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【連作短編】Welcome to Lingua Town #2

    四月の空(April Sky)以後の、ログ国家年代記


    【教室音声ログ|2039-09-03|LINGUA-Edu/Room_4B】

    SPEAKER: Student-17 (F)
    UTTERANCE: "やめてよ"
    PROSODY: high pitch / fast / breathy
    CONTEXT: peer conflict (unknown)
    MODEL_TAGS: escalation_risk=0.62, defiance=0.58
    SYSTEM_ACTION: auto-coach suggestion inserted (whisper mode)
    SUGGESTION: "やめて" -> "やめてくれる?"
    NOTE: student ignored suggestion

    「無視した」。
    その一行が、少女を有罪にする。

    ぼくは息を吐いた。
    少女は悪くない。
    だが世界は、悪い/良いで動いていない。
    世界は、適合/不適合で動いている。

    適合とは、幸福だ。
    不適合は危険だ。
    危険は監視される。
    監視されると、ますます不適合になる。
    不適合はやがて、街から出ていく。

    それがこの都市の教育だ。


    4. Happy Zooの飼育員

    その日、案件の説明に来たのは、学校の「AIリテラシー担当」だった。
    名札には飼育主任と小さく書いてある。
    冗談でも皮肉でもなく、正式名称だ。

    「子どもたちの言葉を守る仕事です」
    主任は、完全な丁寧語で言った。
    声は整っていた。整いすぎて、温度がない。

    「守る、って、どういう意味で」
    ぼくが訊くと、主任は少しだけ首を傾けた。

    「暴力から守る。誤解から守る。炎上から守る。将来から守る」
    主任は、まるで保険の約款のように答えた。

    そのとき、ぼくは気づいた。
    将来から守る。
    それはつまり、将来に起こりうる“誤解”を、今のうちに潰すということだ。

    未来を守るとは、未来を狭めることだ。
    これは善意の暴力だ。

    主任は続けた。

    「四月の空以後、私たちはもう戻れません。戻ったら、また落ちます」

    落ちる。
    あの日、空から落ちたものは、ドローンだけじゃない。
    言葉も落ちた。
    落ちた言葉は拾われ、洗われ、消毒され、展示された。
    危険なものとして。


    5. “禁忌隔離区画”への許可証

    夜、ぼくは職場の端末から、ひとつの検索をした。
    少女の発話「やめてよ」が、どの辞書に登録されているか。
    どの政治的事件と紐づいたか。
    どのデータセットに“危険”として学習されたか。

    検索結果の末尾に、アクセス不能の項目が出た。

    TABOO_QUARANTINE / QU-12

    禁忌隔離区画。
    そこに言葉が隔離されると、街の生活圏から消える。
    存在は残る。ログに残る。展示として残る。
    でも、使うと“汚染”になる。

    ぼくは許可申請を出した。
    翌朝、許可が下りた。
    それだけで、ぼくの透明度が0.02落ちた。
    禁忌に触れる者は、汚れる。


    次の話(つづき)

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    【まとめ】小説と妄想エッセイ一覧(DP6創作記録)

     
     
    仕事とAIと人生のバグを、エッセイと小説にしています。 旧アカ名 DP6。 Xでは時事ネタ深掘りやってます。

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