
土肥・アンダーソンの記事はセラピストを守るのか
土肥・アンダーソンの基準とは、
リハビリテーションや看護の現場で、患者さんが「今日は運動をしても大丈夫か?」を判断するために非常によく使われる**「運動中止基準」**のことです。
正式には、日本循環器管理研究協議会が発表した「在宅心臓リハビリテーション指導管理指標」の中に含まれている指標ですが、現在は心疾患に限らず、脳血管障害や高齢者のリハビリテーションにおける安全管理のデッドラインとして広く活用されています。
主に「基準Ⅰ」と「基準Ⅱ」に分かれており、状況に応じて使い分けます。
1. 基準Ⅰ:運動を行わない条件(安静時)
リハビリを開始する前のバイタルチェックで、以下のいずれかに当てはまる場合は、その日の運動を中止、または医師への確認が必要です。
• 安静時の心拍数: 120回/分以上
• 血圧:
• 収縮期血圧(上の血圧)が200mmHg以上
• 拡張期血圧(下の血圧)が120mmHg以上
• 心不全症状: 新たな浮腫(むくみ)や体重増加がある場合
• 不整脈: 運動前に頻発している場合
• 自覚症状: 強い動悸、息切れ、胸の痛みなどがある場合
2. 基準Ⅱ:運動を中止する条件(運動中)
リハビリ中に以下の状態になったら、すぐに運動を中断し、安静を保ちます。
• 中等度の呼吸困難・めまい・嘔気(吐き気): 患者さんが「苦しい」「気持ち悪い」と訴えた場合。
• 狭心痛(胸の痛み): 胸が締め付けられるような痛みが出た場合。
• 心拍数: 140回/分を超えた場合。
• 血圧の変化:
• 収縮期血圧が安静時より40mmHg以上上昇。
• 収縮期血圧が運動中に低下(逆に下がってしまうのは危険なサインです)。
• 拡張期血圧が20mmHg以上上昇。
• 不整脈の出現: 脈が急に飛んだり、不規則になったりした場合。
• 意識状態の変化: 返答が鈍くなる、顔色が蒼白になるなど。
3. 現場での活用のポイント
この基準はあくまで「一般的な目安」です。
• 個別性の重視: 重篤な心疾患がある方や、もともと血圧が非常に高い方などは、医師から個別に「上の血圧が160を超えたら中止」といった指示が出ることもあります。
• 「基準Ⅲ」の視点: 基準にはありませんが、臨床では「翌日に疲れが残るようなら負荷が強すぎる」という視点(過負荷のチェック)も併せて持っておくことが大切です。
若手のセラピストや看護師の間では、バイタルサインの数字だけでなく、患者さんの表情や「いつもと違う様子」に気づくための第一歩として、この基準を暗記することが推奨されています。
心疾患では?
心疾患におけるリハビリテーションのリスク管理は、先ほどの「土肥・アンダーソンの基準」をさらに厳格に、かつ具体的に運用する必要があります。
特に心疾患(心不全、心筋梗塞、不整脈など)の患者さんの場合、**「心臓のポンプ機能」と「冠血流(心臓への酸素供給)」**のバランスを崩さないことが最優先です。
1. 心疾患リハビリにおける「中止」の追加サイン
土肥・アンダーソンの基準に加え、以下の臨床症状に注意を払います。
• 異常な血圧挙動: 運動負荷を上げているのに、収縮期血圧が上がらない(または10mmHg以上低下する)場合は、心不全の悪化や重篤な左室機能不全のサインです。
• 不整脈の質: 単なる頻脈ではなく、**心室性期外収縮(PVC)**が連発したり、多源性(形がバラバラ)になったりする場合は即中止です。
• 心電図の変化: 携帯型心電計などを使用している場合、**ST変化(0.1mV以上の低下や上昇)**が見られたら虚血が疑われるため、速やかに安静へ移行します。
2. 心不全の増悪サイン(代償不全のチェック)
リハビリ室でのバイタルだけでなく、以下の「日常生活での変化」を確認することが、事故を防ぐポイントになります。
体重増加 一週間に2㌔、夜間呼吸困難、更衣時などの苦しいという自覚症状
3. 運動強度の設定:ボルグ指数の活用
心疾患では「心拍数」だけで管理するのが難しいケース(ベータ遮断薬などの内服で心拍数が上がりにくい等)があります。その際は、**主観的運動強度(Borg指数)**を併用します。
• 推奨強度: 11(楽である)〜 13(ややきつい)
• 中止目安: 15(きつい)を超えた場合
4. 疾患別の留意点
• 心房細動(Af): 脈がもともと不規則なため、心拍数での管理が困難です。呼吸困難感や、血栓塞栓症(脳梗塞など)を疑う麻痺・言語障害の有無に注意します。
• 虚血性心疾患(心筋梗塞後など): 狭心痛の再発に細心の注意を払います。冷や汗を伴う胸部圧迫感がないか常に観察が必要です。
脳梗塞では?
脳梗塞(脳血管障害)のリハビリテーションにおけるリスク管理は、心疾患とは少し異なる視点が必要になります。
「土肥・アンダーソンの基準」をベースにしつつも、特に**「再発予防」と「血圧管理」、そして「高次脳機能障害による自覚症状の欠如」**に注意を払うのが鉄則です。
1. 脳梗塞リハビリにおける「中止・延期」の重要サイン
脳梗塞直後(急性期〜回復期)は、血圧の変動が再発や浮腫の悪化に直結します。
• 収縮期血圧の急激な上昇: 安静時に 180mmHg以上、または運動中に 200mmHg以上 に達した場合は、脳出血や再発のリスクを考慮して中止・負荷軽減を検討します。
• 血圧の過度な低下: 起立性低血圧(立ち上がりで収縮期が20mmHg以上低下)が起きると、脳血流量が減り、逆に脳虚血を引き起こす可能性があるため注意が必要です。
• 新たな神経症状の出現:
• ろれつが回らなくなる(構音障害の悪化)
• 片麻痺の増悪(力が入らなくなる)
• 激しい頭痛、めまい、視野の欠損
• これらが出た場合は、直ちに医師に報告し、再発を疑います。
2. 脳梗塞特有のリスク管理ポイント
脳梗塞の患者さんは、心疾患の既往を合併していることが多いため、以下の3点に特に留意します。
① 不整脈(心房細動:Af)のチェック
心原性脳塞栓症(心臓の血栓が脳に飛ぶタイプ)の患者さんの場合、心房細動(Af)による心拍数の乱れに注意します。脈が極端に速い、または不規則な場合は、心機能の低下だけでなく、**「新たな血栓が作られるリスク」**があるため、無理な運動は避けます。
② 脱水症状の予防
血液がドロドロになると再発リスクが高まります。
• リハビリ前後の水分補給を徹底する。
• 夏場や発熱時など、不感蒸泄が増える時期はバイタル変化に特に敏感になる必要があります。
③ 自覚症状の不一致(高次脳機能障害)
• 失語症や注意障害がある場合、本人が「苦しい」「疲れた」と訴えられない、あるいは自分の疲労に気づかないことがあります。
• **客観的指標(顔色、冷や汗、呼吸数、動作の緩慢さ)**を優先して判断することが、安全管理の鍵となります。
3. リハビリの進め方の目安
脳梗塞のリハビリでは、麻痺の回復だけでなく、急性期、回復期、維持期各段階での「全身状態のマネジメント」がセラピストの重要な役割になります。
一般病棟では、多くの患者さんがモニター管理されて簡易な心電図も不整脈も確認してリハビリテーションを行っているつもりである。
だが基準を超えていても、実施せざるを得ない場合が生じる。リスクを考慮して床上での介入にしてはいるが、医師や看護師に状態を伝えるために土肥・アンダーソンの基準はリハビリテーションセラピストを守るはずである。