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上を向いて

    #創作大賞2026 #エッセイ部門

    今は無い子供時代の絶対音感。テレビで流れてくる曲で、気に入った曲を、あってるか分からないけど、ピアノで弾いていた。当時の私は、坂本九さんの「上を向いて歩こう」が、ヒット曲だった。弾きたくて、ピアノを鳴らす。坂本九さんの歌い方が、明るく聞こえていたので、長調だと思い、何度、弾いてもしっくり来なくて、完成出来ない。何気にシ・フラットで弾いてみたら、出来た。短調だったのだと気づいた時、感動した。それまで、短調の曲は暗いと思っていたからだ。坂本九さんの歌い方に、尊敬した。嬉しくて、母に伝えるも、なんのことって感じで、上の空。必死に伝えるもダメだった。分かり合えなかった。

    大人になって地震があった時、自分と家族がバラバラな場所に居たら、すごく不安だった。私の地域で発生する地震は大きくても震度3程度。その日は、会社へ行く為、電車のホームで地震に遭った。駅名の看板がキシキシと音がして揺れてはいたが、駅のホームもどうも無かったし、大した震度じゃないと思っていた。近くに居る女性が、携帯の地震警報のアラートが鳴らなかった事に、イラついている様だった。地震を怖がり過ぎる母が心配になり、すぐに携帯から電話する。母はすぐに出た。母が居た部屋と父が居た部屋は別だったが、2人とも怪我も無く無事だった。大した地震じゃないと思っている私は、電車が来ると思っていたが、電話の母は、「電車なんか来る分けないから早く帰って来て」と。駅から徒歩15分の所を引き返す。駅の改札では、これから会社へ行こうとしている人達が溢れていたが、私は何事も無かったかの様に家へと向かった。

    行きしなに歩いた道は、曇り空でいつもと同じ様に思ったが、何故だか、公園やら、家の佇まいなどを見て歩いていた。10分も経たない内に引き返す帰り道。ぼんやりと見ていた家の瓦が地面に落ちている。家が倒壊している所は無いが、あちこちで、瓦や、家の中の家具類が倒れている。行きしなとは違う、土臭い匂いがした。これは、ただのいつもの地震では無い。早く帰らなければと焦る。電話は繋いだままだったので、母に状況を伝えながら、電話を切らずに急ぐ。マンションのエレベーターは使えないため、11階まで階段で上がる。階段を無我夢中で登るも、すごく、長く感じる。辿り着いた時、母が安堵したのを覚えている。

    その後、家に入るとキッチンの食器棚が倒れ、中にある食器の殆どが割れている。電子レンジも台ごと倒れ、使えなくなった。バンが作れる電子レンジで、私にはお高い買い物だった。自分の一部がなくなった感じがして、虚しくて、今の家に引越しするまで捨てられなかった。当時、パン教室を卒業しても、パンを作るきっかけをくれた。愛おしく思え、今も電子レンジが買えない。家族3人で割れた食器の後片付けをし、大変だったが、被害としてはそれぐらい。家族全員が無事である事にホッとする。

    地震の時、とても辛い。他地方の地震は、私の地域以上に被害は大きい。坂本九さんの歌でも、慰めきれない事もある。だけど、みんな前に進んでいる。当時の事を思い出したく無くて、話せない人。風化させたくない思いから、辛くても語り部をされる人。みんな、あの日のことを背負っている。何にも知らない、私が、触れてはいけない事だと思うけど、被害の大きさに関係なく、災害は何かしらの思いを置いていく。

    どこかで、吹っ切るタイミングを自分なりに編み出して、前を向く。地震がある前と後では、確実に一緒では無い。子供の頃の、遊びの延長上の曲当ての様に、無邪気に正解を求めない。それぐらいの心持ちをいつまでも持てれば。立ち直れないぐらいの出来事があったら、言ってられないだろうけど、少しでも、前を向ける様に。





     
     

    KIYO

     
     
    ピアノを上達したい。頑張らず、日々是好日を楽しむが目標。

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