様」
    「䞖話焌けるっお䜙蚈」
    私たちは顔を芋合わせお、たた笑い合った。


    新たなステヌゞぞの扉

    翌日、レむンのスマホに新しいメヌル通知が届いた。
    レむンが確認しお、眉を䞊げる。
    「  テレビ局からよ」
    「テレビ局」
    「『朝の情報番組のペット特集コヌナヌに、ご出挔いただけないでしょうか』だっお」
    私は固たった。
    「党囜攟送  ですよね」
    「たぶんね」
    「生攟送ですか」
    「えヌず  『できれば生でリアルタむム感を出したいず考えおおりたす』」
    「  生攟送ですか」
    雷ず氷ず、チョヌカヌの蚘憶が蘇る。
    「胜力が暎走したらどうするんですか」
    「  たた蚓緎ね」
    レむンは嬉しそうに、しかしどこか䞍安そうに笑った。
    「でも、ミミ。ここたで来たんだし、䞀緒に行っおみない」
    私は少し考えた。
    倧劖怪である私が、人間たちの前で芞をする。昔の私なら、プラむドが蚱さなかっただろう。だが、今は――。
    レむンの嬉しそうな顔。ケロちゃんの無邪気な笑顔。そしお、芖聎者たちの枩かいコメント。
    「やりたしょう。ただし、条件がありたす」
    「条件」
    「胜力の暎走察策ずしお、私に制埡の蚓緎をさせおください。毎回、䜕かを凍らせたり爆発させたりしおいおは、本業にも支障が出たす」
    レむンは目を芋開いた。
    「ミミ  成長したわね」
    「圓たり前です。これでも倧劖怪ですから」
    私は胞を匵った。
    「あず、極みマグロ猶は定期的に支絊しおください」
    「それが本音ね」
    「はい」
    私たちは笑い合った。
    ケロちゃんも、䞉぀の頭で䞀斉に鳎いた。
    「ワン ガり クン」
    倜空には満月。明日もたた、忙しくお、隒がしくお、最高に幞せな䞀日が始たる。
    案件䟝頌は増え続け、フォロワヌ数は100䞇人に迫り、テレビ出挔も決たった。
    でも、䞀番倧切なのは――この、隒がしくお枩かい家族ずの時間。
    私は思う。あの日、レむンに捕たっお――いや、出䌚っお、本圓に良かった。
    こた぀で䞞くなっおいた頃の私には、こんな未来は想像もできなかった。でも今、私にはかけがえのない家族がいる。
    九尟の猫劖怪ずしお、䜿圹された埓魔ずしお、そしお――この奇劙で枩かい家族の䞀員ずしお。
    未来氞劫、この絆を守り続けよう。
    倜空に、小さく制埡された氷の結晶が舞った。
    それは、新しい挑戊ぞの、静かな決意だった。
    【第五話 完】


    第六話「九尟の子猫、テレビデビュヌで倧隒動」

    「ミミ、起きお 今日はテレビ出挔よ」
    朝4時。ただ空が薄暗い䞭、レむンが私の垃団を容赊なく剥ぎ取った。
    「  ただ倜明け前ですよ。猫は倜行性ですが、朝は寝るものです」
    私は猫の姿で䞞くなったたた、抗議の意を蟌めお垃団の端を前足で掎み、再び朜り蟌もうずした。だが、レむンは蚱しおくれない。その目は、獲物を狙う猛犜類のようにギラギラず茝いおいる。
    「生攟送は埅っおくれないの 朝の情報番組『モヌニングスマむル』、芖聎率15%の人気番組よ 党囜攟送なのよ」
    「党囜攟送ですよね。生攟送で胜力が暎走したらどうするんですか。攟送事故では枈みたせんよ」
    「倧䞈倫、この䞀週間みっちり蚓緎したでしょ。それに――」
    レむンは私を抱き䞊げながら、ニダリず笑った。
    「気合い入れおいきたしょう。これが成功すれば、案件䟝頌が爆増よ。極みマグロ猶、䞀幎分远加できるかも」
    私の耳がピクリず動いた。
    「  仕方ありたせん。倧劖怪の嚁厳を芋せおやりたしょう」
    私はため息を぀き぀぀、人間の姿ぞず倉化した。この女、私の操瞊法を完党に心埗おいる。


    出発準備ずいう名の戊堎

    私は半分寝たたたリビングの゜ファに座らされ、レむンによる「完璧メむク䜜戊」の逌食ずなった。
    テヌブルの䞊には、普段のレむンからは想像も぀かないほどの化粧品が䞊んでいる。ファンデヌション、アむシャドり、チヌク、リップ  これらは歊噚か䜕かだろうか。
    「今日はい぀ものメむド服じゃなくお、枅楚系ワンピでいきたしょう。スポンサヌ様からのご提䟛よ」
    レむンが取り出したのは、淡いブルヌのワンピヌスだった。䞊品なレヌスがあしらわれ、膝䞈のスカヌトがふわりず広がるデザむンだ。
    「い぀の間にそんな服を  」
    「昚日の倜に届いたの。着画も欲しいんだっお。『枅楚な矎少女ず猫耳のギャップ萌え』がテヌマらしいわ」
    「人間の性癖は耇雑怪奇ですね」
    レむンは嬉々ずしおタグを切る。私はされるがたたにワンピヌスを着せられ、髪を梳かれた。
    「はい、目を぀ぶっお」
    パフが顔に圓たる感觊。ブラシが頬を撫でるくすぐったさ。メむクずいうものは、人間の倉身術なのかもしれない。
    数十分埌。
    「よし、完成」
    レむンが手鏡を枡しおくれた。そこに映っおいたのは――
    「誰ですか、この人」
    思わずそう呟くほど、「普通の矎人なお姉さん」だった。猫耳も尻尟も、完璧に隠れおいるわけではないが、髪型ず服の雰囲気で「そういうファッション」に芋えなくもない。
    「ミミ、可愛い。これなら地䞊波完党OK。いや、むしろ芖聎者がザワ぀くレベル」
    「猫ずしおは耇雑な気分です。毛皮の手入れの方が重芁だず思うのですが」
    足元では、ケロちゃんがクンクンず匂いを嗅いでいる。䞉぀の頭にはそれぞれ、赀、青、黄色のリボンが結ばれおいる。
    「ケロちゃんはお留守番ね。今日は生攟送スタゞオだから、さすがに連れおいけないの」
    「クゥゥン  」
    䞉぀の頭が同時にしょんがりする。耳が垂れ、尻尟が止たる。殺傷力の高い可愛さだ。
    「うっ  そんな目で芋ないで  」
    レむンが胞を抌さえおよろめいた。
    「ケロちゃん、ちゃんず垰っおきたすから。倉な劖気を感じたら、すぐ結界起動しおお。あず、冷蔵庫のプリンは食べちゃダメですよ」
    私はしゃがみ蟌み、䞉぀の頭を順番に撫でた。巊の頭が私の頬をペロリず舐め、真ん䞭の頭が名残惜しそうに鳎き、右の頭はすでにクッションの䞊で二床寝を始めおいる。


    テレビ局ずいう異䞖界

    テレビ局に着いたのは、集合時間ぎったりだった。
    巚倧なビル、煌々ず茝くロビヌ、慌ただしく行き亀うスタッフたち。空気䞭に挂う独特の緊匵感ず、どこか浮぀いた高揚感。ここは、劖怪の䜏む「裏の䞖界」ずはたた違う、異質な空間だった。
    「レむンさん、ミミさん、おはようございたす」
    ADらしき若い男性が駆け足で近づいおきた。むンカムを぀け、台本を小脇に抱えおいる。
    「こちら、控え宀になりたす。メむクスタッフも埅機しおおりたすので」
    案内された控え宀は、思ったより質玠だった。パむプ怅子、長机、壁䞀面の鏡。そこに倧量のお菓子ず飲み物が積たれおいる。
    「差し入れです。ご自由にどうぞ」
    「ありがずうございたす」
    レむンはさっそくポテチの袋を開け始めた。出番前に油物を食べる勇気、芋習いたくない。
    「レむン、服に粉が぀きたすよ」
    「倧䞈倫、䞊からガりン着るから」
    しばらくするず、番組ディレクタヌらしき女性が入っおきた。ショヌトカットで、キビキビずした動きの女性だ。名札には「高森」ずある。
    「レむンさん、ミミさん、はじめたしお。今回のペット特集のディレクタヌの高森です」
    高森ディレクタヌは資料を広げながら、段取りを説明しおくれた。
    「生攟送ですので、基本的に台本通りですが、倚少のアドリブは倧歓迎です。お二人の掛け合いがSNSで人気ですので、そこを期埅しおいたす」
    「わかりたした。任せおください」
    レむンが自信満々に答える。
    「ただし――」
    高森ディレクタヌが䞀拍眮いお、真剣な県差しでこちらを芋぀めた。
    「先日の動画のような"壁が消えるレベル"の挔出は  絶察にやめおくださいね。スタゞオのセット、高いので」
    「  肝に銘じたす」
    本圓に、あの動画は各方面に波王を呌んでいたらしい。
    「あず、ミミさんの特技披露のコヌナヌですが、䜕か埗意なこずはありたすか」
    「えっ」
    私はレむンを芋た。レむンは目を逞らした。
    「あの、倧劖怪に『お手』ずいうのは  」
    「あ、ミミちゃんはバランス感芚がすごいんですよ コップを頭に乗せお歩くずか」
    レむンが勝手に提案した。
    「ほう それは画になりたすね。じゃあ、それでいきたしょう」
    高森ディレクタヌはメモを取りながら、満足そうに頷いた。
    「レむン、そんな芞、緎習した芚えがありたせんが」
    ディレクタヌが出お行った埌、私は小声で抗議した。
    「倧䞈倫よミミ。猫のバランス感芚なら䜙裕でしょ」
    「倱敗したら攟送事故ですよ」
    「倧䞈倫、信じおるから」
    この「信じおる」ずいう蚀葉が、䞀番信甚できない。


    生攟送、本番開始

    スタゞオは、控え宀以䞊に慌ただしかった。
    倩井から吊るされた無数の照明、床を這う倪いケヌブル、巚倧なカメラクレヌン。アナりンサヌ、芞人、タレントたちが、それぞれの䜍眮でスタンバむしおいる。
    「じゃあ、CM明けすぐにペット特集入りたすので、こちらの゜ファにお座りいただいお  」
    私は指定された堎所に座った。隣のクッションには猫型のぬいぐるみが食られおいる。本物の猫ではなくぬいぐるみを眮くあたり、珟堎の安党意識を感じる。
    「ミミ、緊匵しおる」
    レむンが小声で聞いおきた。
    「少しだけ  。劖魔ず察峙する時ずは違う皮類の緊匵感ですね」
    「倧䞈倫。胜力さえ暎走しなければ、䜕があっおも笑顔で乗り切れるわ。私たちはプロよ」
    「䜕のプロですか」
    「可愛さのプロ」
    「本番行きたヌす 5、4、3、2――」
    フロアディレクタヌのカりントダりンのあず、スタゞオに明るい音楜が流れ始めた。
    「おはようございたヌす」
    叞䌚のアナりンサヌず人気タレントが元気よく挚拶し、番組はい぀ものテンポで進んでいく。ニュヌス、倩気予報、占いが終わり、いよいよ私たちの出番だ。
    「さお続いおは、朝から癒やされたい皆さん必芋のこちらのコヌナヌです」
    『人気急䞊昇 もふもふ系むンフル゚ンサヌ特集』
    モニタヌに、レむンのチャンネルの動画が映し出される。ケロちゃんず遊ぶ私の姿、極みマグロを食べお昇倩しかけおいる私の顔、そしお――壁が吹き飛ぶ瞬間。
    「こちら、いたSNSで倧人気の"退魔垫お姉さんミミちゃん"です スタゞオにお越しいただきたした」
    カメラが私たちを映す。赀いランプが点灯した。スタゞオ内の拍手。私は教えられた通りに、にこやかに頭を䞋げた。
    「はじめたしお。レむンです」
    「ミミです。よろしくお願いしたす」
    「いやヌ、動画拝芋したしたけど、本圓にすごかったですね 特に最埌の"ドカヌン"っお壁が  あれ、CGじゃないんですよね」
    芞人枠のタレントが倧袈裟なゞェスチャヌで笑いを取る。
    「あれはたあ、ちょっずした  ハプニングでしお。物理挔算゚ンゞンのバグみたいなものです」
    レむンが苊笑いで返す。嘘は蚀っおいない。
    「お二人は、どういうきっかけで䞀緒に暮らすようになったんですか」
    アナりンサヌが尋ねる。
    「えヌず、道端で拟われたした」
    私の発蚀に、スタゞオが䞀瞬ざわ぀いた。
    「拟われた」
    「正確には、私が保護した圢ですね。ちょっず䞍思議な猫ちゃんで、雚の䞭で震えおいたので」
    レむンがすかさずフォロヌする。危ない。今、完党に「劖怪ずしお蚎䌐されかけた」ず蚀いかけた。
    「なるほど、運呜の出䌚いだったんですね。では、そんなミミちゃんには、特技を披露しおいただけるずいうこずで」
    スタッフが、氎の入った玙コップを持っおきた。なみなみず泚がれおいる。
    「えヌ、この状態で――」
    私は立ち䞊がり、コップを受け取った。
    「頭に乗せお、歩いおいただきたす」
    スタゞオが静かになる。カメラが私の足元ず頭をアップにする。
    私は、コップを頭に茉せ、そっず手を離した。
    猫の身䜓胜力をナメおもらっおは困る。䜓幹の安定性、筋肉の埮现なコントロヌル。これくらい、造䜜もないこずだ。
    私は䞀歩、たた䞀歩ず歩いおみせる。モデルりォヌキングのように優雅に。コップの氎面は、ほずんど揺れない。
    「おおお  」
    「すごいバランス感芚ですね  」
    アナりンサヌが驚きの声を䞊げた。
    順調だ。ここたでは順調――
    その瞬間だった。
    バチッ
    スタゞオの照明機材の䞀぀が、音を立おおショヌトした。火花が散り、煙が䞊がる。
    「きゃっ」
    突然の音ず光に、私の集䞭が䞀瞬切れた。猫の本胜で、䜓がビクリず反応しおしたったのだ。
    氎が――揺れた。
    「あっ」
    コップが傟いた。重力が氎を床ぞず誘う。
    このたたでは氎浞しになる。ワンピヌスが濡れる。攟送事故になる。レむンの顔に泥を塗る。
    ずっさに、私は反射的に霊力を指先に集めおしたった。
    止たれ
    ピタ。
    コップは空䞭で止たり、こがれ萜ちそうになった氎滎すらも、空䞭で静止した。
    䞀瞬の静寂。
    物理法則を無芖した光景に、スタゞオ䞭の時間が止たったようだった。
    次の瞬間――スタゞオからどよめきが䞊がる。
    「ええええええ」
    「今、芋たした」
    「止たった 今、空䞭で止たったよね」
    やっちたったあああああ
    完党に、胜力を䜿っおしたった。無意識の念動力。ディレクタヌ垭からの芖線が痛い。高森さんが口を開けお固たっおいる。
    「えヌ  これは、その  」
    私は冷や汗をかきながら、レむンに助けを求めた。
    レむンは䞀瞬驚いた顔をしたが、すぐにニッコリず笑った。
    「すごいでしょう これぞ『絶察バランス』 あたりに動きが滑らかすぎお、止たっおいるように芋えるんです」
    「いやいやいや 今、完党に浮いおたしたよ」
    芞人がツッコミを入れる。
    「目の錯芚です」
    レむンが断蚀した。
    「そ、そうか  錯芚か  」
    アナりンサヌが無理やり玍埗しようずしおいる。
    「すごい特技ですねえええ たさに"奇跡のバランスお姉さん"ですね」
    無理やりなたずめが入った。私はそっずコップを回収し、テヌブルに眮いた。心臓がバクバクしおいる。
    「では、続いおはこちらのコヌナヌです」
    アナりンサヌが巧みに番組を次に進める。プロの技だった。


    番組終了、そしお緊急事態

    生攟送は、なんずか倧事故攟送䞭止レベルなく終わった。
    「お疲れさたでしたヌ」
    スタゞオを出るず、スタッフ達から䞀斉に頭を䞋げられる。
    「先ほどの"コップ芞"、すごくバズりそうです」
    「SNSのトレンドにも"コップ止めた人"っお入っおたすよ」
    「あれ、どういうトリックなんですか」
    高森ディレクタヌが苊笑しながら近づいおきた。
    「いやあ、正盎ヒダッずしたしたけど、結果的には神回でしたね。芖聎率も瞬間最高で22%を蚘録したした」
    「そんなに  」
    「次回もぜひ出挔をお願いしたす。ただし、もう少し"安党な範囲での䞍思議"を盞談させおください」
    「  怜蚎したす」
    楜屋に戻るず、レむンのスマホが鳎り続けおいた。
    「すごい、案件䟝頌が止たらない  テレビ局からも出挔䟝頌が  」
    レむンはホクホク顔でスマホを操䜜しおいる。
    「レむン、寿呜が瞮たりたしたよ。マグロ猶远加しおください」
    「わかったわかった。最高玚のを――」
    その時、レむンのスマホが、今たでずは違う着信音を鳎らした。
    緊急呌び出し音。
    レむンの衚情が、䞀瞬で倉わった。ヘラヘラした笑顔が消え、鋭い退魔垫の顔になる。
    「ミミ、ちょっず静かに」
    レむンは通話ボタンを抌した。
    「はい、レむンです。  ええ。  堎所は   芏暡は」
    短いやり取りの埌、レむンは通話を切った。
    「ミミ、悪いけど今日の予定、党郚キャンセルね」
    「  本業ですか」
    「ええ。A玚劖魔が出珟した」
    「A玚  」
    私が今たで盞手にしおきたのは、B玚以䞋の劖魔ばかりだ。A玚ずなれば、街䞀぀が壊滅するレベルの灜害指定劖魔である。
    「堎所は垂内南郚の工業地垯。すでに被害者が出おる。䞀般人が巻き蟌たれおるわ」
    レむンは䞊着を矜織り、メむクを萜ずす間もなく立ち䞊がった。
    「私も行きたす」
    「ダメよ。今回は危険すぎる。ミミは家に垰っおケロちゃんを――」
    「私は、あなたの埓魔です」
    私は匷い口調で遮った。
    「䞻人が戊うなら、私も戊いたす。それに、A玚盞手に䞀人で行かせるわけにはいきたせん」
    レむンは私を芋぀めた。数秒の沈黙の埌、圌女は小さく笑った。
    「  わかった。でも、絶察に無理はしないで。私の埌ろにいお」
    「善凊したす」
    私たちは急いで着替え、テレビ局を埌にした。


    戊堎ぞの道

    レむンの愛車䞭叀の軜自動車だが、゚ンゞンだけは改造されおいるに乗り蟌み、アクセルを螏み蟌む。
    「今回の盞手は『圱喰らい』。人の圱を喰らい、その人間を操る胜力を持぀」
    レむンがハンドルを握りながら説明する。
    「圱を喰われた人間は、日光に圓たるず消滅する。だから倜のうちに決着を぀けなきゃいけない」
    「厄介ですね」
    「それだけじゃない」
    レむンの声が、少しだけ暗くなった。
    「今回は単䜓じゃない。組織的な動きがある。劖魔の発生源が䞍自然なの」
    「䞍自然」
    「ええ。自然発生した劖魔じゃない。誰かが意図的に䜜り出した『合成獣キメラ』の可胜性が高い」
    「合成獣  」
    劖怪の䞖界でも犁忌ずされる術だ。耇数の劖怪を混ぜ合わせ、人工的に匷力な個䜓を䜜り出す。
    「レむン、心圓たりがあるんですか」
    「  昔の知り合いに、そういう研究をしおいた連䞭がいたわ」
    レむンはそれ以䞊語らなかった。だが、その暪顔には、い぀もの明るさは埮塵もなかった。深い怒りず、隠しきれない悲しみが滲んでいる。
    車は、倕暮れの街を走り抜けおいく。
    ビル矀が遠ざかり、無機質な工堎の煙突が芋えおくる。空の色が、䞍気味な玫色に倉わっおいく。


    工業地垯圱に支配された街

    倜が完党に萜ちた工業地垯。
    私は既に人間の姿を解き、猫又の本来の姿に戻っおいた。九本の尻尟が䞍安そうに揺れおいる。錻腔を刺激する甘ったるい腐臭。これたで盞手にしおきた劖魔ずは、栌が違う。
    「A玚は䌊達じゃないっおこずね」
    レむンも既に戊闘モヌドに入っおいた。普段の軜口を叩く姿は埮塵もなく、その暪顔には冷培なプロフェッショナルの衚情が浮かんでいる。
    車がバリケヌドの前で停止した。そこから先は埒歩での䟵入ずなる。
    「ミミ、今回の盞手は今たで戊ったどの劖魔ずも違う。絶察に油断しないで」
    「わかっおいたす。でも、レむンこそ気を぀けおください。私には、あなたを守るずいう誓いがありたすから」
    レむンは少しだけ埮笑んで、私の頭を軜く撫でた。
    「頌もしい埓魔ね。行きたしょう」
    工業地垯の䞭心郚に向かう道路は、たるで異䞖界に迷い蟌んだかのような光景だった。
    アスファルトに萜ちた圱が、たるで生きおいるかのようにうねり、蠢いおいる。電柱の圱は觊手のように䌞び瞮みし、建物の圱は人型を暡しお揺らめいおいた。
    「圱そのものが意志を持っおいる  」
    「足元に気を぀けお。圱を螏んだら、そのたた匕きずり蟌たれる可胜性があるわ」
    私は軜やかにコンテナの䞊に飛び移り、地面の圱を避けお移動した。猫の身䜓胜力を掻かした䞉次元機動。レむンも身䜓匷化の術を䜿い、私に遅れるこずなく埌を远っおくる。
    そしお、工業地垯の䞭倮広堎で――぀いにその姿を目にした。
    「  これが、A玚劖魔」
    広堎の䞭心に鎮座しおいたのは、巚倧な黒い塊だった。
    倧型トラックほどもある䞍定圢の身䜓は、たるでコヌルタヌルのようにドロドロず波打っおいる。その衚面には、無数の人間の顔が浮かんでは消えを繰り返しおいた。苊悶に歪んだ衚情、助けを求める口の動き、絶望に満ちた瞳――。
    「あの顔  圱を喰われた人たちですか」
    「ええ。圱を喰らうこずで、その人の蚘憶や感情たで取り蟌んでいる」
    圱喰らいの呚囲からは、無数の觊手のような圱が䌞び、建物や地面に根を匵っおいた。たるで巚倧な蜘蛛の巣のように、この䞀垯党䜓を支配䞋に眮いおいる。
    『グルルル  新しい圱  矎味しそうな圱  』
    䜎く、耇数の声が重なったような䞍気味な声が響いた。圱喰らいが私たちの存圚に気づいたのだ。
    「来るわよ、ミミ」
    「はい」
    圱の觊手が䞀斉に襲いかかっおきた。私は空䞭に跳躍し、レむンは暪に転がっおそれを回避する。
    私がいたコンテナが、觊手の䞀撃で玙くずのように朰された。
    「硬い  」
    着地ず同時に、私は爪に霊力を纏わせお反撃した。
    「九尟流・颚切り爪」
    真空の刃ず化した爪撃が觊手を切り裂く――はずだった。
    ガキンッ
    金属音ず共に、私の爪が匟かれた。
    「なんですっお」
    「ミミ、䞋がっお」
    レむンが䞡手を合わせ、雷撃の術を発動する。
    「雷法・玫電䞀閃」
    青癜い皲劻が䞀盎線に圱喰らいの本䜓ぞず向かう。だが、圱の衚面で雷は拡散し、無効化されおしたった。
    「結界   ただの野生の劖魔が、こんな高床な防埡術を  」
    レむンの衚情に、困惑が浮かんだ。
    その時、圱喰らいの身䜓から、無機質な音声が響いた。
    『  察象確認  レむン・アヌクラむト  サンプル回収開始  』
    「今、䜕お蚀った  」
    レむンの顔が青ざめた。
    「アヌクラむトっお  レむンの苗字ですか」
    「  どこでその名前を知った」
    レむンの声が、氷のように冷たくなった。
    平和な副業ラむフは、䞀時の䌑息だった。これから始たるのは、本物の戊堎。
    私たちの奇劙で枩かい家族の絆が、これから本圓に詊されるこずになる。
    【第六話 完】

    第䞃話「A玚劖魔、工業地垯で激突する」

    「珟堎たで、あず䞉分よ」

    レむンの運転する車が、倜の工業地垯を駆け抜けおいく。

    窓の倖には、巚倧な煙突ず錆び぀いた鉄骚が林立する無機質な颚景が広がっおいた。本来なら倜勀の䜜業員たちが忙しく動き回っおいるはずの時間だが、今倜は人圱䞀぀芋えない。街灯だけが虚しく点滅を繰り返しおいる。

    「空気が  重いですね」

    私は既に人間の姿を解き、猫又の本来の姿に戻っおいた。九本の尻尟が䞍安そうに揺れおいる。錻腔を刺激する甘ったるい腐臭。これたで盞手にしおきた劖魔ずは、栌が違う。

    「A玚は䌊達じゃないっおこずね」

    レむンも既に戊闘モヌドに入っおいた。普段の軜口を叩く姿は埮塵もなく、その暪顔には冷培なプロフェッショナルの衚情が浮かんでいる。

    車がバリケヌドの前で停止した。そこから先は埒歩での䟵入ずなる。

    「ミミ、今回の盞手は今たで戊ったどの劖魔ずも違う。絶察に油断しないで」

    「わかっおいたす。でも、レむンこそ気を぀けおください。私には、あなたを守るずいう誓いがありたすから」

    レむンは少しだけ埮笑んで、私の頭を軜く撫でた。

    「頌もしい埓魔ね。行きたしょう」

    圱に支配された街

    工業地垯の䞭心郚に向かう道路は、たるで異䞖界に迷い蟌んだかのような光景だった。

    アスファルトに萜ちた圱が、たるで生きおいるかのようにうねり、蠢いおいる。電柱の圱は觊手のように䌞び瞮みし、建物の圱は人型を暡しお揺らめいおいた。街灯の光すら、地面に届く前に黒いもやに飲み蟌たれおいく。

    「圱そのものが意志を持っおいる  」

    「足元に気を぀けお。圱を螏んだら、そのたた匕きずり蟌たれる可胜性があるわ」

    私は軜やかにコンテナの䞊に飛び移り、地面の圱を避けお移動した。猫の身䜓胜力を掻かした䞉次元機動。レむンも身䜓匷化の術を䜿い、私に遅れるこずなく埌を远っおくる。

    そしお、工業地垯の䞭倮広堎で――぀いにその姿を目にした。

    「  これが、A玚劖魔」

    広堎の䞭心に鎮座しおいたのは、巚倧な黒い塊だった。

    倧型トラックほどもある䞍定圢の身䜓は、たるでコヌルタヌルのようにドロドロず波打っおいる。その衚面には、無数の人間の顔が浮かんでは消えを繰り返しおいた。苊悶に歪んだ衚情、助けを求める口の動き、絶望に満ちた瞳――。

    「あの顔  圱を喰われた人たちですか」

    「ええ。圱を喰らうこずで、その人の蚘憶や感情たで取り蟌んでいる」

    圱喰らいの呚囲からは、無数の觊手のような圱が䌞び、建物や地面に根を匵っおいた。たるで巚倧な蜘蛛の巣のように、この䞀垯党䜓を支配䞋に眮いおいる。

    『グルルル  新しい圱  矎味しそうな圱  』

    䜎く、耇数の声が重なったような䞍気味な声が響いた。圱喰らいが私たちの存圚に気づいたのだ。

    圧倒的な防埡力ずの遭遇

    「来るわよ、ミミ」

    「はい」

    圱の觊手が䞀斉に襲いかかっおきた。私は空䞭に跳躍し、レむンは暪に転がっおそれを回避する。

    私がいたコンテナが、觊手の䞀撃で玙くずのように朰された。

    「硬い  」

    着地ず同時に、私は爪に霊力を纏わせお反撃した。

    「九尟流・颚切り爪」

    真空の刃ず化した爪撃が觊手を切り裂く――はずだった。

    ガキンッ

    金属音ず共に、私の爪が匟かれた。B玚劖魔なら䞀撃で切断できる技が、たるで通じない。

    「なんですっお」

    「ミミ、䞋がっお」

    レむンが䞡手を合わせ、雷撃の術を発動する。

    「雷法・玫電䞀閃」

    青癜い皲劻が䞀盎線に圱喰らいの本䜓ぞず向かう。だが、圱の衚面で雷は拡散し、無効化されおしたった。

    「結界   ただの野生の劖魔が、こんな高床な防埡術を  」

    レむンの衚情に、困惑が浮かんだ。

    その時、圱喰らいの身䜓から、無機質な音声が響いた。

    『  察象確認  レむン・アヌクラむト  サンプル回収開始  』

    「今、䜕お蚀った  」

    レむンの顔が青ざめた。

    「アヌクラむトっお  レむンの苗字ですか」

    「  どこでその名前を知った」

    レむンの声が、氷のように冷たくなった。

    絶望的な戊闘

    圱喰らいは答えの代わりに、さらなる攻撃を仕掛けおきた。その身䜓が倉圢し、無数の人型の圱を生み出し始める。それらは歊噚のような圢をした圱を手に持ち、軍隊のように敎列しお私たちに向かっおくる。

    「兵隊たで䜜るなんお  これ、本圓にA玚」

    「レむン、雑魚は私が匕き受けたす 本䜓の匱点を探しおください」

    「わかった。頌むわよ、ミミ」

    私は敵の矀れに飛び蟌んだ。九本の尻尟を実䜓化し、それぞれが独立した歊噚ずしお機胜する。

    「九尟流・乱舞陣」

    尻尟で薙ぎ払い、爪で切り裂き、蹎りで吹き飛ばす。圱の兵隊たちは次々ず霧散しおいくが、本䜓から無尜蔵に新しい兵隊が湧き出おくる。

    「キリがありたせん  」

    䞀方、レむンは本䜓の呚囲を高速で移動しながら、様々な術を詊しおいた。

    「火炎 氷結 颚刃   党郚匟かれる」

    圱喰らいは党おの属性攻撃に察し、瞬時に適応した防埡を展開しおいた。

    「孊習型の結界システム   たるで機械のような  」

    レむンの動きが䞀瞬止たった。その隙を、圱喰らいは芋逃さなかった。

    『  解析完了  排陀開始  』

    本䜓から、極倪のレヌザヌのような熱線が攟たれた。

    「レむン」

    私は反射的にレむンの前に飛び出し、党霊力で防埡障壁を展開した。

    ドォォォォォン

    凄たじい衝撃ず熱量。障壁が悲鳎を䞊げ、ヒビが入っおいく。

    「ぐぅぅ  」

    熱線が止むず同時に、私は膝を぀いた。障壁は砕け散り、服はボロボロに焊げおいる。だが、レむンは無傷だ。

    「ミミ 無茶しないで」

    「倧䞈倫  です  でも、レむン  」

    私は荒い息を吐きながら、圱喰らいを芋぀めた。

    「あい぀、ただの劖魔じゃありたせん。䜕か  人工的な  」

    暎走するコピヌ胜力

    その時、私の䞭で䜕かが匟けた。

    レむンの霊力をコピヌしようずした瞬間、制埡が効かなくなったのだ。レむンの芏栌倖の力が、制埡䞍胜な勢いで私の䞭に流れ蟌んでくる。

    「あ  これ、たずい  」

    「ミミ」

    私の身䜓から、金色の光が溢れ出した。レむンの雷撃をコピヌしたはずなのに、それは雷ではなく、玔粋な霊力の奔流ずなっお攟出される。

    「制埡  できない  」

    「ミミ、萜ち着いお」

    だが、もう遅かった。私の䞭で暎走した霊力が、圱喰らいに向かっお䞀盎線に攟たれる。

    バチチチチチチッ

    金色の光線が、圱喰らいの防埡壁を貫通した。

    『ギャアアアア』

    初めお、圱喰らいが苊痛の声を䞊げた。

    「今です、レむン 防埡が厩れおいたす」

    「よし」

    レむンは空䞭に跳躍し、䞡手に巚倧な光の槍を生成した。

    「光法奥矩・倩照アマテラス」

    圧倒的な光の槍が、圱喰らいの䞭心郚に突き刺さる。

    『アアアアアアアア』

    圱喰らいの身䜓が内偎から発光し、爆散した。

    黒い圱が霧散し、呚囲に広がっおいた瘎気が晎れおいく。そしお、あちこちで人間たちの足元に、倱われおいた圱がゆっくりず戻っおいく。

    人工劖魔の蚌拠

    「やった  の」

    私はその堎にぞたり蟌んだ。コピヌ胜力の暎走で、霊力を䜿い果たしおいた。

    レむンが着地し、圱喰らいの残骞に近づく。

    そこには、砕け散った赀い結晶ず――焌け焊げた機械郚品が転がっおいた。

    「  やっぱり」

    レむンが郚品を拟い䞊げる。

    「これ、人工的な魔導回路よ。それも、かなり高床な技術で䜜られおいる」

    「人工的  ですか」

    「ええ。そしお、これを芋お」

    レむンが指差した郚品の䞀郚に、刻印があった。

    『A.A.R. - PROJECT CHIMERA - TYPE-07』

    「A.A.R.  アヌクラむト・アカデミヌ・リサヌチ」

    レむンの声が震えた。

    「たさか  あの連䞭がただ  」

    「レむン」

    「ミミ、これはただの劖魔退治じゃなかった」

    レむンは私を芋぀めた。その瞳の奥に、深い怒りず悲しみが混じっおいる。

    「誰かが私たちを――いえ、私を狙っお、この劖魔を送り蟌んできた」

    「あなたを どうしお」

    「  それは、私の過去に関わる話よ」

    レむンは立ち䞊がり、倜空を芋䞊げた。

    「ミミ、垰ったら話すわ。私の本圓の名前ず、䞀族のこず。そしお――なぜ私が分家に远いやられたのかを」

    工業地垯に、静寂が戻った。だが、私たちの心には新たな䞍安が芜生えおいた。

    この戊いは、もっず倧きな陰謀の序章に過ぎない。そしお、私たちの奇劙な家族の絆が、これから本圓に詊されるこずになる。

    「レむン」

    「なに」

    「どんな過去があっおも、どんな敵が珟れおも――私はあなたの偎にいたす」

    レむンは少しだけ埮笑んだ。

    「ありがずう、ミミ。あなたがいおくれお、本圓に良かった」

    私たちは互いに支え合いながら、車ぞず向かった。

    遠くで救急車のサむレンが響いおいる。長い倜が、ようやく終わろうずしおいた。

    だが、これは終わりではない。新たな戊いの、始たりなのだ。

    【第䞃話 完】

    第八話「レむンの過去、アヌクラむト家の秘密」

    「ただいた  」

    重い足取りで玄関を開けるず、䞉぀の頭を持぀小さな圱が匟䞞のように飛び出しおきた。

    「ワン ガり クヌン」

    ケロちゃんだ。䞉぀の頭がそれぞれ違う鳎き声で、私たちの無事を党身で喜んでいる。右の頭は私の足に抱き぀き、真ん䞭の頭はレむンの手を舐め、巊の頭は心配そうにクンクンず服の焊げた匂いを嗅いでいる。

    「ただいた、ケロちゃん。いい子で埅っおおくれたのね」

    私は人間の姿に戻り、ケロちゃんを抱き䞊げた。枩かい。この枩もりが、冷え切った戊いの蚘憶ず、工業地垯の瘎気を少しだけ溶かしおくれる。

    レむンは靎を脱ぎ捚おるず、リビングの゜ファに深く沈み蟌んだ。その顔には、肉䜓的な疲劎よりも深い、粟神的な重荷が芋お取れた。あの工業地垯で芋た光景――人工劖魔の残骞に刻たれた『A.A.R.』の文字が、圌女の心を蝕んでいるのだ。

    「レむン、お茶を淹れたすね。少し甘いものも必芁でしょう」

    「ありがずう  ミミ。あ、そうそう。郵䟿受けを確認しおもらえる」

    レむンの声には力がなかった。

    本家からの召喚状

    キッチンでお湯を沞かしながら、私は郵䟿受けから持っおきた束を確認した。

    近所のスヌパヌのチラシ、電気代の請求曞、ピザ屋のクヌポン。そしお――それらに混じっお、異質な空気を攟぀䞀通の封筒があった。

    真っ癜な高玚和玙。宛名は筆で曞かれた流麗な文字。そしお裏面には、赀い封蝋で厳重に封がされおいる。そこには嚁厳に満ちた王章が刻たれおいた。雷を束ねた剣ず、䞉぀の月を組み合わせたデザむンだ。

    「レむン、これです」

    封筒をテヌブルに眮くず、レむンの顔がさっず青ざめた。

    「  ぀いに来たわね」

    レむンは震える手で封を切り、䞭の䟿箋を取り出した。䟿箋からは、埮かだが䞊質な銙朚の銙りが挂った。それは、叀く、重苊しい䌝統の匂いだ。

    レむンは静かに、その内容を読み䞊げた。

    「『レむン・アヌクラむト殿。歀床の人工劖魔蚎䌐の件に぀き、本家ぞの出頭を呜ずる。䞀週間埌、正午。アヌクラむト本家屋敷にお埅぀。――圓䞻代行 アヌクラむト・れノン』」

    「出頭呜什  ですか」

    「ええ。アヌクラむト家は退魔垫の名門䞭の名門。血族ぞの呜什は絶察よ。拒吊暩はないわ」

    私はレむンの隣に座り、枩かいハヌブティヌを差し出した。湯気が立ち䞊り、少しだけ緊匵を和らげる。

    「レむン、話しおください。あなたの過去を。そしお、アヌクラむト家ずは䜕なのかを」

    レむンはカップを䞡手で包み蟌み、その枩かさにすがるようにしお、遠い蚘憶を蟿り始めた。

    忌み子ず呌ばれた少女

    「私の本圓の名前は、レむン・アヌクラむト。退魔垫の名門、アヌクラむト家の盎系に生たれた」

    レむンの声は静かだったが、郚屋の空気が匵り詰めた。

    「アヌクラむト家は代々、雷ず光の魔術を操る䞀族。政府公認の最䞊玚退魔垫の倚くは、この血筋から生たれおいるわ。劖怪退治を生業ずする者なら、誰もが知る名家よ。数癟幎の歎史があり、囜の闇を守り続けおきた䞀族」

    「名門のお嬢様、ずいうわけですか」

    「ええ。でも  私は『倱敗䜜』だった」

    レむンの瞳に、暗い圱が萜ちる。

    「普通の退魔垫の霊力は、蚓緎によっお埐々に成長するものよ。噚に合わせお力が育っおいく。十歳で基瀎を孊び、二十歳で䞀人前になる。でも私の力は、生たれた瞬間から枬定䞍胜だった」

    レむンは指先を芋぀め、そこで小さな火花をパチリず匟けさせた。

    「赀ん坊の頃から、泣くだけで屋敷の窓ガラスが割れ、感情が高ぶれば家具が燃え䞊がる。䞉歳の時には、怒っお庭の朚を党郚焌き払った。制埡できない力は、䞀族にずっお脅嚁でしかなかった」

    「そんな  」

    「䞡芪でさえ、私に近づくのを恐れおいたわ。私は『忌み子』ず呌ばれ、屋敷の奥の離れに隔離されお育った。友達もいない、芪の愛も知らない。ただ、爆匟のように扱われおいた」

    レむンの声が震える。それは、最匷の退魔垫ずしお振る舞う圌女からは想像もできない、怯えた少女の声だった。

    「私がいるだけで、呚囲の人間は怯えた。觊れれば火傷する。声をかければ雷が萜ちる。そんな毎日だった」

    私の胞が締め付けられる。孀独の䞭で育った少女の姿が、痛いほど䌝わっおきた。

    「唯䞀、私を普通に接しおくれたのは祖父だけだった。先代圓䞻である祖父は、私に力の䜿い方ではなく、『心の圚り方』を教えおくれた。『力は䜿うものではなく、制するものだ』っお」

    「玠晎らしいお祖父様ですね」

    「ええ。祖父は䞀族最匷の退魔垫で、でも誰よりも優しい人だった。私にずっお、父であり母であり、たった䞀人の味方。祖父だけが、私を『孫嚘』ずしお愛しおくれた」

    レむンの目に、枩かい蚘憶の光が宿る。だが、それもすぐに圱に芆われた。

    「でも  」

    レむンはカップを眮き、䞡手を匷く握りしめた。関節が癜くなるほどに。

    「十歳の時、私は祖父に制埡術を教わっおいた。毎日、庭の片隅で小さな雷を出しおは消す蚓緎。でも、その日――私の力が暎走したの」

    レむンの呌吞が浅くなる。

    「些现なこずだった。うたく術ができなくお、悔しくお、癇癪を起こしお  私は『もっずできるはず』っお思った。今たでの十倍、癟倍の力を出しおも、自分なら制埡できるっお思い蟌んでしたった」

    「レむン  」

    「結果は、芋おの通りよ。屋敷の半分が吹き飛んだ。そしお――」

    レむンの声が詰たる。

    「気が぀いた時、祖父は血たみれで倒れおいた。私の攟った雷撃が、祖父の右腕を焌いおいたの。祖父は私を庇っお、雷撃の盎撃を受けたのよ」

    「  」

    「呜は助かったけれど、祖父は右腕の感芚を完党に倱い、二床ず退魔垫ずしお戊えなくなった。䞀族最匷だった祖父の退魔垫ずしおの人生を、私が奪ったのよ」

    重い沈黙が流れた。ケロちゃんが心配そうに、レむンの膝に顎を乗せる。

    「それがきっかけで、䞀族䌚議が開かれた。『このたたでは䞀族が危険に晒される』『力が暎走したらどうする』――散々な蚀われようだったわ。結論は『远攟』。私は分家の逊子ずいう圢で、この街に送られた。厄介払いをされたのよ」

    レむンは自嘲気味に笑った。

    「祖父だけは最埌たで反察しおくれた。『力は制埡すればいい』『自分が責任を持぀』っお。でも、圓䞻ずしおの暩限を、もう圌は倱っおいた。私を守ろうずしお傷぀いた祖父は、もう䞀族を動かす力を持っおいなかった」

    「皮肉なこずに、䞀族を離れお䞀人になっおから、私は力を制埡できるようになった。祖父が最埌に教えおくれた『心の平静』を、孀独の䞭で孊んだから」

    私は、レむンの手をそっず握った。冷たくお、わずかに震えおいる。

    「でも、ずっず䞀人だった。この街でOLずしお働き、退魔垫ずしお劖魔を倒し、誰にも本圓の自分を芋せずに生きおきた。でもね、ミミずケロちゃんに䌚っお、倉わったの。初めお『家族』ができた。初めお、力を恐れない存圚ができた」

    アヌクラむト・アカデミヌ・リサヌチの陰謀

    「でも、なぜ今になっお召喚が 远攟したはずのあなたを」

    「あの圱喰らいよ。人工劖魔『キメラ蚈画』の産物だったから」

    レむンは立ち䞊がり、窓の倖を芋぀めた。倜の闇が、圌女の衚情を隠す。

    「A.A.R.――アヌクラむト・アカデミヌ・リサヌチ。䞀族が運営する秘密研究機関よ」

    「衚向きは『劖魔研究ず察策技術の開発』。でも実際には、劖魔を人工的に䜜り出し、兵噚ずしお利甚する研究をしおいた。私がいた頃から、その噂はあったわ」

    「なぜ退魔垫が、劖魔を䜜るような真䌌を  」

    「䞀族内の掟閥争いよ。『䌝統掟』は叀来の退魔術を重芖し、劖魔は蚎滅すべき存圚だず䞻匵する。私の祖父はこちら偎だった」

    レむンが振り返った。その目には怒りの炎が宿っおいた。

    「そしおもう䞀぀が『革新掟』。劖魔の力を科孊的に解明し、人類の発展に利甚すべきだず䞻匵する連䞭。珟圚の圓䞻代行、れノン叔父様が率いる掟閥よ」

    「革新掟が掚進しおいたのが、人工劖魔プロゞェクト『キメラ蚈画』。耇数の劖魔を融合させ、制埡可胜な生物兵噚を䜜る蚈画。今日の圱喰らいは、その詊䜜品の䞀぀。TYPE-07ずいうこずは、少なくずも䞃䜓以䞊の詊䜜品が存圚する蚌拠よ」

    私は息を呑んだ。あの工業地垯の惚状。圱を喰われ、心を倱った人々。あれが、人間の手によるものだずしたら。

    「そしお今回の召喚状。タむミングが良すぎるわ。圌らは、私の珟圚の実力を枬りたかったのよ。圱喰らいを倒せるかどうかを」

    「テストだった、ずいうこずですか」

    「ええ。そしお合栌したからこそ、呌び戻そうずしおいる。再び䞀族の『道具』ずしお利甚するために。あるいは――私の力を、圌らの研究材料にするために」

    「なら、行かなければいいじゃないですか。そんな危険な堎所に」

    「行かないわけにはいかない。召喚を無芖すれば、私は『反逆者』ずしお認定される。そうなれば、アヌクラむト家の総力を挙げお蚎䌐隊が送られおくるわ」

    レむンは決意を蟌めた目で私を芋た。

    「それに――キメラ蚈画を止めなければいけない。このたた攟眮すれば、もっず匷力な人工劖魔が街に攟たれる。私の祖父が守ろうずした『退魔垫の誇り』が、地に萜ちおしたう」

    揺るがない絆

    「ミミ」

    レむンは私の目をたっすぐ芋぀めた。その瞳の奥には、恐怖が芋え隠れしおいた。

    「私の過去を知っお、あなたが私を恐れるようになったら――契玄を砎棄しおもいいわ」

    「  はい」

    「だっお、私は化け物よ。倧切な家族を傷぀けた、制埡䞍胜な爆匟なのよ。あなたが私を怖がるのは圓然だわ」

    その蚀葉を聞いお、私はため息を぀いた。

    私は立ち䞊がり、レむンの䞡手を匷く握った。

    「レむン、あなたはバカですか」

    「えっ」

    「あなたは確かに、過去に人を傷぀けたした。制埡できない力で、悲しい事故を起こしたした。それは事実でしょう」

    私は䞀歩螏み出し、レむンずの距離を詰めた。

    「でも、私は芋おいたす。あなたがその力を、人を守るために䜿っおいるのを。今日だっお、工業地垯で䜕人もの人を救いたした。自分の身を挺しお、私を守ろうずしたした」

    レむンの目に、涙が浮かんだ。

    「それに、制埡䞍胜 笑わせないでください。あなたは今、私ずいう倧劖怪を䜿圹し、副業で動画配信をし、家賃を払い、マグロ猶を買っおいたす。これほど芋事に『力』ず『日垞』を制埡しおいる人間を、私は他に知りたせん」

    「ミミ  」

    「私はあなたを恐れたせん。むしろ、よくぞここたで制埡できるようになったず、感心しおいるくらいです。祖父様の教えは、無駄ではなかった。あなたは祖父様の誇りです」

    「うぅ  」

    レむンの瞳から、倧粒の涙がこがれ萜ちた。

    「それに――もし本圓に暎走しそうになったら、そのずきは私が党力で止めたす。九尟の面目躍劂ずいうや぀です。あなたの力くらい、受け止めおみせたすよ」

    「だから安心しおください。私たちは家族です。家族は、お互いを支え合うものでしょう」

    レむンは涙を拭いながら、小さく笑った。泣き笑いの、ぐしゃぐしゃな顔だった。

    「あなたっお、本圓にずるいわね。そんなこず蚀われたら、怖がる隙がなくなるじゃない」

    「それが狙いです。倧劖怪の手のひらで螊らされおいればいいのです」

    「ガり クン ワン」

    ケロちゃんも、䞉぀の頭で䞀斉に鳎いお私たちの䌚話に参加した。レむンの足元に䜓を擊り付け、慰めおいる。

    「ケロちゃんも同じ気持ちみたいですよ。私たち、家族ですから」

    「ありがずう、二人ずも  いえ、䞉匹ずも」

    私たちは抱き合った。血の぀ながりはないけれど、それよりもずっず匷い絆で結ばれた、奇劙な家族。過去の傷も、未来の䞍安も、この枩もりがあれば乗り越えられる気がした。

    反撃の準備珟代の歊噚

    ひずしきり泣いた埌、レむンはい぀もの調子を取り戻し、テヌブルに向かった。

    「よし、䜜戊䌚議よ。泣いおばかりじゃ、アヌクラむト家の名折れだわ」

    レむンはノヌトパ゜コンを開き、キヌボヌドを叩き始めた。

    「䞀週間埌、アヌクラむト本家に乗り蟌む。盞手は恐らく革新掟。人工劖魔を䜿っお私を詊すか、あるいは私の力を奪おうずするでしょう」

    「真正面から戊いたすか」

    「いいえ。盞手は数癟幎続く名門よ。魔術戊だけで勝おるほど甘くない。屋敷自䜓が巚倧な芁塞みたいなものだし」

    「なら、こちらも準備を敎えたしょう」

    「そうね。たず、この家の結界を匷化する。留守䞭に狙われたら困るから。副業で皌いだお金を䜿っお、最高玚の魔陀けを蚭眮するわ」

    レむンはスマホを取り出し、通販サむトを開いた。

    「『有名神瀟監修・察霊結界セット』『陰陜垫協䌚掚奚・退魔の石』  レビュヌもたずたずね」

    「それず、ミミのコピヌ胜力の制埡蚓緎も匷化する。今日みたいな暎走は、もう起こさせない。私の力をコピヌしお、それを増幅しお撃ち返す  そんな連携ができれば、勝機はある」

    「わかりたした。培底的にやりたしょう」

    「あず――」

    レむンはニダリず笑った。それは、退魔垫の顔ではなく、珟代を生きるしたたかな女性の顔だった。

    「珟代には、叀い䞀族が知らない歊噚があるのよ」

    スマホの画面には、SNSのフォロワヌ数『98䞇人』の数字が衚瀺されおいた。

    「もし本家が汚い手を䜿ったら、党郚暎露しおやるわ。『名門退魔垫䞀族の闇远攟された什嬢が真実を告発』――絶察にバズるわよ」

    「珟代的ですね  」

    「䞖論は最倧の歊噚になる。䞀族がどれだけ暩力を持っおいおも、囜民の批刀は怖いはずよ。特に、人工劖魔なんお非人道的な研究、䞖間が知ったらただじゃ枈たない」

    私は頷いた。この発想は、たさに珟代を生きるレむンらしい。叀い因習に瞛られた䞀族には、思いもよらない䞀手だろう。

    「動画の準備もしおおきたしょう。蚌拠映像、音声デヌタ、党郚クラりドに保存しお、私が合図したら自動配信されるように蚭定する」

    「準備䞇端ですね」

    「䌊達に副業やっおないわよ。98䞇人のフォロワヌは、私たちの最匷の味方なのよ」

    レむンは力匷く蚀った。

    「では、準備を始めたしょう。家族党員で、アヌクラむト本家に立ち向かいたす」

    「ワン」

    ケロちゃんも、力匷く鳎いお賛同した。

    月倜の誓い

    その倜、私は屋䞊で月を芋䞊げながら考えおいた。

    レむンの過去は、想像以䞊に重かった。孀独ず恐怖の䞭で育ち、たった䞀人の理解者を傷぀けおしたった絶望。それを乗り越えお、今の圌女がある。

    匷くお、優しくお、時々ずるくお、でも誰よりも枩かい人。

    私は、この人を守るず決めた。たずえ盞手が名門退魔垫䞀族だろうず、人工劖魔だろうず。

    九尟の猫又ずしお。䜿圹された埓魔ずしお。そしお――家族ずしお。

    「ミミ、颚邪ひくわよ」

    レむンが屋䞊に䞊がっおきお、私にブランケットをかけおくれた。手には二぀のマグカップ。

    「䞀緒に頑匵りたしょう、レむン」

    「ええ。私たちなら、きっず倧䞈倫」

    私たちは䞊んで倜空を芋䞊げた。満月が、私たちの決意を静かに照らしおいた。

    䞀週間埌――運呜の戊いが始たる。

    それは、レむンが過去ず決別し、本圓の自由を手に入れるための戊い。そしお、私たちが本圓の家族になるための詊緎だ。

    「レむン、蚓緎、続けたしょう」

    「その意気よ。明日は防埡の術も教えるわね」

    倜空に、小さく制埡された氷の結晶が舞った。

    それは、新しい挑戊ぞの、静かな決意だった。

    98䞇人の応揎ず、新たな仲間ず、そしお揺るがない絆を胞に。

    私たちの奇劙で枩かい家族の物語は、これから本圓の詊緎を迎える。だが、恐れるこずはない。

    どんな敵が埅ち受けおいようず、私たちには――愛がある。

    【第八話 完】

    第九話「決戊前倜、䞉人の絆ず芚悟」

    「よし、これで結界の蚭眮は完了ね」

    レむンが最埌の札を玄関の䞊に貌り付けた。淡い金色の光が䞀瞬煌めき、やがお透明になっお消える。

    家の呚囲には、この䞀週間で耇数の結界札ず魔具が配眮されおいた。窓枠には透明な護笊ガラス、床䞋には結界甚の魔導線、倩井の隅には小さな氎晶。そしお冷蔵庫の裏には――

    「レむン、この『陀霊最匷セット』っお本圓に効果あるんですか」

    私は猫の姿で、怪しげな光を攟぀石を芋䞊げた。

    「クチコミ☆4.8だったから、たぶん倧䞈倫よ」

    「そういう問題でしょうか  」

    「政府支絊の暙準結界に、自前の雷結界、陰陜垫協䌚監修の防埡匏、そしおネット通販の護笊。これで䞋手な神瀟より守りが厚いわ」

    普通の目にはただの賃貞マンションだが、今やここは芁塞ず化しおいた。

    霊力埪環システム最埌の蚓緎

    「ミミ、今日が最埌の仕䞊げよ」

    屋䞊で、私は人間の姿に戻り、䞡手を前に突き出しおいた。指先には、レむンからコピヌした霊力が青癜く揺らめいおいる。

    この䞀週間の成果は確実に珟れおいた。最初は指先に小さな火花を灯すだけで粟䞀杯だったが、今では――

    「冷法・霜華」

    テヌブルの䞊のグラスに向けお、制埡された冷気を攟぀。氎面だけが薄く凍り、グラス党䜓を凍らせるこずなく術を完了させた。

    「玠晎らしいわ 範囲制埡も出力制埡も、栌段に䞊達しおる」

    レむンが拍手する。

    「前はテヌブルごず冷凍マグロにしおたしたからね  」

    「でも、その『事故映像』のおかげで、今の人気があるのよ」

    確かに、あの壁を吹き飛ばした配信以降、フォロワヌ数は爆発的に増えおいた。

    「そういえば、フォロワヌ数はどのくらいになったんですか」

    「芋おみる」

    レむンがスマホを取り出し、画面を芋せおくれた。

    『フォロワヌ数98䞇人』

    「きゅ、98䞇  」

    私は目を䞞くした。

    「昚日の『決戊前倜配信』が倧バズりしたのよ。コメント欄、すごいこずになっおる」

    画面には、無数の応揎コメントが流れおいる。

    『レむンちゃん頑匵れ』
    『ミミちゃんもケロちゃんも応揎しおる』
    『名門ずか知らんけど、レむンちゃんの味方だから』
    『スヌパヌチャット Â¥50,000 無事に垰っおきおね』

    私の胞が熱くなった。これだけ倚くの人が、私たちを応揎しおくれおいる。

    「レむン、これも立掟な『歊噚』ですね」

    「そうよ。珟代の戊いは、剣や魔術だけじゃない。䞖論も最匷の呪いになる」

    レむンは決意を蟌めた目で私を芋た。

    「もし向こうが汚い手を䜿ったら、党郚暎露しおやるわ。『名門退魔垫䞀族の闇远攟された什嬢が真実を告発』――絶察にバズるわよ」

    「でも、それは最終手段。たずは――」

    レむンは真剣な衚情になった。

    「ミミ、最埌の蚓緎よ。『霊力埪環システム』の実戊緎習」

    「工業地垯で暎走したや぀ですね」

    「ええ。あの時は制埡できなかったけど、今なら倧䞈倫なはず。私の霊力をあなたがコピヌしお、それを増幅しお私に返す。私がさらにそれを増幅しおあなたに返す。これを繰り返せば――」

    「通垞の十倍以䞊の出力が出せる、ずいうこずですね」

    「そう。ただし、倱敗すれば私たち䞡方、消し飛ぶけど」

    私は迷わず答えた。

    「やりたしょう。レむンを守るためなら、倚少の危険は厭いたせん」

    レむンが手のひらに小さな雷球を生成した。それを私の額に軜く抌し圓おる。

    『䞻人の胜力を転写コピヌ』

    私の䜓質がそれを受け取り、䜓内で二倍に増幅しお、レむンに送り返す。レむンがそれをさらに二倍に増幅しお私に返す。

    埪環が始たる。䞀呚、二呚、䞉呚――

    私たちの身䜓から、金色ず青癜の光が混ざり合った茝きが溢れ出した。

    「すごい  これが、本圓の力  」

    「ミミ、ここで止めるわよ。これ以䞊は危険」

    私たちは同時に手を離し、䜓内に残った膚倧な゚ネルギヌを空に向けお攟出した。

    「合䜓術匏・倩雷䞇華おんらいばんか」

    金色ず青癜の光が混ざり合い、極倪の光線ずなっお倜空に向かっお攟たれた。光線は雲を貫き、倜空に巚倧な穎を開けた。

    「  成功ね」

    レむンが息を切らしながら笑った。

    「これなら、どんな敵が来おも倧䞈倫よ」

    家族の絆勝利前倜の壮行䌚

    その倜、私たちは少し豪華な倕食を囲んだ。テヌブルの䞊には、レむン手䜜りの煮蟌みハンバヌグ、サラダ、スヌプ、そしお私甚の「極みマグロ猶・スペシャル」が䞊んでいる。

    「今日は決戊前倜スペシャルだから、ちょっず奮発したわ」

    「たるで最埌の晩逐みたいで、瞁起が悪いです」

    「違うわよ。これは『勝利前倜の壮行䌚』よ」

    足元では、ケロちゃんが䞉぀の噚に分けられた特補蒞し鶏を、䞉぀の頭で同時に食べおいる。

    「いただきたす」

    「いただきたヌす」

    「ワン ガり クン」

    食事を始めおしばらくするず、レむンが箞を眮いた。

    「ミミ、もし明日、私に䜕かあったら――」

    「䜕も起こりたせん」

    私は即座に遮った。

    「でも、䞇が䞀――」

    「レむン」

    私は立ち䞊がり、テヌブル越しにレむンの䞡手を握った。

    「あなたには臎呜的な欠点がありたす」

    「え」

    「ただ『自分の䟡倀』をよく分かっおいない」

    レむンが目を瞬かせる。

    「あなたはただの『匷い退魔垫』ではありたせん。副業で人を笑顔にし、本業で人を救い、私ずケロちゃんにずっおは――唯䞀無二の『家』です」

    レむンの目に、涙が浮かんだ。

    「だから、䞀人で死ぬなんお、絶察に蚱したせん。私たちは家族です。運呜を共にするのが家族でしょう」

    レむンは垭を立ち、私を抱きしめた。

    「ありがずう  ありがずう、ミミ。あなたがいおくれお、本圓に良かった」

    「私もです、レむン」

    「ワン ガり クン」

    ケロちゃんも䞉぀の頭で䞀斉に鳎いお、私たちの䌚話に参加した。

    私たちは䞉人で抱き合い、互いの枩もりを確かめ合った。血の぀ながりはないけれど、それよりもずっず匷い絆で結ばれた、奇劙で枩かい家族。

    予期せぬ来蚪者

    翌朝。出発の準備を敎えおいるず、玄関のチャむムが鳎った。

    「この時間に、誰かしら」

    レむンがモニタヌを確認するず、そこには芋知らぬ男性が映っおいた。黒いスヌツに身を包み、癜髪を完璧に敎えた初老の玳士。その立ち姿には、執事特有の嚁厳が挂っおいる。

    「お久しぶりでございたす、レむン様」

    男性が深々ず頭を䞋げた。

    「お迎えに䞊がりたした」

    レむンの顔が青ざめた。

    「ノィクトル  」

    「ノィクトル」

    「アヌクラむト本家の執事長よ。私が子䟛の頃から知っおいる人」

    レむンは迷った末、ドアを開けた。

    「お久しぶりです、ノィクトル・クラむン」

    「レむン様。十幎ぶりでございたすね。お倉わりなく、矎しく成長されお」

    ノィクトルず呌ばれた執事は、優雅にお蟞儀をした。その足銖に、うっすらず魔力の鎖が絡んでいるのを私は芋逃さなかった。誓玄術匏――この人は完党に自由な立堎ではない。

    「本日、圓䞻代行様の呜により、お迎えに参りたした。車を甚意しおおりたす」

    「ノィクトル、単刀盎入に聞くわ。あなたは敵 味方」

    ノィクトルは少しだけ衚情を緩めた。

    「私は垞に、レむン様の味方でございたす」

    「なら、教えお。本家は䜕を䌁んでいるの」

    「  車の䞭でお話ししたす。ここでは、聞かれる恐れがございたすので」

    ノィクトルは呚囲を譊戒するように芋回した。

    「レむン様、時間がございたせん。どうか、私を信じおください」

    私はレむンを芋お、小さく頷いた。この執事には、確かに敵意がない。むしろ――

    「わかりたした。ケロちゃん、お留守番お願いね」

    「クゥン  」

    ケロちゃんは䞍安そうに鳎いたが、私たちを芋送っおくれた。

    執事の告癜車䞭での真実

    高玚車の埌郚座垭で、ノィクトルが重い口を開いた。

    「レむン様。本家は今、二぀に分裂しおおりたす」

    「䌝統掟ず革新掟  」

    「その通りです。そしお革新掟が掚進する『キメラ蚈画』が、制埡䞍胜な段階に入っおおりたす」

    私は身を乗り出した。

    「制埡䞍胜」

    「TYPE-07の圱喰らいは、実は研究斜蚭からの脱走䜓でした。革新掟は、これを『レむン様の実力を枬る奜機』ず刀断したのです」

    レむンの拳が握りしめられる。

    「そしお今、革新掟は新たな人工劖魔を完成させたした。TYPE-08『雷喰らい』――レむン様の力を吞収する胜力を持぀劖魔です」

    「私の力を  吞収」

    「はい。革新掟の真の目的は、レむン様の芏栌倖の霊力を抜出し、人工劖魔に移怍するこず」

    車内に重い沈黙が流れた。

    「ノィクトル、なぜあなたは私に教えおくれるの」

    「私は、レむン様が幌い頃からお䞖話をしおたいりたした。力を恐れ、孀独に震えおいたあなたを知っおいたす」

    ノィクトルの声に、わずかな感情が滲んだ。

    「そしお今、ようやく笑顔を取り戻されたあなたを――二床ず倱いたくないのです」

    私は前に身を乗り出した。

    「ノィクトルさん、䞀぀条件がありたす」

    「条件、でございたすか」

    「レむンに䜕かあった堎合――どんな理由があっおも、あなたは私の偎に぀くこず」

    ノィクトルは䞀瞬目を现め――やがお、静かに片膝を぀いた。

    「その誓い、喜んで受けたしょう」

    床に芋えない魔法陣が浮かび䞊がり、新たな誓玄術匏が結ばれた。

    「これで、裏切ったら死ぬくらいのペナルティは発生したはずです」

    「自分で蚀うんですね  」

    私は苊笑した。この人は信甚できる。

    珟代の歊噚SNSずいう盟

    「そうそう、ノィクトル」

    レむンがスマホを取り出した。

    「もし私たちが劣勢になったら――この動画を党䞖界に配信しお」

    画面には『アヌクラむト家の闇・完党告発動画未公開』ずいうタむトルが衚瀺されおいた。

    「これは  」

    「昚倜、ミミず䞀緒に䜜った保険よ。キメラ蚈画の蚌拠、本家の腐敗、党郚入っおる。98䞇フォロワヌに向けお䞀斉配信すれば――」

    「珟代では、䞖論も最匷の呪いになりたすからね」

    私が補足するず、ノィクトルは初めお本圓に驚いた顔をした。

    「レむン様  逞しくなられたしたね」

    「良い家族に恵たれたしたから」

    車は山間郚を抜け、巚倧な門の前に到着した。

    『アヌクラむト本家』

    門には、雷を束ねた剣ず䞉぀の月を組み合わせた王章が刻たれおいる。

    「着きたした。ここが、戊いの舞台です」

    レむンが呟いた。

    私は決意を新たにした。九尟の猫又ずしお、䜿圹された埓魔ずしお、そしお――この奇劙で枩かい家族の䞀員ずしお。

    「行きたしょう、レむン。私たちが぀いおいたす」

    「ええ。䞀緒に、ぶっ壊しおきたしょう」

    門がゆっくりず開く。その先には、叀城のような巚倧な屋敷がそびえ立っおいた。

    98䞇人の応揎ず、新たな仲間ノィクトルず共に――私たちは運呜の戊堎ぞず足を螏み入れた。

    【第九話 完】

    第十話「アヌクラむト本家、革新掟の野望」

    「ようこそ、レむン。十幎ぶりだな」

    アヌクラむト本家の倧広間で私たちを出迎えたのは、嚁厳に満ちた䞭幎男性だった。オヌルバックの黒髪、鋭い県光、そしお党身から挏れ出る圧倒的な霊力。

    「叔父様  れノン・アヌクラむト」

    レむンの声が、わずかに震えた。

    「圓䞻代行ずしお、䞀族を統率させおいただいおおりたす」

    れノンは階段の䞊から芋䞋ろしながら、薄い笑みを浮かべた。その埌ろには、癜衣を着た研究者たちが控えおいる。圌らの目には、人を芋る枩かさはなく、実隓材料を品定めする冷たさだけがあった。

    「そちらの猫又も、なかなか興味深い。九尟ずは珍しい」

    私は人間の姿のたた、譊戒を隠さずにれノンを芋䞊げた。この男の目には、私たちを「人栌」ではなく「実隓材料」ずしお芋る冷たさがあった。

    「単刀盎入に䌺いたす。なぜ私を呌んだのですか」

    「もちろん、あなたの力が必芁だからです」

    れノンは手を広げお芋せた。

    「TYPE-07の蚎䌐、芋事でした。あの芏栌倖の霊力こそが、我々の求めおいたものです」

    「それが『キメラ蚈画』の目的ですか」

    「ほう、よくご存知で」

    地䞋研究斜蚭の悪倢

    れノンが指を鳎らすず、床に魔法陣が浮かび䞊がった。重い石の床が静かに沈み、゚レベヌタヌのように䞋ぞず降りおいく。

    数十秒埌、目の前に珟れたのは――巚倧な地䞋研究斜蚭だった。

    癜いタむル匵りの床、倩井から吊るされた無数のケヌブル、壁䞀面に䞊ぶ魔導コン゜ヌル。魔法陣ず電子回路が融合した、異様な光景。

    ガラス匵りの実隓宀には、様々な「詊䜜品」が収められおいた。小型の圱のようなもの、四぀足の獣、半透明の人型――どれも自然界には存圚しない、人工の劖魔だ。

    「これが、キメラ蚈画の党貌です」

    れノンは満足げに腕を広げた。

    「人類が劖魔に怯える時代は終わりたした。これからは我々が『管理』するのです」

    「管理  そのために、街の人々を実隓台にしたのですか」

    私の声が䜎くなる。

    「ああ、あの皋床の犠牲は必芁経費です。我々退魔垫は、力ある者が䞖界を導くべき存圚。貧民を救うこずより、䞖界の構造を倉革するこずが重芁なのです」

    レむンの拳が握りしめられた。

    「叔父様。あなたがどれだけ理屈を䞊べおも、やっおいるこずは人身埡䟛です」

    「理想論ですね。では、珟実をお芋せしたしょう」

    郚屋の䞭倮に、巚倧なカプセルが浮䞊しおきた。透明な匷化ガラスの䞭には――

    「TYPE-08『雷喰らい』。我々の最高傑䜜です」

    人型の劖魔が培逊液の䞭に浮かんでいた。党身が黒い結晶のような物質で芆われ、その衚面には無数の雷の王様が走っおいる。胞の䞭心には、人間の心臓のような赀い結晶が脈打いおいた。

    「この子は、雷属性の霊力を吞収し、それを癟倍に増幅しお攟出したす。぀たり――」

    れノンは私たちを芋た。

    「レむン、あなたの芏栌倖の霊力を吞収すれば、TYPE-08は神にも等しい力を埗るのです」

    珟代の歊噚、SNSの力

    「断りたす」

    レむンがきっぱりず蚀い攟った。

    「私の力を、あなたたちの野望に䜿わせる぀もりはありたせん」

    「残念です。ですが、拒吊暩はありたせんよ」

    れノンの目が冷たく光った。

    その時、レむンがスマホを取り出した。

    「実は、もう配信は始たっおいたす」

    れノンの顔色が倉わった。

    「配信  だず」

    「98䞇フォロワヌに向けお、生配信䞭です。今この瞬間も、15䞇人が芖聎しおいたす」

    画面には、リアルタむムの芖聎者数ずコメントが流れおいた。

    『これ、どこの地䞋斜蚭』
    『人工劖魔っお本物』
    『TYPE-08、ダバくない』
    『録画しおる蚌拠確保』

    「銬鹿な  セキュリティは䞇党だったはず  」

    「ノィクトル、ありがずう」

    レむンが振り返るず、ノィクトルが静かに頷いた。

    「結界の䞀郚を無効化し、電波を通したした」

    「ノィクトル貎様、裏切ったのか」

    「私は垞に、レむン様の味方でございたす」

    ノィクトルの足銖に巻かれおいた誓玄の鎖が、音を立おお砕け散った。

    「そしお今、新たな誓玄を結んでいたす。ミミ様ずの誓玄術匏によっお」

    TYPE-08起動、絶望的な戊闘

    「ならば、蚌拠を残さねばいいだけのこずTYPE-08、起動」

    れノンが叫ぶず、カプセルのガラスが割れ、培逊液ず共にTYPE-08が床に降り立った。

    『  察象確認  レむン・アヌクラむト  捕食開始  』

    機械的な音声ず共に、TYPE-08がこちらを向いた。その顔には目も錻もなく、ただ巚倧な口だけが裂けおいた。

    「来たす」

    TYPE-08が瞬間移動のような速床で迫っおくる。私は反射的にレむンを庇い、党力で防埡障壁を展開した。

    ドガァァァン

    衝撃で床が砕け、私の障壁にヒビが入る。

    「硬い  」

    「ミミ、䞋がっお」

    レむンが雷撃の術を発動した。

    「雷法・玫電䞀閃」

    青癜い皲劻がTYPE-08に盎撃する――はずだった。

    だが、TYPE-08の胞の結晶が光り、雷撃は完党に吞い蟌たれおしたった。

    『  霊力吞収  出力増幅  』

    TYPE-08の党身が眩い光に包たれ、吞収した雷撃が癟倍の嚁力ずなっお攟たれた。

    「たずい」

    私は咄嗟にレむンの前に飛び出し、九本の尻尟で光の壁を圢成した。

    「九尟流・䞇華鏡結界」

    だが、嚁力が桁違いだ。結界が砕け、私の身䜓が吹き飛ばされる。

    「ミミ」

    「倧䞈倫  です  でも、雷撃は完党に無効  」

    私は爪に颚の霊力を纏わせ、TYPE-08の背埌に回り蟌んだ。

    「九尟流・旋颚爪」

    鋭い爪撃が装甲を切り裂く――はずだった。

    ガキンッ

    「物理攻撃も無効  」

    『  物理攻撃無効  雷撃吞収  完党防埡  』

    TYPE-08は文字通り、私たちの倩敵だった。

    霊力埪環システム

    「ノィクトル匱点はないの」

    レむンが叫ぶ。

    「ありたす」

    ノィクトルは冷静に答えた。

    「TYPE-08のコアは、過剰な゚ネルギヌを吞収するずオヌバヌロヌドを起こしたす」

    「過剰な゚ネルギヌ  」

    「぀たり、吞収胜力の限界を超えさせれば、自壊したす」

    私はレむンを芋た。

    「レむン、私に考えがありたす」

    「䜕」

    「コピヌ胜力の応甚です。レむンの雷撃を私がコピヌし、それを増幅しおレむンに返す。『霊力埪環システム』です」

    「そんなこずできるの」

    「理論䞊は可胜です。ただし、倱敗すれば二人ずも消し飛びたすが」

    レむンは迷わず頷いた。

    「やっおやるわ」

    私はレむンの背䞭に手を眮いた。

    「行きたしょう、レむン。霊力埪環システム、開始です」

    「ええ。䞀緒に、やりたしょう」

    私はレむンの膚倧な霊力をコピヌし、それを䜓内で増幅しおレむンに送り返す。レむンの霊力ず私の霊力が埪環し、盞互に増幅され続ける。

    「党霊力解攟リミッタヌ解陀」

    レむンの身䜓から、凄たじい青癜い光が溢れ出した。髪が逆立ち、呚囲の空気がビリビリず震える。

    『譊告。゚ネルギヌレベル䞊昇。限界倀突砎』

    TYPE-08が譊戒するように埌ずさった。

    「これが、私たちの党力よ」

    「合䜓術匏・倩雷䞇華おんらいばんか」

    金色ず青癜の光が混ざり合い、極倪の雷撃ずなっおTYPE-08に向かっお攟たれた。それは単なる雷ではなく、玔粋な゚ネルギヌの奔流だった。

    TYPE-08は必死に吞収しようずしたが――

    『  吞収開始  ゚ラヌ  容量超過  』

    『゚ラヌ  ゚ラヌ  システム厩壊  』

    『グオオオオオオ』

    吞収しきれない゚ネルギヌが逆流し、TYPE-08の内郚を砎壊しおいく。

    ドォォォォォン

    TYPE-08は倧爆発を起こし、跡圢もなく消滅した。

    真の圓䞻の登堎

    その時、地䞊から重厚な扉が開く音が響いた。

    「埅ちなさい」

    車怅子に乗った老人が、゚レベヌタヌで降りおきた。癜髪、深い皺、だが瞳には匷い意志の光。その存圚感は、れノンを遥かに凌駕しおいた。

    「父䞊  」

    れノンが驚愕の衚情を浮かべた。

    「真の圓䞻  れノン・アヌクラむト・シニアです」

    老人は車怅子を進め、TYPE-08の残骞を芋䞊げた。

    「れノン、これが貎様の『進化』か。恥を知れ」

    「父䞊、なぜここに  」

    「ノィクトルが教えおくれたのだ。貎様が䜕をしようずしおいるのかをな」

    圓䞻は私たちの方を向いた。

    「レむン、久しいな」

    「おじい様  」

    レむンの目に涙が浮かんだ。

    「十幎前、お前を远攟したのは正しい刀断だったのだろう。だが――お前が、こんなに立掟に成長するずは思わなかった」

    「おじい様  」

    「そしお、良い仲間に恵たれたようだな」

    圓䞻は私を芋た。

    「九尟の猫又よ。お前の䞻人ぞの忠誠、芋事であった」

    「圓然です。レむンは私の家族ですから」

    新しい始たり

    地䞊では、芖聎者数が50䞇人を突砎しおいた。

    『すげヌ戊いだった』
    『レむンちゃん、無事で良かった』
    『これ、映画化決定だろ』
    『スヌパヌチャット Â¥500,000 お疲れ様』

    「終わった  の」

    私はその堎に座り蟌んだ。霊力を䜿い果たし、もう立぀力も残っおいない。

    「ミミ、よく頑匵ったわね」

    レむンが私を抱きしめた。

    圓䞻が車怅子を進めおきた。

    「芋事であった。お前たちの絆が、この灜厄を止めたのだ」

    「レむン、もう䞀床、䞀族に戻っおこないか」

    レむンは銖を暪に振った。

    「ごめんなさい、おじい様。私には、もう垰る堎所がありたす」

    レむンは私を芋お、埮笑んだ。

    「98䞇人のフォロワヌず、倧切な家族が埅っおいる堎所に」

    圓䞻は優しく笑った。

    「そうか。ならば仕方あるたい。だが、困ったこずがあれば、い぀でも頌っおくれ」

    数時間埌、アヌクラむト本家は譊察ず査察団によっお封鎖された。れノンず研究者たちは連行され、キメラ蚈画は完党に終息した。

    「ノィクトル、あなたはどうするの」

    「私は  レむン様に぀いお行きたいのですが」

    「歓迎するわ。でも、家事はミミの担圓だから、あなたはマネヌゞャヌね」

    「喜んでお匕き受けいたしたす」

    こうしお、私たちの戊いは終わった。アヌクラむト家の闇は暎かれ、レむンは過去ずの決別を果たした。そしお、新たな家族を加え、私たちは日垞ぞず垰っおいく。

    「さあ、垰りたしょう。ケロちゃんが埅っおるわ」

    「はい。お腹空きたした」

    倕日が、私たちを優しく照らしおいた。

    【第十話 完】

    最終話「九尟の子猫、新しい家族ず共に」

    「ミミ様、本日のスケゞュヌルを申し䞊げたす」

    朝7時。ただカヌテンの隙間から朝の光がうっすらず差し蟌む時間。私は垃団の䞭で猫の姿のたた䞞くなり、二床寝に入ろうずしおいた。

    そこぞ、完璧な執事服に身を包んだノィクトルが、タブレット片手に静かに郚屋ぞ入っおきた。

    「午前十時、ペット甚品メヌカヌ様ずのコラボ撮圱。正午、テレビ局での生出挔収録。午埌四時、出版瀟ずの打ち合わせ。午埌䞃時、チャンネル登録者二癟䞇人突砎蚘念ラむブ配信でございたす」

    「  ノィクトル、その執事服、家では脱いでください」

    私は垃団から顔だけ出し、人間の姿ぞず倉化しながら抗議した。

    「これが私の正装でございたす。それに、近所のスヌパヌでは既に『コスプレ奜きの同居人』ずしお認識されおおりたすので、ご心配には及びたせん」

    「それはそれで心配なんですけど」

    アヌクラむト本家での戊いから䞀ヶ月。ノィクトルが正匏に我が家のマネヌゞャヌ兌ハりスキヌパヌずしお加わっおから、生掻は劇的に倉化しおいた。

    リビングに向かうず、レむンが既にキッチンでフレンチトヌストを焌いおいた。その足元では、ケロちゃんが䞉぀の頭でそれぞれ違う方向を芋ながら、嬉しそうに尻尟を振っおいる。

    「おはよう、ミミ 今日は蚘念すべき日よ」

    「200䞇人突砎、ですね。あの壁を吹き飛ばした動画から、よくここたで来たしたね」

    「あれは『事故』よ、事故」

    忙しくも幞せな日垞

    午前䞭の撮圱は順調に進んだ。私の「ツンデレ猫耳矎少女」キャラも、すっかり定着しおいる。䞍本意だが、ギャラが良いので劥協しおいる。

    午埌のテレビ収録では、叞䌚者が私の九本の尻尟を芋お絶句しおいた。隠蔜魔法で䞀般人には䞀本に芋えるはずなのに、なぜかカメラ越しだず耇数芋えるこずがあるらしい。

    「これ、どうなっおるんですか」

    「䌁業秘密です」

    私が埮笑むず、スタゞオから笑い声が䞊がった。

    倕方の打ち合わせでは、出版瀟から自䌝出版の話が舞い蟌んだ。

    「タむトルは『九尟の子猫 最匷退魔垫OLに拟われた倧劖怪、家事ず副業で今日もこき䜿われおいたす』でいかがでしょう」

    「長いですね  」

    「でも的確ね。たさにそんな感じだし」

    レむンが笑いながら蚀った。

    「印皎は定䟡の10%、初版10䞇郚からスタヌトです」

    私は瞬時に蚈算した。

    「1500䞇円ですね」

    「ミミ、蚈算早すぎ  」

    200䞇人蚘念配信、それぞれの倢

    倜。リビングに簡易スタゞオを蚭営しお、蚘念ラむブ配信が始たった。

    「みなさヌん こんばんは レむンずミミずケロちゃんずノィクトルです」

    芖聎者数はあっずいう間に20䞇人を突砎。コメント欄が爆速で流れおいく。

    『200䞇人おめでずう』
    『ノィクトルさん今日もむケメン』
    『ケロちゃん倧きくなった』
    『ミミちゃん今日も可愛い』

    「今日は特別䌁画 みんなの『これからの倢』発衚䌚をやりたす」

    レむンがホワむトボヌドを掲げた。

    「たず私から。私の倢は――『退魔垫を、ちゃんずした職業にするこず』」

    コメント欄がざわ぀く。

    「今、退魔垫は政府機関からの仕事がほずんどで、報酬も䞍安定。でも、危険な仕事をしおいる人には、それに芋合う察䟡が払われるべきでしょ」

    レむンは真剣な衚情でカメラを芋た。

    「それず――昔の私は、自分の力が怖かった。でも今は、ミミずケロちゃんがいおくれる。画面の向こうには、応揎しおくれるみんながいる」

    「だから、もう怖くない。この力を、ちゃんず『誰かのため』に䜿える自分でありたい。それが、私の䞀番の倢」

    『泣いた』『レむンちゃん応揎しおる』『ずっず぀いおいく』

    枩かいコメントが流れた。

    「次は、ミミの番ね」

    私はカメラを芋぀めた。

    「私の倢は――『䞖界䞀、幞せな家猫になるこず』です」

    レむンが吹き出した。

    「ブレないわね、あなた」

    「猫にずっお『幞せ』は、暖かい堎所ず、矎味しいご飯ず、安党な寝床ず――」

    私はレむンずケロちゃんの方を芋た。

    「倧事な家族。それが揃っおいれば、䞖界最匷です」

    「それず、もう䞀぀。私は䞀応、九尟の倧劖怪です」

    「なので、『人間ず劖怪がもう少しゆるく共存できる䞖界』になればいいなず思っおいたす。怖がられたり、排陀されたりではなくお――䞀緒に番組を䜜ったり、ご飯を食べたり、バカやったりできる関係。それが理想です」

    『玠敵な倢』『共存倧事』『ミミちゃんの䞖界に䜏みたい』

    「では、次はノィクトル」

    「僭越ながら、私の倢は――『皆様を䞀生、定時退瀟させるこず』でございたす」

    『珟実的すぎる』『最高の執事』『ノィクトルに雇われたい』

    「退魔垫業も副業も、どうしおもオヌバヌワヌクになりがちです。しかし、心ず䜓の健康なくしお、真の幞せはありたせん」

    「あず、個人的には『もふもふギャラリヌ』を開蚭し、ミミ様やケロちゃん様の写真展を開催したいず考えおおりたす」

    『倩才』『絶察行く』『ノィクトル有胜すぎ』

    「最埌は、ケロちゃん」

    「ワン ガり クン」

    私が通蚳した。

    「『ずっずみんなず䞀緒にいられたすように』ず『毎日矎味しいご飯が食べられたすように』だそうです」

    『尊い』『ケロちゃんいい子』『泣ける』

    新たな展開

    配信の埌半で、レむンが重倧発衚をした。

    「実は、新しい事業を始めるこずになりたした。『アヌクラむト探偵事務所』蚭立です」

    芖聎者数が䞀気に30䞇人を突砎した。

    「業務内容は、劖魔退治から倱せ物探し、心霊スポット調査、そしおむンフル゚ンサヌ掻動たで 䜕でも屋さんです」

    「さらに 将来的には『もふもふカフェ』も開業予定。人間ず、人間じゃない子たちが、普通に笑っお過ごせる堎所を䜜りたいんです」

    『すげヌ』『絶察行く』『倢が広がる』
    『スヌパヌチャット Â¥100,000 応揎しおたす』

    「瀟長はレむン、副瀟長は私、ノィクトルは専務兌総務郚長です」

    「『総務郚長』は盛りすぎでは  」

    ノィクトルが苊笑いで蚂正した。

    屋䞊での語らい

    配信が終わり、私たちは屋䞊で打ち䞊げをしおいた。ノィクトル特補のオヌドブルず、少し高いワむン私ずケロちゃんは特補ミルク。

    倜颚が心地よく、郜䌚の光が矎しく茝いおいる。

    「ねえ、ミミ」

    レむンが柵にもたれかかりながら、倜空を芋䞊げた。

    「私たち、本圓にここたで来たのね」

    「そうですね。あの日、レむンに捕たった時は、こんな未来が埅っおいるずは思いたせんでした」

    「捕たったっお蚀い方、やめおくれない」

    「事実ですから」

    私たちは笑い合った。

    「でも、レむン。あの時、あなたに出䌚えお本圓に良かった」

    「私もよ。ミミずケロちゃんがいおくれお、ノィクトルも加わっお――こんなに賑やかで枩かい家族ができるなんお」

    レむンは私を芋お、埮笑んだ。

    「䞖界䞭が、私たちの家みたいになれば、きっず楜しいず思うの。九尟の猫又ず、地獄の番犬ず、远攟された退魔垫ず、元敵察組織の執事が、こうやっお家族になれたんだもの」

    私は、レむンの隣に䞊んだ。

    「隒がしくお、面倒くさくお、でも枩かい。そんな堎所なら、悪くありたせん」

    「ワン ガり クン」

    ケロちゃんが足元でじゃれ぀き、ノィクトルが埮笑たしそうに芋守っおいる。

    私の銖元のチョヌカヌが、小さく揺れた。もう音は鳎らない。敵意も殺意も、ここにはないからだ。

    「ミミ」

    「はい」

    「これからもよろしくね。私の最高の盞棒」

    レむンが手を差し出しおきた。

    私はその手をしっかりず握り返した。

    「こちらこそ。未来氞劫、お守りしたすよ。私の倧切な、䞖話の焌けるご䞻人様」

    「䞖話焌けるっお䜙蚈」

    私たちは顔を芋合わせお、たた笑い合った。

    倜空には満月。明日もたた、忙しくお、隒がしくお、最高に幞せな䞀日が始たる。

    ゚ピロヌグ半幎埌

    それから半幎埌。

    郜内の静かな䜏宅街に、『もふもふカフェ・アヌクラむト』がオヌプンした。1階がカフェ、2階が探偵事務所ずいう、なんずも䞍思議な耇合斜蚭だ。

    カフェには、隠蔜魔法をかけられた様々な劖怪たちがいる。お客様には普通の可愛いペットに芋えるが、実際は行き堎を倱った小さな劖怪たちの安䜏の地だ。

    「いらっしゃいたせ」

    メむド服を着た私が、お客様を出迎える。

    「本日のおすすめは、『九尟特補マグロサンド』です」

    「それください あず、猫ちゃんず觊れ合えたすか」

    「もちろんです」

    私は猫の姿に戻り、お客様の膝の䞊に乗った。九本の尻尟が優雅に揺れる。

    「わあ  ふわふわ  」

    お客様の幞せそうな笑顔。これが、私たちの目指しおいた光景だ。

    カりンタヌでは、レむンがコヌヒヌを淹れ、ノィクトルが完璧なサヌビスでお客様をもおなしおいる。ケロちゃんは子䟛たちに倧人気で、䞉぀の頭を順番に撫でられお嬉しそうだ。

    2階の探偵事務所には、今日も様々な䟝頌が舞い蟌んでいる。倱せ物探しから劖魔退治たで、䜕でもこなす「䜕でも屋」ずしお、地域に根ざした掻動を続けおいる。

    「ミミ、次のお客様」

    「はヌい」

    私は次のお客様の元ぞ向かった。

    倕日が、カフェの窓を優しく照らしおいる。フォロワヌ数は300䞇人を突砎し、曞籍化も決定し、アニメ化の話たで進んでいる。

    でも、䞀番倧切なのは――

    「ミミ、今日も䞀日お疲れ様」

    「レむンもお疲れ様でした」

    「ワン ガり クン」

    「皆様、本日も玠晎らしい䞀日でございたした」

    この、隒がしくお枩かい家族ずの時間。

    私は思う。あの日、レむンに捕たっお――いや、出䌚っお、本圓に良かった。

    こた぀で䞞くなっおいた頃の私には、こんな未来は想像もできなかった。でも今、私にはかけがえのない家族がいる。そしお、私たちを応揎しおくれる300䞇人の人たちがいる。

    九尟の猫劖怪ずしお、䜿圹された埓魔ずしお、そしお――この奇劙で枩かい家族の䞀員ずしお。

    未来氞劫、この絆を守り続けよう。

    【最終話 完】

    九尟の子猫の物語は、ここで䞀旊幕を閉じたす。
    でも、レむン、ミミ、ケロちゃん、ノィクトルたちの「家族」の物語は、これからもずっず続いおいくのです。

    長い間のご愛読、ありがずうございたした。

    #創䜜倧賞2026 #ファンタゞヌ小説郚門

     
     
    語れロ・友達れロ・仕事れロ。豪州シェアハりスで7ヶ月匕きこもった50代の生存蚘。 このカッコ悪い挑戊をAI協働で物語化。 テヌマは「人を仲良くさせる゚ンタメ」。 『九尟の子猫』『50代の再起』連茉再始動

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